クズに離婚は難しいという話(1:2:1)

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『クズに離婚は難しいという話』
 作:メイロラ

◆あらすじ
 舞台はとあるファミレス。集まったのは、妻とその弁護士、夫。
 離婚を申し出る妻に対し、離婚される理由がわからない夫。
 嚙み合わない話し合いの席に、夫の母が現れ……ますます話は混乱していく。


◆登場人物
ユカリ(女)  離婚したい普通の妻。
ケンジ(男)  いわゆるクズ男だが、頭が悪すぎて、自分がクズだと言うことを理解してない。
弁護士 永森(不問) 離婚専門弁護士、話の通じない旦那には慣れているので動じない
義母(女)   ケンジの母、それほど年寄りでもないのになにかと弱者ムーブしてくる。

※上演時間約25分


◆◆◆本文

(ファミレスにて、ケンジの向かい側に、弁護士とユカリが座っている)

ユカリ:(ため息)

ケンジ:久しぶりだなユカリ。元気だったか? 俺心配してたんだよ?

ユカリ:(ため息)

ケンジ:安心しろよ。俺怒ってないから。今回に限って許してやる、な?

ユカリ:(ため息)

弁護士:大丈夫ですか?

ユカリ:大丈夫です。

ケンジ:てかさ、この人誰?

ユカリ:私が雇った弁護士。

ケンジ:え、なんで知らない人連れてくるの? 久しぶりに会ったのに。夫婦で話そうよ。

ユカリ:……(ため息)

弁護士:大丈夫ですか?

ユカリ:すみません。大丈夫です。

弁護士:ケンジさん、私からお話しますね?
どうも、私は、ユカリさんの担当弁護士で永森(ナガモリ)と申します。これ、名刺です。

ケンジ:はぁ……?

弁護士:今後、ユカリさんへの連絡は私を通してください。

ケンジ:は、なんで?

弁護士:結論から申し上げますと、ユカリさんはケンジさん、あなたとの離婚を望んでおられます。

ケンジ:は?

ユカリ:なんで驚くかな、何度も何度も何度も言ったじゃん。離婚したいって。

ケンジ:は? ……なんで? なんで急に?

ユカリ:……だから急じゃないんだって。

弁護士:(小声で)鳩に豆鉄砲、寝耳に水、って顔してますね?

ユカリ:(小声で)すみません、こういう人なんです。

弁護士:(小声で)よくあることですから、気にしないでください。私も慣れてますから。
(ケンジへ)ケンジさん、ユカリさんがあなたとの離婚を望んでいらっしゃる理由に、心当たりはありますか?

ケンジ:ないですよ! 全然ないですよ! 俺たち今までうまくやってたし! なあ?

ユカリ:(深いため息)

弁護士:分かりました。では、離婚事由を述べますね。
ありすぎてどれから出すか迷うレベルではあるのですが……まず、ケンジさん、あなた、そもそも働いてないですよね?

ケンジ:……えと、まぁ……今は、働いてないです。

ユカリ:『今は』!?

弁護士:ユカリさん落ち着いてください。では、現在無職ということですね。前回の離職から何年になりますか?

ケンジ:え? ……一年とちょっとくらいだっけ?

ユカリ:さ ん ね ん !

ケンジ:あーそうだっけ? 仕事探しているところです。

ユカリ:は……?(殺意)

弁護士:ユカリさん落ち着いて。私が話します。
ケンジさん、近所のパチンコ屋であなたをよく見かけるとの証言があるのですが、かなりギャンブルがお好きなようですね?

ケンジ:いやいやいや、そんなにしてないです!
たまに? ストレスが溜まった時とか? それで落ち着くならちょっとくらいいいかなって。
ユカリがいつもガミガミうるさいから家に居場所がなくて……俺の逃げ場がそこしかなかったって言うか……
就職活動もなかなか上手くいかなくて……俺だって大変なんです! 仕方ないじゃないですか!

ユカリ:……私のせいですか、そうですか。

弁護士:就職活動……じゃその話をしましょうか。失礼ですが、興信所を使ってあなたの素行調査を行いました。

ケンジ:は? なんだよそれ、プライベート違反じゃないか! 訴えるぞ!?

ユカリ:それを言うならプライバシーの侵害……

弁護士:合理的理由があれば、プライバシーの侵害とはみなされません。
弁護士の私が保証いたします。訴えたければ、どうぞ。

ユカリ:……もういい加減観念して……全部調べついてるんだから。

ケンジ:は? 俺なんも悪い事してなくない?

ユカリ:(深いため息)

弁護士:ケンジさん、素行調査の結果、あなたには就職活動をしている痕跡が見当たりませんでした。

ケンジ:いやいや、やってるって! ……俺なりに

ユカリ:『俺なりに』!?

ケンジ:ハローワークだって行ったことあるし、スマホで求人情報見てるし。
パチンコ屋だって喫煙所とかで仲良くなって情報もらえるかもしれないし。

弁護士:それで、なにかしらの仕事を紹介して貰えたことは?

ケンジ:いや、まだ、ないけど……

ユカリ:……もう嫌

弁護士:なるほど。

ケンジ:とにかく! 自分だってずっと無職でいるつもりじゃないですよ?
どうせなら給料が高くて自分にあった仕事を見つけたいって思うからこそ時間かかってるんです! ユカリのためでもあるのに……
夫婦ってそういうときこそ支えるものじゃないんですか?
無職になったから、離婚とか……金目当てで俺と結婚したってこと?

ユカリ:金目当てなら誰がアンタと結婚するかい……私、もう十分、支えました!

弁護士:そうですね、3年養ったら十分だと思います。

ケンジ:養ってもらったって言うか……俺だってアルバイトしてるし。

ユカリ:……は? この3年で、ケンジがバイトしたの3日だけでしょ! 
引っ越しのバイトと、コンビニバイトと、ティッシュ配りのバイト……
全部きついとか合わないとか行って、一日でやめたじゃん! カウントしないで!
そのバイト代だって貰ってないし!

ケンジ:(舌打ち)また金……口を開けば金金金金……金の亡者じゃん。

ユカリ:ケンジが働かないからでしょうが……

ケンジ:夫婦なんだし、どっちが稼いでもいいじゃん。ユカリの給料で暮らせてるんだから、それでよくない?

ユカリ:いいわけあるか! なんで私がニート養わないといけないの! 家事だって私がやってるのに!

ケンジ:いや、家事は俺もやってるし!

ユカリ:は? どこが!?

ケンジ:ゴミ捨てとか風呂掃除とか……お皿片づけたり……

ユカリ:私がまとめたゴミを持って行くだけじゃん!?
いつも昼まで寝てるから滅多にやらないし!
一回だけ風呂掃除した事を、何回も持ち出して恩着せるのやめてって言ったよね!?
自分が食べたお皿を流しに持って行くのを家事にカウントして恥ずかしくない!?

ケンジ:いやいや! 俺だってもっと手伝おうって気はあるんだよ!? 
でも、ユカリが俺がやる前にガミガミ言うから、やる気をなくすんじゃん!?
もっと俺がやる気が出るように言うとか工夫してよ。
……俺だって、疲れてるのに。

ユカリ:『つ か れ て る』!!?

弁護士:ユカリさんその辺で代わりましょう。

ユカリ:お願いします。もう私無理です……疲れました。早く解放されたいんです。

(義母入ってくる)

義母:……ああーここかねぇ

ケンジ:あ、母さん、こっち、こっち!

義母:ああ、ケンジ……ここ駅からちょっと遠いねぇ……疲れたわぁ……どっこらせっと。あいたた……最近腰が痛くて……

ケンジ:あーごめんね、俺は家で話そうって言ったんだけど、ユカリがここがいいって言うからさ。

ユカリ:ちょっとなんでお義母さん呼んでるのよ!? 関係ないでしょ?

ケンジ:何言ってんだよ、母さんも家族なんだから関係あるじゃん。
弁護士とか赤の他人呼ぶユカリの方が常識ないだろ?

弁護士:マザコン……

ユカリ:そうなんです……

ケンジ:ちょっと! メニューと水! あ、セルフサービス? (舌打ち)ヒマそうにしてるくせに!(しぶしぶ取りに行く)
はい、母さん。

弁護士:店員への横柄な態度……

ユカリ:そうなんです……

弁護士:有責カウンター順調に回ってます。

義母:(メニューを開いて)あら~! たっかいのねぇ! 本当に、最近は、なにもかもが高いわねぇ。
私なんか年金暮らしで……こんなお店とても高くて来れないわぁ~!

ユカリ:だから、食事しに来たんじゃないんです! コーヒーでも飲んですぐ帰ってください!

義母:(聞き流して)えっと……これにしようかしら? ステーキ200グラムと~ライスと、スープ……

ケンジ:母さんそれだとセットの方が安いよ?

義母:うーんでも、セットのお肉なんか小さいから……あ、そうだ、サラダもお願い。
最近、健康のために野菜を取るようにしようと思いはじめて。
でも、野菜って高くて、なかなか買えないのよねぇ。
新田さんの奥さんはいいわよねぇ、旦那様が公務員だから、いろいろお手当があるんですって、福利厚生で旅館にも安く泊まれるんですって、いいわよねぇ……

ユカリ:激しく、どうでも、いい……!

ケンジ:(店員に)あ、すみませんーこれとこれと……(注文する)

弁護士:話を続けていいですか?

義母:(流れをぶった切って)あら、ユカリさんお久しぶりねぇ!
相変わらず肌艶がよくていいわねぇ~!
私なんかもうすっかり老けこんじゃって、しわしわのおばさんよぉ。いや、おばあさんかしら?
身体はあちこち痛いし……本当に年は取りたくないわ。
ユカリさんは若くていいわねぇ……今時の若い人は女でも、旦那様を置いて、遊びに行くのが普通なんですって?
でも、そういう時代なのよねぇ。
私なんて、女は旦那様に尽くすものだって、子供頃から厳しく教えられたから。
お父さんと結婚してからは、お父さんの事ばかりしてたわ。
だから、お父さんが死んでからは、本当に毎日が心細くて心細くて……
……あの時アキコさんの言うことを聞いて(病院を替えたりしなければ)

ユカリ:(前の台詞の途中で)母さん! その話、何度も! 何度も! 何度も! 聞きました! 長くなるし、関係ないので、やめてください!

義母:……え? あら……私、そういうつもりじゃ……(泣き真似)

ケンジ:母さん! おいユカリ! 何てこと言うんだ! 母さんに謝れ!

ユカリ:嫌です。

義母:……ケンジ……ユカリさんどうしたの? 私、ユカリさんのこと本当の娘だと思って可愛がって来たつもりだったのに、どうして? どうしてこんな目に遭うの?
ユカリさんが挨拶に来てくれた日は嬉しくて嬉しくて、私、泣いちゃったのよね、よく覚えてる(そう、あの日、ユカリさんは青いワンピースで………)

ユカリ:(前の台詞の途中で)……その話も聞き飽きたなぁ……。

ケンジ:大丈夫大丈夫! 今ちょっと喧嘩してるけど、復縁に向けて話し合ってたところだから! ユカリってほら、ときどき急にヒスるところあるじゃん? いつものアレだって。

ユカリ:は? 今までの話のどこをどう聞いたら『復縁に向けて話し合ってる』になるの!?
私は、離婚に向けての話し合いしかしてません!

義母:ええ、離婚!? ケンジ、離婚するの?

ケンジ:まあまあ、大丈夫だって母さん

義母:ユカリさん、ちゃんと話し合ったの? ケンジは、口の悪いところもあるけど、根はいい子だし、悪気はないのよ? ケンジに至らないところがあったなら、私が代わりに謝るから、私の顔に免じて、ここは穏便に……

ユカリ:そうですか、じゃあそのイイ子を謹んでお返しいたします。だから、お義母さんは黙っててください?

ケンジ:まあまあユカリ、母さんもこう言ってるし。もう一回よく話し合おう? な?

ユカリ:ええ『離婚』についてなら話し合います。

ケンジ:いや、今まで通り仲良くやっていくために……な?

ユカリ:お断りします!

義母:(流れをぶった切って泣きながら)どうしてこんなことになったの?
……私、一人息子のケンジを大事に大事に育ててきたのに。
子育ては辛い事も多かったけど……お父さんはお仕事だし、私が頑張らなきゃって。
でもでも、ケンジがいつか親孝行するからねって言ってくれたから。
結婚したら一緒に暮らして、お嫁さんに家事をバトンタッチして、お母さんには楽をさせてあげるからねって……。
それだけを支えに生きてきたのに……。
私やっとやっとゆっくりできる、って、思ってたのに……(泣き真似)

ケンジ:や、母さん、その話は、また後で……

ユカリ:こいつ、勝手に同居の話まで進めてやがった……もはや驚く気力もない。

弁護士:あのですね、配偶者の同意なく、ご両親と同居させることはできませんからね? それも十分に離婚事由になります。

ケンジ:え? なんで? 俺の周りみんな、同居してるけど?

ユカリ:知らんがな!

弁護士:では、ここまでをまとめますね。まず、ユカリさんの離婚意思は堅いです。
理由はケンジさんが、働かない、お金を入れない、さらに生活費を使い込んでのギャンブルと借金、これは経済DVに相当します。
これだけでも、十分に離婚事由に値しますが、その他にも、一方的に自分の意見を押し付ける、話し合いに応じないなど、婚姻を継続するのは難しいと思われます。
ここで、同意していただかないと離婚調停、それも決裂すれば裁判、ということになりますが、まず、ケンジさんに勝ち目はないと思います。

ケンジ:いやいや、そんなに色々言われても、意味わかんないし!
もういいよ! 分かった! 急いで仕事見つけるから! パチンコだって減らすし! 家事もなるべくやるようにするから!
母さんのことは……これから子供でもできたらユカリが大変になるだろ?
で、母さんがいてくれた方がなにかといいと思ってのことで……。

ユカリ:んーーー! つっこむところ満載だけど、これだけは言わせて、アンタと子作りなんて死んでもイヤ!

義母:(食べながら)あら~このお肉、変な味ねぇ~。整形肉かしら~?

ユカリ:この人が家事するように見えるなら眼科行って? むしろ頭の検査してもらって? さっきしれっと私に家事全部押し付けて楽したい的なこと言ってたよね?

ケンジ:そこはほら、男の俺にはわからないから、女同士しっかり話し合ってよ。嫁の腕の見せ所っていうか。ユカリならしっかりしてるし、大丈夫だって!

ユカリ:ふ ざ け ん な !

弁護士:平行線ですね。まあ、こうなることは想定内です。離婚調停にしますか?

ユカリ:ケンジ、ここで離婚届にサインしてくれたら、慰謝料は免除してあげるけどどう?
私も早く解放されたいから、これが最大限の譲歩なんですけど。

ケンジ:は? 慰謝料? いや、貰えるなら貰うけど。離婚しないよ?

ユカリ:誰がやるって言ったよ……払うのはケンジの方!

ケンジ:はぁ? なんで? 勝手に家を出て行ったのユカリだろ! なんで俺が払うの?

弁護士:根本的にご理解いただけてないですね。

ユカリ:(ため息)

義母:あら~? これってなんの野菜かしら? どこ産? 農薬かかってない?

ケンジ:あー母さんはちょっと黙ってて?
……あのさユカリ、冷静に考えてみろ? 俺と別れて、どうなるっていうんだ?
そんな簡単に再婚なんてできないぞ?
世の中にはもっと酷い旦那、いっぱいいるし。
俺は、浮気もしない、暴力もしない、酒だってあんまり飲まない。
俺の父さんなんて全然家事なんてしてなかったぞ?

ユカリ:(ため息)浮気したじゃん。お金無くなって捨てられたけど。本当に都合の悪い記憶は都合よく消すよね。

ケンジ:いやいや、何年前の話だよ! 今はしてないし! もう時効じゃん? ちゃんと謝ったし! まだ嫉妬してんの?

ユカリ:浮気した事実に時効とかないから……

弁護士:ちなみに、浮気の慰謝料請求の時効は、浮気の事実を知ってから3年です。まだ請求は可能です。

ユカリ:あと、モノに当たるのも暴力だって知ってました?
ゴミ箱とか何回蹴り飛ばした?
モノ投げるのも……当ててないからセーフとかないからね?
酒は単に下戸なだけだし。
そしてあんたのお父さんはこの話に、なんも関係ない!

義母:あー、お父さんと言えばね? 私が隣町にかぼちゃの収穫を手伝いに行ったときに、お父さんが私を見初めてね……私はお断りしたんだけど、(隣町の会長さんからぜひにと言われて)

(前の会話をさえぎって)
ケンジ:やかましい!
ユカリ:やかましい!

ケンジ:はぁ……

ユカリ:はぁ……

ケンジ:……なあ、ユカリ、ちょっとだけ俺の話聞いてくれよ。

ユカリ:……

ケンジ:俺は、確かに、だらしないところもあるし、ユカリにとって理想の夫とは言えないかもしれない。
けど、これだけは、誰にも負けないって自信がある。
俺はユカリを愛してる。
出会った時からずっと。俺にとって一番大事な、運命の女だと思ってる。
だから離れるとか考えられない。
ユカリだって、本当はそうだろ?

ユカリ:……

ケンジ:だからさ、もう意地はるのやめようよ、お互い。
お互いごめんなさい、って謝って終わり! な?

ユカリ:……

ケンジ:……さ、帰ろ、俺たちの家へ。もう一回、一からやり直そうぜ?

ユカリ:……(息を深く吸う)

弁護士:……(息を深く吸う)

ユカリ:やっぱり、調停にします。ナガモリさん、すみませんけど、もうしばらくよろしくお願いします。

弁護士:ですね。大丈夫です、今回の会話はしっかり録音しましたし、証拠としては十分です。なるべく早く終わるように手を尽くしますので、お任せください。

ユカリ:ありがとうございます! じゃ、そういうことだから。(席を立つ)
 伝票分けてあるから、弁護士さんと私のコーヒー代だけ払っていくね。じゃ。

ケンジ:え、なんで、ちょっとまてよ! 待てって! 分かった! もう一回! もう一回だけチャンスくれ、今度はこんな場所じゃなくて、家で2人だけで話そう!
そしたらわかるから! ねぇ、ユカリ! てか、俺金持ってないんだけど!?
(姿が見えなくなり)え? え? ……うそだろ? 

義母:ねぇケンジ~こないだね、田中さんちの奥様に、どうしても一緒に有馬温泉に行きたいって言われたんだけど~私年金暮らしだから無理だってお断りしたんだけど~でも、どうしても私と一緒がいいって言われてて~でもぉ……

ケンジ:うるさーい! なんで、なんでよぉ!
俺、なんもしてないのに! 俺、なんも悪くないのに!
なんでだよ! まったく意味がわかんないねーわ!


(場面転換 弁護士事務所)

弁護士:(ナレーション)後日談!

ユカリ:(電話)あ、もしもし、永森さん? すみません、実は夫からメールが来まして。

弁護士:そうですか。連絡は私を通すように言ったんですが、やはり直接接触してきましたか。

ユカリ:連絡先はブロックしたんですが、昔のメールアドレスに送ってきました。

弁護士:了解しました、そのメールそのまま転送してもらっていいですか?

ユカリ:はい、すぐ送ります……(送信)

ケンジ:(メールの内容)
ユカリへ、元気か?
そろそろ頭は冷えた?
喧嘩別れみたいになったので、心配です。
俺は、あれからよく考えてみました。でも、何度考えても答えは一つです。
俺にとって一番大事なのはユカリだってことです。
俺たちは確かに愛し合っていたのに、どうして、心が離れてしまったのでしょうか?
すれちがってしまったのでしょうか?
きっとこれは、神さまが俺たちに与えた試練。
俺たちが本当に結ばれるべき運命の相手だって証拠だと思う。
でも、大丈夫、2人ならきっと乗り越えられる。
そうだ、母さんも、怒ってないから安心して。
今でも、ユカリのことを本当の娘のように思ってくれてるよ。
一回、謝ってくれれば大丈夫、俺もついて行くし。一緒に親孝行していこうな?
早く、3人で仲良く笑い合って暮らしたいです。
でも、ユカリが望むなら、もうしばらく2人で暮らしてもいいよ?
母さんのところは、ときどき通って、軽く掃除とかしてくれればいいし。
だから、意地を張らずに帰ってきなさい。命令です。
分かっているはず、君の帰る場所は、俺の腕の中しかないって。
僕が君にプロポーズしたあの公園で、今度の日曜18時に待ってる。
何があるのかって? それはね、ひ・み・つ。来てのお楽しみ。
じゃあ待ってる。
意地悪ジュリエットへ、君だけのロミオより。

弁護士:(深いため息)
ユカリ:(深いため息)

弁護士:接近禁止をもう一度強く警告しておきます……。

ユカリ:お願いします。私は気持ち悪くなったので、寝ます。うぷ……。

弁護士:お疲れ様です。

(公園)

ケンジ:うーん、ユカリ遅いなー? 

義母:ねぇケンジーまだなの? お母さんお腹空いたわ。

ケンジ:もう、母さん、付いてこなくていいって言ったのに。

義母:だって、心配でー。

ケンジ:大丈夫だって、ユカリが来たらこの花束を渡して、指輪をパカンして、もう一回プロボーズするから。
で、ユカリが感動して泣いたら俺がヨシヨシするから、それまで母さんはどっか隠れててね?
その後、3人でなんか食べに行こう?

義母:わかったわ。そう言えば、鈴木さんの奥様、誕生日に、息子さん夫婦にお寿司食べに連れていってもらったんですって。
いつもお世話になってるから、これくらい当然、って。

ケンジ:大丈夫、大丈夫! ユカリけっこう稼いでるからお寿司くらいいけるって。
あいつも遅れたお詫びしたいだろうし。

義母:あら~なんだか申し訳ないわぁ。……それにしても遅いわね。

ケンジ:もうすぐ来るよ、きっと。

【完】

クズに離婚は難しいという話(1:2:1)

クズに離婚は難しいという話(1:2:1)

2024年9月24日 加筆修正

  • 小説
  • 短編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-08-24

CC BY-NC-ND
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