zokuダチ。セッション32
エピ 123・124・125・126
冒険編20 それぞれのステージ
「嬢ちゃん達、どうするんだい?泣いて助けを呼んで
お兄ちゃん達呼んでみるかい?呼んでも誰も助けになんか
来ねえけどな、あーゲスゲス!弱者を甚振るのは楽しいなあ~」
ゲスは刃物を持ちながら、もう片方の手で鼻糞をほじくると、
鼻糞を床に捨てた。
「大ジョーブだよっ!……おじさんみたいなイジワルガルガル
おじさんにわたしたちは絶対に負けないよっ!」
「……そう言う事ですっ!女の子だからって甘くみたら
ダメですよ!しんちゃん、ボーちゃん、ひまちゃんと
シロちゃんをお願い、すぐに終わらせるから、守ってあげてね!」
「……いろはちゃん……、こむぎちゃんも……、気を付けるんだゾ……」
「やい~……」
「クゥ~ン……」
「むり、しちゃ、だめだ、よ……」
こむぎはおぶっていたひまわりを兄のしんのすけに預けると
いろはと一緒に子供達を守る様に正面に立ち、ゲスを強く見返す……。
「げへへ、だから何だあ?てめえらみてえな弱ええ糞共に
何が出来るってんだい?言ってみろ、オラっ!」
「いくよ、こむぎっ!」
「うんっ!」
「「……せーのっ!ワンダフルWおしりぱーんちっ!」」
いろはとこむぎは後ろを向くと、揃っておしりを突き出し、
思い切り力を込めておしりでゲスを突き飛ばす。案外凄い力の
気合いの入ったパンチの様で……、食らったゲスは勢いで吹っ飛び
そのまま床にぶっ倒れた。
「ゲスゲスゲス……、ゲ……」
「やったねっ!おじさんたおれちゃったよっ!わたしたちの
おしりってすごいんだあ~!えへへ!」
「お、おおお……」
「ボ……」
「アンっ!」
「…こむぎってば……、あはは、ちょっとしたテレビでの
見様見真似だったんだけどね、成功しちゃった……、さあ、
今の内に逃げよう、早くジャミルさん達の処へ……」
「……お前ら、大人をバカにしてんのか……、本気で逃げられると、
思った……?……この野郎っ!!」
「あっ!?」
「いろはーーっ!!」
ゲスは転倒状態から、素早く起き上がるといろはの背後に立ち、
彼女が動けない様、片方の手で身体を押さえ付け拘束、怒りを込め、
もう片方の手で首元に光らせた刃物を近づけるのだった。
「……ふざけてんじゃねえぞ、舐めるんじゃねえと
忠告した筈だがね!?」
「やめてっ!大好きないろはをイジメたらゆるさないっ!
……どうしてイジワルばっかりするのっ!」
「おい、待てや、てめえ、余分な事すんじゃねえぞ、この
お嬢ちゃんがどうなっても構わねえのならよ……、俺は
殺し屋さんだからよ、相手が女だろうが、子供だろうが
殺しちまう事に何の抵抗も感情もねえんだぜ?そうか、
テメエ、あん時の糞小娘か、丁度いいや、今、たっぷり
仕返ししてやる、大事な奴だか何だかしらんがテメエの
目の前でこいつをたっぷりと痛めつけて苛めてやるよ……、
公開処刑……、倍返し……だ」
「……こむぎ……、は、早く逃げてっ!私は大丈夫だからっ!」
「そんなことできるわけないよっ!おねがい、いろはをはなしてっ!」
ゲスは今にも泣き出しそうなこむぎの方を見てニヤニヤ笑いながら
片手で拘束しているいろはの身体に力を込める。そして、もう片方の
手にもった刃物を首筋にちらつかせ脅す行為を見せつける……。
「……いろはああぁーーっ!」
「こむぎ、だ、大丈夫だよ……、私、まけ、ない……よ……」
「いろはちゃん達に何するんだーーっ!オラ怒ったゾおおーーっ!!
「……いか、り、ます、ボオオオーー!!」
「キャンっ!キャインっ!!」
「……だ、駄目……、しんちゃん、ボーちゃ……、来ちゃだ……、
う、あう……」
余りにも残忍で卑劣なゲスの行動に遂に、しんのすけ、ボーちゃん達が
ブチ切れ、ゲスに飛び掛かろうとしてしまうのだが……。
「ふざけてんじゃねえぞ、糞ガキーーっ!!」
「お?……おおおーーっ!?」
「ボオオオーっ!?」
「キャイイーーンっ!!」
ゲスは一旦いろはを突き飛ばし、解放するが今度はアイアンクローで
しんのすけの顔面を掴むと、しんのすけを振り回し強くほおり投げる。
……投げられたしんのすけは後ろにいたボーちゃん、シロ、そして、
こむぎにぶつかり、大変な事に……。
「……み、みんなっ!大変っ!こむぎっ!」
「いろはああ~……、ケガ、してない……?」
「私は大丈夫だよ!……こむぎ……」
「いろは……、ひっく……」
抱き合い、お互いの無事を確かめ合ういろはとこむぎ……。だが、
ゲスはそんな余裕さえも与えてはくれなかった。
「糞ガキめがあ~、何処まで舐め腐ってんだよ、この最高に
どエライゲス様をよ……」
「ごめんだゾ、いろはちゃん、こむぎちゃん……」
「ボオ~……」
「……みんなもっ!大丈夫っ!?……ひまちゃんっ!?」
「お……、ひ、ひまーっ!?」
「ゲへへ、ざまあみろ、俺はその気になれば女だろうが、
コドモだろうが、ウンコだろうが、容赦しねえって言ってんだよ、
おお、……丁度いいのがいたか、……よし、赤ん坊の方を先に
ブッ殺してくれる……」
ゲスは血走った目を光らせ、今度はひまわりの方をギロリと睨み、
のしのしと近づいて行った……。
「ひまちゃん……、だ、駄目……、た、助けなきゃ、でも、身体が
痛くて……、動けない……」
「……びえええーーっ!!」
「いい加減、ふざけんのはよそうや、おじさんはな、……もう
ブチ切れてんだよ、限界なんだよ、ヘッ……」
「おこってるのはこっちだよっ!も、もう……!こうなったらわたしがっ!」
「ううう、こむぎちゃん、お願い、オラをあの人に向けて思いっきり
ほおりなげてっ!早くっ!」
「……何言ってるの!そんな事出来るわけないよっ!」
「オラを信じてーっ!お願いーっ!早くしないとひまが危ないよーーっ!!」
「ボオ!ぼ、ぼ、くも!」
ボーちゃんも一緒に自分を投げる様に申し出る。ゲスは刃物を片手に
泣いて脅えているひまわりにどんどん迫る。
「分ったよ!……しんちゃん、ボーちゃん、……いくよおーっ!
……ええええーーいっ!!」
「おおおーーっ!!秘儀!生ケツ!おならぶりぶりスペシャルーーっ!!」
「ボオオオーーっ!!」
ゲスがひまわりに向け、刃物を振り下ろそうとした瞬間の出来事だった。
こむぎに投げ飛ばされたしんのすけとボーちゃんはくるくる回転しながら
ケツから生屁をゲスに向け放出し、体当たりする。
「ぐっ……、うおおおおおーーーっ!?」
石頭のしんのすけとボーちゃん、見事にゲスにぶつかり、加えて
W生屁の臭さでゲスはその場に崩れ落ち、完全に気絶するのであった。
「……あうい~、びえええ~っ!!」
「……ひまああーーっ!!よしよし、無事で良かったゾ……」
ひまわりは泣きながらしんのすけに飛び付くのであった。
「……しんちゃん、ひまちゃん、シロちゃん、ボーちゃんっ!」
「おお、いろはちゃんも!だいじょぶかだゾ!」
漸く復活したいろは。急いで子供達に駆け寄ると3人とシロを
ぎゅっとハグした。
「無事で良かったよっ!しんちゃん、偉かったね!流石ひまちゃんの
お兄ちゃん!ボーちゃんもシロちゃんもひまちゃんを守ってくれて
ありがとうっ!」
いろはは身体の痛みも忘れ、しんのすけ達を思わずぎゅっと
ハグしたまま暫くその場から動けないでいた
「うん、いろはちゃんも偉かったゾ、……よく耐えたんだゾ……」
「ボオ」
「……アンっ!クゥゥ~……」
「みんなもすごかったよ、ホントに……、ひま、ありがとね……」
「たいい~……」
ひまわりもこむぎの頭をそっと優しくナデナデするのであった。
「……いろはのバカっ!わたし、心配したんだからね……、いろはに
何かあったらって思ったら……、ひっく~……、うわああ~~んっ!!」
「ごめんね、こむぎ……、でも、こむぎも無事で本当に良かった……」
「いろは……、いろは……、大好き……」
こむぎはいろはの首っ玉に飛び付くといろはも思い切りハグする。
あんな恐い人と真っ向から対峙したのは初めてだったが、お互い
ケガも無く無事だった事に心から安心し、こむぎ、彼女のぬくもりを
感じながらお互いの絆を確かめ合った。
「よしっ、もう少しだね、大きなお騒がせお兄さん達を助けて皆で
一緒に帰ろう!」
「うんっ!」
「ねえ、ところで……、コワイこのおじさん……、どうするの……?」
「そ、そっか、どうしよう……」
「ガルガルおじさん……、こまったねえ~……」
ゲスはしんのすけとボーちゃんの捨て身の体当たり+生屁で、
気絶させられているものの……、目を覚ましたら再び追い掛けて
来て襲い掛かってくる恐れがある……。
「……隊長っ、大丈夫でありま……、ああああ!?」
「……追っ手のおじさん達!」
「ダメだよっ!……もうこれ以上……!」
ゲスを追って、下級兵士達も屋敷まで追い付いたのであった。
こむぎは身構え、いろはは再びしんのすけ達を抱きしめ強く庇った。
「隊長……、これはもしかして、お前らがやったのか?冗談だよな……?」
下級兵士たちは揃って皆目を丸くし、信じられんと言った表情で
気絶しているゲスといろは達を交互に不思議そうにじろじろ眺めた。
「……俺たちもこいつに悩まされていたんだよ……」
「ど、どういう事ですか……?」
下級兵士の1人が顔を曇らせ、いろは達に話始める。数十年前、この屋敷の
主が豹変した事実を。
主は十数年前に伴侶を失い、失望仕掛けた後、その後に屋敷に訪れ、
秘書を申し出たルーゼ、彼女が来てから主は我を失い、どんどん
おかしい行動に出る様になり、……そして、ゲスもこの屋敷の主を
護衛する為の用心棒としてこの屋敷に駐在した事、しかし……、
その後ますます事はおかしくなっていった。
「ゲスは本当に卑劣で屑なヤツだった、旦那様も何でこんな奴を
屋敷に招き入れたのか俺達は本当に理解出来なかったよ、ゲスは
表向きはこの屋敷と旦那様の護衛をしていたが、……俺達の部隊の
隊長として兵も取り仕切っていた、それは過酷な物だったさ……、
気に入らなければ部下に八つ当たり、殴る蹴るは当り前、この数十年間、
俺達も耐えていたんだよ……、苦しい年月だった……」
「そうですね……、こんな小さな子達にまで平気で手を出そうと……、
心が悲しい人……、なんですね……」
いろはは倒れたままのゲスを哀れみながら子供達をそっと抱擁する。
「なあ、お嬢さん達、こいつの後処理は俺達に任せてくれないか?」
「えっ?」
「俺達が時間を稼いで、又こいつを何処か遠くに捨ててくる、
その間にお嬢さん達も遠くに逃げな、ハア……、何でこんな
とこに迷いこんじまったのか知らねえけどな、気を付けてくれよ……」
「私達にはまだやらなければいけない事があるんです、だから此処まで
来ました!お屋敷でバラバラになった友達を助けなくちゃ!こんな小さな
子達だって頑張ってるんですから!危険は覚悟しています、最後まで
頑張ります!」
「わんわんっ!」
……しかし、ゲスはもはや凶暴な猛獣扱いであった。
「覚悟……、とは?」
いろは達も自分達がこの世界に来たこれまでの経緯を兵士達に話す。
結果的に此処の屋敷の領主を救えるかもしれない事にも繋がった事も
話すと、兵士達は身体を震わせ床にがばっと膝をつき、いろは達にひれ伏す。
「……あ、あのっ、お、おじさん達、顔を上げて下さい!私達、そんなに
大した事は出来てないんですから……」
「いいや、俺達にも出来る事があるんだ、協力する!皆、急いでゲスを
運べっ!目を覚まさない内に!出来るだけ遠くへ!!」
「頼んだぞ、お嬢さん達!」
「はいっ、任せて下さい!」
下級兵士達は図体のでかいゲスを数人で担ぐと大慌てで屋敷の外まで
走って行った。
「それにしても、ゲスとかいうおじさん、おやしきでもみんなの
嫌われ者だったんだね、、いじわるばっかりするからだよっ!いろは、
わたし達も早くジャミル達をおいかけよう!おじさん達ががんばって
くれてる間に!みんなで一緒にね!」
「ブ・ラジャー!」
「たいやっ!」
「ボオー!」
「アンっ、アンっ!」
「よおーし!まいごのジャミルたちさがしパート2、しゅっぱつうー!
わんだふるー!」
「はりきって皆で行こう!」
そして、いろは達と引き離されたジャミル達は、迷路の様な広い屋敷で
いろは達の身を案じてはいたが、慣れない場所で下手に動きまわれば
迷子になる可能性もある訳で、返って危険である。かといって、
いろは達をこのまま頬っておく訳にもいかず、焦って立ち尽くして
いると……、アルベルトが躊躇しているジャミルを励ます様に
声を掛けた。
「ジャミル、僕らは先に進まなくちゃいけない、庭師のお爺さんも
早く助けないと……、不安で心配なのは僕も同じさ、でも大丈夫、
いろはちゃん達ならきっと……、必ず此処まで来てくれる、信じよう……」
どっちみちこのまま立ち止まっていても自分達が動かなければ誰も
助けられない。もう庭師にも時間が残されていないだろう。ジャミルは
漸く頷き、アルベルトに返事を返した。
「アル、分ったよ、いろは達を信じよう、前に進まなくちゃな……」
ジャミル達は不安に駆られつつも、いろはとこむぎのガッツを信じ、
だだっ広い廊下の先を走って行った……。
「チビ、なんかニオイ感じるか…?」
「きゅぴ、あそこ……」
「……下に降りる階段があるよお!」
「地下牢への階段なのかな……」
「くんくん、くんくん、この先、お爺さんの匂いする……」
チビが階段の側を飛び回り、更に匂いを嗅ぎ始めた。
「よし、二手に別れるか!チビ、この先から爺さんの気配がするのは
間違いないんだな?」
「きゅぴっ!うん!」
「……じゃあ、俺とチビはアイシャ達を助けに行く、アル達は
地下牢の方へ回ってくれ!」
「分った!僕らも庭師さんを助けたら必ず合流するよ!」
「……ジャミル達も気を付けて……」
「ああ、頼んだぜ、アル、ダウド!行くぞ、チビっ!」
「きゅっぴ!」
ジャミルとチビが走って行くのを見届けた後、アルベルトとダウドも
地下牢への階段を降りて行った。
「ダウド、この先、まだ何があるか分からないから、君に武器を
渡しておくよ」
「ぶ、武器って、これ……」
アルベルトがダウドに渡したのは……。
「スリッパじゃないかあ……」
「僕らはこの話では一般人の設定だからね、高度な武器を持つ事は
許されない、大丈夫だよ、使いこなせばスリッパも立派な武器になるよ!」
……そりゃ、アンタは普段からそれでジャミルを突っ込みで
バシバシ叩いてる訳だし、使いこなしてるから武器にはなるだろうよと
ダウドは思った。
「でも、アルはどうするのさ?」
「大丈夫、護衛用にシフに貰ったんだ、ほら!」
アルベルトは下げていたカバンから小型の竹刀を取り出し、
ダウドに見せた。
「剣道の試合かい……、まあ、とにかく行かなくちゃね、話が
終わんないよお……」
「よし、行こうっ!」
アルベルトとダウドも庭師救出に向け、地下牢目指して走り出すのだった。
冒険編21 爺さん救助
「……つ、疲れたよお~、この階段一体いつまで……、
目がまわる~……」
「ダウド、皆頑張ってるんだよ、僕らも頑張らないと!」
「ひいい~、勘弁してええ~……」
漸く、長い階段を降り終え、かび臭い地下へと2人は降り立つ。
「はあ、漸く着いた……」
「急ごう、此処の地下牢の何処かに庭師のお爺さんが
監禁されてる筈……、ダウド、どうしたの……?」
ダウドが急にムーンウォーク状態で後ろに下がり始めた。
「何してるんだい、こんな時に……」
「だって……、牢屋の中にもしも骸骨とあったら……」
「そんなの○ラ○エ時代に慣れてるだろっ!今更っ、あーもうっ!」
再び始まったダウドのヘタレ病にキレたアルベルト、ダウドを
無理矢理引っ張って奥へと連れて行った。
「……ひいいい~……」
2人は一つ一つ、庭師がいないか牢屋の中を確認しながら
慎重に歩いて行く。
「……や、やっぱりもう処刑……」
「ダウドっ!いい加減に……」
突然、アルベルトの声が急に止まり、アルベルトが前方を向いたまま
急に動かなくなってしまい、ダウドが慌てる……。
「アル、どうしたのさ!あ、……あああ……」
「おい、小僧ども、此処は立ち入り禁止区域だ、誰が許可した?」
鉄球を持ったいかつい数人の男が行く手を塞ぎ、アルベルトと
ダウドを睨んでいた……。
「ひ、……ひいいい~っ!!」
いつもの如く脅えるダウドを尻目に、アルベルトはすっと
男達の前に出る。
「お前達は相当頑固な奴らの様だな、其処をどいてくれ、
どかない場合は僕らが相手をさせて貰う……」
「ぼ、僕らって、やっぱりオイラも入ってるのねえ~、とほほ~……」
「相手をさせて貰うだと?こいつはおもしれえ!面白すぎで、
ケツから糞がはみ出ちまう!」
「ガハハハハ!」
「わはははは!」
恐らく、こいつらもエリート兵士である。だが、ジャミル達に屈した
良心あるエリート兵達とは違い、此方は君主に絶対的命令を誓う
厄介な部類の方であった。兵達はアルベルトとダウドを馬鹿にした様に
わざとらしくゲラゲラ笑った。
「……仕方がない、では、いざ参るっ!」
「ア、アルっ!!」
「……おあ?」
アルベルトは言うが早いか、竹刀を構え、兵達の前で
ジャンプすると、いつものトロイ動作とは打って変わった
素早い動きで頭部を思い切り叩いた。
「……こ、この野郎っ!」
アルベルトを完全に舐めて掛かっていた兵士どもは動揺するが、
彼は微動だにせず次々と、兵士達を竹刀で叩きまくり気絶させていった。
「うわあ、凄いや!アル!よしっ、オイラもっ……!!
……ええーいっ!」
アルベルトに感化され、勇気が出たのか、ダウドもスリッパで
パシパシパシパシパシ……、兵の頭を叩きまくった。
「ぐあああああっ……!!」
「ひ?泡吹いて痙攣しちゃったよおお!あわわわ!!」
「うん、君に渡したのは新タイプの鉛入りだからね、重くないかい?」
「……鉛って、そう言われれば、何となく……、てか、アル、これで
ジャミル叩く気だったの?」
「何で叩こうが死なないから、ジャミルは、多分こいつらも大丈夫だよ、
……っと、油断してる暇はないっ!」
トークを始めようとした2人の処へ、又新たなごつい兵が
襲い掛かってくるが、咄嗟にアルベルトも竹刀で兵の頭部を
叩き、即座に気絶させた。
「さあ、行こう、時間はないよっ!」
「ひええええ~っ!!」
2人は襲い掛かってくる兵を蹴散らしながら、庭師が捕まっている
牢屋を更に探す。
「あ、あそこでこの階は行き止まりだよお、それに牢屋も後残り
二つみたいだ……」
ダウドが正面を向いて立ち止まり、アルベルトも立ち止まって
息を飲み込み、呼吸を落ち着け整えた……。
「落ち着こう、ダウド……、大丈夫だよ、行こう……、
庭師さん、どうかご無事で……」
「うん……」
2人は残った二つの牢屋を覗き込む。すると……。
「おや?お前さん達は……」
「お爺さんっ……!!庭師のお爺さんですね!?」
「うむ、そうじゃが……」
左側の牢屋の中に、両手に鎖を繋がれたままの状態の庭師が
閉じ込められていたのである。
「……無事だった……、良かったよお~……」
「僕達はジャミルの仲間です、あなたを助けに参りました、
安心して下さい!まずは此処から逃げないと……!!」
庭師は最初、おっかなびっくりな表情をしていたが、ジャミル……、
の、言葉を聞くと安心した様に笑みを浮かべた。
「こんな処まで来てくれるとはのう、流石あの坊やの仲間じゃ、
感謝するよ……」
「……でも、アル、牢屋の鍵が……」
「大丈夫、お爺さん、ちょっと下がっていて下さい、ダウド、
スリッパを……」
「うん…、はい…」
ダウドがアルベルトにスリッパを手渡すと、アルベルトはスリッパで
鍵を思い切り叩き始めるのであった……。
……パンッ、パンッ、パンッ、パンッ!!
「あ、鍵が壊れた!」
「ふう~、これで大丈夫だ……」
「しかし、器用な人だねえ~、まあいいけど……」
「お爺さん、大丈夫でしたか、お怪我はありませんか!?」
「ああ、儂は大丈夫だよ、本当に有難うよ、坊や達……」
「いえ、でも……、この手の鎖はどうしたら……」
「本当だよお、全く酷い事するよお!」
アルベルトとダウドはとにかく一旦庭師を連れ、地下を出る事にした。
漸く、長い階段を登り終え元の通路へと戻って来る。
「はあ~、階段嫌い……、て、アルどうしたのさ、その顔……」
「いや、何かおかしいかなあ……、と……」
「ええええ~……?」
アルベルトがこういう表情をする時は、決まって何か考えて
もやもやしている状態である。
「上手く行き過ぎかなあ、何だか嫌な予感がするんだよ」
「そんな事言ったってえ~……」
「アルベルトさ~ん、ダウドさ~ん、いましたーっ!」
「やっとまた会えたねえ~!」
「ほほーい!」
いろはとこむぎが子供達を連れ、此方に向かって走って来る。
「よかったあー!みんな無事だったんだっ!」
ダウドがいろは達に手を振ると、アルベルトも険しい表情をいったん止め、
彼女達達の方を見る。
「……大丈夫だったかい?怪我はしてないかい!?」
「ええ、大変だっだけど、みんなで力を併せて危機を乗り越えられました、
そっちもお爺さんを無事に救出出来たみたいですね……、良かった……」
「……おお~、お嬢さん達もジャミルさんのお友達ですか、
本当に有難う……」
庭師も手に鎖を繋がれたままの状態でいろは達にぺこりと頭を下げた。
「……でもっ!おじいさん、おててにクサリがっ!早く外さないとっ!
ひどいよっ、今外してあげるからねっ!う、うう~ん!」
「……こむぎ、ちょっと無理だよ、簡単には外れない様になってる、
本当に酷い事をするんだね……」
こむぎが無理に鎖を引っ張って外そうとするが、無理である……。
「今はお爺さんを安全な場所に護衛しないと……、ダウド、
君の役目だ、お爺さんを街の安全な場所まで送り届けて
護ってくれるかい?」
「ええ?オイラ一人で……、う~、分ったよ……」
「確かに、街には儂の長年の友人の家が在る、何とか其処まで行ければ……」
「わ、分りました……、気弱なオイラですがどうにか何とか
護衛しますので、お爺さん、お知り合いのお家の場所を教えて下さい……」
「分った、坊や、宜しく頼むな……」
「じゃあ……、しんちゃん達もダウドと一緒に付いて行くんだよ……」
「……ええ~っ!?」
「やいやい!」
「ボォーー!」
「アンっ!?」
アルベルトの言葉にしんのすけ達は反抗し始めるが……。
「ええーじゃないっ!もう此処から先は本当に危険なんだ!大丈夫、
ちゃんと戻って来るから、約束するよ……」
「しんちゃん達、いい子で待っていて、絶対にジャミルさん達と
一緒に皆の所に戻るから、必ずね!」
「分ったゾ、そのかわり、いろはちゃん達も無理しちゃ駄目なんだゾ……」
「たいやい……」
「ボ……」
「クゥ~……」
「ぜったい迎えに行くからねっ!はい、やくそく、ゆびきりげんまんっ!」
こむぎはそう言い、ニカっと笑うと子供達の手を強く握った。
「じゃあ、ダウド……、君にも又負担掛けちゃうけど、お爺さん達を頼むよ……」
「分ったよ、……アル達も気を付けてね、お爺さん、行きましょう、
暫く大変ですけど、何とか走れますか?しんちゃん達も……」
「儂は大丈夫だ、身体はこの通り鍛えておる、坊や達も気を付けてのう、
じゃが、ルーゼは何をしてくるか本当に分からん、卑劣な奴だ、
どうかご無事で……」
ダウドは、ひまわりを背中に背負うと庭師としんのすけ達を連れ、
一目散にダッシュで屋敷の外まで走り出した……。
「さて、僕らもジャミルを助太刀に行かないと!行こう、二人とも!」
「よおーし、私も最後まで頑張るぞーっ!」
「いっくわーんっ!」
そして、ジャミル達も捕らわれのアイシャを探し屋敷内の廊下を
只管走り捲っていた。
「チビ、何か匂いを感じるか!?」
「……ぴ!前から誰か来るきゅぴ!?」
「!?あ、……ユウっ!!」
「ぴいいーっ!!」
ジャミル達の前に立ち塞がったのは、紛れも無く、ユウであった……。
「ユウ、無事だったのかっ!」
「……ぴいっ!ジャミル駄目っ!!ユウちゃん、お顔が真っ青だよお!」
急いでユウに駆け寄ろうとしたジャミルをチビが引っ張って阻止した。
「チビ!何す……」
「ぎゅぴいいい……」
チビがジャミルの前に立ち、ユウを威嚇する……。
「……旦那様、……ルーゼ様……、私はお二人に生涯を誓う者……、
何者でも邪魔する事……、叶わぬ……」
「そんな……、ユウ……、お前まで洗脳されちまったってのかよ……」
……目の前の現実にジャミルはただ、どうする事も出来ずに
絶望に打ちひしがれるのであった。
冒険編22 ブウ子乱舞
「なあ、ユウ……、俺だよ、ジャミルだよ……、分らないのか?
お願いだから……、元に戻ってくれよ、なあ……」
「……知らない、私はあなたなんか知らない、私はルーゼ様と旦那様に
忠誠を誓うだけ、この命尽き果てるまで……、それが私の使命だから……」
「ユウっ!!」
ジャミルが必死に呼びかけるが、ユウは目にも輝きが無くなっており、
今は唯の操り人形と化していた……。
「さっさと、やってしまいましょう、ユウ、そうよ、私達は使命を
果たすのみ……」
「了解……」
「ぴいっ!!お姉ちゃん達っ!!」
「……ケイっ!マフミっ!お前ら……、アイシャを一体何処へ
連れてったんだよっ!!」
ユウの横からケイとマフミも虚ろな表情で姿を現す。マフミはもはや、
語尾に変な口癖をつけて燥いで喋らなくもなっていた。
「私達、洗脳ガールズ……、あなたも私達の可愛さで
洗脳ドッキューン、愛のウッフン・アッハンパワーで
あなたも、もう私達の虜、洗脳ピンク、ユウ……」
「……洗脳ブルー、ケイ……」
「……洗脳イエロー、マフミ……」
「はああ!?」
「……ブウ子がいなくて良かった、だって、いたら彼女はメンバーに
入れないもの……」
「ブスだし……、餃子とキムチ臭いし……」
「デブだし……、メンバー不可……」
ユウの言葉に、ケイとマフミが頷く。例え洗脳されていても、
どことなく抜けている彼女達にジャミルは何となく安心感を覚えた。
「と、そんな場合じゃねえ……、チビ、何とかなんねえか?
洗脳の解けるブレスとか、吐けねえかな……?」
「そんなのないよお、無理きゅぴ……、ぴい……」
「ちっ、駄目かっ……!……お?」
ジャミルが舌打ちをする……、と、同時に屋敷に突如謎の
地響きが響き渡った。
「な、何っ!?」
「……きゃあ~っ!!何だかお屋敷が揺れていますーーっ!
きゃーきゃー!!きゃああーーっ!!きゃああーーっ!!」
「……やべえ、俺が舌打ちしたからかな……」
「……違うと思うきゅぴ、それよりジャミル、今一瞬マフミお姉ちゃんが
元に戻ったみたい!いつものきゃーーきゃーーって言ったよお!」
「チビ、……お前も大分ツッコミが上手くなったな……、てか、
本当だ!俺も見た!」
「うん!」
「……お前ら、……私が何だと?」
ズシンズシンと言う重い音と共に現れたのは、帰った筈のブウ子であった。
「……うわ、また出た……」
「ぎゅっぴ!!」
「あ、あんたっ!何でまた……、う、ひゃあああっ!?」
ブウ子は無言でケイの身体をむんずと両腕で強く掴み、ぐきっと
サバ折状態にした。
「言え、私に内緒でお前ら何を食う気だったんだっ!?言え、言わないと
この身体を真っ二つに本当に折ってやるっ!!フンっ!!」
「……あ、あべええええ~……」
ケイはブウ子に身体を押さえつけられたまま、動く事が出来ず
コロッと気絶する。チビはどうしてもブウ子が怖い様で、脅えて
ジャミルの後ろに隠れてしまった……。
「やめなさいーーっ、このっ……」
「うるせーこの野郎!邪魔だっ!」
「……ぎゃんっ!!」
ブウ子、近づいて来たマフミを片手で張り飛ばし、マフミはふっ飛ばされ、
近くの壁に衝突した……。
「この私に黙って、食い物を食おうとするからだっ!ふんっ!」
「……無茶苦茶なヤツだなあ~、それよか、おいっ、マフミっ、マフミっ!!」
「うう~ん、きゃああ~……」
「ジャミル、マフミお姉ちゃん、きゃあーって言ってるから
洗脳が解けたのかなあ?」
「どうだかなあ……、おい、お前もだ、ブタ……、ブウ子っ!
ちょっと来いや!」
「何だっ!?私は今、機嫌が悪いっ!気安くよぶなっ!!」
「……どうもすみません……、あのう……、お願いが
あるんですが……、こ、この2人を何処か安全な場所に
運んで、監視というか……、見守っていて頂けないで
しょうか、こ、事が済むまでの間なんですけど……」
ブウ子には流石の毒舌ジャミルもたじたじで、鳥肌を
立たせながら終始敬語になってしまうのであった。
「嫌だね、何で私がそんな事しなくちゃならないんだっ!!
フンっ!!」
ブウ子は怒りまくり、鼻の穴をフンカフンカ広げ、アップで
ジャミルに迫る。
「このブタ……、い、いや、お願いします、事を争いますので、
お願いします……」
「ブウ、……そうだなあ……、うな丼10杯で手を打ってやる、どうだ?」
「んだとっ!?このデブめ、調子に乗りやがって……、うな丼なんか
俺が食いたいぐらいだっ!!」
「ジャミルっ、駄目だよおっ!お姉ちゃん達に又邪魔されたら
アイシャを助けに行くのがどんどん遅くなっちゃう!!」
チビに必死で説得され、我に返った様にジャミルがはっとした。
「……アイシャ……、そうだ、アイシャを助けなきゃ!分ったよ、
うな丼でも何でも食わせてやる、但しちゃんと事が済んでからだ、
いいな!?」
「交渉成立だ、本当は10杯なんか足りなくて困るけどな、お前は
金が無さそうだ、私は心が広いから我慢してやる、ありがたく思え、
よし、こいつらはうな丼だ……」
ブウ子は気絶しているケイとマフミを嬉しそうにひょいっと担いだ。
金が無さそうと言われたのが癪に障ったのかジャミルはそれを
不満そうな表情で見つめた。
「おい、あのチビはいいのかよ?」
「……チビ?」
「ぎゅ、ぎゅぴっ!?」
チビは一瞬、ぎょっとするが、ブウ子はどうやらユウの事を
指している様である。
「……あ、忘れてたっ!ユウっ!!」
「はあ……、もう洗脳ガールズは解散なのね、お早い事だわ……」
ユウはふわりと宙に浮かび上がると、空中から遠目でジャミル達の方を見た。
「……私は屈しないわ、何があっても……、ルーゼ様に
この事は報告します……」
「ユウ……、なあ、俺、信じてるから……、お前はそんな子じゃ
ないってさ……、元の優しいユウに戻ってくれるって……、
信じてるよ……」
「……お、に……い……、さ……ま……、ユ……ウ……は……」
「ユウ……?」
「きゅぴ!ジャミル、ユウちゃんが!」
「ユウっ!!」
(……そいつらはあなたを騙そうとしているの、罠にはまるんじゃ
ないのよ……)
「……あ、う……、……わ、私は……、あなたなんか知らない、
大嫌い……」
ユウは一瞬元に戻り掛けるが、何者かに妨害され再び表情から
生気が無くなった。
(あなただけでいいわ、一旦こっちへ戻って来なさい、……早く……、
旦那様もお待ちよ……)
「……分りました、ルーゼ様、今、参ります……」
「くそっ!やっぱりっ、ルーゼの奴かっ!!」
「……ぎゅぴいっ!!」
「……」
ユウはジャミル達の方を一瞬見たが虚ろな表情をし、再びその場から
姿を消した。
「く、逃げられたか、畜生!アイシャ、ユウ、待ってろよ、二人とも
絶対助けに行く……」
ジャミルは拳を震わせながらユウが消えた天井を睨んだ。
「じゃあ、こいつらは私が見ているぞ、うな丼忘れんなよ!」
「分ったよっ!早く行ってくれっ!!」
ブウ子は、ケイとマフミを抱え、バカ力で壁に大穴を開け、破壊する。
……其処からのしのしと、外へと出て行った……。
「また戻ってくんじゃねえだろうな、戻ってくんなよ……、頼むから……」
ケイとマフミの洗脳はまだ解けていないかも知れないが、それでも今は
丁度気絶してくれている彼女達の監視をブウ子に頼む他はなかった。
「おーい、ジャミルーっ、チビーっ!」
「ジャミルも見~つけたっ!」
「や、やっと……、ジャミルさんにも又お会いできましたねえ~……」
「アル、いろは、こむぎ……」
アルベルト達が漸くジャミル達と合流した。ジャミルは先程の
経緯を話し、一方のアルベルトの方も無事に庭師を救出し、ダウドに
託した事もジャミルに話した。
「後はルーゼの野郎をとっちめて、アイシャとユウを助けるだけだ、
チビ、頼むぜ、引き続きアイシャ達の匂いを感じ取ってくれよ……」
「きゅぴ、チビに任せて!」
……いよいよ、相当長かった冒険編も今度こそクライマックスの流れへ……。
冒険編23 真実
一方、謎の部屋に閉じ込められたアイシャは、特に
拘束もされず、唯、椅子に只管座らされ、ルーゼに
睨まれ監視されているだけの状態であった。
「ねえ、私……、何時までこうしていればいいの?お願い、
……もう皆の所に帰して……」
「うるさいわね、あなたなんか本当は用はないのよ、旦那様が
本当に必要としているのは……、漸くそれが分ったのだから、
大きな前進だわよ……」
「な、何ですって……?」
アイシャがルーゼに問い質そうとした瞬間、領主がゆっくりと
アイシャに近寄って来た。
「……そう、もっと早く気づくべきであった、君は唯の囮だ……」
「……何を言っているのかさっぱり分からないわ……」
「分らなくてもいいのだよ、フフ……」
「!?」
領主はアイシャの顔を見て、ニヤリと口を半開きにし、
不気味な笑みを見せた。
「旦那様……、ルーゼ様……」
「……ユウちゃん!」
其処にユウが部屋に姿を現し、戻って来た。
「遅いじゃないの、何をしていたの、遊びであなたに
力を与えた訳ではないの、……もっとしっかり働きなさいっ!
この糞ゴミめっ!!」
「あっ……」
ルーゼは思い切りユウにビンタをし、忽ちユウの片頬が
真っ赤に腫上る。
「申し訳ございません、……旦那様、ルーゼ様……」
「……ユウちゃんっ、酷いわっ、なんて事するのっ!
ユウちゃんを操った上に変な能力まで与えて!もう
いい加減にしなさいよっ!!」
アイシャは咄嗟に椅子から離れ、ユウを庇う。だがユウは
それを拒否し、逆にアイシャの手をぴしゃりと叩き、
強く振り払った。
「……ユウちゃん?」
「うるさい、あなたには関係ない、私が悪いの、私の使命は
旦那様とルーゼ様に死ぬまで尽くす事なのだから……」
「小娘、余計な事するんじゃないのよっ!あんたは大人しく
椅子に座ってればいいんだよっ!……来いっ!」
「……痛っ、は、放してっ、痛いっ……!!」
ルーゼはアイシャの手を掴むと更に冷酷な態度を見せ始め、
アイシャの身体をヒールで蹴飛ばすと再び椅子へと突き飛ばした。
「……生意気な小娘がっ!!」
(……ジャミル、皆……、お願い……、早く助けに来て……、
私……、もう……)
「ぴ?」
皆の先頭に立ち、ふよふよと飛んでいたチビが立ち止まった……。
「チビ、どうしたんだ……?」
「アイシャの匂いがする、……この近くから……」
「感じるんだね、アイシャの気を……」
「うん、でも……、何だかアイシャからとっても悲しい
気持ちを感じるよお、……アイシャ泣いてる!」
「……んだとお!?まさかルーゼの奴っ!!アイシャに
何かしやがったんじゃねえだろうなっ!!」
「……ジャミルさん、どうか落ち着いて……、焦りは禁物ですよ……」
「アイシャ、もうすぐ皆で助けに行くよっ、あともう少しだよ!」
「手遅れにならない内に急ごう、チビ、アイシャの部屋に!」
「きゅぴっ!こっち!!」
ジャミル、アルベルト、いろは、こむぎの4人はチビに付いて行き、
アイシャの捕まっている部屋へと急ぐのだが……。
「あら、お喜びなさいな、あなたのナイト様達が来たんじゃ
ないのかしら?」
急にルーゼが部屋の外の方を見、一瞬険しい表情を見せ、何か気配を
感じ取った様子であった。
「……ジャミル達が?近くに来てるのっ!?」
アイシャは思わず椅子から身を乗り出し、歓喜の声を上げた。
「あらあら、随分と……、まるで本当にヒロイン気取りね……」
「……べーっだ!アンタなんかすぐジャミルがやっつけて
くれるんだからねっ!」
アイシャは椅子から降りると部屋のドアをガンガン叩き、
ありったけの大声を出す。
「ところで気になっていたのだけれど、あなたに最初に名前を
聞いた時はアイシャって言ったけれど……、ゲスがボコられた時、
ゲスに向かってあなたの連れのチビドラゴンが、あなたの事を
ジャミルを何処へ連れてったのかと聞いていたそうじゃない、
それに、元々俺は女じゃないとも言っていたわね、気になって
仕方が無かったのよ、どう言う事かそろそろ説明して貰おうかしら、
それに急に性格が豹変した事も……」
しかし、ルーゼに構わずアイシャは必死で部屋のドアを叩き続けた。
「……ジャミルーっ!みんなーっ!私は此処よーっ!早く助けてっ、
お願いっ!!」
「無視ね、聞いてないわね、まあ今更いいわ……、だって……、ね……」
ルーゼはクスリと笑うと領主の方を見、領主も葉巻を
口に銜えながら頷いた。
「今、確かにアイシャの声がしたぞ!」
「僕も微かに聞こえた……」
「で、でもこれ以上、もう道がないよっ!」
こむぎの言う通り、もう通路は道が無く、行き止まりになっていた。
「……この糞屋敷の事だ、何処かに何かある筈なんだっ!どっかにい~っ!!」
「ジャミル、この先の行き止まりの通路から凄くアイシャの
匂いがする、アイシャの気を感じるよお……」
「何いっ!?チビ、やっぱりかっ!んなろお、糞仕掛けなんか
しやがって!皆、アイシャはこの先だ、行くぞっ!!」
ジャミルが真っ先に行き止まりの通路に突っ込んで行き、
その後に、アルベルト達、チビも続く……。
「もういい加減にしなさいっ!早く戻るのよっ!本当に
ギャーギャーと糞猿みたいにうるさいわね!」
ルーゼは再びアイシャの腕を強く掴み、椅子に戻そうとする。
「嫌っ!あっち行ってっ!!来ないでっ!!」
「!?こ、このガキ……、よくも私の手に噛み付いたわね……、
私の丹念に手入れした美しい手に……、許さないわ、
美しさの為なら毎日のマニキュアもネイルも欠かせない、
そのバラの様な私の手に……、旦那様……」
ルーゼはアイシャに噛み付かれた手を摩りながら怒りに満ちた
剣幕で領主の方を見た。
「ふむ、もう構わないだろう、彼女はもう間もなく用済みに
なるかも知れぬのだから、ルーゼ、君の好きな様にしてやりなさい……」
「そう言う事よ、ふふ、旦那様の許可が出たわ、これからお前を
お仕置きしてやる、覚悟しなさいな……、半殺しにしても
構わないと言う事なのよ……」
ルーゼがアイシャにつかつかと詰め寄り、アイシャは壁際に
追い詰められ絶体絶命に陥った……。
「ぎゅっぴいいいーーっ!!」
「……な、何なのっ!?これは……」
「チビちゃんっ!!」
チビがブレスを吐きながら部屋の壁をブチ壊し突っ込んで来る。
その後にはジャミル達の姿もあった。漸くジャミル達が
アイシャを救出に来たのだった……。
「ジャミル!……アル、いろはちゃん、こむぎちゃんっ!!」
「く、くそっ、小癪な!まあいいわ、仕置きは終りね、
仕方ないわ、旦那様……」
ルーゼは一旦アイシャから離れると髪を掻き上げながら
領主の側へと近寄って行く。
「アイシャっ!ごめんな、遅くなっちまって……、でも、
間に合って良かった……」
「ううん、大丈夫だよ……、恐かったけど、私、きっと皆が
助けに来てくれるの信じてたよ……」
「アイシャ、本当によく頑張ったね、もう何も心配しなくていいんだよ、
庭師のお爺さんも無事助けたよ、しんちゃん達も一緒に、安全な場所へと
ダウドに託して連れて行って貰ったんだ……」
「アイシャ!助けに来たよっ!全部終わって無事に帰ったら
みんなでワンダフルおいわいパーティしようっ!」
「こむぎは本当にノーテンキだねえ、でも、本当に無事で良かった、
アイシャさん……」
「アル、いろはちゃん、こむぎちゃん……、有難う……、最後まで
心配掛けてばっかりで本当にごめんなさい……」
アイシャは2人に支えられ抱擁されながら、涙を拭き、皆の顔を
一人一人見つめるのだった……。
「あらあら、皆さま、お仲が宜しくて、もう何もかもが
終わった様な騒ぎね……」
「……ルーゼっ!てめえっ!!」
「びいいいっ!!」
いつでもブレスを吹ける体制でチビが護衛する様に皆の前に立つ。
「来たわね、ドラゴンちゃん、威勢のいい事、いいわ、あなたは
事が済んだら旦那様のペットにいいかしらね、後はもう要らないわね、
……坊やを除いて……」
「ぎゅぴ!?」
「……ぼ、坊や……?」
坊やと言うと、この場にはジャミルとアルベルトしかいない。
2人は顔を見合わせきょとんとした……。
「……漸く会えた、私の妻よ……」
急に領主がのっそりと動きだし、真っ直ぐに怪しい視線を向けた。
その相手は……。
「え、……えええええ?……お、俺っ!?」
「……ジャミルっ!?」
「そうだよ、ジャミル君……、君こそが私が長い間
探し求めていた妃なのだ、やはり君ともう一度
向き合えた事でそれが確信出来た……」
「……此処まで来てえええーっ!何でこういう変な展開に
なるんだああーーっ!!」
「……感じる、あの時、あの娘、アイシャから感じていた心を……、
やはり今は君から微かに感じる……、実に不思議だ……」
……果たして、領主はホモだったのか、本当に変態なのか、
真実は如何に、次回に続く……。
zokuダチ。セッション32