zokuダチ。セッション19
エピ 73・74・75・76
ジャミル、働いたら負けに負ける コンビニ編・1
「バイト?するの?ジャミルが……」
「ああ、玉には、ちょい働いてみるかな……、と思ってさ……」
「……ぷうううーーっ!」
「……あ、あ、あ……、何でそこで笑うんだよっ!このっ、
バカダウドっ!!」
ダウドの首を絞めに掛かるジャミル……。
「だってえ~、おかしいよおお、元の世界じゃオイラ達……」
「いーだろっ!玉には変わった事もしてみてーんだよっ!」
「そう、でも、いいんじゃない、真面目に働くのも……、プ……」
「……取りあえず、手っ取り早くコンビニにでも行ってみるかね、
短時間で金になるし……」
そう言ってジャミルは無料の求人案内ペーパーを取り出す。
「……実はあんまり、働く気ないでしょ……」
「短時間で気軽に働けて金になるのがいいんだ……」
真面目に働く気があるのか、ないのか……、そんなジャミルを
複雑そうな顔でダウドが見ていた。
と、いう事で……、ジャミルは近くのコンビニへ足を運んで、
バイトとして採用して貰う。時間は早朝から約10時までの
時間帯である。
「まだ、見習い期間だからね、とりあえず、まずは簡単な陳列の
仕事から……、朝、業者が商品を運んでくるからそれを棚に並べて
くれるかな、古い商品は前に、新鮮な商品は後ろにね……、素早くね!」
「了解……、です」
少々抵抗もあるが、其処は働く者として、店長に対し敬語を使ってみる。
(……ジンマシンがでりゅ……、あ、小悪魔になっちまう……)
早朝、配送業者がトラックで大量に運んで来たパン、おにぎりやら
弁当やらせっせと棚に並べて行く。
「……」
のそっと、サラリーマン風の客が入って来た。
(うわ、もうキタっ!まだ並べ終わってねーのに……)
ジャミルは慌ててサンドイッチを棚にせっせと並べる。隣では同じく、
バイトのおっさんが弁当を並べている。
プス……
(やっちまった……、まあいいか、音無しだし……)
ジャミルは構わずどんどんブツを棚に並べるが、処がこれが
良くなかったらしく、近くに物凄い悪臭が漂ってしまい……。
「……」
ジャミルの隣で弁当を並べていたおっさんが代わりに客に睨まれる。
どうやら、そちらが犯人と思われたらしかったが、おっさんは気づかず。
(すまソ……)
元々手先が器用なジャミルは陳列の仕事は何も問題なくテキパキと
すぐに慣れて覚える事が出来、客ピーク時間の前に全て商品を陳列し終える。
「楽勝だな、これで数時間単位で小遣い程度になりゃ、シメたもんさ……」
次はレジ打ちの仕事に入る。
先輩枠が丁寧に説明するが、化粧臭い上、最悪のオバチャンコースであった。
(オバーバラより悪いなあ……、顔がアレな分最悪、くっせ……)
「あんたっ!聞いてんの!?少々顔が良くて若いからって容赦しないよっ!」
「……聞いてますよ、はいはい……」
厚化粧の臭いに耐えながら、何とかレジ打ちの説明を受け実践に
入った。これもどうにか、ジャミルは器用なので直ぐに覚え熟す。
新人だが特にサポートも要らず出来るので、オバチャンはジャミルに
レジを任せっきりで自分は馴染みの客とベラベラ喋っていた……。
「……ハア、糞ババア……」
と、うっかり呟いてしまった処に、ジャミルの方のレジに客が来る。
糞ババアであった。
「……パイルドセブン、1カートン……」
ジャミルはタバコを大量買いし、店を出て行く客を羨ましそうに眺める。
(……俺だって、給料入ったらっ、……クソッ……)
時刻は9時近くになり、後1時間で、ジャミルの本日のバイトが終了する
時間が近づいて来た。
「まあ、初日から結構大丈夫だったかな、この調子で行けば何とか……」
と、呟いた処に遂に馴染みの顔が入って来る。
「よお!ジャミちゃん、バイトしてるってダウちゃんから聞いて、
ちょっくら来たよ!」
「……ジャミちゃんじゃねえっつーのっ!すっころび親父っ!
ダウドの野郎……、もう喋りやがったな……」
困ったラグナを制しようとするが、別の客と話しているオバチャンが
ちらっとジャミルの方を向いた。
「何だよ、……俺、今、レジ入ってんだからさあ、うっかり、客と
話してんの見られたら困るワケ……、給料減らされるからさあ~……」
こそっと話すが、あっちのベテランのオバチャンはそゆ事しても
誰にも注意されない、怒られないので実に差別的である。
「うん、ごめんよ、実はね、今度の週刊誌の記事でね、新作の
コンビニ弁当の取材させて貰おうと思ってね、来たんだよ」
「んじゃ、店長に言えよ、俺じゃ分かんねえから……」
「そうさせて貰うかな、……店長いる?」
「店の奥だよ……、ちょっと待って……」
ジャミルは店の掃除をしていた別の店員の女の子に頼んで、店長を
奥から呼んで来て貰う。
「へへっ、わりいねえ~……」
「……わりいよっ!」
やがて、店長が奥から出て来て、ラグナの取材を受け始めた。
「ほうほう、これが新作の~、へえ~、ゴールデン焼肉弁当ですか……、
へえ~……」
「肉は100パーセント、特質の霜降り牛ですよ!これはモ~、
お勧め出来ます!」
ラグナはへえへえ言いながらメモを取っている。
「……」
ジャミルは店長のギャグが余りにもつまらないので、逆の意味で
少し吹きそうになったが堪えた。
「……ああ、俺そろそろ時間だわ、交代の人が来るかな……」
15分前になり、代わりのバイトが来たので交代して店長に挨拶し、
本日のバイトは無事終了し、マンションへと帰宅する。
「……ふーん、そうなんだあ~、結構やるもんだねえ~……」
「何だよ、ダウド、その言い方、何か馬鹿にしてるだろ……」
「そんな事ないよお~…」
「ふう、時給1時間800円だから、3000円ぐらい稼いだろ、
何とかなるさ、給料入ったら少しぐらい奢ってやってもいいぜ?」
「……うん、有難う……」
しかしダウドは薄々感づいていた。この話でそんなに事が
何時までも上手く続く筈がない事を……。
……プルルル……
と、ジャミルの携帯に着信が鳴る。
「もしもし……?あ、先程はどうも、あ、…分りました……、
心得ときます……」
「誰から?」
「コンビニの店長だよ、夜間の部で働いてる店員が急病で
来られなくなって、急遽、俺に代理で頼みたいんだとさ、やっぱり
俺の素早い仕事っぷりが良かったのかなあ?」
「うん、で、又夜行くんだねえ、頑張ってね……」
……しかしダウドは薄々感づいていた。この話でそんなに事が
何時までも上手く続く筈が……。
「おーいっ!」
「……あてっ!ご、ごめん、つい冥想に入っちゃった、えへへ……」
「まあ、いいけどさ、んじゃあ夜に備えて俺は寝るからさ……」
「備えなくても普段はいつも寝てるくせに、んじゃあオイラ
部屋に戻るね……」
「ん……」
ジャミルは部屋を出て行くダウドにぴらぴらと手を振った。
そして、再び夜20時、夜間の仕事場へ向かうと、外のゴミ箱
処理掃除を店長自ら行っている処であった。
「今晩はです!」
「やあ、今朝は有難う、早速だけど、夜間の部もお願いするよ……、
明日の早朝はお休みして貰って構わないからね」
「お任せあれ!」
「実は、夜間の部に後2人、新人さんが入ったのだが……、
ジャミル君、君になら、サポートを任せて、教える立場に回って
貰っても大丈夫かなと思ったんだよ」
「え?も、もうスか……、幾ら何でも早くないかな……、俺だって
今朝入ったばっかなのに……」
「いや、君はもう立派だよ、仕事を覚えて熟すのも実に早い!
大したモンだ!」
「えへへ、それじゃあ……、やってみます……」
「うむ、宜しく頼むよ!」
余りにもベタボメされた為、ジャミルはつい、いつもの癖で
調子に乗る。
……しかしダウドは薄々感づいていた……、この話で……。
「……おい……」
……誰かがマイクを持ってボソボソと喋っていた様であったが、
すぐに逃げた様であった……。
「まあいいや、仕事、仕事……!」
と、意気揚々で再び職場に顔を出すと、……其処にいたのは……。
「やあ、ドナルドだよ!はっはあーっ!」
「ガーネルです、今夜から夜間の部で働く事になりました……」
「……ファッ!?」
「新人のドナルド君とガーネル君だ、じゃあ、2人の教育は
君に任せたよ、君達も、分からない処はどんどん先輩に聞くんだよ」
「……あんの……」
店長は店の奥に引っ込んで行ってしまう。
「はっはあーっ!ドナルド、張り切っちゃうよーっ!」
「……チキンはスパイスが命です……」
「何でっ……、ファーストフード出身者がよっ……、よりによって
コンビニでバイトなんかすんだーーっ!!言ってみろコラアーーっ!!」
「ドナルドわかんなーいっ!!」
「分りません……、教えて下さい……」
「……う、わあああああーーーっ!!」
夜間のコンビニにジャミルの絶叫が響き渡る……。……やはり、
ダウドのしつこい呟きは的中した様であった……。
ジャミル、働いたら負けに負ける コンビニ編・2
ジャミルは成り行き上、パイセンとしてコンビニで突然入って来た
ピエロとガーネルの面倒を見る羽目に……。
……本日最後の運送業者のトラックが店に到着した。
「この箱の中の商品を棚に納めればいいんだねっ!ドナルド、
やりまっす!」
「素早く、丁寧に……、だかんな、ちゃんとやれよ……」
「よいしょ……、私も頑張ります……」
「あんたさあ、その、いつも手を突き出したままのポーズ、疲れね?」
「いいんです……」
「そうかよ……、んじゃ俺……、他の仕事あっから、任せたぜ……」
「ハンバーガーが少ないねえっ、このおにぎりを全部ハンバーガーに
替えればいいのにねっ!チーズバーガー!ベーコンレタス!」
「……自分でコンビニ建てて、発注すれば……?」
「るーっ!」
それはもはや、コンビニではなく、……ハンバーガー屋である……。
「はあ……」
ジャミルは溜息をつき、再びレジへと戻った……。
さて、コンビニの客も観察していると、玉に珍客や面白い客に
出くわす事もある。中には便所だけ借りてさっさと出て行く
最悪の客もいる。しかし、深夜業は比較的暇なのでジャミルは
気が抜けてしまう。と、ボーっとしていると、自動ドアが開き、
お客さんが入って来たかと思われたが……。
「……やいっ、金を出せ、なのねー!」
「なのねー!」
「のねー!」
まるで、何処かで会った事のある様な、変な3人組の強盗が来た……。
「きゃあっ!?ど、どうしましょう!?て、店長を……!!」
ジャミルの隣にいたレジ担当の女の子がパニックになり、顔が青ざめた。
「……いや、慌てなくていいよ、大丈夫だから……」
「ええええっ!?」
(……こいつらもこっちに出やがった……、ああ、頭痛くなって来た……)
「金を出せって言ってるのねー!」
「出さないと、このコンビニ破壊するのねー!!」
「レジにある金を全部こっちによこしやがれーなのねー!!」
変な3人組はスタンガンをジャミルに近づけるがジャミルは
微動だにしない。
「ジャミルさんっ……!あああ、危ないですよおおっ!!」
「大丈夫、金ならあるぜ、これやるから早く帰れよ」
「……ん~?」
『ごえんがあるよ。』
「……」
「ふ、……ふざけんじゃねええのねええ~!!これは駄菓子じゃねーか!
なのねえ~!!」
ジャミルから渡された、5円型のチョコレートを見、リーダーが激怒する……。
「じゃあ、万円札チョコはどうだ?少しはリッチだろ?」
「……うおおおーっ!!お前おーーー撃ち殺してやるのねええーーっ!!」
「なのねえーーっ!!」
「ねえーーっ!!」
「……そうかよ、こっちはこれ以上払えねえよ!諦めな!」
「くそーーっ!一斉射撃ーーっ!!」
しかし、スタンガンを撃たれる前よりも、ジャミルの方が動きが
素早く、やはり相手にならず。即、3人揃ってノックアウトであった。
「フン……」
ジャミルは3人組を殴って気絶させると、更に蹴り飛ばした。
「すごいですーっ!ジャミルさーんっ!」
「いや、慣れてっから、色々と……、それより正直、あんま俺も
サツは嫌なんだけど……、店長にも急いで話して警察に連絡してくれ……」
「はあーいっ!」
女の子は急いで、一旦店の奥へと引っ込み、店長の処へ報告に行った。
「……あーーれーーェーー?」
「……?」
突如、店に絶叫が響き渡り、見ると、いつの間にか、リーダー格が
動いたようで、ピエロが人質になっていた。
「油断したのねえーっ!……大人しくしないと、こいつがどうなるか
分からんのねえーっ!」
「アニキーっ、凄いのねえーっ!」
「なのねーっ!」
「……またあいつは……、どうして、こう……」
再びジャミルが頭を抱えた……。
「うわあーっ、ドナルド、人質になっちゃったよ!こんなの初めてだよ!
ワクワクもんだねーーっ!興奮するねーーっ!!」
「……すんなーっ!自分で何とかしろーーっ!!」
「……ジャミルさんっ!」
「大丈夫かいっ!?」
丁度、店の奥からタイミング悪く、女の子と店長が出て来てしまう……。
「……来ちゃ駄目だっ!早く逃げろっ!!」
「きゃあああっ!!」
後の子分二人も動き出し、女の子と店長にスタンガンを突きつけた。
「よくやったのね、子分A、B!」
「のねー!」
「なのねー!」
「ジャミルさん……、私達の事は大丈夫ですから……、は、早く、
警察へ……」
女の子が震えながらジャミルに訴える……。
「連絡したらっ、問答無用でこいつら撃つぞ!?なのね!」
「……くそっ、馬鹿で屑な処もほんっと、変わってねえなっ!
別世界に来てもよっ!!」
3人組を睨みジャミルが歯噛みする……。
……皆さん、私をお忘れではないですかな……?
「あ……?」
「胸に七つの傷を持つ男……、ガーネル参上、……ほあああーーっ!!」
「……」
ガーネルは、白スーツを脱ぐと、たぷたぷメタボ腹をさらけ出し、
ポーズを取って構えた。
「……ドナルドもやるよっ、ほああああーーっ!!」
「な、何ねえーっ!?」
ガーネルに急に対抗意識を持ち出したのか、人質になっていたピエロも
ムキになって同じ事をし出す。
「あのなあ、……だから、戦えるんなら最初っから人質に
なってんじゃねーよっ!!」
「こういうのは気分と演出が大事なんだよっ!!」
「同じく……」
「うるせー馬鹿っ!じゃあてめえらで何とかしろよっ!おらあ一切
手ぇ貸さねえかんなっ!!」
ジャミル、呆れて援護する気を無くす。
「ガーネル君、行くよ、今日はドナルド達の本気を見せるよ!」
「御意!」
(はあ、……でも、結局はどうせボコボコにされて俺が出て行く
パターンなんだろ……、ん?)
「……凄い、凄い、凄いですっ!」
「な、何という、強いお二人だ……」
「……?ハア……?」
女の子と店長の興奮気味の声に前を向くと、変な3人組が
ドナルドとガーネルになんと、ボコボコに伸されていたのである。
「うっそ、マジで……?冗談しょっ……?」
「勝利したよっ!はっはあーっ!!」
「……ビクトリーです……」
「……冗談じゃ……、ねえのねえ~……」
「なのねえ~……」
「ねえ~……」
「はっ、君っ、直ぐに警察に連絡を……!」
「は、はいっ!」
女の子が持っていたスマホから急いで警察に連絡し、事なきを得る。
やがて、警察が到着し、……3人揃ってしょっ引かれて行った……。
「……覚えてろー、絶対又こっちにも出てやるかんなー!なのねえ~!!」
「のねえー!!」
「ねえー!!」
「うーん、やっぱりドナルドが強いから、勝利が確信出来たねっ!」
「……何を言っているんです、私のこの、黄金の腹が勝利を決めたのでは
ないですか……?」
「……ドナルドの方が強いんだよっ!!」
「……いいえ、私だと言っているでしょう!!」
「……」
そして、いつも通り、ピエロとガーネルの殴り合いが始まったのであった。
「あの、店長……」
「……ん?」
……翌朝、コンビニではラグナを筆頭に、記者や何だかんだが一斉に
取材に訪れていた。
「……で、結局、コンビニのバイト辞めちゃったんだ、バカだねえ、
幾らあの二人に負けたのがショックだからってさあ……、別に仕事が
出来なかった訳でもないのに……」
「別にショックじゃねえよ!負けてもねえし!唯、なーんか
アホらしくなってさあ……、急に働く気が失せたんだよ……、
まあ、店長には止められたけどな……」
ジャミルはそう言い、稼いだ二日分の僅かなバイト料を
ダウドにピラピラ見せた。
「はあ、……次は身体が鍛えられるバイトでもすっかなあ~……」
(……やっぱり、対抗意識燃やしてる……)
「何だよ、ダウド……」
「い、いや、何でもないよお~……」
(はあ、この人も、いつまで続けられるのかなあ~……、
バイトチャレンジ……)
ジャミル、働いたら負けに負ける 監視員編
「ダウドっ、見ろこれっ!」
「……はあ~?」
今日は珍しく、又求人ペーパーを持ってジャミルがダウドの部屋を訪れた。
「今度はこれだよっ!」
「な、何……?市民プールの監視員?」
「特に何もなきゃ、殆ど一日中椅子に座ってるだけでいいんだぜ!
仮にあったとしても救助だけだしな!大した事もねえし!んで、
運動にもなって雅に一石二鳥!」
「……あのねえ~、……楽ばっか求めちゃ駄目だよ、これだって
ちゃんとした仕事じゃないか、人命に関わる事だよ、ジャミル、
ちょっと甘すぎない……?仕事って物を軽く見過ぎだよ……」
「何だよ、オメー最近なーんか、アルみたいになってきたな……」
「オイラは正論を言ったまでですっ!」
「全くだっ!その通りっ!」
「……ジタン……」
何時から話を聞いていたのか、ジタンもダウドの部屋に入って来た。
「本当だよ、アンタは人命救助ってモンを甘く見過ぎてるっ!そんなんじゃ
この仕事は務まんないぜっ!!」
そう言い、ジタンはジャミルに向かってびしっと指を付き付けた。
「そうだよお、もっと厳しく言ってやってよ!じゃないと、この人……」
「このバイトはオレが貰ったっ!」
「……はああ~?」
ジャミルとダウドは目を点にし、二人で声を揃える……。
「だってさあ~、プールの人命救助っつったらさあ~、人工呼吸が
醍醐味だろ……?可愛いレディにさあ、……ああーっ!考えた
だけでえ~!!……それにな……、一日中水着のお姉さんを
拝められる……」
「……やっぱりアンタもその口かい……」
「ほお~、溺れるのは女とは限らねえだろ、……野郎だって
溺れる可能性あるぞ~…?お前はそれでも楽しみなんだな……?
ムサイ親父でもか……?」
「……っ、そ、それでもっ……、レ、レディと口づけ出来る
チャンスがあるのなら、……オ、オレはっ!!」
「出てけ、このお調子者野郎共……」
二人揃ってダウドの部屋からポイされたのであった。
「……たくっ、ダウドの野郎っ!!」
「なあ、その求人の募集人員何人なんだ?」
「んーと、採用人数8人ぐらいまでだとさ、仕事は交代制で
週3日程度、まあ、泳ぎに自信がありゃ何も問題ないとは思うが……」
「何だい?プールの監視員のバイトかい?ふーん、面白そうだな、
俺も行ってみるかな、運動不足だしな……」
後ろからユリアンも顔を出し、話に加わる。
こうして、スケベアホトリオ隊が出動するのであった。
3人は現地で面接を受け、すぐ採用された。すぐに明日からバイトに
来て欲しいとの事であった。
「まあ、まだ夏本番じゃねえし、平日は客そんなに来ねえから楽だなあ!」
「オレは、早く水着のお姉さんと触れ合いたいよ……」
「ははっ、ま~たダガーに言いつけるぞ!このスケベ!」
……3人は好き勝手を呟きながらマンションへの帰路を歩いた。
翌日、監視台の椅子でジャミルは……。
「今日、アイシャの奴も来てりゃあなあ……、何で今日に限って……、
……んでもって、もしもうっかり溺れたら……、俺が……」
と、只管余計なヨコシマ思惑事を考えている。ちなみに当の本人は
今日はバーバラ達とデパートに出掛けた為、不在である。
「何処までも邪魔するオババ集団め~、けど、夏の間、まだ幾らでも
チャンスはあるしな、監視員でも、通常の時でも……」
何事も無く、まったりと時間は過ぎて行く。身体を照らす
日の光も心地よく余りにも暇すぎてジャミルは居眠りを
こきそうだった。
「おい、ジャミル、交代だぞ、アナウンスの方回れよ!」
「はいよ、あんたが一番輝く時間だね、良かったね……」
監視台から降りてジタンと交代し、アナウンスの方へと移動した。
「……はあ、それにしても、平日ってなんて張り合いがないんだ……」
と、後ろの方からジタンが呻いている声が聴こえたが、お前も一体
ジャミル同じく、何を期待しているんだと言わざるを得ない。
そして、場内アナウンスの方に回るが、眠くてすでに夢心地状態である。
やがて案内受付の方を担当していたユリアンが交代を申し出に
ジャミルの処へ。
「ジャミル、こっちもそろそろ交代してくれよ、ずっと同じ仕事は
疲れるんだよ、……時間だからさあ、おい……」
ユリアンがジャミルにこそっと話し掛けるのだが……。
「うにゅ……」
「おい、ジャミル……、起きろってば、……このっ、バカジャミルっ!!」
「……うるせー!この緑バカっ!!いっつもエレンにヒップドロップ
やられてる癖によおー、うるせんら、オメーはよっ!!ケツに
敷かれマンめっ!!お前、海水パンツまで緑色じゃねーかよっ!!」
「ちょ、何でその話になるんだよっ!!ジャミルだってそうだろうっ!
この間なんかまたアイシャ泣かせてパンチ連打で喰らわされてた癖にっ!!」
「……ふん、そっちは下着のパンツに穴が開いてる癖にさあ……」
「な、何で知って……、あーっどうでもいいだろっ!!そんな事っ!!」
「あれー?図星だったん?俺、冗談で言ったんだけどさあ……」
「……お前らーっ!マイクの音量下げろーっ!!プール中に
声が漏れてるぞーっ!何やってんだーーっ!!」
別のバイト員が慌てて放送部屋に駆け込んで来た……。
「……」
ユリアンとジャミルは顔を見合わせ……。
「……きゃあああああ~っ!!」
再び、プールに大音量で大絶叫を響かせるのであった……。
そして午後、本日最後に再びジャミルに監視のターンが回ってくる。
「はあ、今日は後1時間でお終いかあー、大した事なかったなあ~……」
呑気に欠伸をする、と、其処にジジババの集団がやって来る。
「よいしょっと、やれ、ほほほ、プールなんざ、ン十年ぶりですかね……」
「んだ、んだ……」
「冗談だよな、おい、嫌だぞ俺……、おい、ジタン、交代してやるよ、
おーいっ!」
慌ててジタンを探すが…、何処も姿は見えない。スケベな彼は水着の
お姉さんを追い掛けて仕事中にも係らず、何処かへ行ってしまった模様。
「……あ、ちょっとしっこをやってもうたようじゃ、……大丈夫かのう……」
「わしもじゃ……、気持ち良くてのう……」
「わしもじゃあ~……、少し実も出たかも知れん……」
「別にわからんじゃろうて、ほっほ」
「おいおいおい、冗談じゃねえっ!も、もしもの事があったら!
あわわわわ!」
ジャミルはパニクり、慌てて監視台から降りようとするが、足を滑らせ、
監視台からプールに落下したのである。
「……じいさん、今誰か空から落ちませんでしたのかう……?」
「さあ~、むささびかなんかじゃないのかのう……」
……ジジババのエキスをたっぷり吸って溺れたジャミルは、
逆に救助される羽目になる……。しかし、例えどんな状況でも、
一旦ちゃんと仕事を引き受けた以上、逃げては駄目なのです。
「……で、まーた結局辞めたの、バカだねえ、本当に、だからさ、
最初にオイラが言ったでしょ、人命救助の仕事は甘くないんだよ……、
まあ、この世の中、楽な仕事なんて無いのが現状だけどさ」
アイスを食べながら、呆れてダウドがジャミルを見た。
「うるせーなっ!俺は仕事するよりこうやって横になってた方が
いいやいっ!」
完全に不貞腐れモードに入り、もうバイトは金輪際辞める事に
したのであった。
「ハア、でも、働くジャミルよりさあ、こうしていつもの
ジャミルを見てる方がオイラは何となく安心するよ……、ふふ、
一緒に遊んで貰えるしねえ~」
「何か言ったか?ダウド……」
「べっつにいーっ!」
……夏は今から本番です……。
住人全員暴走族になる
本日は日曜日、今日は久々にチビがマンションを訪れており、
ジャミルの部屋でテレビを見ている。
『♪ツッパリーツッパリーツッパリー朝から晩までツッパーリー、
どいつもこいつもツッパリパリパリー!』
「♪きゅっぴ~」
「チビちゃんたら、本当にトーキョー金蝿が好きねえ、
誰の影響よ、全く……」
「はあ?おらあ知らねーよ!チビが勝手に興味持ったんだろ!」
寝っころがりゴロゴロしていたジャミルがアイシャに文句を言う。
チビは最近結成した古典的ツッパリロックバンド、トーキョー金蝿の
大ファンなのである。
「しっかし、変なドラゴンだよ、全く、あふう~……」
「……ぴいー、ねえー、アイシャ、トーキョーキンバエさん、
何処にいるの?チビ、サイン欲しいよお……」
「プッ……」
「ジャミル、笑わないのよっ!……そうねえ、チビちゃん、
金蝿さんは芸能人で忙しいから簡単には会えないのよ、
残念だけどね……」
「ぴい、そう……」
「落ち込まないで、チビちゃん、ほらほらお菓子食べてっ!」
「きゅっぴ!いただきまーす!」
チビは美味しそうにクッキーを頬張り、その様子をアイシャが
微笑ましい目で見つめていた。
「じゃあ、チビ帰るね、又遊んでね!」
「おう、気を付けてな」
「またね!」
チビは仲間のドラゴンが住んでいるモンブラン山へと帰って行った。
「それにしても、CD欲しいよお!……とか、言いださなきゃ
いいけどな……」
「……時間の問題よ、じゃあ、私も部屋に戻るわ」
アイシャも部屋に帰って行くが、相変わらずテレビの中の金蝿は忙しい。
『♪つっパリパリパリパリパーリ!』
「……るさいっ!はあ、やっと静かになった……」
テレビを止めてほんの一息、その様子を窓から眺めている
変な物体が一匹。……又小悪魔のリトルである。
「けけっ、よーし……、今回はこれで悪戯してやりゅ!
けけっ、けけけ……」
時刻も夕方、18時になり、タバコ買いのついでに手軽に
食料屋で夕飯を買って来ようとジャミルは部屋を出、
ダウドとすれ違う。
「よ……」
「あ、ジャミル……、……!?う、ぷぷぷぷぷっ!!」
ダウドがいきなりジャミルを見て急に笑い出した。
「はあ!?何でいきなり笑うんだよっ!むかつくなっ!!」
「だって~、それ、カツラ?凄いねえ、先端の部分、
何メートルあるのさあ~、……帽子からはみ出てるよ……」
ダウドの言っている事が今一よく分からないので、部屋に戻って
自身の姿を鏡で確認すると……。
「……あああああーーーっ!?」
ジャミルのヘアスタイルがカツラが外れなくなるの悪夢到来で……、
ツッパリリーゼントヘアになっていた……。
「な、何でこんな……、マジで……?えええ……」
「うわあああーーっ!!ジャミルぅーっ!!笑ってごめんよおーっ!
オイラの頭もおかしくなっちゃったよおーーっ!!」
「何言って、頭がおかしいのは元から……うわあーーっ!!」
喚きながらジャミルの部屋に駆け込んできた、ダウドの髪型も……。
「……ふぁーっふぁっふぁっふぁっ!!」
「笑うなよぉぉぉ……!!」
「ふぁ、と、とにかく……、オホン、も、もう悟ったぞ……、
考えられる事はだな……」
どかどかどかっ!!
凄まじい足音が廊下に響き渡り、ジャミルの部屋に現れたのは……。
「……ジャミルっ!貴様っ……!!これは一体何だ……?」
「う、ひゃひゃひゃひゃひゃ!!は、腹いたあーーっ!!」
同じく、先端の髪が長く伸びたリーゼントヘアのグレイであった。
「……どういう事か説明しろ、貴様……」
グレイは青筋を立て捲り、アイスソードまで持ち出している始末……。
「わあっ!待ってよ、グレイっ!何でもかんでもジャミルの悪戯の
所為にしたら駄目だよ、オイラ達のこの頭を見れば分るでしょ?」
「……じゃあ、何なんだ……」
「それが分からないんだよお……」
(グレイもこの状態っつーことは……)
ジャミルはグレイには構わず、廊下に飛び出した。
「あっ!……待て、貴様っ!!」
「……暫く此処にいた方がいいと思うよお、その頭……、
クローディアに見られたら嫌でしょ……」
「う、うう……、ちっ……」
廊下に飛び出したジャミルは、急いでアイシャの部屋のドアを叩いた。
「アイシャ、いるんだろ?ちょっと……」
「ジャミルね……?い、嫌よっ!私、絶対此処から出ないからっ!!」
(やっぱりな……)
ちょっと見てみたかった様な気もした物の、他の連中の様子を
見に行ってみると……、やはり非常事態になって騒いでおり、
どいつもこいつも頭が凄まじいリーゼント状態になっていた。
「みてみてー!いろはーっ!こむぎのまえかみのけ、すごい!?すごい!?
こお~んなにながいんだよーーっ!いろはといっしょー!おそろいだねっ!
うれしいなあーっ♪」
「ど、どうなってるのおーーっ!?これーーっ!!……あわわわわ!」
……どんなハプニングでも取りあえず楽しんでしまう、無邪気な
ヒトバージョンの犬飼こむぎさん……。
「(……き、奇抜ヘアーの犬飼さんも……、可愛い……♡)
な、何て言ってる場合じゃないよーーっ!僕もどうしようーーっ!?
でも、でも……、これって僕も犬飼さんと……、お、お揃いヘアー……♡」
「……(やれやれ、だぜ……)」と、思っているクールな大福ちゃん。
……彼も相方の悟同じく、毛先の毛が丸まったリーゼントになっている。
「……こわくない、こわくない……!」
「……フウウ~ッ!シャァァーーッ!!」
そして、錯乱する猫組ガールズ……。基本的に呑気で平和。
「おーい、俺、又明日から会社に行けねえぞ、この頭じゃさあ……」
「あなたっ!しっかりしてよっ!家族を支える大黒柱がそんなんで
どうするのっ!!」
「……んな事言ったってだな……」
「オラも幼稚園行きたくない……」
「たいやいっ!」
「ボー……」
……野原家も……、一家総出でツッパリ頭に変形していた……。
「ちょっと丸井さん、こっち来ないでっ!!リーゼントがぶつかるっ!!」
「はあ?……イガラシっ!オメーの頭部こそ邪魔なんだよっ!!」
「……皆、この頭でも夜間練習はちゃんとやるからな……」
「さっすが、谷口さんッスね!やりましょうっ!!」
「帽子もヘルメットもちゃんと被れんがな……、鬼やで……」
(意外と似合うなあ、あいつら……)
と、感心しながらジャミルが野球馬鹿達を眺めていた。
……他のロマ1住人達も気になって様子を見に行ったり
してみたが、クローディアも当然の事ながら部屋から出て
姿を見せる気配は無かった。
(どうせまた小悪魔の仕業だろ……、ったく、魔法はどうせ
すぐ切れると思うが、このままじっとしてるのも何だかなあ、
やっぱり探してとっちめてやるか……)
考えながら外に出ると、町の住人も皆リーゼントになっており
町中大混乱状態であった。なので、誰もジャミルの方など
気にしている者もいなかった。
「うわ、あいつ此処までやったのかよ、なんつー奴だよ……、
と、小悪魔を捕まえねえと、う~~ん……」
ふと、足を止め…、食料屋に行こうとしていたのを思い出した。
「いらっしゃいませ…」
食料屋で自分の夕飯を買ったついでにある物を買った、それは……。
「……くっ、せえええーーっ!おえ、……ひろしの親父の
足の臭いだろ、完全に……、おげええ……」
くさやである。変な物を好む小悪魔の好物を何となく分かって
いるので、これを木の枝に吊るし、獲物が掛るのを隠れて待つ。
くさやはくさやでも、唯のくさやではなく、一味違った仕掛けが
仕込んであった。
「りゅーーっ!ご馳走の匂いりゅーーっ!!」
(来た、クソ小悪魔だっ!)
「いただきますりゅーーっ!……んきゃあああーーーっ!!」
「よっしゃ!ゴキブリ撃退っ!!」
ジャミルは指を鳴らすと落ちて来た小悪魔を急いで捕獲する。
くさやには山葵が大量に仕込んであり、くさやに食いついた
小悪魔はあっさり失神した。
「りゅううう~……」
「おい、どうせこの頭、オメーがやったんだろうが、ああん……?」
「似合ってりゅよ、嬉しいかりゅ?」
「っの野郎っ!!ええ加減にせえよっ!!」
「リトルは褒めてやってりゅのにーっ!何つー奴だりゅっ!!」
「はあ、少しシメてやろうかと思ったけどそんな気も失せたわ……、
いいから早く元に戻せ……」
腹も空き、疲れてきたジャミルは小悪魔に早く頭部を戻せと急かす。
「ち○こヘアーで似合ってりゅのに……」
「……!!」
「分ったりゅよっ!元に戻すりゅっ!!」
小悪魔は漸くジャミルのヘアスタイルを元に戻した。
「他の連中もちゃんと元に戻しただろうな……?」
「戻ってりゅよっ!んじゃ、リトルはこれでっ!」
「……待て、今日はきちんと仕置きさせて貰わねえと気が済まねえ、
そうだな、……俺らのマンションにお前一晩泊まってけよ……」
「りゅ、りゅりゅりゅ~……?」
逃走しようとした小悪魔は、今日はしっかりと、ジャミルに捕まり
マンションに連れて行かれた。……小悪魔はジャミ公の指示で、
自ら魔法を掛け、人形の姿になっている。
「この変な人形を殴っていいの……?ふ~ん……」
「イライラしたらブン殴っていいよ、でも借りモンなんで明日に
返すから、ま、パンチングマシーンみたいなモンだ、……壊さない
程度にしてくれよ?」
「分かったわ、最近ユリアンのアホに又苛々してた処なの、……少しは
ストレス解消になるかしら……」
「ちょ、だから、ちったあ加減してくれよ!……借りモンなんでよ、
さっきから注意してるけど、頭がふっ飛ばない程度にしてくれ……」
「……了解……、では早速っ!遠慮しないからねっ!」
(……とほほー、糞猿めええ……、後で覚えてろよりゅ、今にもっと凶悪な
悪戯をしてやりゅからね……、それにしても、人形のフリは辛いりゅ……)
その日、エレンにボコボコに伸されながら、小悪魔は冷や汗を垂らし……、
ついでに下も洩らしたそうである。
zokuダチ。セッション19