zokuダチ。セッション29

エピ・111・112・113・114

冒険編8 流れ流れて、流されて

一行はドラゴン谷の更に先に有る、もしかしたら未知の世界へ
続いているかも知れない……、という不思議な洞窟へ足を踏み入れた。
 
「うわあ、久しぶりだな、マジでRPG時代に逆戻りしたみてえ……」
 
「コケコケ、コケだらけきゅぴ!」
 
何だか懐かしそうにジャミルとチビが洞窟内を見回す。
 
「……ねえ皆、本当に大丈夫?一応確認しておくけど、この先に進んだら、
本当にどうなるか分からないんだよお……、もしかしたらもう二度と……、
か、帰るのなら……、今だよお……」
 
ヘタレが最後にもう一度……、念を押す様にしんのすけ達に
警告するのだが……。
 
「オラ、絶対皆に付いてくっ!そう決めたのっ!」
 
「やいやいっ!」
 
「ボオオオー!」

「アンっ!アンっ!」
 
「しかし、強いなあ、お前らもさあ、マジで根性あるよ、本当に……」

「伊達に春日部の平和はお守りしてないんだゾ!えっへん!」
 
「わたしたちもがんばらなくっちゃ!ねっ、いろはっ!」
 
「そうだねっ!ワンダフルパワー全開で行こうっ!」

子供達にパワーを貰い、こむいろコンビも益々張り切っている。
……逆にダウドは益々後ろに下がりたくなってくるのだった。
 
「……ホントにもう、みんな、知らないよお……、どうなっても……」
けど、ご迷惑お掛けすると困るので、オイラやっぱり帰ろうかな……」
 
「……ああんっ!?オメーこの後に及んでまだんな事言ってんのか……?」
 
「……嘘だよお、そんな、アイシャの顔でガン飛ばして睨まないでよお、
チンピラジャミル……」
 
やはり今一踏ん切りの付かないヘタレである。
 
「小さい子に負けてるんだから、どうしようもないなあ、ダウドは……」
 
「アル……、でも無理もないわ、ダウド、ごめんなさい、私達の為に……」
 
「えっ?い、いや、アイシャまで……、冗談だから、気にしないで、
あはは、あははは!」
 
「……さて、ダウド君の冗談が判明した処で先進むかね」
 
「行くよ、ダウド」
 
「……はい、行きます」
 
ジャミルとアルベルトが歩きだし、その後にひまわりを背負った
いろは、こむぎ、アイシャ、チビ、しんのすけ、シロとボーちゃんが続く。
 
「また本当に此処にちゃんと戻って来れるのかなあ~……、
ううう~……」
 
名残惜しそうにダウドが洞窟の入り口を眺めた…。そして、約一時間
位歩いた処に大きな穴が見えてきた。あれがレッドドラゴンの言っていた
穴なのだろうか。
 
「あそこか、もう行き止まりだし、どうやら此処でのゴールらしいな……」
 
「ひ、ひいっ!?」
 
ダウドがおったまげる中、ジャミルが率先して穴まで走って行った。
 
「……この先に……」
 
「未知の世界へと続いているのかしら……」
 
「おお~……」
 
「……あなの、なかに……、いしが……」
 
「ねえよ……」
 
ジャミルに突っ込まれるボーちゃん。メンバーは一斉に暗い穴の中を
覗き込む。……やはり、穴の中は暗くて何も見えない……。
 
「自殺行為だよお、やっぱやめようよお!」
 
「ダウド、お前はやっぱ嫌か、分ったよ、これ以上無理に一緒に
来てくれとは言わねえ、だから、今ならまだ間に合う、帰っていいぞ……」
 
「オイラは皆の事を心配してるんだよ!未知の世界に行けたとしたって……、
第一帰る方法があるのかもどうか……、いじいじいじいじ……」
 
「……だから帰れって言ってんだろっ!俺達はもう覚悟を
決めて此処まで来たんだっ!チビ達だって来てくれるって
言ってんだ!皆の気持ちを無駄にするのなら、早く戻れっ!」
 
「……オイラそれも嫌なんだよお、だってさあ~……、うしうじうじ……」
 
「もうこうなったらっ!みんなでいっしょにダウドを穴に押し込めて
早くいっしょに飛び込んじゃおうよっ!」
 
「……乱暴はよくないけど……、でも、本当にいいのかな……」

「いや、いろは、戸惑わないでくれ、……こむぎの言う通りかもだ、
……皆、申し訳ねえけど、力を貸してくれ……」

「……ダウド、本当にご免なさい……!」

「直ぐに僕らも行くからっ!……我慢してっ!」

「「せーのっ!!」」
 
 
「キャーーアアああーーーー………!!……化けて出てやるううーーっ!!」
 
 
再び始まったダウドのヘタレ我儘に、一同呆然とするが……、
こむぎの意見を取り入れ、ヘタレは皆に押さえ付けられ、
トップバッターで強制的に穴に叩き込まれ悲鳴と共に暗闇に
消えていった……。
 
「じゃあ、俺らも行くか……、けど、本当に大丈夫か?アル、
チビも……、俺達の為に……」
 
「もう此処まで来ちゃったしね、……今更帰るとか来た意味ないよ」
 
「チビ、冒険大好きゅぴ!」
 
「有難う、アル、チビちゃん……」
 
アイシャが微笑むと、アルベルトとチビも笑顔を交わす。そして、
全員一呼吸置くと、一斉に穴の先へと飛び込むのであった……。
 
 
 
 
 
「……どうやら、着いたらしいな……、っと……」
 
一番最初にジャミルが立ち上がり、周囲を見回す。
周りは川であり、一行は孤立した小島に不時着した様だった……。
 
「ちょっ、進めないじゃん、これじゃ……、何なのさ、これ……、
はあ、それにしても酷い目に遭ったなあー!ンモー!」
 
次に起き上がったダウドが早速文句を言う。強制的意見を提案した
……こむぎの方をちらっと見ながら。こむぎは子犬に戻っており、
いろはの腕の中できょとんとしていた。
 
「わん?」
 
「海きゅぴ?」
 
「川よ、チビちゃん……、でも、本当にこれじゃ……」
 
先へと行ける道が見つからない為、アイシャも困リ果てるが……。
 
「……かわの、なかに、いしが……」
 
「あっても駄目だっつーの!」
 
「ボオ」
 
ボーちゃんは石の匂いがするとどうにも興奮するらしい。
 
「おお!あんな処にイカダが置いてあるゾ!」
 
「はあ?……本当だ……」
 
しんのすけの声に耳を傾けてみると、いかにもな、わざとらしい
感じで岸にイカダが置いてあった。
 
「そうか、これに乗って川を下って行くのかな……」
 
「げっ!あ、アヤシイよお!お約束過ぎるって!!」
 
アルベルトが言うと、ダウドが嫌々をする……。
 
「イカダ下りですか!テレビとかで見た事あるけど、私、本物って
初めて、凄いねっ、こむぎっ!」

「わんわん、わんだふるー!」
 
いろはとこむぎは初めてのイカダ下りに大興奮である。

「またっ!どうしてなんでもかんでもワンダフルになるのっ!!」
 
「でも、これで川を下るしか他に方法がないわ……」
 
「でもねっ、アイシャっ!川の先には何がある?お約束でっ!……滝だよ、
滝があるんだよおお!!」
 
つまり、ワンパターンで100パー、滝つぼに落ちるであろう、……と、
いう事をダウドは主張したいらしい。
 
「けどな、このまま此処にいてもどうにもなんねんだよ、
俺は行くから……」
 
そう言うと、ジャミルはイカダの方へ向かって歩き出す。
 
「私も乗る……、チビちゃん、おいで、抱っこしてあげる」
 
「きゅっぴ!」
 
「僕も行くよ……、此処に居ても仕方ないもの……」
 
「……アルまでええええ~……」
 
「じゃ、私も乗りますね!しんちゃん達もおいで!こむぎはしんちゃんと
シロちゃんをお願い、私はボーちゃんとひまちゃんを担当するね!

「わんっ!」

こむぎは少女モードになるといろはと共にイカダに搭乗する。
 
「ほほーい!う~ん、これはよいフトモモですなあ~……」

「アンっ!アンっ!」

「もう~、しんちゃんのえっち!くすぐったいよ~!」
 
しんのすけとシロコンビはこむぎの膝の上に乗る。……幸せすぎで、
顔がにへえ~状態。

「よいしょっと、こっちは準備万端でーす!」

「ボ……」

「やいやい!(かかってこい!)」
 
「分ったよお、行きます、オイラも行きますうう~、とほほ~……」
 
いろははひまわりを負ぶうと、ボーちゃんを膝に乗せる。
観念して折れて、ダウドもイカダに乗り、一行、イカダを漕ぐ者も
いないまま、いい加減にそのまま川を流されていった……。
 
「……皆さん、さようなら、これが三途の川への道のりです……、
あ、さいなら、さいなら、さいなら……」
 
「またっ!縁起でも無い事言わないでよっ、ダウドっ!」
 
「ぎゅっぴ、ぎゅっぴ!」
 
アイシャとチビ、ダウドに怒る……。
 
「……まあ、気の向くまま、流されていくしかねえよ……」
 
「はあ、ジャミルは本当に呑気……」
 
と、言ったアルベルトの声が止まった……。
 
「どうしたい?」
 
「……お約束、来るかもしれない、滝の音がするんだ……」
 
「うわああああああーーーっ!!」
 
「わあーっ!たきさんくだりだあーっ!キターーっ!」

「もうっ、こむぎってば、でも、凄いっ!」
 
いろはとこむぎ、意気投合し、大興奮である。
 
「……チビちゃんっ!!」
 
アイシャがチビを抱きしめる腕にもぎゅっと力が入る……。
 
「大丈夫、大丈夫きゅぴ……」
 
そして、イカダは滝を物凄いスピードで滑り、下に落ちるが……、
何故かイカダはひっくり返らず、滝つぼにも落ちずに無事着水した。
一言で言えば、何処かの某有名アトラクションの様であった……。
 
「どうにか無事だったみてえだけど、皆生きてっか……?」
 
「だ、大丈夫……、よね、チビちゃんも……」
 
「きゅっぴ!面白かったきゅぴ!」
 
「ダウド、大丈夫かい……?……駄目だ、気絶してる……」
 
「がががががが……」
 
アルベルトがダウドの方を見ると、泡を吹いて気絶し、
少し洩らしていた……。
 
「……お、も、しろ、かっ、た……」
 
「おおー!オラも最高だったゾ!」
 
「たいやいー!」

「アンっ!」
 
「楽しかったあー!ホントにわんだふるなたきさんくだり
だったねえーっ!」

「すっごくスリル満点だったねっ、こむぎっ!」

「……いーやーダアアーー!!もう勘弁してええーーっ!!」
 
恐れを知らぬ、こむぎといろは、子供達は喜んでいるが、ダウドはもう
散々の様であった。
 
「とにかく、どうにか無事だったから良かったな、お?陸だ……」
 
イカダを川岸に付け、いよいよ、新しい場所での冒険の始まりとなる……。


冒険編9 ジャミ公、誘拐される

川沿いから暫く進むと、街並みが見えて来た。さっきまで川下りを
していたとは思えないほどの、景色の変化っぷりに一同驚くばかりである。
 
「石造りの街か……、ふ~ん……、家も何か変わった形のが多いなあ……」
 
「だから、ジャミルったら……、いい加減に蟹股で歩くのやめてよ!」
 
「癖なんだからしょうがねえだろ!オメーこそ俺の格好でオカマ口調は
よせっつってんだよ!!」
 
……別世界に来ても、ジャミルとアイシャのケンカは絶えず……。
 
 
街内には露天商が立ち並び、雰囲気はまるで中世アラブの様でもあった。
 
「うわあ、すっごく大っきな街ー!何だかおとぎ話のアラビアンナイトの
世界に来たみたい……」
 
「わたし達、ホントに大ボーケンしてるんだねえっ!」
 
「あれ?しんちゃんがいないけど……」
 
「ぼく、は、いる……」
 
「アル、あそこよ……」
 
アイシャが指差す方向を見ると……。しんのすけが綺麗なお姉さんを
ナンパして口説いている。
 
「おねいさ~ん、素敵なスカーフですねい、にへへ~……」
 
「有難う、坊やも随分と変わった格好ね……、でも、可愛いわねえ」
 
「でも、スカーフよりも、おねいさんの怪しい雰囲気の方が……、
ス・テ・キ!」
 
〔げんこつ〕
 
「ったくっ!油断も隙もねえっての!……ども、失礼しましたー!」
 
「いやああ~ん、あっ、其処は掴んじゃいやあ~ん……」

「まあ、随分と乱暴な女の子なのね……、下品ですこと……」
 
ジャミルはしんのすけを回収、見ていたお姉さんは乱暴な
ジャミルに苦笑。今はアイシャの姿なので、凶悪な女の子と
思われているらしい……。
 
「ハア、お腹空いたなあ、何だか美味しそうな食べ物がいっぱい……」
 
露天商に並ぶ、美味しそうな食べ物を見て、ダウドがお腹を鳴らした。
 
「ケバブだよ、お兄さん、おひとつどうだい!?」
 
ターバンを頭に巻いた髭もじゃのおっさんがダウドの目の前に
串に刺した焼きたての肉を差し出した。
 
「きゅっぴ、チビもお肉食べたいきゅぴ……」
 
ダウドに便乗したのか、食いしん坊のチビもお腹を鳴らす。
 
「そうね、お腹空いちゃったわよね、私もなのよ……」
 
「ぴい?」
 
チビを抱いたまま、アイシャも恥ずかしそうに下を向いて顔を赤くする。
 
「……たいい~」
 
「わたしもっ!いろは、おにく食べたいよう!」
 
「そうか、ひまちゃんもそろそろミルクの時間だよね、……実は
私もなんです~……、さっきからお腹がぎゅるぎゅるで……」

「ねえ~、ひまっ!」

「やいやい……」

こむぎの方は川岸から此処まで歩いて来た際に、いろはと交代し、
背中におぶっているひまわりの方をチラチラ見ている。
 
「じゃあ、僕らも此処で休憩しようか……」
 
「賛成ーっ!!」
 
アルベルトの言葉に一同、揃って同意する。
 
「でも根本的な問題があるよ、それはこの世界で、僕らが元の処で
使っているお金が此処でも通じるって事がさ……」
 
「大丈夫だろ、何せこの話は根ほり葉ほり、設定がいい加減だからさ、
使ってみなくちゃ分かんねえよ!ん」
 
ジャミルがアルベルトに取りあえず、小銭くれの目線を送った。
 
「ハア、仕方ない、無駄遣いしちゃ駄目だよ……」
 
皆のお小遣いと必要なお金は取りあえずアルベルトに預けてあり、
……彼は歩くATM、バンク代わりでもある……。
 
「サンキューっ!」
 
ジャミルは小銭を持ち、取りあえずさっきのケバブ屋に走って行った。
 
「通じたっ!買えたぞっ!」
 
数分後、ケバブを頬張りながら、ジャミルがほくほくで戻って来る。
 
「ああっ!んじゃあ、オイラもっ!アルっ!」
 
「……わ、私とチビちゃんも……」
 
「分ったよ、はい……」
 
アルベルトが小銭を2人にも渡し、ダウドと一緒に、チビを抱いた
アイシャもケバブ屋まで足並み揃えて二人で走って行った。
 
「あっ、わたしも食べるーっ!アルベルト、わたしといろはの
おこづかいもーっ!」
 
ひまわりにミルクを与えながら、こむぎもはしゃぎだした。
 
「……はいはい、本当に皆食いしん坊なんだから……」
 
「オラ、今はケバブより、化粧のケバイ綺麗なおねいさんがいいゾ……」
 
と、呟くしんのすけ……。
 
「い、し、い、し、……おも、しろ、い、いし……」
 
こんな所にまで来て、真剣に石を採取する変なボーちゃん。
変なのは毎度だが。
 
「……ああ、もう食っちまった、一本なんてあっと言う間だなあ、
も、もう一本……、い、いや、冗談だよ……」
 
「……」
 
アルベルトがジト目でジャミルを睨んだ為、それ以上は
口にするのを止めた……。
 
「ねえ、僕も何か食べに行ってくるから、この残りのお金、
少し預かっておいてよ」
 
「ん?別にいいけど……」
 
「有難う、じゃあ、ちょっと行ってくるね!」
 
アルベルトは必要な分の自分のお金だけ出し、後はジャミルに
残りを預けると、自分も皆のいる露天の方に向って走って行った。
 
「何だよ、結局自分だって腹が減ってんじゃねえかよ、カッコ
つけやがってからに……、人間、腹ペコには勝てねえのさ……」
 
「おお~?」
 
「洟垂れ、オメーは肉食わねえのか?シロだって腹減ってるだろ」
 
「オラは綺麗なおねいさんが欲しいのん……」
 
「アホ、諦めろ……」
 
「しゅうう~ん……」

「……アンっ!」
 
 
……ドカッ!!
 
 
「……っと、ごめんよっ!!」
 
「うわあっ!?」
 
突然、変な男が後ろから通り掛かり、ジャミルに向かって
強くぶつかって来た。反動でジャミルはよろけてその場に
尻もちをついてしまう。
 
「いっつ……、……このクソ親父っ!何しやがるっ!?」
 
「嬢ちゃん、んなとこでボーっとしてるからだよ、はっはっ、
随分と威勢がいいんだなあ、はっはっ!」
 
男は笑いながらその場を通り過ぎて行くが……。
 
「お、だいじょうぶ……?」
 
「……ボー」

「……クゥ~?」
 
「ああ、平気だけど、やられた……」
 
「お、おお……?」
 
「あの糞親父っ!金をスリやがったっ!……くしょおーっ!!」
 
ジャミルは砂を掴んで立ち上がり、地面を思い切り蹴ると走り出す。
 
「お?ど、どこ行くのーっ!?」
 
「しんのすけっ、俺は金取り戻してくらあ!なーに、あれぐらいなら
アイシャの姿でもワケねーからっ、すぐ戻って来る!!」
 
ジャミルはスリを追ってそのままダッシュで走って行く……。
 
「……ボーちゃん、シロ、これは、た、大変だゾおっ……!!」
 
「……ボオオ!!」

「アンっ!……アンっ!」
 
しんのすけ達も慌てて、アルベルト達に知らせに露天まで
走って行った……。
 
 
ジャミルは、スリ男を追っていく内に、ついカッとなり、
どんどんと、人の通らない薄暗い路地通りまでいつの間にか
足を運んでしまった事に気が付く……。
 
「少しやべえかな、知らない所だしな……、一旦戻って皆に相談すっか……、
……ハア、まーた一人で突っ走っちま……」
 
そう言って、動き出そうとした、その時……。
 
 
「へへ、……お嬢ちゃん、動くな……」
 
 
「……!?な、……ふぐっ!!」
 
ジャミルは後ろから強い力で身体を羽交い締めにされ、
口も塞がれる……。さっきのスリ男とは又違う、大柄な体格の
別の男であった……。
 
「静かにしてりゃ何もしねえよ、……ちょっと来て貰いたい処が
あるんだがね……」
 
(……いつもの俺ならっ、くっ、こんなの何て事ねえのにっ、……んっ、
力が出ねえっ!!)
 
ジャミルはもがいてみるが、男の方が遥かに力が強く、今は
アイシャの姿でいる所為か本来の力を出す事が出来なく、
どうしても男を振り払う事が出来ず……。
 
「……!!」
 
それでも精一杯の抵抗で、ジャミルは片足で男の急所を思い切り蹴った。
 
「……くそっ、このアマっ!静かにしてろって言ってんだよっ!!」
 
しかし、荒くれ男に強烈な腹パンチを喰らい、ジャミルはそのまま
意識を失い視界も真っ暗になった……。
 
 
 
「……此処は……?何処だ……?」
 
気絶させられていたジャミルが漸く目を覚ました。どうやら何処かの
部屋のベッドに寝かされている様であった。
 
「いちち……、まだ腹が……、ん?うわっ!な、何だよ!この格好!?」
 
ジャミルはアイシャから借りた洋服ではなく、いつの間にか
スケスケシースルーのネグリジェを着せられていたのである……。
 
「やべえぞこれ、俺、もしかしたら……、ラブホに連れ込まれたのかも……、
あ、あわわわっ!!」
 
急いで部屋のドアを開け、逃げようとするとお約束で鍵が掛かっていた。
 
「野郎……、けっ、そうかよ、そっちがその気なら……、
ドアぶっ壊したるわっ!」
 
ジャミルが気合を入れ、ドアを思い切り蹴ろうとすると……。
 
「……あら、乱暴はいけないわ、女の子でしょ、全く……」
 
「うわあああーっ!?」
 
壊す前にドアが勝手に開き、おかっぱヘアの美しい女性が
部屋に入って来た。
 
「な、なななななっ!?何だよ、あんたはよっ!!いきなりっ!!」
 
「……聞いた通り乱暴な子ね、でもいいわ、あなたの様な
野蛮な女の子を旦那様は好むのだから……、本当に変わった趣味よね、
あのお方も相変わらず趣味が悪過ぎだわ……」
 
謎の女性はジャミルの方を見て、怪しい笑みを浮かべると
くすりと笑った……。
 
(何なんだよ、これは一体……、俺……、マジでどうなっちまうんだ
よおおお!!)


冒険編10 捕われのプリンセス?

一方、一向に戻ってこないジャミルの身を案じる皆様方は……。
 
 
「どうしよう……、ジャミル戻って来ないわ、何かあったのよ、
きっと……」
 
「きゅぴい~……、アイシャ……」
 
「ジャミルさん……、どうしたのかあ、本当に……」
 
「心配だねえ~、……もう、おにいちゃんなんだから……、
みんなにしんぱいかけちゃダメだよう……、ちら……」
 
「お願い、こむぎちゃん、オイラの方見ないで……、照れ臭いから……」
 
「……オラの方も何となく見てる気がする……、照れますなあ~……」
 
「ボオ~ん♡(いや~ん)」
 
「……う、たいうう~……、ふぇ……」
 
「ひまちゃん……、ジャミルさんが心配なんだね……、
大丈夫だよ、よしよし……、ほ~ら……、いい子だね……」
 
ぐずりだしたひまわりを優しく慰めるいろは。一方のこむぎ。
彼女もまた戻って来ないジャミ公に不安になってきたのである。
 
「皆落ち着こう、もう少し此処で待ってみよう……、下手に
動かない方がいい、もしかしたらもうすぐ戻って来るかもしれない……」
 
そう言ったものの……、アルベルトもジャミルが心配で不安で堪らず……、
時刻はもう夕方になり、本日の露店も店をしまい、次々と引き上げて行った。
 
「大丈夫、チビがいるよお!チビ、ジャミルが走って行った方向、
匂い嗅いで行けば分る、ジャミル絶対見つけられる!」
 
「そっか!チビちゃんがいたのよね!」
 
「きゅっぴ!」
 
チビを抱きしめ、アイシャが微笑んだ。

「わたしもっ!ジャミルの匂いをかいで探せるわんっ!
おてつだいするよ!」

「アンっ!」

こむぎも子犬に戻り、シロも力を貸すよと。

「そっか、君達もいたんだね、でも……」
 
「アル……、此処はやっぱりチビちゃん達に任せた方が
いいと思うよ、こんなに戻って来ないんだもん……、絶対に
何かあったんだよ……、うう~、オイラだって正直あんまり
動きたくないけどさ……、ジャミルが心配だよお……」
 
「アル……」
 
ダウドとアイシャが不安そうにアルベルトを見つめた……。
 
「分った……、チビ、こむぎちゃん、シロも頼むよ……、
力を貸して……、その代り皆、絶対離れちゃ駄目だよ、特に
其処の困った皆さん……」
 
「アルも……、オイラの方見ないでよ……」
 
「オラもなの……?」
 
「ボオ~……(照れちゃう~♡)」
 
「きゅっぴ!チビにお任せっ!行くよおーっ!!」
 
「行くわんっ!まいごのジャミルを探すわんっ!」
 
「アンっ!」

「……こむぎ、シロちゃん、お願いっ!」

「いろは、行くわんっ!……フンっ!」

「うんっ!」
 
子犬モードのこむぎ、シロと共に鼻息を荒くし張り切る。こうして、
迷子の迷子の子猫ちゃん、……ではなく、行方不明のジャミル捜索隊?が
出動したのである……。そして、アイシャの姿のまま、謎の屋敷に
監禁されたジャミルは……。
 
「……」
 
「まあ、相変わらずね、ベッドの上で大股広げてふんぞり返って、
少しは女の子らしくしようと思わないのかしら?」
 
さっきの女性が再びジャミルの様子を覗いに部屋を訪れた。
 
「……別にい?俺、元々女じゃねーから、それより、何時こっから
帰してくれんだい?」
 
「何を訳の分からない事を……、これは今までの中で
アホの最強クラスかしらね……」
 
「あんたの言ってる事も分かんねえっつの!……なあ、困るんだよ、
ダチも待ってんだからよう……」
 
ジャミルは更に足をおっぴろげ、蟹股になるとベットを
げしげし蹴った。
 
「あら?お友達もいたの、ふふ、でも残念ね、あなたは
お友達の処へはもう二度と帰れないのよ、覚悟する事ね……、
旦那様に目を付けられた以上、此処からは逃げられないわよ……」
 
「な……、お、おいっ!ちょっと待てよっ!!」
 
女性は再び部屋に鍵を掛けると部屋を出て行く。訳も分からず
いきなり拉致され、残されたジャミルは唖然とするばかりである。
 
「……くっそ!開かない……、今はシーフじゃねえのが悔しい~っ!
とほほのほー!!……バカやってる場合じゃねえ、どうにかして
こっから逃げねえと、どこか、どこかないか……」
 
他に何処か逃げられそうな場所が無いか、部屋を徹底して
探してみたものの……。
 
「窓ガラスか……、此処をぶちやぶって……、……強化ガラスじゃ
ねえかよっ!ざけんな畜生っ、何処までっ……!?」
 
窓ガラスから外を覗いてみると、温室庭園がある様であった。
 
「……?誰か、歩いてる……?」
 
外に人影が見え、誰か庭園の中に入って行くのがうっすらと垣間見える。
 
「何をしているの?お行儀が悪いわね、本当に、彼方此方
じろじろと……、どうせ逃げる個所でも探していたんでしょう?」
 
「……又来やがった、行ったり来たり……、マジで何なんだよ、
アンタ……」
 
再び部屋に現れた女性に、ジャミルはうんざりする……。
 
「そう言えば、まだ自己紹介していなかったわね、私はルーゼ、
宜しくね、ふふ……」
 
「別にアンタの名前なんか聞きたくねえよ……」
 
「あなたの名前も教えなさい、旦那様にお伝えする必要があるのよ!
さあ!さっさと答えるの!」
 
「だからさ、その、旦那様とか……、何なワケ?……」
 
「今は話す必要はありません!早く教えなさい、さあっ!」
 
「……アイシャ……」
 
今はアイシャの姿なので仕方無しに、彼女の名前を名乗る他なかった。
 
「アイシャね、宜しい……、ふふ、顔と名前だけは可愛いわね、
性格には問題アリアリだけれど……」
 
「……」
 
ジャミルはブン剥れて、ルーゼというらしき、女性を睨んだ……。
 
「あらあら、膨れちゃって、お餅みたいで可愛らしい事、うふふ……」
 
「!?」
 
ルーゼはそっと、ジャミルの頬に触れた……。
 
「……う、な、何だよっ!?」
 
「本当に、お餅みたいな柔らかいほっぺたね、お姉さん、
こういうの見るとね、何故か感じてしまうのよ……、うふふ……、
舐めてしまいたい…」
 
「……や、やめろおおお~っ、うっ、くっ……」
 
ジャミルは必死でルーゼの手から逃げようと顔を背けて抵抗する。
 
「はあ、冗談よ、ムキになっちゃって、まあ……、本当に
お馬鹿さんね、ふふ、うふふ……、でもこれ以上手を出したら
旦那様に私が怒られてしまうわ、理性を抑えないとね……」
 
「……畜生、いい加減にしろよ……」
 
「まあ、仲良くしましょうよ、近いうちに、あなたも此処の家族の
一員になるのだから……」
 
ルーゼはジャミルにウインクをすると再び部屋を出て行った。
 
「……お、俺って……、やっぱ受け体質なんかな……、ううう~、
……何か自分で言ってて泣きたくなるわ……」
 
情けなさと悔しさでジャミルはどうする事も出来ないまま、
そのままベッドに転がりふて寝してしまうのであった。
 
 
そして、場面変わって再び仲間サイド……。
 
ジャミルを探す一行は、チビ、こむぎ、シロの匂いを頼りに、
ジャミルが最後に消えた場所の路地裏まで辿り着いた……。
 
「此処でジャミルの匂い、消えてる……」

「何も匂いしなくなったねえ……、ね、シロ……」

「……クゥゥ~……」
 
「ここから先……、ジャミルの身に何かあったって事なのかな……」
 
(ジャミル……、本当にどうしたの……、何があったの……、どうか
無事でいて、お願い……)
 
アイシャが硬く目を瞑った。その時……。
 
(……!何か変なの来るわん……!)
 
近づいてくる足音。……異変に気付いたこむぎ。咄嗟に身構え、
子供達の前に立って庇うと、威嚇し始める……。

「……ゥゥゥ~!」
 
「こむぎ、どうかした……?」
 
「……おお?……シロ……?」

「……アンっ!!」
 
「またあ……、シロ、君までどうしたのさあ~」
 
疲れた様な、少々情けない声をダウドが出した。
 
「……いろは、みんな、気を付けて!恐いのが来るよっ!」
 
「!?」
 
こむぎの声に一同振り向くと、後ろから一行に迫って来たのは……。
ごつい荒くれ男であった……。
 
「へっへっ、坊や達、夜遅くまでこんな処で遊んでちゃ駄目だよ~、
こわ~いおじさんに……、連れて行かれちゃうぞお~……」
 
紛れも無く、ジャミルを誘拐した、あの荒くれ男であった……。
荒くれはいろは……、彼女の方をジロジロ見ている。
 
「ぴいっ!この嫌なおじさんから、何だか微かにジャミルの匂いが
するよおっ!」
 
「ええっ!?チビちゃん、て、言う事はっ……!!」
 
チビを抱きしめるアイシャの手にもぐっと力が入る……。
 
「へへ、しぶとく張り込んでたらカモが又来たか、こらあいいや、
けど、こんなわざわざ場所に入って来るとか本当に頭の足んねえ
お子様達だ……」
 
「あの、おじさん、い、一体何なんですか……?」
 
「……ゥゥゥ~っ!ワンっ!ワンっ!」
 
荒くれ男はいろはから目を離さない。どうやら今度は彼女を狙って
連れて行こうとしているらしかった。……こむぎも男を威嚇するのを
止めない……。
 
「ほお~、中々の上玉だなあ、他のガキ共は要らねえな、邪魔だ、
待ってな、男共を始末したらよ、可愛がってやるからさ、嬢ちゃん……」
 
「……ゥゥゥ~!……キャイイーーンっ!」
 
「……げっへっへっへ!邪魔だっ!糞犬共っ!」
 
「……ガル……!アンーーっ!!」

「こむぎっ!シロちゃんっ!……あっ!?」
 
「アル!いろはちゃんがっ!狙われてるわ!」
 
「……いろはちゃんっ!!」
 
「ボオオオー!ひまちゃん、あ、ぶな、い!」
 
「ひまーーっ!!アルベルトお兄さん!ひまも連れて
行かれちゃうよーっ!」
 
しんのすけが絶叫した……。いろはの背中にはおぶわれたままの
ひまわりが……。荒くれがいろはに的を絞り、さっと接近すると
こむぎ、シロを蹴飛ばすといろはを捕えた。その動きは純情でなく、
かなり素早い動きである。荒くれはごつい体型に似合わず、
そのままいろはを脇に抱え、猛スピードで掻っ攫っていこうとした……。

「……うっく、ひっく……」
 
「へへへ、うるせえ糞共だ、ゲヘ、ゲヘヘへ……、黙れっ!この
バカガキめっ!泣き止まねえとブッ飛ばすぞ!」
 
「……びえええーーっ!!」
 
「……ひまちゃんっ!お願い、小さな子に乱暴するのは止めて下さいっ!」
 
いろはの背中でひまわりの泣き声がこだまする……。自分が連れ去られ
ようとしている中で、赤ん坊のひまわりだけでも何とか逃がして、皆に
託そうといろはは思うのだが、必死で後を追って来る仲間達も変態男の
素早さに追いつけず……。連れ去られそうになるいろはとひまわりは
皆からどんどん遠ざかってしまう……。
 
「駄目だ、このままじゃ……、うう……、や、やっぱり……、
シフの追う通りだ、……僕の体力が無い所為で……」

「チビでも追いつけないよおーーっ!」

「……いろはちゃん、ひまちゃんっ!!」

「オイラ、もう駄目ですうう~……」
 
「……ひまーーっ!ひまーーっ!」

「……ボオオオーーっ!!」

「……こむぎーーっ!!」

「……いろは……、い、嫌だ……、こむぎはどんな時でも
いろはといっしょ、……プリキュアになれなくても、いろはと
はなればなれはもう嫌……、ずっといっしょにいるんだ……、
あのとき……、いろはがひとりぼっちのこむぎをたすけてくれた、
……今度はこむぎがいろはをたすけるーーっ!大好きないろはを……、
……わおおおーーーんっ!!」

「こ、こむぎちゃん……!?きゃっ!?」

こむぎは力強く遠吠えすると、再び人間モードになる。そして、
超人とも思えるダッシュ力で、前方を走っている荒くれ男に遂に
追いつく……、チビが空を飛んでも追いつけなかった……。そして、
思い切り荒くれ男にプニプニバリアーのポーズで両手張り手を噛まし、
荒くれをどーんと遠くへ突き飛ばした……。

「……いろはとひまをかえせーーっ!!」

「お、おおおお~……な、な、な……、あぎゃあーーっ!!」

「いろはーーっ!!」

「……こむぎーーっ!!」

「こっちだよっ!ケガはないっ!?ひまも大丈夫!?」

「大丈夫だよ、ひまちゃんも……、ちょっとびっくりしちゃった
みたいだけどね……、こわかったよね……」

「びええ~、ひっく、ひっく……」

「さあ、行くよっ!いろは、しっかりつかまっててね!ひまもねっ!」
 
荒くれが倒れた隙にこむぎはいろはを無事救出。そしてそのまま、
シイタケ目になり、いろはをお姫様抱っこ。ひまわりを負ぶうと
再び鼻から湯気を出し、皆の処にダッシュで戻って来た……。
その様子を、何も出来ず、残った仲間達は唖然として眺めていたが、
無事戻って来たいろは達を歓喜と大絶賛の嵐で迎えるのだった。

「凄いわっ、こむぎちゃん!」

「ああ、本当に、僕も益々負けてられないな……」

「チビ、負けちゃったきゅぴ~、でも、本当にスゴイよおおー!」

「……オリンピック出られるんでないの?……何か彼女も
ジャミル級だなあ~……」

「大好きないろはのためならっ!こむぎはがんばるんだもん!はい、
しんちゃん、ひまもちゃんと無事だよ、良かったね!」

「……こむぎちゃん、ありがとねなんだゾ、……ひま~、
よかったぞオ~……」

「ボオ、……あいの、ち、から……、ポッ……」

「たいい~……」

「アンっ!アンっ!」

こむぎはひまわりの無事な姿をしんのすけに見せると、しんのすけも
ほっと安心した様だった。

「……あのね、こむぎ……、何だか恥ずかしいから……、そ、
そろそろ下ろして……」

「わん?」

「……ち、畜生っ、このバカアマめ……、もう一人隠れてたのか、
舐めやがってからにい~……」
 
「あっ!?」

こむぎに張り手を喰らった荒くれ、ヨロヨロしながら再び起き上がると
隠し持っていたバタフライナイフを取り出す……。
 
「てめえ、ふざけてんじゃねえぞ……」
 
「……み、皆っ!掛れーーっ!!今度は僕らで一斉に総攻撃だーーっ!
こむぎちゃん、いろはちゃんを守っていて!」

「分かったよっ!」
 
アルベルトが慌てて号令を掛けると同時に、仲間達も一斉に
戦闘態勢を取る。
 
「「おおお~っ!!」」
 
荒くれがまだダメージから完全に立ち直らない内にと、ダウド、
アイシャ、そして、アルベルトも荒くれに飛び掛かって行った……。
 
「このガキ共~っ!!何しやが……ふぎゃあああーーっ!!」
 
哀れ荒くれ、暴走お子様集団にあっという間に伸される……。
案外大した男では無かったらしいが……。
 
「ボオ!はな、みず、だい、……かいてん!」
 
「ほいっ!」

「……キャンっ!キャンっ!」
 
「……ぎゃあああーーっ!!きたねえーっ!くっせええええーーっ!!」
 
止めはボーちゃんの回転鼻水攻撃、しんのすけの半ケツ
生おならである……。そして、さっきの仕返しにシロも
荒くれの足に噛み付き反撃モードに出る。
 
「オラ、もう、うんちでる爆発寸前だからくさいよ?」
 
「ぐ、ぐえええええ~……」
 
荒くれは気絶しそうになるが、こむぎが荒くれの目の前で腰に
手を当てて、怒りモードになった。
 
「……よくも大好きないろはをいじめたなっ!わたし、本当に
おこってるんだからっ!……許さないわん!……めっ!」

「……ぎゅっぴいいい~っ!!」
 
チビも男の前に立ち塞がり、男を威嚇する……。
 
「……な、あんだああっ!?ひいっっ!ド、ドラゴンだとおっ!?」
 
「ジャミルを何処に連れて行ったのっ!?赤毛のお団子頭の
女の子だよ、言わないとっ……!!おじさん燃やしちゃうよおおっ!!」
 
チビは荒くれの目の前で思いっ切り炎のブレスを吐いた……。
 
「ひいいいっ!?分ったっ!こ、小娘のいる場所まで連れて行く、
ちく、しょう……、本物のドラゴン……、ぬいぐるみじゃ……、
なかった、のか……」
 
荒くれはそのままコテンと……、本当にその場に気を失ってしまった……。


冒険編11 変態領主の屋敷

「……ルーゼ、い、いるかっ、お、俺だ……」
 
「どうぞ、ノックしなくても鍵は開いてるわ……」
 
「す、すまねえ……、うう……」
 
「どうしたのよ、ゲス……、その傷は……、とにかく中に……」
 
ルーゼの部屋に傷だらけの男性が倒れ込んで来た。紛れも無く、
あの荒くれ男である。どうやら本名は本当にゲスと言うらしい……。
 
「……情けないわね、ナンダ・カンダ家の用心棒ともあろう者が……、
一体誰にやられたの、言いなさい……」
 
「笑わないでくれよ……、糞ガキだ……、数人の、お、恐ろしい
ガキなんだ……」
 
「ハア、あなた、もう用心棒解雇時かしら……」
 
「だからっ!話を最後まで聞いてくれよ、俺が拉致して此処に
連れて来た娘の仲間だ、おまけに言葉を喋る凶悪なチビの
ドラゴンまで連れていやがったんだ……、娘の名前は……、
確かジャミルとか言ってたな……」
 
ルーゼは首を傾げ、不思議そうな表情を荒くれ……、ゲスと言う
男に向けた。
 
「……あら?おかしいわね、私が小娘に名前を問い質した時は、確か、
アイシャと言っていたわ……」
 
「な、なんだと……?」
 
「これは……、もう少し小娘を調べてみる必要がありそうね、で、
その、アンタをボコったガキ共はどうしたの……」
 
「小娘の居場所を教えろとしつこく付いて来たが、と、途中で
何とか煙に巻いたさ、所詮ガキはガキだったわ、ヘッ……」
 
「そう……、何だか情けない話だけれど、まあいいわ……、
でも、そのドラゴンだけは気になるわね、ふふ……」
 
「小娘は今どうしてる……?」
 
「今、お風呂に入って貰っている処よ、明日、旦那様と対面させるの……」
 
「そうか、いよいよか、ヘッ……、お気に召して貰えるといいな……」
 
「小娘の様子を話しただけで旦那様、大興奮だわよ、何がいいんだか、
あんな野蛮な原始人みたいな……、本当に旦那様の好みと趣味は
私には理解出来ないわ……」
 
ルーゼはそう言って、コツコツとハイヒールの音を靡かせ、
部屋を出て行った。
 
「何処行くんだい?」
 
「お風呂の後は食事をさせないとね、全く、家畜の世話状態よ、
あなたは少しこのまま私の部屋で休んでていいわ、じゃあ……」
 
「すまねえな、へへ……」
 
「……でも、あのほっぺたの柔らかい感触はどうしても
忘れられないわ……」
 
部屋から出たルーゼは微かにニヤリと又怪しい笑みを浮かべ、
ペロリと舌を出した……。
 
 
……そして、煙に巻かれた皆さん……
 
 
「ぴい~、皆、大丈夫……?」
 
「うん、大丈夫だよ、それにしても、ちょっと油断したね……」
 
「まさか~、睡眠スプレー持ってるなんてええ~、酷いよお~……」
 
「何かもうジャミルの匂いがしなくなっちゃった……、ぴい……」

「目が変、……おはなも変……、くしゅくしゅする……」
 
「こむぎ、大丈夫……?スプレーに追跡臭い消しでも混ぜて
あったのかな、酷い……」
 
荒くれの後に付いて行った一行は途中でうっかり油断し、チビも含め、
全員が睡眠ガススプレーをぶっ掛けられたのである……。
 
「でも、あのおじさん……、ジャミルをユーカイして、今度はいろはまで
捕まえようとしたんだ、……許さないよ、こんな気持ちはじめて……」
 
「……こむぎ……、でも、本当に有難う……、心配してくれて……、
助けに来てくれて嬉しかったよ……、私の為に必死で身体を張って
頑張ってくれて……、お蔭でひまちゃんもちゃんと無事だったよ……」
 
「♪えへへ、いろは、だ~いすきっ!」

「私もだよ、こむぎ!」
 
「……ジャミル、今頃どうしてるのかしら、辛い目に遭っていないと
いいんだけど……」
 
アイシャはじゃれ合うこむいろコンビを見て、元の姿のジャミルを
思い出す。暫くケンカも出来ない事も思い出し、急に淋しくなる。
意地っ張りでどうしようも無くて……、すぐにブン剥れるジャミルを……。
 
「……ジャミル……」
 
「すう~、すう~……」
 
「たいや~……」
 
「ボオ~……」

「……zzz」
 
しんのすけとひまわりの兄妹、シロ、ボーちゃんは完全に
眠ってしまったままぐっすり起きない。
 
「……私、諦めたくない、絶対にジャミルを助けるわ、どんな事が
あっても……」
 
「そうだよ!アイシャさん!一緒に頑張ろう!」
 
「……私もこのままあきらめないっ!絶対にジャミルを見つけるわん!」
 
「……いろはちゃん、こむぎちゃん……、そうね、力を貸してくれる?」
 
「はいっ!」
 
「わんっ!」
 
今はジャミルの姿ではあるが、中は立派な女の子、アイシャ。女の子同士、
硬く手をぎゅっと握り合い、誓うのであった。
 
「……だ、だけど~、あの変なのも見失っちゃったし、どうすれば……」
 
「だからウジウジしないのっ!ダウド、立ち止まったらダメだよっ!!
からだを動かすのっ!ほら、いっちにいわんわんだよっ!」
 
「ううう~……」
 
ダウド、こむぎに一喝される……。
 
「あの男の口調からするとジャミルは絶対この街の何処かに
いる筈だ、今は情報でも何でもとにかく集めよう、それしかないよ……」
 
アルベルトの言葉に他のメンバーも頷いた。
 
(そうよ、私だっていつも守られてばっかじゃいないんだからっ!
ジャミル、待ってて……)
 
アイシャは心の中でもそう誓い、硬く唇を噛んだ……。
 
 
そして、場面は再びジャミルに変わる……。
 
「お嬢様、下着のお着替えでございます……」
 
「お、お嬢?ハア、もう勘弁してくれっつーの、ハア……」
 
ジャミルは風呂に入る際に、脱衣所まで数人のメイドに
纏わりつかれウンザリしていた……。
 
「お背中をお流しいたします……」
 
「いいっての!自分で出来るっ!頼むから外、出ててくれる……?」
 
「しかし、ルーゼ様にお嬢様のお世話を申し付けられております故……」
 
「いいよ、ホントにっ!何かあったら呼ぶからさ……」
 
「作用でございますか、では、……私共は廊下でお待ちしております……」
 
「……」
 
メイド集団は漸く脱衣所から出て行こうとしたが……。
 
「ンモー!やってられませんってのさ!」
 
「お嬢様!いけません!お身体はお隠し下さい!」
 
「……わ、分ったよ、これでいいのか?」
 
ジャミルはさっとバスタオルで胸と上半身を隠した。
 
「結構なお姿です、ですが、タオルはくれぐれも浴槽には
お入れになりませぬ様に……」
 
「ふんっ!」
 
……お世話メイドから解放されたジャミルは蟹股歩きで
ドスドス風呂まで歩いて行った。
 
「ふう、やっと一人になれた、皆……、今頃どうしてんのかな、
探してんだろうな……、くそっ、女に暴力振るうとか、ちょっと
荒いけど……、あの女ブン殴ってでも逃げるべき……?」
 
浴槽でジャミルがブツブツ呟いていると、又浴室の戸がガラリと開いた。
 
「……だ、誰っ!?……ん?」
 
「今晩は」
 
入って来たのは、茶色の髪に三つ編みヘア、今のアイシャの
姿よりも更に背の小さい体格も小柄な女の子だった。
 
「あなたも入浴なのですね、あっ、私、ユウと云います、宜しく!」
 
「はあ、どうも……」
 
「もう、何でもかんでもメイドさん押し付けようするんだからっ!
嫌になっちゃいますよねっ!あはは!」
 
ますます何がなんだか分からなくなり、ジャミルはそう挨拶を
返すしかなかった。
 
「ところで……、アンタ何歳……?」
 
一応ジャミルが聞いてみるが、ユウはきょとんして笑顔を向け、
返事を返した。
 
「12歳でっす!」
 
「どおりで……、な……」
 
「お姉さんも此処の領主様の、新しいお妃さま候補に
選ばれたんですよね?でなきゃ、こんな豪華なお風呂
入らせて貰えませんものね、きゃはは!」
 
「……い、今……、なんと申しました?お、お妃……???」
 
「ええ、この街の領主様のですよ」
 
「そうか、……ここって、領主の屋敷か、成程……」
 
「候補って言っても、此処に御呼ばれされた以上、結局は皆
選ばれると思うんですけど……」
 
「ちょっと待て、それって、ハーレムじゃねえかよ……、
しかも、……ロ、ロリ……」
 
ジャミルは更に顔を青ざめ、ちらっと又、ユウの方を見た……。
 
「そうですね、私達の他にも以前に娶った奥様達がいる筈
なんですけど、誰もお姿を見た事ないんですよ、不思議ですよ
ねえ~、あ、私の家、領主様に借金をしてるんですけど、家が
貧しくてどうしてもお金を払えなくて……、でも、私が此処に
お嫁に来れば借金を帳消しにしてやると言われたもので……」
 
 
話は異様な展開に流れて行きそうで、更にエスカレートしていくのである。

zokuダチ。セッション29

zokuダチ。セッション29

SFC版ロマサガ1 トモダチコレクション キャプテン まほプリ ロマサガ3 FF9 わんぷり FF8 コードネームはセーラーV クレしん メタルギアソリッド クロスオーバー バカ どんどん増える変な住人 カオスな世界 ドラクエ オリキャラ 陰からマモル 幻想水滸伝ティアクライス 幻想水滸伝1

  • 小説
  • 短編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-09-15

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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