zokuダチ。セッション24
エピ 91・92・93・94
真夏の体験学習編 2
騒々寺
寺内には、ジャミル達の他に誰も修行に来ている者など
見当たらなかった。可愛い女の子の訪れを期待していた
ジタンは肩を落としがっくりする。
「いいや、諦めねえぞ、もしかしたら途中参加で……、ぶつぶつ……」
「……相変わらず欲望に取りつかれたバカな尻尾だなあ、たく……」
「うるせージャミ公っ!」
「ようこそ、我が寺においで下さった、私が住職の、禿・光、と申す、
当、寺院では、皆さまに修行の喜びと達成感を味わっていただきたく、
様々な催しをご用意致した、辛い修行を乗り越え、そして、修行を
達成する喜びを是非皆で味わってほしい、では、頑張れよ……」
(禿・光……、で、ハゲ・ピカリ……、って言うんかいな……)
「そなた、此処は神聖なる寺の本堂ですぞ、被っている野球帽子を
外されよ……、そわそわと落ち着きのない突貫ボウヤ殿……」
「あ、あああ、……ちぇっ……、仕方ねえ……」
「……なあ、ジャミル、修行って座禅だけじゃないのかよ……」
ユリアンがこそっと、ジャミルに話し掛けて来た。
「俺が知るか、この話は唯でさえいい加減なんだから、話が
甘く済むとかよ、あまり期待しねえ方がいいぞ……」
「そんなあ……」
「腹減ったあーっ!つまんねーっ!帰りてえーーっ!!」
最初から、何をしに行くのかを良く理解出来ていなかったシグが
さっそく暴れ出した。……どうにもしてやれないので、ジャミル達は
無視してほおっておくしかなかった。
「ワイももう嫌や、帰りたいわ、……ママ~!」
「……マ、ママ……、プ、ククククク……」
近藤も便乗してベソをかき始めたが、急に顔に似合わない
一言を口走った為、ジャミルは困って吹きだしそうになる……。
「コラ、笑うんじゃないっ、……俺までつられるっ……!!」
「いてっ!」
ユリアンがジャミルの足を抓った……。
「うるっせえええ!黙りやがれっ!……近藤おおおおっ!」
「こらっ!暴れんなよっ……!?」
「……喝ーーー!!」
「イテッ!!」
「いたああっ!!」
「いでええっ!!」
「お……」
暴れ出した、シグ、近藤、丸井、の、3人……、早速、
精神棒で叩かれる……。
「精進されたし……」
「……」
ちょっとびびったのか、3人はすぐに大人しくなったが観念は
していない様子で、近藤に至っては、少し洩らした様であった。
(はあ、嫌だなあ、もう……)
ジャミルがアルベルトの方を見ると、やはり平然として
落ち着いてはいるが。そして、ジタンはと言うと……。
「zzzzz……ぷう!」
(静かだと思ったけど、やっぱり……、今日はこっちが寝てんのか、
女がいなくて張り合いがねえもんだから……)
「して、修行の前に……、費用を渡されよ……」
「費用?」
「修行の参加費用である、渡されよ……」
「分ったよ、ちゃんと皆から預かってるよ、一人1000円だから、
合計7000円だろ、ん……」
ジャミルが代表で費用を住職に渡した。
「む、確かに……、……ぬふ……、ちゅうちゅうたこかいな……」
「……?」
「な、何を見ておるのだ……」
「別に、でも、アンタ今、笑わなかった……?」
「あんたとは何事であるか!儂はこれからそなたらに有難い修行の
教えを施す、有難い仏であるぞ!口を慎めよ!」
「いてっ!」
ジャミルも住職に精神棒でぴしゃりと叩かれた。
「ははは!修行開始前にジャミルも叩かれたなっ!」
「うるせーよ緑バカめ!!ちくしょ~……」
(な~んか、変だなあ~……)
そして、全員座布団の上で足を組まされるスタイルの座禅が
始まる訳であった、が……。
「全員、正座されよ……、時間は今から正午の休憩まで、約2時間……」
「は?ちょっと待って、正座!?幾ら何でも長時間、正座は無理だよ、
罰ゲームでもあるまいし、きつすぎるよ……」
「……我が寺は我が寺での修行のやり方がある、口を挟むのは
止めて頂こう……」
住職はジャミルの頭部にこつんと精神棒を押し付けた。
「……分ったよ……、くしょ~……」
座布団の上とはいえ、長時間の正座はやはり相当くるモノが
ある様であった。
(……辛い、はっきりいってモンのスゲエ苦痛……、少しでも動いちゃ
いけねえなんて、これ程の苦痛があるかよ、冗談じゃねえよ……、
……あ、あ、あ、お約束っ……!へ、屁が出る屁が!!)
「……喝ーーー!!」
バシッ!!
「……余計な事を考えると、……その通りになりますぞ……」
「……ムス~……」
ジャミル、座禅が始まって叩かれたカウント、1回目。
「あ、……蚊!ちょ、やだなあ、蚊取り線香ぐらい焚けよ……、
お、俺んとこキタっ!!」
「喝っ!!」
ユリアン、1回目、しかも蚊刺されのおまけつき。
「zzz……レディ~、駄目だぜ、……其処は掴んじゃ駄目だぜ……、
尻尾じゃないからな、う、へ、へへへ……」
「……喝うううーーっ!!」
ジタン、1回目……。
「……あーーっ!足いてえよーーっ!!」
「喝あーーつうっ!!」
シグ、1回目……。
「はあ、何でワイがこんな事せにゃあかんねん、しかも丸井はんと
一緒にやで、冗談じゃないで、これほどの地獄はあらへんで……」
「さっきからうるせーんだよっ!おめーはよおっ!!……ええいっ、
もう勘弁ならねえっ!俺の方こそテメエの隣にいるだけで
苛々してんだからよ、……一発殴ってくれる……!」
「……かーつ!かああーつううう!!」
……丸井、近藤……、仲良く1回目……。
(……ちっくしょ~……、……ア、アルはよく平気でいられるよ、
な……、う~……)
ジャミル、足の痺れと痛みに苦痛を歪めながらもアルベルトの方を
確認してみると……。
「……だ、駄目……、も、もう……」
アルベルト、正座体制のまま、そのまま横に倒れ崩れ落ちた。
どうやら足の痺れを相当我慢していたらしい……。
「喝ーーっ!!」
7人全員容赦せず、バシバシ叩かれながらもどうにか午前中の
終わりを迎えた。
「皆さま、よくぞ頑張られた、これにて午前中の修行を終わりと致す、
暫し休憩を為されよ……」
「や、やっとかよ……」
「終わったなあ、午前中が……、いたた……」
「午前中がこんなに長いとか、オレ、初めてだよ……」
ジャミル、ユリアン、ジタンの3人は顔を見合わせてどうにか口を開く。
残りの4人はもう疲れて動けない様子であり、その場に倒れていた。
「皆さま、お昼ですぞ、精進料理ですが、召し上がるが良い……」
住職自らがお昼を運んで来てくれた様であった。
「めしっ!?」
料理……、の声に反応し、シグと近藤が起き上がった。
「では……」
住職は引っ込んで行ったが、出された精進料理を見て、
全員絶句する……。
「マジで……?タクアン2切れだけとか……、ふざけんなよ…」
「……せめてお粥みたいな物も付けてくれないのかあ……」
普段、結構のんびり屋のユリアンもこれには相当まいっている
様であった。
「も、もう……、オレ、横になって寝てるよ、……せめてレディ達と……、
戯れてる幸せな夢を見るんだ……、は、ははは……」
諦めきっているジタン……、涙目になり、尻尾にも勢いがなくなっている。
「ぎゃあーーっ!やだやだやだーーっ!!肉食べてえよーっ!!」
「ワイもいややーーっ!!ママの作ったハンバーグ食べたいねん!!」
起き上がったシグと近藤、再びひっくり返って大暴れする……。
「……うるっせーな、おめーらはっ!苛々してんのは皆同じなんだよ!
おい、犬っころ!こいつ何とかしろよっ!!……犬っころ……?」
「もう、いい……、何もする気になんねー、おれっちはもう、疲れた……」
ジャミルが丸井の顔を覗き込むと、すでに意気消沈しており、気力も何も
無くなっている様子であった……。
(やばいな、こりゃ、犬ころでさえ気力がなくなり掛けてる……)
「……みんな、頑張ろうよ、あと半日我慢すればマンションに
帰れるんだから……、半日だよ……」
「そうは言うけどよ、その半日がどれだけ長いか……、それに午後、
又何か違う無茶な押し付け修行出してくるか分かんねんだぞ、アル……」
「それはそうだけど……」
……きゅぴーーっ!ごめんくださあーーい!!
「……この声、チビだっ!」
チビの声に反応し、ジャミルが本堂の外へと飛び出して行った。
「チビっ!配達か?」
「ぴいー?あ、ジャミルっ!どうして此処にいるの?
会えたのは嬉しいけど、チビ、とっても不思議だよおー!」
チビは本当に不思議そうな顔をして尻尾を振ってきょとんと
首を傾げた。
「話すと長くなるんだけどさ、色々とな……」
「そうなの、お中元シーズンだからチビも色々お届けしてるんだよ、
ハンコ下さい!」
「ハンコか、ちょっと待ってろ、住職に聞いてくら……」
ジャミルはハンコを借りに、本堂から廊下を経て、住職の部屋を
探し回る。
「……?こんな寺の中から……、微かにステーキの匂いがする、
……おかしい、俺の勘違いか……?腹減ってるからな……、い、
いいや!俺に限って間違いはねえ筈だっ!!」
……匂いのする方向を頼りにし、ジャミルは寺内の廊下を
歩き回るのであった……。
真夏の体験学習編 3
「此処だ、この先の2階から微かにステーキの匂いがする……」
ジャミルは怯む事なく、階段を上がって行き、そして誰かいるらしき
部屋を見つける。
「住職さんかい、いるんだろ?」
「……ひ、ひっ!こ、こんな処に何の様ですかな?儂も休憩中なのです、
邪魔せんで貰いたい物です、下に降りなされ、早くっ!!」
何となく、住職は慌てている様な……、そんな喋り方であった。
「俺だってどうでもいいんだけどさ、郵便の宅配ブツが来てんだよ、
ハンコくれよ……」
「……そんな物サインで済ませ!さあ、早く下に降りよ!」
「ちっ、分ったよ……、仕方ねえな……」
ジャミルはしぶしぶ階段を再び降りるが、やはり住職の様子が
おかしいのにうすうす感づき始めていた……。
(絶対にあの爺……、ステーキ食ってる……)
下に戻ると、チビも本堂に来て、皆と遊んでいた。チビは丸井の
黒い鼻の穴が気になる様で必死に探している様子であった。
「……チビ、爺がハンコ貸してくれないんだよ、ボールペンの
サインでいいか?」
「ぴ?ジャミル、爺なんて言っちゃ駄目だよ!此処のおしょーさんはね、
凄く優しいんだよ、チビ、いつもお寺にお手紙とかお届けに来るけど
配達ご苦労様って、いつもあんこのお餅くれるんだよ!」
チビは丸井の鼻の穴観察から離れると、ジャミルの処に飛んでくる。
「助かった……」
チビから解放された丸井はほっとするのであった。
「ぷっ……」
「笑うんじゃねえええーーっ!……近藤ーーっ!!」
「……あいたーーっ!!」
「ははは、何か元気が戻ったみたいだな、ははは!」
ユリアンがアホ笑いをする……。
「……オレは無理だ、可愛いレディがいなきゃ、元気が出ない……」
「オレもっ!!焼肉食べたいっ!!」
シグも不貞腐れる。煩悩制御修行は全く効果が出ていない……。
「優しいとか嘘言うなよ、……みんな午前中、爺に棒でばしばし
頭とケツ……叩かれたんだぜ……?」
伝票にボールペンでサインをしながら虚ろな目でジャミルが
チビの方を見る。
「うそっ!うそうそうそうそっ!おしょーさんそんな事しないよお!
……ジャミルのバカっ!!……びいいい~っ!!」
チビは怒って泣きながら、今度はアルベルトの処へ……。
「チビ、……よしよし、何かの間違いなんだね、チビはそう
言いたんだろう?」
アルベルトが優しくチビを撫で、宥めた。
「びい……」
「……だってさあ、なあ……」
「……」
ジャミルは困って他の被害者の皆さんに同意を求めると、
皆揃って頷き、……複雑そうな顔をする……。
「チビが今日の前にお寺に来たのは何時なんだい?」
「……一週間前きゅぴ、その時は冷たい水ようかん食べさせて
くれたの……」
「一週間前か、成程……」
「ぴ?待って、……くんくん、くんくん……」
「チ、チビ、……一体どうし……」
「しっ、アル……」
チビは急にアルベルトの手から離れると本堂を飛んで回り、彼方此方
くんくん、ニオイを嗅ぎ始めた……。
「……このにおい、おしよーさんのにおいじゃないよお、くさいよ……、
腐ったたくあんの臭いがする……」
「何ーーーっ!?」
「ま、待って、待って、……つまり、……あの爺さんは、偽物……、
って事か……?」
ユリアンが頭を抱え混乱しはじめる……。
「チビ、……もう少し頑張ってみる、……おしょーさん、何処……?
何処にいるの……?」
チビは全神経を集中させ、本物の住職の気を探している様であった。
「ぴ……」
「な、何か分ったのか……?」
「かすかにだけど……、地面の下から……」
「じ、地面……!?だと……」
「そ、それはつまり……、あれでっせ、……本物はんは……、
もしかして、もう土の下に埋められ……ひいいー!!」
丸っこい近藤の顔が急に細くなり、ムンクの叫び状態になった……。
「いや、それはねえ、チビは爺さんが生きてるのが分るから……、
気を感じる事ができんだよ、どっかにいる筈なんだ……」
「……あっ、やばいぜ、もう時間が……!休憩時間終わっちまうぞ!!」
時計を見たジタンが慌て始めた。時刻はもう12時40分を回っている……。
「……チビ、何とかして本物のおしょーさん探すよお、だから皆、
それまで頑張って修行してて……」
「おいおい、けど、チビ……、お前仕事の方大丈夫なんか……?」
「今日の分の荷物のお届はみんな済んだから平気だよお」
「そうか、なら……、丸井、近藤、お前らもチビと一緒に本物の
住職を一緒に探してやってくれ、頼む!……爺さんの無事が
確認取れるまで俺らは何も知らないフリしてた方が無難だ……」
「よし、おれっちに任せな!」
「お供しまっせー!」
「きゅぴっ、2人とも行くよお、チビに付いて来てね!」
チビと2人は本堂の外に出て行き、こうして、本物の住職探しの
捜索隊が出動した……。
「頼むぞ、チビ……、なんとかして爺さん探して来てくれよ……」
ミシッ、ミシッ……
廊下をゆっくりと……、静かに歩いてくる音がする……。
「ジャミルっ、来たぞっ!ニセモン爺だあっ!」
「シグ、慌てんなよ、……チビ達が本物を連れて来るまで、
何とかして我慢して修行でも何でも付き合ってやるのさ、
腹立つけどな……!!」
ユリアン達も頷いて身構える……、そして、偽住職が再び本堂に
姿を現すのであった。
「……皆さま、ご機嫌うるわしゅう、……たっぷり休憩は
とられましたか……?実は、御提案が有り、ずっと考えて
おりました、本日の修行コースを変更致す……」
「!?」
「本日は、一日でご帰還して頂くご予定でしたが……、皆さまは
余りにも出来が悪い、お粗末である、こんななっとらん状態のまま、
帰す訳にはいかぬと思いましてな、其処で、コースの変更です、
更なる修行時間を費やす事により、あなた達の様な出来の悪い
糞共でも、仏に近づく事が出来るのですよ、……無論、修行の
参加費用も倍頂きましてね……、ぬふふふふ……」
「な、何ですと……?」
午前中とは又180度打って変わった態度……。不気味な笑みを……、
遂に偽住職が見せ始めた……。
「うわあ、遂に狂い出したぜ!こいつ、もう皆でブン殴ろう!」
「待てっ、シグ、どうしてお前はそんなに気が早いんだよっ、
……チビ達が本物の住職さんを見つけてくるまで、それまで
辛抱しなきゃ…」
「そ、そうか、そうだよな……、ちくしょう……」
ユリアンに制され、憎々しげに偽住職をシグが睨んだ……。
「で、午後の修行は何すんだい?」
「其処の、御本尊様の横に鉄アレイが入った箱があるじゃろう、
……それを膝の上に乗せ、座禅せよ……、無論、正座でな……」
「おーいっ、滅茶苦茶過ぎんなっ、アンタっ!何考えてやがるっ!!」
「ジタンっ!駄目だったらっ!!君も落ち着いてっ!!」
遂にジタンまで切れだすが……、此方は何とかアルベルトが宥める。
「分ったよ、……鉄アレイでも何でも乗っけてやるよ、このサド爺に
俺らの根性見せつけてやろうぜ、皆……」
ジャミルがそう言うと、皆一斉に頷き、偽住職の方を睨むのであった。
そして、本物の住職の行方は……?
真夏の体験学習編 4
本物の住職を探すチビ達……、丸井と近藤はチビの後を追うが
チビはどんどん森の奥へと入って行ってしまう。
「……あ、アカン、もう~、堪忍して~な……、チビはんは
空が飛べるからええねんけどな、ワイらはあかんのやで……」
「じゃあ、おめえも空飛べる様に訓練すれば?体重も減って
一石二鳥だぞ……」
丸井も時々、真顔でさらりと恐ろしい事を言ってのける。
「ぴ!」
先頭を飛んでいたチビが急に立ち止まる。
「どうしたんだよ……」
「あそこ、……大きなお穴が有る……」
いかにもな、ホラー番組で使われそうな大きな鍾乳洞らしき空洞が
目の前に、それはあった。
「……くんくん、くんくん……、此処のお穴の奥の方から、
おしょーさんの感じが微かにするよお……」
「ま、まだ……、死んだわけじゃねえんだよな?」
「うん、でも早くしないと……」
「じゃあ、急いだ方がいいな……」
「きゅっぴ!」
「よし、行く……、って、何してんだ近藤おおーーっ!
おめーはよおーーっ!」
「……あいたあーーっ!!」
丸まって、小さくなって怯えていたつもりの近藤、……丸井に尻を
蹴飛ばされる……。
「チビ、もう行くよお!」
「あ、待てっ!先に行くなっ!」
「……ひいい~、ワイを一人にせんといてええ~……」
一方のジャミル達、待機組は、相変わらず偽住職にびしびし、
頭、ケツを叩かれ捲っていた。
「精進せよ、精進せよ!……貴様らの様などうしようもない屑、雑草を
骨の髄まで鍛え上げる事がアーーっ!」
「……いってぇ!」
「儂の喜びでもあり、快感なのだアーーっ!!貴様らの様なふざけた
若いモンがこの国を孰れ滅亡へと導く!駄目にするのであーーる!」
「……ジャミル、大丈夫かい……?」
「ああ、アル、平気だよ、こんなモン屁でもねえさ、見てろ糞爺、
後で倍返しにしてやっかんな……」
ジャミルは歯を食いしばり、目の前のサドンデス爺を睨んだ。
「……こ、このマゾ爺め、もう勘弁なんねえ、……こいつをとっとと
シメて、オレも住職さんを探しに行く……」
「駄目だっ!ジタンっ、此処は耐えろって言ったろう、下手に動いて
感づかれちゃ、返って危険な場合だってあるんだよっ!!」
「ええーいっ!ユリアン放せーっ!!こんなのシメるのワケねえ
だろーがっ!!」
「何のお話をされておられるので?もしかして……、此処の本物の
住職さんの件……、ですかな?」
「!!」
「こ、この爺……、分かってやがったのか……」
偽住職、ユリアンとジタンを見、ニヤリと微笑む。
「ならもういいじゃん、どうせバレてんならさ、こいつ、
やっちまおうぜ!!」
シグはもうさっきから、偽住職に喧嘩を売りたくて売りたくて
我慢が限界の様であった。
「……そうだな、ならもういいか、おい……、性悪爺、オメーの
この寺を乗っ取った目的なんか聞きたくもねえ、どうせ金かなんか
目当てなんだろ、早く本物の住職さんの居場所を教えな……、でねえと……、
マジでアンタ後悔する事になるぜ……?舐めんなよ?俺らをよ……」
「貴様らがか?この儂にか?勝てると申すか……、それは面白い、
がーっはっはっは!」
偽住職は、汚い黄色い歯をむき出しにしてジャミル達を見、
馬鹿にした様にゲラゲラ笑った。
「この爺、何処まで……っ!」
「本当に馬鹿にしてんじゃねーぞ、おい爺っ!!……やってみなくちゃ
分かんねえだろうがよっ!!」
……ニューフェイス突貫小僧、シグも等々完全にキレ、
自身の名台詞を遂にこの場で初披露した……。
「ふぬ、確かに若いもんには勝てませんなあ、儂には無理です、
じゃが、それは力の場合じゃろう……、……種明かしじゃが、
実はのう、本物の住職を閉じ込めておる場所にはある仕掛けが
施してありましての……」
「……な、なんだと……?」
「これはなーんじゃっ!?」
偽住職は、自分のズボンのポケットをゴソゴソ探り、ある物を
取り出しジャミル達に見せつけた……。
「リ、リモコン……?……ま、まさか……」
「そうじゃ、この寺のモノホンの爺を閉じ込めてある場所にはの、
時限爆弾を仕掛けてある、分るかの?つまり、このリモコン一つで
遠隔操作出来るっつちゅーわけじゃ、ほほほ!」
「この爺……、マジで悪知恵だけは働くみてえだな……」
「ほーお?儂に向かって♪そんな口のきき方していいのかなあ~?
すぐにでもスイッチ押したらあ、爆破出来るんだ~よ~お~……」
「く、このまんまじゃ、住職さんを助けに行ってくれたチビ達も
危ねえのかよ……っ!」
「そう言う事じゃ、糞ガキ共、一部始終をお前ら知ったからには
お前らももう完全に此処から出られると思うな、全員纏めて同じ爺の
いる場所に仕送りにしてやる、覚悟せい……」
「畜生っ……」
チビ達の身にも危険が及んでしまっていると分った以上、
どうする事も出来ずにジャミル達は唯黙って目の前の偽住職を
睨むしかないのだった……。
「さあ、……坊主達、覚悟はおありかの……?」
偽住職が、ゆっくりと……、こちらに近づいてくる……、と、
その瞬間……。
「ほほ、儂がどうかしましたかのう……?」
本堂の入り口が突然がらりと開き、小柄な爺さんが顔を出した。
「な、何とっ!そちは住職っ!?何故にっ!?」
「もうチビ達が……?それにしても、やけに早いなあ……、ま、
良かったけど……」
最初は首を傾げたアルベルトも、安堵の溜息をつく。
「まさか、アンタ本物の住職さんかっ!?」
ジャミルが聞くと、小柄な爺さんは人懐こい笑みを浮かべる。
「いかにも、一週間程……、森の奥に昔からある洞窟の地下に、
閉じ込められてしもうてのう、する事もありませんので、牢屋の中で
鳩豆を食べて暫く寝ておりましたわ、おっほっ!」
「寝てたって……、おいおい……」
「おーい、ジャミルっ!」
「……ぎゅっぴ!」
続いて、丸井とチビも本堂に姿を現した。
「お前らもっ、大丈夫だったのか!?」
「ああ、今、近藤の馬鹿が警察に電話しに行ってる、携帯からな!
もう、テメエの負けだぞっ!このハゲっ!!」
……どんなに真面に働いても、丸井にはバカ扱いでしか通らない
近藤って、一体……。
「よくもおしょーさんいじめたなっ!絶対許さないよっ!おまけに
爆弾仕掛けるなんてっ、チビがブレスで爆弾全部燃やしたからねっ!」
「そ、そうかっ、チビが爆弾を……」
「うわあ!……お前、すげえんだなあ……」
シグも改めて、チビを見、感心した。
「そうだよ、チビはスーパードラゴンなんだから、……ね?」
「きゅぴっ!」
アルベルトに褒められ、チビが嬉しそうに返事をした。
「もう、完全にアンタの負けだな、甘く見るからさ、チビをな……」
「大人しく警察に行く準備しとけっての!」
さっきの仕返しに、ユリアンとジタンもニヤリと悪戯っぽい
笑みを偽住職へと向けた。偽住職は堪忍したかと思われたが……。
「……なーにをおっしゃいます、負けはあんた達の方です、
このご本尊の中にも、爆弾が仕掛けてあるんですぞ……?」
「……なあにーーーいいいいー!?」
「ぎゅっぴ!?」
ジャミル達は揃って思わず声を合わせた。
「おやおや、それは困りましたのう……、そんな物がご本尊様の
中に入られてしまったとは……、いやいや、暫くお掃除をせんかった
からかのう……」
「爺さんっ!ボケてる場合じゃねえだろっ!!」
「……ハテ?」
ジャミルが突っ込むが、住職は平然として首を傾げた。本物は本物で、
相当天然な困った性格の様である。
「ふふふ、このリモコンのボタンを押せば、お前らは何時でも
木端微塵じゃ、……この寺モロ共破壊してくれる、儂が何処か
遠くに逃げた後でこのリモコンのボタンを押してやるからのう、
お前らは此処から逃げられん様に縄ででもふんじばっておいて
くれる……」
「大丈夫、……みんな、きてええーーっ、助けて、お願い!
きゅぴいいいいーーーっ!!」
……チビが雄叫びを上げると、突然地鳴りが鳴りだし、周囲が小刻みに
がたがたと揺れ始めた。
「……何だっ!地震かっ!?」
「ジャミル、大丈夫、地震じゃないよお、チビのお友達、モンブラン山の
ドラゴンさん達にお手伝いして貰うのっ!!」
……ギャーオーォォォォ……!!
確かに、外で翼が羽ばたく様な音と、獣の鳴き声が響き渡っている。
「みんな来てくれたみたいっ!もう大丈夫だよお、お寺の周りは
仲間のドラゴンさん達が取り囲んでるからね、ワルイおじいさんも
外に逃げてももう、逃げられないよっ!!」
「な、何という馬鹿者……、いや、化け物使いだったとは……、
儂の負けじゃ、……観念しようぞ……」
流石にドラゴン達に囲まれてしまっては偽住職もどうする事も出来ず、
静かにその場に座って崩れ落ちる。敗北である。
「よし、そのリモコン、こっちに渡して貰おうか……」
「好きにするが良い……」
偽住職は弱弱しい手つきでジャミルに時限爆弾の操作リモコンを
渡すのだった。
丁度その頃、ベストタイミングで近藤が呼んだ警察も寺に到着し、
偽住職は警察にしょっ引かれていった。刺激しなければ大丈夫なので
取りあえず爆弾処理は後日又行うらしかった。
「……」
「……ジャミル、何してるきゅぴ?何で仏様の後ろに隠れてるの?」
「ん?……いや、やっぱり警察って苦手なんだよ……、つい、癖で……」
「大丈夫だっ!オレもだからっ!ま、この世界じゃあんまり色々と
気にすんのはやめようぜー!はははっ!」
開き直ったジタンが馬鹿笑いした。
「たく、呑気でいいなあ、お前はよ……、……ま、いいか……」
何はともあれ、ジャミル達の奮戦により、本物の住職は無事救出され、
お寺へと無事に帰って来たのだった。
真夏の体験学習編 5
偽住職もどうにか捕まり、寺には静寂が戻った。
「……んじゃあ、最初からこの体験座禅学習も金儲け詐欺
だったっつー事か、ホークの野郎……、インチキ広告に
騙されやがってからに……」
「ホークも分らなかったんだよ、仕方ないじゃないか……」
お茶受けに住職が出してくれた煎餅をボリボリ齧りながら
喋るジャミルにアルベルトが呆れてみる。
「すみませんのう、儂がうっかり、椎茸を譲るなどと……、
つい……、甘い言葉に騙されてひょいひょいと……、知らない
相手に付いて行ってしまったばかりに、皆様まで巻き込んで
しまって本当にご迷惑お掛けしました……」
(しいたけ?……このじいさん、しいたけで勧誘されたのか?
大丈夫なのかよ……)
「ま、……何事も無くて、何よりだったよ……」
そう言いながら、ジャミルに続き、ユリアンも煎餅を
ボリボリ齧りながら喋る。
「本当やでえ……、サラダ味はないんかー?」
「……近藤っ!てめえはちったあ遠慮する事をしねえかーーっ!」
「あいたあーっ!」
……近藤も結構頑張った手前なのに、丸井の前ではやはり
こうなってしまうんである。
「あのさ、じいさん、弟子とかはとんねえの?ホラ、今回みたいな事が
又起こらねえとも限んねえし、……他に寺に誰か付き添いが
いた方が安全じゃね?」
「……そうだよな、オレもそう思うよ、偶々今回はオレ達がいて
機転利かせたからどうにか良かった様なものの……」
ジタンもジャミルの意見に賛同する。住職の他に身内らしき
人物も見当たらない。
「そうですなあ、しかし……、儂は人など扱える様な立場の
坊主ではありませんて、なので、昔から弟子などは取らず、
儂一人で此処の寺を切り盛りしとったんですが、最近は
こんなに物騒になってしまったんですのう、やれやれですわい……」
「爺さん……」
「じゃあっ、今から爺さんも身体鍛えて強くなればいいんだよ、
オレがいた元の城には幻獣部屋って言う、怪物と戦える仮想空間が
あって、其処で……」
「……無理だよ、○ラ○ンボールじゃないんだよ……」
「いてっ!」
ちゃっかり所持していたらしき、スリッパで軽くシグの頭を
叩くアルベルト。元々はジャミルに突っ込みを入れる為に
わざわざ持って来ていたらしい。
「ほほ、皆さん、御心配下さりまして、本当に有難う
ございます、儂の事ならご心配なさらずに……、これまでも
何とか生き延びてこられましたし、変わらず、普段通りに
生きて行きますゆえ……」
「大丈夫、チビがいるよおー!」
「ほ……?」
「チビ……?」
皆が一斉にチビの方に注目した。
「チビ、モンブラン山のドラゴンのお友達に頼んで、お寺と
おしょーさん、護ってあげるー!それなら安心でしょー?だから、
お荷物お届けの日が無くても、チビ、此処に遊びに来てもいい……?」
「そっか、チビがいたんだよな、……爺さん!」
「ぴい!」
チビは尻尾を振りながら住職の顔を見上げる。
「なんとまあ、これは有難い事で……、それではお願いしても
よいかのう、チビさんや……、勿論じゃよ、いつでも又、お菓子を
食べにおいで!」
「きゅっぴ!うん、チビも嬉しいよおー!この笛、おしょーさんに
あげるね、ドラゴン笛だよおー!何かあったらその笛で呼べば、チビも
皆がいない時でもすぐに此処に来るからね!」
「……おお、おお……、嬉しい事じゃのう、本当に、ほっほ!
チビさんや、これからもこの老いぼれを宜しくのう!」
「きゅっぴ!」
住職はまるで本当の孫の様に、チビを抱きしめるのであった。
「……やれやれ、これで俺らも山降りても大丈夫かな……」
そして、ジャミル達は住職に挨拶をし、マンションへと帰宅し、
どうにかこうにか、この奇妙な座禅体験学習は終わりを告げた。
……ちなみに、偽住職が皆から巻き上げた金は、住職がジャミル達に
ちゃんと返済すると言ってきたが、今回その金は、お寺への
寄付金としてメンバー全員一致合意の上でそのまま寺に納める事に
したのだった。
そして、数日後、帰宅したジャミルは何も変わらずいつも通りで
相変わらず部屋で寝てばかりだった……。
「たく、あいつ……、変わんねえなあ、ったく……」
「いいじゃないか、ホーク、成り行きとはいえ、今回はあのアホも
頑張ってきたみたいだし、暫らくはこのままにさせといてやんなよ……」
「ま、ちったあ、いい経験にはなったかね……」
「だねえ……」
へそ丸出し全開で眠るジャミルを、ホークとバーバラは、
今日はまるで親の様な眼差しで見守るのであったが……。
「……うーっ!」
「……ちょっ、寝ぼけてっ、何処かいてんだいっ!あいつはっ!!」
……どうやら、大事な箇所を蚊に刺されたらしい、間抜けな姿であった。
そして、夕方……
「ジャミルうー!起きなよお!いつまで寝てんのさっ!!」
ダウドがジャミルの部屋に来、掛けてあったタオルケットを
無理矢理に引っ剥がす。
「……お、お代官様!それだけはご勘弁をーーっ!!」
「何ねぼけんてのっ!もうっ!もう、夜の18時になっちゃうよお!
お昼も食べないでっ!ホラ、公園行くよっ!!」
「……はあ、公園?今から?何でまた……」
「いいから行くのっ!ほらっ!夜はこれ着ないと虫に
刺されるよお!」
ダウドは呆れた顔で、ジャミルにいつも着ているパーカーを渡した。
「???」
寝ぼけ眼で廊下に出ると、アイシャが待っていた。
「アイシャ……」
「あ、やっと起きたんだね、ジャミルっ!」
「全くう、困っちゃうよ、ホント……」
「さあ、公園行こうっ!みんなが待ってるよ!」
アイシャが言ってる事も良く理解出来ないまま、ジャミルは2人に
引っ張られ、公園に連れて行かれる。
「……この匂い……?肉……?」
「段々目が覚めてきたみたいだねえ~」
「本当よねえー、くすっ……」
「……あ……!」
「みんなー!ジャミル連れてきたよおー!」
「中々起きてくれなくて、大変だったわ……」
「おう、ダウドもアイシャもご苦労!これで全員揃ったな!」
腕組みをしながら考えていたホークが気づき、後ろを振り返った。
「遅いよっ、アンタで最後だよっ、全くっ!!」
バーバラが軽くポカリと、寝ぼけているジャミルの頭を小突いた。
「……ふっ、相変わらず、馬鹿な奴だ……」
「あら、グレイ、其処がジャミルのいい処だわ、やっぱり急に
変わってしまったら淋しいもの、……良かった、普段の通りの
ジャミルで……、ね?」
いつもと何も変わらないジャミルの姿を見ているだけで、クローディアも
安心するらしい。公園には何故かマンションの住人が集まっており、何やら
わいわいと賑やかである。
「……な、何で……」
zokuダチ。セッション24