安サラリーマンの独り言

安サラリーマンの独り言

 「どうしたことだろう」
勇介は、つぶやいていた。 昨夜の深酒のせいか。 しかし、どう考え見ても、二日酔いではあるが、隣にすやすやと寝息をたたえて熟睡しているのは二十歳そこそこの、随分と可愛らしい女の子である。ホテルの一室だがラブホテルではなく、こじゃれたシティホテルの一部屋。

勇介は懸命に昨夜の記憶を辿る。

そうだ、確か勇介がめったに行くことなど、およびもつかぬ 中洲のクラブに行って、その帰りに、カラオケスナックに立ち寄ったのだ。最初に行ったそのクラブは、30前後のしたたかな中洲のプロ魂、全開のおねえさんばかりが、ひしめいてたんだ。その中にこの子がぽつんと居て所在なさげな雰囲気をかもし出していたんだ。

「なんでこんな事になったんだろう」
又、勇介は呟いた。

彼は九州は博多の生まれで、ハッキリ言えば
ふうたいの上がらぬ中年の安サラリーマンである。会社も中小企業の部類に入る、当然
給料もたいしたこと無い。絵に描いたような安サラリーマンである。

今まで浮気などには憧れてはいるものの、その勇気も無く、何より、先立つものが無い。
会社は福岡市内だが、ようやく生き延びているような企業とも呼べぬ会社である。

その彼が、めったに無い接待を受け初めてに近いクラブに行き、そこで新人の女の子に出会い、その日のうちにホテルへ。

「こんな上手い話なんかあるだろうか、何か
とんでも無い事に引き込まれんでは」そう思うと二日酔いも一気に醒めてきた。

家族にばれたら、どうしよう!、会社に怒鳴り込まれたらどうしよう。

喉の渇きは二日酔いのせいばかりではなくなった。「そうだ、今お金は?」
唯一のブランド物の財布を除けば、旅費を清算したなけなしの一万円札が二枚。
「この部屋のホテル代は足りるだろか」
後悔と今の状況に焦る勇介だった。

「おはよう、勇ちゃん」


いつのまにか起き出していた、その子がパッチリとまなこで、笑顔で

その瞬間、思い出した。
そうだ、この子は二十歳で、昨夜は、最初のクラブでのおとなしさは何処にと、言わんばかりの勢いで強いアルコールが好きみたいで、テキーラをストレートで飲んでいたんだ。


そして、俺は止めときゃいいのに、スケベ心出して、酔わせて口説こうとか思っていたんだ。酒の勢いとは怖いもので、何と小心者の俺が、この子を連れてホテルに着たんだ。

そして、このこの名前は、えーっと

確か・・・確か真央ちゃんだ!


しかし、ベッドの上でシーツをくるまって
眩しいばかりの笑顔のこの子は、いったい
誰なんだ。


どういう子で、やくざとか、ややこしい男とか、まさか、このこの父親が出てくることなんか、無いよな

今まで女性とは、独身時代はそれなりに付き合った経験はあるものの、まさか、三十歳も違う子と、一夜を共にするとは。


今の安サラリーマンの勇介には到底考えられない

それに、mさか、まさかの 初対面だぜ
有り得ない。

さすがに、自分の立場が見えてきた勇介は、
喉の渇きに耐えかねて、冷蔵庫から水をとろうとして、たまがった。


何と、一本5百円もするのだ。

「勇ちゃん、私にもいただけません?」」

無邪気な笑顔で、そう言って一本取り出した
何と、水だけで1千円もなる。

昼飯食ってお釣りくるやんか

しかし、ここは見栄はって、「水でいいの」

「あー、それならアクエリアス頂戴」
なんと、一本 せんえん、千円するやんか!

シャワー浴びて、彼女がシャワー出てくるのを待つ間に、フロントにアウトの時間と宿泊料金を確認。何とか足りそうだ


この場は、取りあえずホテルを出て、この子をタクシーに乗せて、何とかお帰りいただこう。

 時間は十一時になり、すんなりとチェックアウトか、「勇ちゃん、私少しお化粧するわ。待ってていただけません、髪の毛乾かさなくちゃ、いいでしょう」

又、にっこりと・・


駄目だと言える訳も無く、待つことに

しかし、ここで勇介は大変な事に気がついた
この子は、随分髪の毛が多く長い。

たいした時間では無いとたかくっていたが
何と一持間以上も待たされる羽目に

「なんと、又延長料金取られるのか」
びびりながら、フロントへ

「追加は」と 蚊の鳴くような声で
「当ホテルのチェックアウトは、12時ございます」

フロントの兄ちゃんの声が、天使の呟きのように。


しかし、若作りの勇介も、さすがに今時の流行の渋谷の015で買ったような
格好の子娘とは、歴然と違和感がある

周囲の援助交際の親父みたいな視線をかんじつつ急いでホテルを後にした

五月とはいえ、既に九州は蒸し暑く日差しは結構強い

昨夜の事には、触れず「かえろうかね」と声をかける

良かった、今日が日曜日で
何とか家には、会社の寄り合いで、社内の奴らと朝まで飲んで、帰れそうになかったから
後輩のワンルームに泊ったと誤魔化そう

「暑いのね、私いつもお店があるから、お昼で歩いた事ないのよ。おまけに未だ眠いし、
チャペココに行きましょう」
屈託無い笑顔で、話しかけてくる

なんと、未だ帰れんのか、おまけにチャペココだと 行ったこと無いが、話は聞いたことあるさ、お洒落なホテル、言うなれば今風のラブホテル  か


か、 かんべんしてくれよ


ほんと、勇介は泣きたくなった

しかし、ここで冷たい態度取ったら
何と言われるか、まだ 相手の正体は判ってないのだ

「ねえ、勇ちゃん、タクシーに乗りましょうよ」
「いいよ」


やはり、上手い話など無いのだ

ひかかったのか、
軽い、遊びのつもりが
自分の前に暗雲が漂ってくるのを感じる

しかし、良く考えれば、昨夜は酔ってたし
何なかったんじゃ ないかな

少しでも、じぶんに都合良く考える勇介

タクシーから。
「恥ずかしいな」 思わず呟く

「平気よ、誰も人の事きにしてないわ」

今度は、フロントでなく、ホテルの一階で
沢山の若者達が、平気で待っている

こちらなんかには、見向きもせずに

堂々と、シートに腰掛けて待ってる
俺らの時代とは違うな

フロントが無くなり、タッチパネルで部屋を操作して入る間も、悪いことしてるみたいに
周囲を気兼ねしていたのに

「勇ちゃん、この部屋にしましょよ」
どこまでも、おおらか、笑顔が眩しい真央ちゃんである。
なんか、行くとこまで行けばいいや


続く

安サラリーマンの独り言