zokuダチ。セッション28

エピ 107・108・109・110

冒険編4 冒険の幕開け

「たややいっ、やいっ!」
 
ひまわりは、見ろとばかりに無理矢理小さい力こぶを出し、
ボディービルダーのポーズをとった。
 
「あのな、何処で覚えてくんだよ、そういうの、けど、駄目だっ!
連れて行けねーのっ!」
 
「たいやっ!!(この合体した短足ペチャパイめっ!!)」
 
(何だかひまちゃん……、言葉が通じないと思って、とんでもない事
言ってるわ、……私には分るんだからね……)
 
「はあ、どうせ言っても聞かねえし……、分った……」
 
「ジャミル……?」
 
「お?」
 
実は昨夜、寝る前にもう一度、いろはが野原家にスマホで連絡を
入れたのだが、ひろしが長期有給を取り、やかましい子供達が
いない間、折角のチャンス、夫婦水入らずで久々に旅行に行って
しまおうとの事で、現在、マンションの方には不在との事。すっかり
ジャミル達に甘えてしまっているとんでもない夫婦であった。
 
「休みの間、俺らがずっと寺にいると思ってるし、このまま寺に
置いといても、こいつら脱走して爺さんに返って迷惑掛けちまうしな、
だからってマンションに帰しても、親が不在じゃな、だからさ……、
俺が全責任持つわ、連れてってやるよ……」
 
「おおっ!ジャミルのお兄さーん!さっすがー!おちんちんは
小さくてもおっきいところはおっきいですなあー!」
 
「……余計な事言うと……、山頂に捨ててくるぞ……、いいな?
ちゃんと言う事聞いて付いてくる覚悟は出来てんだろうな……?」
 
「……いやああ~ん……、あ、きもちいい~……」
 
しんのすけの頭を拳でグリグリ、仕置きするジャミル。
 
「……まあ、いいんじゃない、でも、オイラははっきり言って
あんまり子守りは出来ないよ……」
 
「迷惑掛けてるのは私達だって同じだわ、一緒に行きましょ、
しんちゃん、ひまちゃん、ボーちゃん、シロちゃんもね……」
 
アイシャは子供達の方を見て頷く。
 
「たいっ!(ケッ!)」
 
「……ボオ~……」

「アンっ!」
 
「……皆さん、どうやら本当にご決断が決まったようですな、ほほっ!」
 
相変わらずの優しい笑みを浮かべ、住職が皆の処に顔を出した。
 
「爺さん、本当に世話になったよ、有難うな、親切にしてくれて……」
 
「うむ、儂もこんなかわいらしいお客さんを接待出来て
楽しかったですぞ!いよいよ、大冒険の始まりですのう、
ですがくれぐれもご無理はなさらぬよう、何かあったら
すぐに此方へ引き返してきなされ……」
 
他のメンバーも住職に頭を下げ、お礼を言った。
 
「きゅっぴ、さあ、皆行こうよお~、まずは目指すは
チビのお友達が住んでるドラゴン谷だよお~、
其処から先の山道を通って抜けて行くんだよ!」
 
「お気をつけて、これは清水の詰め合わせボトルです、道中少しづつ
大事にお飲みなされ……、と、あまり数はありませんが、焼きおにぎりです、
お腹が減ったら食べると良い、ジャミルさんもアイシャさんも
早くお身体が戻ると良いですのう……、語武運をお祈りしております」
 
「爺さん……」
 
「……住職さん、はい……、私達、絶対挫けません、何があっても!」

「うむ、決意に燃えた良い表情ですな……、輝いた目をしていらっしゃる」
 
「わあー!おいしそうっ!ほっかほかのおにぎりっ!」
 
「……本当、お醤油のいい匂いだねえ……、あ、あれ、よだれ……、
垂れちゃった、あは、あはは……、って、こむぎっ!」

「おにぎりで釣られて思わずよだれたらしちゃった、いろはのお写真、
まゆ達のスマホに送っちゃお!……悟が喜ぶわん……」

「……ちょっと、こむぎっ!止めなさいっ!……こむぎーーっ!」

きゃあきゃあ騒ぎだしたこむぎ達の姿を見て、相変わらず、お二人さんも
仲が良くていいねえ~……、と、ダウドは苦笑。
 
「ほほほ、おむすびの具は何もないですが、シンプルで美味ですぞ~」
 
住職からボトルと焼きおにぎりを受け取り、6人とチビ、お子ちゃまと
シロはいよいよ冒険へと第一歩を踏み出す。
 
しかし、やはり真夏の中での山頂までの歩きは半端で無かった。
行く手に聳え立つ険しい山々、一行はまだ歩き始めたばかり。
山頂までの距離はまだまだ遠く、先は全然見えない。
こむぎは道中、お散歩気分を味わいたいとの事で、犬に戻ってみたり。

「いっちにい!」

「わんわん!」

「さんしっ!」

「わんわんっ!」
 
「疲れたよお~、前作ならまだ魔法とかあったから、ブツブツ……、
どうしてこう、いろはちゃんとこむぎちゃん……、あの二人は元気
なんだよお~……、嫌、みんなおかしいよお……」
 
早くも脱落者が出そうである。やっぱりダウドであった。
 
「しんちゃんは、……平気?」
 
汗を拭いながらアルベルトが聞く。しんのすけはおねいさん達の
側を離れず、しっかり歩いてはいるが。
 
「うん、オラ平気、皆についてくって言ったのオラだから、
だから我慢する……」
 
意外とこういう時、しんのすけは根性がある。
 
「……情けねえなあ、……ジャガイモだって我慢してるっつーに……」
 
口ではジャミルもそう言うが、何となく、ダウドの気持ちも
理解はしている。
 
「♪ぴ、ぴ、ぴ、ぴい~、きゅぴぴぴ~、ぴぴぴい~!」
 
皆の先頭に立ち、道案内の誘導をし、一番前でふよふよと
空を飛んでいるチビは実に楽しそうであった。
 
「音痴ドラゴン!」
 
「よしなさいよ、ジャミルったら……」
 
「ちぇっ……、チビちゃん、いいなあ、空が飛べるんだもん……」
 
ダウドは疲れている自分の目の前で軽々と空を飛ぶチビを見て、
羨ましくなったのか、嫉妬し始める……。
 
「はあ、ね、ねえ、少し休憩しよう、貰ったお水飲もう……、
……いろはちゃん達もおにぎり食べたいよね?」
 
「私ですかっ?まだまだお腹は大丈夫ですよっ!」

「こむぎもダイジョーブっ!」
 
「ダウド、歩き始めてまだ30分も立ってないよ……」
 
「だって~、……アル、暑くて重い、少し減らしたい……」
 
ちなみに、住職から貰った清水ボトルの詰め合わせを
リュックに入れ、背中に背負っているのはダウドである。
いろはとこむぎは交代でひまわりをおぶいながらきつい山道を
歩いている。ちなみに今、おぶっているのはいろはの方。
こむぎはわんこになっているので。でも、二人とも、ダウドが
ぼやいていた通り、相当疲れ知らずで元気いっぱい。
 
「う……、ぐすっ、……びえええ~っ!!」
 
「……大変、ひまちゃんが……!」
 
アイシャが慌ててひまわりに駆け寄り、様子を確かめる。
 
「おむつが濡れたんだね、じゃあ、ささっと取り替えちゃおう!」

「わんっ!」
 
「助かりますーっ、ゆっくり取り替えてねーっ!」
 
「……ダウドの野郎……」
 
適度な草場にひまわりを降ろし、こむぎのサックから紙おむつを出す。
こむぎも少女モードになると、いろはと一緒に協力し合い、おむつを
ささっと取り替え始めた。
 
「へえ、手際がいいね、慣れてるんだね……」
 
アルベルトはいろはとこむぎ、ひまわりのお尻を拭いてあげている
2人の手付きを見て感心するが。
 
「でも、最初は慣れなくて大変でしたー、昨日もおむつ下げた途端、
おしっこやられちゃいました!」
 
「わたしも、にんげんになって色んな事覚えたよ、いろはと一緒に
色んなことにチャレンジ出来て、すっごく楽しいんだ!よしっ、
で~きたっ!ひまのおしり、ホラ、こんなにきれいになったよっ!」
 
「にへええ~……」
 
「ねえ、ジャミルお兄さん、オラのおしりも綺麗?」
 
「……アホッ!汚ねえケツ人に向けんなっ!」
 
〔げんこつ〕
 
「……ボオオ~、はな、でた」
 
「はいはい、チーンしてね」
 
ボーちゃんの鼻をティッシュで拭いてやるのがアイシャの仕事と
なりつつもあった。今度はこむぎが交代し、ひまわりをおぶって
休憩は終わりとなる。

「……ひま、おもい~……」

「たやいやいっ!」
 
「……え、も、もう取り替えちゃったの……?」
 
「たりめーだろ、たかがおむつ交換に、んな時間かかっかよ……」
 
「……え~、うう~……」
 
もう少し休めると思ったのか、絶望に打ちひしがれたダウドの顔……。
 
「行こう、どんどん歩かなきゃ、先は遠いよ……」
 
アルベルトがダウドの肩を叩いて励ました。
 
「……えーっ!ううううー!!」
 
何だかんだ言って、やっぱり一番我儘で困るのは、ダウドかもしんねと、
ジャミルは思った。ゴールはまだまだ先が見えず前途多難である。
 
「……ねえ、アル……、オイラ達、歩き出してどれくらい時間立つ?
も、もう、3時間ぐらい立ったよねえ~?……相当歩いたよねえ……?」
 
「今、丁度歩き出して1時間ぐらいだよ……」
 
「ま、まだそんななのかあ~、とほ~……」
 
段々と、奥地に入って行くにつれて、道も登り坂が多くなり、
ダウドの不満も爆発していくのである。

冒険編5 ヘタレ、爆発する

一行はモンブラン山、山頂のドラゴン谷を目指し、只管山道を
歩き続けるのであったが……。
 
「ね、ねえ、もうそろそろお昼じゃないかなあ……」
 
「だからなんだよ……」
 
ダウドの方を振り返りながらジャミルが喋る。
 
「貰ったおにぎり食べようよ……」
 
「あのな、ま~た休む事かよ、そればっかだなっ、
オメーはよっ!」
 
「……だ、だって、しんちゃん達もいるんだよ、
……可哀想じゃないか……」
 
「あい~?」
 
しんのすけとボーちゃんはともかく、ひまわりはこむぎに
おぶわれているので平気である。
 
「別に、オラ平気だよ、今のところは……」
 
「ぼく、も……」

「ダウド、チビ達だって我慢してんだぞ、いい加減にしろよ……」
 
「……オイラはまだみんな小さいし、心配だからって思って……、
何だよお、ジャミルのアホ……」
 
「ぴい、ダウド、頑張って……」
 
「はあ……」
 
チビに頬を舐めて貰って励まされ、仕方なしにダウドも再び山道を
歩き始めた。
 
「はあ、暑いわ、本当に……」
 
「アイシャ、平気かい?ダウドに清水出して貰う?」
 
「うん、アル、大丈夫よ、有難う……」
 
「あんまり無理しちゃ駄目だよ……」
 
「ええ……」
 
(……何だか、ジャミルの姿のアイシャにも普通に慣れて
来ちゃったなあ……)
 
そんな二人の様子を見ていて、気になったのかジャミルが口を開いた。
 
「じゃあ、もう少し登ったら休憩しようや、ダウドもそれでいいか?」
 
「う、うん……」
 
(なんだよお、さっきオイラが休憩しようって言った時はあんなに……)
 
そして、少し平らな道に出る。休めそうな場所であり、そこで
休憩を取る事にした。
 
「ダウド、水出してくれ」
 
「あっ、うん……」
 
アイシャが紙コップに8人分とチビ、シロ用の清水を注ぐ。いろはと
こむぎが2人で出発前に作っておいたストック分のミルクを哺乳瓶で
ひまわりに飲ませた。
 
「朝に熱いお湯で作っておいたから丁度いい温度になってるね、
ばっちり!」
 
ちなみに、野外用のケトルは寺から借り、こむぎのサックに入れている。
 
「アンっ!」

「シロもおいしい?よかったーっ!」

こむぎに冷たい水を飲ませて貰っているシロ、嬉しそうである。
 
「ね、ねえ、おにぎりは?……まだですか?」
 
揉み手をしながらダウドがおずおずとジャミルに聞いてみる。
 
「あん?突貫野球小僧の丸井か?」
 
「違うよおっ!住職さんに貰った焼きおにぎりだよおっ!!」
 
「分ってるよ、ムキになんなよ……、けど、これは駄目だ、
今は食べない……」
 
「え~っ!何でさあっ!」
 
ダウドが立ち上がって口を尖らせて文句を言う。
 
「ダウド、これは夕ご飯の分なんだよ、だから今は食べるのはよそう」
 
「アルまで……、そんな事言ってたら食べられなくなっちゃうよ、
只でさえ暑いんだから……」
 
「だから爺さんも気を遣ってくれて、焼きムスビに
してくれたんだろうが、まあ、早めに夕飯にすっからよ、
今は俺が持ってきたビスケット食おうや」
 
ジャミルはリュックからビスケットを出すと、皆にも食べる様に勧めた。
 
(……昼ご飯はビスケット、そして夕飯は、焼きおにぎり、
こんなの耐えられない……、明日はどうなるのかなあ……、
そして、普段我儘ばっかなのに、どうしてこういう時は
いい子ぶんのさ……)
 
ジャミルから一枚渡された薄いビスケットと、しんのすけを交互に
見つめながらダウドが肩を落とした。
 
「さ、又歩き出そうぜ、今の時期は天候も変わりやすいしな……」
 
ダウドを除くメンバーが立ち上がったが、ダウドはそのまま
置石に座ったまま動こうとせず。
 
「お~い、ダウドよう……」
 
「先に行ってて、オイラはもうちょっと休んでから行くから……」
 
「……分ったよ、けどあんまり遅れないで来いよ?」
 
「うん……」
 
ダウドは、寺では我儘連発だったしんのすけが意外と文句も言わず、
道中皆に付いてきている事に何となくコンプレックスと劣等感を
抱いてしまっていた。それもわずか小さな5歳児に……。
 
「やっぱり、来るんじゃなかったよお、大体ジャミル達が
悪いんじゃないか、いっつも騒動に巻き込んでさ、身体なんか
入れ替わらなければ……」
 
そしていつも通り始まる、いじけと後悔の念……。
 
 
「……ジャミル、そろそろ様子を見に行った方が……」
 
結局、あれから先に上に行った他のメンバーは途中でそのまま動かず、
ダウドが登ってくるのを待っていた。
 
「いや、いいよ……」
 
「ジャミル……」
 
アルベルトが心配するがジャミルは首を横に振る。
 
「チビ、頼みがあるんだけどさ……」
 
「ぴ?なあに?」
 
「お前の友達のドラゴン、此処まで呼べるか?」
 
「呼べるけど、どうするの?」
 
チビが首を傾げ、不思議そうな顔をする。
 
「もしもの場合、ダウドをマンション近くまで送って
欲しいんだ、……迷惑掛けちまうけど……、頼めるか?」
 
「ぴきゅ、……それは大丈夫だけど……」
 
しんのすけははっとし、こむぎの後ろに隠れる。
 
「や、やだゾ!オラ、絶対帰んないもん!」
 
「ハイハイ、おめえの根性は認めてやるよ、最後まで宜しくな……」
 
「ブ・ラジャー!」
 
しんのすけ、びしっとジャミルに敬礼する。
 
「本当はダウドだって嫌なのに、私達の事心配してくれてるから、
無理して此処まで付き合ってくれたのよね、悪いのは私達だわ……」
 
「私、ダウドさんの様子見てきますっ!」
 
「わたしもいくっ!」
 
「……いや、いいよ、お前らも疲れてるのにこれ以上
負担掛けらんねえよ、どうせいじけて動かねえんだろ、
俺が行って一発……」
 
「ジャミル、余計ダウドを刺激しちゃうだろ……、彼女達に
任せた方がいいかも、案外ちゃっかりしてるから、ダウドも……、
2人が行ってくれた方が効果的かも知れない……」
 
「大丈夫です、此処は任せて下さいっ!アルベルトさん!」

「わんわんっ!」
 
いろはこむぎと一緒に手を繋ぎながらダウドのいる場所まで
戻って行った。
 
「ダウドさあ~んっ!」

「ダウドっ、いた~っ!」
 
「……」
 
ダウドはやはりあのまま座りっぱなしで動かないでいた。何か
考え事をしている様にも見えた。
 
「あの、戻りましょう……?ジャミルさん達も……、心配してますよ?」

「ガルガルはダメだよっ!ダウドのお顔、何かガルガルしてるもん!」
 
「いろはちゃんとこむぎちゃん、まだいたんだ?……もうオイラ
置いて皆行っちゃったかと思った……」
 
ダウドは来てくれた2人の顔を見て、やるせなさそうな表情をする。
  
「別にー?オイラいつもこうだもん、不貞腐れてないよー?
ぜーんぜんっ、不貞腐れてませんよー!?……ガルガルなんて
してませんよっ、ぜーんぜんっ!もう少し休んだらちゃんと
動くよお!ふん!」
 
「……あ、あのう……、困ったねえ~……」
 
「もう~っ!ダウドってばっ!」

いろはとこむぎはダウドの対応に困り果てる。ジャミル達から
話には聞いていたが、彼のヘタレがまさか此処までとは思わず
甘く見過ぎていた。
 
「もう日も暮れますから、一人でいたら危ないですよ……」
 
「……ふん」
 
「……いろは、やっぱり一度戻ってジャミル達に言った方が
いいかもだよ……」
 
「そうだね、そうしようか……」

二人は一旦諦めて、体勢を立て直そうとした、……その時……。
 
 
……ガサッ……
 
 
「何の音だろ?……其処の茂みから……」
 
「……何だか嫌な感じがするよ……、どうしたのかなあ……?」
 
 
「フンガーーー!!」
 
 
茂みから現れたのは、かなり大きいイノシシであった。……流石、
未知の領域の山と言うべきか……。
 
「……おっきいイノシシさんっ!?」
 
イノシシはいろは達を仕切りに睨んでおり、今にも飛び掛かって
きそうな勢いである……。ジリジリと……、彼女達に迫る……。

「……ギャー!やばいよやばいよおおーー!!」

「ンモーっ!ダウドはおとこのこでしょっ、しっかりしなさいっ!」
 
「……だ、だってえええ~……」

「わたしがイノシシさんとお話してくるね、ちょっと待ってて!」

「……へ?あ、こむぎちゃんっ!危ないよお!」

「大丈夫ですよ、こむぎは動物さんとお話が出来ますから、
きっと……」

「で、でも……」

「お~いっ、イノシシさあ~んっ!イノシシさんもガルガルしちゃだめーっ!
なかよくしようよーっ!」

こむぎは平気で巨大なイノシシに向かって行く。だが、いろはは
静かに彼女を見守っている。パートナーの事を心から信頼している、
二人の絆……。だが。

「……え、えっ?違うよっ、ダウドは悪い人じゃ……、あっ!」

「えええーーっ!?」

イノシシはこむぎと暫く会話をしていた様だったが……、いきなり
ダウドの方に視線を向けると、ダウド目掛け飛び掛かってきた……。

「……ダウドさん、危ないーっ!」

「……うぎゃああーーっ!!」

「だめええーーっ!!」

……誰かがダウドを思い切り突き飛ばし……、ダウドは地面に倒れ、
頭を思い切りぶつけるが、間一髪で難を逃れる。だが、次の瞬間、
耳を劈く様な悲痛な声が……。

「いだだだ……、ひ、ひどい……、!?」

「……こむぎっ、こむぎっ!しっかりしてっ!!……こむぎっ!」

我に返ったダウドが目にした光景……。子犬の姿に戻っているこむぎを
いろはが泣きながら助け起こしていた。こむぎの腕からは血が流れていた。
こむぎはイノシシからダウドを庇った際、身体をぶつけられ、大怪我を
負っていた。

「……いろはちゃんっ、こむぎちゃんっ!」

「ダウドさん……、どうしよう……、こむぎが、こむぎが……」

いろはは顔を上げ、ダウドの方を見る。その顔は涙で溢れていた……。

「……あ、あっ……」

いのししは暫くダウドを睨んでいたが、そのまま再び茂みに消えた……。
 
「……いろはちゃん、ごめんね……、本当に……!此処は一旦戻って
ジャミル達に知らせに行こう、ごめんよ、オイラが勝手な事した所為で……、
こんな事になるなんて……!ごめんよ、ごめんよ、本当に……」
 
「……ううん、大丈夫です、私がしっかりしなくちゃ、今出来る事を
しないと……、泣いててもこむぎは助けられません、行きましょう、
ダウドさんっ!」

いろはは拳で涙をごしごし乱暴に擦って隠すとダウドに泣きの笑顔をみせた。
 
「……いろはちゃん、君、本当に強い女の子なんだね、それに比べて
オイラは……、何て情けない奴なんだ……」
 
ダウドの所為でこうなったのに、彼女はダウドを攻める事をしない。
そんな純粋ないろはを見ていると、ダウドは益々卑屈な自分が
情けなくなるのだった……。
 
一方の、ダウドといろは達を待つメンバー……
 
「あの、オラからもご提案があります……」
 
しんのすけがしゅたと右手を挙げた。
 
「何だよ、珍しいな、言ってみろ」
 
「あのね、チビが友達のドラゴンさん呼べるなら、オラ達も
ドラゴン谷までドラゴンさんに乗せてって貰えばいいと思うの……」
 
「……そうか、そりゃ考えてなかったな、お前案外頭いいな……」
 
「でしょ?オラ、ジャミルお兄さんよりも頭いいかも……」
 
「ボ……、です、ね……」
 
「おい……」
 
「駄目っ!それは駄目なのっ!!」
 
「チビ……?」
 
「お……?」
 
「ドラゴン谷に直に入った人間はこれまでいないんだよお、
ドラゴン達は勇気ある者以外は谷に入らせる事を絶対拒むの、
だから、最初からズルなんかしようと考える心の持ち主は
当然谷にも入れて貰えないんだよお!」
 
「そ、そうか、そうだよな……、厳しいな……」
 
「……試練を超えた者だけが谷に入る事を許されるんだね……、
成程……、あれ?」
 
「アル、どうかしたか……?」
 
「……ダウド達だ……、走って来るけど、何だか様子がおかしいよ……」
 
「え、ええ……?」

冒険編6 ヘタレ、開き直る

「……大変だよおおーーっ!!……ひ、ひいい~……」
 
急いで坂を駆け上がってくる、子犬のこむぎを抱えたいろは、そして、
後からひいひい言いながら走って来るダウドの姿が。……いろはの
真っ青な顔を見れば何が起きたのか一目瞭然であった。
 
「どうしたんだよ、何かあったか!?……それに、こむぎは一体
どうしたんだっ!?」
 
「……大変なんだ、全部全部オイラの所為なんだよお!」

「……いろはちゃん、大丈夫!?……こむぎちゃん!酷い怪我!
血が……!それに身体が熱いわ!」

「……アイシャさあ~ん……、こむぎが……、こむ……」

「いろはちゃんっ!」
 
息を切らしてしまったいろはに慌ててアイシャが声を掛けるが……、
それまで気丈を保とうとしていたいろははアイシャの顔を見た途端、…
…顔をグジャグジャにし、……堪えていた涙を零した。

「……ハア、ハア……、い……、ろ、は……」

「……こむぎ……」
 
「オイラの所為なんだよおおーーっ!こむぎちゃんが……、
でっかいイノシシからオイラを庇って……」
 
「……何ですとオオオーーっ!?」

いろははアイシャに縋り付いたまま立ち直れず……。何とか気丈に
振る舞ってはいたが、辛くてやはり堪えきれなくなっていた……。
 
「……ごめんな、やっぱり俺達も一緒に行っていれば……、くそっ!
しかもこのヘタレ馬鹿の所為で……、……ほんっとーに済まねえ!」
 
「あああーーっ!アイシャの姿で殴られるのって何かやっぱ
嫌だよおーーっ!……ごめんよおおーーっ!みんなーーっ!」
 
「ジャミルも落ち着いて!とにかく冷静になろう、此処でダウドを
殴ってても何も解決しないよ!」
 
「そ、そうか……、とにかく落ち着かねえとな……」
 
アルベルトに言われ、ダウドを殴っていた拳を漸くダウドの頭部から
放すジャミル。
 
「……ううん、いいんです……、こむぎはきっと大丈夫!元気出して
信じなくちゃ!」
 
「いろは……」
 
「ジャミル、早くこむぎちゃんの怪我を……!」
 
「ああ、アイシャ、分かってるよ、けど……」
 
「おお……」
 
ジャミルはそう言いながら、不安そうにしているしんのすけ達の
方を見る……。早く何とかしてやらないと、このままではこむぎの
命が危ない。けれど、獣医もこんな処にいない今、どうしたらいいのか
……。ジャミルは今直ぐに山を下りて町の方に戻る決断を考え、皆に
伝えようとした。その時。
 
「大丈夫だよお……」
 
「チビ……?」
 
「チビ、直ぐに怪我が治る、薬草の有る場所、知ってる、でもね、
その薬草は凄く数が少ないんだよお、だから少し時間が掛るかも
知れないきゅぴ、でも、頑張って取ってくるから!それまで、
こむぎちゃんの事、どうかお願いきゅぴ……」

「そうだな、結局今から町に戻っても、無理に動かせば
こむぎの身体に返って負担掛けるかもだからな……」

「チビちゃんっ!あ、ありが……とう……」

「ぴいっ!」

チビは涙で濡れているいろはの顔を見て、力強く返事を返した。
 
「だけど、マジで助かるよ、チビ……、本当にお前がいてくれて……」
 
「そうだね、少々危険かも知れないけれど、此処はチビに
任せるしかないよ……、頼んだよ、チビ……、信じてるよ……」
 
「ぴきゅ、アル、任せて!モンブラン山はチビ達ドラゴンの
テリトリーだもん!」
 
「……チビちゃん……、本当にありがとうーっ!で、でも、くれぐれも
危ない事はしないでね!お願いっ!!チビちゃんにまでもしもの事が
あったら、私、私っ……!!」

「きゅっぴ、うん……」

「チビちゃん……、本当だよ、何かあったら直ぐに戻ってくるんだよ、
……どうか無理しないで……」
 
いろはは震える手つきでチビを抱擁、ぎゅっと抱き締めると
何回もお礼を言った。
 
「チビ、すぐ戻ってくるから、だから、信じて待っていてね、
いろはちゃん、……こむぎちゃんも頑張って……、負けちゃ
ダメだよお……」

「チビ、……こむぎ、げんきになる、がんばるわん……」

「こむぎちゃん、本当に約束だよお、チビが戻ってくるまで……」

「わん……」
 
いろはを元気づける様に、チビがペロッと頬を舐め、頑張ろうと
しているこむぎの顔も優しく舐めた。
 
「ぴい、それじゃ、チビ行ってくるよお!」
 
チビはそう言うと、林の奥へと飛んでいき、そのまま姿を消した……。
 
「チビちゃん……」
 
「アイシャ、此処はチビに任せるしかねえ、俺らじゃどうにも
出来ねえんだ……」
 
アイシャは手を胸の前で組んで静かにチビの無事を祈る。
そして、今日は一行はこのまま此処で夜を超すしかなかった……。
焚火を囲み……、皆に沈黙が流れる……。チビが薬草を探しに
飛び立ってから既に数時間が経過していた……。
 
「ねえ、チビ……、まだ戻ってこない?……こむぎちゃん、大丈夫……?」

「……クゥゥ~ン……」
 
しんのすけは一旦は眠ったが、目を覚してしまい、心配で
ずっと眠れないでいる。ジャミル達や、いろはの様子が
気になるのか、すぐに目を覚ましてしまう。シロも心配そうに
こむぎの状態を見守っていた……。
 
「大丈夫だよっ、ごめんね、心配掛けて!、さ、しんちゃんも、
早く寝ないと朝寝坊しちゃうよっ!明日も元気で冒険する為にねっ!
……大丈夫、きっとこむぎは元気になるよ、ねっ……?……こむぎ……」

いろはは眠っているこむぎの手をそっと握る。きっと、きっと……。
チビが薬草を無事に見つけて来てくれて……。明日には又、元気な
こむぎの姿に会えると……。
 
「辛いのはいろはちゃんでしょ、無理しちゃ駄目なんだゾ……」
 
「……しんちゃん……」
 
いろはは声を絞出し、しんのすけを抱きしめる。冒険初日、いろはには
とても不安で長い夜となった……。
 
「しんちゃん、……チビちゃんを信じましょう、今はそれしかないの、
大丈夫、必ず薬草を持って、元気で戻って来てくれるわ……」
 
「……そうだね……、オラも信じる……」
 
「いろはちゃん、ごめんね、ごめんね、……全部私達の所為だわ、
危険な事に巻き込んでしまって本当にごめんね……」

「そんな事ないですっ!私達、ジャミルさん達の為に、
出来る事をお手伝いしたくて、頑張って、そして楽しい冒険を
しようって決めたんですから!ハプニングもへっちゃらっ!!
だから、アイシャさんもそんな顔しないで下さいっ!ねっ!?」

「……いろはちゃん、有り難う……」
 
アイシャは再びいろはを抱きしめながら、只管謝る事しか
出来ないのだった……。
 
「……」
 
一方のダウドは……、皆から顔を背け、俯いて座った状態のままである。
ひまわりは完全に眠ってしまった為、皆で交代で見守っている。
……ボーちゃんも。やがて、しんのすけも今度は完全に眠った様子であった。
 
「ダウド……」
 
「何?ジャミル……」
 
ダウドはジャミルから顔を背けたままの状態で口を開いた。
 
「全部オイラが悪いんだよ、分かってるよ、オイラが立ち止まったり
なんかしなければ……、でも、オイラどうやっていろはちゃんに……、
こむぎちゃんや皆にも謝っていいか分からない、ごめんよ……」
 
「いや、一番悪いのは皆を巻きこんじまった張本人の俺だよ、
ごめんな、本当にさ……、俺も今はこれ以上言葉が出ねえんだ、
どうしたらいいのか……、マジで困ってる……」
 
「ジャミル……」
 
ダウドは漸く、少しだけジャミルの方を見る……。
 
 
……きゅぴ~っ!!
 
 
「あ、あの鳴き声っ……!」
 
「チビだっ!戻ってきたっ!!」
 
「みんな~、遅くなってごめんねー!薬草取ってきたよおー!」

「……チビちゃん……、ふぇっ……」

「ありが……とう……」
 
涙目になるアイシャといろは……。チビは約束通り、ちゃんと無事に
戻って来た。怪我もしておらず、両手にしっかりと薬草を抱えて。
 
「チビっ、お前!やってくれたな!ははっ!」
 
「……良かった……、ホントに……、無事で良かったよーっ!
チビちゃあーーんっ!」
 
いろはとアイシャはチビに飛び付き思い切りハグする。
ジャミルも皆も、チビと頑なに抱き合ういろはとアイシャの
姿を暫くの間、そっと見守っていたのだった。
 
「さあ、こむぎちゃんに急いで薬草を飲ませるよお!
薬草をお湯で溶かして飲ませるんだよお!

「おう!……お湯の準備だ!」

「はいっ!」

いろはは急いでケトルを使い、お湯を沸かし薬草茶を作りこむぎに
飲ませた。……皆が見守る中、こむぎの表情に赤みが差して……。
あれ程酷かった腕の傷も忽ち消えた。

「いろは……、みんな、こむぎ、もうだいじょうぶ……、ありがとね」

「……こむぎっ!よかったーっ!よかったよーーっ!……あ、あはははっ!
……ぐすっ、ひっく……」

「いろはってば、くすぐったいよー、わんだふるー!」

「うん、怪我は完全に治ったみたいだね、でも、直ぐに無理は出来ないよ、
もう一日この辺でゆっくり休もう、焦りは禁物だしね……」

「そうだな……」

「……チビちゃん、本当にありがとうね……、頑張ってくれて……、
お疲れ様……」

「ぴっ!」

「ハア、一時はどうなる事かと……、よ、よかったよおお~……」

泣き笑いしているいろはと元気になってはしゃぐこむぎの姿を
皆は暫くの間静かに見つめていた。

「よいしょ!チビっ!おかげでこむぎ、又元気になれたよっ!
ありがとー!人間はね、うれしい時はこうするんだってー!ちゅっ♡」

「ぴ、ぴいっ!……何か幸せぴい~……」

「もうっ、こむぎったら……、ふふっ!」

ガサ……
 
こむぎは再び少女モードに。チビへのお礼のほっぺにチュウ、
……その時、側の茂みが揺れ始め、再び何かが姿を現しそうであった。
異変に気付いたジャミルは直に皆に声を掛けた。
 
「……気を付けろっ、お前ら!」
 
ジャミルは警戒し、側に転がっている木の棒を拾って構えると、
女の子達を庇って後ろに下がらせる。
 
「ゥゥ……」
 
草むらから出て来たのは、ダウドを襲い、庇ったこむぎに
怪我を負わせたあの時の大きなイノシシであった……。
 
「こいつだよお!こむぎちゃんを襲ったのは!」
 
「そうかっ!畜生、また性懲りもなくっ!」
 
「きゅっぴ!待ってええーっ!」

「ダメだようーっ!」
 
「チビ……?」
 
「チビちゃん……?」

「こむぎ……」
 
チビはジャミルの正面に飛ぶと、イノシシを刺激しない様、
注意をし、庇う。こむぎもイノシシの前に立ち塞がると
大きく両手を広げる。
 
「イノシシさんにもおこってる理由があるんだよ!」

被害者の筈のこむぎは、必死にイノシシを庇うのである……。
 
「ど、どうなってんだよ……、これ……」
 
「ジャミル、此処はチビちゃん達のお話を聞いた方が
いいかも知れないわ……」
 
「……そうだね、あの感じだと、イノシシも僕らに危害を加えてくる
感じでもなさそうだよ……」
 
「わ、分ったよ……、仕方ねえ……」
 
アイシャとアルベルトの意見も耳に入れ、ジャミルは持っていた
木の棒を投げ捨てた。
 
「ジャミル、ありがとぴい!あのね、あのイノシシさんは、皆の事、
ちょっと誤解してただけなんだよお、またお山を荒しに来たのかと
思ったんだって……、それにね……、食べる物が無くなっちゃって、
とっても困ってるんだよお……、だから、お腹が空いて山を下りて
人間に見つかって、殺されちゃう仲間もいたり……、イノシシさんは
人間が恐いんだよお……、それでね、このイノシシさんにはちっちゃい
赤ちゃんがいるんだよお……」

「……ゥゥ……」

「……イノシシさん……、そっか、あなたはお母さんなんだね……」

いろはは切なそうな顔で目の前のイノシシを見つめる。人間と
決して避けられない野生動物との衝突……。動物が大好きな
優しい彼女の心はズキズキし、悲しみに溢れていた……。

「そうか、コイツが苛めてくると思って、……子供を守る為に、
警戒して興奮しちまったのか……」

「なんでそうなるんだよお!……オイラだって気が弱いんだから!
そんな事しないよお~、とほほ~……、けど、ずっとあんな処で
いじけてたから、びっくりさせちゃったのかな、ごめんね……」

「……」

ダウドはイノシシに向かって頭を下げる……。その様子をイノシシは
静かに眺めている。
 
「それでね、イノシシさんも……、おやまがあらされて、段々住むところも
なくなってるんだよ…………」
 
「環境破壊だね……」
 
いろはもこむぎの方を見る。イノシシ達の現状を理解した様子である……。
 
「最近はこの島も、人が沢山多くなって来て……、山にも人が沢山遊びに、
来てくれる様になったり、それはとても嬉しい事かも知れないけど……、
でも、山にゴミを捨てたり、木を沢山切り倒したり……、自然豊かな
モンブラン山の自然も破壊されつつあるんだよお、何れはもしかしたら、
このモンブラン山にもリゾート地が建つかも知れないって、チビ達、
リーダーのドラゴンさんが言ってる……、他の動物さん達も住処を
追われたり、どんどん居場所がなくなっているんだよお……」
 
「……そうね、此処最近は常識では考えられない恐ろしい異常気象も
続いているものね……」
 
「人と自然の共存か……、そうだな、……バカの俺でも真剣に
取り組んで考えなきゃいけない課題なんだよな……」
 
アイシャも、ジャミルまで……、今日は何時になく、真剣な表情をしていた。
 
「プ……、えーと……、バ、バカ……、プ……、バカの課題……」
 
「アル……、お前、なぜ其処で吹く?……んーっ!?」
 
「ご、ごめん……、君が言うとどうしても……、プ、ププププ……」
 
真面目に呟いているのに、ジャミルが言うとどうしても
アルベルトにはツボに来て困るらしかった……。
 
「……うわああーーんっ!!」
 
「ダウドっ!?」
 
「君達の事情も知らないで……、酷い事言ってごめんよおおーーっ!!
誤解してたよおーーっ!!少ないけどこれ食べてええーーっ!!」
 
「こ、こらっ!……ダウドおおおーーーっ!!」
 
ダウドは号泣しながらリュックに入っていた焼きおにぎりを
イノシシに全部渡してしまうのであった……。その途端、
隠れていた瓜坊たちも一斉に姿を現す……。このイノシシの
子供達だった。

「あはっ!かわいいー!すごーいっ!みんな、こんにちはー!」
イノシシさんの赤ちゃんだねっ!」
 
「イノシシさん、とっても喜んでるよっ!それにね、おどかして
ごめんって、ダウドにあやまってるよ!」

「オ、オイラに……?あ、あははは……、此方こそ……」
 
「バフ!」
 
「暫くは俺の持って来たビスケットの残りで食い繋いで
行くしかねえな……、たくっ、変な処でカッコつけるな!
このヘタレ!」
 
「あいたあーーっ!」
 
ダウド、ジャミルに思い切り殴られるのであった。
 
「みんな、イノシシさん達に優しくしてくれてありがとうー!とっても
喜んでるよおー!もらったおにぎりは山の動物さん達とも皆で仲良く
分けて食べるって!山頂までのジャミル達のご飯はチビが人間でも
食べれられるキノコとか探すから心配しなくていいよおー!」
 
「本当か!?……うううー、マジで助かる……!」
 
「何から何まで、本当に……、チビちゃん、ありがとう……」
 
「はあ、チビがいなかったら……、僕ら今頃どうなってたか……」
 
「チビちゃーあんっ!チビちゃんは本当にヒーローだよーっ!」
 
「…チビはとってもわんだふるー!だよっ!」」
 
「……お、みんなでチビと抱き合って何やってんの……、
でも、こむぎちゃん……、お元気になって良かったゾ……」
 
「わから、ない……、で、も、なんか……、ポ♡」
 
「……やいっ!(ケ!)」

「アンっ!」
 
お子ちゃま達はお兄さん、お姉さん達の大声で目を覚ます……。
こむぎ重体騒動から一夜明け、既に新しい朝が始まろうとしている。
 
「いいんだもん、オイラ、これからもヘタレ道まっしぐらでいくもん、
……うふふ……、これがオイラ、ヘタレのダウドですもの~!」
 
何はともあれ、こむぎも無事帰還、イノシシ親子に別れを告げ、
メンバーは山頂に向かって再び下元気よく歩き出した。

冒険編7 ドラゴン谷へ

……それから約三日後。一行は山道を歩いて歩いて、只管歩き捲り……、
漸くドラゴン谷へ近辺と辿り着く。チビが言うには恐らく、徒歩で来た
人間としては異例の速さ……、だろうと言う事らしかった。前回の話の通り
食料等は、山中でチビが見つけて来てくれた、人間でも食べられる
茸や山菜等でどうにか食い繋いでいたので何とか元気である。
 
「はあ、ようやっとドラゴン谷かよ、でも等々此処まで来たんだよな……」
 
「でも、これで終わりじゃないんだからね、本番はこの先だよ……、
これからどうなるか分からないんだからね……」
 
いつもの通り、アルベルトがジャミルに注意する。調子に乗らない様。
 
「……分ってるよっ!」
 
「おお!オラ達も頑張ったゾ!サバイバルなお子様だゾ!」
 
「たいやっ!」
 
「ボオオー!」
 
「アンっ!」
 
「わたし達もがんばったよっ!いえ~い!ビューティペアー!」

「あはは~……、こむぎってば、全くもう、元気になった途端、
これだもん……」
 
こむぎはいろはの片手を取って高く掲げ、万歳ポーズを取る。
 
「そうね、本当にね、有難う、皆!」

「いえいえっ、私達はそんなっ!自分達で出来る事をと思って
行動してるだけですからっ!ねっ、こむぎっ!」

「うんっ、これからもみんなでいっしょにがんばろうねっ!
あっ、これなになにっ!落ちてたよーっ!棒にさしたドーナツ
かなあっ!ジャミルにプレゼント!はいっ!」

「……これは棒に差したウンコだよっ!って、人に向けるなっ!
こらーーっ!」

「ど、どうもすみませんっ!……こむぎーーっ!」

「もう~、しょうがないお兄ちゃんとお姉ちゃん達だよね、
うふふ!」

「……ですなあ~……」

「たやいっ!」

「ボ……」
 
しんのすけ達の方を向いてアイシャもくすっと微笑みを浮かべた。
 
(ジャミルの姿なのに、アイシャ、最近何だかますます色気が
出て来てる様な……、これって何だかなあ……、大丈夫
なのかなあ……)
 
と、時折、アルベルトがアイシャの方をちらちら見る。
逆のジャミルは、アイシャの姿で相変わらずの蟹股歩きを
してみたりと、こっそりおならを落してみたりと、どんどん
ジャミル本人の地が出ており、ますます男らしくなっていく
様であった。
 
「ハア、もうこの姿(アイシャ)になってから、俺、一体何日
タバコ吸ってないんだろう……、吸いたいよ、タバコ……、
しくしく……」
 
「ぴきゅ、ジャミル、ダウがいないよ……」
 
チビがジャミルの側に飛んでくる。
 
「あん?……あの野郎、また……」
 
「お~いっ!ハア、やっと追いついた……」
 
「……ダウドっ!」
 
皆から数分遅れてダウドが到着した……。
 
「……おーい、ペース乱すなって何回言ったら分かんだよっ!!」
 
「いいでしょ?オイラはオイラのペースで行くんだよ、これからも!
開き直ったんだからねっ!オイラはさ!!」
 
……前回の件で開き直り、ますます癖の悪いヘタレへとパワーアップ
しつつあったのである。
 
「まあ、ジャミル、ダウドも一生懸命なんだし……」
 
「そうだよ、オイラ一生懸命なんだからね!」
 
……と、開き直るダウドに、アルベルトもスリッパを
取り出しそうであった。
 
(……ジャミルがアイシャの姿になってから、ジャミルが馬鹿やっても
スリッパで叩けないし……、僕も何だかストレス溜り気味だよ……)
 
と、揉めている処にいろはのスマホに着信が入る。
 
「わっ、こんな山奥でもメールがちゃんと届いたーっ!」
 
「ユキにまゆ、悟からもみんなが応援してくれてるよっ!」
 
2人がマンションを離れ、数日。懐かしい友達から応援メールが。

 
いろはちゃん、こむぎちゃん、お元気ですか?ジャミルさん達と
一緒にお寺修行に行くなんて、本当に凄いねっ!修行ってどんな事
するのかな?ちょっと心配だけど、こわくない、こわくない……!
いろはちゃん達なら大丈夫だよっ!戻ったらお話沢山聞かせてね、
楽しみにしてるよ! まゆ
                                       
……元気してる?お寺の方にご迷惑掛けてないか心配だけど、まあ、
しっかり頑張りなさい、……心配でしょうがないニャ……、って、
べ、別に……、心配なんかしてないわよ、……してないんだから……、
早く帰って来なさいよ、あんた達がいないと静かすぎて淋しいのよ……、
って、べ、別に淋しくなんか……、じゃあ、またね……、ユキ


「ふふっ、ユキちゃんてば……、まゆちゃんも有り難う、
嬉しいね、こむぎ!」

「わんっ!悟のメールも見せてーっ!」

 
犬飼さん、こむぎちゃん、元気ですか?僕達も元気です、……本当は、
……犬飼さん達がいないと淋し……、わわわわっ!こ、こっちは皆、
元気で過ごしてるから心配しないでね、お寺の修行ってどんな事を
するのか、僕もとっても興味があるんだ、犬飼さん達の帰りを皆で
楽しみに待ってます、勿論、大福も一緒にね、それじゃあ、また…… 
兎山悟より


「悟君、ありがとう……、私、とっても嬉しいよ、頑張るからね、皆……」

「わんわんっ!」

「お?何だ、何だい、……カレシからのメールかい?……イテッ!」

「邪魔するんじゃ無いのっ!ハア、自分で自分の耳を引っ張るって、
やっぱり複雑だわ~……」

「いてーなっ!オメーはっ!」

アイシャ、おじゃ魔虫ジャミ公の耳を引っ張って慌てて
その場から遠ざける。だが、構われた張本人のいろはは
きょとんとしていた。

「……カラシからのメールって、何だろう、ね?そう言えば、
冬になったら、おでんの季節だねえ~!」

「ジャミルも時々分かんないんだわん!わたしも人間に変身
出来る様になったから、おでんいっぱい食べられるねっ!」

「……あははは……」       
 
……話がズレているが。応援メールを胸に受け、いろはと
こむぎは大感激する。嘘を付くのが苦手ないろはが決意して
付いた嘘。そして、嘘を付いて出て来てしまった事を申し訳なく
思いつつ、お騒がせコンビ、ジャミルとアイシャが無事に元に
戻るのを見届けるまで、それまで精一杯自分達に出来る事は
サポートさせて貰おうと思ったのである。
 
「きゅぴ、じゃあ、チビ、仲間のドラゴンさん達にジャミル達が
来た事、伝えてくるね!歩いていくとは言ってあるけど、本当に皆、
此処まで来たんだから、びっくりしちゃうよお!!」
 
「ああ、頼んだぜ、チビ……」
 
チビはドラゴン谷まで一足早く飛んで行った。
 
「これで、私達も谷に入れて貰えるのかしら……?」
 
「まあ、此処もチビに任せるしかねえな……」
 
一行は、再びチビが戻って来るのを休憩しながら待つ。
それから、10分あまり経過し……。
 
「きゅぴーっ、お待たせーっ!皆がジャミル達に会って
くれるって、良かったねえ!!」
 
「おお、そうか!んじゃあ、俺らドラゴン達に認められたっつー
事か、苦労して歩いて来た甲斐があったってもんだ!」
 
「ぴい、行こう、皆が待ってるよお!」
 
ジャミル達は、ドラゴン谷までの道をもうひと踏ん張り、歩いて行く。
そして、……等々……。
 
 
山頂 ドラゴン谷 集落
 
 
「……まあ、人間達がこんな処まで、本当に物好きな奴らもいた者だ、
お前達は寺の時と、公園で確か会っているな、話はチビスケから聞いている、
私は此処の谷を統べる、ドラゴンの長だ……」
 
チビよりも数十倍大きいレッドドラゴンがズシンと地響きを立て、
ジャミル達の前に姿を見せた。
 
「ぴい、此処の谷に郵便部門があって、チビも皆もお仕事して
いるんだよお!」
 
「……そうか、いつも悪いな、で、ちゃんと自己紹介してなかったな、
俺はジャミル……、今は訳あって、こっちのアイシャと……」
 
「知っている、それもチビスケから聞いている、身体が入れ替わった
のであろう、実に面白い話であるな……、何とも信じがたい話では
あるが……」
 
(……こっちは全然面白くねえよ……)
 
「どうしたであるか?」
 
「いや、何でもねっス……」
 
「ドラゴンの長さん、私達、この先に進みたいんです、
この先には……、まだ誰も足を踏み入れた事の無い、未知の
世界がもしかしたらあるかも知れないと、其処に行けば、
身体を元に戻せる方法が……」
 
アイシャが率先して長ドラゴンの前に出る。
 
「ふむ、しかし……、私達はもう何百年も此処に住んでおるが、
未知の世界などそんな話は聞いた事もないのだが……」
 
「ぴい、チビ、お寺のおしょーさんから伝説のお話聞いた!」
 
チビは長ドラゴンの頭にじゃれついてパタパタと尻尾を振った。
 
「……やっぱり……、長寿のドラゴンも知らないんじゃあ、
何かやっぱり……、どっかの童話作家が作って広まった
おとぎ話なんじゃないの……?」
 
ダウドが絶望的な表情をするが、それでもジャミルも諦めず
ドラゴンに話を聞いてみる。
 
「それでも此処まで来たんだ、駄目なら諦めて帰るよ、だから……、
俺達をこの先に進ませてみてくれないか?」
 
「……確かに……、この先には洞窟があり、其処に大きな穴が
開いているぞ、まあ、気になるのであったら行ってみるが良い、
但し何があっても我らは責任を持たぬ、くれぐれも自己責任で
行って来い……」
 
(うわ、完全にっ、○ア○の大穴っ!!←ちげえ ……明らかに
前作から引っ張って来てるよお!!)
 
と、ダウドが困った表情をする中、ジャミル達はドラゴンの
言葉に目を輝かせた。
 
「本当に?いいのかっ!?」
 
「……気が済むまで調べて来い、但し上でも言った様に我らは
何の責任も持たぬぞ」
 
「ドラゴンさん、有難う!」
 
アイシャが長ドラゴンの首に飛びついた。
 
「うぬ、娘よ、早く元に戻れると良いの……」
 
「ええ!」
 
「お話の方はどうですかーっ?」
 
子供達と一緒に遊んでいたいろはとこむぎがやって来る。
 
「うん、駄目で元々……、ね、行く事に決めたみたいだよ……」
 
アルベルトがいろは達の方を見て笑った。
 
「待っててくれてる皆にも応援メール貰った事だし、
よお~し!私達も準備万端だよっ!ねっ、こむぎっ!」
 
「私もわくわく、じゅんびばっちりだよっ!」
 
「そうか、チビスケもこいつらをしっかり援護してやれ、
もしも何もない場合でも、すぐに戻って来い、お前らの住居まで
送って行っていってやる、帰りのルートは心配せずとも良いぞ……、
安心して行って来い」
 
「本当、助かるよ……、チビも引き続き宜しく頼むな」
 
「きゅぴ!任せるきゅぴ!皆、行こう!」
 
チビの言葉に一行は頷き、冒険は新たな展開へと進んでいく…。
 
(……どうかどうか……、出来るなら……、うっ……、
何もありません様に……)
 
……切実に祈る、往生際の悪いヘタレも一人……。

zokuダチ。セッション28

zokuダチ。セッション28

SFC版ロマサガ1 トモダチコレクション キャプテン まほプリ ロマサガ3 FF9 わんぷり FF8 コードネームはセーラーV クレしん メタルギアソリッド クロスオーバー バカ どんどん増える変な住人 カオスな世界 ドラクエ オリキャラ 陰からマモル 幻想水滸伝ティアクライス 幻想水滸伝1

  • 小説
  • 短編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-09-09

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work