1-Bハ最高ッ!~1-Bの一員で、本当によかった。~

はい、初稿です。中1の時のクラスメートをモデルにしてて、実際あったことをもとにして書いた小説です。

プロローグ~僕らが出会った日~

 パシャ!
 カメラのシャッター音が鳴った。本作の主人公、高宮羽実のマンション自慢の銅像、ライオンの横で。
「恥ずかしいよっ、こんなところで写真撮って」
「なわけないでしょーが。人が見てたら絶対おめでとうって言ってくれるよ」
「うちのマンションの前が嫌なんだよ!!」
羽実はまっさらの制服を着ている。なんてったって今日は入学式だ。
中学受験で第1志望だったHS学園に入学するのだ。すがすがしい気分のはずなのだが、今日の羽実は気が重い。
「さっ、車に乗るよ・・・ってあんたっ!!なんでそんな格好なのよっ!?」
「へっ?」
母はちゃんとした式にふさわしい服装だが、父は・・・。
「へっ?じゃないわよっ!ジーパンてどういうこと!?くつも!それにノーネクタイってどういうことですかっ!?」
「他にもいるでしょ」
「いるわけないやろっ!!早く着替えといで!」
父はマンションの中へかけこんでいった。
「あぁ、あきれた」
母はため息をついた。
「羽実、どうした?」
「ちょっと気が重い・・・」
「なんで?」
「だって・・・はーちゃんとかいないし」
「あぁ、遥月ちゃんは公立だからね」
羽実は私立、小学校のときの親友の綿貫遥月たちは公立だから、一緒に通えることはできない。まだ羽実にさびしさが残っていた。
「でも、新しい友達つくっちゃえば、さびしさもなくなるよ」
「そうかな?」
「そうよ」
話してるうちに父が帰ってきた。
「んじゃ、行きますか」
「うん」
羽実は少しずつ気が軽くなっていった。
 HS学園に着いた羽実は自分の名前を探した。
「B組か・・・」
いつのまにいた父がつぶやいた。
「あ、本当だ。・・・って知ってる人一人もいない!?」
本当にハッピーな学校生活が送れるのかなぁ?羽実はそう思いながら学校に入った。
 教室に着くと、ほとんどの人がもう座っていた。この人たちが・・・クラスメート、1-Bの一員なんだ。
 担任は宮城朋美先生、副担任は倉本修先生。
 こうして1-Bスクールライフが始まった。
 羽実はわくわくし始めていた。

ここで、1-B29人の名前を紹介しよう。

1.井原弘平(いはらこうへい)
2.宇都宮博貴(うつのみやひろき)
3.大川礼央(おおかわれお)
4.垣本亮太(かきもとりょうた)
5.木村次郎(きむらじろう)
6.国立優(くにたちゆう)
7.栗井成(くりいじょう)
8.坂本虹也(さかもとこうや)
9.渋谷秀一(しぶたにひでかず)
10.釈玲(しゃくれい)
11.鈴木大輔(すずきだいすけ)
12.中川大雅(なかがわたいが)
13.菱川祥太(ひしかわしょうた)
14.堀本太一(ほりもとたいち)
15.湯川太郎(ゆがわたろう)
16.米山薫(よねやまかおる)

17.一矢友美(いちやゆみ)
18.内原莉奈(うちはらりな)
19.近江彩葉(おうみいろは)
20.黒澤優花(くろさわゆか)
21.小西瑞希(こにしみずき)
22.杉山恵麻(すぎやまえま)
23.高宮羽実(たかみやうみ)
24.遠山可恋(とおやまかれん)
25.平高里依(ひらたかりい)
26.堀口佳奈(ほりぐちかな)
27.山田歌音(やまだかのん)
28.由佐琉香(ゆさるか)
29.横山七依(よこやまなない)

4月~合宿、真夜中のガールズトーク~

 入学式の次の日、羽実は机にかばんを置いた。今の教室にはほとんど人がいない。きっと、他の教室に行ったのだろう。
「「うーちゃぁん!!」」
「あやちゃん、のんちゃん!」
河本絢、川口希は羽実と同じ塾である。絢と希はD組だ。
「新しい友達できた?」
「まだだよ。知ってる人がいなくてさぁ!!」
「そうかぁ」
「友達つくりがんばってね」
「うん、そっちもね」
 絢たちと別れた後、羽実は席に着いた。前はいないけどその前は本を読んでいる。そういえば、あの子は都会から来たらしい。だからすることがないのかな?
 いつもなら話しかけられて友達になるが、今回は勇気を出して・・・。
 羽実は自然と席を立っていた。1歩ずつゆっくりと歩いて、羽実はその女の子の肩に手をおいた。
「ねえ、友達に・・・なってくれる?」
キッとしていた目つきが変わり、女の子はにっこりとした。
「うん!」
「よかったぁ!あのね、知ってる子がそんなにいなくてさぁ!!」
「うちもーっ!!」
「えーっと、名前は・・・」
羽実は1-Bのクラスメートたちの名前が書かれている後ろの黒板を見た。
「こにし・・・みずきちゃん?」
「そうそう、・・・たかみや・・・うみちゃんね」
新しい友達にとてもうれしくなっていた。
 羽実は数日のうちに1-B女子全員と話せるようになっていた。でも、さすがに男子とはまだである。
 そうやって日がたつうちに男子としゃべられるきっかけができる行事がやってきた。
 合宿である。
 今日は班決めだ。みなさん、うきうきしちゃってます。もちろん、羽実も。
 くじ引きで決めることになり、羽実は取った紙を広げた。
「D、ですか・・・」
羽実は前にいた恵麻という人に話しかけた。
「アルファベット何?」
「C。羽実ちゃんは?」
「D。」
「そうかぁ、ちがうね」
その時、先生がアルファベットごとに集まれと言った。
 羽実のまわりには6人の顔。
「あぁっ、るっちゃん、一緒!!」
「やったー!」
羽実と一緒の班の女子は優花と琉香だった。
 先生が羽実に紙を渡した。メンバーと役割を書くようだった。
「とりあえず、名前書きますか」
「そうだね。ねぇ君、名前書いていってよ」
「あぁ、うん」
羽実は隣にいた男子に紙を渡した。
 回った時、羽実は一人ずつ名前を読んだ。
「井原弘平、宇都宮博貴、渋谷秀一、菱川祥太、黒澤優花、由佐琉香、高宮羽実・・・。じゃ、役割決________」
「俺、班長やけんっ!!」
羽実の声をかき消すように渋谷が叫んだ。
「はぁ?俺がなるんやし!」
「じゃんけんほいっ。よっしゃ、俺や!!高宮、俺に◎しとって」
「あ、うん」
羽実は渋谷の名前の横に◎をつけた。じゃんけんに負けた宇都宮がへこんでいた。
「私たちは私たちで副班長決めますか」
「そうだね」
「ここは、学級委員の優花ちゃんが・・・」
「えーっ?菱川くんだって学級委員なのに班長じゃないじゃん」
「そうだけど、たよりになるし」
「もうここは単純にじゃんけんでいこうよ」
「わかった。じゃーんけーんほいっ」
じゃんけんの結果、副班長になったのは・・・羽実さんでした。
「ってことで羽実ちゃんに決定ー!!」
琉香は羽実の名前の横に○をつけた。
「なんでこういうときに負けるんかな?」
羽実はぶつぶつとそんなことを言いながら役割決めを進めていた。
 でもですね、後々羽実さんはわかってくるんだけど、することないんですよ、楽なんです。
 うるさい渋谷と宇都宮、陰が薄すぎる井原、まじめな菱川・・・。どんな班なんでしょうか。ある意味羽実は楽しみにしていた。
 次に、先生は寝室メンバーを決めた。羽実のルームメイトは優花と琉香、それに恵麻と瑞希と歌音だった。
「よろしくねーっ!!」
のちに、羽実たちはベッドでガールズトークをエンジョイすることになる。

 一週間たって、合宿がやってきた。目的地に着いたHS学園の1年生たちは部屋に荷物を置きに行った。
「「「わぁー!!」」」
こんなスペシャルな合宿なんてなくない?羽実たちの部屋は豪華なベッドが6つ。ふわっふわのふとんなのだ。
「きもちいー!!」
「寝ころんだらそのまま寝ちゃいそうだよ」
「HS学園もすごいものだ」
その時、宮城先生がやってきた。
「でしょ?」
「うわぁ!・・・なんだ、宮城先生か」
「私、一年生の合宿に来るの初めてなの。なんか、楽しそうだね」
「そうですねっ♪」
倉本先生も入ってきた。
「「「うぎゃあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」」」
羽実たちは女子の部屋にノックもなく入ってきた男教師に引いた様子。
「おい、そのリアクションなんだよ。宮城先生とだいぶちがうやないか!」
「急に入ってきたらそりゃびっくりしますよ、おさむ先生っ」
「あぁ、そうか。・・・てかおいっ!俺はおさむじゃねえやいっ!!しゅう先生やで!!」
完全にいじられキャラの倉本修。
「あっ宮城先生。星山先生がお呼びです」
「そうですか、なら行かないと」
「お前らもそろそろ授業始まるからあまりのんびりするなよ。いくら豪華なベッドでもな」
「「「はぁい」」」
羽実たちは勉強道具を持って集会室へ移動した。

 夕食後の授業が始まろうとしていた。しかし、羽実は勉強道具を夕食前の教室に忘れたので取りに行っていた。
 その時、話し声が聞こえた。
「あの声は・・・」
同じクラスの坂本と垣本だ。実は羽実さん、坂本のこと気になっているのですw
 羽実は聞き耳を立てた。
「あぁ、おなかいっぱいだ。なのに忘れ物するなんて会談のぼらなきゃいけないからツイてない・・・」
垣本も羽実と同じで忘れ物を取りに来たようだ。羽実には気づかずに黙々と準備物を出している。坂本は垣本の付き添いのようだ。
「ツイてないのはこっちだよ。俺は垣本の1.25倍ぐらいは食べたんだぞ。おなかいっぱいったらない」
「それはおかわりした虹也が悪い」
「はぁ?おかわりなんてしてないし。俺は一矢のを食べてやったんだ」
一矢・・・。一矢って、友美!?坂本、友美のステーキ食べてあげたの?!
 授業3分前になっていた。急がなくちゃ!

 消灯時間5分前になった。
「ふあーあ。もう1日目終了か」
「てか、明日には帰るよね」
「こんな気持ちいいベッドで寝るの今日だけか。なんか嫌だ」
その時、先生が顔を出した。
「もう消灯時間ですよ。寝なさーい」
先生は電気を消して部屋を出た。
「ねぇ・・・起きてる?」
 羽実を起こしたのは隣にいた歌音だった。
「起きてるよ。他に誰か起きてる?」
「はい」
「はい」
反応したのは瑞希と琉香。
「ということは優花ちゃんと恵麻ちゃんは寝てるのか」
「今からガールズトークしない?」
「いいね!」
「でも起こさないようにしなきゃ」
「うん」
「ねぇ、今気になる人って誰?」
「えーっ。歌音ちゃんから言って」
「やだぁ。ね、ここはじゃんけんで」
そして、羽実→瑞希→琉香→歌音となった。言い出した張本人一番最後だし、てか、羽実弱すぎ・・・。
「みんな絶対自分の気になる人言うよね?」
「うん」
「じゃあ言うね。私、坂本が気になってんだ」
「あぁ、わかるー!」
「にきびさえなければ」
「坂本って誰が好きなんだろ?」
「友美ちゃんじゃない?」
「羽実ちゃんがなんでそう言うんよ。普通そこは私♡でしょ」
「いや、でも、今日の夕ごはん食べてあげたって言ってたし」
「ええぇーーーーーーーーーーーーー!?」
その声は優花だった。
「・・・起きてたんだ」
「盗み聞き禁止!じゃ、今、優花ちゃんの気になる人言ってください」
「ん?えーとね、私はねぇ」
「うんうん」
羽実たちは目をキラキラさせながら答えを期待した。
「おばけ」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
10秒くらい沈黙ができた。
「あはははっ!!」
歌音が爆笑した。
「静かにっ!」
「だって、だって、おばけって・・・」

瑞希は渋谷、琉香は鈴木、そして歌音は・・・。
「大川くん♡」
「あぁ」
「大川くんかっこよすぎるやろーっ!!思わん!?」
「うん、まぁ」
「大川くんの下の名前なんだっけ?」
「礼央・・・だったっけ」
「そう、礼央!名前も顔もかっこいいよぉー!!」
一応みんな同感しているけど、歌音のペースについていけないようだ。
 なんたって、今は12時だ。恵麻も起こしてしまった。たぶん、歌音の声が大きかったのだろう。でも、話してる羽実たちも悪い。
 これで、6人全員起きている。もっとうるさくなるような・・・。
「大川くん大好き♡♡♡」
歌音暴走。
 そんな12時半くらいの時だった。
ガチャッ
「「「!?」」」
みんなは伏せた。
「誰が起きてるの!?」
学年主任、星山先生だった。
「言いなさい」
「たっ高宮起きてます」
「杉山起きてます」
「起きてます」
「起きてます」
「起きてます」
「全員起きてるんだね。あのね・・・(以下省略)」
星山先生の長い説教があり、出て行った時はみんなベッドの中で眠りこんでいた。

 次の朝、羽実の目が覚めた時、まだ5時だった。起こされる時間まであと1時間もある。まだみんなは寝ている。羽実の目はぱっちりというわけでもなかったので二度寝しようとした。ところが・・・。
ズルッ、ドスン!!
 大きな音がして、みんなは目を覚ました。
「何っ!?」
瑞希はがばっと体を起こした。
「あいたたたた・・・」
「・・・羽実ちゃん?」
「大丈夫?」
「大丈夫大丈夫、ちょっとね、いつもやるから・・・」
羽実はやってしまった。ベッドから落ちたのだ。
「・・・羽実ちゃんて意外と天然?」
羽実は腰をおさえながらベッドに座った。
「ごめん、私が落ちたせいでみんな起こしちゃった」
「ううん、全然いいよ。早く起きた方がいいと思うし」
「んじゃ、顔洗い行こうか」
「「うん」」
部屋にドアの音が響いた。

 あっというまに午後になり、帰る時がやってきた。羽実たちはバスにぞろぞろと乗った。
「きりーつ!きをつけー!れい!!」
「似てるー!!」
一緒に座った羽実と優花は菱川のまねを楽しんでいた。
「ねぇ、優花ちゃんの本当にマシな人って・・・」
「おばけだよ」
「・・・・・・そっか、そうだよね」
結局教えてくれなかった。でも、そうだよな。1-Bにこの人っ!ていう人いないもん。

 次のイベントは5月。
 楽しみだな。

5月~最後は必ず紅が勝つ!~

「1年生はA組とE組は黄組、B組は紅組、C組は青組、D組は緑組です」
これは4月下旬に行われた体育祭の色分けのくじ引き結果だ。
「紅かぁ」
「なんかよくない?体育祭にぴったりじゃん」
「あぁわかる!炎ってやつね」
「・・・いや、太陽」
「どっちだっていいでしょ」
 そして5月になり、部門練習が始まった。1年生は全員応援部門とされている。
「ねぇ、毎日練習行く?」
「行きたいな。私、応援優勝させたいし」
「そうよね。せねて応援は優勝したい!!」
「うんうん、あっ、先輩が呼んでる。行こう!」

「こっから・・・どうするんだっけ?」
「うーん、生徒会長に聞いてみよっか」
「うん。ごめん、1年生、さっきのとこ練習してて」
5年の先輩は走っていった。
「・・・ねぇ、なんで生徒会長なんだろ?」
羽実は瑞希に聞いてみた。
「さあ、わからない」
説明しよう。生徒会長、立川莉久は5-Dであり、紅組応援部門演舞長であるのだ。あ、立川はまた後々出てくるのでお楽しみに☆
「聞いてきたよー!ここはこうするんだって」
練習はまだまだ続く。

「体育祭まであと1週間だからな。今日は通してやってみよう」
演舞長の立川の指示で紅組応援部門は位置に着いた。
「声もっと出せぇー!!!」
 休憩。羽実と瑞希が振付の確認をしていた時、立川がやってきた。
「わからんとこないか?大丈夫か??」
「「はい。」」
「また演舞の練習あるからな。もうそろそろ位置につけよ」
「「えんぶ?」」
「演じるに舞うって書くんぞ。OK?」
「「??」」
「・・・お前らホントに受験したんか?」
羽実と瑞希に笑いがこぼれた。
「したよぉ」
「ちょっと瑞希、生徒会長にタメ!?」
「あっ、わぁー!」
立川は笑うとその場を去った。
「うちらも行こう」

「なぁ、出る競技決めようぜ」
倉本先生が紙を持ってきた。
「体育委員さん、よろしく」
先生は体育委員の坂本に紙を渡した。
「1年が出れる競技は徒競走、学年リレー、色別リレー、玉入れ、綱引き、騎馬戦、・・・まぁ見ればわかる!」
テキトーだな、倉本。
「何出る?」
「個人競技もいいな」
「私は絶対団体競技する」
「あぁ、どれをしよか迷う・・・!!」
出る競技が決まった。羽実は玉入れと綱引きになった。
「瑞希は徒競走出るんかぁ」
「うん」
「陸上部だもんね。リレーもがんばって!」
「ありがとう」
瑞希は笑った。
「七依ちゃんがいるなら1-Bは強いよ!」
「いやいやいや」
あぁ、そういえば、七依は足がとても速い。
「今日も放課後残るよね?」
「うん?」
「とぼけないでよ、羽実。長縄だよ、な・が・な・わ!!」
「あぁ、そうだった」
体育祭には学年競技があって、1年生は長縄をするのだ。
「じゃ、放課後グラウンドにレッツゴー!」

 放課後、羽実たちはグラウンドに集まった。
「じゃあ、はじめようか」
羽実は可恋と縄をまわす人になっていた。
「かけ声って必要だよね」
「普通に数えてみようか」
宮城先生がやってきた。
「がんばってるね。ちょっと成果を見せて」
羽実たちは長縄をはじめた。でも、思うようにいい結果は出せなかった。
「飛び方を変えてみようか」
「ううん、並び方を変えるべきだよ」
「そうだね」
「まず、2列でやってみようか」
でもまだ10回飛べない。
「ななめでやってみようか」
宮城先生が案をだした。
「ぶどう方式ということか」
「飛んでみよう」
すると、新記録がだせた。
「うん!この調子でがんばれ」
1-Bの女子たちは燃えてきた。でも問題はあった。
「先生、男子は練習してますか?」
「あんまり見ない」
「ですよねっ!?男子たち、早く来ないし、部活があるからって練習に出ないんですよ」
「男子と女子の平均だからなぁ、心配・・・」
「男子も負けたくないっていう気持ちはあるはずよ。たぶん、よくわからないんじゃないのかな。そのうち、練習に来ると思うけど」

 日はたち、前日となった。
「結局男子は長縄の練習あまりしなかったね」
「あぁ、長縄ほんと心配」
「紅組の応援集合ー!!」
「あ、行かなきゃ」
 応援の練習が終わりに近づいた。団長の丸山泰斗がみんなに向かって叫んだ。
「優勝めざすぞーーーーーーっ!!!」
「「「おぉーーーーーーーーーーーーーーっ!!」」」
みんなも大声で返した。
「最後の練習終了!明日はがんばろうなっ!!」
丸山はそう言うと去っていった。
「教室に帰ろうか」
「うん。あ、でもウォータークーラー行ってくる。先帰ってて」
「わかった」
羽実はウォータークーラーへ水補給に行った。
 もうみんなは教室に帰っていた。自分も帰ろうとした時、叫び声が聞こえた。
「体育祭なんて大嫌いだっ!!」
同じクラスの釈の声だった。国立も一緒にいる。
「体育祭なんて消えてしまえ!どうせ俺は足手まといなんだよ」
失礼だが、釈はあの体型のせいか運動ができず、体育が嫌いなのだ。
「何言ってんだよ、釈」
「国立なんかにこの気持ちがわかるかよっ!今まで俺のせいで何度俺のチームがドベになってきたか・・・」
「釈、お前・・・」
「黙れ黙れ!!明日は休んでやる。そうしたら紅組は優勝す_____」
「釈っ!!!」
国立のとてつもない声に羽実もびっくりした。
「そんなこと言っちゃだめだよ。自分を責めるなよ。俺はその気持ちがよくわかる」
「嘘だ。この気持ちは誰にもわかりゃしない」
「いや、俺だってそういう気持ちもったこと何回もあるよ。消えてしまえって思ったこともある。でもな、先輩が言ってたんだ。『好きと思おうとすればそんな気持ちはなくなる。嫌いとか苦手とかそういう気持ちで決めつけるからもっと嫌いになるんだ』ってな。俺、そのこと信じたら本当に消えてしまえって思わなくなった。だからさ、釈、体育祭好きになろうぜ。楽しもうぜ!」
「国立・・・」
釈は小柄な国立の肩をつかんだ。
「ありがとう。明日休まない。やってみるよ」
「その意気だ!」
釈と国立は教室へ帰って行った。
「・・・わぁ」
羽実は2人の友情に感動した。
 やっぱり友情ってすごいな。友達を助けることはすてきだ。自分もいつか友達を助けたい。

 体育祭当日となった。前日の長縄の練習は男子も女子も来たが、釈と国立はあの話をしていながらさっさと帰ってしまっていた。
 いいこと話してながらそうするかよ!?
 でも、羽実は紅組にはいいチームワークがあることを信じていた。
「グラウンドに移動したくださーい」
HS学園の生徒たちはグラウンドに集まった。

「うおーっ!はえぇーーーーーーーーー!!」
徒競走で七依がぶっちぎりの1位をとった。さすがだ。
「あっ、瑞希が出るよ!」
「可恋ちゃんも!!」
「えっ、どこどこ?」
「紅と緑が1位多いな」
「あぁ、体育祭ってホント燃えるわー!!」
 1年生の長縄になった。入場曲とともに1年生が登場した。
 きっと男子もやる気を出してくれるだろう。
 しかし、現実は甘かった。男子は10回も飛べなかったのだ。
 息も合っていなかったし回す人のスピードがどんどん速くなってきていた。そんなのじゃ、うまく飛べるはずがない。というか、練習をほとんどしていなかったから飛べないのも当たり前と言ってもいい。
「男子、みっともなー」
「うちらが、挽回しよっか」
しかし、女子ががんばっても男子が悪すぎたので最終的に惨敗だった。
 でも、他の競技でリベンジはできた。
 玉入れで1位をとったり、何より、1年のリレーが最初は最下位だったのを追い上げて1位になったことにみんなが歓声をあげた。

 そして、羽実たちの本当のリベンジがはじまった。
「いいか、ピストルが鳴ったらつっぱしれ。帰る時はとにかく座れ。いいな?」
パアン!
 ピストルが鳴った。紅組の応援が、今はじまる!
 数日前、羽実は聞いてしまっていた。
「紅組の応援ってダサいよね」
「うん、うちのところの方がいいよね」
羽実はそれに闘争心をかきたてていた。
 そして、今、グラウンドに立っている紅組応援団は誰よりも強いと思っていた。
 応援部門は、紅組が優勝してやるんだ!!
 紅組の応援が終了した。羽実はとても達成感があった。
「みんなおつかれ!終わったら、5年からプレゼントがあるから、勝手に帰るなよー」
 羽実は得点板を見た。3位になるかドベになるかで黄組と争っていた。
「やばいね、紅組」
佳奈がつぶやいた。
「でもさ、応援楽しかったよね」
「うん!」
「結果楽しみ」

 午後の部がはじまった。プログラムは順調に終わって、一番盛り上がる競技が始まろうとしていた。
「色別リレーだよ」
「七依ちゃん出るよね」
「早く見たい!」
スタートした。
 1位をダントツで走っているのは七依。
「やっぱ速いな」
「七依ちゃんがんばれーっ!!」
しかし他の人たちも速い。
「あぁっ、抜かれちゃう!」
「ファイトぉー!」
「ぶっつぶせぇー!!」
最終的に、紅組は2位だった。
「おっしいなぁ」
「でもいい試合だったよね」
「おーい、閉会式はじまるぞー」
グループ長の原口達輝が叫んだ。

「結果を発表します」
 どきどきどき・・・。羽実だけじゃない、みんなドキドキしている。
「応援部門優勝、紅組!!」
羽実の心がポッと熱くなった。まわりの人たちとハイタッチ。
「パフォーマンス部門優勝、紅組!」
再び紅組は喜び合う。
「装飾部門優勝、黄組!競技部門優勝、緑組!」
さて、総合優勝の発表だ。
「減点などを含め、このようになりました」
総合得点がはり出された。

紅:1299
青:1243
黄:1134
緑:1359

「ということで、総合優勝は緑組!!」
惜しかった。紅組は60点差で優勝を逃した。
 でも羽実は満足だった。自分の力は出せたのだから。
「これにて、HS体育祭を終了します」

 紅組は記念写真を撮影した。
 終わると、グループ長の原口は言った。
「おつかれ!今日はほんとによかった。俺らからプレゼントだ」
5年の先輩たちは1人1人にポカリスエットを渡していった。
 羽実はもらった冷たいポカリスエットをぎゅっと握った。
「じゃあこれで解散!今日は早く寝てください!!」
 教室に帰ると、みんなには笑顔があった。
 きっと、釈も体育祭が好きになったに違いない。
 羽実たちはこのすばらしい体育祭を忘れないだろう。

6月~雨の季節は恋の季節?~

 羽実は外をのぞいた。
「今日も雨か」
羽実さんたちの町に梅雨がやってきました。
「学校遅れるよー」
「うん、いってきます」
使いなれた傘をさした羽実はバス停まで歩いた。
「羽実、おはよう」
「おはよう」
・・・外の雨がすごい。
「雨、すごいね」
男子は相変わらずふざけまわっている。でも空と同じようにどんよりな人もいる。
「毎日毎日雨、雨、雨!!もうやだー」
「体育が20分間走ばっかり・・・」
「テンション下がるー」
1-B女子たちはそんな話ばかりしている。
 でも、それだけではないようだ。
「えっ、るっちゃん、鈴木のこと好きになったの!?」
「うん・・・声でかいって」
「あっ、ごめん」
「鈴木のどこが好きなの?」
羽実はそこが気になっていた。鈴木のことをあまり知らないがいい男の子と思ったことがない。
「鈴木くんは・・・優しい」
「同感」
「うそぉ?」
「まぁ、人によって好みとか感じ方違うもんね」
「そうだね。私るっちゃん応援する」
「ありがとう」
 そう、梅雨がやってきたと同時に恋もやってきたのだ。
「瑞希は渋谷のこと好きなんでしょ?」
「違うし」
「羽実ちゃんは渋谷のことどう思ってんの?」
「好きじゃないよ」
「「えぇっ!?」」
「だって、うざいじゃん」
琉香と瑞希は顔を見合わせた後、また笑顔に戻る。
「まぁ、人によって好みとか感じ方違うもんね」
「瑞希、また同じこと言ってる」
「・・・そこは気にしないっ!」
チャイムがなった。

 今日の7時間目は自習だった。
「自習なんなら、家に帰らせろよなぁ」
「そうだよな」
男子からその話が聞こえてくる。
「おい、みんな席に着け。自習はじめるぞー」
教卓に座っていた倉本先生が急に教室を出た。
 先生いないから男子席立つだろうな。うるさくなるだろうな。
 しかし、静かだった。ま、この方がいいけど。
 その時だった。小声で「高宮」の声が聞こえる。
「高宮、高宮」
それは羽実の隣の隣にいる・・・。
 渋谷・・・!
 羽実の隣は今日は休みだ。だから、羽実が横を向くと渋谷が見えるのだ。
 羽実は横を向いた。で、渋谷は何をしたかっていうと・・・。
 にっこり微笑んで手を振ったのだ!
どきっ。
 羽実は顔を赤らめながらそっぽを向く。
 どうしたんだ高宮羽実!!そういうキャラの男子好きにならないだろっ!?
 羽実はしばらく誰とも目を合わさなかった。
 あぁ、いつからこういう人になったんだろう。

 ある放課後、羽実は友美と一緒に帰っていた。
 てか、今日も雨・・・。
「1週間に1回ぐらいじゃないかな、晴れるの」
「それはいくらなんでも大げさでしょ」
「だってあまりにも雨ばっかだし」
羽実は口をとがらした。その時、友美の表情が変わった。
「羽実、話がある」
「ん、どした?」
「うち、好きな人できた」
「えっ!!B組?」
「ううん、先輩」
「そうかぁ、なら私は知らないね」
「ううん、知ってる。みんな絶対知ってる」
「ほんと?体育祭と関係があるとか?」
「うん」
羽実は考える。
「まさか、生徒会長だったりして」
「・・・そうだよ」
「えっ、うそっ!?テキトーに言ったんだけど・・・」
「本当だよ」
確かにその顔は正直だった。羽実はうなずいた。
「うん、わかった。私、友美を全力で応援するよ!」
友美の顔がぱぁっと満面の笑顔になった。羽実が男だったら絶対きゅんとする愛くるしい笑顔。
「・・・ところで、生徒会長のどこを好きになったの?」
「おもしろいところとか、応援がかっこよかったとか、で、もっとドキドキしたのはポカリもらった時!うち、立川先輩からもらったんだ。『おつかれ』って渡されたその優しい声と笑顔にどきゅんってした」
「それはよかったね」
「うん!」
「そだ、私ね・・・」
「えぇ!?渋谷のこと・・・」
「違う違う、マシ?になったの。今までうざい印象しかなかったけどね」
「あぁ、羽実は坂本だったっけ」
「坂本もマシな人じゃぁい!!まず好きな人おらん!」
「はいはい」

その夜、羽実は瑞希とメールしていた。
『最近キュンとしたことない?』
『キュン?』
『うちね、電車でいつも会うSN学園の男の子の仕草にキュンてしてもうた♡』
『じゃあ、私の知らない人か』
『残念ながらそうでーす。はい、羽実のキュンとしたことは?』
『えーと、渋谷のことなんだけど・・・』
『そうなんだ!ついに羽実も渋谷にキュンとしたかw』
『・・・はい。でも私好きな人いないから』
『えぇー。中学生になったんだからいい恋しなよー。あっ、そういえば、るーが鈴木に告白するって言ってた。』
『マジ!?』
 恋、ねぇ・・・。
 私も昔は「恋する乙女」だったな。
 毎年1人は好きな人できてて。でも全部告白せずにあきらめて引っ越しいっぱいしてて。
 私ってバカだなぁ。
 次恋するときはすぐあきらめないようにしたい。恋の気持ちを大切にしたい。いい恋したいな。
 そう思った時、別の人からメールが来た。
「花田征耶・・・?」
小学校の時の友達だ。
「花田、どうしたんだろ」
羽実は携帯を開いた。
『テストどうだった?』
「・・・」
それか。
『まだ結果来てない』
羽実はそれだけ打って携帯を閉じた。
 羽実は征耶にサメと呼ばれている。
 近所に住んでいて、5年生の時に引っ越してきた羽実と初めてしゃべったのが征耶である。

「名前何?」
「高宮羽実」
「へぇ。うみねぇ。うみ、海、サメ。そうだ、これからお前のことサメって呼ぶ!」
「はぁあ!?」

 初めてした会話の内容がこれ。
 2年たった今でもサメと呼ばれている。
 当時そのあだ名を嫌がっていたが、今は気にしていない。
 征耶とは話が合うし、テストでもよく競ってきたし、たまに一緒に遊んでたし、中学校が違うが今もこうしてメールしてるし・・・。
 彼といると楽しかったりする。
 彼は、めちゃくちゃ生意気だけど、優しい一面もある。
 羽実、まさか・・・。
「そんなわけない。花田のこと好きじゃ・・・」
って、なんで好きとかってなるのかな。
 ふと羽実は過去を振り返ってみる。
 去年、小学校のフェスティバルで演劇をした。じゃんけんで負けてお姫様役になってしまった。本番の時、征耶はドレスを着た羽実をほめた。その時羽実はドキッとした。そしてドレスに自信がなかったからうれしかった。そのほめた時の彼の声と表情ときたら・・・。
「ないないなーい」
羽実は混乱した気持ちをまぎらわそうとベッドにもぐりこんだ。

 数日後のことだった。琉香が羽実のところへやってきた。
「羽実ちゃん、聞いて!昨日鈴木くんに告白したんだ。でね、OKもらっちゃった!」
「よかったじゃん!!」
「ありがとう!もううれしい・・・」
今思ってみると、琉香は積極的だ。
 友美ももうそろそろ告白大勢に入るのだろうか。
「羽実ちゃんは好きな人できた?」
「ううん」
「そっか。いい恋できたらいいね」
「うん、ありがと」

 ある休み時間でのお話。
「るっちゃん、告白したんだね」
「うん」
「いいなぁ、うちも先輩と・・・」
「友美はまだしないの?」
「うん。最近立川先輩、彼女にふられたらしいから今告白したら困るかなぁって」
「あぁ、そっか。ショックかもしれないしね」
しばらくして、歌音がやってきた。
「何話してるの?」
「なーいーしょっ」
「えぇーなんで?」
「内緒は内緒!じゃあさ、歌音ちゃんの恋バナ教えてよ」
「えっとね、あたし告白された!!」
「かわいいもんねー」
「ふふっ、あたし何回告られただろー」
その言い方は結構気に障る。特に告白されたことがない羽実さんは・・・。
「でね、つきあうことにしたんだぁ」
「へぇ。その人のこと知ってるの?」
「うん、同じ小学校だったから」
「あっ、先生来た!席に着こー」
 羽実は歌音のことを嫌いではないが好きでもない。普通に友達として接しているが、羽実はそう感じていた。
 歌音は目が大きくて小顔で、まさにみんながかわいいという顔立ちだ。誰でも「友達になりたい」とか「話してみたい」とかそう思うだろう。しかし、羽実とは合わないかもしれないのだ。何か嫌な予感がしないこともない。
 それに、歌音の性格からにして嫌われる可能性もある。羽実はそこも心配していた。

「あっ、お姉ちゃん、今日は晴れてるよ」
「うそっ!?ほんとだ!!いってきまーす」
 梅雨の時期も終わりに近づいてきた。それはそれでなんかさびしい。
「今日はどんなことがあるかなっ♪」
空に虹がかかっていた。
「いいことがおこりそうな予感!!」
羽実はスキップしながらバス停へ行った。
「羽実おはよう」
「おはよう、友美」
「何?やけにうれしそうですね」
「今日はいいことがおこりそうな気がしまして☆」
「ふむふむ、いい出会いがありそうでござりますか」
羽実の顔がフッと無表情になった。
「そんなわけないじゃん」
「えー。今日の一矢友美はカンが鋭いよー」
「信じないもん」
「うちら親友じゃん」
「それとこれとは関係ありませーん!」
 羽実の思ういいことは、テストの成績がよかったこととか、席替えとか。でも、羽実の思ういいことはありませんでした。
 今日の放課後はぶすっとした様子。
「虹なんか関係なかった」
「あはは。うちはあったよ。立川先輩と会った♡今は会うだけで超幸せ♡♡」
「それはよかったですね」
「明日も会うかなぁ♡」
「会えるといいね」
「うん!」
ちょうどバスが羽実の降りるバス停に着いた。
「あっ、降りなきゃ。バイバイ」
「バイバーイ!」
 羽実はバスを降りた。
 友美いいなぁ、いいことあって。私なんか結局なかった。家帰ってもめったなことしかいいことないから今日はごく普通の・・・。
「サメ?」
ん?聞き覚えのある声と呼ばれ方。
 なーんか嫌な予感。
 羽実は振り向いた。やっぱりそうだった。
「・・・花田か」
「なんだよ、その言い方はぁ。久しぶりじゃん」
「なんで今日はこっちなの?」
「部活が市民体育館であったんだよ。んで、テスト返された?」
「まだ。気になるのはそこですか」
「いや、別に・・・」
 こういう時嫌だ。
 ついこないだ征耶に関して気持ちが混乱していた。
 そして今会った。会うだけならそれはそれでいいのだが・・・。
 近所なので方向が一緒なんです。だから一緒に帰ってます。
「今日虹がかかってたね」
「うん」
「俺さ、いいことあったんだ。今日フリースローが百発百中で入った」
「そっか、バスケ部だもんね。すごいじゃん」
「で、先輩にほめられてガム1箱分おごってくれた!」
「いいなー」
「サメにも1個あげるよ。はいっ」
「あ・・・ありがとう」
羽実はガムをほおばった。
「私なんかいいことなかったよ。いつもと同じだった」
「でも、それはそれでいいじゃん」
「え?そうかな」
「うん、だって逆に悪いことあったらサメどよーんじゃん。サメの鋭い歯が欠けちゃうよね」
「私は人間ですっ!!」
「はいはい」
話しているうちに分かれ道が近づいてきた。ここで征耶は右に、羽実は左に曲がる。
「そういえば」
「うん?」
急に征耶が立ち止まった。
「それ、制服だよな?」
「そうだよ。それがどうしたの?」
「いや・・・」
征耶は微笑んだ。
「似合ってるなぁって思って。・・・じゃあ、またな」
征耶は手を振って去っていった。思わず羽実も降り返した。
「・・・」
私、花田になんて言われた!?
「似合ってる・・・」
・・・あいつーーーっ!!!
 なんなのあれは!?本音?お世辞?
 中1の男子はたいていの人しかお世辞を言わない。
ドキドキドキ。
「違う!!」
急に羽実は走り出した。
 よく考えたらすごいこと言われてるよ!!すっごい顔真っ赤だ・・・。
 私、あの人にドキドキする人だったっけ?
「今、本当に自分がどんなになってるかわからない・・・」
 征耶は初めて会った時は羽実より背が低かった。生意気なことを言って、羽実を何度も怒らせた。
 その征耶が、今・・・。
 背は羽実よりもずっと高くなってるし、顔立ちや体つきも変わってきている。そして、性格も・・・。

 羽実と征耶のこれからの未来が楽しみだ。

7月~やきもちは必要?~

「昨日の一矢友美のカンは当たってた?鋭かったでしょ??」
「いいや、結局なかったよ」
「そっかぁ、残念」
そんなのは嘘だ。確かに昨日の一矢友美のカンは鋭く当たっていた。
 でも、プライドが高い羽実さんは「当たってたよ」なんて言えないんです。恥ずかしいんです。
 それに、征耶のことをまた思い出したら・・・てか、征耶のこと好きじゃないしっ!!
「羽実、どうしたの?悩みなら聞いてあげるよ」
「大丈夫だよ」
「そっか。そういえば、もうすぐクラスマッチだね」
「本当だ。バレーボールだったよね」
「うん、楽しみ」
体育委員の七依がやってきた。
「クラスマッチのチーム分けしよー」
相談の結果、Aチームに羽実、友美、瑞希、琉香、恵麻、優花、歌音が、Bチームに七依、可恋、莉奈、里依、彩葉がなった。
「Aチームリーダーは優花ちゃん、Bチームリーダーはななってことにしようか」
「そうだね」
「今日体育あるけど、試合できるかな」
「できるでしょ。あと2週間もないんだし」
「試合があることを祈るべし」
しかし、次からみたいだった。
「嘘でしょー。パス練習だけとか」
「まぁ20分間走に比べちゃまだまだマシですよ」
「それに明日からはちゃんと試合だし」
「うん・・・」
 次の日、無事体育に試合が入ってきた。でも最初は・・・。
「パス練習するから2人組つくって打ち合いして」
羽実は移動しようと足を動かした。と、背後から腕をつかまれた。
「友美?一緒にやろうか」
「歌音、ですけど・・・。一緒にやろう」
「あぁごめん、いいよ」
羽実は歌音と組むことになった。その時、誰かから視線を感じた。
「?」
でも見られているのは気のせいのようだった。
「まぁいっか」
 この時の羽実は、事件が起こるということを知る由もなかった。

 放課後、歌音が羽実のところにやってきた。
「一緒に帰ろう」
「あーうん」
 最近、歌音は羽実のところによくやってくる。一緒にいる人がころころ変わったりするのだ。
 また、視線を感じる。
「??」
鈍感な羽実さんは?でいっぱいです。

 クラスマッチ当日になろうとしていた。
「ん?急にどうしたん?2つぐくりで」
「そんな気分なんだ」
クラスマッチってなんかいい響きしない?気合いが入る感じがするんです。だから、いつもはサイドに1つぐくりだけど今日は2つぐくり。
 それをじっと見ていた羽実の妹、麻衣がつぶやく。
「・・・いつもの方がいい。キモい。麻衣の方がずっとかわいい」
「・・・」
それはいいすぎだろ。「キモい」はないだろ!
 羽実は麻衣をにらみつけて家を出た。
「羽実、おはよう」
「歌音ちゃん!?今日はバスなの?」
「そんな気分だったんだ。羽実と行きたいし」
「そっか」
その時、友美を見つけた。こっちをじっと見つめている。
「友美、一人だ。移動しない?」
「えぇー?今日荷物多いからここにいようよ」
「・・・うん」
羽実はしかたなく座った。

 開会式を済ませた羽実たちは競技に移った。
「えっ、3年と?」
「嘘、ベテランじゃん」
「こわいなー。・・・あっ、桃花ー!!一緒に観戦しよう!」
歌音は他のクラスの友達を見つけてその輪から離れた。
 今日はさっきまで歌音とずっと一緒にいた気がする・・・。
 友美がやってきた。
「もうすぐうちらの試合だよ。行こう」
「うん」
羽実たちは試合会場まで歩いていった。
 それにしても・・・相手チームは強かった。惨敗だった。まぁ1年生のクラスマッチはこんなもんだけど。
「あーあ、もう終わっちゃった」
「男子の観戦行くか」
その時、2人の背中を誰かが押した。歌音だ。
「男子のところ行くの?あたしも行く!」
「えっ・・・」
「うん?どうしたの友美?嫌なの??」
「いや、別にそんなんじゃ・・・」
「なら3人で行こっ」
その友美の顔は明らかに不満そうだった。でも歌音は気づいてなさそう。

 男子もボロ負けだった。これにて1-Bの試合はあっという間に終了。
 後は暇すぎる観戦だ。
 羽実は友美、瑞希、琉香としゃべっていた。歌音は他の友達と観戦中。
 彼女のポニーテールがうれしそうに揺れている。と、揺れが止まった。
 歌音は羽実を呼びだした。
「友美呼んで来てくれない?」
羽実はわけがわからないまま友美を呼ぼうとした。今は友美は1人だ。
「友美。歌音ちゃんが呼んでる」
「ん?わかった」
友美は何も知らずに歌音のもとへ。羽実もついていった。
 これから2人に嵐が吹こうとしていた。

 歌音はそのまま友美をどこかに連れていかなかった。羽実が目の前にいるというのに。
 別に重要なことではないのかなと思った時、歌音の口から大声が飛びだした。
「なんかさっきからあたしのことにらんでくるけど、あたしなんかした!?」
意外な言葉に羽実はあ然だった。
「えっ・・・」
「羽実にとられたくないけんってやきもち焼いてるんじゃないの!?」
歌音は友美をキッとにらみつけて去っていった。
「・・・」
「・・・」
友美はそのまま向こうに行ってしまった。
「あっ、友美・・・!!」
羽実はそれを追いかける。友美はうずくまった。
「友美・・・」
異変を感じたのか、瑞希と琉香がやってきた。
「どうしたの?」
「ちょっと、友美が・・・」
羽実は友美の様子をうかがった。友美の顔は伏せたままだった。
「そっとしておいて、話してくれるのを待つか・・・」
「いや、私見たよ。友美がなんでこういう状態なのか。言ってもいい、友美?」
やがて友美がゆっくり顔をあげてうなずいた。目が潤んでいた。
 羽実は友美の代わりにさっきのことを話した。
「そっか・・・」
「歌音ちゃんの方がやきもち焼いてるやろ」
「ちょっと強く言いすぎだよね」
友美が口を開いた。
「うち、に・・・らん・・・っでなん・・・か・・・な・・・っい」
「歌音ちゃんってそんな子よ」
歌音と同じ塾だった琉香が言った。
「塾の時、よく悪口言ってたり手出したりしてて嫌われてた」
羽実は今日のことで歌音の本性がわかったような気がした。
 ようやく落ち着いた友美が言った。
「やきもち焼いてたのはちょっとだけ合ってる」
じゃああの視線は気のせいじゃない、友美だったんだ。
「でも、にらんではないよ」
「歌音ちゃんすごい怒ってたよ。謝るのは友美の方だと思ってるのかな」
「そうだろうね。友美、こういう時は謝らなくてもいいんだよ」
「謝らなきゃいけないと思う」
「自分が悪いと思ってないのに?」
「うん」
「えぇっ、だめだよ、それ」
「そうだよ、私もね・・・」
と、羽実は謝って後悔した過去話をしたのだが、しらけたので省略。
「でも、今日ここで謝らなかったら関係がいろんなことに影響しそうな気がするんだ」
その時、歌音が靴を取りにやってきた。友美を強くにらんだ光景を羽実は確かに見た。
「ね、さっき歌音ちゃんうちをにらんだでしょ。悪口言いまくると思う。そして、毎日が嫌になる。この事件解決のために、うちがするべきことは謝ることだよ。大丈夫、こんなこと、いつか風みたいにみんな忘れるだろうし」
友美は笑ってみせて立ち上がった。そして歌音のもとへ歩いていった。それを3人は心配そうな目で見送った。

「歌音ちゃん」
「何?」
友美は手を握り締めて歌音をまっすぐに見つめた。
「ごめん」
「・・・えっ」
「ごめん、ごめんね。うち、にらんだつもりはなかったんよ。そう見えたなら本当にごめん」
羽実、瑞希、琉香はこっそりその会話を見つめていた。
 歌音の目つきが変わっていたのに気がついた。
「あたしも言いすぎた。ごめん」
友美はにっこり笑う。歌音もにっこり笑う。
 友美は3人のところへ帰ってきた。
「やっぱり謝って正解だった。歌音ちゃん、うちが謝るまで許さんかったみたいだし」
「そっか。よかったね」
「あっ、閉会式始まるよ。並ぼう」
羽実たちはアリーナへ移動していった。

 友美と一緒に帰った時の友美の顔は満足そうだった。でも、羽実は大満足しているわけではなかった。
 あの優しくなった歌音の目つきの奥に黒いものは本当になかったのだろうか。この事件が本当に何事もなかったようになるのだろうか。
 「いつか風みたいにみんな忘れる」なんて友美は言っていたけれど、そう言っていた友美こそが一生忘れないだろうと思った。
 友美と歌音の関係はどうなっていくのだろう。羽実はそれが心配だった。

 今後、このようなことがないことを願うばかりだ。

8月~スペシャル・1-B旅行~

 あっという間に1学期が終わり、夏休み補習も終わり、明日から本当の夏休みだ。
「夏休み何するの?」
「考え中。遊びに行きたいな」
「同感。スっペシャルな夏休みになれたらいいのに」
「高宮、お前の夢叶うぞ」
「・・・はっ?」
羽実と友美が振り返ると、倉本先生が立っていた。
「何言ってんですか」
「まぁくわしいことはSHRで話すよ。宮城先生からはちゃんと許可もらってるから」
倉本先生はウインクすると去っていった。
「ウインクとか・・・」
「倉本先生どうしたんだろ。SHRに羽実の夢が叶うって」
「SHRを楽しみにするか」
チャイムがなった。SHRがはじまる。
「倉本先生からお知らせです」
倉本先生は胸を張って教卓に立って叫んだ。
「これが目に入らぬかぁーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
「入りません」
宇都宮がつっこみを入れた。みんなが笑う。
「おいおい、こっちをよく見ろよ。何だと思う?」
「もしかして・・・お金?」
「そうだ、宝くじであてたんだ。その金額は・・・5億円!!」
「「「えぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!??」」」
みんなそうとうびっくりしている様子。
「この5億円をみんなのために使おうと思うんだ。ディズニーランドに1-Bだけが行きまーっす!」
「「「うっそー!?」」」
「彼女とかに使わないの?」
宇都宮が皮肉たっぷりに言った。
「・・・うるさい」
倉本先生には彼女がいないのだ。(笑)
「家族に使えばいいのに」
「うちの両親曰く『わしらは修がいるだけで幸せだ。このお金は生徒に使いなさい』。くーっ!父さん最高!!」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」」
それ、ただ親に愛されていること自慢してるだけじゃん。
 実は倉本先生、女子には不人気、男子にはいじられる存在である。きっと「修先生だーいすきっ♡」なんて言われたかったりするのだろう。
「とにかく、ディズニーランドに行きたければ8月20日7時半梅山空港に集合しなさい。希望者でいいぞ。行きたくない人・または行けない人挙手!」
誰も手を挙げる者はいなかった。
「よし、修プレゼンツ、1-B秘密ディズニー旅行スタートだっ!!あっ、一応班行動だからな。ここに班貼っておくから見とけよ」
SHRが終了した。羽実たちは紙を見に行った。こう書いてあった。

1班:井原、宇都宮、米山、一矢
2班:大川、垣本、内原、近江
3班:木村、国立、黒澤、小西
4班:栗井、坂本、杉山、高宮
5班:渋谷、釈、遠山、平高
6班:鈴木、中川、堀口、山田                            ※絶対この班で行動すること!仲間割れあったら宿題増やすぞ!
7班:菱川、堀本、湯川、由佐、横山                         ※この班で食事、寝る部屋も一緒!

「これは・・・出席番号から作成してるのか」
「そうみたいだね。女子1人最悪ー!」
「てか、寝る部屋も一緒とか・・・」
「文句があるなら行かんでよろしい」
「・・・聞いてたんですか」
「もちろん。あ、一矢、お前だけ女子1人でかわいそうだから寝る部屋は7班と一緒だ。」
「よっ、よかったぁー」
倉本先生はうんとうなずくと向こうに行った。
「楽しみだなぁ、20日」
羽実は、むちゃくちゃにこにこしてる彼の表情を絶対見逃さなかった。
 そして、こうつぶやく。
「こんな夏休みって初めてだよ」

 8月20日になった。7時半、全員が空港にそろった。
「うん、じゃあ予定を説明するぞ。2泊3日、1日目と2日目はランドでもシーでもいい。3日目は朝飯食べたら帰るぞ。んじゃ、飛行機に乗るか。さすがに飛行機は自由だ」
1-Bたちは移動を開始した。

「そういえば、宮城先生は?」
「いないよ。ご家庭があるしね」
「じゃあ、先生は暇なんだぁ」
「・・・ふん」
なんだよコイツ、しつこいなって顔をしていた倉本先生は誰が見てもわかった。

 飛行機とバスでディズニーランドに着いた。今は12時ちょっと前。
「じゃ、ここから班行動。シーに行くならあのモノレールに乗るんだ。なんかあったら俺の携帯に。持ってる人は登録したよな?んじゃ、分かれろ!!」
1-Bの学校のクラスとはいえ、一応1-Bだけのプライベート。もちろん、みんな私服だし、携帯を持ってきている人もたくさんいる。
「どっち行きたい?私はどっちでもいいけど」
「ランド」
「シー」
「ランド」
「はい、多数決で決まり。明日シー行こうか?」
「うん、いいよ」
「早くジェットコースター乗りたい!」
「俺も俺も!!」
「うん、じゃあ行こうか」
羽実、恵麻、坂本、栗井の班は行動を始めた。
 羽実はだいぶテンションが高かった。気になっている坂本がいるんだから!!(それだけじゃないけどね)

「俺、トイレ行きたいかも」
「私も」
「トイレここから近いし行ってきなよ。待ってるから。高宮も行くの?」
「ううん、行かない。私も待つ」
恵麻と栗井はトイレへ行った。
「・・・」
「・・・」
あぁっ、沈黙はダメだっ!!
「つっ次どこ行きたい?」
「えっあ、スっスペースマウンテンとか・・・・・・・・・・・・!!??」
急に坂本は目を見開いた。
「!?どうしたの?」
「ちょっと・・・」
いきなり坂本は羽実の腕をつかんで走り出して、木のかげに隠れた。
「どうしたの?恵麻たちが_________」
「静かにっ!!」
坂本は口に指をあてた。そして、向こうにいる黒い服を着た人が通り過ぎたのを見ると外に出た。
「??」
恵麻と栗井が羽実たちを探していた。
「あっ羽実!!どこ行ってたの?」
「ごめんごめん」
羽実は手を合わせた。
「んじゃ、行くか。次スペースマウンテンな!」
栗井はジェットコースターを乗りつくしたがっていた。
 坂本はきょろきょろしている。
「坂本?」
「えっあっ、ごめん!!」
4人は再びまた歩き出した。
 また坂本が目を見開いた。
「ちょっとトイレ!3人だけで乗っていいから!!」
坂本は走り出した。
「あんなに全力で走っちゃって・・・もれそうなんかな?」
「ちょっ・・・」
羽実は笑ってしまうのをこらえた。
 もしかして、さっきの場合と同じなんじゃないか?誰かから逃げている?
 としたらあの怪しい男の人?あんなにごつかったのに坂本1人じゃ危ないじゃん!!
「坂本はトイレじゃない、誰かから逃げてるんだよ!!」
「えっ・・・」
「まさかの『ディズニーランドで逃走中』?」
「違うよ!!きっと坂本に何かあったんだよ!私、坂本を追いかける!!」
羽実も走り出した。
「2人で乗って来いってこと?」
「そうみたいだな。もしかして、さっきいなくなってたのも関係するんかな?」

 羽実はようやく坂本を見つけた。今度も木の後ろに隠れていた。
「たっ、高宮!?なんで来るんだよ!お前も来たら巻きこまれるじゃん!!」
「1人なんてほっとけないもん!さっきみたいなことあったんでしょ?黒い服の人から逃げてるみたいだけど・・・」
その時、人々の視線がこっちにいった。
「ママ、なんであの人たち木の後ろに隠れてるの?」
「ちょっ、見るんじゃないわよ!」
これは恥ずかしい状態。1-Bの誰かがいたら仲間割れとかと勘違いされるだろう。
「移動するか」
坂本はあの人がいないのを確かめると移動した。羽実も移動してある建物の後ろに隠れた。
「ねぇ、何があったの?」
「しーっ!!しゃべるなら小声にしてよ」
「ごめん」
羽実は小声にまった。
「わかった。教えてやる。俺の父さん、坂本文具会社の社長なんだ」
「っ、ごほん!」
「しーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
思わず咳払い。
「で、俺ひとりっこだから次の社長は俺になりそうだろ?代々坂本家がなり続けてるんだから」
「そうだよね」
「うん。で、両親は俺にボディーガードをつけたんだ」
「ってことは、あの黒い服の人はボディーガード?」
坂本はうなずいた。
「なら、別に逃げなくてもいいんじゃないの?」
「いや、きっと見つけたら俺を連れて帰ると思う」
坂本はその理由を話し始めた。

「なぁ、母さん」
「何、こうちゃん?」
「あのさ、もう『こうちゃん』って呼ぶのやめてくれない?」
「だって愛するひとり息子だもの」
「・・・まぁいいや。8月20日から22日ってなんか用事あったっけ?」
「ないと思う。どうしたの?」
「ちょっと、倉本先生が1-Bのみんなでディズニーランドに行くって言ったんだ。俺、行きたいんだ。いい?」
そう言ったら、母さんの顔がこわばったんだ。
「何言ってるのよ。行かせないわ。ディズニーランドなんかお母さんがいくらでも連れて行ってあげる。やめときなさい」
「俺は友達と行きたいんだよ。班行動なんだぜ?今まで何回も家族で旅行に行った。だから今度は友達とだ。子供だけじゃない、先生もいる」
「だめ。そういう行動が危ないのよ。あなたの身に何かあったら・・・」
「なんで危ないんだよ!?あのさ、もう俺を赤ちゃん扱いしないでよ。母さんは修学旅行にも行かせてくれなかったよな。それは小学生だったからまだがまんできたかもしれない。でも、俺はもう中学生なんだよ!!まだ母さんの言いなりにならなきゃいけないのか!?まっぴらだ!!もういい。母さんが反対してでも絶対行くから」
俺はそう言い捨てた。

「坂本にそんなことが・・・?修学旅行に行かなかったのはお母さんが行かせなかったんだ」
「あぁ。俺、黙って家を出たから母さんはきっと怒ってるだろう。でも、俺はこれで全然後悔してない。思い切り楽しもうと思ったのに、ボディーガードが連れて帰りに来たなんて・・・。」
「シーに行けばいいんじゃない?」
「俺のボディーガードは2人いるんだ。もう1人はシーにいると思う」
その時だった。
「やっと見つけましたよ、虹也様」
「「!?」」
坂本と羽実は振り返った。あのごつい黒い服の人。坂本のボディーガードだ!
「お前か、川島」
「あなたのお母様の良枝様が連れて帰れと命じたものですから、探しに来ました」
「中島は?」
「虹也様の思った通り、シーにいます。今から中島を呼ぶと同時に良枝様に電話しますね」
川島は中島に電話し、タブレットを取り出すと坂本の母、良枝につなげた。
「良枝様、虹也様を見つけました」
「こうちゃんにかわって」
川島はタブレットを坂本に渡した。
「母さ______」
「あぁこうちゃん!!無事でなによりだわ。やっぱり行かせられない。早く帰ってきなさい。もう十分楽しんだでしょう」
「嫌だ、まだ数時間しか遊んでない!」
「お母さんは最初から反対してたわ。なのに、こうちゃんは黙って家を出た。私そうとう怒ってるわよ」
横で聞いていた羽実はがまんできなくなった。
「坂本、いい?」
「えっ?」
羽実は画面に入るように坂本に近づいた。
「あら、あなたは?」
「高宮羽実。虹也くんのクラスメートです」
「彼女?あらぁー」
「「違います!!!」」
「なんだぁ、残念。友達ね」
「うん、まぁな」
「ただの友達なだけなのに、勝手に入ってきてごめんなさい。でも、がまんできないんです、虹也くんがつらい思いをしていることが・・・。今回ぐらいは許してやってくれませんか!?」
「えっ!?だめよ。親なしで旅行なんてまだまだ早い」
「みんなはOKなのに!?」
「人は人、うちはうちよ。だから、ごめんなさい高宮さん。こうちゃんを行かせられない気持ちがとっても強いの」
口調や表情はとても優しそうなのに、話している内容や言葉づかいはそういう風に感じなかった。
「でも・・・!!どうしてもダメなんですか?」
「ええ」
「そんな・・・」
「高宮、もういいよ。俺のことなんかどうでもいいじゃんか。お前らだけで楽しめばいいのに」
「そんなこと言ってながら本当は『もういいよ』状態じゃないんでしょ!?私は、この旅行を1-Bのメンバー全員で楽しみたい。それに、坂本が私を友達と認めてくれてすごいうれしいもん。友達として坂本を助けたい。坂本と・・・もっと一緒に行動したい!!」
「・・・?」
「それともこんな私しつこいかな?こんなことでムキになっちゃって。おせっかいかな?」
「え・・・」
ガサッ。人の気配がした。
「ふぅ、やっと見つけた」
「栗井、恵麻!?」
「私たちもほっとけなかったから2人を探してたんだ」
「お前らも・・・」
「坂本のお母さん!俺からもお願いします!!」
「えっ」
「私からも!坂本を・・・このまま楽しませてあげてください!!」
「そうですよ。私もあきらめたわけじゃありません!!」
「3人でくるとは・・・。でも、やっぱり気持ちは変えられない」
「母さん、なんで変なとこで頑固なんだよ」
「変なとこってどういうこっと?私はあなたのことをすごく心配してて言ってるのよ。そういうあなたもがん_________」
がちゃっ。
 画面の向こうでドアを開ける音がした。
「ただいまー」
「「「!?」」」
「とっ・・・父さん!?」
画面に出てきたのは坂本の父だった。
「良枝、何してるんだ?」
「あっ、あなた!!」
「誰としゃべってるんだ?おっ、虹也か。それと・・・」
「高宮です」
「栗井です」
「杉山です」
「虹也のクラスメートたちか。虹也、今どこにいるんだ?」
「ディズニーランド」
「ディズニーランドっ!?」
「そう。倉本先生が宝くじで5億円当ててさ、1-Bみんなで来てるんだよ」
「良枝が許したなんて珍しいな。修学旅行行かさなかったのに」
「「えっ!?」」
恵麻と栗井はびっくりした表情。まぁそれはともかく。
「許してなんかないわよ。あの子、勝手に行ったのよ。私は行かさないって言ったのに。だから川島と中島に連れて帰れって言ったのよ。あなたも許さないわよね?」
良枝は口調を少し強めて息子とだいぶそっくりな夫に話しかけた。坂本の父の反応は・・・。
「いや、俺だったら許すけど」
「「「えっ!?」」」
一同騒然。坂本の母あ然。
「虹也ももう中1だろ?それに、修学旅行に行けなくてベッドでうずくまって泣いている虹也を去年見たんだ。虹也って、小学校4年ぐらいから全然泣き顔を見せなかったから、あまりにもかわいそうだと思ったんだ。で、こういう旅行に行く機会があったら俺は迷いなく行かせてやろうとしたよ。でも仕事が忙しくてなかなか家に居れなかった。なんで俺に言わなかったんだ、虹也」
「だって、電話しても忙しいって言うかと思って」
「そうか。そう思わせて悪かったな。なぁ良枝・・・このまま虹也を笑顔にさせろよ」
夫に言われたらさすがに承知するだろう。良枝はため息をついて言った。
「わかったわよ。このまま遊びほうけなさい。確かに、私やりすぎたかも。川島、中島、このまま帰っていいわよ。行かせたおわびに給料上げるから」
「「ありがとうございますっ!!」」
むっちゃ喜ぶの、そこ!?
「というか、虹也も成長したな。黙って家を出ていくとは」
「むっちゃ行きたかったしな」
「絶対事故とかしないでね。みんな、いろいろ迷惑かけてごめんなさい。じゃあ、楽しんでね」
画面が消えた。
「では、失礼します」
川島と中島、2人のボディーガードはルンルンとスキップして帰って行った。
 残された4人は大声で笑い出した。
「みんなありがとう。すごく勇気づけられた」
「ううん。私たち友達が当然することだよ」
「そうだよ。連れていかれて3人で楽しむなんてひどい話だよ。だから、私と栗井、スペースマウンテンに乗ってないよ」
「そうだ、早く行こうぜ!乗りたくてたまらんのだ!」
4人は笑いながら目的地へと向かった。
「てか、ボディーガードから逃げてるとか、修学旅行に行ってないことにすごくびっくりしたんだけど」
「うん、考えられない」
「まぁ、いろいろあったんだよ。でも、俺は今ですごく満足してる」
「あっ、見えてきたよ!」

 その夜、羽実、恵麻、坂本、栗井は部屋でトランプを楽しんでいた。
 いつでも寝られる服装と時間帯だ。
「ちょっとジュース買ってくる」
「俺も行く」
「いいよ、私がみんなの買うから」
「トイレ行くついでに買うんだ!!」
「はいはいわかった。坂本はファンタ、羽実はカルピスでいい?」
「うん、ありがとう。後でお金返すね」
「いってらー」
また羽実と坂本2人になった。今度は沈黙にならなかった。
「俺、3人にむっちゃ感謝してるよ。でも高宮には1番感謝してる」
「えっ?」
「結構、俺のこと読めてたし。『もういいよ』状態じゃないってこととか。ハッとさせられること言ってくれたし。俺は別にしつこいとかおせっかいだとか思わなかったヨ。うれしかった」
「本当に?ありがとう」
「そのセリフそのまんま返したい気分だっつーの」
坂本は笑った。羽実も笑った。
 恵麻と栗井が戻ってきた。
「何の話してたのー?」
「今日の話☆」
「明日、シー行くんだよな?エレベーターが落ちるやつ絶対乗るぞ!」
「えーっ?ジェットコースターは行けるけど急降下は無理」
「俺もー」
「私もー」
「・・・うそぉ」
「今日はほとんど行く場所栗井が決めたから明日は私ら3人で決めるけん」
「「さんせーっい!!」」
「つまらんやつは俺やだからな」
4人の間に笑顔が絶えなかった。

「もう帰るのかぁ。楽しかったなぁ」
 もう3日目。帰る時間です。
 羽実はこの旅行を思う存分楽しんだ。いろんな意味で楽しかった。
 ハッピーエンドでなによりだ。
「2学期もがんばるぞぉー!!」

9月~恋の行方~

 2学期です。
 みんな何の話をしてるかっていうと、あの時の旅行。特に羽実さんは・・・。
「坂本があーでこーで、そーであーでこーで・・・」
尽きない。
 こら、聞いてる友美さんが困ってますよ!!
 友美も話したがってるじゃないですか!
「あっ、ごめん。友美はどうだった?」
「えーとね、こーであーでそーでどーで・・・」
友美も思ったよりしゃべったようです。
 ある日、いつもの朝、琉香の彼氏、鈴木が教室に入ってきた。しかし、琉香はちらっと見ただけだった。
 今までは手を振り合っていたのに。
 羽実は恋のことなど全くわからない。でも、嫌な予感はしていた。

 今日は瑞希と帰った。
「ねぇ、なんかあの2人不安じゃない?」
「あの2人って?」
「るーと鈴木だよ」
「あぁ。そういえば今朝手を振ってなかったな」
「あの2人、一緒に遊んだことないみたいだし、学校でもちょっとしかしゃべらないし、アドレスお互い知らないみたいだし」
「えっ、それ、付き合ってるの!?」
「そう思ってしまうよね。大丈夫なんかなぁ、もしかしたら・・・」
「そんなの、考えたくないよ!」
「うちもだよ。でも、3・4ヶ月で別れる人いっぱいいるしな」
瑞希と羽実はそのまま別れた。
 琉香ろ鈴木何かあったのかな・・・。

 次の日のとある休み時間のことだった。
「羽実ちゃん、このプリント見せてもらえる?」
「うん、いいよ」
琉香が羽実のプリントを写している間に聞いてみた。
「鈴木と・・・どんな感じ?」
琉香のシャーペンが止まった。
「ごめん、聞いちゃ悪かったかな」
「ううん、大丈夫。うち、心配なんよね。鈴木くんとどうなるか」
「まだ鈴木のこと好きなんでしょ?」
「うん、でも、向こうはよくわかんない。こないだの旅行、鈴木くんの班とあってね、鈴木くんに手振ったのに無視されたんだ」
「それは、見てなかったからでしょ」
「そこが問題なんだよ!!普通カレカノだったら目が合うはずじゃん。なのに、男子としゃべってて目が合わなかった」
「鈴木にちょっと不満だよね」
「うん、まぁ。でも、うちが告ったからうちがふるなんて、残酷。今は、鈴木くんの気持ちが知りたい」
チャイムが鳴り始めた。
「そっか、教えてくれてありがとう」
羽実は席へ戻った。
「うちら、きちゃったのかな」
そうつぶやく琉香の声を聞き逃さなかった。

 放課後、友美と帰っていた時だった。
「ねぇ、るっちゃんと鈴木、うまくいきそうな感じあまりしないよね」
「うん。てか、急にどうしたの、そんな話して」
「あくまでも噂なんだけどさ、うち、聞いちゃったんだ」
友美は一息間をあけてから口を開いた。
「鈴木、可恋ちゃんのことが好きなのかもしれないの」
「えっ!?るっちゃんと付き合ってるのに?」
「うん、それを聞いた後2人を観察してたんだけど・・・。今、2人の席前後じゃん?一緒の班だから机合わせるじゃん?あの2人毎日毎日楽しそうにしゃべるんだよ。でね、歌音ちゃんに対しては冷たいのに可恋ちゃんに対しては優しいんだ。だから、噂は本当なのかなって・・・」
確かに、可恋はかわいいし頭もいいしスポーツもできるし性格も悪くない。最高の美点がそろった女の子だ。可恋のことを好きになるのも納得がいくだろう。しかし・・・。
「るっちゃんと付き合ってるのわかってるのにそれはないでしょ、浮気じゃん」
「うちだってそう思うよ。だけど、聞いてしまったもん。とある休み時間に鈴木が『由佐のことふろうかな』って」
衝撃の言葉に羽実は気を失いそうだった。
「こういうこと、るっちゃんに言わない方がいいよね。さすがにそれはショック受けるから」
「そうだね」
「それより、聞いて。うち、決心したんだ」
「何を?」
「来週ぐらいに立川先輩に告白する」
「おぉっ!積極的だね、友美」
「もう4ヶ月もたったんだから、本気になってきたの」
「がんばれ、友美!」
「ありがと」

 風呂と夕飯を済まし、ベッドに入った時だった。羽実はあの友美が言ったことを思い出していた。
 鈴木は、琉香ではなく可恋のことが好き?
 ふろうかなって決めてるんだったら、さっさと行動に移せよ!!って羽実は思う。でも恋愛初心者の羽実の考えはまちがっているのだろうか。
 告白するのもされるのも、ふるのもふられるのも、緊張するということを羽実はよくわかっていないのだ。
「本当に、恋って難しい・・・」

 次の朝、羽実はまたあのことを考えていた。登校中、羽実は決心した。
 今日、鈴木と話そう。
 羽実は鈴木に対して怒りを感じていたのだった。

 教室に着いた。鈴木がいる。琉香はいない。
 羽実はかばんを置くと、鈴木に向かってつかつかと歩き出した。
 彼女のからだが勝手にそうしているのだ。
 楽しそうに話している鈴木の前に立つ。みんなは異変を感じる。
「な、なんだよ」
羽実は正面から鈴木をにらみつけて、平手打ちした。
「あんたのしたこと、わかってるの!?」
あまりにも大きな声だったため、1-Bにいる人たちの視線がそっちに行った。
 鈴木と話していた宇都宮が立ちはだかる。
「おい、鈴木に何してるんだよ。お前のほ_________」
「どいて」
羽実は宇都宮の言葉を遮った。
「鈴木。他の子のことを好きになるのならふってからにしてよ。私、知ってるんだよ。可恋ちゃんのことが好きなこと」
 彼女の視界には鈴木しかいなかった。まわりの視線にも気づいていない。可恋も見ているし、今教室に入ってきた琉香にも気づいていないのだ。
「お前には関係な_______」
「わかってるよ。私には全く関係ない。私は、恋なんかほとんどわからない。でもね、るっちゃんが鈴木のせいでそうとう傷ついている・・・私はそれがすっごく許せないんだよ!!」
羽実は鈴木を強くにらみつけた。教室がしんと静まりかえった。
「るっちゃん、気にしてたよ。鈴木が自分のことをどう思っているのか。2人で話し合ったらどうかな」
羽実の目つきがにらむのをやめていた。
 そして、我に返った。
 琉香が見ている。可恋が見ている。みんなが見ている。
 見られていたことに今気づいた羽実さんでした。
 鈴木は歩き出した。もちろん、琉香のところへ」
「あっ・・・」
 琉香は逃げ出した。鈴木はそれを追いかける。可恋も後からつけていった。
 羽実も行こうと教室を出た。近くにいた上級生がこっちを見ながら話していた。
「人の恋愛に手を出すなんて・・・」
「ムキになるなんて・・・」
それを羽実はちゃんと聞いた。そして、怒りの色も表わさずに上級生に言った。
「そう、先輩の言うとおりです。こんなことに手を出すとかムキになるなんてどうかしてますよね。でも、私はこんな性格なんです。人の役に立ちたいって思ってるんです。でも、それがああいう態度に出てしまう。逆効果もありうるかもだけど、私はああ言って後悔してませんよ」
羽実はにっこり笑うと追いかけるのをやめてそこから見送った。

 琉香は屋上まで上がってしまっていた。
 HS学園の屋上からの見晴らしは最高にいい。
 琉香はあたりを見回して誰もいないことを確認した。そして、下を見おろした。
「由佐!」
琉香は振り向いた。鈴木だ。
「鈴木くん?なんで・・・」
「お前と話がしたいんだよ」
「・・・どうせ、ふりに来たんでしょ。だから、うちは屋上に上がって頭をすっきりしたかったのに」
 その時、可恋が屋上に上がりついた。でも、外に出ず、中から2人の会話を見守った。
「違うよ。それは誤解だよ!」
「さっき羽実ちゃんが言って否定しなかったじゃん!羽実ちゃんの言うとおり、うちをふってから可恋ちゃんのこと好きになった方がモヤモヤしないし。大丈夫、うちは落ち込まないから。中学生の恋なんて、すぐ別れちゃうんだから」
「違うって!」
「信じれない!!」
「・・・もう、こうしないとわかってくれないのかよ」
 鈴木は琉香をそっと抱き締めた。
 可恋は目を伏せた。
「・・・!?」
「わかった?俺は、宇都宮に言わされたんだ。山田には冷たいのに遠山には優しいって言うからさ。『由佐のことふろうかな』っていうのも嘘だから」
「否定すればいいのに」
「否定できない状況だったんだよ、由佐もそういう時あるだろ?」
琉香は笑った。
「宇都宮が言わせたけど、そいつ自身が遠山のこと好きだったりするんだよな。・・・あっ、俺は由佐だから」
鈴木も笑った。
「教室戻ろうか」
 2人は中に入ろうとした。可恋は急いで階段を駆け降りた。

 羽実が教室に入った時、宇都宮が言った。
「鈴木、遠山のこと嫌いじゃないけど好きでもないと思うよ。俺が言わせて鈴木を楽にさせようとしたんだ。鈴木の方も由佐とのことで悩んでるみたいだったから、由佐をやめて遠山にすればいいのにって言ったんだよ。あいつ、苦笑いだったけどノッてくれたんだ」
「そっ、そうだんだ。なら、私があんなことしなくてもよかったってことじゃん。まぁ、最初からだけど・・・。なんか、恥ずかしい」
「いや、高宮の言葉で鈴木は由佐と話す決心をしたんじゃないか?だから、高宮みたいな人いて正解だったと思うよ。このままあの2人が自然消滅になったらやばかったからな」
「うん、そうだね」
羽実は友美たちのところに行った。
「よく言えたね、みんなの前で」
「視界に鈴木しかいなかったんだよ」
「ちょっとムキになりすぎじゃない?まぁ、うちも一緒になりそうだったけど、羽実の行動にあ然で動けなかったからね」
「確かにムキになったけど、あの2人お互いをまたわかり合って別れることなくなったんでしょ」
 可恋が帰ってきた。
「あの2人は?」
「今、2人で一緒に帰ってるよ。誤解が解けたみたい」
「てことは別れずに済んだんだ!」
「よかったじゃん」
1-Bの空気は明るくなった。

「・・・今日ですね」
「今日ですよ!!」
 あれから1週間がたった。今日は友美さんが告白する日だそうです。4ヶ月前から好きだった生徒会長の立川莉久にとうとう告白するのです!!
「どこでするの?」
「そこの渡り廊下で待ち合わせてくれるんだよ」
「え、友美っていつから立川先輩と仲よくなったの?」
「いや、紗梨ちゃんが協力してくれてるから」
なるほど、1-Eの小寺紗梨は、とある5年の先輩と仲がいい。その先輩と立川が仲よしなので、こういうことができるということだ。
 放課後、友美は渡り廊下で立川を待っていた。羽実と紗梨は遠くから見守っていた。
 あっ!立川だ。
「あっ、あの!」
「ん?」
「私、1-Bの一矢友美っていいます」
「一矢?」
「はい。私、5月の体育祭の時から立川先輩のことが好きでした。つきあってください!!」
 友美は必死だった。やっぱり告白は緊張するのだ。
 立川の反応は・・・。
「ごめん、急に言われても君のこと知らないから、すぐにはつきあえない。」
「えっ・・・」
「ごめん、急いでるから。じゃあ」
立川は去っていった。
 羽実と紗梨は顔を見合わせた。
 もう、終わり!?
 いくら急いでるからって、あれはひどくない?
 2人は目でそう会話していた。
 と、そこへ友美がやってきた。
「して・・・きたよ」
羽実と紗梨はなんとか友美をはげまそうとした。しかし、
「大丈夫だよ。こういうことになるのもわかってたから」
友美はそう言うと通り過ぎていった。友美の顔は大丈夫じゃなかった。
 あまりにも唐突だったのだろう。
 友美をさびしそうに見送っていると、紗梨が言った。
「ちょっと待って。立川先輩、つきあえないとは言ったけど、それはゆみちゃんのことをよく知ってないってことだよね」
「ということは・・・」
もしかしたら、と羽実と紗梨はうなずいた。

 教室に戻ると、友美のかばんがなかった。羽実の机に置手紙があった。
『今日、1人になりたいから先に帰ってます。ごめんね。        ゆみ』
 やっぱり、友美にはたえられなかったのだ。
 と、羽実の目から涙が落ちた。
 理由はわからない。同情したわけでもない。
 可能性だってあるのに・・・。
 羽実はわけがわからないまま静かな教室で泣いていたのだった。

10月~マントはどこだ!?~

「須藤、俺のマント知らない?」
「ごめん、わからない。どうしたの?」
「いや、文化祭で使うマントがないんだ。スーツはあるんだけど・・・」

「友美、友美、ゆーみっ!!」
「はっ!どっどどうしたの?」
「最近ボーっとしてばっかじゃん」
「そんなことないよ」
「にしては名前を3回呼ばないと返事しない」
「もう、なんでもないんだってばーっ!!」
「そんなに自分の気持ちを隠したいの?まぁ別にいいけど。無理やりには聞かないよ」
 そんな日の放課後。友美は羽実と一緒に帰ることにした。
「そんなに羽実が怒るんなら話してあげてもいいよ」
友美は少しぶすっとして言った。
「ほんとに!?でも私怒ってないけど」
「いや、どう見てもそれは怒ってる」
「うん、まぁ気にすんな」
「現実逃避ー」
羽実はなんとか笑ってごまかした。
「うち、平気なふりしてたけど、やっぱりあのことが頭から離れないんだ。いろいろともやもやしちゃってる」
「そっか・・・」
「あんなふり方するから嫌いになりそうじゃん?でも、なかなか嫌いになれないんだ。日に日にもっと好きになっていく。結局はあきらめなきゃいけない恋なのにね」
「確かに、嫌いになるふり方してた。でも、そんだけ軽い恋じゃないってことじゃないかな。だから、今の気持ちを大切にしなよ。私が言うのもなんだけどさ」
「・・・ううん、すごく元気づけられる。やっぱり立川先輩を想う気持ちは本物なんだなって改めて思った」
「そうだね。友美の気持ちは本物だよ」
羽実は微笑んだ。友美の心が和らいだ気がした。
「それに、先輩がふった理由は友美のことをよく知らないからでしょ?紗梨ちゃんと話しててね、もしかしたら・・・」
「もしかしたら、何?」
羽実は人差し指を口元に当てた。
「言わないっ」
「えーっ、何それー!!」
友美は笑顔を取り戻していた。よかった。
「ちょっともやもやが晴れた。羽実、ありがと」

 次の日、羽実、友美、瑞希、琉香、恵麻は廊下でおしゃべりをしていた。
 と、誰かが5人のもとへやってきた。
 生徒会長立川と生徒副会長須藤真希だ。
「ねぇ、私たち、このマントを探してるんだ」
「えっ、このスーツ何で使うんですか?」
「文化祭だ。実は、このスーツのマントがなくなったんだ」
「じゃあ、再来週までに探さないといけないんですね!」
「そういうこと」
「マントなしじゃダメなんですか?」
「こんなぴちぴちのスーツだけだったらキモいよ」
「おい、着る人に失礼だろ!」
「冗談よ。本当は空飛ぶ感じにしたいからマントがいるんだ」
「てなわけで、捜索よろしく!実はお前たちだけにたのんだから、このことは内緒な」
「生徒会とあなたたち5人で探しましょう」
立川と須藤は立ち去ろうとした。と、立川がある人を見つけた。
 友美だ。
「君・・・一矢・・・だったよな。あの時は・・・」
「立川!忙しいんだから行くよ!!」
「わかったよ」
立川はしぶしぶ去っていった。
 友美はボー然としていた。
「友美?」
「羽実!!先輩、うちのこと覚えてくれてた!嬉しい!!」
「うん、よかったね!」
「でも、さっき何か言いたがってたよね。なんだろ・・・」
「いつかわかるよ」
 羽実の中には疑問があった。生徒会だけが探せばいいのに、なぜ私たちも一緒に探すのだろう、と。きっと瑞希と琉香、恵麻もそう思っているだろう。
 友美は同じくそう思っているのか、立川と再会して気まずいのか嬉しいのかよくわからないけど。
「あっ、先生来た!!」
今から学活です。
「前予告した通り、1年のクラスのうち1クラスだけが店を開けるっていうくじ引き、結果出ました」
ほとんどの女子はうきうきしている。出し物ってやつがやりたかったのだ。
 出し物っていうものは、カフェだから。
「B組に決定しました!」
「やったぁ!!」
 女子は喜んだ。男子は微妙。再来週までに準備しなくてはならない。
「で、そのカフェの中身を今日は考えます。何か意見ありますか?」
 その時、珍しく彩葉が手をあげた。
「はい、近江さん」
「ねこみみかうさみみーっ!!」
クラス中に大笑いが響いた。
「どんなカフェにしたいの?」
「ねこみみカフェとかうさみみカフェってあるじゃないですか。楽しそうだと思ったので。カフェ用の制服つくってぇ、女子はねこみみかうさみみつけてぇ、男子はその動物のワッペンつけてぇ・・・」
「異議あり」
菱川が手をあげた。
「それだと、食べ物の他に制服代もあるので予算が高いと思います。ウケ狙いはどうかと思います。ここは普通にこの学園の制服でどうですか?」
「ちょっと、ウケ狙いじゃないよ!!楽しそうだからだよ。菱川くんの言うとおり予算は高いけど、より安くおさめるんだよ。てか、この学園の制服なんてまじめすぎーっ!!」
彩葉の暴走を止めるように佳奈が手をあげた。
「菱川くんと近江さんの案を取り入れて、カフェの仕事の時だけ私服ってどうですか?『おしゃれカフェ』みたいな。それだったら、予算は食べ物だけだし、おもしろみありませんか?」
みんなが感心した。さすが2学期学級委員だ。
 多数決で佳奈の案に決まった。
「これからするべきことは?」
釈が手をあげた。
「手作り感あった方がいいですよね。じゃあ、料理が得意な女子と男子数人とか。その人たちでお菓子作るんです。クッキーとか、チョコクランチとか」
「チョコクランチってなんだよ?」
「ナッツをチョコ漬けしたみたいなもんでカリカリしておいしいんだよ。そんなのも知らないんだ」
宮城先生がさらさらと黒板に書いていく。

 話し合いの結果、カフェ名は「1-Bのおされカフェ」。食べ物は手作りでクッキーとチョコクランチなどのいろいろなお菓子、飲み物はカルピスや炭酸、コーヒーなど。万が一足りなくなってしまったら、近くにスーパーがあるので急いで買いに行く。ということに決まった。
「なぁ、今度の日曜日空いてるか?空いてない人ー?」
倉本先生が後ろから言った。手をあげた者はいなかった。
「じゃ、みんなで買い出し行こう!それと、こないだ旅行行った時あまりおしゃれじゃなかった男子いたよな。その服買いに行くぜ!もちろん、俺がおごる」
反対した者もいなかった。
「よし、服買う人言うぞ。井原ー、垣本ー、木村ー、国立ー、釈ー、鈴木ー、菱川ー、堀本ー、湯川ー、米山!!」
失礼といっていいのか、買ってもらうので嬉しいのか、微妙なところ。
 というわけで、羽実たちは文化祭の準備に加え、マント探しもすることになったのだ。

 日曜日、待ち合わせのショッピングセンターにみんなが集まった。
「OK。・・・って、おぉい!!見事に俺が指名した人が全くおされじゃないやないかーいっ!服ってのはな、着ればいいってもんじゃねぇぞ。着こなせ。俺みた_____」
「はいはい、もういいから」
宇都宮が遮った。
「まぁいい。じゃ、指名した人ついてこい!あ、これよろしく」
倉本先生は紙を佳奈に渡すと非おしゃれ男子どもを連れていった。
「なんて書いてるの?」
「男子は3人ずつ、女子は6人と7人に分けてこれを買ってきなさい、だって」
相談の結果、食材係は佳奈、彩葉、七依、里依、歌音、可恋、中川、大川、坂本、教室装飾係は羽実、友美、瑞希、琉香、恵麻、優花、莉奈、宇都宮、渋谷、栗井となった。
「じゃ、分かれますか」

 再び集まった時、倉本先生に連れていかれていた男子がおしゃれになっていた。
「こいつらのコーディネート、俺がしたんだぞ!!似合ってるだろ?」
「「「・・・」」」
まぁ、一応おしゃれなんだけど。。。
「そっちはどうだった?」
「予算にちゃんとおさまりました」
「そうか。じゃあ、明日の放課後から準備だな。ここで解散するか!」
みんなは帰って行った。

「先輩、なかなか見つかりません」
1-Bを訪ねて(?)きた立川に羽実は言った。
「そうか・・・」
「そのマントはどうしてなくなったんですか?」
「落としてそのままどっかいったっていうのではないんだよ。盗まれて隠された」
「マントだけっていうのも謎ですよね」
「たぶん、スーツもだったら隠してもすぐわかるからね。あれ、結構派手だから」
「それに、盗んだとしても隠しはしないんじゃないんですか?」
「まぁ、ありえるっちゃありえるけどな。これを見てくれよ」
立川は2枚の紙を出した。
「これらは目安箱に入ってたやつなんだ。でも、匿名。字から、同じ人が書いたってわかるだろ?」
羽実はそれらを読んだ。
『文化祭っているんですか?』
『文化祭嫌いなのでマント盗みました。隠しました。当日までに見つからなかったら文化祭やめてください』
「隠したって書いてるからね」
「みんな準備してるのに、むちゃくちゃ!!」
「そうだよな。だから、急がなくちゃ」

 羽実はさっきのことを友美たちに話した。
「じゃ、絶対この学園にあるんだね」
「うん。私、今日部活ないから放課後探すよ」
「分かれて探そうよ」
3人は頷いた。瑞希と琉香は残念ながら部活があった。
「じゃあ、私は本館、恵麻は第1別館、友美は第2別館でいいかな?」
「「うん」」
「ごめん、明日探すから」
「うちも!」

 放課後、羽実、友美、恵麻は捜索を開始した。
 羽実は本館。すみずみまで探してもなかった。本館にはないだろう。
 恵麻は第1別館。ここもないみたいだ。
 羽実と恵麻は合流した。
「全然ない」
「こっちもだよ」
「外行ってみる?」
「うん」
羽実と恵麻は階段を降りて行った。
 しかし、外にもなかった。
 もう可能性はあそこだけ・・・。
 羽実と恵麻は頷いた。

「ないなぁ。本当にあるのかな」
 赤い物体が風に揺れていた。
 あれはもしや・・・っ!!
 友美は見つけた。あのマントを!!
 彼女はマントに手を伸ばした。
 その時だった。誰かの手も伸びていて、触れたのだ。
 友美はその手の主を見た。立川だった。
 彼女はしまったと思い、逃げ出そうとしていた。
「待てよ!」
立川は友美の肩をつかんだ。
「なんですか?」
「謝りたいんだよ、一矢に。一矢友美に!!」
フルネームまで覚えてくれている。
「前からずっと言いたかった。あの時は冷たくしてごめん。本当にごめん。年下から告白されるの初めてだったから、どうすればいいかわかんなくて・・・」
「でも、ふったには変わらないでしょ」
「ふった!?確かにつきあえないとは言ったけど、よく知ってなかったからだよ、一矢のこと」
「え、それ・・・って?」
とまどう友美に立川は優しく笑った。
「うん。一矢の気持ちに・・・応えるから」
友美の顔がぱあっと笑顔になった。
「それって、それって・・・わぁっ!!」
彼女は満面に笑みを浮かべ、顔を赤らめた。
「あのマントが見つかったこと、羽実たちに伝えなきゃ」
「俺もいくよ」
新生カップルは楽しそうに歩き出した。
 2人は渡り廊下を通った。
 ここで告白したんだよなぁ。今、こうして一緒にいれて幸せだよ。
 友美はそう思った。

 階段を通り過ぎた時だった。誰かが目安箱に紙を入れようとしていた。
「・・・須藤?」
須藤と呼ばれたその人は振り向いた。
 確かに、あの生徒副会長の須藤だ。
「お前、なに目安箱に入れてんだ?言いたいことがあるなら直接言えばいいのに。なんて書いてるんだ?」
立川が近づくと、須藤は紙を入れてしまった。
「言いたくない」
「何言ってんだよ。どうせは見られるんだ・・・・・・って、お前、まさか・・・」
立川は青ざめた。
 須藤はにっこりして頷いた。
「そうだよ。私がやった」
須藤は目安箱を開けて自分が入れた紙を取り出し、立川に見せた。
『文化祭をやめること、考えてくれましたか?』
「なんか見たことある字だと思ったら・・・」
須藤は笑っていたままだった。
「私、文化祭大っ嫌いなんだ。昔、嫌な目に遭わされたから。まぁせいぜい私が1年生の時だから4年前だし、立川は覚えてないだろうけど」
「もしかして、あの時のことか!?まだひきずってたのかよ!!覚えてるよ、そりゃあ!」
彼女の笑顔がふっと消えた。
「あの・・・須藤先輩に何があったんですか?」
彼女は迷いもなく話しだした。
「1年生の時の文化祭に、うちのクラスはカフェをすることになってたの。セットがカラフルできれいな感じにしてた。カラフルなのはセットだけじゃなかったこと、その時はまだ知らなかった」
「??」
「要するに、人もカラフルにしたの。わかるかな、ペンキで制服をカラフルにされたんだよ。汚されたってこと。洗濯じゃのかないし、買い替えるしかなかった。帰ってきた後、汚されたこと言わず自分のせいってことにしてお母さんに話したらすっごく怒られてね。2年生になるまでお母さんと口を利かなかったし、学校にも行かなかったよ」
「そう」
「こんなことになったのは文化祭があるからだって思ってね。表では協力して裏では文化祭を恨んでいた。毎年毎年文化祭なくしてくださいって書いて目安箱に入れたのに全然見向きもしてくれなかったんだ。で、気づいたの。なくなることを願っても叶わないなら、いっそ自分でなくすか。残念ながら生徒会長にはなれなかったけど、遠まわしに言ったりしてなくそうとした。でも、やっぱりダメだからマント盗んで隠しちゃった。これならなくなると思ったから。でも、見つけたか。・・・ごめんね」
沈黙になった。
「てことは、そういうことが他の人にもないようにしたくて?」
「まぁ、そんな感じかな」
須藤は必死に笑おうとした。立川はため息をついて言った。
「まだひきずってたとか、なくそうとしたなんて知らなかった。てか、なんでそういうこと他人に話さなかったんだよ!?自分をよけい苦しめるだけじゃん!!制服のことだって、まだお母さんに話してないんだろ?」
「うん」
「遅いかもしれないけど、話してみろよ!完全に仲直りしたわけじゃないんなら!!」
「そんなこと言われたって・・・」
「てかさ、お前100%文化祭をなくそうとしたわけじゃないだろ?だったら単に盗んでるはずだもんな。少々、許してたんじゃねぇの?」
「・・・」
「図星だろ。もう、文化祭をなくそうとするの、やめにしない?」
「えっ」
「実はな。お前が不登校だったのから復活した時、あいつがいなかったよな。須藤の制服を汚したグループのリーダー」
「渕川梨乃?勉強についていけなかったから退学したんじゃないの?」
「それもそうだけどさ、1番の理由はお前に関係するよ。あいつが言ってたこと、今でも覚えてる」

 それは立川が1年生だった時。文化祭のあの事件で須藤が不登校になって1ヶ月経った時だった。
「残念なお知らせです。渕川梨乃さんが今日で転校することになりました」
渕川は悲しい顔1つせずにみんなに別れを告げた。
 立川と渕川は小学生からの友達である。須藤とは中学生になってから仲よくなった。
 立川は不思議だった。渕川から聞きたがっていた。
 その日の放課後、立川と渕川だけが教室にいた。
「なぁ」
「何?」
「なんで明日から行けないんだ?」
「なんだっていいじゃん」
「だって、梨乃って転校するとか全く言ってなかったし」
「家は変わらないよ。・・・いいよ、莉久だけに教えてあげる」
渕川はまっすぐな瞳で話しだしていた。
「1つは勉強についていけなかったからかな。いつも3ケタだったしね。でも、もっと大きな理由があった」
「えっ?」
「文化祭だよ。あたし、真希の制服をペンキで汚したじゃん。いじめに値するんだけど」
「あぁ、あったな」
「どうしてそんなことしたかっていうと、嫉妬してたから、真希に」
「何を嫉妬してたの?」
「頭いいし、スタイルよくてかわいいし。それと、莉久と仲よかったから。あたし、莉久のこと昔からずっと好きだったもん」
「それ、普通に言っていいのかよ」
「別にかまわないよ。早くこの気持ち伝えたかったからね。返事だっていらないよ」
渕川は笑って見せた。
「あたし、何やってたんだろう。何バカなことしてたんだろう。いろんな人を巻き込んで、すっごくひどいことしてた。だから、退学するんだ」
「・・・」
「責任があるもん、真希のためにも。あたしは後悔してないよ」
目が潤んでいたことがわかった。
「莉久、お願いがある。真希が復活した時、支えてあげて。あたし以上に仲よくしてやって。いつか、あたしがこう思ってること真希に話して。でも、それはすぐじゃダメ。あのことを何年たってもひきずっていたらね」
「・・・わかった」
「あたし、もう帰るね。バイバイ」
渕川は手を振って去っていった。
 立川は須藤が帰ってきたら支えることを決意していた。

「梨乃が退学したのは・・・責任を感じたから?」
「うん。自分のしたことがちゃんとわかっていなかったみたいだった」
「そんなこと言ってながら・・・っ!!私はまだ梨乃のこと恨んでるよ、すっごく。・・・でも、梨乃と話したいな」
須藤は参ったような顔をして微笑んだ。
「私、決心したよ。お母さんに話す。梨乃とも話す。文化祭・・・何事もなかったように行っちゃって」
立川と友美は顔を見合わせて笑った。
「もう一度好きになれるようにする」
「その意気だ!」
3人は笑って、笑って、笑った。
 笑い声が聞こえたのか、羽実と恵麻がやってきた。
「羽実、恵麻!!」
「見つけたんだね!」
「よかった。文化祭できるね」
立川はマントを盗んで隠したのは須藤だということを過去もあわせてじっくり語った。
「えっ・・・」
あまりの衝撃に2人は声も出なかった。
「でも、大丈夫!私、あの事件から立ち直ったから。あと、迷惑かけるようなことしてごめんね」
いつもの優しい須藤だった。
 こうして、マント喪失事件は幕を閉じた。

 羽実たちはマントが見つかったことを瑞希と琉香に話した後、カフェの準備に入った。
「昨日見つかったんだったら、部活休めばよかった」
「須藤先輩が犯人だったなんてすごく意外。でも、ハッピーエンドなんだから安心して準備できるね」
「そうだね」
「ねぇ、当番の紙貼り出されてるよ、見にいかない?」
「行く行く!!」

 文化祭は史上最多の人数がHS学園を訪れ、「1-Bのおされカフェ」は大繁盛だった。
 本当に今回の事件もハッピーエンド。
 と、その放課後。
「おつかれ、羽実」
「おつかれ、疲れたね」
「うん。いっぱいお客さん来たもんね。あ、そうそう、羽実に話さなくちゃならないことがある」
「えっ、なになに?」
友美は羽実の耳元であることをささやいた。
「えっ!!とうとう立川先輩と・・・」
彼女はにっこり頷いた。
「すっごーいっ!!おめでとう!!」
そう、忘れてはいけない。
 友美の恋もハッピーエンド。                ・・・に終わるはずだった。

「・・・マジかよ」

11月~友達の相性~

 寒くなってきました。
 羽実のマンションの木の枝から派が落ち始めている。
 今日から11月に行われる合唱コンクールの練習がある。
 指揮者は米山、伴奏者は羽実と友美。
 その練習は困難なものだった。

「今日から練習!俺、わざわざキーボード持ってきたんだぞ!!練習しようぜぇ!」
「・・・はぁい」
たかが校内合唱コンクール。ほとんどの人はやる気を見せていない、つか、倉本先生のノリについていけない。
 優勝したら旅行に連れて行ってやるって言ったらみんながんばるかな。
 でも、あの10億円は夏休み旅行と非おしゃれ男子の服で使われただろう。
 そう、1つ目の問題はほとんどの人のやる気がない。やる気がある人は羽実、瑞希、歌音、あと・・・釈ぐらいだ。指揮者の米山なんか、伴奏者に任せっきりだし、男子にいじられるし、クラスまとめる力ないし。
 倉本先生は熱すぎて逆にやる気が失せるのだ。
 もう1つの問題は、人間関係・・・だろうか。チームワークっていうか。
 それに関することで、友美はいろいろと悩んでいた。

 それは、伴奏者を決める時だったようだ。誰も立候補しないのでピアノを弾ける人からしぼることになった。
 ピアノが弾けるのは、羽実、友美、瑞希、里依だった。
 4人の話し合いの時、羽実は違和感があった。
 瑞希って、ピアノやめたんじゃなかったっけ・・・。
 彼女以外にも歌音や佳奈なども習っていたけどやめた。でも、歌音たちも弾けるだろう。
 もしかして、弾きたい・・・?でも彼女曰く
「どっちでもいいよ」
 羽実は役割を引き受け、友美を推薦した。彼女はピアノをやめてないし、練習にもがんばっているだろう。まぁ、そんな感じで羽実と友美に決まったわけだ。
 友美はその時から視線を感じていたのだった。

 練習は思うようにいかなかった。パートがそろわないのだ。先生にも怒られっぱなし。特に男子はふざけてしまうのだ。
 そして、伴奏だった。
 伴奏にも練習が必要だ。あまりうまく弾きこなすことができないのだ。
 友美は指が届かないのか、苦戦していた。
 しかも、タイミングが合わないとか、そういう批判的なことをこそこそ話している人がいた。瑞希と歌音だ。
 歌音は7月でご存じ、ちょっと性格が悪めだったり、怒りっぽかったりする。人の悪口ほぼ全員言う。人一倍かわいい子はそんなのありがちなことだ。そして、全国の合唱コンクールで3位だった小学校出身だ。調子のってるというか、倉本先生に頼られるというか、まぁ微妙なところ。

 ある日の放課後、友美は疲れた顔をしていた。
「友美?」
「なんなんだろ、あの人」
「あの人?」
「瑞希だよ。瑞希、うちのことにらんでくるんだ、しょっちゅう」
「えっ?なんで??」
「わかんない。でも、すごくにらんでくる」
友美の顔がおびえていた。
「怖い・・・。うちのピアノが下手だからかな・・・」
「下手!?そこ!?しかも、下手じゃないし、下手だからにらむっておかしいじゃん」
「いや、瑞希ならしそう」
友美の目から涙があふれ出てくるのを察した。
 羽実はどう友美を慰めようかわからなくなってしまった。

 瑞希は瑞希で悩んでいるようだ。
 とある夜、メールしていたときのことだ。
『相談なんだけど、りいちゃんのことで』
瑞希曰く、里依も陸上部に入っていたけど全然来ない。羽実は読み進めた。
『りいちゃん部活とか来ないじゃん?なんか、さぼってるのかなとかつい思っちゃうんだけど。りいちゃんにもなんかあるのかもしれないしさ・・・。先輩に言われた通り、冷たく当たったりしないようにしてるんだけど、やっぱさすがにやばいんだ。1ヶ月ぐらい来てないんだよ。どーすんのがいいのかな?悩みとか聞いてあげた方がいいのかな?』
羽実は返事を打った。
『そうだね。何かあったか聞いた方がいいかもね。でも、来いっておすのはやめた方がいいよ。逆に来ないかもしれないし。合唱コンクールの練習でもね!』
『そうだね!!ありがとう』
羽実はあの話を思い出して、聞いてしまった。
『ゆみがね、みずきがにらんでくるって言ってるんだ。毎日にらまれてるって(汗)みずきはゆみのことどう思ってるの?』
『うちがゆみに思ってることは、もう少し大きい声で話せばいいのになぁ とか。でもゆみにもなんかあったんじゃないかな??うちらもゆみばっか責められないし。あと、うちはにらんでないよ!別になんとも思ってないから☆まぁ少し何考えてるかわかんないな。でも、同じクラスメートとして、助けてあげたい!って思うな。りいちゃんのことも!』

 次の日、瑞希の答えを友美に話した。
「うそっ!?絶対うそ!にらんでるよ!!なんなのあの子?縁切っちゃってもいいかも!」
「落ち着いて、友美。でも瑞希は確かにそう言ってたよ」
「んなわけないじゃん。てか、なんでそのこと瑞希に言うの!?」
「1人で悩んだって何も解決しないよ。私が代わりに聞いたんだよ」
「代わり?別に聞かなくていいのに!!」
ちょっとこれはやばい状態。友美はにらんでるって言い張るし、瑞希はにらんでないって言い張る。
 羽実は混乱してしまっている。
 どっちも大切な友達だ。本当だうそだと決めつけたくない。
 人間関係が危うい状態だから、合唱コンクールの練習なんか全然進まない。
 リハーサルなんかぼろっぼろでB組だけが2曲目を歌わせてくれず、退場させられた。
 そんな感じなのに、まだほとんどの人がやる気を見せないのだ。
 友美の伴奏の批判はまだやまないし。
 もう、嘆いたくなるぐらいだ。

 放課後、居残りになった羽実のもとに瑞希がやってきた。
「里依ちゃん、陸上部やめちゃったんだって。練習にもついていけなかったみたい」
「そっか。里依ちゃんには合わなかったんだね」
「うん。・・・あとさ、これ読んでほしいんだ」
と言って手紙を差し出した。友美への手紙だった。
「いいじゃん!」
読み終わった羽実は言った。
「ありがとう。じゃあ、明日きれいに書きなおしてくるから渡してくれるかな?」
「わかった」

 次の日の朝、羽実は友美にその手紙を渡した。
 友美はその場で読み始めた。

『ゆみへ

ゆみがにらんでくるって言ってたじゃん?
だから、うち、にらんでないんだけど。。。というより、最初から全然にらんでないし。。。
勘違いしてるよ!
うちは別に何もしてないのに・・・ゆみの方が避けてる気がするんだよね
違ってたらごめんだけど。。。

ふつうにしてたら、ゆみの方が冷たく?してくるじゃん。
うちも気をつけるけどゆみも勝手に勘違いしないでほしい

ゆみはうちのこと嫌いだと思うし、別にかまわないけど
ゆみばっかが嫌な思いをしているわけないじゃん。

うちはゆみのこと嫌いじゃないけど、直してもらいたいこともあるから。
うちも気をつけます。

いきなりごめん。
毎日楽しく過ごしたいから言いました。
これからもよろしくね。
うちは頑張って直していきます。

                                                      みずき』

 手紙を封筒にしまい直した時、友美は泣いていた。
「えっ、えっ、えっ!?どうしたの?どうしたの??」
友美は口を開けなかった。ただただ泣いていた。
 ここは廊下だからあまり気づかれにくい。
 でも、羽実はまた困ってしまった。
 見つけた判断は、そばに寄りそうだけだった。
 2人は立ち尽くしていたままだった。

 その日の放課後、羽実は急ぎの用事があったので先に帰った。
 友美は勇気をふりしぼって瑞希のもとへ行った。
「手紙、読みました。うちの方も、ごめんね」
瑞希は微笑んだ。
「友美から来てくれてうれしいよ。うちも、にらんでると思わせてごめん。歌音ちゃんが言ってた友美のピアノが下手ってことに頷いちゃってごめん。うちら、合わないところもあるかもしれないけど、お互い悪いとこ直し合って、もっと仲よくなれたらいいね」
友美と瑞希は泣きながら抱き合った。
 と、その様子をのぞいていたのは、羽実だ。
 急用だなんてうそだったのだ。本当は友美と瑞希のことで気になっていたのだ。
 でも、よかった。
 あの2人の問題を私がなんとかしようって思ってたけど、その問題を解決へ導くことができるのは、友美と瑞希だけなんだなって。その2人だけ。
 私は見守る存在なんですね。じゃ、このまま帰りますか。
 でも、ばれてしまった。
「あーっ!!羽実っ!帰ってなかったの?」
「すみません、やっぱ心配で・・・」
「全く、おせっかいなんだから。まぁ、そういうとこ嫌いじゃないけど」
笑いが絶えない。
 平和に一歩戻った合唱コンクール前日だった。

「あめちゃん差し上げます!!」
あめちゃんなめて本番に臨んだ羽実さんたち。でも、4位でした。ドンツーです。
 でもね、落ち込んでないんです。打ち上げしようなんて言い出してる人もいるし。
 気まずい展開にならなかったのはよかった。
 ハッピーエンド・・・かも?

「ピアノよかったよ」
「お世辞なくせにー」
「お世辞じゃないしぃー」
「まぁいいや。4位だったけど、みんなそれなりにがんばったんじゃないかな」
「友美は瑞希と縁を切らなくて済んだし。よかったよかったぁ!!」
「・・・でも、瑞希よりむかつく人、見つけちゃった」
「・・・え?」
「山田歌音。・・・許せない」
友美の目が怒りで燃えている気がした。
 嵐の予感・・・。

12月~クリスマス会、秘密事件~

 実はの話。
 倉本先生うそついてたんです。
 あのお金、まだ残っていたそうです。
 その模様がこちら。
「失礼します。倉本先生に用があってきました」
「んー?あぁ、もうできたのか。おつかれ」
「はいどうぞ。・・・ってそれなんですか?」
「財布だよ。見てわかるだろ。お前の目は節穴か」
「節穴じゃありません。どう見てもこれでかいです。みんなポーチって間違えます。お金盗らないので貸してください。みんなに何に見えるか聞いてまわります」
「ダメダメダメ!悪かった、ごめん」
「なんでこんなにでかいんですか?」
「宝くじまだ使いはたしてないからだよ。・・・って、あ・・・」
倉本先生は手を口にあてた。
「うそついてたんですね・・・」
「えっ・・・と、これにはわけが」
「ごまかしても無駄ですよ。自分のために使いたいのもよくわかります。でもうそはいけませんよ、うそは。いくらぐらい残ってるんですか?」
「えーっと、1億5000万くらい」
「この財布の中には?」
「15万ぐらい?」
倉本先生はおドジである意味バカだ。わざわざでかい財布持ち歩く必要なんかないし(そんな大金持ってたら絶対盗られるし)、口がすべってしまうとはあきれてしまう。
「できたらでいいんですけどね。B組のある一部クリスマス会やりたいって言ってるんです。その費用どうするのって聞いたら出し合うとか、倉本先生に協力してもらうとかって」
「出し合えばいいじゃないか」
「それは、倉本先生のお金が一般人並みに戻ったっていう話です。でも、先生はまだあったから・・・」
「うそついてでも出し合えば・・・」
「だーかーらっ、うそはいけません。だめですか、やっぱり?」
「・・・もういいよ、いくら?」
「ありがとうございますっ!!さっすが倉本先生、ノリがいいっ」
「あっども」
「そうと決まれば即報告!失礼しましたーっ!!」

「クリスマス会、倉本先生が費用払うって!!」
「やった!!あとは計画と場所だ」
「誰が参加するかもよね」
「あと、日にちも」
「そもそも、なんで先生OKしたんだろ?」
「かくかくしかじか」
「えっ!?それってうそついてたってこと?」
「ひどいな~」
「決められるものはもう決めちゃおうよ。25日にしちゃわない?」
「そうだね」
「今日みんなで手分けして1人ひとり行けるか聞いてみよっか」
「賛成!」
1-B女子12人はちゃくちゃくと準備をすすめる。
 でも、1-Bの女子は13人。1人だけ準備に参加していないのだ。
 それは絶対やりたがりそうな歌音だ。
 しようっていう意見が出たのは今日。歌音は今日たまたま学校を休んでいるのだ。
「そういえばさ、プレゼントって交換するの?」
「もちろん!」
「ならさ、それだけは自分たちが賄おうよ。さすがにそのお金も倉本先生が払うなんてちょっと・・・」
「そうだね。プレゼント以外で払ってもらえばいいかもね」
「今日の仕事は男子たちに行けるか聞くことだね。歌音ちゃんには私が聞くよ。」
「じゃ、出陣!」

 次の日、結果を発表し合った。
「井原OK、宇都宮OK」
「大川OK、垣本OK」
「木村OK、国立OK」
「栗井OK、坂本OK」
「渋谷OK」
「釈OK」
「鈴木OK、歌音ちゃんNG」
「中川OK」
「菱川OK」
「堀本OK」
「湯川OK」
「米山OK。ほぼみんなOKじゃん!!歌音ちゃんがNGだなんて・・・」
「えっとね、25日に歌音ちゃんローカルアイドルデビューするんだって。だから__________」
「「「えーっ!?」」」
「だから、NG。他の日もだめらしい。毎日冬休みは仕事なんだって」
「マジか・・・」
「うん。・・・場所どうする?貸しきりなんてしにくいよね」
「羽実ちゃんてばー!ここでしょ」
「あっ、そうか。でも、あいてるの?」
「あいてる」
「場所は教室。日にちは12月25日。歌音ちゃん以外全員参加。何しようかな」
「アンケートとらない?何するかみんなに聞いてみようよ!今から作るね」
「あ、うちも手伝う!」
 アンケートの結果をもとに、羽実たちはプログラムを作成した。

<1-Bクリスマス会について>
1.日時と場所
    12月25日(日)10:30~
    1-B教室にて

2.持参物
    プレゼント(1000~3000円)、水筒

3.すること
   ①ゲーム
      ・フルーツバスケット
      ・ビンゴ→景品はみんなが持ってきたプレゼント!!
      ・いすとりゲーム     etc...
   ②マジック披露
      知ってた?彩葉ちゃんのいとこってマジシャンなんだって!
      来てくれるそうです☆
   ③ごちそうをひたすら食べる
      女子たちが琉香ちゃん家でごちそう作ってきます!
      男子たちも作りたかったら来てね(笑)

4.その他
   ・ごちそう代とかの費用は倉本先生が払ってくれます
   ・質問があったら女子に聞いてね

「クリスマス会まで2週間もないね。これ貼ってなきゃ男子たちわかんないよね」
「そうだろうね。あー楽しみ!!」

 1週間前になった。事件は起こった。
 羽実と友美がしゃべっている時、意外な人物がやってきた。中川だ。
「おい、一矢」
「・・・何?」
「お前、生徒会長とつきあってるだろ」
「・・・はぁっ!?」
あまりにもの唐突なできごとだった。
「中川、なんで知って・・・」
「普通に話してたじゃねぇか。俺、耳がいいんでね」
「ばらす気でしょうね?」
「大丈夫大丈夫。ばらさねぇよ」
中川は笑い飛ばした。
「ほんとに?」
「ほんとさ」
友美は不安だった。

 羽実と友美がトイレから帰ってきた時、中川が激怒していた。
 大川を追いかけまわしている。
「ふっざけんな、くそ!」
羽実は渋谷に何があったのか聞いてみた。
「中川に彼女いるんだって!」
答えになっているような、なっていないような。この様子だと大川が中川に彼女がいることをばらしたと考えられる。
 中川は追いかけるのをやめると席に戻っていった。
「ねぇ、中川。あれってマジ?」
「・・・」
中川はそのままうずくまった。
 まぁ中川の気持ちがわからないこともない。
 チャイムが鳴ったのだった。

 友美の不安と中川の怒りはおさまらないままクリスマス会は来てしまった。
 女子たちががんばった装飾やごちそうは完璧だった。
「クリスマス会はじめまーす!!」
「「「いぇーっ!!」」」
クリスマス会は盛り上がった。彩葉のいとこのマジックはみんな大感心だったし、ゲームも大いに楽しんだ。
「これから『緊急企画!さけび大会』をはじめます!」
「なんだ?」
「1-Bの生徒が1人ずつ叫びたいことをここで叫んでもらいます」
司会の七依は教卓をさした。
「乗るってこと?」
「バカだな。乗ったら体重で壊れるだろ」
「くじ引きで順番決めまーす!」
七依は箱から小さな紙を取り出した。
「出席番号2番の人!」
「俺かよー」
笑いが起こった。宇都宮はやれやれ、仕方ねぇなという顔をして教壇に上がった。
 そして、息を吸って叫んだ。
「カレー食いてぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!」
まさかのカレーだった。またまた大笑い。
「次は5番の人!」
「俺かっ!」
ミスター空気読めない男、木村が2番手だった。木村は精いっぱいの大声を出した。
「ラーメン食いてぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!」
まさかのまさかのパクリだった。
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」」
沈黙。
 そう、付け足さなきゃならないのがあった。
 木村次郎はミスターウケ狙いに失敗する男でもあったのだ。
 あぁ、かわいそうな木村くん。彼はむった悔しがって戻っていった。
 何人か終わった後、みんなはおなかを抱えて笑っていた。
 この企画はヘタしたらねこんじゃう企画だったのだ。
 しかし、クリスマス会がはじまってから1回も笑っていない者がいた。
 中川だった。
 さっきから1人でぶすっとしている。心配して話しかけたら威嚇されそうな感じである。
 そんな中川に気づいているのはほんの4・5人。さけび大会は進められていくのだった。

 3分の2が終わったくらいの時、3番が呼ばれた。大川だ。
「大川。頼むよ」
「笑いを期待してるぜ」
「・・・」
大川はちらっと誰かを見つめた後、教壇に上がった。
「中川」
静かな声で彼の名前を読んだ。
 彼は反応したが思い切りにらみつけていた。
 大川は中川を見つめて叫んだ。
「ごめんっ!!」
コメントする人も、笑う人もいなかった。
 なぜなら、大川の謝罪を聞いた者は1人もいなかったからだ。
 まぁ、一応謝った声を聞いたことがあるのもいるのだが、こんなに真剣なのは見たことがない。
「・・・!!」
中川は目を見開いた。あの追いかけまわした後の大川の様子は腹が立つくらい何事もなかったようにみんなと話していて、謝ろうと全然したがらない雰囲気だったからだ。
 しかし、彼はあのことを忘れていなかったのだ!
「あの後からずっと中川は1人でうずくまっててさ、これは謝らなきゃと思ったんだよ。でも、噂はもう全体に広まってるし、中川の性格から許してくれるとは思わなかった」
大川の表情は本当に真剣だった。・・・けど、ちょっと失礼なこと言ってないか!?
「で、横山がさけび大会やるっつってたからチャンスだと思って。謝るのが遅くなってごめん。ほんとごめんっ!!」
「・・・」
中川が大川を見上げる表情はかたかった。
 でも、羽実にはその表情はさっきよりやわらかくなっていると感じていた。
 七依はハッと我に返ってくじ引きに戻った。
「次は、12番!」
中川だ。彼はガタッと席を立ち、教壇に上がった。
 そして、大川を見つめた。
「許してやるよ」
中川はにやりと笑うと大声で叫んだ。
「このバカ大川ぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!」
みんなは「許してやるよ」とか言いながら怒ってるじゃんと思っていた。
 しかし、大川はその中川の表情から笑っていると認識していた。
 中川は笑いながら教壇を降りて大川の背中をたたいた。
「なんだよ」
彼はぶっきらぼうに言った。
「なんだ、その態度。本当は許してもらって嬉しいくせに」
大川はギクッと顔を赤らめて目をそらした。
「謝ってもらったからって上機嫌になるなよ、バカ中川」
「バカはそっちだろ」
2人はたちまち笑い出した。こうして、中川と大川との事件は解決した。

 でも、まだ終わっていない事件があった。そう、あれだ。
 それは再びこのクリスマス会で登場し、悪循環してしまったのだ。
 『ごちそうをひたすら食べる』の時だった。すっかり機嫌がよくなった中川は大川と仲よく(?)食べていた。
 どんな話をしているかっていうと。
「で、彼女とどうなんだ?」
「ぶっ!!」
中川は思わずジュースを吹き出した。
「おい、なんでその話になるんだよ」
「だって気になるもん」
「俺じゃなくて、他のやつの話しろよ」
「えっ?このクラス、中川以外につきあってるやついるの?」
「とぼけんな。お前も知ってるだろ。米山とか、鈴木とか」
「あぁ、俺知ってる」
「だろ?でももっといるんだぜ。女子とか」
「女子?由佐なら鈴木だろ?」
その時、中川は上機嫌になりすぎて禁句を口にしてしまった。
「由佐以外だよ。一矢なんかすごいぜ」
「一矢?一矢もつきあってんの?で、どこがすごいんだ??」
「実はな、一矢、生徒会長とつきあってるんだぞ!!」
その禁句を口にしたのは一瞬みんなが沈黙になった時だった。だから、みんなに聞こえてしまった。
「・・・えっ?」
1-Bみんなの視線が友美へいった。中川はしまったと口をおさえた。
 でも、もう遅い。
「友美、生徒会長とつきあってんの?」
「マジで・・・」
友美はぶるぶる震えていた。中川をにらむことさえできなかった。
 そして、1-Bクラス中は大騒ぎとなった。
「一矢が立川先輩と・・・」
「意外、意外すぎる」
そんな言葉が友美を襲う。
 友美に失礼なのだが、彼女のことだからこのまま震えまくって泣きそうになって、ずっとひきずりそうだと羽実は思っていた。
 しかし、友美は見た目や今までの友達へのふるまいからくるイメージと全く違う、それこそ意外な行動をするのだった。
 友美の恋でざわざわしている仲、友美はガタンと大きな音をたてて立ち上がった。教室はしんと静まり返った。彼女はとてつもない大声で言ったのだった。
「友美の恋がなんだ!!一矢友美は立川莉久とつきあっちゃいけないっていう法律、どこの政府がいつつくったんですか!?立川先輩とつきあって何が悪いの!?」
その声量はさっき「さけび大会」でのものよりずっとずっと大きかった。
「そうだよなぁ」
「「「!?」」」
みんなは声のする方へ向いた。なんとそこにはあの立川がいたのだ!
 立川は教室へ入り、友美の頭をぽんとたたいた。
「一矢とつきあったら逮捕されるとかあるわけないもんなぁ。確かに、俺と一矢がつきあうのはほとんどの人が前代未聞だと思うだろう。でも、前代未聞だからこそおもしろいんじゃん。俺、こいつといて楽しいし、合うと思うけど?お前らは俺と一矢の関係にブーイングするつもりなのか?」
頷く者はいなかった。
「いや、俺は一矢に謝れって言いに来たわけじゃないよ。ちょっと、誤解とかされたらあとあと大変なことになるだろうし。変な空気にしてごめん。じゃあな」
立川は教室を出ようとしたが、小声で友美に話しかけた。
「一矢、よく言った。強くなったな、お前」
優しく微笑みながら彼女の頭をなでると、教室を出て行った。
 友美は立ったままだった。教室も静かなままだった。
 もとの楽しい空気に戻さなければ!彼女はまた話しだした。
「えっと、なんかごめんなさい。でも、うちと立川先輩がつきあってること、他の人に言わないでくれるかな。先輩の言うとおり、みんなから誤解とかされたら大変なことになっちゃうかもしれないし」
ちょっとの沈黙の後、みんなはにっこりして頷いた。
「確かに意外だった。でも、ブーイングなんかしてない。立川先輩をオトした一矢がすごいなぁって思った」
「一矢のために黙っておくよ。1-Bの秘密ってやつだな。なぁみんな、言わないでやろうよ」
1-Bのクラスメートは笑顔で返した。友美の表情が明るくなった。
「ありがとう!!」
1-Bって本当いいクラスだなと改めて思った。
 こうして、クリスマス会はもとの空気に戻っていった。

 片付けの時、中川が友美に手を合わせた。
「あぁー一矢ぁ、マジごめんっ!!口がすべった」
「ほんとだよ。もう一瞬、中川のことももっともっとばらそうと思った」
「いやいやいやいや。やめてくれ。一矢のこともみんな言わないって言ってたんだし」
「わかったよ。お互い言わないっ」
2人は笑い合っていた。羽実はそんな様子をほほえましく見ながら掃除に打ち込んでいた。

「ねぇ羽実、年賀状出した?」
「うん、ある程度書けたから今から出しに行く」
羽実は年賀状を見なおした。
 1-Bのクラスの女子はもちろん、他のクラスの友達、小学校の時の親友の遥月は絶対だな。
 と、羽実の頭に征耶の名前がよぎった。
 半年前のあの記憶がよみがえる。
 これは出した方がいいのか?出さなくてもいいのか?征耶のことになるとどんなコメントを書こうかそこでも迷う。
 うん、ここは!
「出しません」
「・・・??」
「誰に?」
「花田に」
「出したらいいじゃん」
羽実は何も答えずに外に出た。
「「??」」
 カタン。
 羽実は3分歩いた先にあるポストに年賀状を入れた。
「・・・はぁ」
そのころ、羽実の母は掃除機をかけようと羽実の部屋に入った。
「ん?」
机の上に1冊のノート。何のノートかわからない。
「羽実のノートってきれいなのかな?」
ノートを開く。
「日記?あの子が?」
母はパラパラとページをめくった。最近はじめたようだった。
 母は一番新しい日を見てみた。今日だった。

『12月26日
 みんなに出す年賀状が完成したよ。
 今日出しに行く予定。
 でも、迷っている人がいる。   花田だ。
 半年前から花田のこと考えるようになっちゃったんだよ。
 年賀状、花田にも出した方がいいのかな。
 でも、それはそれでなんて書いたらいいかわからないよ。
 どうすればいいと思う?
 あぁ、どうしちゃったんだろ、私。
 おかしくなっちゃってるよ。                    』

1月~友美の本音~

『1月1日
 あけました。
 届いちゃったよー><
 誰からか?   ・・・花田。
 まさか来るとは。
 送ってくれたから私も出さなくちゃ。
 何書こうかまだ迷ってる。
 まぁ、自然に書けばいいよねっ!
 年賀状1枚もらおっと。         』
「よし」
日記にもご覧のとおり、征耶から来ちゃったんです。
「お母さーん、年賀状1枚ちょうだい」
「はい」
羽実は年賀状を受け取ると部屋へ戻っていった。
 征耶の年賀状を見てみた。麻衣と同い年の妹との写真だった。コメントは・・・。
『今年もいろいろ期待してるよー』
いろいろって・・・。
 羽実の心は複雑だった。どういう意味でそう伝えているのか気になる。
 やはり、このごろの羽実さんはおかしいです。
「まぁ、とりあえずー」
『今年もがんばれ優等生☆!!』
「でいっか。花田頭いいし。うん、これでいこう!!」
「お姉ちゃん、何ぶつぶっつ言ってんのー?」
いつのまに、そこに麻衣がいたのだ。
「お姉ちゃんがぶつぶつ言うとは珍しい。もしや『ものおもい』にふけているのか・・・?」
「だぁーっ!!違う!てか『ものおもいにふける』ってどこから知ったんだ!?」
「百人一首の本に書いてた。『ものおもいにふける』っていうのは恋してるという_____」
「違う違う!!『ものおもい』になんかふけてません!!」
羽実はかぁっとなって叫んだ。
「もぉ、羽実さんてばぁ」
「いいから出て行けー!!」
羽実は強引に麻衣を追い出した。
 まだまだおしゃない小学4年生のおこちゃまをこんなおマセに育てたの誰ー!?
 麻衣はおマセな性格と同時にカンがするどい。
「なんなんよ、もううざぁー!」
「またぶつぶつ言ってる」
部屋の外から声が聞こえた。
「ぶつぶつじゃありましぇーん!高宮麻衣とかいう人がうざいって思っただぁけぇー」
「どこがうざいん?」
「その性格!」
「あはっ、それは直せない。だってこの性格じゃないと高宮麻衣じゃないもんっ」キャピっ
羽実は本当に麻衣が憎たらしくなってドアを開けた。
 ぶつぶつの続きが聞きたかったのだろうか、ドアのそばにいすが置いてあり、そこに麻衣はちょこんと座っていた。
「麻衣、あんたねー」
羽実はため息をついて冷たい目で麻衣をにらんで言った。
「今すぐこのドアより半径1.5m以上離れなさい。さもないと___」
「やだぁっ!!」
その時。
「「うるさーい!!廊下で大声出すなぁ!けんかするなら部屋でやれー!!」」
両親のどなり声だった。
 羽実と麻衣の行動はここだけ共通していた。
「「・・・ごめんなしゃい」」

 短い短い冬休みが本当にあっというまに終わり、3学期がはじまった。
 1-Bでいられる最後の学期である。
 時がたつって早いものです。
 3学期になって雰囲気がぐんと変わった者がいた。歌音である。
 デビューしてからまた一段とかわいくなっている。そして、ふるまいも若干変わっていた。
 友達にする話も自分のアイドルグループのことばかりだった。
「メイクして、髪巻いたんだー。この学校でもOKだったらいいのに」
 いや、ここ私立ですよ。
 歌音が上機嫌なのもよくわかる。かわいい上に、HS学園に通っているので頭いいと言われるだろうし、ちやほやされるに違いない。
 性格だって、仕事では猫をかぶっていると考えられる。
 それにお怒りの様子なのは・・・友美だ。
 2ヶ月前から彼女は歌音に怒の感情を抱いている。
 しかし、歌音がデビューしてから彼女の感情は悪い方向にいってしまった。
 つまり、嫌である。

 数日後、羽実は友美と2人で帰る予定だった。しかし、友美が追指導にひっかかってしまったので待つことになった。
 と、その放課後、友美は羽実に手を合わせてやってきた。
「ごっめーん、羽実。今日歌音ちゃんに一緒に帰ろうって誘われちゃった」
「・・・えっ?」
「ほら、歌音ちゃんだと断れないからさぁ。だから、もう帰ってもいいよ」
友美はそう言うと急いで教室を出て行った。仕方なく羽実は1人で帰った。
 ・・・友美は歌音のことを嫌っているのになぜ承諾したのだろうか。確かに断りにくいのはわからないこともない。
 こそこそ他の人に悪口を言うより、本人に不満を言ったら歌音も悪い性格を直すという可能性も0ではない。

 今までの友美を見てきて、羽実は成長してるなと思えた。
 小さいことで泣く回数もぐんんと減ったし、好きな人へ告白する積極性もあったし、何より12月のあのできごとだ。
 自分に関する騒ぎに自分で処理をしてもとの空気に戻したのだ。
 今の友美なら歌音に本音を伝えられる羽実は確信していた。

 次の日も友美の追指導の日だった。今日こそ2人で帰ることなっていたのに、今日は雨。いつも自転車の歌音がバスとなり、また友美を誘ったのだ。
 昨日と同じパターンである。
「羽実、ごめ___」
「歌音ちゃんと帰るんでしょ」
「そうなんだよ、今日も。なんなんだあの子・・・」
「ねぇ、友美。私と帰るのと歌音ちゃんと帰るのとどっちが楽しい?」
「えっ・・・」
急な質問に友美はとまどった。
「そりゃ・・・羽実だよ。知ってるでしょ?うちが歌音ちゃんのこと嫌いなこと」
「そうだよねぇ、歌音ちゃんの悪口はよく言ってるもんね」
「・・・一体何が言いたいの?うちが歌音ちゃんと2人で帰られるのが嫌なの?」
「違うよ。私は疑問なんだよ。悪口を言うくらい歌音ちゃんが嫌いな友美が一緒に帰るなんて」
「だから、それは断りにくいから・・・」
「断りにくいから・・・!?」
羽実は顔をしかめた。
「あのね、正直言わせてもらうけど、嫌いな人の悪口言いまわってて本人の前では好きぶってふるまうなんて、友美は歌音ちゃんより性格が悪いよ」
「・・・なっ!?」
「断りにくいのもわからないこともないけど、疲れるんでしょ、歌音ちゃんに合わせてたら。好きぶってたら。違う?」
「・・・合ってる」
「だからさ、もしまた誘われたら思ってること言ったらどう?」
「えっ!?無理だよ。あの子にそんなこと言ったら・・・」
「自分は嫌いなのに、やっぱりあっちからは嫌われないようにしてるんだね」
「・・・」
友美は目をそらした。羽実は微笑んで見せて、彼女の肩をポンとたたいた。
「大丈夫。今の友美は強い。友美なら言える。できるよ。また誘われたときに、ね」
「・・・うん・・・」

 数日後、雨ではなかったが、朝のバスに歌音が乗っていた。そして、友美の追指導の日でもあった。
「あの、友美?」
「うん?」
「こないだ、ああ言ったけど、もう気にしないでいいよ。言わなくていい」
「??」
「これは私の問題じゃない、友美の問題だ。人の問題に手を出す私の方がどうかしている。だから、友美は友美の考えでいって」
その時、先生の声がした。
「高宮さーん、ちょっと来てー」
「といわけで。じゃ」
羽実は去っていった。
「・・・」
友美は黙ったままだった。

 放課後のことだった。歌音がやってきた。
「友美、一緒に帰ろう」
「・・・」
『大丈夫。今の友美は強い。友美なら言える。できるよ』
この言葉が友美の頭をかすめた。
「ねぇ、聞いてる?」
「・・・ちょっと来て」
 友美が動き出したのだった。
 彼女は歌音を教室の隅に連れて行った。
「何がしたいの?こないだみたいにみたいにうんって言えばいい話じゃん」
追指導までまだ時間はある。
「うちね、あんたに怒ってるんだ」
「・・・はっ?」
「歌音ちゃんのしてること、すっごく最悪だと思う。かわいいから許されるってわけじゃないんだよコノヤロー!!!!」
つい叫んでしまったのでみんなが反応してしまった。しかし、友美は本気の友美になっている。
「悪口言ってながらいい子ぶってなれなれしくするなんて最低!!」
「なっ・・・」
「たぶん歌音ちゃん、うちのことうざいって思って、他の子にうちの悪口を言うだろうね。図星でしょ?」
「・・・」
「歌音ちゃん、さんざんうちのこと悪口言ってたね。うち知ってるよ?クラスマッチの時冷たく当たったよね。それはうちだからしたんだよね。自分より弱いと思ったからしたんでしょ?自分より強いって思ったら悪口だけで済ませるはずだもん。人によって変わるなんて、すっごく最悪な判断だと思う」
「そっ、そんなこと言ってて人のこと言えないじゃん!あんただって、あたしの悪口言いまわっていい子ぶってるじゃん!!」
「そうだよ?わかってるよ。断ったら恨まれそうだって思ったもん、歌音ちゃんのことだからって。でも、この行動が歌音ちゃんと同じになるってわかってもうやめることにした」
「なんなの、わざわざここに連れてきて。あたしが最悪の人間だって言いたいわけ!?」
「悪く言えばそうかもね」
「悪く言えば?」
「うん。うちが一番言いたいことはね」
友美は少し間をおいて言った。
「うちを利用するな!うちを暇つぶしの相手にするな!ってこと」
「・・・っ!!」
歌音が友美を強くにらんでいることがよくわかった。
「そういう反応すると思ったよ。ごめんね。一応謝っとく」
「思ったとおりの反応で悪かったね」
「悪く言えば歌音ちゃんは最悪だけど、良く言えばなるべく直してほしいってこと。うちも直すように努力するから」
友美の声はやわらかくなった。
「歌音ちゃんのすべてが悪いとは言わないよ。歌音ちゃんにもいいところがいっぱいあるはずだもん。悪いところが目立ってるだけ。うちが言うのもなんだけどさ」
「・・・」
歌音の目も鋭くなくなったように感じた。
「その悪いところを少しでも直したら、もっとかわいく見えるし、もっとモテると思うんだけどな」
歌音はハァッとため息をついた。
「確かに嫌われてるとは思ったんだよね。でも、どこを直したらいいかよくわからなかった。とりあえず、自分自身を見つめなおしてみるよ。友美、ごめん」
その時、チャイムが鳴った。
「今日は他の子と帰るよ。友美、羽実と帰りたかったんでしょ?2人で帰りなよ。・・・あっ、早くしないと追指導遅れる!」
「あっ!本当だ!!」
友美は急いで準備をした。
 そして、羽実に向かって微笑んで見せたのだった。

「やっぱり言ったんだ」
「うん。本当のこと言ってすっきりした」
「そっか。よかった」
「うち、羽実のおかげで成長したと思う。ありがとう」
「えっ、私のおかげ!?いっ、いえ、こちらこそ」
「照れるなってー」
 今日の友美は本当にすっきりしていた。
 歌音も直すって言ってたし、ハッピーエンド。
「そういえばさぁ、もうすぐあれだよね!!」
「あれって?」
「バレンタインデーだよ!バ・レ・ン・タ・イ・ン!!」
「バレンタイン・・・」
 羽実はその言葉を聞いてハッとした。

 バレンタインデーのこと忘れてたぁーっ!!

2月~バレンタイン・トラブル~

 さぁ、やってまいりました、女の子がときめく季節。
 羽実さんは悩んでおります。
「あげるべき?あげないべき?」
 今は友チョコを作り終わった様子。明日のためにチョコを作っている。
 問題はここから。
「お姉ちゃんどうちたんでちゅかぁ?」
来た、邪魔者。
「んん?なんでもないよーっ?」
羽実はわざと明るく答えた。
「いや、今のは悩んでた。もっもしかして、好きな人にチョコあげるか迷ってるとか?」
うぅ・・・。こういう時の麻衣はカンがするどすぎる。
「誰!?誰なの!?教えて!誰にも言わないから!」
そう言ってて言うのが麻衣さんなんですよね。
「あっちいけー!」
羽実はただそう言ってチョコづくりを始める。
 どうやら作ることにしたみたいです。
 ちらっと横を見ると麻衣が犬のようになっていた。振っているしっぽが見えそうです。
「余ったらちょうだいっ!」
「やだ」
「ケチなんだからー」
「・・・」
無視、こういう時は無視!

「・・・できた」
羽実はラッピングも終わったあのチョコを見た。
 あげる人はあの人。花田征耶である。
「義理としてあげたらどうってことないでしょ」
「またぶつぶつ言ってる。やっぱりものおもいに・・・」
麻衣の言葉は一切聞かず羽実はそのチョコや友チョコを冷蔵庫に入れた。
「おやすみー」
羽実はわざとらしげににっこり笑って自分の部屋に戻るのだった。
「・・・」
 麻衣は冷蔵庫を開けた。
 たくさんの友チョコの中にまぎれた、たった1つの本命(義理?)チョコ。
 彼女はその九牛の一毛的なチョコに手を伸ばした。
 その時。
「まーいー」
麻衣はハッとして冷蔵庫を閉めた。
「今、何時だと思う?」
母はやけににこにこしていた。
「うーん、9時半?」
「違うよ。11時だよぉ。小学4年生がこんな時間まで起きてていいのかなぁ」
彼女はおそるおそる時計を見た。確かに11時を過ぎている。
「こっ、これにはわけが・・・」
「早く寝ろーっ!!!」
母は目をギラつかせて言った。麻衣はひゃあっとベッドへ逃げて行った。
 母は彼女が逃げたのを確認すると冷蔵庫を開けた。
「これ、あの人にあげるのかな・・・」

 2月14日になりました。
 その朝、羽実は袋1つ1つに名前を書いていった。
 と、征耶へのチョコを手にとった。羽実は、決心したように「花田」と書いた。
 今日の学校帰りに渡そう。羽実はチョコをバッグにしまった。

「はい、羽実」
「ありがとう、はい。先輩にあげるの?」
「もちろん!昨日は何時間かけたか・・・」
「そっかー」
その時だった。
「マジで!?米山もらったのか!?」
「いいだろ」
「いいだろじゃねぇだろっ!!なんでお前なんかがもらえて俺はもらえないんだ!!」
「米山には彼女がいる」
「なっ!!」
「あぁーそうだったな。いいなー米山は。幸せそうで」
宇都宮と米山と大川が騒いでいる。
「男子すごいもらいたがってるじゃん」
      カコンッ    バサバサッ
「「あっ・・・」」
宇都宮の足のせいで羽実のチョコが入ったバッグが倒れてしまった。袋が出てきた。
「わわっ、ごめん!!」
宇都宮はあわててそれらを拾った。
 袋には○○ちゃんへと書いてあるばかりだ。
 羽実も拾っている時、急に宇都宮が立ち上がった。
「これ・・・」
羽実は見上げた。そして、目を見開いた。
 彼が持っているのは「花田」と書いてあるチョコの袋。
「それはっ!!」
取り返そうとしたが返してくれなかった。
「お前、あいつのことが好きなのか?」
「・・・っ!!」
「はなだせいやのことが好きなのか?」
「なっ、なんで知ってるの!?」
「当たり前じゃん。俺の親友だぞ?お前の代わりに渡してやるよ」
そう言うと、教室を出て行った。
「・・・」
羽実は固まっていた。
「やばい、やばい、やばい」
「羽実、しっかり!!」
友美が声をかける。
「やばい、やばい、やばい」
「羽実!!」
羽実は「やばい」しか言えなかった。
 なんで宇都宮は征耶のことを知ってるの?自分で渡そうと思ったのに!
 彼が戻ってきた。チョコを持っていなかった。
「高宮、せいやに渡してきたぞ」
隣には見知らぬ人がチョコを持って立っている。
 その人は背が高くて、足が長くて、スタイルがいい。
「えっと、高宮・・・だっけな。なんか、お前としゃべったことないからよくわかんないんだけど、チョコありがと。今食べてもいいかな」
「えっ、えっ?」
戸惑っていた時は彼は袋をすでに開けてしまっていた。
 トリュフチョコを口に運ぶ。
「うまいな、これ」
彼はにっこり笑って言った。
「えっ、えっ??」
羽実は混乱していた。そして・・・。
「高宮!!」「羽実!!」

「ん・・・」
目が覚めたら、なぜか保健室にいた。
「羽実!気づいた?よかった。あと20分くらいで授業が始まるよ」
「うそっ!?急がなきゃ!」
羽実はガバッと起き上がった。
「おい、落ち着け」
「ゆっくりしなよ」
ベッドのまわりには、友美と宇都宮と、さっきの男の子がいた。
「お前は授業に行きなよ。移動なんだろ?」
「でも・・・」
「いいから」
彼はしぶしぶ保健室を出て行った。
「あの、なんで倒れちゃったの?」
羽実は倒れる前のことを思い出しながら話した。
「えっと、宇都宮が見知らぬ人連れてきて、チョコ持ってて、食べてて、混乱しちゃって・・・倒れちゃった」
「混乱?見知らぬ人?あいつの名前ははなだせいやだよ。あいつのことが好きなんじゃないのか?」
「知らない知らない。花田とは学校違うもん」
「えっ?」
羽実は近くにあった紙とペンを取り出して『花田征耶』と書いた。
「この人に渡そうと思ってたんだけど」
宇都宮はそれを見て目をぱちくりさせた。そして、『花田征耶』の下に『花田聖也』と書いた。
「どうやら、俺の勘違いだったようだな。まさかの同姓同名」
しかも、チョコは彼が持っている。あれを征耶にあげることができない。
「あの、花田くんに謝らなくちゃ」
羽実はベッドから降りた。
「E組だよね」
「そう、だけど」
彼女は保健室を出て、歩きだした。
 授業まであと15分。まだ間に合う。

 聖也(花田だとまぎらわしいので彼だけ下の名前にします)は廊下にいた。
「はっ、花田くん!!」
「あっ、高宮。大丈夫?」
「うん。あと、ごめんなさい!!宇都宮の勘違いだった!」
「・・・え?」
「チョコ、花田くんにあげる予定じゃなかったんだ。『花田征耶』っていう小学校の時の友達にあげる予定だったの」
「・・・ってことは」
「同姓同名。ごめんなさいっ、本当ごめんなさいっ!!でも、君のこと全然嫌いじゃないんで、その人の本命じゃないんでっ」
「本命でしょ」
「・・・え」 ぎくっ
「見たらわかるよ。高宮ってわかりやすいね」
怒っていなかった。羽実はかぁっと赤くなった。
「大丈夫大丈夫。確かになんでしゃべったことないのにくれたんだろって思ったし。同姓同名は間違えやすいもんね。そんなに謝らなくていいよ。あと、わかりやすいっていいことだと思うよ」
「でも、恥ずかしい・・・」
「大丈夫。気にすんなって」
聖也はにこにこしていた。
「花田くんっていい人だね」
「そうかな?俺、結構欲張りだよ。   来年は勘違いじゃなくもらえたらいいなって思ったし」
小声もちゃんと彼女に聞こえた。
「じゃあっ!あげるよ!!おわびに来年あげる」
「うん、ありがとう。じゃ、バイバイ。来年一緒のクラスになりたいね」
聖也は手を振って階段を上がっていった。
「聖也、いいやつだろ」
いつの間にか友美と宇都宮がいた。
「うん」
たぶん他の人からももらってるはずだ。けど、なんであんな行動したんだろ。初めて見た」
「?」
「いや、なんでもない」
「??先行くよ?」
羽実は自分の教室へ戻っていった。
 見た目も中身もいい。こんな人初めて会ったかも。きっといろんな人から好かれてるんだろうな。
「花田くん、羽実のこと好きになっちゃったのかな。羽実が倒れた時自ら羽実を抱えてたけど」
「さぁ。おもしろいって思ったんじゃない?」
「おもしろい?間違えたから?宇都宮の勘違いだったのに?」
「違う、そこじゃない」
「じゃあ、何が?」
「さぁな」
「なんだよ」
「行こうぜ。もうすぐチャイムがなる」

「友美、無事に渡せた?」
「うん、喜んでくれた。後は味だ」
「おいしいって言うに決まってるよ」
「心からそう思ってほしいな」
「・・・あっ、着いた。バイバイ」
 結局あのチョコは聖也に、征耶には余分に作っておいたものをあげることにした。
 羽実の頭の中はダブルはなだせいや。
 これから征耶に渡す。どういう反応をするか気になる。ドキドキする。
 聖也はいい人だ。自分も来年一緒のクラスになりたいし、友達になりたい。
 でも、まだちょっとだけ混乱中。
 そんなことを考えていると。
「よぉ、サメ」
「花田ぁ」
征耶だった。
「久しぶりだな」
「うん、そうだね」
「今日、バレンタインデーか。そうそう、俺、きりん(羽実の親友の遥月の「き」をとって)にもらったんだ。義理だけど」
「へぇ」
「今のところはそいつと家族だけだな」
「私も・・・あげるよ」
羽実はバッグから袋を取り出した。
「えっ、マジで?」
「いつも仲よくしてくれたから」
「ありがとう、今年は過去最高だ」
「少ないね」
「・・・うるさい」
2人は笑い合った。そして羽実は今朝あったことを話した。
「えっ!?お前の学校にもはなだせいやが?」
「その人、いい人でね。見た目も中身もいいんだよー」
「俺は?」
「うーん、どうだろ」
「なんだよそれ」
また笑う。そうこうしているうちに暗くなってきた。
「じゃあ、またな。チョコありがとう」
「うん、またね」
 羽実は征耶といると楽しく感じる。笑いが絶えない。
 確信した。やっぱり、私は花田のことが好きなんだ。
 来年は正真正銘の本命チョコにしようかな、なんてね。
 羽実はくすっと笑った。

「ただいまー」
「おかえりお姉ちゃんっ。どうだった?」
「おいしそうって言ってくれたよ」
「じゃなくて。本命の方だよ」
「本命?渡してないよ?」
「本当に?」
「花田にあげたけど、本命じゃない」
「なんだぁ。おもしろくない。ちぇー」
麻衣は口をとがらしてどこかへ行った。
 宿題をしている時、携帯が鳴った。知らないアドレスだった。
『花田聖也です。よかったら登録してください』
羽実、即登録。
『登録したよ!てか、なんで知ってるの?』
『友達が教えてくれた^^』
その後もメールは続いた。
 羽実と聖也は友達になれたようだ。そして、彼女の恋にも波乱が起きそうだ。

 次の日、学校に来たら何人かの男子が落ち込んでいた。倉本先生でさえもだ。
 昨日、チョコをもらえなかったからだろうか。
 それはさておき、羽実の目にカレンダーが映った。
 もうすぐ1-Bじゃなくなるんだ・・・。ちょっとさびしさがわいてきた。
 その時、可恋が羽実を手招きした。
「まだ、誰にも言っちゃだめだよ。今から言うことは羽実ちゃんにしか言わないから」
 2月15日、突然知ったその内容。
「倉本先生学校やめるって・・・」

3月~寂しき別れ~

 倉本先生がHS学園をやめる・・・。
 なぜだろうか。別に倉本先生は悪い人ではない。熱くて、ナメられてて・・・。
 あっ。倉本先生は熱いタイプだから、中高生は引いちゃうんだ。

 彼がやめるということは可恋と羽実ぐらいしか知らないだろう。
「ねぇ、可恋ちゃん。なんで先生がやめるって知ってたの?」
「えっとね、昨日の放課後の話なんだけど・・・」
可恋は語りだした。

「辞表?」
その校長室からの校長の声が、たまたま廊下を歩いていた可恋の耳に聞こえた。
 可恋は立ち止まった。
 誰がやめるんだろ。
「はい。今年度をもってHS学園を辞めようと思います」
倉本先生だった。
「どうしたんだ?君はまだ若い。君なら生徒を支えられるはずだ」
「僕には無理でした」
彼の静かな一言が聞こえた。
「・・・そうか。ところで、4月からどうするんだ?」
「小学校の採用試験を受けます。僕には小学校の方が向いていると思うので」
「わかった。がんばってください」
「はい。今までありがとうございました」
出てくる気配を感じ、可恋はその場を去ったのだった。

「聞いちゃったんだ」
「そう、たまたま」
チャイムがなった。2人は席に戻った。
 羽実は倉本先生と目が合ったのだった。

 倉本先生が辞めるということはその次の日から広まっていった。
 うわさって怖いものです。
「なぁ垣本、知ってたか?倉本先生辞めるんだってさ」
「えっ!?」
 中には本人に聞いた人もいた。しかし、彼は「はぁ?」と返すだけだった。

 ある日の放課後、羽実は居残りとなっていた。提出物をすっかり忘れていたのだ。
 しかも、倉本先生に渡さなければならない。
 わざわざ職員室に行くなんてめんどくさいなぁ。
 いや、悪いのは羽実さんですよ。
「今回に限って多い・・・」
 教室に1人ぽつんと黙々と進めていた時、誰かが入ってきた。
「倉本先生・・・」
「おう。できたか?」
「終わりません!」
「そうか。でもやれ。」
「はい・・・」
 ちょっと沈黙したところで羽実はためらいながらあの話をしようとした。しかし、彼から持ちかけた。
「俺、なんでこんな人間なんだろ」
「えっ?」
「高宮も知ってるだろ」
「あのこと・・・ですか?」
「そうだ。俺、やめようと思ったのは合わなかったから。俺の話なんて誰も聞き入ってくれやしない。だから、別にさみしくないんだ」
彼がどういう気持ちでそう言っているのかわからなかった。でも、羽実は羽実なりに話した。
「誰も?そうでしょうか。そんなことないと思います。嫌われてるって思ってるんですか?確かに先生は熱いです。でも、私は嫌いじゃありません。他の人にも好きだという人いっぱいいると思います」
「・・・ありがとう。でも・・・」
「倉本先生っ!!先生らしくないですよっ!先生は明るいです、この学園で1番ってぐらい。なのに、暗いなんて先生らしくありません!!もっと嫌われますよ!」
初めて教師に怒ってしまった気がした。
「高宮、本当にありがとう。最後まで明るくいきたいと思う。でも、誰かにすごく好かれてるとは思えない」
羽実は黙っていた。しばらくして口を開いた。
「先生できました、はい」
羽実は席を立った。
「明るいからこそ先生ですから。がんばってください」
羽実は静かに教室を出た。

 次の日、1-Bに異変が起こった。垣本が連絡もなしに学校に来ないらしい。
「電話してみます」
  プルルル、プルルル・・・
「はい、垣本です」
「HS学園の宮城です。亮太くんは今日お休みですか?」
「亮太は1時間前に家を出ましたよ」
「えっ!?来てないですよ」
「なんですって!?確かにかばんを持って出て行ったのに!!」
 宮城先生が不思議な顔をして帰ってきた。
「垣本くん、おやすみじゃない。家出かもしれません。今、行方不明だって・・・」
「「「えーっ!?」」」
 立ち上がったのは坂本だった。
「なぁ、今から垣本を探しに行こうよ」
「何言ってんだよ。授業はどうなるんだ!?授業をつぶしてまで垣本を探しに行くのか?最近は不登校の人が増えている。それは、何か理由がある。なのに、むりやり理由を探ろうとするのか?やめようよ。自分から出て来てくれるまで待とう」
「嫌だ!!確かに理由があって垣本は学校に来なかっただろう。だからこそ、そばにいる人が必要なんじゃないかと俺は思う」
「俺は探さない方がいいと思う。逆に、迷惑だよ。しかも、授業つぶれて春休みに行くなんてうんざりだ」
坂本と米山が言い合いになってしまった。
 その時、ある男が発言した。
「俺が行く」
「「「倉本先生がっ!?」」」
「ダメですよ、先生にも授業があるんですよ?」
「大丈夫。他の先生にたのめばいいし、今日はつまってないんだ。だから、坂本と米山の意見を合わせて俺が行くことにする」
反応する者はいなかった。
 SHR後、坂本が倉本先生に話しかけた。
「俺、垣本がどこにいるか見当がつくんです。まずはそこに行ってもらえませんか?」
彼は倉本先生にその場所を耳打ちした。
「OK。行ってみる」
倉本先生は教室を出て行った。坂本は少し期待しながら彼を見送った。

 ここは見知らぬ洞窟である。今、11時なのかわからないくらい真っ暗だ。
「本当に、ここにあいつがいるのか・・・?」
 その時、音が響いた。誰かがいる。彼はその音のする方へ進んだ。
 しかし、行き止まりの壁だった。
 壁の向こうで音がする。あの人はどうやってこの壁を通ったんだろう。入口は1つしかないって坂本が言ってたし、今まで1本道だった。
 しばらくすると、壁が光った。
『10ビョウイナイニ、アンゴウヲコタエナサイ』
「えっ!?」
あせるうちに10秒たってしまった。
『ジカンギレー』
ロボットみたいな声がするとともに、後ろに壁が降りてきた。
「うわぁっ!!」

 放課後になっても倉本先生は帰ってこなかった。
 夕方6時頃、羽実は近くにあるショッピングセンターで買い物をしていた。その時に、坂本と遭遇した。
「あっ、高宮」
「どうなの?垣本は」
「わかんない。倉本も帰ってこないし・・・あーっ!!」
急に坂本が目を見開いた。
「どうしたの?」
「あの洞窟には・・・暗号があったんだ」
「洞窟?暗号?」
「垣本がいる確率が高い洞窟は、俺らが幼稚園の時の秘密基地なんだ。俺と、垣本と、・・・あと、中橋陽喜っていう友達と」
「中橋くん!?小学校一緒!」
 ここで中橋陽喜(なかはしはるき)くんについて説明しよう。彼は、さっき羽実が述べた通り、彼女と小学校が同じで、発明というちょっと変な特技を持つ。羽実も小学生の時に、彼の発明品に何回も巻き込まれたことがあるぐらい、発明好きだ。
「そうなんだ。俺ら3人は同じ幼稚園で大の仲よしで、よくそこで遊んでた。俺ら以外が入らないように、陽喜が暗号の壁ってやつを作ったんだ。あいつ、発明が得意だからさ」
「うんうん」
てか、あの人幼稚園の時からそんなすごいもの作ってたんだ(汗)
「小学校はばらばらになったけど、やっぱり遊んでた。だけど、小5くらいからそこで遊ばなくなってね。まぁでも、大切な場所だ___」
「ストップストップ。過去話になっちゃってますよ。質問なんだけど、誰かが入る時暗号が必要。もっと細かいしくみはある?」
「あるよ。10秒以内に言えなかったら入れない。さらに、閉じ込められる・・・」
「ってことは・・・」
「あっ!!垣本がもし家に帰ってなかったら、倉本あのまま閉じ込められてる!!」
「急ごうよ!」
「うん!!」
 とりあえずおにぎり(倉本先生の食料)を持って、羽実と坂本は垣本の家へ行った。
    ピンポーン
「はい。あ、虹也くん。どうしたの?」
「亮太くん帰ってきましたか?」
「それがまだなのよ」
「「ありがとうございましたっ!!」」
 2人は洞窟へ急いだ。

 ぼうぼうとした草むらを抜け、羽実たちは洞窟を見つけた。
「入るぞ」
「うん」
 少し歩くと、行き止まりになっていた。
「ここだな」
坂本は近くにあったハンマーを使って壁を壊した。ガラガラと音をたてて崩れた。
 その先に気絶していたのは・・・。
「先生っ!」
「うぅ・・・腹がへった・・・」
羽実はおにぎりを差し出した。倉本先生はわざか10秒で食べてしまった。
「ありがとう。なんか閉じ込められてたんだ」
「大丈夫ですか?」
「うん、今はなんとかね。てか、これはなんなんだ?」
倉本先生は壁を指差した。
「暗号の扉です。すみません、暗号伝え忘れていました」
 坂本は前に出た。壁が光った。
『10ビョウイナイニ、アンゴウヲコタエナサイ』
「HKR。」←陽喜、虹也、亮太の頭文字
 壁が開いた。
「よし、進もう」
 だいぶ歩いた先に大きな部屋があった。
「小さい時、よくこの中で遊んでたんだ。今から開けるよ」
坂本は小声でそう言うと扉を開けた。そこには垣本がうずくまっていた。
「垣本!!」
彼は寝ていたらしく、ハッと顔を上げた。
「虹也、高宮さんに倉本先生・・・。なぜ僕がここにいることを知ってたの?」
「わかりやすいよ。垣本ならここに来ると思ってた」
「垣本、言いにくいかもしれないけど・・・なんで今日学校に登校しなかったの?」
 垣本は意外とためらうことなく答えた。
「こないだ、倉本先生が辞めることを聞いた。すっごくショックだった。僕は泣き虫だから、提出物が出ないから、バカだから、いじめられてた。それを助けてくれたのは虹也と倉本先生だったんだ。でも、虹也は他の人と仲よくなっちゃって、孤独だった。いや、それがいけないってわけじゃないよ。さみしかった。そのさみしさを和らいでくれたのは、倉本先生だったんだよ。倉本先生が1番勇気づけてくれた。そんな先生がやめるなんて信じられないよ!!先生、辞めないで!僕は先生が大好きなんです!!先生がいないと、僕は、僕は・・・」
何も言えなかった。
「でも、先生には先生の事情がある。僕が口出しすることじゃない。僕、強くなる。倉本先生、HS学園を離れても僕を陰で支えてくれませんか?」
 垣本の目が潤んでいた。
 倉本先生は彼の肩をポンとたたいた。
「あぁ、応援するよ、ずっと」
 垣本は泣きだしてしまった。
「今は思う存分泣け。俺が全部受け止めてやる」
「せっ・・・せんせーいっ!!」
 羽実と坂本はその光景を静かに見ていた。

 今、夜の8時。垣本もやっと泣きやんだ。
「みんなを送っていくよ。もう遅い」
 垣本の家に着いた時、彼の母はとても喜んでいた。また、坂本の家に着いた時、彼の母は息子を褒めていた。
 羽実と倉本先生の2人になった時、羽実は話しかけた。
「私の言うとおりだったでしょう?垣本は大好きだったんですね」
「そうだな。もっと生徒を信用するべきだったかもしれない。ちょっと・・・俺、やっぱり、急に、さみしくなっちゃった・・・」
「それでこそ倉本先生ですね!!」
「え、俺女々しいってことか・・・?」
 そう話しているうちに家に着いた。
「本当にありがとな。じゃあ、また明日」
「さようなら」
 羽実は家に入った。母が腕組みをして立っていた。
「遅い。遅すぎる」
「じ、実はね、いろいろあってさ」
「あ、そう。詳しい話はご飯の時にしましょう。もう、おなかぺこぺこなんだから」
「なんで先に食べなかったの?」
「・・・」
無視された。
 羽実は待っていてくれてちょっとうれしかった。

 次の日からは、垣本がいつものように来た。坂本が呼びかけたのか、1-Bのいろんな男子が垣本と仲よくしていた。彼は、幸せそうだった。
 そんな、離任式まであと1週間という時、里依がある提案をした。
「倉本先生に色紙書こうよ」
「おっ、いいね!」
「倉本先生泣いちゃうんじゃない?」
「まさかー」
 里依が持ってきた色紙に、1-Bの生徒たちはメッセージを書いていった。
 短文から長文、シンプルからカラフルまで様々。
 嫌ったり、ナメたりしてるけど、感謝の気持ちはみんなちゃんとあるんです!
 彼はどういう反応をするだろうか・・・。

 あっというまに当日となり、離任式も終わった。
 教室に入る1-Bの生徒たちの中にふざけている者はいなかった。
 倉本先生が教壇の上に立った時、3学期学級委員の米山が号令をかけた。
「全員起立!」
 垣本が色紙を倉本先生に渡した。
「「「1年間ありがとうございました!!」」」
 思わず倉本先生に涙があふれた。彼は本当に熱い人だった。
 彼は色紙を大事そうに抱えると、後ろの黒板へ歩き出し、チョークを持った。
 そして、その黒板に大きな字でこう書いた。

『1-Bハ最高ッ!』

 倉本先生は振り向いた。涙で顔がくしゃくしゃだった。
「みんなが生徒でよかった。本当、ありがとうございました!!」
 みんなは拍手して彼の周りに集まった。
 1-Bの生徒、先生、みんな泣きそうだ。
 1年B組は本当に最高である。みんなそう思っているだろう。

 彼らは、泣いて、笑って、倉本修先生に別れを告げたのだった。

エピローグ~1-Bの一員で、本当によかった。~

 今日は春季補習最終日である。
 明日からは、もう1年B組ではない。
 1週間残していたあの文字も、消さなければならない。
 最後のSHR、宮城先生と29人の生徒。倉本先生はもうすでにいない。
「今日で、1年B組解散です」
 言いにくい一言だった。
 みんなは1-Bを考えていた。

 陰は薄いけども陰でがんばっていた井原。
 みんなをたくさん笑わせてきた宇都宮。
 ちょっとバカだけど憎まれなかった大川。
 泣き虫だけど何事にも真剣だった垣本。
 がんばって笑わそうとしていつも失敗していた木村。
 怒りっぽいけど友達想いだった国立。
 天然でわがままで、みんなの弟みたいだった栗井。
 夏休みにトラブルを起こしたけど、強かった坂本。
 宇都宮とナイスコンビでみんなを楽しませた渋谷。
 苦手なことにも向き合った釈。
 恋に波乱はあったけど、実は恋人想いだった鈴木。
 他人の恋人をばらしたりしたけど、素直だった中川。
 授業中よく寝ていたけど、優しかった堀本。
 まじめだけど、話してみたら楽しかった菱川。
 不思議くんだったけど、何気におもしろかった湯川。
 イジられながらもなんとかクラスをまとめた米山。
 いろんなことがあったけど、強くなった友美。
 おもしろくて、友達想いで、たまにSな莉奈。
 急に変なことを言い出すけど、おもしろかった彩葉。
 静かそうで優しいけど、天然な一面もあった優花。
 ストレートだけど、性格はとてもよかった瑞希。
 おもしろくて、絵がうまくて、ちょっとマイペースだった恵麻。
 クラスのために何かできることをしようとした羽実。
 恋のトラブルに巻き込まれたけど、文武両道だった可恋。
 クラスのイベントを熱心に考えてくれた里依。
 しっかりしていて、頭がよくて、たまにおっちょこちょかった佳奈。
 かわいくて、芸能活動もこなしていた歌音。
 恋はもちろん、他のこともとてもがんばっていた琉香。
 迅速の足を持ち、笑えばみんなも笑った七依。
 生徒想いで、優しく、時には厳しかった宮城先生。
 生徒想いで、とにかく熱かった倉本先生。

 1-Bはどの人もいい人、最高な人だった。
 もちろん、もう1-Bでいられなくなるのはさみしい。
 しかし、ひとりひとりの心の中にある1-Bは永久不滅だろう。
 たとえ、あの文字が消されてしまっても・・・。

 この1年、いろいろあったけど、このクラスが最高だったからこうして笑えたんだね。

 1-Bの一員で、本当に、本当に、本当に、よかった。

1-Bハ最高ッ!~1-Bの一員で、本当によかった。~

ここまで読んでくれてありがとうございました。全然うまく書けたわけじゃないけど、書きあげた時すっごく達成感感じました!!4月・7月・11月の話とか、本当にあったことなんですよ。さすがに8月の話とか羽実(のモデル)が征耶(のモデル)に恋したのは作り話ですけどね(笑)この話は、まだ続きます。羽実が中学2年生になった話なんですけど、現在執筆中です。また書きあげたら公開しますね!今回は本当にありがとうございました!!

1-Bハ最高ッ!~1-Bの一員で、本当によかった。~

1年B組の学校生活を描いた物語。一部ノンフィクション!!

  • 小説
  • 中編
  • 青春
  • 恋愛
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-01-22

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. プロローグ~僕らが出会った日~
  2. 4月~合宿、真夜中のガールズトーク~
  3. 5月~最後は必ず紅が勝つ!~
  4. 6月~雨の季節は恋の季節?~
  5. 7月~やきもちは必要?~
  6. 8月~スペシャル・1-B旅行~
  7. 9月~恋の行方~
  8. 10月~マントはどこだ!?~
  9. 11月~友達の相性~
  10. 12月~クリスマス会、秘密事件~
  11. 1月~友美の本音~
  12. 2月~バレンタイン・トラブル~
  13. 3月~寂しき別れ~
  14. エピローグ~1-Bの一員で、本当によかった。~