無化の一映像
1
(かの愛らしいましろの小鳥はわたしのために翼を切り落としてくださったのだった、石でも授けるやさしい子のような笑みでそれをわたしの眸の裏に授けてくださったのだった、かの切断された無辜はその切口すらもまっさらであったのだった、わたしは其処へ墜ちて往くように真白のアネモネの花畑の幻覚を漂った、さなかの一心情は恰も一刹那の永遠に媚び侍るようなそれであったのだった。かのような小鳥が果して実在したか──それ最早定かではないのだけれども、はやわたしという一欠片の疎外は不在と無という暗みに侍ることを生の唯一の意味とするのだった)
(わが躰は宇宙という大河をながれるように虚空に身を寄せた、わたしの一心情としてそれは恋人を対象とする如く甘やかさの平手打ちの如く全体の震えであったのだけれども、つねづねわが身打つ冷然硬質の撥ねかえりにふるさとへのそれのような懐かしさをえるのが恰も安穏の理不尽であるのだった)
──ましろ、
ひらがなで、書く。
おそろしさに、手がふるえる。
*
(従って、無と暗みという不在は全体という久遠ではないかしらとわたしによって詩的推論されて了うのだった、わたしという一刹那の現象(意識)は其処より剥がれ落ち疎外を歌い消えることで無と暗みへ侍るという一生涯を辷るにすぎないと訝られるのであった)
(わたしはいつや犬死という終点を迎え、亦無と暗みと云う不在に陰翳として侍る、わたしにはこのような瞬きこそが生であるのだった、わたしたちはその瞬きを久遠の一刹那の一瞬として歌いえたのち亦全体へ還るのみであるか?)
──されどわたし、
ひたむきに、ひっそりと
歌うように生きていたい。
2
さすれば燕よ、燕──
わたしという一書物の黒翼なる頁への投身のイマージュの幾たびを、どうか時々くらいの頻度にとどめておくれ、青く曳くような星霜の流星を血飛沫するましろい幻覚を、どうか時々くらいにとどめておくれ。已めておくれ、その美しい断末魔の断続の乱反射を。時々だけは見せておくれ、その絶世の世にもなきかの無化の一映像を──
*
(かの愛らしいましろの小鳥が他者のために翼を切り落としたというかの幻影風景は、わたしには醒めるような憂鬱で膚を剥がし落すかのようなのだった、その淡きの一音楽のかのような血飛沫の一欠片という──あれは蒼穹の投げ沈むかのような絢爛の弦楽が、しんと淡きの過ぎて霧消を宿命させて了ったてくびを折るかの如くしずけき狂乱の叫喚を、まるで罪の甘さで肌を雨音の潤いで辷らせたがよう──)
──水音の
そっとしたたり落ちるがような沈鬱で、
昇るような風景へ爪立て淪落しながら、
わたし、
一途に ひたむきに、
一刹那の死という無の暗みへ、眸を醒まそう──
*
ところで、燕よ。
白紺縞のかわゆらしい君よ。いまわたしはかなたの風景に在るというあなたを一音楽によってまっしろへ剥がそうとするのだ、なぜそれができるといいわたしは爪立て堕ちるという身体的レッスンを自己に課しつづけてきたから。わたしの爪には銀燦爛の蜘蛛の涙が塗られ肉食獣の眸が燦々としてもいるから、まさかそれを月の反映だと云いはしないけれども。
──されば、生き、切る。
3
(後ろめたい少女たちが地下室でふしぎな関節を折りながら余りに適切なダンスに興じている、これが永遠という一主題の証明を連続し織かさねて往く、なぜといい彼女たちは服を脱ぐような身振で、追憶の方向へしなり糸を引くようにつぎつぎと消えて往くのだから)
無化の一映像