乙女でヒヅメなぷりゅぷりゅ姉妹! なのっ❤
Ⅰ
「ぷりゅーっ!」
怒りの。
「!」
パカーーン! 蹴り抜く。
「ぷ……ぐ……」
思わぬ不意打ち。ダメージは。
「……な……」
ようやく。
「何すんだ、白雪(しらゆき)ぃ!」
負けじと。怒りの。
「こっちなの」
「は?」
「『何すんだ』はこっちのセリフなのーーっ!」
ぷりゅーっ! 猛りいななく。
「なっ……」
迫力に押され。
「おれっちが何を」
「アホなの」
がくぅっ!
「何なんだ、いきなり面と向かって!」
またも。憤りの。
「ジュチ兄ちゃん、アホなの」
「おい!」
「そんなアホな兄ちゃんが!」
ぷりゅしっ! ヒヅメをさし。
「シラユキの大切な姉妹を傷つけるってどういうことなのーーっ!!!」
Ⅱ
立ち姿。凛々しく。
「アリスはとってもシラユキのことをかわいがってくれます。シラユキもアリスのことが大好きです。おわり」
発表を終えて。
「ぷりゅー」
「ぷりゅぷりゅー」
パカパカパカ。拍手――拍ヒヅメに包まれる中。
「ぷりゅっふー」
うれしそうかつ誇らしげな鼻息が。
「白雪ちゃん」
そこに。
「ロクラちゃん!」
ぱぁっと。
「どーだったの、シラユキの作文!」
「う、うん」
勢いに押されながらも。
「すごくよかったよ」
「やっぱりー!」
すりすりすりっ!
「シラユキ、がんばったのー!」
「うん」
まぶしいものを見る目で。
「すごく立派だった」
すこし。目を伏せ。
「うらやましいな」
「ロクラちゃんにだってシルビアがいるの! すごくやさしーの!」
「あ、うん」
いななきを濁す。
「さっ、次はロクラちゃんなの」
「ぷ……!」
たちまち。おどおどするも。
「がんばるの」
ヒヅメを。
「白雪ちゃん……」
こわばりが解け。
「ぷりゅ」
一礼し。
「シルビア様はとてもわたしのことをかわいがってくれます」
語り出した。
「マリエッタせんせー、さようならー」
「先生、さようなら」
生徒たちのあいさつに。
「さようなら、白雪、麓羅(ろくら)」
優しい微笑みを。
「行くの、ロクラちゃん」
「うん」
うなずき。
「ぷりゅりゅー、ぷーりゅ~♪ ぷりゅりゅー、ぷーりゅ~♪」
並んで歩き出す。楽しそうに歌いながら。
「ほら、ロクラちゃんも。もっと大きな声で歌うの」
「う、うん」
もじもじと。それでも。
「ぷりゅりゅー、ぷーりゅ~♪」
「ぷりゅりゅー、ぷーりゅ~♪」
仲良く。歌声が響く。
「ぷ」
止まる。
「セスティちゃーん」
ぷりゅーっ。駆けていく。
「お。学校、終わったか」
「終わったのーっ」
ドーン!
「ぷるぐふっ!」
容赦ない突進。苦痛のうめきを。
「ア……アタイを終わらせる気か!」
「セスティちゃん直伝なの」
「直伝したよ!」
「どーだったの?」
「……いい頭突き持ってんじゃねーか」
「わーい、なの」
「白雪ちゃん、セスティお姉さんに」
「へーきなの。セスティちゃん、じょーぶだから」
「丈夫になったよ、おまえらの相手で!」
「あ、あのっ」
あわあわと。
「ごめんなさい、白雪ちゃんがいつも」
「ああ、『いつも』だな」
言って。
「おらぁっ!」
がしっ!
「ぷりゅ!?」
「いつもいつも」
ぶぉぉーーーーん!
「やられっ放しだと思うなぁーーっ!」
「ぷりゅーっ」
勢いよく。投げ飛ばされる。
「白雪ちゃん!」
「へへっ」
どうだとばかり。
「こっちは、麓華(ろっか)のアネゴ直伝だぜ」
と。
「ぷ!?」
いない。
「ぷりゅっふっふー」
背後から。
「マリカゼちゃん直伝、身代わりの術なの」
「ちょこざいなぁ」
(ちょこざいって)
楽しんでいる。じゃれ合っていると言っていい。
「………………」
複雑そうに。瞳が。
「わたしはあなたを投げ飛ばしたおぼえはありませんが」
「ぷる!」
跳ね上がる。
「ア、アネゴ!」
「セスティ」
冷ややかに。
「そのような呼び方はやめなさいと言っているでしょう」
「ぷ、ぷる」
「まったく。齢を考えなさい」
ため息まじりに。
「もー、邪魔しちゃだめなの、ロクラちゃんのママ」
「白雪、あなたも」
視線が。
「アリス様の馬として、もっと自覚を持ちなさい」
「持ってるの」
ぷりゅふんっ、と。
「シラユキ、アリスの馬なの」
「だったら」
「だから、いつでも元気いっぱいなの。明るくかわいく元気よくなの」
「それより、騎士の馬としての自覚を」
「そーゆーのは後でいいのーっ」
駆け出す。
「ほら、セスティちゃんも!」
「アタイも!?」
「逃げないと、殺(ぷりゅ)されるの!」
「ぷる!」
ふるえあがり。
「ぷるーっ」
負けじと。追い抜く勢いで。
「セスティ、あなたまで」
ヒヅメがわななく。
「ロクラちゃんもーっ!」
「ぷりゅっ」
反射的に。
「麓羅!」
「っ」
ヒヅメが止まる。その間に。
「ぷ……」
行って――しまう。
「まったく。なんという子たちなのか」
深いため息。
「麓羅」
「は、はい」
完全に。縮こまる。
「あなたはわたしの娘」
「………………」
「そして、麓王(ろくおう)の孫なのですよ」
「……はい」
うなずく。
「なら、どのようにふるまうべきか」
背を向け。
「わかっているはず」
去っていく。
「………………」
ぽつり。残されて。
「おい」
はっと。
「珍しいな」
そこに。
「お兄さん」
「おまえだけか」
軽く。周りを見て。
「いつも、あいつと一緒だろ」
「………………」
目を。
「おい」
心配そうに。
「ケンカでもしたのかよ」
「違います」
「だったら」
「違うんです!」
大きないななきが。とたん。
「っ……ぷ……」
「あっ、おい」
あわてる気配。
それでも。
「ぷりゅっ……ぷりゅっ……」
顔を上げることが。
できなかった。
Ⅲ
「ぷりゅー」
不満そうな。
「つまんないの」
「おまえは年中、楽しんでんだろ」
「ぷりゅーっ」
ドーーーン!
「ぷるぐふっ」
「直伝なの」
「いちいち頭突きすんな!」
「セスティちゃんが悪いの。シラユキが基本ノーテンキみたいなこと言うから」
「事実、ノーテンキだろ!」
「ひどいの! 言葉のぼーりょくなの!」
「おまえのはそのまんま暴力だ!」
いつもと変わらない――と言いたいが、それよりやや険悪なやり取りが。
「ぷる!?」
白煙。突然の。
「ぷ!」
煙と共に。消える。
「また――」
言いかけて。
「って、おまえか、摩理風(まりかぜ)ぇっ!」
音もなく。そこに。
「ぷりゅー」
すりすり。うれしそうに。
「ありがとうなの、マリカゼちゃん」
こくり。うなずく。
「シラユキ、セスティちゃんにいじめられてたの」
「いじめてねーよ」
あきれまじり。
「摩理風」
軽く。にらみ。
「おまえもあんま甘やかしてんじゃねーぞ」
無視。
というより、無表情のまま。
「ぷりゅー」
甘えられるにまかせる。
「ったく」
あきらめ顔で。
「おまえ、忍馬(にんば)の頭領だろうが」
応えない。
「いいのかよ、こんなところで遊んでて」
「いいの」
代わって。
「マリカゼちゃん、若くしてとーりょーなの。シラユキと同じでゆーしゅーだから」
「はいはい」
「大変なそのストレスをシラユキとのふれあいで癒やしてるの。癒やしのシラユキなの」
「だったら、こっちも癒やせっての」
「ぷりゅーっ」
ドーーーン!
「ぷるぐふっ」
「直伝なの」
「癒やしとカンケーねーだろ、いまのは!」
と。
「あっ」
取り返された。そう言いたくなるように自分のほうに引き寄せる。
無表情のままで。
「だいじょーぶなの」
すりすり。
「ちゃんと、マリカゼちゃんにも直伝されてるの」
「つか、嫉妬すんなよ」
やれやれと。
「あ」
そこで。ようやく。
「おい、麓羅はどうしたんだよ」
「ぷ……」
とたんに。
「ぷりゅっ」
そっぽを。
「なんだよ」
あきれて。
「珍しいな。おまえらがケンカなんて」
「ぷりゅーっ」
パカーーン!
「ぷるぐふっ」
「この『パカーン』はオリジナルなの」
「じゃねーよ! アネゴそっくりだよ!」
「そーなの?」
「よろこぶな!」
「ハッ、そうなの」
ぷりゅ。険しい顔に戻り。
「ぷりゅふんっ」
「またかよ」
何なんだという。
「知らないの」
「はぁ?」
「ロクラちゃんなんて」
瞳が。ゆれ。
「知らないんだから」
ぽつり。いななきがこぼれた。
Ⅳ
「そう」
かすかに。目を伏せ。
「わたしも変だとは思っていたんだけど」
「だったら」
もどかしそうに。
「何とかしろよ。先生だろ」
「そうね」
微笑する。
「ぷるー」
不服そうに。
「かわいくないのかよ、あいつらが」
「かわいいわ」
ためらいなく。
「とってもかわいい生徒たちよ」
「だったら!」
ますますの。
「だから」
落ちつき払い。
「見守らないとね」
「見守るって」
それだけでは。
「セスティ」
おだやかに。
「白雪と麓羅は仲良しよ」
「それは」
知っている。
「生まれたときからの」
それも。
「けど」
だからこそ、よけいに。
「セスティ」
釘を刺すように。
「お姉さんでしょ」
「ぷ……」
その通りだ。
「だったら」
諭される。
「見守ってあげないと」
「………………」
言わんとしていることは。わかっていた。
はっと。
「ぷりゅー」
こちらに。注がれる視線。
「ぷ、ぷりゅ」
あわあわと。
「ぷりゅー」
近づいてくる。
「ぷ、ぷりゅ……」
ふるえる。未知の相手に。
動けないまま。
「ぷりゅっ」
ぎゅっと。目を。
「ぷりゅ~」
すりすり。
「ぷ?」
頬ずり。されていると。
気がつく。
「ぷーりゅ~」
すりすり。され続ける。
「ぷ……」
そこに。確かな。
優しい気持ち。
怖がらないで。仲よくしよう。
と。
「ぷ……りゅ……」
おずおずと。こちらからも。
頬を。
すり寄せていた。
「ふーん」
感心したとも、興味がないとも。
どちらとも取れない。
「ご、ごめんなさい」
あわてて。
「こんな話を。赤ん坊のころのなんて」
「あ、いや」
こちらも。
「なんか、いいなってさ」
「ぷりゅ?」
「おれっちには」
かすかに。瞳を。
「そういうの、ないから」
「ぷ……!」
聞いたことが。
「ごめんなさい、わ、わたし」
「あ、いや」
何でもないと。
「おれっちにはドル兄ちゃんがいたからさ!」
元気いっぱい。笑顔を。
「兄ちゃんがすっげえかわいがってくれた! 仲間たちにも会わせてくれた! 兄ちゃんがいなかったら、おまえにだって」
言って。
「や、その」
顔が。赤く。
「………………」
こちらも。
「あのさ」
あらためてと。
「大事にしろよ」
その言葉に。
「………………」
しかし。
「おい」
よけいなことを言ったかと。心配そうにそばに。
「ぷるぅあぁーーっ!」
ドーーーーン!
「ぷるぐふっ」
吹き飛ぶ。
「お兄さん!」
悲鳴が。
「おい」
そこへの。
「これが本家本元だぜ」
「て、てめえ」
苦しい息で。
「何しや」
「このエロガキ」
さえぎり。
「アタイの妹分にコナかけるたぁ、いい度胸じゃねえか」
「バッ……」
真っ赤に。
「そんなんじゃ」
「って、思いっきりあやしいじゃねーか!」
断言。
「ぷるぅあぁーっ!」
またもの。
「うぉっと」
素早く。
「二度もくら」
「ぷるーっ」
パカーーーン!
「ぷるぐふっ」
くらう。
「こっちはアネゴの直伝だぜ」
「ぷ……ぷる……」
「さーて」
動けなくなったのを見て取り。
「麓羅」
ヒヅメを。
「行くぞ」
「………………」
「?」
いぶかしげに。
「なんで来ないんだよ」
「………………」
答えない。
「おい」
もどかしく。
「あっ」
かわされる。
「お、おい」
こんな。反抗的な態度。
「っ」
さらに。
「……おい」
一転。険悪に。
「いまはさ」
ダメージをにじませながら。それでもどこうとはせず。
「すこしだけ、放っておいてほしいっていうか」
「ああン!?」
「だからさ!」
うまく言葉にできない。そんなもどかしさをこちらも。
そして、強引に。
「行け!」
背中越し。
「でも」
「いいから!」
「いいわけ……」
がしっ。止める。
「てめっ、エロガキぃ!」
「行け! 早く!」
「ぷりゅ……」
ためらう素振りを見せるも。
「あっ!」
駆け出す。
「どういうつもりだ、麓羅ぁ! おぉい!」
その声をふり切るようにして。
疾った。
Ⅴ
「セスティちゃんが悪いの!」
すかさずの。
「なんでだよ!」
「ワルなの!」
「は!?」
「セスティちゃんが」
ぷりゅー。非難の眼差し。
「ワルでぼーりょく的だからロクラちゃんが逃げたの。怖がらせたの」
「ンなこと」
ない。と言い切れないところが。
「……悪ぃ」
「認めたの!」
「や、そういうことじゃなくて」
なら、どういうことかと聞かれても。
「悪ぃ」
「やっぱり認めたの!」
「もういいだろ、それは!」
「よくないの!」
「じゃあ、どうすればいいんだよ!」
「どうもするななの!」
「はぁ!?」
凛々しく。
「シラユキが行くの!」
「えっ」
思わず。
「おまえが行くのか」
「ぷりゅ?」
その反応に。
「何か、おかしーの?」
「いや」
いななきを濁す。
「行ってとーぜんなの!」
あらためて。
「ロクラちゃんは姉妹なの。赤ちゃんのときからずっと一緒だったの。そんなシラユキが行かなくてどーするの」
「うん、まあ」
その通りだろうとは。
「どこなの?」
「えっ」
「ロクラちゃんなの! 決まってるの!」
ぷりゅーっ! もどかしい。
「どこって」
聞かれても。
「なんで、つきとめてねーの!」
ぷりゅーっ! 激昂。
「おい」
さすがにむっと。
「何でもかんでも、アタイまかせかよ」
「まかせないのっ」
ぷりゅぷいっ。
「ぷりゅーか、最初からセスティちゃんに何か頼んだ覚えないの。よけーなお世話なの」
「おまえなぁ」
こっちは心配して。
「誰にも頼ったりしないの! シラユキ、自立した馬なの!」
言って。
「マリカゼちゃーん!」
「って、さっそく頼ってんじゃねーか!」
風のように。
「まだいたのかよ。いいのか、忍馬の里は」
さらり。どちらにもスルーされ。
「ぷりゅーわけで、マリカゼちゃん、お願いなの」
こくり。うなずき。
「お……」
消える。
「さすがなの。できるオンナはよけーなこと言わないの」
「アタイはよけいなことばっか言ってるってのかよ」
「そんなこと言ってないのー」
ぷりゅつーん。
(かわいくねー)
そこへ。
「うお!」
「わー、お帰りなの、マリカゼちゃん。さすが、できるオンナは仕事も早いの」
「いや、早すぎんだろ。つーか」
うなずく。その通りだというように。
「あっ」
こちらに歩いてくる。
「ロクラちゃーん!」
すかさず。
「もー、どこ行ってたのー。心配したのー」
「………………」
応えない。
「ロクラちゃん?」
ぷりゅ? と。
「おい」
前に。
「なんか話があるんじゃねーか」
「っ」
ぴくっ。
「そーなの、ロクラちゃん?」
「………………」
応えない。
「そうなんだろ。だから、マリカゼが探しに行く前に自分から」
「セスティちゃんは黙ってるの! ワルなんだから!」
「ワルじゃねーよ!」
こちらで。言い合いが。
「いいから!」
強引に。
「ロクラちゃん……」
一転。不安そうな。
「シラユキのこと、嫌いになっちゃったの?」
「っ」
すぐさま。何度も首を横にふる。
「よかったのー」
心から。ほっと。
「シラユキたち、姉妹なの。嫌いになるなんてあり得ないの」
「………………」
応えない。
「おい」
脇で見ているほうが。
「なんか言えよ。こいつだって心配してたんだから」
「もー、黙ってるの、セスティちゃんは!」
そこに。
「白雪ちゃん」
「!」
待ってたと。
「ごめんなさい」
「ぷ!?」
背を。
「ど……」
どうして。
「また逃げんのかよ!」
共に。身を。
「ぷ!?」
立ちはだかる。
「な、なんで邪魔するの、マリカゼちゃん!」
何もいななかず。そのまま。
動かない。
「ぷ……!」
行ってしまう。
「ひどいの、マリカゼちゃん!」
「いや」
すこし頭が冷え。
「こいつ、麓羅のこともかわいがってるだろ」
こくり。うなずく。
「とーぜんなの! シラユキの姉妹なんだから!」
「むしろ」
優しい眼差しで。
「気持ちがわかるんじゃねーか」
「ぷりゅ?」
「こいつって無口じゃん。麓羅もあんま言葉が多いほうじゃねーし」
「ぷりゅりゅりゅりゅりゅ……」
納得いかないと。
「だからって」
悔しげに。その目に。
「おい……」
涙。
「シラユキは特別なの」
「………………」
「なのに、どうして」
はかなく。
「ちゃんと言ってくれないの」
ゆれる心と瞳の。
まま。
崩れるように。
「白雪……」
そんな〝妹分〟に。こちらも黙って胸を貸すのだった。
Ⅵ
「それで、わたしのところに」
「……はい」
すまなそうに。これ以上ないほど縮こまって。
「先生は」
いななきを。
「とても、その、素敵な先生だっていつも思っています」
「ありがとう」
誇るでもなく、謙遜するでもなく。
そのままうれしそうに。
「ほ、本当です」
伝え足りないと感じ。
「先生みたいにしっかりした馬になれたらって。そしたら」
その先が。
「………………」
言葉に。いななきに。
「麓羅」
優しく。
「あなたは」
そっと。鼻先をすり寄せる。
「とても素敵な馬よ」
「そんな」
「麓華さんと一緒で」
とたんに。
「………………」
重い。沈黙。
「麓羅」
微笑んで。
口を開くのを待つ。
「……わたしは」
ようやく。
「だめな馬です」
おだやかな眼差しに見守られ。
思いを。
「お母様のようになんて、とても」
微笑みの。まま。
「こんなだめなわたしが騎士の馬なんて」
「そう言われたの?」
はっと。
「シルビア様に」
「そんな」
あわてて。
「言うはずありません。シルビア様は」
「優しい方ですものね」
「………………」
「麓華さんのことも、とてもかわいがってらしたわ」
「……お母様は」
ぽつり。
「わたしとは違うから」
「ええ、違うわ」
息を。
「先生も」
ゆれる。瞳。
「やっぱり、わたしのこと」
ただ。微笑みを。
「ごめんなさい」
自分から。
「こんなわたしのために、心にもないことを」
何も。
「……っ」
耐えられないと。
「失礼しますっ」
駆け出す。
「……麓羅」
後ろ姿を。見送る。
「あなたと麓華さんは違うのよ」
優しい眼差しのままに。
「また泣いてんのかよ」
言って。
すぐすまなそうに。
「いや『また』って言い方はねえよな」
ぷる。頭を下げる。
「………………」
しばらく。何も言わないままだったが。
「お兄さんは」
「ん?」
口を。
「どうだったんですか」
「どうって」
唐突な問いかけ。さすがに。
「その」
もじもじと。
「これまで、どうだったんでしょうか」
「はあ?」
それでもあいまいだったが。
「まあ」
なんとか。
「変わらないとはよく言われるけどさ」
「そうなんですか」
「いや、ガキのころとはぜんぜん違うぜ? いまは騎士の馬として、ちゃんとドル兄ちゃんの役に立ててるからな」
ぷるっ。誇らしげに。
そんな姿を。
まぶしげに。
「すごいですね、お兄さんは」
「おう!」
「わたしは」
沈む。
「お兄さんたちみたいにはとても」
「なんでだよ!」
すかさず。
「決めるな!」
「え……」
思いがけない。
「き、決めているわけでは」
あせあせと。
「だからだ!」
「ぷりゅぅ!?」
「自分で決めろ!」
「ぷ……」
茫然。完全に。
「あ」
さすがに。意味不明なことを言っていたと気づき。
「そ、そういうわけだから」
ますますわからない。
「だから!」
強引に。
「ついてこい!」
「ぷ!?」
「あ、いや、じゃなくて」
完全に。収集が。
「『かかってこい』でもなくて、なんだっけかな」
あたふた。こちらが。
「………………」
それを見て。
「……ふふっ」
笑っていた。
Ⅶ
「ぷりゅふぅ」
ため息が。
「おい……」
重症だ。さすがに。
「白雪!」
意識しての。明るいいななきで。
「歌えよ! いつもみたいにさ!」
「ぷりゅぅ?」
けだるげな目で。。
「つまんないの」
「ぷる?」
「セスティちゃんと歌っても」
「いや、アタイも歌うとは」
「じゃー、シラユキにだけ歌わせるの?」
とたんに。責めるように。
「どういうつもりなの! 何様なの!」
「いや、何様って」
「『セスティ様』って呼ばせたいの!?」
「言ってねーよ、そんなこと」
完全に八つ当たりだ。
それでも。
「元気あんじゃねーか」
「ぷりゅふんっ」
悔しそうに。そっぽを向く。
「シラユキ、いつでも元気なの。元気でかわいいの」
「だったら」
ため息は。
「繊細なの」
ふぅーっ、と。
「ガサツなセスティちゃんと違って」
「おい」
ここに来ても悪口か。
「ぷりゅはっ」
そこで。気づいたと。
「うつってしまったの」
「は?」
「セスティちゃんのガサツが! シラユキにも伝染したの! だからなの!」
「病気か、アタイのガサツは!」
「ガサツは認めたの!」
「認めたよ!」
言ってしまう。
「って、アタイのことはどうでもいいんだよ!」
いま問題なのは。
「ビシッとしろ、ビシッと!」
「ほーら、ガサツなの。体育かいけーなの。病弱な文学少女のシラユキとは合わないの」
「どこが『病弱な文学少女』だよ」
いつでも元気と言ったばかりで。
「あの最後の葉が散ったとき、きっとシラユキの命も」
「おい」
不意の。
「やめろよな」
「……!」
はっと。
「………………」
声もなく。
「ぷりゅんなさい」
「なんで、おまえがあやまんだよ」
ぶっきらぼうながら。そこに優しさが戻る。
「そうだよな」
さびしさが。見上げた瞳に。
「病弱だろうと元気だろうと。そうなるときにはなっちまうんだ」
「………………」
「けど、おまえがいたから」
じわり。涙。
「おまえを置いていってって思ったら……もうどうしようもなくてさ」
「セスティちゃん」
すりすり。
「意外だったよ」
「ぷりゅ?」
「麓華のアネゴが」
微笑。
「おまえの面倒を見てくれるなんて」
「そーなの?」
「あー」
いななきにつまり。
「とにかく、そうなんだよ」
強引に。
「つか、おまえはどうだったんだ」
「どう?」
「だから、アネゴに面倒見てもらって」
「よかったの!」
すかさず。
「ロクラちゃんと姉妹になれたの!」
「ああ」
そういう。
「ぷりゅ……」
とたん。
「ロクラちゃん……」
「あ」
しまったと。
「お、おい」
あせって。
「アタイがいるだろ!」
「だから、何なの」
「おい」
そこまで言うか。
「アタイたちだって姉妹同然で」
「セスティちゃんはママの舎妹(しゃまい)なの」
「それは」
その通りだが。
「叔母さん?」
「おい」
やめてほしい。
「まあ、そういう歳っちゃ歳だけど」
認める。
「セスティおばちゃん」
「だから」
やめてくれと。
「おばちゃん、シラユキのこと嫌い?」
「い、いや」
その呼ばれ方が。
「おばちゃんにまで嫌われてしまったの」
「おい」
いい加減に。言いかけたところで。
「わかったの」
「えっ」
「シラユキ」
目を。不敵につりあげ。
「ふりょーになるの」
「はぁ!?」
なぜ、そういうことに。
「シラユキ、ぜつぼーしたの! だったら、グレるしかないの! 悪の道に走るの!」
「なんでだよ!」
極端すぎる。
(まあ、アネゴも極端なとこあったけど)
思い起こして。
「ぷりゅーわけで、よろしくお願いします」
「って、なんでだよ!」
ワルではないと。
「おばちゃん」
「『おばちゃん』でもねえーーーっ!」
数分後。
「セスティちゃんが悪の道に誘おーとしてたの」
「おい!」
なんというヒヅメ返し。
「そう……」
悲しそうに。
「だめよ、セスティ」
「おぉい!」
信じるなと。
「冗談よ」
(こいつ……)
「でも、本当にだめよ」
(どっちだ!)
「せんせー」
すり寄り。すりすり。
「シラユキ、いい子なのー」
「ええ」
こちらからも。すり寄せ返す。
「ぷりゅー」
心地よさそうに。
(ったく)
なごやかな光景。だが、やはりあきれるしかない。
「いい子なの」
くり返す。
「なのに」
瞳が。
「どうして嫌われちゃったの?」
微笑んで。
「いい子よ」
「ぷりゅ?」
「どっちもいい子」
「だったら!」
勢いこみ。
「どうして嫌いになっちゃうの!」
「どっちもいい子だから」
「ぷりゅ!?」
「ふふっ」
笑って。それ以上は。
「ぷりゅー」
眉間にしわを。
「わかんないの」
ぷりゅきっ。隣りをにらんで。
「セスティちゃんのせいなの」
「えっ!」
「うつったの」
「また、それかよ!」
「セスティちゃんのワルがうつったの」
「いや、おまえ、いい子だって」
「いい子だけど」
責めるように。
「頭がワルになっちゃったの。だから、わからないの。セスティちゃんのせいなの」
「ワルじゃねーよ、頭は!」
「存在そのものが」
「なんでそこまで言われんだよ、おぉーーーーーい!」
「いいのかよ」
「………………」
ためらうも。
「……はい」
うなずく。
「ごめんなさい」
「違うだろ」
すかさず。
「あ……」
あらたまり。
「よろしくお願いします」
「おう」
うなずく。こちらも。
「けど」
いまさらながら。
「わざわざ、おれっちじゃなくても」
「お兄さんだから」
笑顔で。
「いいんです」
「……お、おう」
面はゆさに。
目をそらしながら。
Ⅷ
「なにぃー! なの!」
激昂。
「ぷりゅふぅー」
荒い鼻息が。
「お、おい」
そこに通りかかり。
「今度はなんだよ」
「大変なの!」
いきり立つ。
「パパラッチされたの!」
「パ……」
はあ? という顔に。
「馬だから『ププラッチ』なの!」
「いやいや」
ますます。
「わかんねって」
「アホだから」
「アホじゃねえ!」
「ワルだから」
「頭もワルじゃねえ!」
いななきを。
「でも心は」
「おい」
さすがにの。
「いいかげんにしろよ」
「やっぱり、ワルなの。ワルな目してるの」
「おまえがそうさせてんだろーが!」
爆発。
「もー、セスティちゃん、気が短いのー」
「てゆーか、怒ってたのはおまえだろ!」
「そーだったの!」
ぷりゅぷん! あらたまって。
「パパラッチされたの!」
「それはもう聞いたし」
「ププラッチなの!」
「それも聞いた」
意味は不明だが。
「ロクラちゃんが!」
「何?」
どういう。
「たったいま聞いたの」
眉を逆立て。
「ププラッチされてるの。その被害にあってるの」
「おい」
事と次第によっては。
「どういうことだよ。ちゃんと話してみろ」
「ちゃんと話すの」
ぷりゅっ。うなずく。
「犯人はジュチ兄ちゃんなの」
「えっ」
思い出す。最近あったことを。
「しつよーな接近を許してるらしいの。許さないの」
「いや、どっちだよ」
言いたいことはわかるが。
「あいつ、また」
「また?」
「あ、この間な」
先日のことを話す。一緒にいるところに出くわしたと。
「なんで、そーゆーことを早く言わねーの!」
激昂。たちまち。
「なんでって」
別に大したことは。
「受け止め方、甘ぇーの! 何かあってからじゃ遅いの!」
「何かって」
まさか。
「あるのかよ」
「あるの!」
「よく考えてみろ」
真剣に。
「ジュチの野郎はアホだぞ」
「ぷりゅ」
はっと。
「そのとーりなの。かわいそうなくらいアホなの」
「だろ」
うなずき合う。
と、またもはっとなり。
「だから、危ないの」
「えっ」
「アホは何するかわからないの」
「おい」
さすがに言いすぎ。とは思ったものの。
「だよな」
万が一。ないとは言えなく。
「ロクラちゃんはやさしーの」
「ああ」
「だからこそ、しつよーな接近を許しちゃってるの。許さないの」
「もう、それはいいって」
「ププラッチなの」
正確には違うと思いつつ。
「行こうぜ」
早々に。
「アタイにも責任があるからな」
「そーなの。責任じゅーだいなの」
「おい」
そこまでかと。
「ロクラちゃんに何かあったらどーするの! ぷりゅーか、もう何かあっちゃってるの!」
「えっ!」
「これでいままでのことにもせつめーがつくの。謎はすべてとけたなの」
「そうなのかよ!」
「そーなの」
自信満々に。
「悪賢いジュチ兄ちゃんなの」
「へ?」
アホだったのでは。
「めーれーしてるの。シラユキともう遊ばないようにって。だからなの」
「あー」
そういうことか。
ないとは言えない。友だちと会うより自分を優先するよう彼氏が命令するのは。
(いやいや)
彼氏とか。それこそあり得ない。
「行くの」
「あ、おい」
ちょっと待て。言おうとするも。
「待てないの!」
すかさず。
「『ぷりゅ』と呼べば『ぷりゅ』と応えるカンケーになっちゃったらどうするの!」
どういう関係だ。
「馬のこだまの愛しさなの」
「はあ」
いい雰囲気らしいというのはわかるが。
「ないだろ」
「ないの」
うなずくも。
「だからこそ、万が一にもそんなことになっちゃったら困るんだしーっ!」
憤激。
「いや、おい」
とにかく落ち着け。言うより早く。
「ぷりゅーっ」
「あっ」
またこのパターンかと。
「なにボーッとしてるの、セスティちゃん!」
「えっ」
「来なくてどーするの! こーゆーときのセスティちゃんなの!」
「お、おう!」
そうだ。子どもたちの〝姉〟としての責任を。
「なんのためのワルなの! オラオラ系なの! 一発バシッとヤキ入れんの!」
「おい!」
そういう役割か。
「まあ」
それでも。
「とにかく、ナシはつけねえとな」
「ナシつけんの」
ぷりゅふー。共に鼻息を荒くして。
「って、マリカゼちゃん!?」
立ちはだかられた。
「なんでなの!」
右に。
「なんで!」
左に。
「ぷりゅはっ」
気づいたと。
「ぷりゅんなさい!」
「えっ」
驚き。
「また何かしたのかよ」
「『また』って、なんなの!」
ぷりゅぷん!
「けど、今回はしたの」
「したんじゃねえかよ」
「マリカゼちゃん」
向き直り。
「仲間外れにして、ぷりゅんなさい」
「えっ」
何の。
「決まってるの」
わからないのかと。
「マリカゼちゃんだって怒ってるの。ジュチ兄ちゃん、ぶちのめしたいって思ってんの」
「え、いや」
そういうキャラでは。
「ねー、マリカゼちゃん」
相変わらず。そうともそうでないとも。
「ぷりゅーわけで、一緒に」
どかない。
「ぷ……」
絶いななき。
「ぷりゅぅ」
涙が。
「なんでいじわるするの、マリカゼちゃん」
答えない。
「ぷりゅぅー」
ますます。
「おい」
見かねて。
「何か知ってんのかよ、摩理風」
ぴくり。無表情ながら。
「知ってんだな、おい」
前に。
「ぷりゅーっ」
パカーーーン!
「うおっ」
脇からの。思いがけない。
「何すんだよ!」
「そっちこそ」
ぷりゅふー。
「なに、マリカゼちゃん、いじめてんの」
「はぁ?」
そういうことでは。
「大丈夫なの、マリカゼちゃん」
気遣うように。
「心配ないの。セスティちゃん、やっつけたの」
「やっつけられてねえよ」
なんて言われざまだ。
「ぷりゅー」
すりすり。お互いに。
「はぁー」
勝手にしてくれという。
「ぷりゅーわけで一緒に行くの、マリカゼちゃん」
はっと。
「まー、そうなるよなー」
こちらも。
「マリカゼちゃん」
「摩理風」
複雑に。瞳をゆらすも。
「だよな」
こくり。うなずいたのを見て、共に笑みを交わすのだった。
Ⅸ
「なんでだよ!」
絶叫の。
「お、おれっちが」
「ぷりゅー」
にらみ続ける。
「言いわけは見苦しーの」
「言いわけとかじゃ」
「じゃあ、何なの」
「何って」
あたふたと。
「ほら、見たことかなの」
鼻を鳴らす。
「ここで判決を下すの」
「判決!?」
「ジュチ兄ちゃん」
ぷりゅしっ! ヒヅメさして。
「つるし上げなの!」
「つ……」
目を見張りかけ。
「は?」
きょとんと。
「つーか」
周りを囲まれている状態に。
「いま、これが『つるし上げ』っていうんじゃねーのか」
「ガチつるし上げなの」
「ガチ?」
なんだ? 聞くより早く。
「おぅわぁっ!」
つり上げられた。
「おいっ、コラ、摩理風ぇっ!」
蜘蛛の糸のように。手足や胴体をからめとられる。
「そのまま締め上げるの、マリカゼちゃん」
「って、それも文字通りかよ!」
冗談ではない。
「ヤだったら」
ぷりゅふー。鼻息荒く。
「ロクラちゃんをかいほーするの」
「は!?」
「ごまかすんじゃねーの! 知ってるの! ププラッチしてるって!」
「プ?」
首を。
「なにが『ぷ?』なの! かわい子ぶってんの!」
「ぶってねえよ!」
そっちが言わせたのだと。
「あいつは」
そこまで言って。
「………………」
いななきが。
「『あいつ』?」
ぎろり。
「何様のつもりなのーっ!」
パカーーーン!
「ぷりゅぐほっ」
つり下げられているところへの。
「て、てめえ……」
シャレにならない。
「ほら。素直に言うこと聞かないと、もっと痛い目見るの」
完全にチンピラだ。
「くっ」
それでも。
「………………」
「もくひするの?」
「フン」
たちまち。
「ナマイキなの! ジュチ兄ちゃんのくせに!」
怒りにまかせ。
「マリカゼちゃん!」
もっとやれと。
「なにグズグズしてるの、マリカゼちゃん!」
動かない。
「ぷりゅぅー」
周りから。非難されている空気を感じ。
「なんでなの」
涙目で。
「シラユキとロクラちゃんは姉妹なの。大事に思うのは当たり前なの」
「そう思うんだったら」
口を。
「思うんだったら?」
聞き留め。
「やっぱり何か隠してるの! 言えないようなことなの! ヤらしーの!」
「ヤ、ヤらしくねーよ!」
そこはと。
「ムキになるのが、よりあやしーの!」
「なってねえ!」
「ムキになってんのは」
年上として。諭すように。
「おまえもだろ」
「ぷ……!」
信じられないと。
「セスティちゃんまで」
「アタイは」
ためらいなく。
「おまえらの味方だ」
「だったら!」
「こいつだって」
照れくさそうながら。
「まあ、弟みたいなもんだしな」
「……フン」
お互いに。
「ぷりゅりゅりゅりゅりゅりゅ……」
わなわな。
「っ」
心配そうに。寄り添われて。
「ほっといてなの!」
すかさず。
「おい、摩理風は」
「セスティちゃんもうるせーの!」
激しく。いななく。
「よくわかったの! みんな、シラユキのこと嫌いなの! ロクラちゃんも」
口にして。
「ぷりゅぅ」
じわり。
「ロクラちゃんだって……だから……」
「おい」
また極端なほうに。
「みんな……みんな、嫌いなのーーっ!」
ぷりゅーーっ! 駆け出す。
「あ、おい!」
とっさに追おうとして。
「………………」
止まる。
どうしよう。無表情ながらそんな目がむけられる中。
「アタイら」
静かに。
「あいつのこと、構いすぎてねーか」
ぴくり。
「マリエッタにも言われたけどさー」
ばつが悪そうに。
「確かに、あいつだけで向き合わなきゃいけないこともあるっていうか」
視線が冷たくなる。
「おい」
あわてて。
「別に、あいつがかわいくないってわけじゃないぜ」
うなずく。当然だと。
「アタイらだってかわいがられたんだ」
母親に。
「だから」
真剣な。目で。
「見守らないとな」
間があって。
こくり。うなずく。
「おい」
そこに。
「それよりよぉ」
ぷるー。非難のまなざし。
「いつまで、おれっちはつり下げられっ放しなんだ」
「あぁ?」
どうでもいいと。
「行くぞ、摩理風」
「行くのかよ!」
「アタイは」
ふり返る。
「無理しておまえから話を聞こうとは思わねえ」
「……っ」
「摩理風も言いたくないみてえだしな」
見られ。目を伏せる。
「いいんだよ」
かすかに。優しく。
「麓羅にそうしてほしいって頼まれてんだろ」
ぴくっ。共に。
「いいんだよ」
こちらには。ややぶっきらぼうに。
「アタイはのけ者でもな」
「いや、あいつは」
「ああン?」
ぷるぎろっ。
「てめえ、やっぱ調子に乗ってねーか」
「ンなこと」
「おい、摩理風」
わかった。うなずく。
「あ、おい、おまえら! だから、行くなって! 行くなら、降ろしていけーーっ!」
Ⅹ
「アリスーーーーっ!」
ドーーーン!
「うぐふっ」
うめき声。
「ぷりゅはっ」
すぐに。
「ユイフォンなの!」
「ううう……」
直撃に。
「い、痛い」
「なんで、ユイフォンなの! アリスじゃねーの!」
理不尽な怒りを。
「アリスなら、ちゃんとシラユキのこと受け止めてくれるの! 『うぐふ』とか、まぬけにうめいたりしねーの!」
「ま、間抜け……」
言われたい放題だ。
「アリス、慣れてる」
「とーぜんなの」
言うまでも。
「シラユキのご主人様なの。ちゃんとあいじょーをもって受け止めてくれるの」
「うー」
不満げに。
「ユイフォンも、白雪、かわいがってる」
「かわいいから当たり前なの。いばってんじゃねーの」
「い、いばってない」
どこまでも言われたい放題の。
「アリスはご主人様なの。そこらへんのユイフォンと違うの」
「ひどい……」
完全に落ちこむ。
「さっさとアリスつれてくるの。一秒以内に」
「い、一秒」
無理。言うより早く。
「ぷりゅーっ」
パカーーーン!
「あうっ」
「もう一秒経ったの。使えねー、ユイフォンなの」
「ううう」
やっぱり理不尽すぎる。
そこへ。
「だめでしょ、白雪」
「ぷりゅっ」
とたんに。
「ぷりゅ~❤」
ご機嫌いっぱいのいななきで。
「う……」
あぜんと。真逆の反応に。
「ぷりゅぷりゅ」
すりすり。鼻先をすり寄せる。
「ふふっ」
こちらも〝主人〟と言うべき大らかな笑顔で受け入れる。
「良くないよ。ユイフォンをいじめたりしたら」
「いじめてないの」
しれっと。
「ぷりゅーか、ぷりゅーか! いじめられてるのはシラユキのほうなの!」
「そうなの?」
「そーなの!」
聞いて聞いて! とばかりに。
「みんなでシラユキをいじめるの! セスティちゃんとか、マリカゼちゃんとか! あと」
そこまで言って。
「あと」
はかなく。ゆれる。
「麓羅も?」
「ぷりゅ!」
とんでもない。顔を跳ね上げ。
「なんてこと言ってるの、アリス!」
「そうだよね」
優しい笑みのまま。
「麓羅と白雪は仲良しだもんね」
「そーなの!」
「セスティや摩理風とは?」
「ぷ……」
いななきが。
「仲良……」
言いかけて。
「い、いまは嫌いなの!」
顔をそむける。
「ふふっ」
微笑んで。そのまま何も言わず、たてがみをなでる。
「うー」
脇から。不満げに。
「甘やかしすぎ」
「そう?」
「う」
「いーんだし」
当然と。
「シラユキ、アリスの馬なんだから」
「うー」
それでも。
「ねーねー、アリスー」
そんな外野を無視し。
「シラユキ、悪くないよね? いい子だよね?」
「うん」
ためらいなく。
「白雪はとってもいい子だよ」
「ぷりゅーっ❤」
すりすりすりっ。うれしくてたまらないと。
「そうなの、いい子なの! だから、ロクラちゃんのことも心配するの!」
「うんうん」
「なのに、みんな、シラユキを悪い子あつかいするの。信じられないの」
「うんうん」
「ねー、アリス」
じっと。見つめ。
「ママとアリスも友だちなの」
「うん」
「シラユキたちと一緒なの」
「うん」
「だったら」
わかるでしょう。言いたげに。
「そうだねえ」
たてがみを。なでながら。
「ぷりゅー」
はっきりしない。
たまらず、自分から。
「友だちなら心配して当たり前なの! 気になって当たり前なの!」
「だよねぇ」
「なのに」
ぷりゅぅ。涙。
「シラユキがおかしいみたいに言うの。おかしいの」
「………………」
静かに。いななきに耳を。
「いじめなの」
「いじめはだめだね」
「だめなの」
うなずく。
「………………」
そのまま。静かになでられ。
「……すー」
寝息が。
「ぷりゅすー。ぷりゅすー」
「ふふっ」
膝枕で。寝顔を見つめる。
「甘やかしすぎ」
くり返し。
「まだ子どもだから」
「うー」
それでもと。
「わかってる」
どちらに。言ったのか。
「わかってる」
くり返し。
Ⅺ
「アリス様」
「アリス様ー」
ぷりゅぷりゅー。次々。
「待つの、みんな」
そこへ。割って。
「アリスはシラユキのアリスなの。あんまりかわいがられすぎちゃだめなの」
「ぷりゅー」
「ぷりゅりゅー」
えー? というように。
「もう、いじわるしないの」
笑って。
「みんな、白雪の友だちでしょ」
「そうだけどー」
不満そうに。
「まったく、あなたという子は」
そこへ。
「主人の評判を落とすようなことを」
「ぷりゅ!」
ぴん! 耳が
「なんてこと言ってるの!」
いきり立つ。
「シラユキ、とーってもかわいーの! そんなかわいいシラユキのご主人様ってことだけでもう大評判なの!」
「まったく」
やれやれと。
「いつもごめんね、麓華」
前に。
「白雪の面倒を見てくれて」
「いえ」
軽く。胸を張り。
「騎士の馬として、後進の面倒を見るのは当然のこと」
「大人だね、麓華は」
たてがみをなでる。
「昔から真面目でいい子だったけど」
「ぷる……」
控え目ながら。うれしそうに。
「ぷりゅー」
険悪ないななき。
「なに、しれっとかわいがられてるの。いい歳して」
「っ……白雪!」
たちまち怒るところを、素早く後ろに隠れる。
「ねーねー、アリスもそう思うでしょー」
「けど、昔からかわいがってたし」
「こういうときはシラユキたち子どもにゆずるの。自分がかわいがられたくても」
直後。
「ぷりゅはっ」
気づいてしまったと。
「信じられないの」
「?」
「自分がかわいがられたいから」
あり得ないと。
「それで、ロクラちゃんを隠しちゃってるの。とんでもないママなの」
「なんということを言っているのですか!」
再び怒りの。
が、ひるまず。
「だから、ロクラちゃん、いなくなっちゃったの! シラユキと遊んでくれなくなっちゃったの!」
いななきに押されるように。
涙。
「ロクラちゃんがいないと……さびしいの」
「白雪……」
はっと。
「………………」
沈黙。
「あなたには」
おもむろに。
「アリス様がいらっしゃるでしょう」
「いるの」
うなずく。
「アリスはご主人様なの」
「なら」
「ロクラちゃんは姉妹なの」
「……っ」
「ずっと一緒に大きくなってきたの。かけがえのない姉妹なの」
「………………」
「わかるでしょ」
見つめる。
「ロクラちゃんのママ」
かすかな。動揺。
「あなたたちを」
言う。
「共に育てたのはわたしです」
「わかってるの」
ぷりゅ。頭を。
「とっても感謝してるの」
「………………」
複雑そうに。
「ふぅ」
息。
「良かったのかと」
自分に。問いかけるように。
「思っているのですよ」
すかさず。
「良かったんだよ」
たてがみを。
「ありがとう」
心からの。笑顔で。
「アリス様……」
たちまち。
「って、なんでまたかわいがられてるのーっ!」
激昂。
「ずるいの、ママ! さくりゃくかなの!」
「わたしは何も」
「そーやって、さりげなくかわいがられてるのーっ!」
止まらない。
「あははっ」
心から。
(いいんだよ)
思う。
(みんなは)
それで。そのままで。
Ⅻ
「けっきょく」
ぷくぷー。
「ロクラちゃんのママ、何も教えてくれなかったの」
「まあまあ」
なでさする。
「ぷりゅー❤」
あっさり。
「ぷりゅはっ」
しかし。
「なに、うやむやにしよーとしてんの、アリス!」
「だめ?」
「だめなの!」
後ろたてがみ引かれつつ。
「シラユキ、なでなでに弱いんだから。ゆーわくしないでほしーの」
毅然(?)と。
「そっか」
鷹揚に。
「いい子だねー」
なでなで。
「ぷりゅー❤」
あっさり。
「甘やかしすぎ」
そこへ。
「そうかな」
「そーなの」
当馬が。
「甘やかされすぎていいの。愛馬だから」
「うー」
「ぷりゅふふーん」
ジト目にも。平然と。
そこへ、ぽつり。
「麓羅も甘やかされてるかも」
「ぷりゅ!」
思いがけない。
「どういうことなの、ユイフォン!」
詰め寄る。
「う……」
あせあせとなり。
「白雪がかわいがられてるなら、麓羅もって」
「シルビアになの!?」
「わからない」
「テキトーなこと言ってんじゃねーの!」
パカーーーン!
「あうっ」
蹴り飛ばされる。
「だめだよ、白雪」
「ぷりゅふー」
怒りの収まらないところへ。
「どうどう」
たてがみを。
「よしよし」
それほど経たず。
「ぷりゅー❤」
やわらぐ。
「さすが」
「まあね」
満更でも。
「甘いの、アリス」
「えっ」
「さすが、甘やかしてくれるだけあるの」
「う?」
見失う。共に。
「ぷりゅーか、シルビアなの」
再び。鼻息が。
「シルビア、麓羅ちゃんのご主人様なの」
「う」
知っている。
「ご主人様なら、とーぜん愛馬をかわいがるの」
「う」
それはそうだ。
「ロクラちゃんはかわいいの。とーぜんかわいがりたくなるの。だから」
ぷりゅりゅりゅりゅ……わなわなと。
「独り占めしてるの」
「う?」
「ロクラちゃんを! だから、シラユキと遊んでくれないの!」
「うー?」
首を。
「ぷりゅーっ」
パカーーーン!
「あうっ」
蹴られる。
「なに、納得いかねーって反応してんの!」
「だ、だって」
「こーら、白雪」
たしなめる。
「だめでしょ、いじめは」
「いじめじゃないの。しどーなの」
しれっと。
「シラユキが間違ってるみたいな態度とるから」
「間違ってないの?」
「ないの」
もちろん。うなずく。
「じゃあ、わたしがかわいがると、白雪はみんなと遊ばない?」
「ぷりゅ!」
驚き。あわてて。
「あ、遊ぶの」
「でしょ」
「けど、浮気じゃないの! シラユキ、アリス、大好きなの!」
「うん」
わかってると。
「みんなと遊ぶのは、みんなとも遊びたいからなの!」
「うん」
「理由になってない」
ぽそり。つぶやかれるのを無視し。
「シラユキ、悪くないの!」
「悪くないよ」
笑顔で。
「悪くない子にならないと」
「ぷりゅ?」
「だから」
言って。
「ぷ……!」
離れる。
「ア、アリス」
ぷりゅぷりゅあわあわ。
「アリス?」
こちらもけげんに。
去っていく。その背を共に見送った。
「ぷりゅ……」
「し、白雪」
行くに行けない。しょげている姿を前にして。
大丈夫? とも聞けない。明らかにそうでないとわかるだけに。
「ユイフォン」
顔を上げ。
「シラユキ、何か悪いことした?」
(うー)
したと言えば、しているのだが。
「悪いことなんてしてないの。ちょっと、ユイフォン、いじめたくらいなの」
「う……」
やはり、自覚は。
「白雪、いい子」
「ぷりゅ」
「でも、いじめはだめ」
「ぷりゅ!」
ピン! と。
「なんてこと言ってるの! シラユキがいじめっ子みたいに!」
「………………」
たったいま、自分で『いじめた』と。
「心外なの」
ぷりゅぷん!
「でも」
再び。しょげ返り。
「だから、アリス、シラユキのこと嫌いになっちゃたの?」
「うー……」
「ロクラちゃんも」
じわり。
「白雪……」
どうしよう。そんな顔でいると。
「わかったの」
「う?」
突然な。
「シラユキ」
言う。
「いい子を知るの」
「う……」
うなずきかけ。
「う?」
かしげる。
「ユイフォン」
深々と。
「ぷりゅしくお願いします」
ⅩⅢ
「うー」
頼まれても。
なところではあった、正直。
それでも。
「わかった」
うなずいて。言った。
「ユイフォン、いい子、教える」
「よろしくお願いします」
頭を。
「むぅ」
困ったように。
しかし。
「わかった」
笑顔で。
「白雪のためだ」
「うー」
気持ちは同じだ。
「だが」
腕を。
「難しいな」
「難しい」
うなずく。
「よろしくお願いします」
「おいおい」
仕方ないなと。それでも。
「よし」
軽く。気合いを。
「……むぅ」
が、すぐ。
「どうしよう」
かくっ。
「どうすれば、いい子を教えることができるのだ」
「う……」
言われてみればそうなのだが。
「ただ口で言うだけではだめだ」
「う」
「難しいな」
「難しい」
同意する。
「よし」
「う?」
「会いに行く」
「会いに?」
「うむ」
にっこり。笑顔で。
「いい子をいっぱい知っている者にだ」
ⅩⅣ
「麓羅」
名前を。
「ぷりゅっ」
はっと。
「ド、ドルゴン様」
かしこまろうと。
「いい」
手を振る。
何も。それ以上は。
「ぷ、ぷりゅ」
戸惑うも。
「よろしくお願いします」
言って。
後ろに続いた。
「ふぅっ」
汗が。息も乱れる。
それでも。
「たいしたもんじゃねーか」
「あっ」
自然と。ほころぶ。
「お兄さん」
「おう」
照れくさそうに。
「けど、マジでがんばってると思うぜ」
「そんな」
目を伏せる。
「ついていくだけで精一杯で」
「それがたいしたもんだってんだよ」
共に。見る。
そこに。
「……ふぅ」
粛と。
高峰の頂に坐する影。
微塵も動きがないと見えるそこに。
流れ。
山。いや、大地そのものの気を取りこむかのごとく。
「すごいです」
小さく。口に。
「これが高位の騎士様なのですね」
「すげえだろ」
満更でもないと。
「さすが、おれっちの兄ちゃんだよな」
「はい」
素直に。
「や、別に、おれっちのとか関係なく、すげえ兄ちゃんなんだけどさ」
自分で言っておきながら。
「朮赤(ジュチ)」
座った姿勢のまま。
「……!」
すぐさま。
岩場で足元が悪い中、危なげなく近づいていき。
「ぷるっ」
たてがみを。なでるにまかせる。
「ふふっ」
笑みが。自然と。
言葉の少ない。気後れするほど物静かな。
それでも、その奥には確かな優しさが。そう感じさせてくれる光景だった。
と。
「?」
手が。止まる。
「ぷる?」
こちらも。
「あ……」
静かに。だが、威圧感をたたえ。
同じ肌の色ながら、はるかに堂々たる体躯の。
「お爺様……!」
「いないのか」
思っていなかったと。
「ぷりゅ」
「ぷりゅぷりゅ」
うなずきが。
「そうか」
うなずいて。こちらも。
「仕方ないな」
鼻先に。手を。
「ぷりゅー」
「ぷりゅりゅー」
こちらを気遣うように。それでいながら甘えるように。
「ふふっ」
笑みを。
「みんな、かわいいな」
「ぷりゅー」
「ぷりゅぷりゅー」
うれしそうに。
「ユイフォン」
ふり返り。
「どうしようか」
「うー」
眉根を寄せ。
「わからない」
「むぅ」
顔を見合わせる。
「わかると思ったのだ」
あらためて。
「麓王なら」
「う」
うなずく。
「爺爺(イェイェ)だから」
「すこし違うな」
苦笑する。
「みんなのことをとてもかわいがるからだ」
目を。
「な」
すぐさま。
「ぷりゅー」
「ぷりゅぷりゅー」
同意のいななき。
「たくさんのみんなと接するということは、いい子もたくさん知っているということだろう」
「う」
それはその通りだ。
「馬のことは馬に聞くのが一番だからな」
「うー」
感心の。
「しかし」
再び。困り顔で。
「その当馬がいないのでは」
「うー……」
こちらも。共に息を落とすしかなかった。
「爺さん」
前に。
「こんなところまでわざわざ孫に会いに来たのかよ」
「ふむ」
視線を外し。自分の来た道をふり返る。
「確かに、年寄りには少々骨だったな」
「お、お爺様」
あたふたと。
「大丈夫でしたか。お怪我などは」
「ああ、大丈夫だよ、麓羅」
にこにこ。まさに、孫を見る祖父というやわらかな眼差しで。
「ぷ、ぷりゅ……」
恐れ入るように黙りこむ。
「本当だったのだな」
不意に。
「ぷる?」
空気が。
「何だよ、爺さん」
「『何だ』か」
笑みの。まま。
「よくも言う」
不意の。
「!」
烈蹴。
「お兄さぁぁん!」
悲鳴が。高峰にこだました。
ⅩⅤ
「ごめんなさい」
「許すの」
あっさり。
「いい子になるから」
おだやかに。
「アリスに言われたから」
「うー」
目を細める。
違う。
感じる。いままでと異なるものが。
「ぷりゅがとうございました」
頭を。
「シラユキのためにがんばってくれて」
「う……」
がんばったと言われるほどのことは。
「ごめんなさい」
申しわけなく。
「ユイフォン、もっとできることする。もっとがんばる」
「ぷりゅがとう」
心からの。
「シラユキ、なんだか生まれ変わった気がするの」
「う」
こちらも。それは。
「シラユキ、いい子な自分に甘えてたの」
「う……?」
やはり、変わっていない気も。
「もともといい子だから、そのまま何もしなくてもいいと思ってたの」
「うー」
それはどうかと。
「才能があることを自慢して努力しない子と同じだったの。ヤな子だったの」
そこまでは。口にするより先に。
「違ってたの」
言って。
目を輝かせ。
「ぷりゅーか! いい子なシラユキがいい子になったら、もっとカンペキないい子になっちゃうの! アリスはそーゆーことを言いたかったの!」
「う……」
そうなのか? ちょっと違うというか。
「シラユキ、いい子に磨きをかけるの。もっとアリスの自慢できるシラユキになるの」
「うー……」
とりあえず。いい子にしてくれるのは悪いことではない。
「がんばって」
「がんばるの!」
ぷりゅふん! と。
「……あ」
そうだ。伝えるべきことはまだ。
「あ、あの」
「ぷりゅ?」
「うー」
教えるべきかどうか。迷うも。
「ププラッチ」
「ぷりゅ!」
たちまち。
「どーして、またそれが出てくるの!」
いきり立つ。
「ぷりゅはっ」
そして。
「そーいえば」
わなわな。
「ププラッチのことについては何も解決してなかったの。あいまいなままなの」
「うー……」
あらためて。ためらうも。
「噂になってる」
「ぷ?」
「馬のみんなが言ってた」
それは。
最初に噂を聞いて『ププラッチ』などと広げてしまった話が、逆に馬たちの間に伝わってしまったのだと。
「シラユキが発生源なの!?」
「って聞いた」
うなずく。
「ぷりゅー」
複雑な。
「シラユキ、あのときはこーふんしてたの。騒ぎすぎちゃったの」
反省の。
「失敗だったの。ロクラちゃんのぷりゅイバシーにもかかわるのに」
「ぷりゅいばしー?」
聞いたことが。
「それで、いなくなっちゃったって」
「ロクラちゃんが!?」
「うー」
首を。横に。
「麓王が」
「ぐかっ……は……」
ダメージが。
痛みなど超えてしまって、身体が他馬のもののような。
「どうした」
静かに。
「もう終わりか」
「お爺様!」
飛び出す。
「ど……どうして」
「麓羅」
優しく。
「すこしどいていなさい」
「っ」
びくっ。
「………………」
首を。横にふる。
「麓羅」
困ったように。
「わがままを言ってはだめだ」
「わ……」
そんな。そういう問題では。
「麓羅はいい子だろう」
あくまで。
「おじいちゃんの邪魔をしては」
「お爺様!」
たまらず。
「どうしてですか! どうしてお兄さんに」
「麓羅」
わずかに厳しく。
「下がっていなさい」
「っっ……」
ふるえる。足が。
「………………」
動かない。
「麓羅」
戸惑いを。
「い……」
はっきり。
「嫌です」
目を。まっすぐに。
「……むぅ」
思ってもいなかったと。
「おい」
どかされる。
「お兄さん……!」
その目が。
「じいさん」
覇気に燃え。
「やってくれんじゃねえか」
「ほう」
感心の。
「立てるか」
「当たり前だ!」
吼える。
「おれっちは騎士の馬だ! 〝主騎士(ドミニオン)〟多爾袞(ドルゴン)の馬だ!」
ゆるぎない誇りが。
「簡単に負けたりできねえんだよ!」
叫ばせる。
「そうか」
うなずき。不敵に。
「こちらも同じだな」
「お爺様!」
なぜ! 悲痛な。
「下がっていなさい」
有無を言わせぬ。
「下がってろ」
こちらも。
「そんな……」
それでも。わかった。
自分も騎士の馬であるがゆえに。
「ドルゴン様!」
せめてもの。願いをこめ。
しかし。
「っ……」
わかった。
「当然だよな」
主の想い。確かめずとも。
「さすが、おれっちの兄ちゃんだぜ」
ヒヅメを。強く。
「おらぁぁぁぁっ!」
踏みしめた。
ⅩⅥ
「大変なの!」
顔色を変え。
「おじいちゃん、すっごいロクラちゃんのことかわいがってるの! 孫かわいがりなの!」
「う」
「それが」
ぷりゅりゅりゅ……青ざめ。
「ジュチ兄ちゃん、殺(ぷりゅ)されてしまうの」
「う!」
目を。
「そんなに?」
「そんなになの」
うなずく。
「いくらアホでどーしよーもない兄ちゃんでも、殺されちゃったらだめなの!」
「う」
その通りだ。
「でも」
こちらも。あわあわとし出し。
「どうするの?」
「行くの!」
「行く?」
首を。
「どうやって?」
「ぷ……」
絶いななき。
「ぷりゅはっ」
と、すぐさま。
「よく考えたら、シラユキ、ジュチ兄ちゃんがどこにいるか知らないの!」
「麓羅も一緒みたい」
「ますますマズいの! そんなところを見つかったら」
と、またもはっとなり。
「なんで、ユイフォンがそこまで知ってるのーっ!」
パカーーン!
「あうっ」
「どーゆーことなの」
ぷりゅー。荒い鼻息で迫る。
「き、聞いた」
「誰からなの!」
「アタイだよ」
そこにの。
「セスティちゃん、マリカゼちゃん!」
たちまち。
「ひどいの! やっぱり、シラユキに秘密にしてたの! 仲間外れにしてたの!」
「じゃねーって」
頭をふるも。
「まー、結果そうはなってたけど」
「やっぱり!」
「いいから」
強引に。
「いまは麓羅のことだろ」
「そーなの!」
「ついでに、アホのジュチのこともな」
「そーなの! アホのこともなの!」
興奮のままに。
「けど」
表情が曇る。
「じいさんが行ったのは、ずいぶん前らしいぜ」
「まずいの!」
「たぶん、いまごろは」
「だから、まずいの! シラユキたちも急ぐの!」
「いや、急いだってすぐ着けるようなとこじゃ」
そこへ。
「大丈夫」
現れる。
「アリス!」
輝く。
そんな。期待に応える微笑で。
「頼んでおいたから」
巌のごとく。
「ふんっ!」
ゆるがない。
「ジジイ……」
悔しさが。けど認めざるを得ない。
相手が。
自分よりはるかに。
「どうした」
「……!」
「大きなことを口にしたわりには」
静かに。
「大したことがない」
「言ってくれんじゃねえか」
ふつふつと。なえかけていた熱情が。
「おれっちだってなあ」
駆ける。
「死にかけてたガキのころとは」
蹴る。
止められる。こちらより大きなヒヅメに。
しかし、それは承知。
「違うんだぁっ!」
もう一方の脚を。
「む……!」
さすがに。その場にとどまったままで両足による防御はできない。
だが。
「ふむ」
ヒヅメを。腿にめりこませ。
「軽い」
一言。
「うおわぁぁぁっ!」
一蹴。まさに。
太い脚を力強くふり抜き、蹴り足ごとその身体までも吹き飛ばす。
「くうっ!」
かろうじて。
バランスを崩しつつも着地する。
「お兄さ……」
「来るな!」
すかさず。
「男と男の勝負になあ」
背中を。
「女がヒヅメ出すんじゃねえよ」
「っ……」
ふるえが。
「ずいぶんと」
「……!」
接近。
「なれなれしい口を!」
激蹴。
「ぐぅぅぅっ!」
かろうじて。致命打は避けるも。
「ぐはっ!」
吹き飛ばされる。
防ごうと、避けようと。
かすめただけでもその強大な圧に踏みとどまれない。
「バケモノかよ」
嵐。
いや、岩石の崩落。
その山脈のごとき巨体からの。
(けど)
山のことなら。
怖さも厳しさもよく知っている。
そこで〝主〟に拾われ。峻嶮たる峰々における修行に付き従い、心身ともにそこで鍛えられてきた。
「負けられねえよ」
あらためて。闘志が。
「おい」
背中越しに。
「見てろよ」
息をのむ。気配が。
「これがドル兄ちゃんに磨かれたおれっちだ」
だから。
「おまえも」
それを。証明して。
「!」
いた。
「なれなれしい口を」
視界を圧する。
「きくなと」
かわすことも、受けることも。
(無理)
ならば。
「うおおっ!」
突っこむ。
身体を。割り入れるようにして。
「ぷ……!」
向かってくるとは思わなかったのだろう。
目を見張る。
その脇を駆け抜け。
「じいさん」
「っ」
「あんたの孫でも」
前に。
「あんたのものじゃ」
大地を。踏みしめ。
「ねえ!」
パカーーーーン!
蹴り抜いた。
ⅩⅦ
「……あ……」
あぜんと。
「あり得ないの」
いななきを。
「ジュチ兄ちゃんが」
たったいま。目の当たりに。
「勝っちゃうなんて」
「はぁっ」
さすがに。脚のふるえを抑えこんでいたのも限界だった。
「お兄さん!」
駆け寄ってくる。
が、はっと。
「お爺様……」
「行ってやれよ」
「っ」
「悪かったな」
心から。すまなさそうに。
「じいさん相手に本気出しちまって」
「そんな」
どう答えればいいのか。
「強かったぜ」
そこに。
「けどな」
ゆるぎない。眼差しで。
「慣れてるんだ」
「え……」
「いや、『慣れてる』って言い方は違うな」
頭を。
「当たり前」
「……?」
「弱っちいおれっちが」
静かに。
「強い相手と向き合うってのはさ」
「……!」
それは。
「強い」
「えっ」
「強いです」
確かな。想いで。
「お兄さんは」
「そ……」
面はゆく。
「そうかよ」
横を向く。
そんな姿に自然と微笑する。
「つか、じいさんはいいのかよ」
「ぷ……」
そうだった。
「お爺様!」
一足遅れの。
「おお……麓羅」
本来の。年相応の表情を見せ。
「ダメだな、わたしは」
「そんな」
「騎士の馬が」
にじむ。悔恨の。
「感情に目を曇らされるとは」
「………………」
「老いたということだ」
深々と。
「麓羅」
「っ」
「いいのだよ」
優しく。
「いいのだ」
くり返す。
「胸を張りなさい」
「お爺様……」
「これからは」
目を。
「騎士様と共に」
そこに。戦いの前と変わらない。
(ああ……)
感じる。
信頼。
そんな言葉をも超えた絆。
それが。
(わたしも)
いまはまだ。けれども。
「ロクラちゃーーん!」
「!?」
思ってもない。
「白雪ちゃん!」
「ぷりゅーっ」
飛びこんで。
「きゃっ」
受け止める。
「ロクラちゃーん! やっと会えたのーっ!」
「白雪ちゃん……」
じわり。こみあげるものが。
「ごめん……なさい」
「何を言うの!」
すぐさま。
「なんにも悪くないの! シラユキの友だちなんだから! 姉妹なんだから!」
「………………」
そう。こういう〝姉妹〟だから。
「ぷりゅ?」
そっと。離れる。
「ロクラちゃん……」
がく然と。
「やっぱり」
じわり。
「シラユキのこと、嫌いに」
静かに。首を。
「じゃあ」
「白雪ちゃん」
笑顔を。
「大好きだから」
「……!」
「だから」
目を。
「離れなくちゃって」
「ぷりゅ!」
耳を。
「なんでなの!」
当然の。
「大好きだから!」
引かない。
「このままじゃ好きでいられなくなっちゃう!」
「ぶりゅぅ!?」
「自分が」
きゅっ。
「強くならなくちゃって」
「………………」
いななきが。
「……そ……」
やっと。
「そんなの関係ないの。ロクラちゃんはロクラちゃんなの」
「関係ある!」
強く。
「白雪ちゃんみたいになりたい!」
「っ」
「でないと」
ふるえる。
「一緒に……いられないから」
「………………」
共に。言葉が。
「ならなくたっていい」
はっと。
「おれっちは言ったんだぜ」
「ジュチ兄ちゃん!」
あわてて。
「兄ちゃんがロクラちゃんをそそのかした……んじゃなくて……えーと」
瞳が泳ぐも。
「シラユキみたいにならなくていいってどーゆーこと! シラユキがダメってこと!?」
怒りを。
「だったら!」
負けず。
「こいつがこいつじゃなくていいってのかよ!」
「『こいつ』とか言うななの! 何様なの!」
「いいから!」
考えろと。こちらの言ったことを。
「いいわけないの!」
すぐさま。
「ロクラちゃんはロクラちゃんなの! シラユキの友だちで姉妹なの!」
止まらない。
「とってもかわいくて優しい子なの! すごくシラユキと仲良くしてくれるの! そのままでいいの! そのままのロクラちゃんが大好きなの!」
「優しいのは白雪ちゃんだよ!」
こちらも。
「いつもわたしと一緒にいてくれて。こんなわたしと」
「『こんな』とか、どんななの!」
ますます。
「姉妹だから当たり前なの!」
「じゃあ!」
負けない。
「姉妹じゃなかったら当たり前じゃないの!?」
「ぷりゅ!」
絶いななき。
「な……」
涙が。
「なんてことを言うの、ロクラちゃん」
「……!」
「シラユキが」
止まらなく。
「姉妹じゃないほうがよかったっていうの?」
「そんなこと」
言って。
「………………」
「ロクラちゃん!」
ぽつり。
「ふさわしくない」
「!」
「こんなわたしじゃ」
「『こんな』とか『そんな』とかないの!」
いななきが。
「一緒にいたいの!」
弾ける。
「ちっちゃいときからずっと一緒だったの! これからも一緒なの!」
「白雪ちゃん……」
こちらも。
「わ、わたしだって」
いななきを。
「一緒にいたい」
「だったら、いいの!」
「よくない!」
ゆずらない。
「いられない!」
「いられるの!」
「ない!」
「ある!」
共に。
「シラユキ、いい子なの!」
「……!?」
「けど、アリスに言われたの! 『悪くない子にならないと』って!」
そして。
「なるの」
正面から。
「だから」
逃げない。
「ロクラちゃんがいないとだめなの」
「……っ……」
ふるえ。
「わたしが」
こぼれる。
「いないと」
「ぷりゅ」
うなずく。
「わたしが……」
そこに。
「っ」
頬を。
「ぷりゅー」
すりすり。
「ぷ……」
それは。
「白雪……ちゃん……」
こちらも。
「ぷりゅー」
すり寄せ合う。
「ふぅ」
やれやれと。
「馬さわがせなやつらだぜ」
そこに。
「ぷりゅー」
「ぷりゅぷりゅー」
「お」
鏡映しな。いまだ幼い双翼がはためく。
「確か、空姫(そらひめ)のところの……空陽(そらひ)と空月(そらつき)か」
「ぷりゅ」
「ぷりゅりゅ」
うなずく。
「そっか、おまえらが」
言って。再び目を。
「ロクラちゃん」
「白雪ちゃん」
終わらない。お互い。
「ぷりゅー」
「ぷりゅ」
頬を。すり合わせ続けた。
ⅩⅧ
「ロクナちゃん、かわいいのー!」
ごろごろごろっ。
転がる。赤ん坊と共に。
「お、おい」
さすがに。
「無茶すんなよ。生まれたばっかなんだぞ」
「何を言ってるの」
指し示す。
「ぷりゅぷりゅー❤」
大喜びだ。
「麓那(ろくな)……」
脱力。
「誰に似たんだ」
「決まってるの」
当然と。
「ロクラちゃんなの。ママに似てちょーぜつ美少女なの」
「美少女って」
まだ生まれたばかりで。
「まあ」
かわいいことには違いないが。
「おお、麓那」
そこへ。
「麓那はかわいいなあ」
「ぷりゅー」
大きな鼻先をすり寄せられ、こちらもうれしげにそれに応える。
「おじいちゃん、ますますメロメロなの。ますメロなの」
「なんだよ『ますメロ』って」
「よぼメロなの」
「まあ、よぼよぼには違いねえけど」
曾祖父なのだから。
「さてと」
「ぷ?」
背を向けられ。
「どこ行くの、ジュチ兄ちゃん」
「どこって」
面はゆげに。
「き、決まってんだろ」
「ぷふーん」
意味ありげに。
「まー、今日は許してあげるの」
「別におまえの許しなんて」
「いるの。姉妹なの」
「言ってろ」
「けど」
ぎろっ。視線が険しく。
「あのことは許してないの」
「まだ言ってんのかよ」
「言うの。姉妹なの」
「おいおい」
適当に。あしらうようにしてその場を。
「ふぅ」
いまだに。
「だってよお」
言いわけじみて。
「仕方ねーじゃんか」
「何様のつもりなの!」
言われた。
「ロクラちゃんのことをフるなんて!」
「っ……」
蹴られたこと以上に。それは。
「カンケーねえだろ」
言うも。
「あるの!」
下がらない。
「あり得ないの! ロクラちゃん、ちょーぜつ美少女なの! ジュチ兄ちゃんとじゃ、ぜんぜん釣り合わないの!」
(おい……)
わかってるじゃないかと。
「だったら」
「ジュチ兄ちゃんのほうからフるってのが考えられないの!」
「そんなの」
どうしろと。
「ぷりゅはっ! わかったの」
「は?」
「気の迷いなの」
おい。
「ジュチ兄ちゃん、アホなの」
「おい!」
関係ないだろう。
「ロクラちゃん、やさしーの。アホな兄ちゃんのことでもアホ扱いしないの」
その通り。いま目の前にいるのと大違いで。
「その優しさにつけこんだの」
「おい」
とんでもない。
「なんてこと言ってんだ」
「なんてことでも言うの」
引かない。
「姉妹だから」
それは。
あのときから、より強く刻みこまれた。
「わかってるよ」
そこは。認めている。
「だったら、言いたいこともわかるはずなの!」
ぷりゅぷん! ますます怒り。
「どう責任とるの!」
「どうって」
「そうやって逃げるの!? アホのふりして!」
「ふりとか」
「真のアホで!」
「誰が『真の』だ!」
いななき返す。
「とにかく、どーするの!」
返される。
「ど……」
どう。しろと。
(いや)
答えは出ている。
「あり得ねえよ」
「なんでなの!」
「なんでって」
いななくまでもない。
「おれっちだぜ」
天涯孤独。どこの馬の骨とも知れない。
「それが」
あの。騎士の馬として血筋を重ねてきた誇り高き家系に。
「カンケーねーの!」
言い切られる。
「ロクラちゃんなの!」
「っ」
それは。
「ロクラちゃんだけ見るの!」
「………………」
そんなこと。
「言いわけなの!」
言われる。
「そんなのいいわけないの!」
がくっ。
「お、おい」
ふざけてる場合かと。
「男らしくねーの、ジュチ兄ちゃん!」
「ぷ……」
そんなことは。
「………………」
ある。
(くっ)
わかっている。
「おれっちは」
言う。
「ただ」
言わなければ。
「あいつのことが」
言わないと。
「言うの!」
はっと。
「お……おい」
いた。
「言うの」
「い、いや」
はめられた。思うも。
「………………」
見つめられる。
「う……」
目を。
「言って!」
そらせないまま。
「おれっちは!」
口に。
「聞こえませんでした」
「おい!」
そんなはず。
「だから」
にっこり。微笑んで。
「もう一度言ってください」
いや『もう一度』どころか。
「どうしました」
「ぷ……」
有無を。言わせない。
(こんな女だったかよ)
母は強しということか。
(………………)
知らない。自分は。
それを。
「おまえで」
自然と。
「よかった」
その言葉が。
そして、同じように。
「『が』じゃないんですね」
「ああ」
あくまで『で』だ。
出会えたのが。
めぐり合えたのが他の誰かではなく。
目の前の。
この相手で。
「よかった」
確かな。想いを。
「わたしも」
寄り添う。
そのまま――
「よかった」
共に。
「おまえで」
「あなたで」
重なった。
乙女でヒヅメなぷりゅぷりゅ姉妹! なのっ❤