骨折ラプソディ(不問3)

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〇タイトル
「骨折ラプソディ」
 作者:メイロラ

比率 0:0:3
時間 約20分

〇作品説明
 骨折した患者2人に、真面目な先生がひたすら振り回されるコメディ。
 

〇登場人物
医者:ひたすらツッコム人 かわいそう
患者1:ひたすらボケる人 天然
患者2:後から出てきてボケる人 脳筋

※全性別不問 一人称は全員「私」(変更可)
※患者1と患者2の台詞の間が詰まっている箇所は、お互いの台詞を待たずそれぞれのタイミングで言ってください。(完全に同時でなくてOK)
例)患者1:はい(患者2を待たずに)
  患者2:はい(患者1を待たずに)



―――本文

患者1:こないだ大雪が降ったじゃないですか?

医者:はい

患者1:私! 南国生まれで! 雪って見たことなかったんですよ!

医者:はい

患者1:で、テンションあがちゃって! これは、あの、噂に聞く『雪 合 戦!』なるものをするしかない!と思ったわけです!
……でも、なぜか友達全員に断られまして。なんででしょうね? 付き合い悪いですよね?

医者:はい

患者1:で、仕方ないから、1人でやったんですよ、雪合戦!

医者:はい

患者1:1人でやるとかつまんないと思うでしょ? 意外とそうでもないんですよ!
けっこう、盛り上がりまして! 楽しかったんです!
……が、ふと、虚しさがこみあげてきまして……あれ、自分、何してるんだろう?って。

医者:はい。

患者1:せっかく田舎から都会に出てきたのに、結局独りぼっちじゃん?って?
私、こんなことをするために、田舎から出て来たわけじゃないはずだ、って……
(そもそもなぜ私が都会に出て来たかと言うと、小学校の時……)

医者:(さえぎって)えっと、その話、一旦、止めていいですか?

患者1:え、なんでですか?

医者:わかりませんか?

患者1:ええ、まったく。

医者:私、医者なんです、整形外科の。

患者1:はい、知ってますよ。

医者:で、あなたは患者さんですよね?

患者1:そう……なりますね。

医者:じゃ、診察していいですか?

患者1:え? だから、診察してもらうために、どこが悪いのかを説明しないと。

医者:ってことは、今までの説明は不要ですよね。

患者1:え? そうですか? 最初から説明しないと、話の流れ、わかんなくなりませんか? 
雪を器に盛って、いちごのかき氷シロップかけて食べた話はちゃんと省きましたし。

医者:もうちょっと、省いてください。むしろ、さっきの話全部要らなかったです。
……えっと、つまり雪で滑って転んで、どこか怪我した、ってことですね?

患者1:え、なんでわかるんですか? 先生さすがですね! もしかして名医なんですか?

医者:名医でなくてもわかります。ここ整形外科なんで。 
雪でかき氷してお腹壊したとか、はしゃぎすぎて風邪ひいたとかなら、内科に行きますよね、普通?

患者1:ち、フェイク入れて眼科に行くべきだったか……

医者:フェイクはいらないです。ディフェンスをかわしてもシュートチャンスは来ないんで。

患者1:あれ、先生、なんかスポーツ好きなんですか? バスケですか? それともサッカー?

医者:(無視して)痛む箇所を見せてもらっていいですか?

患者1:うーん……

医者:そんな見せるのをためらうような場所なんですか? 
大丈夫ですよ、私は医者ですから、患者さんの体のどんな箇所でも見慣れています。
安心して見せてください。

患者1:先生に冷たくスルーされた心が痛みます、とか言ったら怒られるかなー?って考えてました。

医者:……見せてください。

患者1:ちょっとしたお茶目なのに。
痛む箇所ですよね……ちょっと待ってください、裾上げるんで……よいしょっと……はい、ここです、痛いっていうか、足首がなんか変かなって。

医者:………あの

患者1:はい

医者:いためてから何日経ってます?

患者1:こないだの野菜炒めですか? 4日くらいですね? あ、大丈夫です、ちゃんと火を通してから食べます。

医者:真面目にお願いします。

患者1:だから、ちょっとしたお茶目ですって。
……えっと、転んだ日からってことですよね? 1週間くらいかな?

医者:1週間!?

患者1:はい。

医者:これ、多分ですけど、ほぼ間違いなく足の骨、折れてます。

患者1:あー、なんかそうらしいですね。職場の人がみんなそう言うんですよ。

医者:言われてるんなら、早く受診してください!
松葉杖もなくて、どうやって生活してたんですか?

患者1:えっと普通ですよ? 朝起きて、会社行って……あ、でも、足首が最初、紫?で黒? からの紺? みたいな色になって、それからなぜか、冷や汗がでるようになりました。

医者:でしょうね、骨折したのに無理に普通に生活したらそうなります。

患者1:あれ、風邪ひいたかな? と思って葛根湯(かっこんとう)とペブロンを飲んだんですが。

医者:効かないでしょうね。

患者1:そうなんですよ。なんか全然治らなくて、すごい寒気がして、めちゃくちゃ厚着したら、着すぎたのか、吐いちゃって。

医者:それは骨折してるからですね。足、骨折してるのに、普通に歩いてるからですね。

患者1:まあでも、気合でなんとかなるかなー?って、日課のスクワット千回やってたら……

医者:は!? なにしてるんですか!

患者1:なんかだんだん足が腫れてきて……左右のバランス変なんですよ。
いつもなんか傾いてるなーみたいな。靴も片方入らないから、わざわざ買いなおしましたし。

医者:買いなおす暇があるなら! 受診してください!

患者1:で、なぜかめちゃくちゃ怒った上司に車に乗せられて、この病院の前で降ろされました。

医者:あなたの上司がマトモな人でよかったですよ。

患者1:えーそうですかね? うちの上司、書類留めるホッチキスの向き斜めじゃなくて、まっすぐにするんですよ? 常識なくないですか?

医者:なくないですね! むしろ、そんなことどうでもいいですね! とにかくあなたはまごうことなき怪我人です。だいぶ重症です!

患者1:えー? わかりました。じゃあ、今度の日曜、友達とゴルフの約束なんですけど、あんまり無理しないようにしますね。

医者:行けるわけないでしょ! 無理しないゴルフってどんなのですか! めっちゃ歩くし、足使うでしょ、ゴルフなんて!

患者1:えー楽しみにしてたのに……じゃあ、それは諦めるとして。
明日、職場の倉庫整理あるんですけど、それはやっていいですか?

医者:ダメです。

患者1:えー? 一年に一度なんですよー?

医者:ダメなものはダメです。あなた足折れてるんで。

患者1:(しみじみと)普段、うちの会社スーツかオフィスカジュアルなんですけど、その日だけはみんなジャージ姿になって、協力して頑張る姿がなんか運動会みたいで、私、好きなんですよねー倉庫整理。
えーみんなにやらせて、自分はやらないの申し訳ないなぁ。

医者:諦めてください。そもそも、しばらくは出勤も無理ですね、この腫れ方だと。
入院か、自宅で絶対安静かの二択です。

患者1:えーそんな! なんかぱぱっと治す方法ないんですか? 最新の薬とかすごく効く湿布とか!

医者:無理です! さすがに現代医学も骨折を即日で治せるところまでは来てません!

患者1:どうしてもですか?

医者:どうしてもです。

患者1:ふう……しかたないですね。この手は使いたくなかったんですけど

医者:なんですか?

患者1:先生がその気なら、魔法の言葉、言っちゃいますよ? いいですか?

医者:いや、なんて言われても、無理なものは無理ですけど。

患者1:じゃ、いいんですね、言っても。

医者:ごくり……ど、どうぞ?

患者1:(息をすーと吸ってから)『そこをなんとか!』

医者:なるかーーー!

(患者2入ってくる)

患者2:フッ! フッ! あの! すみません! フッ! まだですか! フッ! フッ!

医者:あ、次の患者さんですね、お待たせしてすみません、まだ、前の患者さんを診察中でして。

患者2:そうですか! フッ! まだなんですね! フッ! まだ待つんですね! フッ! フッ!

医者:申し訳ありまんが、待合室でお待ちいただけますか? すみません、お急ぎのところ!

患者2:フッ! いえ、全然! フッ! ヒマ、なんですが! フッ! 単に私の性格が! フッ! せっかちな、モノで! フッ! こうやって フッ! 筋トレしてるから! フッ! 大丈夫、ですよ! フッ!

医者:筋トレ……ちょっと待ってください! あなた、なんですかその腕の腫れは?

患者2:ああ、これですか? 一昨日、車にぶつかってからなんかちょっと痛いんですよね。色も変だし。まあ、耐えられない程ではないし、大丈夫です。
でもなんか会社の人に「いいから病院行け!」って言われて、無理矢理有給にされました、ははは!
大げさですよねぇ! さて、待合室で、筋トレ続けよ。フッ! フッ!

医者:やめてくださーい! あなた! その腕、多分、折れてます!
その腕でダンベル上げ下げしないで!
悪化します! てかもう悪化してます! ちょっとだれかぁ! 
しまった! 今日は看護師が休みだ!

患者1:あれ? そのダンベルいいですね、私もそのメーカーの使ってるんですよ。

患者2:あ、わかります? 限定品なんですよ。

患者1:やっぱり! なんかデザイン違うなって思ったんです。
私は普通のしか持ってなくて。いいなぁ。ちょっと借りていいですか?

患者2:もちろん! どうぞどうぞ。

患者1:すみません、よいしょっと! 
あ、あれ、なんかバランスが……わっ!(ダンベルを落とす)

医者:ああああ!! (ダンベルを受け止める)………はぁ。

患者1:すごい先生ナイスキャッチ!
患者2:すごい先生ナイスキャッチ!

医者:ぜいぜい……あのですね。

患者1:はい
患者2:はい

医者:どっちにも言いたいですが、まずはそっちの患者さんに言いたいです。
足折ってる方(ほう)!
今、危うく折れた足の上に落としそうになりましたよね?
私が、受け止めなかったからどうなってたかわかります?

患者1:申し訳ありません、ダンベル見てついテンションが上がってしまって。

医者:あのね! あなた足折ってるから! 今、体全体のバランスも悪くなってるの! 
わかる? 今すぐベットに縛り付けて絶対安静にしてやりたいところなの!

患者1:えー……

医者:この期に及んで、よくそんな不満そうな顔ができますね?

患者2:じゃ、私は待合室に帰りますね、フッ! フッ!

医者:ダメー! あなたもダメー! 折れてる腕で筋トレしちゃダメなの!
どうしてこういう人に限って筋トレ好きなの? 健康に気を付ける方向が間違ってる!
体を確実に破壊してる! 安静に! 安静に! 待合室で待ってて! ダンベルは仕舞って!

患者2:えー……

医者:あんたも不満そうな顔するんかい……

患者2:あ、いい事思いつきました。
ここで出会ったのもなにかの縁。一緒に診察して貰いません?

患者1:あ、それ、いいですね! 人数は多い方が楽しいし!

医者:待て待て! タクシーの相乗りかっ! 飲み会とかカラオケ誘う感覚で決めないでください! 病院にそんなシステムないから!

患者2:申し遅れました、私こういう者です。

患者1:あーどうも、ご丁寧に。へー、いいお仕事ですね。
私もねーちょっと似たような業種なんですよ、これ私の名刺です。

患者2:あ、どうも、ありがとうございます。
あーなるほど! ときどきお世話になってます!

患者1:ですよねー? そっちの業界も興味がありましてー! 
今度よければ、詳しくお話聞かせてくれませんか?

患者2:いいですねー! お酒とか飲まれます?

患者1:いやーそれが、実は………………大好きなんです!

患者2:え、マジですか? 私もお酒には目がなくて。
日本酒のいいのを置いてる店があるんですけど、これ終った後、どうですか? 軽く。

患者1:いいですね日本酒! ぜひぜひ!

医者:ストーープ!

患者1:え?
患者2:え?

医者:あのね、無理だから、君たち骨折れてるの、わかる? お酒飲んじゃダメなの。

患者2:大丈夫です、昨日も飲みに行きましたから。

患者1:右に同じく

医者:だから、飲んじゃダメなんだって! え? その手と足でどうやって行ったの!?

患者1:なんか歩きにくいなとは思いました。

患者2:なんかビールがこぼれるなとは思いました。

医者:だろうね、骨折れてるからね! とりあえず、現実見てもらうしかないから、レントゲン撮るんで!
見たらさすがに分かると思うから!

患者1:レントゲンですかー。久しぶりでなんか緊張しちゃうな。
もうちょっとスキンケアちゃんとしてくればよかった。

患者2:そうですか? 肌、お綺麗ですけどね? なにかされてるんですか?

患者1:いえいえ、特別なことはしてないんですけど、風呂上がりの保湿だけは気を使ってて……

患者2:あーやっぱり、結局保湿が一番大事ですよね!

(患者二人スキンケアトークで盛り上がる)

医者:(独り言のように)スキンケア、しなくていいよ? まったく必要ない。
腕と足しか映らないし。 
顔映ったところで、骨しか映らないし……肌、関係ない……って聞いてないよね……そうだよね。

患者2:あ、そうだ! レントゲンも一緒にどうですか?

患者1:あ、いいですね! そしたら、一回で済むし!

医者:もしもし?

患者2:どんなポーズで写ります?

患者1:いやー私、あんまりそういうの詳しくなくて……最近どんなポーズが流行ってるんですかね。

患者2:いやー私もあんまり若者文化には詳しくなくて……好きなポーズでいいんじゃないんですかね?

医者:レントゲンは、プリクラじゃない……ああ、聞いてない……絶対聞いてない……

患者1:あ! 先生? 2人で撮ったらその分料金安くなります? 半額は無理でも、7割とか……

医者:なりません。

患者1:えー? そこをなんとか!

医者:なりませんてば。てか、あなたのその『魔法の言葉』、魔法でもなんでもないと気が付いてください。

患者2:まあまあ、いいじゃないですか! ここは私が持ちますんで!

患者1:いや、それは悪いですよー! 私の方が足だからきっと一杯写っちゃいますし。

患者2:いやいや、ここは私の顔を立ててくださいよ。

患者1:えーそんなー、じゃあ……次回は私の奢りでお願いしますよ?

患者2:しょうがないですね! じゃあ、そういうことで……

患者1:あ、先生、レントゲン、お願いします!
患者2:じゃ、先生、レントゲン、行きますか!

医者:やだ。

患者1:え?
患者2:え?

医者:もういや、どうしてこんな患者ばっかり来るんだろう……

患者1:先生?
患者2:先生?

医者:(ぶつぶつと)学生時代、部活も遊びも我慢して、ひたすら勉強して……ようやっと医学部入って……まだ奨学金も残ってて。
今は毎日仕事漬け……楽しみと言えば、バスケットボールの鑑賞だけ。
憧れのバスケ選手が、怪我であわや引退しかけたところを、優秀な主治医の助けで復帰できたのを見て感動して。
……私もそんなそんな風に、誰かの助けになりたいって思って、整形外科医になったのに。
……なんで、なんでこんな目に遭うんだろう……うう……

患者1:先生……
患者2:先生……

医者:……もう無理です、私には、あなたたち2人は手に負えません、他の病院に行ってください。……ううぅ……

患者1:先生、そんなこと言わないで、私を診察してください!

患者2:私も先生に診て欲しいです! お願いします、他の病院に行けなんて言わないでください!

医者:でも……

患者1:先生じゃないとダメなんです。

患者2:私も、先生がいいです。

医者:そ、そうですか? そこまで言うなら……診てあげなくも……ない、ですけど。

患者1:実は……足が動かなくなって。ここから移動できません。

患者2:私は意識がもうろうとしてきました……あ……ぱた……

医者:ほらーーーだから言ったのにーーー!

(間)

患者2:最後に、注意事項だよ! 
体のどこかを強く打って、腫れていたり痛みが続く場合は、必ず病院を受診しようね? 
無理に日常生活を送っちゃダメダメ! 約束だぞ(はーと)

【END】

骨折ラプソディ(不問3)

骨折ラプソディ(不問3)

  • 小説
  • 短編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-08-24

CC BY-NC-ND
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