七ならべ 2024年8月

風にまかせて
いられたのなら
あの日もうまく
過ごせただろう
終わったことは
しかたないから
ひらいたままの
拳を消して
月を浮かべた
海に漕ぎ出す
あなたがいつか
教えてくれた
哀しいうたを
なぞるみたいに
いつかどこかで
埋もれてみたい
(2024年8月1日)

雨の匂いは
眠れぬ夜の
足音に似て
振り払えずに
時が過ぎゆく
流して欲しい
記憶のかけら
窓にならべて
いつになったら
この廃墟から
旅立てるのか
雨が止むのを
待つ心境は
祈りにも似た
あきらめだから
東の空が
白みゆくのを
見ないふりして
地図をひろげる
どの方角に
歩いてみても
あなたがいない
朝が来るんだ
(2024年8月4日)

なぜあんなこと
言ったのだろう
ことばはいつも
気血栄衛を
蝕んでゆく
蠱毒に沈む
後悔の骨
ぼくの身体は
ぼくですらなく
まっすぐの道
歩けずにいる
(2024年8月4日)

変哲のない
日曜の午後
どんよりとした
湿度のなかで
凝縮された
手のひらだった
ただいるだけで
しあわせだった
そんな時間は
一瞬だって
知っているのに
見ないふりして
流されていた
どんよりとした
気圧のなかで
記憶はいつも
ないものねだり
ただいるだけの
今のぼくには
守るものなど
なにもないけど
もの言いたげな
手のひらを見た
もう戻らない
日曜の午後
(2024年8月5日)

知らないことを
知らないままで
いられたならば
しあわせだった?
きみのことばに
どう答えたら
良かっただろう
午後の海辺は
感情ばかり
押し寄せるけど
波には成れず
砂にも成れず
あぶくのように
消えてゆくだけ
 
消したいものを
消せないままで
抱えてるのは
ぼくのわがまま
そう言われても
頷くわけに
いかなかったよ
夏のベンチは
遠い出逢いを
待っているけど
雲が消えても
声が消えても
ひとりぼっちを
浮かべていたよ
(2024年8月7日)

夏の磁力は
視野も手元も
狂わせるから
思いどおりに
いかないことも
たくさんあって
落ち込むときや
逃げたいときは
夜の長さに
救われている
ぼくのことばが
届かなくても
きみが笑顔で
いられたらいい
そんな聖者に
ぼくは、なれない
ぼくのことばで
今日を変えたい
(2024年8月8日)

ソ連邦には
重力のない
秘密の都市が
あるらしいとか
そんなはなしを
真に受けていた
知らないものは
知らないままで
生きられなくて
それが不幸の
はじまりだって
知っているけど
知識は麻薬
みたいなもので
止めることなど
できやしないよ
それが嫌なら
本を閉じろよ
(2024年8月12日)

守られるとは
ただしいことを
知らないままに
生かされること
ぼくらの窓は
嘘ばかりだし
ぼくらの家は
落ち着きがない
逃げることさえ
夢に出来ずに
重力だけが
微笑んでいる
もうすぐ秋が
歌い出すけど
靴の悲鳴で
台無しになる
そういう星に
ぼくは生まれた
(2024年8月15日)

夢の中さえ
自由になれず
導きのまま
歩き出すだけ
それでもいいと
思ってたのに
今日はどうして
胸が苦しい
白く固まる
学術書など
何の役にも
たたないけれど
夜のうつわは
蒼いしずくを
拾ってくれる
それがわかれば
いつか笑える
この秋だって
きっと笑える
(2024年8月23日)

いくらないても
ひはしずむから
てばなすことを
おぼえるんだよ
おわりのつぎは
はじまりだから
まっしろなかみ
ひろげたうえで
みたいけしきを
かいてみようよ
くりえいてぃぶな
よるがはじまる
これからぼくの
ひびがはじまる
(2024年8月25日)

並べたはずの
ことばが消えて
途方に暮れた
歩道のうえで
これから出会う
あらゆるものは
みな重力に
囚われている
そう言われても
ぼくはひたすら
俯くだけで
砂が混じった
日々の記憶を
置き去りにして
迷子の自我は
溶けてゆきます
 (2024年8月29日)

はげしい雨が
降り続くから
脚がすくんで
動けなくなる
今となっては
探しものなど
どうでもよくて
望むことさえ
みえないけれど
あなたが蒔いた
ことばの種が
発芽するとき
ぼくもふたたび
踏み出すだろう
ことばおもいの
みちびくほうへ
 (2024年8月31日)

七ならべ 2024年8月

七ならべ 2024年8月

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-09-01

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