かみさまがかり
壱
「今学期の神さまがかりは木城(このしろ)くんに決まりましたー」
パチパチパチパチ。
ぜんぜん気持ちの入ってない拍手。
(うえー)
正直。
(神さまがかりって)
なりたくないかかりのかなり上のほうじゃないのかな。
じゃないのかな、じゃない。
だ。
はっきり。
「じゃあ、木城くん」
にこにこと。
「よろしくお願いね」
はぁーあ。
ため息。
神様って、普通、こっちからお願いするものでしょ。
神様をお願いされるって。
「はぁーあ」
「木城くん?」
おっと。心のため息が口にも。
あわてて笑顔。
一応、これでも優等生だし。
「じゃあ、よろしく」
(え……)
気持ちよくOKしたとでも思ったらしい。
「あ、いや」
いまさら。
断れるはずもなかった。
「なーなー、濡(ソボル)ー」
「代わらないよ」
言われた。
「待って、待って」
それでも。
「どいて」
通せんぼしたぼくに。
「ふぅ」
わざとらしいため息。くいっと眼鏡を押し上げながら。
(おー)
それっぽい。
こういうのを本当に優等生って呼ぶんだろうな。
実際に頭いいし。
それ以上に、はっきりぼくと違うのは。
「代わらないよ」
またも。言われる。
「あのさぁ」
無理な笑顔になるのを感じながら。
「話くらい」
「かかりを代わってって話でしょ」
「う……」
それはそうなんだけど。
「はぁー」
あきれてる。
ていうか、馬鹿だと思われてる。
「やりたくないなら、そう言えばいいのに」
その通りなんだけど。
(でも)
なかなか、ソボルみたいになれないって。
場の空気ってあるし。
一応、読まなきゃだし。
「なんかさー」
心の底から。
「いいよなー」
「話がないなら行くよ」
「ほらほら、そーゆーとこ」
ほめる。おだてる。
でも、けっこう本音で。
「クールだし」
「知らないよ」
「空気読まないし」
「ほめてるの、それ」
「ほらほらー」
「はぁ」
またもため息。
「人がどう思おうと知らない」
「人っていうか、ぼくがだけど」
「人がどう思おうと知らない」
「おい」
だから『人』って。
「友だちじゃん!」
「話はそれだけ?」
スルーされた。
まあ、否定されないだけマシだ。
(って)
よわよわすぎじゃないか、ぼくって。
「じゃあ、こっちから」
「えっ」
ソボルから? えっ、ぼくに話?
「気をつけなよ」
「……!」
真剣な顔で。言われる。
「あ……」
ぼくは。
「ありがとう」
思わずの。
「何それ」
「いや、だって、ソボルからそんな風に言われたの初めてかもって」
「はぁ」
あきれられた。
「冗談で言ってるんじゃないんだ」
「うん」
やっぱり。ちょっとうれしい。
「ありが」
「いいから」
止められる。
ますますあきれた顔で。
「神さまがかりのことだよ」
言われる。
「本当に気をつけたほうがいい」
「だよなー」
うなずいてみせる。
「なんか大変なんだろ、神様って」
「………………」
ぜんぜんわかってない。そんな顔。
「なんだよー」
さすがに。
ちょっと不安になる。
「そりゃ、神さまがかりやるのは初めてだけどさ」
「なんで」
眼鏡の向こう。落ちついた目で。
「なんで、初めてなのかわかる?」
「えっ」
思いがけないことを。
「なんでって」
たまたま、これまで選ばれなかった。
じゃない他の理由ってあるの?
「二度目がないから」
「ふぇ?」
二度目って。
「これまでなった人、誰も続けてかかりになったことはない」
「誰も?」
「誰も」
わざわざ調べたのかな。
「え、決まってるの」
「決まり?」
「だから、続けてなっちゃいけないみたいな」
「知らない」
そっけない。
「どうでもいいから」
つまり、最初からなるつもりはないから。
クールだ。
「ぼくも」
ならない。言いかけて。
「う……」
言えない。
いまさら。
だから、ぼくはソボルみたいに空気関係ないとか無理なの!
「いまからでも断ったほうがいいよ」
だから!
「ソボルには」
言ってしまう。
「わからないよ」
「………………」
冷めた目。
「あ……」
失敗した。
「いや、そういう」
どういう?
「だね」
あっさり。
「じゃあね」
何もなかったかのように。
「うー」
やっちゃったー。
けど。
「わからないのは、事実だし」
ちょっぴり悔しそうに。
言っていた。
弐
拝殿。
そこがそう呼ばれてることは知っていた。
「失礼のないように」
それだけを言って。
ぼくを案内してくれた先生は、さっさといなくなった。
(なんだか)
ビビってる。そんなカンジ。
(まー)
神様だし。
「あっ」
この後、何をしたらいいか。ぜんぜん聞いてなかった。
(ち、ちょっとー)
どうすればいいのさー。
「えーと」
周りを見渡す。
和室。一言でいえばそうなっちゃうんだけど。
(なんか)
違う。
や、昔の日本風の家に詳しいとかじゃぜんぜんないんだけど。
住んでるのは普通の洋風の家だし。
新鮮。
まず、たたみ。
温泉旅館くらいでしか見たことない。
「はー」
すりすり。手でさすってみる。
「おー」
なんか。
いいカンジ。
「……って」
楽しんでる場合じゃないっての。
「きにそうたか」
「っっ」
突然の。
「えっ、ええっ?」
いた。
「ほふふっ」
「……っ」
どこから。
来たのだろう。
真後ろに。
(いやいやいや)
そこは。
自分が入ってきたところで。
(う……)
一瞬。混乱。
自分はどこから。
ここに。
前も後ろも右も左も障子で。
ミラーハウスみたいな。
本当は違うけど、どこからでも入れるというのは、いま自分がどこにいるのかわからないようなあやふやな感じがあった。
「わっちゃ、なっちゃ」
「は?」
言われた。
「なっちゃ、わが、あな、しまっつな」
「………………」
こいつが。
神様。
って、心の中でも『こいつ』は失礼か。
(……わからない)
ぜんぜん。
方言?
昔、ヒッチハイクの人に道をたずねられたとき、その沖縄弁(?)みたいなのがまったくわからなかったことを思い出す。
けど。
「わな、どな、ななをなかんな」
身ぶり手ぶりっていうか。
それさえなくても、なんとなく伝わるものはあって。
「えーと」
ぼくは。
「今学期の神様のかかりで、木城ーー」
「コノシロ!」
とたんに。
「コノシロ! コノシロ!」
「えーと」
興奮されてる。
「ど、どうも」
とりあえず。お礼を。
「それで、かかりのことなんですけど」
「コノシロ!」
「………………」
話が通じない。
いや、いきなり最初からそんなカンジではあるんだけど。
「ぬしがわしのかかりか!」
「は、はい」
あれ?
「よきなぞ、コノシロ! コノシロ!」
「………………」
通じてる。
「う……」
見てくる。
(いやいやいや)
そんなもんじゃない。
見つめてくる。
目を。
「そらすな」
びくっ。
「焼きたるコノシロは、しびとの臭い」
「……!」
何を。
「ふふむ」
何か。納得したように。
「そっか、そっかー」
「っっ」
砕けた!? いきなり!
「こうかー。おまえと話すときは」
「………………」
ぼくは。
「わーお」
空元気。
いや、空ボケ?
「わーお」
返された。
「う……」
またまた。見られる。
「あ……」
あせあせして。
「あのさー」
「なんだ?」
「………………」
伝わってる。
「そうか」
にやっと。
「気持ち悪いんだな」
「っっ……」
その通りなんだけどさ。
「どう気持ち悪い?」
(どうって)
言われても。
「言うな」
「っ……」
まただ。
「見ろ」
言われる。
「おれを」
(う……)
そんな。
(見ろって)
見た。
「おお!」
気がついた。
「なんで!」
大声で。思わず。
「なんで、割烹着なんだよ!」
しかも手には。
「煮物!」
の入った昔っぽいアルミの鍋。
「歓迎だ」
歓迎!?
「食事だ」
食事なのは見ればわかるけど。
「って、食事!?」
いやいや、ぼくは。
「かかりだろう」
それはそうだけど。
「かかりって」
何のかかりなんだよ、ぼくは。
「食え」
言われた。
(いやいやいや)
いきなりよくわからない煮物を出されて、それを食えって言われたって。
「……う」
見られる。また。
「見ろ」
だから、もう。
「あ……」
見た。
「あれ?」
目をこする。
「ええ~」
違う。まず色が。
(白い……)
さっき見たときはこんなじゃなかったはず。
それにこのにおいは。
「給食だ」
給食!
「シチューだ」
シチューって! 確かにこれは給食に出てくるシチューそのものなんだけど!
「かかりだろう」
給食がかりじゃないって!
「食え」
言われた。
(うわ……)
もっと。不気味で。
よくわからない煮物だと思ってたのがシチューになっていて。
(いつの間にか……)
そう。いつの間にか。
なんだかいいようにぼくはふり回されている。
(えーと)
落ちつこう。
「ぼくは」
言う。
「かかりですから」
「食え」
つき出される。
「………………」
通じてない。こういうところだけ。
「……う……」
受け取ってしまった。
お椀に盛られたシチューを。
(うるし塗り……)
かどうかはわからないけど。そんなカンジのお椀。
「えーと」
「食え」
渡される。スプーン。
これも木でできた『さじ』ってカンジなんだけど。
「う……」
見られる。もうぜんぜん逃げられないっていうか。
「い……」
言うしかないだろ。
「いただきます」
いただいた。
「………………」
普通だ。
給食のやつと。まったく同じで。
(な……)
なんでだ。いまさらながら。
なんで、ぼくはこんなところで神さまに出されたシチューを食べたり。
「あっ」
さらにの。いまさらながら。
「か……」
確かめる。
「神さまなんですよね」
答えは。
「だと思う」
「は!?」
「なんじゃない」
「………………」
声が。
(『なんじゃない』って)
そんな、いいかげんな。
「証拠……」
「ん?」
「あ、いや」
さすがに。
「あるぞ」
「あるの!?」
さすがに。
「いや、そんな、神さまの証拠なんて」
そこに。
「え……」
目をこする。
「………………」
声が。ない。
「え、いや、だって」
意味のない。そんな言葉しか出ない。
「はーあ」
「!」
それは。
(おんなじ……)
同じだ。同じなのだ。
「ソボル」
ぼくは。
その名を口にしていた。
参
「なに?」
ちょっぴりあきれたような。
さめた声と視線が。
(同じ……)
いやいやいや。
考えが追いつかない。
「えーと」
なんとか。落ちつこうとする。
(……わかった)
夢だ。
(って)
ゲンジツトウヒ? だろ!
(けど……)
信じられない。こんなの。
「ふふっ」
「……!」
「あは……あははははっ」
笑い出した。
「………………」
声が。出ない。
(……違う)
はっきり。
(ソボルはこんなふうに)
笑わない。
「なんだよ」
胸が。むかむかと。
「なんなんだよ!」
「神だ」
「!」
言われた。
「や……な……」
声が。
「証拠を」
にやり。これも絶対見せない笑いで。
「見せたぞ」
「い、いや」
こういうことなの、証拠って。
ていうか、どういうことになってるの!?
「っ」
キーンコーン。
おなじみの。下校チャイム。
(ここでも)
聞こえるんだと。
わけのわからないことが起こってるこの部屋でも。
「何してるの」
「えっ」
手が。
「帰らないの?」
「……!」
帰る? 誰と?
「ソ……」
名前を口にしそうになって。
「っ……んっ」
飲みこむ。
「コノシロ」
「っっ……」
呼ばれる。
「………………」
真っ白に。
「……な……」
声が。
「なんだよ」
ぜんぜん意味のない。
「何なんだよ、これ」
「神だ」
「っ!」
一瞬の。
「ほら、帰るよ」
「………………」
わからなかった。
「!」
びくっ。
「おはよ」
そっけなく。
そのまま、ぼくの前を通って教室に。
「お、おいっ」
声が。ふるえるのまでは止められなかった。
「何?」
肩をつかまれたまま。冷めた目がこっちに。
「な、何なんだよ」
「はあ?」
あきれも加わる。
「何なんだよ、それは」
ちゃんとした言葉になってない。
ふるえが止まらない。
「あんたは、だって」
そこに。
「おはよー」
「どうしたのー」
クラスのみんなが。
「っ……」
手を離す。
「フン」
鼻を鳴らして。教室に。
「………………」
ぼくは。
そこに立ちっ放しだった。
長かった?
あっという間だった。
学校が。
「うー」
ぼくは。
見つめ続けた。
「………………」
わからなかった。
『なに、見てるの』
何度も。
『用があるなら言ってよ』
言われた。
『気持ち悪いんだけど』
うん。
「それは」
こっちもだって。
「じゃあねー」
「また明日ー」
みんなが教室を出て行く。
その中にソボルも。
「何?」
ついてきた。ぼくに向けられる冷ややかな。
「………………」
もう。
自分が何をしたいのかもわからない。
「かかりは?」
「!」
それは。そのせいで。
「あっ」
いない。
「えっ、ちょっと」
周りを見ても。
「………………」
いない。
「ど……」
どうしよう。言いそうになって。
「くっ」
無理やり。押さえこんで。
歩き出した。
(……来ちゃった)
昨日と。
同じに。
「う……」
入ってすぐ、どっちがどっちかわからなくなる。
前も後ろも左も右もふすまの部屋で。
「………………」
どきどき。胸の音が止まらない。
「ふー」
息を吐く。
「………………」
だめだ。
どうしたって落ち着かない。
(なんで)
来ちゃったんだろう。
かかりなんて、そんな真面目にやらなくたって。
(ううん)
そういうんじゃない。
はっきりさせたい。
(ソボルが)
本当にぼくの知ってるソボルなのか。
それとも、あいつが。
「いい心がけじゃん」
「!」
いた。
昨日みたいに。
「かかりが熱心だと、神としてもうれしかったり」
なにが『うれしかったり』だ。
どういうしゃべり方の神さまなんだよ。
「あ、あのさぁ」
ぼくは。ひるみそうになりながら。
「言うな」
「っ」
「言わなくても」
のぞきこまれる。
「知っている」
「っっ……」
昨日も。こうやって。
「鏡」
「!?」
「そこにはみんな映し出される」
鏡?
それって、ぼくの目が。
「あっ」
あわてて。
「み、見るなっ」
頭ごと。目をそらす。
「見るなよ!」
こっちからも。
「見ないからな!」
「ふーん」
余裕の。『だから?』ってカンジ。
「ゲームか」
「は?」
「見ない見ないゲーム」
何それ!? 『いないいないばあ』みたいな。
「見ない見ない」
そっくりの言い方で。
「見た」
「!」
え? え?
「………………」
見て。いた。
「な……」
なんで? わけがわからない。
間違いなく目をそらしていた。
そらそうとしていた。
なのに。
「罰ゲーム」
「っ!」
「だろ。こういうときは」
嘘。すーっとなる。
「なんだよ」
ふるえる。
止められない。そんな余裕ない。
「罰って」
「神罰」
「!」
「冗談だ」
なってないよ、冗談に!
「踊れ」
いきなり。
「……ふぇ?」
「お、それ、かわいいぞ」
「ふぇぇっ!?」
あせって。
「踊るって、それって、その」
「ダンス」
「!」
「できるだろ」
できるか!
「できる」
言い切られた。
「踊れ」
言われた。
「罰だ」
(いやいやいや)
そもそも、ぼくはOKしたわけじゃ。
「祝福だ」
「は!?」
シュクフク? お祝い?
「踊ることは」
言う。
「神とつながること」
「……!」
つながる? 神と?
こいつと!?
「知りたいんだろ」
「……っ」
知りたい。
「だったら」
踊れと。そしたら。
(全部わかるっていうの)
こいつが何なのか。
あいつは、ぼくの知るあいつなのか。
「わかった」
あきらめる。
ううん、これはチャンスかも。
(……でも)
やっぱり。
(踊るって)
何を。どうやって。
「う……」
両手を。上げ。
「いちにー、さんしー、ごーろく、しちはち」
「ラジオ体操だろ、それは」
言われてしまう。
「お、踊りじゃん」
「体操だ」
引かない。
「いいじゃん……」
どうしよう。思いながら。
「いちにー、さんしー」
「だから」
「体操じゃないし。ストレッチだし」
「より遠くなっただろ」
その通り。
「だって……」
知らないよ。
幼稚園のころのおゆうぎ会? みたいな踊りなんて、小学校高学年にもなって馬鹿みたいで。
「やれ」
「えっ!」
「なれ」
なる?
「馬鹿に」
馬鹿に!?
「踊ってるときはな」
「!」
手を。
「何も考えなくていいんだ」
「な……」
まるっきり馬鹿じゃん!
「馬鹿だ」
やっぱり!
「何が悪い」
「えっ」
「人間らしさなんて」
フンと。
「……!」
重なる。
いまは違うのに。けど、はっきり。
「ソ……」
ぎりぎりで。飲みこむ。
混乱。
まるで、最初からあいつが神さまだったみたいな。
「考えるな」
「っっ……」
「踊れ」
そして。
「えっ!」
回る。
「えっ? ええっ!?」
手を引かれるまま。
「わわわっ!」
回る。
「わっ……わわっ」
回り続ける。
不思議と。足がもつれることもなく。
(何だよ、これ)
なんだか。
(気持ち……いい)
ぽうっと。なって。
回る。
回る回る。
(馬鹿に)
なってくる。
「は……ははっ」
笑いが。
「はははははっ」
止まらない。
回り続ける。
(何なの)
何がどうなってるのか。
わからないまま。
ぼくは。
(……あ)
落ちていた。
「スサリ」
優しく。声。
「………………」
目を。ゆっくり。
「……あ」
ソボルだ。
退(スサリ)。
それはぼくの名前。
「平気?」
「う、うん」
あいまいに。
「だと思う」
「だめだよ」
優しい。やっぱり。
「ちゃんと答えて。ふざけてないで」
「うん……」
え。
誰だ、これ。
こういうときは。いや、いつもなら。
「帰ろう」
手を。
「送っていくから」
「………………」
声が出なかった。
次の日。
「………………」
声が出ない。
ーーは続いていた。
『おはよう、スサリ』
『ほら、一緒に行こう、スサリ』
『こっちでみんなとごはん食べよう、スサリ』
ずっと。
こんなカンジなのだ。
(うおぉ……)
昨日以上に。
わけがわからない。
だって、明らかに『別人』だよ。
「おまえ」
言ったし。
「神さまだろ」
きょとん。
「あはっ」
笑った!
いやいや、この笑い方も。
「おもしろいなー、スサリは」
おもしろがられるのか。
「あ、あのさー」
怖い。正直。
「おまえ、どうしちゃったの?」
「おまえって?」
「おまえだよ!」
声がふるえる。
「おまえ、おまえじゃないじゃん」
「?」
「きょとんってなるなよ!」
割れる。
「……スサリ」
急に。不安そうな。
「ボク、キミに何かした?」
「えっ」
したかされたかって言えば。
「……何も」
どっちも。
「だったら」
にっこり。
「ボクたち、友だちのままだよね」
(う、うわぁ~……)
ぞわわわわ~って。
「や……」
「や?」
「違うじゃん!」
叫んだ。
「おまえって、そんな」
「スサリ」
つつー。指で。
「っ!」
ぞわわわわ~。
「ふふっ」
いや『ふふっ』じゃないし!
「き……」
気持ち悪いよ、絶対!
「や、やめてよ」
もう泣きそうになって。
お願いを。
「どうしたの、本当に」
笑顔はそのまま。
「ふふっ」
だから『ふふっ』じゃないって!
「かわいい」
「!」
「なんだか」
つつつつー。
「いじめたくなっちゃうな」
エスかよ!
「うう……」
いろんな意味で。泣きそうに。
「何なんだよ、もう……」
「泣かないで」
「おまえがーー」
言いかけて、飲みこむ。
それを認めちゃうと、もうホントになんか情けなくて。
「しっかりしてよ」
言われる。
「神さま」
えっ。
「………………」
何て。いま。
「い」
いやいやいや。
「神さまって言った?」
「言った」
はっきり。
「キミが」
指をさされて。
「神さまなんだから」
肆
それから。
ぼくは。
(えー……)
何がどうしてどうなったのかわからないまま。
神さまにされていた。
(……された)
そうなのか?
「………………」
考える。
考えても。
(……なんで)
わからない。
ただ。
そういうことにされていた。
「はー……」
見る。
たたみの和室。
前も後ろも右も左もふすまの。
「参拝って」
「……!」
いた。
「あんた」
神さま。
か?
けどここにいるのは。
「神さま」
言われる。指をさされて。
「あんただよ」
「………………」
ぼく?
「『僕』なんてない」
パンパン。
手を叩かれる。
おがまれる。
「参拝だよ」
また。
「一敗、二敗」
「それ、三敗だろ」
ツッコむ。
「一杯、二杯」
「それ」
詰まる。
「さ……サンハイだろ」
「そう」
言われる。
「参拝」
「………………」
どう。返せって。
「なんで」
「えっ」
「参拝する?」
聞かれても。
「お願いとか」
「神さまは何の願いもかなえない」
そうなのか?
「いや、でも」
みんな、普通に神社にお願いとか行って。
それが『参拝』なんじゃないの。
「だって」
指を。さされて。
「かなえられるか?」
「えっ」
聞かれても。
「やってみろ」
「ええっ!?」
無茶ぶられた。
「あ……」
出て行く。
「え、えーと」
どういうこと?
いまのは単なる冗談で。
「えっ!」
入ってきた。頭を下げて。
しずしず。
ぼくの前までやってくる。
「からんころんからーん」
「………………」
え?
「何、それ」
「やるだろう」
「あっ」
しぐさで気づく。
神社でお祈りするとき鳴らすあの。
(いや『からんころんからーん』って)
喫茶店に入るときみたい。コントでしか見たことないけど。
「同じ」
「えっ」
「知らせる」
「?」
「自分が」
指さす。
「ここに来たってことを」
(あー)
「危険を」
(おい)
なんでだよ。
「音は目に見えない」
当たり前だし。
「神さまも」
はっと。
「目に見えない」
「な……」
何が。
言いたいの?
だって、目の前に。
「……!」
ぼくは。
「あ、あれ」
見て。
いたのか?
思わず。目をこする。
「あっ!」
いない。
「えっ、だって」
だって?
「だって」
声が。消えていく。
「………………」
見えない。
それは。
(ぼくだって)
見えない。
自分で自分は見えない。
(ううん)
鏡がある。
「あっ」
ない。ここには。
(でも)
手を。見る。
「………………」
ある。あるようには見える。
(けど)
これって『自分』なのか。
(ぼくは)
どこからどこまでを。
『自分』というのか。
たとえば『自分の手』とは言う。
自分“の”なのだ。
つまり、これは自分じゃない。
(けど)
自分の手があるということは『自分』があるわけで。
(自分)
それって、何だ。
「……自分」
つぶやいても。
「………………」
わからない。
とらえられないもの。
「そうか」
わかった。
「ぼくは」
はっきり。
「神さまだったんだ」
伍
音は見えない。
においは見えない。
暗闇は見えない。
そこは、神さまの世界。
「あっ」
立ち上がる。
「えーと」
思い出しながら。
くるくると。回る。
(踊りも)
つかまえられない。
踊ってるところを見ることはできるし、踊ってる人にさわることもできる。
けどそれは『踊り』そのものじゃなくて。
あくまで『踊ってる人』なんだ。
踊りは。
(つかまらない)
くるくるくるくる。
あれこれ、どうこうって。本当はうまく説明できないけど。
根っこのところは。
(だから)
見えない。
それでも踊りは『ある』。
(あ……)
踊って。
いる。
自分だけじゃない。自分なんてない。
(神さまだから)
神は『ある』んじゃない。
ない。
ないから神さまなんだ。
「あっ」
ぱっと。
「死神ってさー、神さまなのか」
言われた。
(え? え?)
いた。
いや、そもそも『いた』の?
だって、いないのが神さまで。
「あれって」
言葉は続く。
「人を殺すわけじゃないんだよな」
「………………」
それは。
そうだろう。
殺すんだったら、死神じゃなくて殺神だし。
ないけど。
(……あ)
神さまだから、逆にある?
って、混乱するなー。
「死神って」
すると。向こうから。
「いるの?」
「えっ」
いきなりの。
「それって」
どっちの意味で?
いるいないの意味?
それとも、必要か必要じゃないかってこと? いるか、いらないかって。
「いる……」
おそるおそる。
「んじゃないの?」
どっちの意味かはっきりしないけど。
「見たことある?」
ないよ。
「なのに、いるって言える?」
そんなの。
「見てみる?」
「えっ」
そして。
「………………」
そこは。
「あっ」
変わらない。変わらないんだけど。
和室。たたみ。
だけど。
「だ……」
人が。
いた。
寝ていた。布団の上に。
(いや)
中っていうのかな、この場合。
うち、布団ないから。
関係ないけど。
「あっ」
顔を見て。ふるえる。
「ソボル!」
だ。
間違いなく。
「なんで」
こんなところで寝てる? しかも。
「ハァ……ハァ……」
「お、おい」
苦しそうだし。
「しっかり……」
言っても。それ以上は。
だって、病人の看病のしかたとか知らないし。
あ、『病人の看病』っておかしいのか。
病人以外を『看病』することはないんだし。
「って」
どうでもいいよ、そんなの!
完全にパニクってる。
「ね、ねえ」
呼びかける。
っていっても、ほとんど聞こえないくらいのモゴモゴ声。
もうとにかくあわあわしちゃって。
けど、これ。
「死にかけ」
口にして。
「……!」
な、なに言ってんだよ。ソボルが死ーー
「あっ」
思い出す。
『見てみる?』
言われた。
(けど)
これじゃ、死神っていうか死にかけーー
「だから!」
声を大に。
「死ぬわけないだろ、ソボルが!」
言って。
逆に。
「う……」
ますます怖く。
強いんだよ、『死』って言葉が。
実際、『死ね』とか『殺す』とか普通に言えるのって、信じられなかったりするし。
「ソボル……」
どうすれば。
「ねえ」
おそるおそる。
布団の横に座って、顔を近づける。
「あれ?」
目を。こする。
「………………」
ぼくだ。
ソボルじゃ、ない。
「な……」
ぼくが。
ぼくを見ている。
「え……えっ?」
これって。
(幽体……離脱……)
この場合、見てるぼくが幽体ってことに。
(いやいやいやっ)
手を。
「………………」
見えてる。
(でも)
幽霊だから幽霊が見えてもおかしくないのかも。
(けど、幽霊って)
なんで、そんなことに。
(あっ)
違う。
幽霊じゃなくて。
(死神……)
ぼくが。
ぼくの。
(いや、自分のって)
ありなの、そんなこと。
(ぼくが)
ぼくを殺してしまう。
このままだと。
(いやいやいや)
言っていた。
死神は殺神じゃないと。
(じゃあ)
なんで、ぼくは死にそうになってるんだ。
ていうか、いまこのときの『ぼく』って何なんだ。
(ぼくは幽霊で死神で)
いやいや、思い出せ。
言ってたじゃん。
見てみる? って。
(じゃあ)
ぼくって。何なんだ。
「あ」
はっとなる。
「見てる……」
これが。
いま目の前の。
「死神」
そうか。
死をつれてくる。
ううん、死そのもの。
そんな。
「そうか」
手を伸ばす。
ぼくに。
ぼくでもソボルでもあるものに。
死に。
「これで」
目の前にある“死”と“神”のぼく。
「死神だ」
ふっと。
灯りが消えた。
陸
「よっ、神さま」
「……は?」
何なんだ、そのノリ。
「おめでとう」
おめでたいの?
や、基本、神さまってめでたいのかもだけど。
「れべるあーっぷ」
何の?
「おまえは死を知った」
「っ……」
「かもしれない」
どっちだよ!
「『知る』なんてのはその程度のもんだ」
「えっ」
「おまえが学校で勉強して」
勉強して?
「何になってる」
何にって。
「それは」
将来のために的な。
「しかも、塾にまで行って」
「そ、それは」
だって、みんなそうだし。
「考えてない」
「う……」
くー、言い返せない。
「死ぬほど意味がない」
「死ぬほど!?」
そんなにか。
「死んでわかったろ」
「えっ!」
わかったーーのか?
「……わかんない」
「だよなー」
何なんだよ。
「だいたい」
もとはと言えば、この状況が。
「『大体』かー」
「いや」
大体わかったっていう意味じゃなくて。
「大体でいい」
さらり。
「神さまってそーゆーもんだから」
「そ……」
そういうものなの!?
「人間って、ちょくちょく神さまになるし」
ええっ!?
「あっ」
ひょっとして。
「あんたも」
「そーだよ」
あっさり。
「おれ、人柱だったんだ」
「……え」
ヒトバシラ。
「って?」
霜柱の人間版とかじゃなさそうだけど。
「人の上に肩車して、それが順々に」
「組体操か」
ツッコまれる。
「てゆーか、雑技団クラスだよ、その人柱」
「違うの?」
「わかった」
何が。
「なってみるか」
「え……」
また。思わず逃げそうになったところへ。
「どっちかだ」
「えっ」
「神さまやめるか、人間やめるか」
「ど……」
どういう選択だ。
「そもそも、ぼくって」
いま。本当はどっちなんだ。
「迷うな」
迷うよ。
「考えるな」
考えるって。
「同じなんだから」
「えっ」
どういう。
「同じだ」
いやいやいや。
「だから」
手が。
「考えるな」
顔の前に。
「あ……」
手のひらを。広げ。
「神さま」
言われる。
「選んでこい」
そこは。
「……!」
動けない。
「え? え?」
手と足が。動かせない。
(金縛り?)
そうじゃなくて。
「あ……」
さかさま。
「わ、わわっ」
さかさまの景色。
いや、ぼくがさかさまになってて。
(あ……!)
いつの間にか。
外に。
(な、何これ)
気がつく。
(張りつけ……)
しかも、さかさで!
(なんで? なんでなんで!?)
パニックに。
見えるのは。
(茶色い……)
それだけは。はっきり。
どこまでも茶色く。
乾いている。
(あ……!)
見えているその端に。
人が。
「あ、あのっ」
声を。出そうとして。
(あ……)
はっと。
「………………」
どういう。
これは。
状況なんだろう。
(ぼくは)
張りつけにされている。
つまり、誰かそれをやった人間がいるということで。
(人間……)
のはずだ。
神さまはこんなことを。
(いやいやいや)
いきなり、こんな状況になってるのがそもそも。
「これより」
重々しい声が。
「儀式を始める」
「……!」
この声。
「ソボ……」
ル。
だった。
「え……な……」
どういうこと。ぜんぜんわからない。
「や……」
近づいてくる。
「お、おい」
頭がガンガンして。
さかさになってるから当たり前だけど。
「なんでだよ」
わけがわからなくて。
涙が。
「よかったね」
「っ」
言われる。
「もっと泣きなよ」
見えてるものが、みんなぼやける。
そんな中ではっきり。
光って。
そう見えるくらい透き通った。
目。
「かかりだろ」
言う。
「立派なかかりだ」
「………………」
何て。言えば。
(かかりって)
これもその“仕事”なのか。
「聞いてない……」
「言ってないし」
あっさり。
「言っておけばよかったね」
そうだよ。
言われてたら、こんな。
「よろこんでくれたのに」
ないよ!
「くぅ……」
もう限界で。
頭が。
「たまったね」
たまった?
「……!」
光。金属の。
それは。
「や……やめっ……」
そして。
「っ!」
歌が。
「あーめあーめふーれふーれ、かーさんが~♪」
(って……)
なんでだよ!
「あ」
気がつく。
(雨……)
それって。
ここ。
このカラッカラに茶色くなった世界に足りないもので。
(じゃあ)
これって。
(雨ごい……)
そのために。
ぼくは。
「恵みの雨を」
言う。
「地に注がん」
地ーー
けど、それが“血”に聞こえて。
(あ……)
血の雨。それが。
いまから。
「っ……」
すっと。
首を冷たいものがなでた。
「………………」
何も。言えないでいると。
「おめでとう」
言われた。
「……お……」
やっと。
「おめでたい……」
の?
ショックが。まだぜんぜん。
「めでたいだろ」
言われる。
「神さまなんだから」
「それは」
そういうこととは、いまは話が。
「おんなじだ」
言われる。
「神さまになった」
「へ?」
「こうして」
無駄におおげさに。両手をかかげて。
「人は神になる」
「………………」
何て。言えば。
「一方的に」
「一方的か!」
ツッコんだ。
「それって、一方的に神さまにさせられるってことでしょ!」
「見方によっては」
その見方しかないって。
「いいじゃん、めったにないんだし」
めったにあられたら大変だ。
「確かに、恨まれたりするけど」
するんじゃん!
「けど、そういうやつにはダブルチャーンス」
バラエティかよ。
「もう一度、神さまになれる」
「は?」
ど、どういうこと。
「恨むよなー」
「ヘ?」
「恨まれたくないよなー」
(な……)
なんて答えれば。
「だ・か・ら」
人差し指を。立てるしぐさにイラッとくる中。
「その恨みを静めるために神として祭る」
「えっ」
それって。
「めずらしくないんだぜ」
めずらしくないの!?
「殺しちゃってからさー。ビビってお祭りするのよ」
「ふ、ふーん」
「恨まないでくださいって。だったら、最初からするなよなー」
「……うん」
「けど、しちゃうんだよ」
しちゃうんだ。
「人間だから」
しんみり。
「おまえも」
指を。
「まだまだ終わらないぜ」
終わらないのか。
(厳しいって)
神さまがかり。
「で、どっちがいい」
「へ?」
どっち?
「死んでから、なる」
「!」
「いきなり神さま目指すよりラクだよなー。実際はそんな簡単じゃないけど、そうなれることになってるし」
「え、いや」
「そうなったら」
手を。合わせ。
「ごしゅーしょーさまです」
「は?」
何を。
「なっちゃう」
「えっ」
「『仏さまがかり』に」
なっちゃうのか。
って。
「ただのお坊さんじゃん!」
「『神さまがかり』だって、ただの神主じゃん」
「えっ!」
そうなっちゃうのか。
漆
「つかれてるね」
優しい。
慣れてしまった。
と言うには、ちょっと無理あるけど。
「ちょっといい?」
何が。とも聞かないうちに。
「う……」
合わされる。
おでことおでこ。
「お、おい」
近い近い。
息が。
「やっぱり」
何が。またもの。
「つかれてる」
どっちの意味だ。思ってしまう。
「休んだほうがいいよ」
「えっ」
思いがけない。
「神さまがかり」
「ええっ!」
いいの!?
「いいと思うよ」
優しい。
「じゃあ」
言いかけて。
「う……」
つまる。
(……い……)
いいのか。
な。
本当に。
「いいよ」
髪をかきあげ。
「一緒にいるから」
「えっ」
思いがけない。
「たまにはさ」
さらり。髪を。
「いいよね」
「う……」
そんなふうに言われたら。
「……い……」
言うしか。
「いいよ」
ないじゃん。
「うわー」
うれしそうに。
部屋の端にあるベッドに飛びこんでいく。
(おいおい)
そんなにか。
「スサリのにおいがするー」
「や……」
やめろって。
「な」
なんとか。
「何してるの」
「上陸?」
じゃあ、周りは海か。
「侵略?」
敵地か。
「あのさあ」
ぞわわーって。来るのをがまんしながら。
「それって、どうなの」
「んー?」
「おまえって」
そうだ。
「違う……よな」
どきどき。胸が。
「スサリ」
見つめられる。
「来て」
「へ?」
「こっち」
ぽんぽん。自分の隣をたたく。
「………………」
どうしろと。
「き・て」
なんで区切る!
「い……」
いやだとも。
言えない。
なんでか説明するのが。
「気づいてたんだ」
どきっ。
「き、気づいてた?」
これって。
「ごまかさないで」
それは、ずっとこっちが言いたかったことで。
「座ってよ」
ノーと。言わせない。
「………………」
せめてもの。抵抗っていうか。
何も言わないまま座る。
「スサリー♥」
「うわぁっ」
押し倒された。
「ちょ、おまっ、なっ」
さすがに。
「何すんだよ!」
突き飛ばす。
「あっ」
やりすぎた。思ったけどすぐに。
「たー!」
ドーーン!
「ぐふっ!」
やり返される。
「きゃははっ」
笑って。
ぼくに馬乗りになる。
「な……」
何なんだよ。いいかげんにしろよ。
そして。
「誰なんだよ」
「うん?」
「だ、だから、おまっ……」
限界が。
「うぁ……」
急に。
「うあーん」
「スサリ!?」
びっくりして。
けど、そんなのもうどうでもよかった。
「なんだよー、何なんだよー」
「スサリ……」
おろおろと。
「人間……だよ?」
「そんなしょっぱいギャグ聞きたいんじゃなくて!」
「しょっぱい?」
ぺろっ。
「!」
い、いま。
「……なめた?」
「なめた」
うなずき。
「ホントだね。ちょっと、しょっぱい」
「う……あ……」
さーっと。引いていく。
「な……」
限界。本当に。
「何なんだよぉ」
がっくりと。
「ヘンタイすぎるだろぉ」
「?」
「おかしいって。変わりすぎだって」
「変体だから?」
「そういうしょっぱいのいいから!」
もっと泣きたくなる。
「すぅくん」
「そんな呼び方したことないし!」
ムチャクチャだ。
「ソボル!」
指さす。
「おまえだ!」
「ボクだ」
「や……」
言い返そうとして。
「……スサリぃー」
がっくり。脱力。
「あー」
おそるおそる。
「なんか……ごめんね」
「いいよ、もう」
「いいんだ」
「OKってことじゃなくて!」
あわてて。
「ホントにどうしちゃったんだよ!」
「どう?」
「違うじゃん!」
止まらない。
「キャラがさ! ぜんぜん違っちゃってて」
「キャラ?」
急に。
「何さ?」
「えっ」
「キャラって」
怖い。思っちゃう目で。
「どういうつもり?」
「ど……」
それは、だからこっちが。
「どういう」
押される。
「つもり?」
「あ……う……」
別の意味で。また泣きそうに。
「や……」
出ちゃう。
「やめろよぉ」
すぐさま。
「!」
また。
「やめない」
「やっ、その前にさぁ!」
ふるえる声で。
「なんで、なめるんだよぉ!」
「泣いたから」
「っっ」
そう……なっちゃうの!?
「ならないって」
「なるよ」
ささやかれる。
「な……」
またも。
泣きそうになってる自分に気づき、なんとかがまんする。
「よしよし」
あやすように。
「男の子だもんね」
「お母さんかよ」
言いたくもなる。
「スサリが悪いんだよ」
やっぱり。こっちをしかるお母さんみたいに。
「キャラがどうこうなんて言うから」
「だって」
「『だって』じゃないの」
だから、お母さんかって。
「スサリ」
目を。見て。
「スサリは神さまなんだよ」
「……!」
それは。
「いや、ぼくは」
「神さま」
重ねて。
「がかり」
「そ……」
やっと。
「そう……だよ」
「じゃあ、神さまだ」
なんでだよ!
「かかりだって言ってるだろ!」
「神さまがかり」
めっ、て。
こっちをしかるように。
「ちゃんと言わないと」
「ちゃんとって」
ベッドの上で。
「何をちゃんとなんだよ」
「神さまがかり」
くり返す。
「ちゃんとしないと」
「ちゃんと」
してる。
とは言えないところが。
「てゆーか」
そもそも。
「ちゃんとって何さ」
「ちゃんとはちゃんとだよ」
「どう、ちゃんとなんだよ」
「こう、ちゃんと」
言って。
「っ!」
くちびるに。
指。
「ねっ」
「………………」
動けない。何も言えない。
「だめなんだよ」
だめって。
同じ部屋で二人きりで。
すでにこの状況が。
「だ……」
なんとか。顔をそむけ。
「だめだろぉ」
「何が?」
(何がって)
言えないよ、そんなこと!
「だめなんだよ」
確信犯かよ!
「言ったら」
「えっ」
「ほーら」
「うわぁっ!」
また指が伸びてきて、思わずのけぞる。
「別のとこでふさいでほしい?」
「ええっ!?」
どこだよ!
「だめだよ」
もう何がそうなんだよ!
「キャラとかって」
そこに戻るのか。
「だ、だって」
心臓のバクバクが。止まらないまま。
「違うじゃん」
「違わない」
言い切られる。
「ねえ」
寄り切られる。後ろは壁で。
「こ……」
来ないで。
逃げられない。絶体絶命。
「これが」
ささやかれる。
「ボクだよ」
(えぇ~……)
何て言えば。
「もー」
仕方ないという。
だから、そのお母さんみたいなのやめろって。
「じゃあ、教えてあげる」
何を。
「好きだよ」
「っ!」
なな……なんてことを。
「ぼくだって」
ーー!?
ぼくだって?
いま何を言おうとしたの、ぼくは!
「好き」
「!」
「ってことだよ」
どういうことだよ、だから!
「好きでいい」
「えっ!」
「好きにして」
何なんだ、その言い方!
目まで閉じるなって!
「しないし!」
「いいのに」
こっちがよくない!
「好きな」
好きな!?
「ボクで」
ん?
「好きにして」
「………………」
えーと。
「ソボルを」
あらためて。
「どうするって」
「好きに」
くり返し。
「キミが決めていいんだよ」
それって。
「神さまなんだから」
「い……」
いやいやいやいや。
「な、なんだよ。何を決めるって言うんだよ」
「何でも」
何でもって。
「……本当に」
いいのか。
「じゃあ」
ぼくは。
「元に戻って」
「だーめ」
「おい」
いきなりか。
「詐欺じゃん」
「オレオレ?」
「老人かよ」
「いいよ」
何がだよ。
「じゃあ、元に」
「それはだーめ」
なんでだよ!
「だったら、聞くけど」
逆に!?
「ボクにどうなってほしいの」
おい。
「だから、元に」
「元のボクって何?」
えっ。
「それは」
元の。
「………………」
あれ?
「えーと」
困る。どう説明すれば。
「だ、だから、元のだよ」
「元の?」
にっこり。
「それって?」
「おい……」
なんか。
いじわるされてる?
「やめろよ」
「やめない」
言われる。
「やめてほしい?」
「う……」
認めるのは悔しいけど。
「ほしい」
「ボクが?」
「違う!」
力いっぱい。
「ふざけるなよ!」
「真面目だよ」
真顔で。
「ねえ」
聞かれる。
「やめたらどうなる?」
「えっ」
「ボクがボクをやめたら」
「それは」
やめたら。そんなの。
「え、えーと」
「ブー」
「は?」
「時間切れ」
「クイズかよ」
「クイズじゃないのは」
「わかってるけど」
じゃあ、何なんだよ。
「ボクがボクじゃなくなる」
「っ……」
「それでいいの」
真顔で。
「それは」
聞かれても。
「お、おまえは」
それでも。
「ぼくの知ってるソボルじゃないし」
「そうなんだ」
ちょっぴり微笑み。
「さびしいな」
(な……)
だから何なんだよ、このキャラ。
(いやいや)
同情とかしないし。
「いなくなっても」
あらためて。
「別に」
「………………」
黙りこむ。そして。
「わかった」
あっさり。
「いなくなるね」
「えっ」
本当に。
「バイバイ」
「!」
消えた。
「え……えっ」
目をこする。
「………………」
いた。
「ハロー」
手をひらひら。
「神さまだよー」
「おい!」
どういうことだ!
「こうなるだろ」
なんでだ!
「自分が自分でなくなる」
「……!?」
言ってたけど。
「ソボルも」
「そう」
うなずいて。
「ボクはソボルであり神さまだ」
「……!」
「って」
にっこり。
「思った?」
「………………」
ぼくは。
「……ど……」
どっちなんだよお。
「どっちでも」
「おお!?」
「好きなように」
「そんなの」
「好きにして」
「おい!」
それ、やめろって。
「はぁー」
どっと。なんだか。
「好きにされてる」
ぼくが。
「だね」
同意するなって。
「はぁーあ」
なんだか。
「どうでもいい?」
「うん」
「それでいい」
いいのか。
捌
「巫女ってさー」
「えっ」
「なりたい?」
唐突すぎる。
「いいぞ」
いやいやいや。
「何なの?」
「いるだろ」
いるって。
「巫女が」
いるのか。
「あー」
まあ、神さまだし。
「いいぞ」
だから。
「なんで」
ぼくがなる前提なのさ。
「それって、女じゃん」
「巫女だ」
つながらない。
「というわけで」
「おい」
進めるなって。
「女じゃん」
もう一度。
「女だ」
肯定された。
「巫女は女だ」
「だったら」
「そもそも、古代、神の言葉を伝えたのは女だった」
なんか語り出した。
「おれの言葉を伝えるために必要だろう。巫女が」
じゃあ、この会話は何なのだという。
「おまえ、かかりじゃん」
かかりだけど。
「だから」
ぼくに巫女をやれと。
「だからさー」
巫女は女なんだって。
「どっちかだな」
「どっちか?」
ヤな予感しか。
「オマエが巫女になるか、巫女がオマエになるか」
どういうことだよ!
てゆーか、どっちも同じじゃん。
「バレたか」
おい。
「やめてよ」
ふざけるのは。
「チャンスだったのになー」
何の。どういう。
「おれがオマエのものになる」
「へ?」
思いもよらない。
「……マジ?」
「マジ」
うなずかれても。
「いらないし」
「おーい!」
ツッコまれる。オーバーに。
「いるだろ!?」
「いらないよ」
素で。
「おまえ、神さま抜きでどうやって巫女やるつもりだよ」
やらないって。
「どうやって、巫女るつもりだよ」
動詞になった。
「巫女らないし」
つられて。
「れ」
短すぎるだろ。
「命令?」
「するのは、おまえだ」
えっ。
「……何それ」
「聞いてんの?」
「うん」
「命令?」
「は?」
だから、何を。
「命令とかじゃないけど」
「だめじゃん」
だめなんだ。
「しろよ」
命令を?
「なんで」
「巫女だから」
じゃないし。
「あれっ、でも待って」
いまさらだけど。
「命令?」
「そうだ」
「巫女が?」
「そうだ」
いやいや。
「おっ、その気に」
「じゃなくて」
そもそもが。
「違わない?」
「ん?」
「だって」
違うよな。
「巫女が?」
「ん?」
「命令するの?」
「ん」
いやいやいや。
「うなずかれたって」
「うなずくなって?」
「いやいやいや」
「わかった」
わかられたって。
「イエス」
「え……」
肯定?
「えーと」
そのまま。気をつけを。
「……あの」
耐えられなくなって。
「どうしたらいいの」
「ん?」
「ここから」
「どこから?」
聞かれても。
「どうぞ、ご命令を」
ロボットか。
「いやいやいや」
神さまだし。
「神さまがさあ」
いまさらのいまさらで。
「命令されるって、どうなの」
しかも。
「巫女にって」
「巫女にだから」
当たり前と。
「だろ」
「いやいやいや」
知らない、そんな常識。
「巫女って大体、神さまに仕える人のことでしょ」
「おまえと同じだな」
仕えてないし。
「それが命令って」
「するだろ」
しないだろ。
「じゃあ」
おかしなものを見る目で。
「何のために巫女になるんだ」
「えっ……」
何のためって。
「それって」
それは。
「えーと」
ため? そんなの。
「ないんじゃない」
「ほー」
「だって」
なんか。
「違うじゃん」
「ほーう」
ますます。興味アリ的な。
「だ、だって」
あせる。変に期待されてる空気に。
「ないじゃん!」
そうだよ。巫女って。
「そういう欲? みたいなのなくて」
「ほうほう」
「なんか、純粋に? 神さまにお仕えしてて」
「ほうほう」
いや『ほうほう』じゃなくて。
「いいぞ」
「ん?」
「仕えて」
いやいやいや。
「なんで、あんたに」
「仕えてるだろ」
「ないし」
ただのかかりだって。
「だーかーら」
指をふられ。
「チャンスなんだってー」
「何が……」
「神さまを使える」
ん?
「『に』じゃなくて?」
「『を』だ」
言われる。
「えーと」
ちょっと。混乱。
「いいの?」
「何が」
「神さまを……使うとか」
「じゃあ、神さまは何のためにいるんだ」
えぇぇ~?
「何のためって」
聞かれても。
本人に。
いや、本神に。
「いるから……いるんじゃない?」
「いる?」
「いや、そっちの」
ほしいほうの『いる』じゃない。
言おうとして。
(いる……のか)
なんだか。
(神さまって)
「いてもいなくても」
「おい!」
さすがにの。
「いるだろ!」
「だって」
何もしてくれないし。
いや、おかしなことはされまくってるけど。
「それだ」
「えっ」
いきなりだって。
「されるんだよ」
「何を」
「だから」
言う。
「お願いをするんだよ」
ぽかんと。
「お願い……」
「願え」
「いやいや」
いきなりすぎて。
「何を」
「あるだろ」
「あるって」
いきなりで。
「まあ」
ないことはない。かも。
「んー、でも、いますぐにって」
「雨が降る」
「えっ」
なに、またいきなり。
「雨が降らない」
どっち!?
「どうする」
聞くの?
「えー……と」
正直、聞かれてもなんだけど。
「傘をさす」
「甘い」
甘いのか。
「みんなの問題なんだなー」
「は?」
みんなの。
「大雨だ」
「はあ」
「どうする」
またか。
「傘を」
「だからー」
やれやれと。
「大雨だぞ」
「あー」
なるほど。
「大きな傘を」
「おい」
わざとだって。
「あれでしょ。大変なんでしょ、みんなが」
「おまえなー」
あきれたと。
「人ごとか」
(人ごとだし)
そもそも起こってさえいない。
「やんでほしいだろ」
「えっ」
「大雨だし」
「あー、うん」
大雨だしね。
「どうする」
どうするって。
「てるてる坊主?」
「あー」
悪くないと。
「いい線」
いい線なんだ。
「てるてる坊主ってさー」
言う。
「ヤバいよな」
ヤバいのか?
「ヤバい」
なんとなく。うなずいておく。
「だよなー」
うんうんって。
「てるてる坊主にしてみればさー」
「ん?」
してみれば?
「どう思う」
「どうって」
「なる?」
おい。
巫女の次はてるてる坊主か。
「なれない」
だって、あれは。
「……あれ?」
何なの。
おもちゃ、とかではないし。
「ヤバいよな」
またか。
「ヤバい」
仕方なく。
「なりたいよな」
「………………」
したいのか。
「なってさ」
質問する。
「どんな得があるの」
「おがまれる」
それは、まあ。
「てるてる坊主だし」
「だしな」
進まないって。
「坊主はおがまれるしな」
そういうもの?
「おがむほうじゃないの」
「おがみもする」
「うん」
「おがまれもする」
「うん」
「どうだ」
どうだって。
「どうでもない」
正直。
「おまえ」
信じられないって目で。
「大丈夫か」
こっちが言いたいよ。
「あのさぁ」
もう何がなんだか。
「どうなってもらいたいの」
こっちに。
「巫女に」
戻った。
「女じゃないし」
「えっ」
驚かれた。
「ぼくっ娘だと思ってた」
思わないでほしい。
「違うし」
そこははっきり。
「じゃあ、なんで『ぼく』なんだよ」
「ええっ!」
そうツッコまれるとは。
「なんでって」
あわてる。
「なんで……」
理由は。特に。
「やっぱり」
やれやれと。
「そこからか」
どういうこと?
「おまえはなんで『ぼく』なんだ」
「………………」
答えられないって、だから。
「ぼくは」
それでも。なんとか。
「……ぼくだから」
結局。
「んー」
言われる。
「惜しい」
惜しかった!
「じ、じゃあ」
何が正解なんだって。
「それだ」
それなんだ。
「って、どれ!?」
「どれでも」
あっさり。
「てゆーか『わたし』にならない?」
「えっ」
なぜ。
「なれない?」
なれないってことは。
「いいと思うけどなー」
「は?」
「チャレンジすること。若いうちに」
「はあ……」
そこまでのことかと。
「というわけで、巫女に」
「いやいやいや」
そこに戻るのか。
「ていうか、なんでさ」
いまさらだけど。
「とれないだろ」
「えっ」
「バランスが」
何の。
「おまえがぼくっ娘でー」
違うって。
「あっちがボクっ娘な」
「えっ」
あっち?
「スサリ」
「うわぁっ!」
いた。
「な、なんで」
「いるのか」
こくこく。
「バランスだって」
あっさり。
「ほら、左大臣がいれば右大臣がいるだろ」
いつの話だ!
ていうか、たとえとして合ってるのかと。
「ス・サ・リ」
近づいてくる。
「バランス」
何を言いたい。
「ぼくっ娘」
そこか!
「ボクっ娘」
おまえか!
「いやいやいやっ」
頭をふって。
「違うし!」
「そう?」
「いや『そう?』って」
「そうかなあ」
首をかしげる。
かわいらしく。
「そこが!」
思いっきり。指をさして。
「違う!」
「えー」
「『えー』じゃない!」
爆発する。
「今日のスサリ」
うるむ目で。
「なんだか、激しい」
がくっ。
「ソ、ソボル」
「なーに?」
「おかしいって」
気力を。ふりしぼり。
「おかしいよ」
「そう?」
「ボクっ娘って」
もう、キャラが違うとかの問題じゃなくなってる。
「それって、つまり」
性別が。
(……あれっ)
性別?
(ソボルって)
どっちだった?
(う……)
思い出せない。
ていうか、そもそも知ってたか。
(……知らない)
かも。
(いやいやいや)
普通、友だちのそんなこと確認しないっていうか、それが当たり前で。
「いいんだよ」
「わっ!」
耳元で。
「よくないけど」
どっちだよ!
「巫女は女の子でないとな」
また、それか!
「だから」
ヤな予感しか。
「ぼくっ娘」
ぼくにか!
「ボクっ娘」
ソボルか!
「それで成立するだろ」
させるな!
「左右巫女」
おひなさまか!
いや、ひな人形にもそんなのないし。
「それだけで」
めまいが。
「こんなことを」
「まぁな」
ぜんぜん悪びれてない。
「なんで」
聞きたいよ。
「こんなことまでして」
「まかせたいんだ」
真面目な。声で。
「全部を」
言った。
玖
「ねー、神さまー」
クラスメイトに。そう呼ばれるのも。
「なに?」
慣れた。
「お願いがあるんだけどー」
手を合わせ。
「消しゴムなくしちゃってー。どこにあるかわからないー?」
「………………」
軽い。
「えーと」
探してみる。
「あったよ」
「えっ、どこ」
教えてやる。
「わかった、行ってみるー」
お礼もない。
「はーあ」
こんな気持ちだったんだ。
ふと。
思ってしまう。
「あーあ」
聞いてみたい。
「神さまー」
呼んでみる。
「………………」
声は。
「ふぅ」
頭をふる。
「そりゃあね」
わかっている。
自分はそれを『聞く』ものではない。
伝えるものなのだ。
「神さまがかり」
口にして。
「知らなかったって」
いまさら言っても。
「元気ないな」
「あー?」
そこに。
「ないってー」
「まあ、いいけど」
冷たい。
「スサリ」
すぐそばに。足を組んで。
「本当にどうした」
「………………」
むしろ、こっちが聞きたい。
「なんだ」
目をそらして。
「何を見てる」
「……いや」
ひょっとして。照れてる?
「見るな」
言われるとますます。
「………………」
むすっと。
本当に怒ったみたい。
「ごめん」
言って。
「ソボルだ」
「は?」
わけがわからない。そんな顔。
「何を」
「ううん」
頭をふって。
「よかった」
「?」
もっと意味がわからないって。
(あの)
ソボルは。
いま思うと何だったのかなって。
(変わった)
けど、それは。
ぼくなんだ。
(ぼくが)
あのころ。
変わり出していったんだと。
それが。
見せた。
ぼくの知る『世界』をゆらめかせた。
知っていた“つもり”の。
「ソボルはソボルだ」
「は?」
「ううん」
何でも。ない。
全部、ぼくが見ていた。
「世界」
いつの間にか、そういうものだって決めつけてた。
あれは正しい、これは違うって。
それを払ってくれたのが。
「あー」
そうだったんだ。
真っ白に。
一度。
そこに。
「入ってきた」
口にして。
納得。
声を聞く。
けど、こちらからは。
「白だもん」
そこに色は乗せられない。
だから『素去(スサリ)』。
「神さま」
呼ばれる。
ぼくじゃない。
ぼくの向こうに。
ぼくもない。
そこには。
神。
いて。
だから。
「なんだよ」
言ってやった。
かみさまがかり