fairy tale
ちょっと、どいてほしいんだけど。
宝石を手にいれた。
キラキラ光るきれいな宝石を手にいれた。
その宝石は虹色に輝いていて、見るものを引き付ける不思議な輝きを放っていたのだが、少年はその宝石の魅力に気づくことなく、他のことに集中していた。
その少年は、ここではないどこかからやって来た、異国の者として認識されていたのだが、少年はむしろ、自分はこの土地に馴染んでいるとしたり顔になっていた。
路地裏だ。
人気のない路地裏に、その少年は座り込んでいた。
いったい何があったのか、その側を歩いている民衆は全く気にしてなどいない。しかし、少年はそうではないらしく、キョロキョロと盛んに首を動かしていた。
少年の来ている服は、少し他のものたちとは違う。
その服こそが少年を異様な物として際立たせていたのだが、今それどころではない少年は、そんなことを微塵も思っていなかった。
さて、ここで少年について紹介しよう。
名を桐谷将刻という、非常に男らしい名前の少年は、その名に反比例するかのように、臆病者として生まれた。幼稚園のとき、友達の女の子に抱きつかれたとき、思った以上にびっくりしてしまい、お漏らしをしてしまったことは、彼の家の近隣に住んでいるおばさんたちに、ほのぼの話として語り継がれている。小学校の頃は、友達の男の子が、教室でカエルを飼おうと思って、近所の池でカエルを(しかも特大のショクヨウガエルをだ)捕まえてきて、かなり小さな水槽に入れて飼っていた際、逃げないようにと蓋をしていたはずの物が、カエ郎(ショクヨウガエルの名前だ。捕まえてきた友達がつけたのだが、いい趣味とはいえない)が飛び跳ねた瞬間に外れてしまい、その脱走したカエ郎が、不運なことに彼の顔に張り付いた時、腰を抜かしたことも記憶に新しい。幼少の頃からそんな風だったので、友達にはからかわれ、いい青春ライフを送ってきたとは言えないのだが、本人はそれなりに満足していた。将軍のような名前だとよくからかわれ、本人も名前負けしていると思っているのだが、もう慣れてしまったせいか、全くといっていいほど気にしていないのだ。なので、ここで、彼の名前に触れたことは、伏線でも何でもなく、ただ単に、彼の臆病っぷりを紹介したかっただけである。
そんな彼が、警戒心だけは人一倍に備わった彼が、どうしてこんなところにいるのかは、実のところ彼自身も分かっていない。たまたまここにいて、このような状況になっているのだ。もしかしたら、神様に当たる人物くらいは理解しているのかもしれないが、それ以外に、彼の状況を冷静に把握している者はいない。
彼の中にはたくさんのクエスチョンマークが浮かんでは消えを繰り返しているのだが、そんなことをしていても、状況は変わらずに刻々と時間だけが過ぎていった。
残念ながら、彼はあまり頭が良くない。彼には二人の弟がいるのだが、当時の成績と比較したならば、確実に負けている自信がある。いや、もしかしたら、今の状態で比べたとしても、負けてしまっているかもしれない。それは非常に残念だが、残念すぎて涙が出てしまうほど残念だが、彼は逆に、なんてできた弟たちなんだと感激することだろう。
彼の性格を一言で表すと、臆病者のお人好し。
人からものを頼まれると、二重の意味で断れなくなってしまう。
嫌われたらどうしよう、とか。俺がやらなきゃ、誰がやる、とか。そんなことを平気で考えてしまうような人物だ。
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