後ろむきな眸の捧げもの

  1 プログレッシブな金属音の退屈な序曲

その錠剤はしろくとろむようなコケトリー
花のような前のめりは 甘い薫をただよわしている
かれはそれのすべての可能性を一瞥で刺殺
そして 追憶に眸を夕陽さながら沈み込ませる 金属へ


  2 主奏としてのアレクサンドリア

往く一季節の連帯行進 火の迸りのカツカツの沓音
春夏秋冬は虹のように陰翳で辷り 消えてゆく
刹那せつなを張ることをしかできぬかれの虹彩は
一度きり見た風景の影を映す 後ろ髪曳くように手をふる

一季節は着飾ってにこやかに手を振り世間と結び
離す されば次の季節とゆるやかな連なりの握手をする
そのシーズンのファッションショーは何処かで鳴っている
されどかれは一度きりのロマンスに何時までも手を振る

季節は往く 光はうつろい かれは佇み
時間は歩み 追懐の褪せた一刹那を 少年はおよぐ
さよなら さよなら 亦逢いましたね 独白

何時までもいつまでも手を振られる風景には
一度きりの刹那としての永遠が 黒点と灯される
ひとを愛した ひとを愛した 久遠と揺れるどよめきの刹那


  3 曲終えたのちに横臥されるロマンスの欠損

かれは忘却の錠剤を砕き割り 眼球を金属夢に供物のように置いた
揺蕩う金属夢を忘れないように 眸には水波が寄せ打っていた
それでよかった それでよかった それだけで万事よかった
乾ききった眼球は後ろむきで 眸には水波が揺れ それだけだった

後ろむきな眸の捧げもの

後ろむきな眸の捧げもの

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 青年向け
更新日
登録日
2024-08-03

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