zokuダチ。セッション34
エピ 131・132・133
冒険編28 また会える日まで
「……しかし、君達は身体が入れ替わっていたのだって?
じいから聞いたが……」
領主はジャミルとアイシャを交互に見つめ、不思議そうな顔をした。
「ま、まあ、元々は入れ替わった身体を元に戻す為に、
此処まで来たんだけど、なあ……」
「ええ、恐くて大変な事もあったけど、結果的に皆とも出会えて
お友達にもなれたし、私は良かったかなと思っています……」
「そ、そうだろっ!悪ィ事ばっかじゃなかったよな、うん、俺ら、
身体入れ替わって良かったな!」
「……やっぱり全然反省してないね、君は……」
「だから、い、いいっつーの!」
アルベルトに横目で見られ、焦り出すジャミ公。
「ふむ、どうりで……、ジャミル君がアイシャ君になっていた
時から感じていた不思議な気持ちはやはり偶然ではなかったのだな、
ふ、ふふふ……」
「はあ……?」
領主がジャミルを見つめる目が、何となく、再び怪しい目つきに
なっている……、様にも見えた。
「旦那様……」
「じい、冗談だよ、……もうその気はない、君に未練はないよ、
安心したまえ、ふ、ふふふ……」
(……やっぱりこの領主様、本心は変態気質なのかもね……、
ジャミル、君、これからも色んな事で苦労するんだろうな、
ご愁傷様……)
アルベルトはジャミルに同情しつつ、ステーキを口にほおり込んだ。
「君達は異世界から来たのだったな、それも又不思議な事だが……、
そろそろ元の世界が恋しいであろう、今夜私が徹夜で屋敷にある
色々な資料を調べ、出来る事を提供しよう、そう云った異世界に関する
資料も此処には沢山あるのだ……」
「マジで!?助かるよ!!だけどおっさん、あんた身体の具合あんまり
良くねえんだろ?んな怪我してんのに、無理させたら……」
「んががががが!」
領主を潰した張本人はしらばっくれて大量の骨付き肉を抱え込んで食べている。
「君達には沢山迷惑を掛けてしまったからな、その辺の事は私に任せ、
今夜は皆でゆっくりしていくと良い、これも償いだ、最後まできちんと
サポートさせておくれ……」
「旦那様、儂もお手伝いを致しましょう、二人で探した方が早いですじゃ……」
「おお、じい、助かるぞ……」
領主達の行為に甘え、食事の後に、提供された部屋に向かい、
ジャミル達は心からの休憩を楽しむ。男子部屋、女子部屋と
それぞれ別れ、部屋にて寛がせて貰う。
「はあ~、前はこの部屋、苦痛でしょうがなかったけどな、
こんなにゆっくり出来る日が来るとか思わなかったよ、うーんっ!」
ベッドにねっ転がり、ジャミルが思い切り伸びをする。ジャミル達、
男性陣がいる部屋は以前にジャミルがルーゼによって拉致られていた
部屋でもあった。
「でも、みんな一部屋に押し込みかあ、別にいいんだけど……」
「ダウド、皆で話が色々出来る様にって、領主様が気遣って
くれたんだから、文句言わないんだよ、はあ、僕も久しぶりに
ゆっくり本が読めるよ……」
「オラ、おねいさん達と一緒のお部屋の方がよかったゾ……」
「ボオ……、まっ、たく」
ちなみに、チビ&シロはガールズ達の部屋である。しんのすけ&
ボーちゃんは若干ご不満の状態。
「こーんばーんわーっ!」
ドアが開いて、アイシャ達、ガールズ陣が部屋に顔を出した。
「私達、これから皆でパジャマパーティなの、ジャミル達はしないの?」
「チビさんとひまわりちゃんはもうお部屋で一緒に寝てますよ!
シロちゃんも!ユウ達はついさっき、皆でお風呂入って来たところです、
気持ち良かったあ~…」
「うわ、この部屋、流石、野郎ばっかりだからな、しけてんなあ!」
男くさいと言う様に、ケイがパタパタ手で仰いだ。
「男みてえな女に言われたくねーっての……」
「ああ、おめえ、何か言ったかよ!?」
「いえ、何でもございません……」
(たく、あっちもこっちも……、どうしてこう、おっかねえ
女ばっかなんだよ、この話はよう~……)
「ぶひっ!ぶひっ、……ぶひいいいっ!!」
そんなジャミル達を尻目に、後ろの方で大量のスナック菓子を
食べ捲る、此方もとてもガールズとは言えない、謎の怪物が一匹。
「さあ、皆お部屋にもどりましょーーっ、トランプの続きですうーーっ!
きゃああーーっ!!」
「ババ抜き7れんぱいーっ!今度こそーーっ!」
「こむぎ、往生際が悪いよ、もういい加減に諦めなさいっ!」
「……わんきゃーんっ!」
こむぎは相変わらず、ハイテンションSP元気で、マフミも
キャーキャーとうるさい。
「ほうほう、んじゃそゆことで……」
「……しんのすけ!オメーはこっちの野郎部屋だよっ、駄目だろっ!」
「ケイおねいさん、何か冷たいゾ、……かたーいあずきバーみたい……」
「たまたま、あったまっ!♪かた~いかた~いいっしあったまっ!」
「……こむぎっ!」
「あのな……、とにかく、男の子は我慢しなきゃならない時が
あるんだよ、おっさん達のいう事聞いて、いい子でいるんだぞ!」
「……誰がおっさんだっつーの!」
「……僕もですか?」
「オイラも……?」
「ぶう~、だゾ……」
「はい、しんちゃん、夜だからあんまり沢山食べちゃ駄目だよ、
ちゃんと歯も磨くんだよ!」
いろははしんのすけにチョコビを一箱手渡し、皆と一緒に
部屋に戻って行く。そして時間も21時を回った頃……。
しんのすけ、ボーちゃんも漸く熟睡。
「zzzz」
「ふう、暫くご不満みたいだったけど、しんちゃん達、やっと
寝てくれたね……」
「単純だな、疲れたらあっという間に爆睡か、……やっぱお子様だな」
「……オイラ達ももう寝ようよ、眠いよ……」
「そうだね、僕も凄く疲れた、ふあ~……」
ダウドに釣られ、アルベルトも欠伸をした。
「何だよ、まだ早いぞ?爺みたいだな、お前ら相変わらず
若さがねえなあ!」
「何でもいいの、オイラ達お疲れ気味なの、……大変な友人に
お付き合いするとね……」
「全くだよ、ったく……、チラッ、チラ……」
「う……、お前ら2人してこっち見んなっての、……俺、少し
夜風に当ってくる!」
バツが悪くなったのか、慌ててジャミルが部屋の外に飛び出して行った。
「はあ、タバコ……、もう我慢出来ねえ、もう少しだ、元の世界に
戻ったら吸いまくってやるからな……、ん?ユウ……」
「あ、ジャミルおにいさま……」
部屋に戻った筈のユウも廊下に出ており、ジャミルの姿を見つけると
ちょこちょこ近寄って来る。
「アイシャおねえさま達はもうお休みです、ぐっすりですよ、うふふ!」
「そうか、で、ユウ、お前は寝ないのか?」
「何だか眠れなくて……、丁度いいです、少しお話しませんか?」
「ん、いいけど……」
「じゃあ、此処に座りましょう!」
ユウは廊下に何気なく置いてあったパイプ椅子に腰かけ、ジャミルを呼ぶ。
「はあ、色々ありましたけど、もうこれで終わりなんですね、
……寂しいですけど、私は明日、実家に帰ります、あっ、
ケイおねえさまは此処に残るんですって、領主さまの正式な
ご養子になられるそうなんですよ!……なーんか、ルーゼが
居なくなったら急に私達からも変な力が消えちゃいましたあ!
あはっ!」
「そうか……、身内がいないからな、ケイの奴、取りあえず
良かったな!ユウもな……」
「はい!ジャミルおにいさま達も、もう元のお世界にお戻りに
なられるんですよね?」
「ああ、方法が分かり次第な、なんか難しい様な気もするけど……」
「大丈夫ですよ、きっと領主さま達が良い方法を探して下さいますよ!」
「だといいけどな……」
「……あの、ジャミルおにいさま……」
「ん?」
ユウがジャミルの顔をじっと見つめた。だがその表情は淋しそうである。
「これでお別れじゃないですよね?またいつかきっと会えますよね……、
ユウはそう信じています、元の世界に戻っても、どうかユウたちの事、
絶対忘れないでいて下さいね、約束ですよ……」
「ああ、何処に居ても俺らは友達だ、な……?」
「はいっ!ずっとずっと友達ですっ!!あははっ!!」
ジャミルの言葉に、ユウは明るい笑顔を見せ、ジャミルと握手を
交わすのであった。
そして、翌日。娘達はそれぞれの旅立ちを迎える。ケイは養女として
屋敷に残留、ユウ、ブウ子、マフミは実家へと帰って行った。
「……やっぱり、お別れって本当に寂しいわね、……覚悟してたけど……、
でも、皆、幸せになれるといいな……」
段々と姿が遠のいていく3人娘を見つめながらアイシャが呟いた。
「きゅぴ……」
「うん、……ぐしゅっ、あ、垂れた……」
「ダウド、鼻水拭きなよ、ハンカチ……」
「ぶん、アル、いづもいづもあびがどう、……ぢいい~んっ!!」
「……ハア」
「ジャミルさん、皆さまも、お話があります、どうぞ旦那様のお部屋へ……」
外でユウ達を見送っていたジャミル達は、庭師に呼ばれ、領主の部屋へと
赴くのだった。
「遂に、元の世界に戻れるのかな、この日が……」
「おちびさん達は儂が見ておりますので、どうぞ皆さんは旦那様の処へ、
さあ、おじいちゃんと遊ぼうかの!」
「ほーい!」
「たいや!」
「ボー」
「アンっ!アンっ!」
庭師にしんのすけ達を預け、ジャミル達は領主の部屋へと入って行く。
其処はかつて、領主との初対面を行ったあの部屋でもあった……。
「おお、ジャミル君達、漸く分ったぞ、……もしかしたら君達の世界に
戻れるかも知れん方法が……」
「マジで?本当に早いなあ、……信じらんね……」
「ふむ、その資料なのだが、此方に来たまえ……」
6人とチビは領主の側に寄り、不思議な昔の文献を見る。
……其処に書いてあった事は……、こうである。
500年に一度、月の輝く夜、この世界ともう一つの世界を結ぶ、
不思議な扉が開かれるらしい……、その500年に一度の日が何と……
「……今日と言う事らしいのだが、もう一つの世界というのは、恐らく
君達の世界の事だ……」
「うっわー、すんげー強引にきやがった、幾ら今月中に話纏めたい
からってよ……」
「……やっと元の世界に帰れるんだ……、きょ、今日を逃したら私達、
二度と元の世界に戻れないかも知れないですよ!!ジャミルさんっ!」
いろはが顔をアップにし、シイタケ目でジャミルに迫りくる……。
「わ、分かってるから、ムキになんなよ……」
「まあ、あくまでも、伝説かも知れん……、という話なのだが、
幸い今日は天候にも恵まれておる、しかし君達は本当に運が良かったな……」
「ハア、強引と言うか……、運が良すぎです、……それで、領主様、
その場所というのは……」
アルベルトが訪ねると、領主が真剣な顔をし、静かに口を開いた。
「……この近くの……、ンコマウーン川だ……」
「!!!!」
「アイシャ、落ち着けって!……か、川の名前なんかどうでもいいだろ!
……それって……、最初に俺らが流されてきた川の事かな……」
「……」
「あははは!なんかすっごくおもしろいなまえの川だったんだねえ!
……んーコっ!」
「……こむぎっ!」
いろはは顔を赤くし、リアクションに困り、理解出来ておらず爆笑している
こむぎの口を慌てて塞いだ……。
「……それにしても……、凄く下品な嫌な名前の川だったのね、
そんな川から流れて来たのね、私達……、ボソ……」
「この近くにある川と言えばそれしかないであろうな……」
「よーし、そうと決まったらもうお帰りの支度しなくちゃだね!帰ったら
ユキとまゆ、悟と大福にもただいまあー!のごあいさつしなくちゃ!
みんなに会えるのひっさしぶりー!……いろは、わたし、先にお部屋に
戻って荷物まとめてるね!」
「こむぎ……?」
いろはの横を、齷齪とこむぎが通り過ぎて行ったが……。先程まで
笑い転げていた彼女の様子は明らかにおかしかった。その様子に
いろはが首を傾げた。
「こむぎ、どうしたんだろう……」
冒険編29 別れ
「でも、500年に一度って事は……、私達、元の世界に戻れたら
もう二度とこの世界には来れなくなるの?……そんなの嫌よ……」
「ぴい~、……チビもさよならは嫌だよお……」
「チビちゃん……」
アイシャはチビを抱きしめ、堪え切れず、思わず涙を流した。
「で、あろうな……、君達にもう二度と会えなくなってしまうのは
本当に悲しいが……、別れは仕方がない、生きている以上避けられない
事なのだ……、人は出会いと別れを繰り返して生きて行かなければ
ならんのだ……」
「……おっさん……」
窓の外を眺めながら葉巻を銜え、領主が静かに呟く。ジャミルには
死んだ奥さんの事を思い出して話をしている様にも見えたのであった。
『これでお別れじゃないですよね……?またいつかきっと会えますよね……』
(……ユウ、ごめんな、約束、守れそうにねえよ……、畜生……)
ユウと最後に交わした言葉を思い出し、ジャミルも心を痛める。
『はいっ!ずっとずっと友達ですっ!!あははっ!!』
「……ユウ……」
「お?こむぎちゃんだゾ、お話終わったー?」
「たいやー?」
「ボウボオ」
「♪アンっ!」
お子ちゃま達がジャミル達よりも先に領主の部屋から出て来た
こむぎを出迎えた。
「こむぎさん、どうでしたか?旦那様のお話は……」
「えーっと、そのお話なんだけどね、ジャミル達から聞いた方がいいよ、
こむぎじゃムズかしくって、それで、おじーちゃん、もう少しだけ
しんちゃん達と遊んであげてほしいの、わたし、部屋で荷物の整理したいから!」
「おお、勿論構わないですが、どうかなされましたか?少しお顔が
浮かない様ですが……」
「えーっと、そ、そんな事ないよっ!じゃあ、しんちゃん達を宜しくねっ!」
「……はあ……」
「こむぎちゃん、なんか変だったゾ、いろはちゃんとケンカでもしたの?」
「やいい……」
「じん、せい、いろ、いろ、ある……」
「……クゥ~」
こむぎはすっ飛んで部屋まで走って行く。そして部屋に入るなり、
ベッドにダイブし、枕に突っ伏す。寝転んだまま、暫くそのままの
体勢でいた……。
「どうしてなんだろう、もう帰れるのに、何なのかなあ、この気持ち……」
「……こむぎ、入るよ~」
「いろは……」
いろはも様子のおかしいこむぎを心配し、後を追い、部屋まで来たのである。
……いろはもベッドの縁に腰掛けると、こむぎの顔をじ~っと見つめる。
「そんなに見つめられたら照れちゃうよう~、いろはってばあ~!」
「こらっ、誤魔化さないの!何か隠してるでしょ!」
「……別に誤魔化してなんかないよう、ただ……」
「ただ?」
「だって……、お別れって考えて、何か急に胸が苦しくなっちゃって
ねえ、いろはとこむぎは……、ずっとずっと、側にいっしょにいられるよね?
……これからも……」
「当たり前じゃない、まだまだこれから一緒に楽しい事見つけるんだよ、
ずっとずっとこむぎと一緒に!」
こむぎはちらっといろはの顔を見る。そして、子犬モードに戻ると
いろはに思い切り飛びつくのだった。
「わんっ!こむぎといろは、ずっといっしょ!こむぎももっともっと、
いろはにシアワセをいっぱい伝えるよっ!」
「……もう、こむぎってば、ホント、甘えんぼなんだから……、
うん、そうだね、有り難う……、これからもずっと一緒にいようね……」
「わお~んっ♡」
いろははこむぎを側に抱き寄せたまま、静かに微笑むのだった。
……そして、ジャミル達も部屋に戻り、いそいそ荷物整理を始める。
「何だかオイラも寂しくなってきちゃったよお……」
「ダウド、それ以上言わないんだよ、さよならが悲しいのは
皆同じなんだよ……」
「うう~……」
「ジャミルさん達、ちょっといいですかな?」
「あ、爺さん……」
庭師がジャミル達の部屋に顔を出す。しんのすけ達はアイシャ達が
いる部屋に一緒にいる。
「旦那様からお話は聞きました、もうお別れなんですのう、
寂しくなりますが……、仕方のない事ですじゃ、しかし……、
別れという物はいつ経験しても嫌なものです……」
「……そうだな、夜になるまでには街を出とかないとだからな……」
「此処だけの話、今だから言える事ですが、儂は皆さんと接するうち、
皆さんが本当の孫の様に思えて来ましてのう、楽しかったです……」
「お、おじいさあ~ん、ううう……」
「ダ、ダウド、ほらまたっ!」
アルベルトが慌てて、又予備のハンカチでダウドの顔を拭いた。
「皆仲良く、どうか幸せになって下さいのう、この爺からの
お願いですよ……」
庭師はそう言うと、ジャミル達、一人一人の頭をぐじぐじ撫でて回った。
「ありがとな、爺さん、爺さんも長生きしてくれよ……?」
「ええ、勿論ですとも、おいぼれですが、爺もまだまだ頑張りますよ!
ははは!」
「あの、ジャミル達……、支度は出来た?私達はもう大体準備出来たから……」
アイシャがジャミル達の部屋までやって来る。
「ん?ああ、俺らももう大丈夫だよ……」
「そう、じゃあ……、ね?待ってるから……」
「ああ……」
そして、ナンダ・カンダ家とも別れの時がやってくる。見送りには
下級兵、良エリート兵達の姿も見えた。兵の一人が前に出て、ジャミル達に
お礼の言葉を述べた。
「色々と、お世話になりました、皆さん!あなた達のお蔭で、旦那様も、
このナンダ・カンダ家も救われました、我ら下級兵部隊、エリート兵部隊、
一同、心からあなた方に感謝致します!」
「敬礼……!」
どうやら、がめついエリート兵達の方の姿は見えず。元々忠誠心が
ルーゼ寄りであった彼らはルーゼがいなくなった後、すぐに姿を
消したらしい。ちなみにゲスは、領主が退職金と共に解雇し、今はもう
屋敷から悪エリート兵達同じく姿を消し、何処かへ行ってしまったのである。
「皆さんもお元気で……、色々お世話になりました、お身体には気を付けて、
どうか頑張って下さいね……」
「は、はいっ……!」
アイシャが兵達に声を掛けると、兵は皆揃って顔赤くし、でれ~っと
だらしなく鼻の下を伸ばした。
「兵士さん達、おはなの下が長くなってるよ!こむぎも伸ばしてみようかな!?」
「真似しなくていいんだよ……」
呆れた様に声を出すいろはとお調子者のこむぎ。
「……元気でな、ジャミル君達……、身体に気を付けるんだよ、
何なら君も養子になるかい……?ふふふ……」
「げげっ……!」
又領主の目つきが怪しくなってきた為、ジャミルが身構える。
「冗談だよ……、はは、君は本当に面白い子だよ……」
「どうか、お元気で……、爺の事も忘れないで下され……」
「ぴい~、チビ、絶対忘れないよ、お爺ちゃん……」
「……クゥゥ~ン!」
「チビさん、シロさんも、どうか元気での、うんうん……」
別れ際に、チビとシロが交互に庭師の顔をペロペロ舐めた。
「おじいちゃん、いっぱい遊んでくれてありがとね、
オラ楽しかったゾ……」
「……びえええーーっ!!」
「うんうん、儂も楽しかったよ、みんな、ありがとうな……」
「ボオーー!!」
お子様達は最後に庭師に優しくハグして貰い、泣いて悲しい別れを経験する……。
「……領主様、お爺さん、ケイちゃん、皆さん、本当に長い間
お世話になりました……」
「……っく、うええええ~……」
アルベルトが丁寧に皆に頭を下げると、又ダウドもぐじぐじ鼻を垂らし始めた。
「アルベルト君も、ダウド君、いろはさん、こむぎさんも……、
どうか達者で……、元気でな……」
「お世話になりましたっ!……私、皆さんの事、絶対忘れません!」
「領主サマも元気でねえ~!」
「はいっ!僕達も頑張ります、どうかお元気で!」
「うむ……」
アルベルトと領主が硬く握手を交わし、いろはとこむぎも最後の挨拶を。
「じゃね、皆、バイバイ……、元気でやれよ!」
「ケイ、お前もな……、でもあんまりおっさんを困らせんなよ!」
「お前に言われたくねえよ!……い、いつまで人の顔見てんだよ!
早く行けよ!」
不良娘ケイ、ジャミルに悪態をつくが、強気な彼女も泣きそうになる
表情を見られまいと必死であった……。
「じゃあな!みんな、本当にありがとなーーっ!」
「さようならーーっ!!」
それぞれに名残は尽きないが、ジャミル達は屋敷に背を向けて、
元来た道を再び、真っ直ぐに歩き出した……。
冒険編 終 繋がる世界
漸く一行が、この世界に来て、一番最初の場所の川に着いた頃には、
丁度、夜空に満天の星が輝き始めている頃であった。
「う~ん、……此処の川なのか?本当に、アル、何かそれらしき
入口みたいなモンは見えるか……?」
「……暗くて良く分からないけど……」
「ぴ、あそこ、滝の中、光ってるきゅぴ……」
「お……」
チビが言った方向を見ると、確かに滝の中から光がうっすらと漏れている。
「げげっ、あそこ……、通るの?」
早速、ダウドが嫌そうな顔をした。いつもの如くであるが。
「でも、他にどう見てもそれらしき場所はないもの、行ってみなくちゃ……」
「アイシャさんの言う通りですよ!行ってみなくちゃ、しんちゃん達も
大丈夫だよね?」
「いろはちゃん、オラ大丈夫だゾ!」
「やいやい!」
「ボオー!」
「アンっ!」
「こむぎもおっけーだよっ!急がないと元の世界に戻れる時間が
どんどん少なくなっちゃうもんね!」
「ンモ~、どうして皆さんこうお元気がいいの~……」
「なら、ダウド、お前だけ頭下げて、今からおっさんの所戻るか……?」
「……わ、分かってるよお~、……ジャミル……」
「よし、んじゃあ、俺から行くわ、よっと!うん、大丈夫だ、何とか
歩いていける深さだ……」
ジャミルが一番最初に川に入り、滝の近くまで進んで行く。
その後に、チビを抱いたアイシャ、同じく、しんのすけを抱き、
ひまわりをおぶったいろは、そして、ボーちゃんを抱いたこむぎ、
シロに、アルベルト、ダウドも続く。
「はあ~、何で最後に来て、またこんな、アドベンチャーな
仕掛けが……、うう~……」
「まあ、仕方ないね、もう諦めなよ、でも、あともう少しなんだから……」
開き直った様にアルベルトがダウドを諭す。
「んじゃ、皆行こうぜ、覚悟出来てっか?……行くぞっ!!」
ジャミルが滝の中にある光の中に飛び込み、その後に他のメンバーも
続けて飛び込んだ。
……そして……
「……此処は……?」
「恵みの噴水だよ……、僕達、戻って来れたんだ、やっと……」
「って、事は、俺ら……」
「うわあーいっ!オイラ達、元の世界に戻って来れたんだよおっ!!」
「あはっ、チビちゃん、やったあーっ!!」
「きゅっぴーっ、アイシャも元に戻ったし、良かったねえーっ!」
「おおー、オラ達、冒険達成、完了したゾ!!」
「やいやいっ!」
「ボオー!」
「やったねっ!いろはっ、わんだふるな大冒険大成功っ!」
「いえ~い!やったねっ!こむぎっ!」
「アンっ!(ボクも頑張りましたっ!)」
アイシャとチビはハグし、いろはとこむぎは喜びのハイタッチ。
長い冒険が無事終わり、皆、元の世界に無事に帰って来れた
喜びで大はしゃぎであった。
「さーて、んじゃま、取りあえず、懐かしのマンションに戻るかねーっ!」
「……待って、ジャミル……、散々心配掛けた罰、お仕置き、
……忘れてないよね?」
待ち兼ねていた様に、アルベルトがスリッパを取り出し、
腹黒モードに……。アップでジャミルに迫る……。
「こら!ちょちょちょ、お待ちっ!……んなもんいつでも
出来んだろうがよっ!」
「……駄目、うふふ~♡!」
「……待って、アル!お仕置きするなら、私にもちゃんとやって!
迷惑掛けたのは私も一緒だもの、お願い……、私も一緒に
ちゃんと平等に叩いて!」
「アイシャ……、君って子は……、本当に……、ハア、これじゃ
お仕置き出来ないね……、分ったよ、ジャミル、今回だけはやめるよ、
アイシャに免じてお仕置きは無しにするから、アイシャに感謝してよね……、
全く……」
「アル……、有難う……」
アルベルトは苦笑しつつもスリッパを引っ込めるが、心なしか、
その表情はアイシャを見つめながら、何だか安堵している様にも見えた。
(……本当に、優しい子だよ、アイシャ……、君は……)
「わ、わりィなあ、アル……、へへ……」
「確かに仕置きは止めるけど……、ジャミル、君は決して許した訳
じゃないよ、ちゃんと別の形で償って貰うよ?」
「な、……なんですと……!?」
「そうだね、レストラン、食べまくりツアーなんていいかもね、
当然、君のおごりでね」
……前にジャミルがデパートで当てた、バイキング券は
まだ残っているが……、少人数券の為、それはアイシャだけを
連れて行こうと決め、ずっとしまったままである。
「あー、それいいねっ!オイラ、トロのお寿司ー!」
「クッキー沢山がいいなっ、♪あとね、ドッグフード!」
「じゃあ、私も便乗しちゃいまーす!グレープシャーベットで!」
「おーい、……何でオメーらもなんだよっ!!」
「オラ、ほんのチョコビ10箱で……」
「アンっ!アンっ!(ワタアメと肉まん!)」
「ややややい、やいやい!!(最高級メーカーの粉ミルクっ!!)」
「ボオボオ(石)」
「……てか、約一名食いモンじゃねえ要望も混ざってるし!取りあえず、
わしゃマンションに戻るっ!みなさーん、お元気でしたかーっ!!」
「あ、ジャミルが逃げちゃうっ!よーし、こむぎデカがタイホだあーっ!」
「ジャミルさーん!逃げちゃダメですよう!」
「皆でジャミルを追うんだーっ!!」
「逃がさないよおーっ!!走るお寿司めえーーっ!!」
皆はジャミルを追って走って行ってしまう。後に残された
チビとアイシャは苦笑いする。
「はあ、この景色、私達、本当に戻ってきたのね、……ね、チビちゃん……」
「きゅっぴ!」
アイシャとチビは懐かしい景色を確認する様に、今夜の夜空を見上げながら、
その場に立ち尽くしていたのだった。
それから数日後……、お互いの身体も無事元に戻り、マンションの
自分の部屋にも漸く戻れたジャミルは安心感もあってか、相変わらず
ゴロゴロしていた。いろはとこむぎもいつもの日常に戻り、
しんのすけ達も帰省の知らせを受け慌てて帰って来た野原夫妻と
再会。皆、いつもと変わらない日常に戻っていた……。
「……こんにちは、ジャミルいる?……いるわね、相変わらずねえ、
今日はチビちゃんが来てるのよ……」
「んー?アイシャとチビか、……入れよ……」
「ぴい、ジャミルまた寝てる!そんなにゴロゴロばっかりしてると、
お腹がでちゃいますよおー!ブウ子になっちゃいますよおー!ブーブー!」
「……う、うるせーな!チビに言われたくねーの!このポンポコ腹ドラゴンめ!!」
「……ぎゅっぴいいーーっ!」
「ジャミルったら、よしなさいよ、チビちゃんは今日、大事な
報告があって、配達のお仕事が終わった後、わざわざ寄ってくれたのよ……」
「……そ、そうだったのか、わりい……」
「ぴい、……あのね、チビ達が飛び込んだ異世界の穴、あの後、
ドラゴン谷のドラゴンさん達が確認しに行って来てくれたんだけど、
何故か穴がもう消えちゃってたんだって……」
「消えた……、そうなのか……、じゃあ……、もうこっちから
向こうの世界に行く事も不可能なんだな、どっちみち、もしも
行けたとしたって、もうこっちに戻れる方法ねえし、あっちの
世界には二度と行けねえよな……」
「きゅぴ……、もう本当に皆と会えないの……、チビ、寂しいよお……」
「チビちゃん……」
チビを慰める様にアイシャがそっとチビを抱擁する……。
「……ジャミル、ジャミルぅうううーーっ!!」
急にダウドが転がり込む様にジャミルの部屋に大慌てで入って来た。
「……な、何だよ、ダウド……」
「あ、チビちゃんとアイシャも一緒なの、丁度いいや、皆、外出て!」
「はあ……?」
「いいから早くっ!!」
あまりにもダウドが異様に興奮しているので、仕方なしにジャミル達が
マンションの外に出ると、其処にいた人物は、……何と……。
「おにいさまーっ、おねえさまーっ、チビさーん、やっほー!
ユウでーす!あはっ!」
「ユ、ユユユユユ……、ユウ!?ユウなのか!?な、何で此処にっ、
一体、これは……」
「……嘘でしょ、ユウちゃん……、どうして……?どういう事……?」
「嘘じゃないです、皆もちゃんといますよーっ、ホラっ!」
「あ……」
「……きゃーっ!ジャミルさん、アイシャちゃん、チビちゃんもーっ!
きゃあああーーっ!!」
「よ、久しぶり!相変わらず、馬鹿やってんのか?ジャミル!」
「……ふんがふんがふんががああーっ!!」
マフミ、ケイ、ブウ子も、普通に……、ちゃんといたのである。
「ど、ど、ど……、どゆこと?」
「み、皆に又会えたのは凄く嬉しいけど、でも、でも、でも……、
何がなんだか私にも分らないわあ~…」
……状況が分からず混乱するジャミルとアイシャ……、と、更に其処に……。
「ふむ、私達にも詳しい状況は把握出来ぬのだが……、君達が
いなくなってしまった夜に、ふと夜空を見上げたら、急に空が
明るくなって光だしてね、気が付いたらこの世界にいたのだよ……」
「……お、おっさん!?」
「領主さま!」
「どうやら儂らの住んでいた世界と街ごと、ジャミルさん達の
いる世界に、ワープして来てしまった様ですじゃ……」
「庭師のじいさんもっ!こ、これって、マジか、マジなのか!?」
「ふ、二つの世界が、もしかしたら……、融合……?し、しちゃったって
事なのかしら、何かの異変で……、大変だわっ!!」
「原因は今は分らぬが、街の民もそれ程、混乱してはおらぬ様であるし、
暫くは私達もこの世界にお世話になるかなあと思っておるのだよ……」
「そういう事ですじゃ、……ジャミルさん達、これからもどうぞ
儂らとナンダカンダ家を宜しくのう……」
「あはっ、これからもユウを宜しくですーっ!」
「きゃあああーっ!なのーっ!……きゃああああーーっ!!」
「はあ、まーたお前らの面拝まなきゃなんないのか、ま、又宜しくな!」
「ふんがーーっ!飯はどこじゃあああーーっ!!」
「……うっそおおーーんっ!!」
「きゅっぴーーっ!!」
……二つの世界がくっつき、更におかしい事になってしまった、
この変な島……、次回から、更に新展開で、今後もますます
大暴走?予定です。
zokuダチ。セッション34