zokuダチ。セッション33
エピ 127・128・129・130
冒険編24 大乱闘
「……冗談だよな、な、冗談だよ……、な?」
「私は本気だよ、君は本当に良く似ている、……私の……」
ジャミルが脅え、後ずさりする中、領主はじりじりとジャミルに
近づきじりじり追い詰める。
「ジャミルさんっ、大丈夫っ!?」
「何処かのヘタレ君みたいになってるよっ、ジャミルっ!
しっかりしろ!」
※ 何処かのヘタレ君:え?
「行こう、皆で力を併せよう!」
「アル、分かってるわ!一緒に行きましょ!」
「そうはいかないのよ、あんた達は邪魔なの……」
ジャミルを助けに行こうとした仲間達の前に、又もルーゼが立ちはだかり
邪魔をするのである。
「……ぎゅぴいいいっ!!」
(一番厄介なのは、やはり、このチビドラゴンみたいね……)
ルーゼは懐から素早く麻酔銃を出すとチビに向けて引き金を引いた。
「ぴ……?ぴいいい……、きゅぴ……」
「……チ、チビっ!!」
「チビちゃんっ……!!」
「何を慌てているんだか、こんな役に立つのを殺すわけないでしょ、
厄介だからおねんねして貰っただけよ、……ユウ!」
「はい……」
アルベルト達が止める間もなく、ユウが素早く動き、倒れたチビを回収した。
「あなた、そのドラゴンを捕獲していなさい、すぐに終わるわ……」
「はい、ルーゼ様……」
ルーゼは麻酔銃をしまうと今度は愛用のマグナムを取り出し、
アルベルト達を睨んだ。
「……ユウちゃん、お願い……、チビちゃんを返して!!」
「私は旦那様、ルーゼ様以外の命令は聞きません……」
「……ユウちゃんっ!!」
アイシャの必死の訴えも無視し、チビを抱えたままユウは何処かへ
姿を消してしまったのだった……。
「クソッ!……ルーゼの野郎っ、チビにまでっ!う、うわあああっ!?」
「愛しているよ……、ジャミル君……、さあ、私と共に2人だけの
愛の世界へ旅立とう……」
……ぷっ、つん……
「……いい加減にしやがれっ!この変態糞爺っ!!」
遂に切れたプッツンジャミル、等々、拳で領主をブン殴り、領主は
窓ガラス付近までふっ飛ぶ。
「……旦那様!?」
「わんわんーっ!」
こむぎ、子犬に戻るとルーゼ目掛け飛びつく。ルーゼは慌てて持っていた
マグナムを床に落とした。
「……く、よくもっ!!どっから入って来た!この糞犬っ!
……ああっ!?」
「私もっ!このまま黙っていられないよっ!えーいっ!」
急いでマグナムを拾おうとしたルーゼに向け、いろはも再び
おしりパンチ。其処へアルベルトも竹刀でルーゼの肩へと
攻撃を叩き込んだ。
「きゃあ!みんな凄いわっ!」
「……おーい、アイシャ……、俺は……?」
燥ぐアイシャに向け、ジャミルは自分の顔を指差した……。
「君はもっとしっかりしなくちゃ駄目じゃないかっ!」
「だってよお~……、気色悪かったんだから仕方ねえじゃん、ちぇ……」
アルベルトに呆れられ、バツが悪そうに不貞腐れジャミルが
ボリボリ頭を掻いた。
「……おのれ、糞ガキ共めが……、よくもこの私に……、許さない……、
思い知るが良い、そして後悔させてやる……」
「ガルガルおばさんを止めるわん!アルベルト!」
「ああ!いろはちゃんとこむぎちゃんは僕の側に!アイシャを頼む!」
「了解ですっ!」
「任せてわん!」
「お相手いたすーーっ!」
アルベルトは竹刀を構え、こむぎはルーゼを威嚇、いろはと共に
アイシャを守りながら彼女を後ろに下がらせる。
「フフ、もういい加減に勇者様ごっこは終わりにするんだねっ!!」
「……きゃああああーーっ!!」
「きゃわああんっ!?」
「うわああああーーっ!!」
「……アルっ!!いろはちゃん、こむぎちゃんっ!!」
ルーゼが手から光を発した瞬間、いろは、こむぎ、アルベルトも身体を強く
打ち抜かれ3人ともその場に倒れてしまった……。
「くそっ、畜生っ!待ってろ、今、行……」
アルベルト達を助けに飛び出そうとしたジャミルの前にルーゼが現れ、
倒れて気絶している領主を助け起こし、術の様な物を領主に掛け始めた……。
「旦那様、あなたはまだ目的を達していません、こんな処で倒れる
あなたでは無い筈ですわ……、だって、ほら……、目の前には漸く
あなた様の探し求めていた……」
「う、うう……」
「くそっ!余計な事すんなーーっ!婆ーーっ!」
「そうだ、妻だ……、私は新しい妻をこの腕で抱かなければならんのだ、
ふ、ふはははは!」
「な、何ですと……?うわ!」
ジャミルの目の前に領主が再び瞬間移動し、現れた……。
「ぐ、この親父……、無茶苦茶過ぎんだろっ!!」
「あなたは其処で旦那様と遊んでいればいいの、そう、永遠にね……」
ルーゼはそう言うと、再び足をアイシャ達のいる方向へと向け、
つかつかと近寄る。
「ま、待て、ルーゼっ!あっ……」
「男でも何でも私は構わぬのだ、その乱暴な口調、何となく
足りない頭……、傲慢な性格……、何処をとっても私の亡くした
妻にそっくりなのだよ、ジャミル君、私は何としても君を自分の者に
したい、妻の面影が君に見える……、こうして何十年も……」
「お、俺は……、アンタの亡くなった奥さんなんか……」
「私の寂しさを埋めてくれる相手を漸く見つけたのだ、玩具や代りでなく、
放しはしない……」
「あ、あ……、アアア、アア……」
領主の目に見つめられたジャミルは意識が朦朧とし、身体が痺れてしまい、
金縛りにあった様に動けなくなってしまうのだった……。
「……ジャミルーーっ!しっかりしてーーっ!あ……」
「……」
必死でジャミルの名前を叫ぶアイシャの目の前に、腕組みをした
ルーゼも近寄る。
「小娘、あなたはどうするのかしら?」
「何よ、アンタなんか怖くないったら……、どいてよ……!」
「もうあなた一人だけど?お仲間もこの通りだし、ドラゴンも
捕まえたし、バカ小僧も旦那様のお気に入りだしね、ふふ、
震えちゃってかわいらしい事……」
「や、やめてっ!あ……」
ルーゼはアイシャの頬を触ると、頬に自分の顔をそのまま近づける。
「あなたのこの柔らかい頬に、ずっと長い間触れて見たかった……、
旦那様のターゲットがあちらさんだと分った以上、あなたは私が
お相手をしてあげる……、お姉さんがね、ねえ、噛み付いても
いいかしら?もう我慢出来ないのよ……」
「い……いや……、やだ……、助けて……、う、うう……、
ジャ、ジャミ……」
「……アイシャをいじめちゃダメェェェーー!!」
「な、な……っ!?ああああーーっ!!」
倒れていたこむぎが起き上がり、ルーゼに向け、再度飛び掛かると
体当たり、身体を床におっ倒した。急いでルーゼから離れると
いろはの側に戻る。
「……こ、この、得体の知れない糞犬がっ!」
「……こむぎっ!!」
「アイシャはわたし達が守るわん!あきらめたくないよ!」
「そうだね、こむぎ……」
こむぎはいろはの顔を舐め、再び少女モードになるといろはの手を取る。
人間時のこむぎの手は傷だらけであった。……それでもこむぎは、
大好きないろは、アイシャ、大切な皆を守りたかった。
「こむぎ、私達には何の力も無いけど、……でも、最後まで一緒に、
だって私達は……」
「いろは……」
いろは傷だらけのこむぎの手を優しく握ると、微笑んだ後、頷き、
目の前のルーゼを見据える。そして、今度はお互いの手を硬く、
強く、ぎゅっと握った。
「「……絶対に諦めないっ!!」」
「そうだ……、守るんだ、アイシャを……、僕らが守らなきゃ……」
2人の言葉を心に受け、アルベルトも立ち上がる……。
「アルベルトさん、大丈夫ですか?」
「ああ、こんな処でいつまでも、もたもたしていられないよっ!」
「どうして……?あれだけ強い光線を放った筈なのに、何故?
いいわ、ますます面白くなってきたじゃないの……、ふふ……、
こいつらは常識を超えた非常識の変人て事ね……」
「みんな……」
「アイシャさん、絶対守るよっ!!」
「負けないよっ!」
「僕らがもう一度、相手をさせて貰う……」
アルベルトも竹刀を構え、再びルーゼの前に立つ……。
「私は十数年前、妻を失った悲しみに打ちひしがれた……、どうしても
立ち直る事が出来なかったのだよ、そんな私を救ってくれたのが
ルーゼだった、彼女は私の心の中に有る野心が気持ちを押してくれた、
不思議だった……、彼女が側にいてくれれば理性が無くなってしまい、
何でもしてしまおうと思うのだよ、ルーゼは本当に優秀な……、フフフ、
私の最高の私の相棒、秘書だよ……」
(……こいつ、マジでヤバイ、もう目がいってる……、何とか
しねえと……、俺もこいつから逃げねえとやべえかも……、でも、
どうすりゃいいんだよ……、だけど、身体が動かねえよ、くっ……、
もう駄目なのかよ……)
と、……疲れかけてしまったジャミルの脳裏に……。
「さあ、もう何も私達を邪魔する者はいない、共に行こうぞ、愛の楽園へ……」
「……旅立たねえっつーんだよっ、この糞爺!!
いい加減に目ェ覚ましやがれっ、おらああああっ!!」
領主、ジャミルに2度目のパンチを食らい、又もふっ飛ばされた……。
「うぐああああっ!な、何故……、何故なのだ……、う、うう……」
「……アイシャ……、アイシャの事考えたら……、何故か身体が
又動くようになった、ああ、俺……、又アイシャを危ない目に
遭わせて泣かせてんのか、……本当、マジでいつもいつも
ごめんなって思ったら……、急に力が入る様になって、
その……、な……」
ジャミルは顔を赤らめ、目線をアイシャの方に向けると
又誤魔化しの頭ボリボリを始めた……。
「ジャミル……、私……」
「ま、またっ!なんて単純なアホなヤツなのっ、旦那様っ、
……あああっ!」
「よそみしてるおひまはないよっ!あなたの相手はわたし達だよっ、
これ以上邪魔するって言うのならわたし達だって本気出すんだから!」
「もう酷い事は止めてっ!あなたが何を企んでるのか分からないけれど、
……自分の国に帰って下さいっ!」
「……畜生め、本当に小賢しい小娘共め、何の力も持たない
雑魚のクセに、……あの糞犬は……?……それで本当に私を止められると
思ってるの、いいわ、見てらっしゃい、……私の本気を……」
「僕達もそろそろ聞きたい、お前が何者なのかも……、そして……、
領主を洗脳した本当の目的を、いろはちゃんが聞いた通り、お前が
一体何を企んでいるのかもね……」
自分の目の前に立つアルベルトといろは達をルーゼは憎々しげに
睨むのであった……。
冒険編25 力併せて
その頃、ユウは屋敷の玄関付近の螺旋階段に座り、チビを抱いて
介抱していた。
「……ぴ?」
「あっ、チビさん、目を覚まされましたか、ふふ、さすがスーパーな
ドラゴンさんですねえ……」
「あれえ?ユウちゃん、お顔笑ってる、元に戻ったの!?」
チビが驚いてユウの顔を眺めると、ユウは再び顔を曇らせ、悲しそうな
表情をするのであった。
「違うんです、……チビさん、私……、本当は、おにいさまとおねえさまが
助けに来てくれた時から、もう自分の意識はあったんです……」
「きゅぴ!?」
「でも、私……、ルーゼ様が怖かった、あの方の目を見ると震えが
止まらなくて……、どうしたらいいのか分らなかった……、従うしか
なかったんです……」
「ぴい、ユウちゃん……」
「私、お2人にも皆さんにも酷い事をしました、きっともう
嫌われてしまいました……、本当にもうどうしたらいいのか
分らないの……」
ユウはそう言うと、チビの顔の上に涙を一滴溢した。
「ぴいっ!それはユウちゃんが悪いんじゃないよお!それに
そんな事でジャミルもアイシャもユウちゃんを嫌ったり
しないから!……だから、元気だして……?」
「……チビさん……」
チビはそっとユウの頬の涙を舐めてやるのだった。
「ありがとう、チビさん、私、ちゃんとおねえさま達に謝りたいです、
皆さんにも……」
「そうだよ、わりィ事したらちゃんと謝りゃいいんだよ、
許して貰えるまで……」
「きゅぴっ!?」
「……あ、ああ、ケイおねえさま達……」
ユウとチビの前に、ケイ、マフミ、ブウ子の3人娘が再び
現れたのであった。
「あたし達も途中で完全に洗脳が解けて何とか元に戻れたのさ……」
「許して貰えるか分かりませんけど、私達にも償いとして
何か出来る事をさせて頂こうと思いまして、戻って来たんです
うっ!きゃあー!」
「まあ、仕方ないが、たまにはボランティアとして、私も協力して
やる事にしたのだ!」
「きゅぴ!じゃあ皆でジャミル達を助けに行こう!お願い、
力を貸して!」
「ああ、勿論さ!私もルーゼの野郎をぶっ飛ばしてやるよ!」
「きゃあー!ケイちゃん、それは無理よー!出来ない事は
言っちゃ駄目!私達は私達の出来る事をするのーっ!きゃああー!!」
「ぐ……、おめえ、そのいちいちキャーキャー言いながら喋るの
いい加減によせよ、迹にさわるんだよ、むかつく……」
「嫌よ、きゃあああーーっ!私のチャームポイントなのっ
、きゃあああーーっ!」
「……ぴきゅ、又外から足音がする、誰か来たよ!」
「え、ええええっ!?」
チビの言葉にブウ子を除く娘たちは一瞬脅えるが……。
「……突撃ーーっ!悪魔女のルーゼを倒せーーっ!領主様を
お助けするのだああーーっ!」
「おおおおーーっ!」
「……あれ?ダウ……」
「あはっ!チビちゃん!」
現われたのは、下級部隊兵と善良なエリート部隊兵達であった、
何故か隊の一番最初にダウドがおり、庭師の爺さんも加わっている。
「ダウも皆も、おじいちゃんも、一体どうしたの……?」
チビが首を傾げ、きょとんとすると、ダウドは意気揚々と
経緯を話し始めた。
「オイラ、街へ行って戻って来る間に皆と会ったんだよお!やっぱり
皆このままじゃ嫌なんだって、領主さんを助けたいんだって、だから
皆で一緒に来たんだ!」
「非力な私達ですが、何か出来る事があればと思いましてな!」
「うむ、儂も街で鎖を外して貰った後、やはり一緒にダウド殿に
付いていく事にした、このまま黙っていられるか……、何としても
旦那様に目を覚まして貰わんとのう、ああ、子供さん達はそのまま、
儂の友人の家に預かって貰っておるよ」
「うわあーい!凄いねえっ、皆がいてくれれば百人力だねっ!
行こうっ、皆で!」
チビは嬉しそうに皆の顔を見て宙を飛び回り、パタパタと尻尾を振った。
「でも、私……、皆さんに会わせる顔がありません……」
「何言ってんだ、この馬鹿!顔が合わせられねえんだら顔を
合わせられる様にするしかねえだろうが、このアホンダラチビ!」
容赦しないブウ子は煮え切らないユウに向けてげしげしと
きつい一言を発する。
「ぎゅぴ、……アホンダラチビって……、何だかチビに向かって
言ってる気がする……」
「ま、まあ、ブタの言い方はあれだけどさ、そうだぜ、ユウ!
自分でした事はきちんと責任を取らなきゃな!だからあたしら
だって償いで出来る事がありゃと行こうと思ったんだよ!」
「そうよ、行きましょう、ユウさん!きゃあああーーっ!」
「ブウ子さん、……ケイおねえさま、マフミおねえさま、はい、
ユウは行きますっ!ルーゼが無理矢理押し付けたこの変な力……、
今度は皆さんの為に使いますっ!」
「……何で私だけおねえさまじゃねえんだ?まあ、いいけどさ……」
ユウは涙を再び拭うと、皆の顔を見、決意を決めた様であった。
「よおーし!オイラも覚悟決めたよっ、行こう、皆でとつげ……」
と、ダウドが言った瞬間、別の隊がこちらに向かってのしのし
歩いて来る。それはアルベルトとダウドが地下牢でシメた、悪
エリート部隊兵達だった……。
「……う、わあああああっ!?」
最後までちゃんと言葉を言えず、パニくったダウドは慌て、
下級部隊兵の後ろの列に逃げて行ってしまった。
「ぴい!ダウ、逃げちゃ駄目だよお!覚悟決めたんでしょっ!!」
「……チ、チビちゃあ~ん、だ、だってえ~…」
「おい、今逃げたタレ目のガキ、よくも地下牢ではやりやがったな、
畜生……、許さねえぞ、絶対、……後一人、生意気な金髪のガキは
どうした?」
「ひいいい~、や、やっぱり怖いよおお~……」
悪エリート部隊のお偉いさんらしき男がダウドを睨みつけると、
ダウドは脅え、再びヘタレ病が再発してしまう。
「皆さん、此処は我らが相手を致す!その間に皆さんはルーゼの
所に向かうのです!」
「ひ?わわわ!兵隊さん、無茶だよお~!」
悪エリート部隊の前に、反発するエリート部隊兵と下級部隊兵が
立ち塞がり、両部隊が互いに睨み合った……。
「何だあ?雑魚糞部隊じゃねえか、おーい、ふざけてんのか?
ああっ!?俺達エリート部隊に刃向かおうってのか、イイ根性
してんじゃねえか、て、お前らもよ、ルーゼ様に逆らおうってのかい、
ヘッ!」
「お前達もいい加減に目を覚ませっ!何時まであの魔性女に
取りつかれているのだっ!本当に旦那様を救おうと思うなら
下級兵士もエリート兵士も関係ない!今こそ力を併せる時!」
「……雑魚が、生意気だな、俺達はこの屋敷の主なんかはっきり
言ってどうだっていいんだよ、関係ねえ、あくまでもルーゼ様に
従うのみだ、はははははっ!」
お偉いさんの声に合わせるかの様に、他の悪エリート部隊兵は
キッと言葉を発した下級部隊兵を見下し、ゲラゲラと笑うのであった。
「な、なんて奴らだっ、こんな奴らをいつまでも屋敷に置いて
おくわけには絶対にいかぬ!皆さん、どうかルーゼを倒し、一刻も
早く旦那様を救って下され!お願いします!!」
下級部隊兵の1人が、必死で皆に頭を下げる……。
「……分ったよお、やっぱりオイラも行かなくちゃ、
……チビちゃん!」
「きゅっぴ!」
ダウドも悪エリート部隊兵に必死で立ち向かおうとする
下級部隊兵に心を動かされ、今度こそ本当に完全に覚悟を決めた……。
「ルーゼの所まで私のテレポート能力で行けます、皆さん、
私の側に!!」
「どうか頼みましたぞ、皆さん!!」
ユウが皆をテレポートで誘導したのを見届けた後、良エリート兵、
下級部隊兵は安心した様に悪エリート部隊兵と再び向き合った……。
そして、アルベルトといろは達は本気を出したルーゼに瞬く間に
窮地に追い詰められていた。ジャミルが助けに行こうと動くのだが、
殴っても殴っても領主がゾンビの如く起き上がり邪魔をするので
3人を助けに動く事が出来ず……。
「くそっ、しつけー爺だなっ、あんだけ殴ってんのに全然
答えてねーのかよっ!」
「私は諦めないよ、ふふ、やっと見つけた宝を逃がすものか、
逃がしてたまるか……」
「どうすりゃいいんだよ、やっぱ、洗脳解くしかねえのか、けど、それには
ルーゼの野郎をどうにかしねえと……、ちっ、うわ、またっ!!」
「愛しているよー!ジャミル君っ!!今度こそ熱ーい私のキスを
受け取りたまえ!」
ルーゼは先程の仕返しとばかりにいろはとこむぎに的を絞り
憎しみを込め、ハイキックを噛ます。……ルーゼに強く蹴られた
2人は床に転がされてしまう。アルベルトも体力の限界が既に
来ていた……。
「……いたいよう、……でも、ま、まだまだ~っ、負けないからっ!」
「……そうだよ、幾ら意地悪しても、こんな事しても無駄なんだよ
って事、あなたに分かって欲しい……」
「ふん、小娘共、もう終わり?さっきの勢いはどうしたのかしら?」
「……ルーゼ、も、もういい加減にしろっ!!」
「あんたもいつまでそんな竹の玩具を振り回してんの!いい加減に
するのはお前だよっ!!ふん、何よ、その青ざめた顔、ボウヤ、
最初の勢いはどうしたのかしらっ!」
「ああっ……!」
いろは達を何とか助けようとルーゼの間に割って入ったアルベルトも、
ルーゼに蹴りで等々竹刀を真っ二つに折られてしまうのだった。
「あんた達も捕まえたらいずれは洗脳して奴隷にと思ったけれど、
もう要らないわ、お前らさっさと死ね……、最初からこうして
やればよかった……」
ルーゼは再び、懐から別の銃を取り出す。それは猛毒弾の入った銃であった……。
冒険編26 大勝利
「やめてよっ!……バカあああっ!!」
「い、痛っ!?こいつっ、どこまでっ!!」
「きゃあああーーっ!」
「……アイシャっ!!」
ジャミルが叫んだ瞬間、ルーゼが後ろから噛み付いてきたアイシャを
肘鉄で端飛ばす。反動でアイシャは壁に直に叩き付けられ気を失って
しまうのだった。
「くそっ!あっ……」
「君はいいんだよ、私だけを見ておくれ、さあ……」
領主はこれまでとうって変わった物凄い力でジャミルを床に押し倒し、
馬乗りになるとジャミルの手首を強く掴み、拘束した。
「う、ううっ!……は、放せーーっ!アイシャーーっ!!」
アイシャを助けに行こうとしたジャミルは又も領主の邪魔に会い、
妨害されてしまい身動きが取れなくなる……。
「……着きましたっ!ルーゼと旦那さまがいるお部屋ですっ!」
「む……、お前達は……」
一見すると、旅行団体ツアーの様だが、列記とした応援部隊である。
「旦那様、こんな事はもうおやめ下され!あなたはルーゼに
利用されているだけです、貴方様の奥様はもうこの世には
おられないのですぞ、……お辛いでしょうがもう現実を
見つめる時です!」
「……そ、そんな事はない、私は……」
庭師の言葉に領主は動きを止め、戸惑いをみせつつあった。
「くそっ、庭師め!余計な事をっ……!」
「竹刀が無くてもまだ僕にはこれがあるっ!はあーーっ!」
「……い、いたっ!こ、この糞ガキっ!!」
アルベルトは最後の砦で、隠していたスリッパを取り出すと、
ルーゼをバシバシ叩き始め、反撃を開始する。
「ま、まだ別のを……、でもやるねえ~、流石アルだよお、
いつもジャミルを引っ叩いてるのは伊達じゃないねえ……」
「ダウ、感心してる場合じゃないよお!チビ達も行くのっ!」
「え……?あわわ!チビちゃんっ!!」
「……ぎゅぴいいーーっ!!」
チビはルーゼの前まで飛んでいき、ルーゼが持っていた銃を
ブレスで燃やした。
「……熱いっ!ああっ、この糞ドラゴンめがっ!!よくも!」
「チビ、凄いよっ!」
「チビ、やるねえっ!」
「チビちゃん、有り難うっ!」
「ぴ、アルも、いろはちゃん達も無事で良かった!」
「……私を舐めるんじゃないよーーっ!!」
「ぴいいっ!?」
「チビちゃんっ、危ないっ!!こむぎっ!」
「行くよっ!いろはっ!」
「「もう一回!ワンダフルwおしりパーンチっ!すぺしゃるっ!」」
「あああーーーっ!?ま、またっ!こ、こんな糞共に……、何処までっ!
冗談じゃないっ!!畜生ーーっ!!」
チビに手を出そうとしたルーゼ、再びいろは達の総攻撃により、
おしりパンチで吹っ飛ばされ、見事に阻止された。
「えっへんだわん!」
「……私達、プリキュアになってなくても、結構大丈夫かも……、
それにしても、いたた……、もう、こむぎにお付き合いすると
大変だよう……」
「あはは~、いろは、何だかおしりからけむり出てるよ、ぷしゅーって!」
「……こむぎっ、もう~っ!」
「きゅぴ!いろはちゃん、こむぎちゃん、ありがときゅぴ!」
チビは嬉しそうに、いろはとこむぎの側を飛び回り、2人の頬にスリスリ、
お礼を言った。
「チビちゃんもお疲れ様、もう少しだからね!」
「がんばろーねっ!」
「ぴい!」
「ううう、ち、畜生……」
それでもルーゼは這い蹲り、悔しそうにまだ抵抗しようと
起き上がろうとする。
「もういい加減に観念しろ、ルーゼ、お前に勝ち目はないぞ……」
「あなたが何をしようとしていたのか、どうかちゃんと話して下さい……」
「ガルガルおばさんの負けだよっ!」
「……わ、分ったわ、全て話すわ、だけど、もう少しだけ
待って頂戴……」
ルーゼは這い蹲った状態のまま、上目遣いでアルベルトといろはと
こむぎを見上げる。
(……ふふふ……、本当にバカな奴らさ……)
「私達はおにいさまをお助けせねばっ!」
「きゃあああーーっ!!」
「よっしゃあ、突撃いーーーっ!」
「ぶひぶひいいいいーーっ!!」
ユウ、マフミ、ケイ、……ブウ子の←美少女……?カルテットが
領主目掛けて突っ込んで行った。
「オ、オイラもそろそろ行かないとやばいなあ、怒られちゃうよお、
ジャミルーーっ!」
その後にぽてぽてと、ダウドも走って続く……。
「な……、何なのだ?ああああーーっ!!」
「えいっ、えいっ、よくも、よくもですーーっ!きゃあああーーっ!」
「この変態爺!くたばりやがれっ!」
「てりゃっ、おりゃっ!せいやっ!はいっ!」
マフミ、ケイ、ユウが領主をポカポカ殴り、蹴る。それぞれの力は
話にならない程弱い物の、領主は戸惑い、突然の反乱分子に
領主はジャミルの手首を掴んでいる力を緩めた……。
「ど、どうなってんだ?げ……、う、うわああーーっ!!」
「……ジャミルーーっ!危ないーーっ!」
「くらえーーっ!!潰れろーーっ!!」
止めは、領主の背中目掛け、ブウ子が超デブヒップドロップでダイブ。
押し倒されて領主の下状態になっていたジャミルも危うく一緒に潰され
そうになり掛けたが、間一髪でダウドがジャミルを引っ張り窮地を免れた……。
「……た、助かった~、サンキュー、ダウド、たく、恐ろしいデブだ……」
「はあ、間に合ってよかったけど……」
……推定体重何百キロのブウ子に背中を潰されては気の毒だが
流石の領主も起き上がれなくなったらしい……。
「ジャミル、アイシャを早く助けないと!」
「……ああ!」
ダウドの言葉に、急いでジャミルが気絶しているアイシャへと
駆け寄り、助け起こした。
「アイシャ、しっかりしろ!大丈夫か!?おいっ……」
「……ジャミル、うん……、大丈夫だよ、えへへ、いつもの
事だもん、ありがとう……」
「全く……、少しは心配掛けねえように精進しろっつーんだよ、
でも、良かった……、へへ、今日はデコピンはナシにしといて
やるよ……、特別だぞ……」
「何よ、ジャミルに言われたくないもん……」
ジャミルはアイシャの笑顔を確認すると、安心した様にアイシャを
抱きしめるのだった。
「おにいさまとおねえさま……、素敵……、これが大人への
階段なのかしら……」
「ユウにはまだ早ええよ、でも……、へえ~、やるなあ……」
「ぽっ……、きゃあああーーっ!!」
「はん、私は興味ねえわ、鯉なら食いたいけどな!ブウ!!」
「ほお、若いとはいいのう、羨ましいわい……」
……そんなジャミルとアイシャのやり取りを見つめる娘達と庭師である。
「お前達……、これで本当に終わったと思っているのか?
マジでおめでたい奴らだね、ふふふ……、あーっはっはっ!」
「ルーゼっ!!」
「このガルガルおばさん、まだこりてないみたいだよ!」
「このおーっ!いい加減にしろおーーっ!!」
倒れていたルーゼが起き上がり、高らかに笑い始める。
ジャミル達はもう一度身構え、戦闘態勢を整えた……。
「この変態親父、今までご苦労だったね、アンタのお蔭でたーっぷりと、
……ふふふ、ふふふふふ……」
「な、なんとっ!ルーゼっ、旦那様に向かって何という暴言を!
……やはりお前は旦那様を誑かしていたのか!?」
「そうだよ、爺さん、もうこのエロ親父は用済みさ、お蔭で
こいつから凄い欲望のエキスを吸い取れた、礼だけは言っておくさ!」
今まで散々領主を旦那様、旦那様と呼んでいたルーゼは急に
態度を一変させ、急に領主を小馬鹿にした態度を取り始めるのだった。
「おい!ちゃんと一から説明しろって言ってんだよ、このババア!」
ジャミルはアイシャを守りながら叫ぶ。他のメンバーも警戒しながら
ルーゼの前に立った。
「ハン!私はババアじゃないよっ!見てなっ!」
「……な、何っ!?」
ルーゼはくるっと身体を一回転させると、自身の姿を変えた。
……その姿とは……。
「……ロ、ロリッコ魔女……?」
「そうだよ、これがおてえの本来の姿だよっ!ぎゃーっはっはっ!」
「変わった一人称だなあ……、って、んな事言ってる場合じゃねえっ!
だから、ちゃんと説明しろって言ってんだよっ!」
「うるせー奴だっ、んとにっ!おてえはある目的の為に、欲望のエキスを
集めてんだよっ、それだけだっ!この爺から欲望の匂いがプンプンした、
死んだ人間を生き返らせようとありとあらゆる魔法の研究したり、
こっそり科学実験しようとか企んでたんだぜ、……頭狂ってたんだ、
すげえな、この爺は!クソ過ぎだろう!」
「まさか……、おお、旦那様……、それ程までに奥方様の事が
あなたは忘れられなかったのですのう……、おおお……」
庭師は領主の側に近寄ると、領主の手を握り涙を溢した。
「まあ、おてらの魔術でも死んだモンなんか、生き返らせる
魔術はねえけどよ!だから、爺をちょいと魔術で洗脳して
そそのかしてやったんだよ、スタイル抜群の、大人ルーゼ様に
化けてさ、何でもいいから、あんたの気の済むまで、新しい奥さん
貰えばって、アドバイスしてやった、そしたらよ、この爺、本当に
その通りにゆう事聞いたし!おてえは爺が新しい妃にした女ども
からも、ここぞとチャンスばかりに欲望のエキスをどんどん
吸い取ってやった、人間、欲が無い奴なんかいねえからよ、んで、
どんどんどんどん……、もっと奥さんを娶れとそそのかして
やったんだよっ!」
「……わ、私達からは、どうして吸い取らなかったの……?」
「きゃあああーーっ!!こわあーーいいいっ!!」
「な……、なんてヤツだよっ……!」
「……逆にこの私がお前を食ってやるっ!!ブおおおーー!!ふんが!!」
「色々と状況が変わって来たからな、洗脳して使ってやった方が
いいと思ったのさ、どっちにしろ、其処のデブはエロ親父もあまり
気が進まなかったみたいだし、何より、爺が本当のカモを探し
充てたみてえだから、この国での収集ももう終わりにして逃げる
かなーと思ってたところだっ!お蔭でエキスも大量になったしな!」
ルーゼはそう言い、ジャミルの方を見た。
「おいおい、俺が領主の好みのタイプで、死んだ奥さんに
似てたから暴走したってのかよ、冗談じゃねえぞっ!!」
「プ……」
「……笑うなああああっ!このバカダウドっ!!」
「いた、いたいよおお~、ジャミルぅ~……」
ジャミル、……半泣きでダウドに殴りかかる……。
「二人とも、ケンカしてる場合じゃないでしょっ!領主様は
奥様を亡くされて本当に苦しんでいたのよ、その心の隙に
漬け込むなんて酷過ぎるわっ!!」
「全くじゃ、お嬢さんの言う通りじゃ……、旦那様は洗脳されて
お人が変わってしまわれたとは言え……、人の心の悲しみを
利用するなどと……、あまりにもやる事が汚すぎるわい……」
アイシャの言葉に庭師が同意し、涙するのであった。
いろはは黙って俯き、普段元気なこむぎでさえ言葉を無くす……。
「仕方ねえだろ、この爺は元からロリコンでバカ娘が好きな
変態気質がある心の持ち主だったのさ、おてえが魔術で、ちょいと
背中を押してやったら本性を出したんだろ、お前らも何時までも
こんな変態爺に従う事ねんじゃね?あはははっ!人間て本当にバカ!」
「それでも……、旦那様はこれまで本当に良くやってこられた、
民の幸せの為に……、お前が来る前まではな……、儂はこれまで
通りじゃ、……お前の言う通り、人間誰しもやましい心を持たぬ
人間などおらんよ、儂にだって汚い心はある、……じゃが、旦那様に
対する忠誠心、何も心は変わらんよ……、のう、旦那様……」
「……ケ!やってられるかってのよ、来い、相棒!」
ルーゼは呪文を唱えると、グリフォンの様な外見の怪物を呼び出し、
背中に飛び乗った。
「久しぶりだね、長い事待たせちゃったね、でももう此処は
終わったからさ、次行こう!」
「おいコラ!まだ話は終わってねえぞっ!欲望のエキスとか、
てめえは一体何企んでんだよっ!ちゃんと説明しろっ……!!
そもそもお前はどっから来たんだよっ!!」
ジャミルはルーゼに完全な説明を求めるのだが、ルーゼはもう完全に
その場から逃げる体制万全で話を遮ろうとした。
「うるせーウンコ猿だなっ、お前らに説明する必要はねえんだよ、
後はこのスケベ爺から懺悔話でも話を聞けば?もうおてえが
掛けた洗脳も解けるんじゃね?ま、今度又会えたらそん時に
でも話してやるよ、じゃあな、馬鹿共さん!!早く全員揃って死ね、
バーカ!!」
「……ま、待てっ、ルーゼっ!……ううっ!!」
ルーゼはジャミルが止める間もなく、相棒の怪物と共に瞬く間に
姿を消してしまった……。
「逃げられたかっ、畜生っ……!!何だこの中途半端さはよっ……」
「あ、あそこに倒れてる女の子達のお山があるよっ!!」
「……な、何て事っ!?」
「わーっ!き、きのこの山じゃなくてえーっ!女の子の山ーーっ!?」
「ダウド、落ち着いて……、あれは一体……」
アルベルトも目を見張る。こむぎが指差した方向に沢山の女の子達が
倒れていたのであった。
冒険編27 休息の時間
どうやら、倒れていた女の子の集団はこれまで領主が娶り、
ルーゼにエキスを抜かれた後、放置され、異次元の様な場所に
何年も閉じ込められていたのである。しかも彼女達はこの屋敷に
いた時の記憶を全く覚えていないらしく。
「取りあえず元気で目を覚ましたつー事は、ルーゼに魔術でも
掛けられてそのまま眠らされてたんかな、本人達が覚えて
ねーんじゃ話聞きようがねえけど……」
「皆黙って帰って行くね、何も思い出さない方がその方がいいと
思うけど、それよりも問題はあっちの方だよ、領主さん、今まで
した事、どう謝罪をするんだろう……」
アルベルトはそう言うと、ぞろぞろと戻って行く女子集団と、
倒れている領主とを交互に見つめた。
「旦那様……、取りあえずお背中の治療をせねば……、誰か、誰かーっ!」
「はいっ、お任せ下さいませっ!!」
庭師が一声、廊下に向かって声を掛けると、今まで何処にいたのか、
暫くご無沙汰であったメイド集団がさっと姿を現した。
「背中を骨折しておる様だ、静かに運んでおくれ……」
「了解でございます!!タンカをっ!」
メイドが別のメイドに声を掛け、連係プレイで領主をいそいそと部屋の
外に運び出して行った。
「……ジャミル君も、ユウさん達も……、旦那様もルーゼに術を
掛けられていた手前、自身が行ってきたこれまでの事を覚えているのか、
旦那様に問い質す必要がある、どちらの答えが出ても、旦那様には
君達に謝罪をして償わなければならん、謝って済む問題ではないのだが、
済まないが、もう少しだけこの屋敷に留まっては貰えないだろうか……」
「ああ、元の世界に戻る方法もまだ分かんねえしな、情報が分るまで
此処に置いて貰えんなら助かるけど……」
ジャミルがそう言って他のメンバーを見ると、皆、静かに頷く。
「すまないのう、就寝部屋は後でメイドに案内させよう、ゆっくりして
いっておくれ……」
庭師はそう言い、自分も領主に付きそおうと部屋を後にした。
「はあ~、これでオイラ達も漸く此処で寛げる……、って
事なのかなあ~……」
「冒険もそろそろ終わりなんだね、でも、わたし達のわんだふるな
夏休みはまだまだこれからだよっ!」
「こむぎ、戻ったらまずは夏休みの宿題だよ、……最後に
泣かない為にも……、私は初日にお寺で、持参した宿題を
もう片付けちゃったから……」
いろは、薄ら笑いでこむぎの肩に手を置く。こむぎは大絶叫。
「あ、あっ、ずるーいっ、いろはってばっ!何で声かけて
くんなかったのーっ!!一緒にやろうよーーっ!!一人で
先に宿題やっちゃってずるいっ!」
「だって、お寺で時間が空いてた時、こむぎ殆どグースカ寝てたでしょ、
それに宿題は自分の力でやる物だよ」
「……いいもん、そうだ!分かんない処はまゆに答え教えて
もらっちゃお!」
「めっ、こむぎっ!ズルは無しだよっ!!それに、そんな事したら
ユキちゃんにも怒られるよっ!」
「つくづく大変だね、学生さんはよ、俺らには関係のねえ話だけど……」
ジャミルは苦笑しながらいろはとこむぎを他人事の様に見ているが……。
「いろはちゃん、こむぎちゃん、大切な夏休みを削ってまで今まで
長い間着いて来てくれて本当に有難う、私、凄く感謝してるのよ、
おチビちゃん達にも……、皆が支えてくれて助けてくれたから、私達、
辛い時も頑張れたし、こうして元の身体にも無事に戻る事が出来たんだもの……」
「うんっ、私達も、……すっっごく!楽しかったよ!また一緒に
冒険しようね、アイシャさんっ!」
「わんわん、今度はユキ達も誘って一緒に冒険しよっ、わんわんわんだふる
アドベンチャー!」
と、まあ、此方は女の子同士、和気あいあいとしているが、突然、
アルベルトが思い出した様にジャミルの方を見て、ポンと手を打った。
「そう言えば、……仕置き……、忘れてないよね?」
「……ひいいっ!?」
変なポーズになったままジャミルが凍りついた……。
「今から僕もスリッパ磨いておこう、楽しみだなあ……、うふふふ……」
「……ア、アルったら……、もう……」
「あはは!何か、今日はホントに久しぶりにゆっくり休めそうだよお!」
「ねえ、ダウド、これからこむぎ達と一緒に街にしんちゃん達を迎えに
行こうよっ!」
「え!……えええええ!?」
「そうですね、お爺さんの知り合いのお家の場所を知ってるのは
ダウドさんだけですから、そろそろお迎えに行ってあげないとずっと
待ってるおチビさん達も可哀想ですし……」
「分ったよお~、……とほほのほお~……」
「きゅぴ、チビも一緒に行く!ダウ、ふぁいとお!」
「チビちゃんは、空が飛べるからいいよねえ~……」
「よーしっ、もうひとふんばり、わんだふるごー!ダウドっ!」
「……あはは、元気いいねえ、こむぎちゃんは……」
「あったりまえだよーーっ!!」
鼻から湯気を噴くこむぎに呆れるダウド。これまで散々走り回された
ダウドは、更に、いろは、こむぎ、チビと、もうひとっ走り、街と屋敷を
往復する羽目になったんである。
「ダウド、大丈夫かしら……」
「あいつ普段からさぼって運動不足気味だからな、丁度いいんだよ!」
アイシャが心配する中、ダウドは大急ぎで屋敷の外へと走って行くのであった。
そして、夜、しんのすけ兄妹、ボーちゃん、シロも漸く屋敷へと
招かれ、これでメンバーが全員揃い、ジャミル達は屋敷の食堂で
食事をさせて貰える運びとなった。
「うわ、すんげえ……、ステーキだ……、これ、マジで食っていいのかな……」
「きゅっぴ、きゅっぴ!」
チビもきちんと席に着き、尻尾をパタパタ、嬉しそうである。
「んー?ジャミルおにいさま、お部屋でステーキ出された時、
食べる気しないって言ってませんでしたか?」
「あん時はあん時だよ、今は皆いるからな、へへ……」
「そうですか、ですねえ!ユウも何だか嬉しくなっちゃいました!
あはっ!」
「さあ、こむぎとシロちゃんも、まずは特製クッキーを頂こうねっ!」
「わんわん♪」
「アンっ♪」
食事は久々にクッキーが食べたいとの事で、こむぎは子犬に戻り、
シロと一緒にナンダカンダ家専属シェフ特製のSPわんこクッキー
+最高級ドッグフードを食べさせて貰っており、一杯頑張ってお腹の
空いていたこむぎもシロも実に幸せそうであった。
「ご飯は皆で食べた方が美味しいですものねーーっ、きゃああーー!」
「ふんが、ふんが、ふんががががーーーっ!!」
「お~い、ブウ子……、お前さあ、先にフライングして食ってんじゃねえよ、
このブタっ!!」
……ブウ子にケイが頭部をラリアットする。久しぶりにユウ達、ガールズも
心からの笑顔を見せた。
「怖いゾ……、オラ達も食べられちゃう……」
「ボオ」
「たいい……」
「……ぎゅっぴ……」
暴走食いをするブウ子に脅えてしまい、チビとしんのすけ達が
不安な表情をする。
「皆さん、お待たせしてしまい、申し訳ない……」
車椅子に乗って、庭師に押されながら領主が皆の前に姿を現す。
「今夜は色々話しながらゆっくり寛ごう、どうか硬くならないでおくれ……」
「……ハア……」
痛々しい姿の領主に戸惑いつつも、皆は領主の合図で乾杯を取り、漸く
食事に手を付け始めた。
「しかし、ジャミル君は本当に私の亡くなった妻にそっくりだよ……」
「う、うえ……」
「これは冗談ではないのだよ、儂も奥様と生前お会いしているが、
本当によーく似ておらっしゃるよ、びっくりしたわい、口調も、何でも
ズバズバ物を言い、外見も、キビキビとしたお元気な処ものう……」
「じ、じいさあ~ん、外見もなのかよ、今更かよう……」
ジャミルが困っていると、アルベルトが領主の方を見て、一言口を開いた。
「ジャミルがあなたの奥様に似てるとか、今はそれ処ではないのでは?
僕が聞きたいのは、今まで領主様がやって来た事が今もあなたの頭の片隅に
少しでも残っているのかどうかです……、少しでも謝罪するお気持ちは
あるのですか……?」
「アルっ……!」
「アルベルトお兄さん、も、もちついて、もちついて!」
「アイシャ、しんちゃんも、黙っててくれないか、……大事な事なんだよ……」
「……全て……、とまではいかないが、何となく覚えておる……」
「だ、旦那様っ……!」
「確かに……、ルーゼに操られていたとは言え、儂はとんでもない事を
してしまった、今まで妃にしてきた少女達の大事な時間を奪って
しまったのも儂だ……、正直、どうこれから過ごしていいのか、
儂にも分らぬのだ……」
「アルベルト様、お気持ちは分ります、ですが旦那様もお心は
苦しんでおられるのです、儂も何処まで出来るか分かりませんが……、
これからも共に旦那様を支え、一緒に罪を背負っていく覚悟ですじゃ……」
庭師が丁寧に、そして申し訳なさそうにアルベルトと皆に頭を下げた。
「じい、お前には本当に迷惑を掛けたな、これからもより一層、
共に民の幸せの為に尽くそう、力を貸してくれるか……?」
「もちろんですとも、儂と旦那様は長年の親友でもありますからのう……」
「……分かりました、其所までのお覚悟があるのなら大丈夫そうですね、
では、僕も気を取り直して折角のお夕食を頂きます……、食事は笑顔で
頂きませんと美味しくないですから……」
「お、おい……」
庭師と領主の心からの謝罪の言葉を聞き、アルベルトも態度を
ころっと変え、表情を和らげた。
「腹黒い上に、なんて単純なヤツなんだ……」
「ジャミル、何か言ったかな?ねえ、スリッパで頭叩いていいかな?」
「いてててて!……コラ、め、飯時に止めろよっ!オメーはっ!」
「うん、いろはも結構タンジュンなんだよ!だってね、だってね!」
「……こむぎ、余計な事言わないのっ!……あの、ユウちゃんのお家の
借金の方は……?」
「もちろんだとも、ユウさん、今まで申し訳なかったね……、君はもう、
いつでもお家に帰っていいんだよ、ご両親にも、もう何も心配しない様に
伝えておくれ……」
「は、……はいいいっ!!いろはおねえさま、ありがとうございます!」
「良かったね、ユウちゃん!」
いろはの心遣い、そして領主の心からの本当の優しい笑顔に、
ユウも涙を拭いて笑顔を見せた。
「けど、マジでうめえなあ、うめえなあ、この肉……、うう……」
「ちょっ、何泣いてるのよっ、ジャミルはっ!!」
骨付き肉を囓りながらオーバーリアクションするジャミ公に
困るアイシャ。
「……ホントだよ~、こむぎも、なみだがでぢゃうう~……、だって
わんこだもんっ!わんっ♡」
「全く、こむぎってば……、でも、確かに美味しいねえ~……、
ホントに、ん~っ♡」
こむぎに呆れながらも、いろはも特製ステーキの美味しさに思わず
舌鼓を打ってしまうのだった。
「はあ、全く、本当に進歩ないなあ、ジャミルは……」
「きゅぴきゅぴ!」
「今更始まった事じゃないしね、……オイラはどうでもいいや、
それよりもアル、このフライドチキン食べてみなよ、美味しいよお~!」
「ダウドも、呑気だね……」
「……こんな賑やかで楽しい夜を又過ごせるとは……、本当に
何年ぶりになるのか……、なあ、じい……」
「本当ですのう、旦那様……」
その日の夜、ナンダ・カンダ家では久し振りに明るい笑い声が
響き渡ったのであった。
zokuダチ。セッション33