精神分裂

心音

心音
心ってどこにあるのだろう……。
 体の奥、喉の真下?
 心が存在するとすれば、どこに存在するんだろう。
 私は「何もない部屋」で一人考えていた。

――――――――――――――――――――
 蝉の音が騒がしい、でこぼこ道を愛犬のココアと二人普段通り歩く。
 
 それが学校終わりの私の日課。

 散歩してる時は学校の嫌な人間関係、父と母の激しく言い争っていたことなどを忘れるために私は外の世界へ向かう。

 最近、夜もあまり眠れないし考えごとをすると頭が痛む。
 ストレスが溜まってるのかな……。

 「気分転換したい……」
 何かいい方法はないかと考えた結果、その日はいつもと違う道を散歩する事にした。
 いつもと反対側の道を進んでいく。

 愛犬の小屋の前に行くと、私の小さい足音を聞いてすぐにこちらへ気がついたらようだ。

 尻尾を横に振りながらこちらへ嬉しそうに近づいてくる。
 愛犬のココアは1年前に私が河川敷で見つけた。
 ――――――――――――――――――――――――
 その日は小雨が降っていた、嫌な事を忘れたくてぶらぶらと散歩をしていた時に、小さい鳴き声がどこからか聞こえた。
 
 そこにはダンボール箱と、少しだがエサと水らしきものをが置かれていた形跡がある。
 そして中にはうずくまった子犬が1匹いた。
雨に当たって、茶色の毛は濡れていた。

「どうしよう……この子」
 そう思った時、子犬は顔をあげてこちらを一瞥した。
 そしてすぐに小さな鳴き声でこちらに向かって泣き始めた。

「お腹すいたよね、寂しかったたよね……」

 子犬を触るために手を伸ばし濡れた体に触れた。
 その体は寒さからか小刻みに震えていた。

 持っていた傘で犬を多い、ゆっくりと子犬を抱きしめた。
 子犬は抱きしめられて、落ち着いたのか泣き止んだ。

「今日からうちの子になろう」


 犬を抱いてうちに帰って母に恐る恐る見せた。
 重い口をゆっくりと開け
「この子、うちで飼っていい?」
 母は数秒の沈黙の後に
「いいけど……だけど連れて帰って来たからにはちゃんと面倒見なきゃだめ」
「生き物を飼うってことな最後まで面倒を見ること」
「毎日欠かさず、餌と水をやるのよ……美穂に出来る?」
「出来る、最後まで面倒見る」
 母は了承した。
「名前はココアにする」
 その日から私に家族が一人増えた
 ――――――――――――――――――――――――
 愛犬はいつも私の前を元気に尻尾を振りながら歩く。
 元気のない私を勇気をづけるように引っ張っていく。

「こっちきて!」
 その時どこからか声がした。
 咄嗟に周囲を見渡した、しかし誰もいない。

「誰?私に話しかけたの?」
「僕だよ……ココアだよ」
 私は衝撃のあまり声が出なかった。
 ココアが喋っている……。

 そして犬が喋っているという事実を受け入れずにいた。
 その時
「こっち!」
 犬は突然走り出した。
 突然の事が重なりリードを離してしまい、慌てて私も追いかける。
「ココアどこに行くつもりなの?」
 犬は大きな建物の前で立ち止まった。

 近づいて、独特な臭いで分かった。
「ここってたしか……酪農家さんのうち」

 犬は空いてる扉から牛舎の中に走っていった。
 犬を追って私も中に入った。

 中を見渡すと、そこには鎖で繋がれた白黒の牛が沢山いた。
 鎖で繋がれたことよりも衝撃を受けたことがある。
 それはうしの足がメロンみたいに大きく腫れている牛がいることに衝撃を受けた。

「痛いよ、動きたくても動けない……」
 声が聞こえた。

 この声は足が腫れている牛から聞こえているのだと確信した。
「大丈夫?」
 そう声をかけて牛に触ろうとした時、
「そこでなにしてるッ!」
 怒鳴り声が牛舎の中に響き渡った!

 私を見るなり、
「この辺の子か、部外者が勝手に牛舎の中に入るな!ささっと出てけ!」
 そう冷たくあしらわれた。

 私は怒鳴り声に怯えたが、どうしても気になることがあった。
「あの……どうして……この牛の足はこんなに腫れているんですか?」
「痛い……痛い……痛い……」
 悲しい叫び声が頭の中に流れてくる。

「そんなの知るか、経済動物だからな。立てなくなったら廃用だ。」
「廃用?廃用ってなんですか?」
「殺すってことだ!」

イメージしてた酪農との違いに声が出なかった。
 どこまでも続いてそうな牧草地をのびのびと過ごして、幸せな生活の中育った牛乳を私たちは飲んでいる。
 勝手にそう思っていた。
 しかし現実はそういう牧場だけではない、四六時中鎖で繋がれ身動きもろくに出来ない。
 寝て立って餌を食べるだけの牛、床で足が擦れメロンのように腫れた足で苦しみながら生産される牛乳を私は飲んでいる。

「痛い助けて……助けて……助けて……」
 声が響く
「こんなに苦しがってるのに、おじさんには聞こえないんですか?」
「お前……何言ってたんだ……?」
 
――――――――――――――――――――――

 家に着いて一人でさっきの出来事について考えた。

 動物の心の声が私だけに聞こえた。
「昔、テレビで見たような超能力が私にもあるってこと?」
 一体どうして……。
 部屋で一人でうだうだ考えていたが、よく分からない。

「美穂ご飯!降りてきて!」
 その時、母から声がかかった。

 晩ごはんの時間みたいだ。
私は考え事を一旦忘れて階段を駆け降りた。
「お母さん今日のご飯何?」
「今日は美穂の大好きな牛丼!」

「えっ……」
 私の大好物だ、いつもなら嬉しいはず。
 しかし先程の出来事が頭の中から離れず食事に手が進まない。
「食べないの?お腹空いてないの?」
 母は私に何かあったことを察したみたいだ。

「実は私……」

 動物の声が聞こえることを話した。
 私には特別な力があって嬉しいということを話した。

「美穂……今日はお母さんと一緒に寝ましょう」
「私もう中学生だよ?一人で寝る……」
「ダメ!」
「あと明日、お母さんと一緒に来なさい」
「今日はご飯食べたらお風呂に入って早く寝ましょう」
牛丼の牛肉からいい匂いがする。
 普段通り一口、口に運んだ。

 しかし口に含んだ瞬間、あの時の声が脳内でフラッシュバックした。
私は牛丼を戻してしまった。
「お母さん私、今日のご飯いらない」
 その日は空腹だったが野菜だけ食べてお腹を満たした。

 
 そして、特別な力に目覚めたことが嬉しい私はペットと会話して楽しんでいた。
それを母は黙って見ていた。

 ――――――――――――――――――――
 次の日の朝、母親が私をなぜか病院へ連れて行った。
 そして医者から、何があったか詳しく聞かれたので昨日の出来事について話した。
すると医者が
「学校はお休みして、うちの病院に入院しましょう。」
「え?なんで?テストがあるから学校に行かなくちゃ。勉強に遅れちゃう。」
「今はお休みする事が必要です。」

 わたしは咄嗟に閃いた、
「私の超能力を研究するつもりでいるの?」
 医者は返事をしなかった。
 
 ここから逃げなくてはいけない。
 私は病室を飛び出して、全速力で病院の出口に向かって走った。
「ここにいたらモルモットにされる……!逃げなきゃ……」
 私は病室を飛び出した。
 さっきの医者と看護師が大声で「落ち着いて、逃げちゃだめ!」
 と言いながら追いかけてくる。
 私はスピードを緩めることなく出口をそのまま駆け抜けようとした。
 このまま出口を突破しようとした時、車椅子の少年が目の前に現れた。

 このスピードで走っていたら少年に怪我をさせてしまう。
 私は走るスピードを全身の力を振り絞って抑えた。
 少年に覆い被さるように倒れた。
全速力で、ぶつかるのはなんとか避けることが出来たが、少年にぶつかってしまった。
「ごめん。大丈夫?怪我ない?」
少年の安否を確認した。
 驚いた様子で状況が飲み込めないようだった。
 そして私はそのまま大勢の看護師に取り押さえられた。

 
いっそのこと、暴れてやろうかな……

「美穂、落ち着いて……お願いだからママのこと信じて……」
 私は母の声を聞いて、少し安心したと同時に暴れることなく抵抗をやめた。

 そして看護師に囲まれ、なにやら測られた後に注射を一本打たれた。
 意識がどんどん遠のいていくのが分かる。
 私の意識は溶けるよう消えていった。

何もない部屋

何もない部屋
目が覚めた。
「ここはどこ?」
 薄暗い部屋でゆっくりと体を起こし周囲を見渡す。
 どうやら私はベッドに寝かされていたようだ。
 外は車の音が騒がしい……。
 まるで外に出ないように警備しているようだ。

 この部屋にはトイレとベッドだけあった。
 あと部屋の天井の角に監視カメラが一台。
 脱出ゲームみたいな部屋。

 部屋の中をくまなく探してみたが後は何もなかった。
 脱出ゲームとは違う。
 
 昼頃に、ここについてからどのくらい時間が経過したのだろう……。
 ただ部屋の明るさ的に夜なのは分かる。

 ここはどこ?一体何が起こってる?
 部屋の中を考え事をしながら少し歩き回った。
 外に繋がる扉がある。
 鍵は空いていた。
 重たい扉をゆっくり開け、薄暗い廊下に出た。

 部屋を出ると私の部屋は101と番号があった。
 ここはいったい……
 廊下を徘徊していると、他にも部屋に人がいてみんな寝ていた。

 消毒液や薬品の独特な臭いがする。
 ここは一体なんの施設……。

 私とは違うタイプの色々と生活するための物があるタイプの個室に、白髪の老婆が車椅子に座ってこちらをみていた。
 私は用心深く、その人に一歩二歩と距離を縮めていった。
「あの、ここはどこですか?」

 老婆がこちらに気づいて、私の方を向いた。
 本当に優しそう顔立ちをしていた。

「猫ちゃん、猫ちゃんなの?」
「?????」

「にゃあ……にゃあ!」
猫などいるはずがない。
 老婆にしか見えない何かを見ているということになる。
 この人は頭がおかしいのか?
私はこの人から離れて部屋を出た。
 
 徘徊していると、煌々と輝いてる部屋があって、白いナース服を着たおばさんがいた。
 
 「ここはどこですか?」
 「あなた米林さん?今は寝る時間です!部屋に戻って下さい!」
 質問に対する答えはなかった。

 二人が私を部屋へと案内してくれた。
 私は渋々部屋へ戻った。

「眠れないならこれ飲んで下さい!」
「これなんですか?」
「眠れる薬です!」
「怪しいと思ったが私は反抗することは出来ないと思い、渋々薬を飲んだ」

 そして私の意識は薄れていった。

次の日、目が覚めると、ご飯がテーブルに用意されていた。
 いい匂いがする。
 ハンバーグだろう。
 食べようと思ったが考えた、ハンバーグって挽肉出てきてる……。
 その瞬間牛がミンチにかけられている想像をしてしまう。
 食べたくても食べられない……。
 ご飯は白米や野菜、味噌汁は食べられた。

 トイレとベッドしかない部屋に監禁されて2日目。

 定期的にトイレで用を足したらそれを回収しにきてくれる。
 その際に、色々質問してみるがいつもはぐらかされる。
 そんな生活が3日続いた。

 お風呂へは3日も入ってない。
 部屋は適温だが、毎日お風呂に入ることを習慣にしていた私にはそろそろ辛い。


「あの……お風呂に入らせて貰えませんか?」
「ごめんね、今はお風呂はまだだめなの。」
「担当の方の許可が必要で、もう少し待ってね。」

「担当の方はいつ来ますか?」
「明日こちらへ来られます」
「明日……分かりました……」
「何するんですか?」
「あなたの状態を見て、今後の方針を決めます。」

 方針って一体なにをするかは聞けないまま、その人は出ていった。

 翌日、青い服を着た男性が部屋に来た。
 横には昨日の女性を連れて。

男性が軽い自己紹介をした後に、
「あなたには今は休息が必要です。うちにいて頂きます。」
休息?休む?なぜ?
「私は健康なので休む必要はないと思いますけど」
「早くこの部屋から出してください!」
「それはだめです。」
「どのくらいの期間、ここにいる必要はありますか?」
「最低でも3ヶ月は……」
 「3ヶ月?!」
「学校はどうなるんですか?」
 「私受験生で、大学行くために勉強しなきゃいけないんです!」
「その気持ちはわかります。今は少しお休みすることが必要です。」
 「親御さんにもお話はすでにしております」
母が納得してる?母は私の身柄を売ったってこと?

信じられない、母もこいつらも。
「薬を飲んで貰います。」
飲みたくない、しかし3ヶ月の最短で出るには飲まなくてはいけないということを理解した。
 私は渋々了承した。
 
 男性が去った後、興奮して聞き忘れていたことがあった。
この「何もない部屋」からはいつ頃出れるのかそれを聞き忘れていた。

 一人で「何もない部屋」にいるのは本当にすることがない。
 やる事がなくてトイレットペーパーで鶴を折ろうと思ったけど、鶴の織り方を忘れてしまったので断念した。
 紙飛行機を作ったが、トイレットペーパーで作ったため柔らかく、とてもじゃないが飛ばしてみたが飛ぶ事はなかった。

スマホを弄りたい……大好きな音楽を聴きたい……

隣の部屋からなにやら音が聞こえる。
 これはラジオだ……。
 私は壁に耳を当ててラジオを盗み聞きした。
 最近流行りの音楽が流れていて、心が落ち着いた。
 
 後日、頭に線をたくさん繋いで脳波みたいなのを測定したり尿を出してと言われたり血を取られたりした。
MRI?みたいなものを初めてとった。
 初めてだったが狭い空間だったし音がとても大きくて少し恐怖を覚えた。

 「何もない部屋」での唯一の楽しみは囚人みたいだが、ご飯の時間。
 相変わらず、肉は食べれないから残してるが最近は食欲が増えて本当にお腹が空く。
 食事の時間が待ち遠しい……。
魚などは食べれることが分かった。
 牛や豚、鶏などのは食べたら気持ち悪くて戻してしまう。
 
 早くこの「何もない部屋」から出るために、検査などはしっかり受ける。
 
何もやることがない……そんな時はここを出て自由になった時のことなど考えていた。
 この動物と会話する力がはなんの役に立つのだろうか……。
 動物虐待などを見つけて、恵まれないペットを救う事が出来る。
 ここから出て自由になったら。
 私は世界の英雄になろう……。

「美穂さんお母さんと電話することが可能ですか、どうしますか?」
 突然話しかけれたのもがあるが、かなり動揺した。

 母と電話……。
 私をここに無理やり入れた母と電話……。
正直、口を聞きたくないが、愛犬のココアが元気にしてるか、外に出たら一応通う学校のことなど確認していきたいことがある。
私は母と電話することにした。
 
数日ぶりに「何もない部屋」から出る事が出来た。
 最近では全く見慣れない公衆電話があり、そこに十円を一枚入れて電話をかける。

 母の携帯の番号は、いつもトイレを替えてくれる人が紙に書いて教えてくれた。
 私はその番号を使い慣れない公衆電話にゆっくりと打ち込んだ。

 数回コールを鳴らしたら、母が電話に出た。
「私……美穂だよ……」

「美穂なの?体調は元気かい?」
「元気だよ……」

 色々聞きたいことがあった。
「ココアは元気にしてる?」
「安心して、特に変わらず元気だよ」
「よかった……」
 心の底から安堵した。
「私の大学受験のことなんだけど、1か月間休んじゃったんだけど、どうなるの……?」
「今年、1年間はお休みしようね」
 母はいつも以上に優しい声がでそう言った。
 
「出席日数足りないもんね……」

 学校へ行きたくない時はたまにサボっていた……
 その影響もあって、何か月間もここにいると高校は休学せざるを得ないみたいだ。

「私の能力についてなんだけどさ……」
 「私の能力を使って、困ってる動物を助けたと思ってる。ここを出れるようになったらお母さんに協力して欲しいんだ……」

 「困った動物たちを救いたい……それは立派な夢だね」
 「だけど、そのために早く元に戻れるようににゆっくり休むんだよ」

 混乱した。
 その時に電話ボックスの横に何か文字が書いてあるのを発見した。
 
精神病棟SOSサービス?
 精神病棟でなにか困ったことがあったら電話するということ?
 ここって精神病棟?
 
 母が喋っていたが会話の内容がしばらく頭に入らなかった。
――――――――――――――――――――

 ここは精神病棟……。
 私の頭はおかしいの?
 そんなずはない。
私は至って正常だ……。
 私は精神異常者ではない!

 ――――――――――――――――――――


この部屋は日光を遮断するガラスみたいなのがあり、常に薄暗い。
 
 日光を浴びていないと本当に気分が落ち込む。
 懇願して、1日10分だけ日光を浴びさせて貰えるようにお願いした。
 その結果、1日10間日光欲をさせてもらえる事になった。
 もちろん人が見張れる場所で、病棟の中でという条件付きで。

 日光を浴びないと思考がどんどん、ネガティブになる。

 
 安静に過ごしていたからか、本を差し入れして貰えるようになった。
 本なんていつぶりだろ。
 小学校の頃読んでた、怪談レストラン以来。
 普段はスマホばかり弄ってるから全然読まない。
色々と考えすぎて疲れた、脳みそには良さそう。

 私は知る人ぞ知るだろう、有名な作家の本を一冊手に取り、本を開いた。

 読み始めて気づく、全然読めないあれ?
 集中できない。
 面白くない。
 何故?

 そうだ……旅行の雑誌があった。
 私は旅行の雑誌を見た。
 自由になった後に行きたい場所がある。
 想像を膨らませて楽しんだ。

 
 この不自由な暮らしにも若干慣れ始めた頃、医者に集団部屋に移っても大丈夫と言われたので、
 集団部屋に移動した。

集団部屋に移動してからは、お風呂は平日は毎日入れるようになった。
 集団部屋になってからのお風呂の時は、付き添い人がいなくても大丈夫になった。

 風呂を終えてドライヤーで髪を乾かしている時に、発狂して壊れた女性が「何もない部屋」に入っていくのが見えた。
 私が最近まで入ったいた部屋。
 
 あの人と同じところに入っていた、自分が怖い。


 そして集団部屋に移ってしばらくしてから、医者から退院しても大丈夫と言われた。
ただしっかり薬を飲むように強く言われた。
 本当に薬なんて飲む必要あるのかな?と思う自分と飲まなきゃまた、「何もない部屋」に入れられるから飲まなくてはいけないという考えが葛藤した。

 そして最近気づいたことがある。
 最初は気のせいだと思ってけど、看護師さんが退院が決まってから話かけてくるようになったり。
 少し優しくなった気がする。
 
 退院予定日はここに入ってから約3ヶ月。
 最短で出る事が出来たのはいい事だ。

 
 集団部屋にいるとテレビを見れるがテレフォンカードで見るため、お金かかるって思ってすぐ点けてはあんまり見ないで消してしまってた。
 テレフォンカードの時間が沢山残ってるので、退院までに使い切りたいという貧乏性の性格が出てしまい。
 テレビを流しっぱなしにした。
 もうここに来ることはないだろうから、これでいい。
 
 退院が決まってからおやつは自分で考えて計画的に食べていいよと言われた。
 私は毎日15時の時間に少量を食べていた抑圧から解放された衝動で菓子パンやチョコを飢えた獣のように無心で貪るように食べていた。
 食欲が増加している気がする。

 
 そうして退院の日。
 今日から私は今までの生活に戻ることになる。

 退院の受付をした時、1枚の髪が配られた。
 精神科アンケート用紙と書かれていた。
 看護師が急に少し優しくなったのはそういうことか……
 
 アンケートは提出する気にならなかった……。
 
 

 

 

シャバの空気

シャバの空気
車の中で、母と会話はなかった。

 エンジンの音だけが車に鳴り響く。
 
 母は私になんて話しかけていいか分からないのだろう。
 私もなんて話しかけていいか分からない。

 友達に連絡するために携帯が弄りたい。
「お母さん私のスマホ持ってきてる?」
「音楽聴きたいから貸して欲しいんだけど」

母はスマホを私に渡した。
嘘をついた。
 音楽を聴きたいのもあったが、本当は友達に連絡したかった。

 唯一の友達、雪菜に連絡したい。
 携帯を3ヶ月ぶりに開いた。
そこにはラインの通知がびっしりときてきた。
 そして案の定雪菜からラインが来ていた。
心配するライン、そして最後に送られて来た文章は
「美穂のお母さんから話聞いたよ……無理せずに自分のペースでゆっくりでいいからね」
 困惑した。
 
「雪菜、私は動物の声が聞こえるようになったの。」
「そして、この力を使って何か出来ることはないか病院で考えた、私は動物虐待に苦しんでいるペットを救いたい。」
「雪菜にも協力して欲しい」

 ライン送った。
 すぐに返信が来たので私は直ぐに携帯を開いた。
 
「たしかにいい夢だね……協力したいけど、動物の声が聞こえるのは普通の人じゃありえないよ」

 
 自分が普通ではないのか?
 そんなはずはない。
 ただ私が本当におかしかったら、精神病棟に入っていたのも理解できる。
 私は精神異常者なの?
 
「私はどうしてあそこに入っていたの?」
 恐る恐る母に聞いてみた。

 少しの沈黙の後、母は口を開いた。
「心の病気みたい」
「美穂はね、統合失調症という心の病気になってしまったの……」

「統合失調症?」
 病気?私は病気なの?
だから私は精神病棟に入院させられていた?
 
「お医者さんから聞いたんだけど、この病気は強いストレスがかかったりする事で発症する病気。」
「人によって症状は異なるみたいなんだけど、美穂の場合、幻聴の症状があったみたいなの」

「私は病気なんかじゃない!あの声は本当に聞こえたの!ココアと牛さんは本当に喋った!」
そう母に向かって叫んでしまった。
 
「妄想もこの病気の症状の一つみたいなの」
「ただこの心の病気は幻覚と妄想の区別がつかなくなったりして一生引きこもりになるかもしれない病気」
「美穂が無事退院してくれてよかった……」
「この病気になるくらい無理せてしまってごめんなさい」

 母は運転しながら私に謝罪した。
 そこから車の中で会話はなかった。

 私は確かめたいことがある。
 
家に着いた後に直ぐに、すぐに愛犬のペットの元へ向かった。
 あの声が聞きたい、私は精神異常者ではない、世界を救う英雄だと信じたい。
 そのためにココアの声が聞こえれば私の意見は正しいことになる。

 3ヶ月ぶりに会った愛犬の姿と態度はいつもと変わらず、私を天使のように迎えに来てくれた。

 見てるだけで癒しを感じる。

「ココア久しぶりだね。」
 私は愛犬をゆっくりと撫でた。
愛犬はそれを受け入れる。
「ココア、あの時のこと覚えてる?」
「あなた喋ったよね?」
今ここで喋って欲しい……そうすることで私の主張は間違ってないと認めて欲しい。
 しかし愛犬から声が聞こえることはなかった。

 ――――――――――――――――――――――
1人部屋で病気についてネットで調べた。
 声が聞こえたのは病気……。
 
聞こえた声は家族の前では幻聴ということしているが私は信じている。
 あの声は本物だったと。
 動物の心の声が、私には聞こえる。

 私は動物達を救う……。
 

 

神様の悪戯

神様の悪戯
意識が覚醒した。
 「ここはどこ…………」
 ここは以前に来たことがある。

「何もない部屋…………」
 再びこの部屋に戻ってきていた。
 
身体を動かそうとしたが動かない。
 お腹の周りにベルトが固定されている。

 曇りガラスから入ってくる光の量から夜ということは分かった。
 
「トイレにいきたい……」

 時計も何もない部屋では時間が経つのを恐ろしく長く感じる。
 尿意の限界が近づいて来た時、入口の鍵の鳴る音がした。
 そうして一人の看護師が入って来た。

 「トイレに行かせてもらっていいですか?」
「トレイはオムツでして下さい。」
「終わったら交換します。」
 そう言って出ていってしまった。

 前回と違い、今回は拘束されている?
冷静に状況を俯瞰した。
 
 トイレすら満足に行かせて貰えない。
 私は紙オムツの中に排尿を決意し、下腹部に力を入れた。

紙オムツの中に温かい液体が染み込んでいく。
 そつして、初めての紙オムツでの排尿をした。

 私はなぜここに入っているの分からない。
 
――――――――――――――――――
 高校在学中に猛勉強をして、北海道の動物看護師を目指せる大学に私は入った。
 初めての土地、初めて嗅ぐ春の匂い、愛犬と共に新天地へ進んだ。
 ゼミの自己紹介では緊張してしまい自分から話かけることが出来なかったが、拓哉という男の子に話しかけられた。
 最初は話すのに緊張したが、彼の爽やかな笑顔と巧みなトークによってすぐに心を許せる存在になった。
 そんな拓哉に友達があまり、出来てないことを相談すると
「サークルに入れば自然と友達が沢山出来る!俺サークル沢山掛け持ちしてるよ」
 と言われて、拓哉に誘われた旅行サークルの新入生歓迎会に行くことにした。

 そのサークルはいわゆる飲みサーというやつで毎晩飲み明かした。
 彼と身体の関係を許したのは自然なことだったと思う。
その時、愛犬が恐怖に怯えている姿が脳内にフラッシュバックした。

 こちらを見て、弱った体から最後の力を振り絞り抵抗しようとしている姿。
 冷や汗が止まらない。
 何があったか思い出すのは、まるでパンドラの箱を開ける事のように絶対に思い出してはいけない事。
私はその時、全部思い出してしまった。

 声にならない声をあげて、嗚咽を漏らしながら泣いた。
――――――――――――――――――――――
 身体の関係を持ってからの彼の態度の急変。
付き合ってるのか付き合ったないのか、よく分からない曖昧な関係。

 次第に避妊をしなくなり、最初は嫌だったけどそれに慣れてしまって考えることを放棄したこと。

 そして生理が来なくなったこと。
妊娠検査薬でおめでたい反応が出た。

 とても嬉しかった……
これで、彼は私のことだけを見てくれると思った。
 彼に報告する時迷いはなかった。
 二人でこの子を育てていこう。
 そんな言葉を待っていた。

 しかし彼の反応は違った。
 大事な話があると言った時、会った瞬間の態度はピリピリとした雰囲気を感じた。

 「大事な話ってなに?俺忙しいから早く行かなきゃいけないんだけど」
開口1番に聞かれた。

 私は陽性反応について彼に告げた。
 
彼は驚きはしなかった。
 ゆっくりと私に近づいてきた。
「産みたいの?」
 そう一言私に告げた
「産みたい、この子と一緒に幸せになろ………」
 
 私の言葉を聞いて、喜びの言葉をかけて抱きしめてくれると思った。
 私も彼にゆっくりと近づく。
 キッツイ香水の匂いが鼻腔を通過する。

 次の瞬間、彼は右腕に力を込めて私のお腹に向かって殴りかかってきた。
 本能的に、なんとかお腹を手で守った。
 そしてそのまま床に倒れた。
 ひんやりとした冷たい床の温度と緊迫した空気を身体で味合う。

 突然の事で彼が何をしようとしているのか分からなかった。
 ただ、彼は一つの命の誕生を喜んでいないの確かだった。

 一つの命を右腕で掴み、消し去ろうとしている。
 そこからは必死にお腹を守った。

 お腹を守るために背中を向けて丸まった。
しかし攻撃は治らない。
 濁流のような言葉の暴力と身体的な暴力。
 
 渾身のパンチの次は、本気の蹴りが飛んできた。
背中に鋭い激痛が走る。
 この子を守らいといけないと思ってる。
必死に、攻撃を止めるように叫んだ。
 しかし言葉は届かない。

 次第にお腹への攻撃が不可能と感じたのか、彼は攻撃を辞めた。
 その隙に逃げたそうと頭を上げた時、頭に向かって蹴りが飛んできた。
 私はそのまま意識を失った。
 そこから袋叩きにあったんだと思う。

 次に病室で目が覚めた時、私の手を握りながら涙を流す母の姿があった。
母は言葉が出ない様子で目からぼろぼろと涙を流しながら泣いていた。
 
 どうやら近所の人が騒音を聞いて、通報してくれたみたい。
「赤ちゃんは?無事なの?」
 母は私の問いには下を向いて答えなかった。

 私が意識が失った後何をされたかは想像するだけで最悪が予想できた。

 私は彼との子供を、彼の手で失うことになった。

 母ひ大学を1年休学して実家で療養することを提案され了承した。
 
 愛犬だけが心の支えになった。
しかし愛犬は人間でいうと、かなりのおばあちゃん。
 日に日に睡眠時間が長くなっていった。

 床に伏せる時間が長くなっていく……。
 
 私は葛藤した。
 薬を飲まなければもう一度あの声が聞こえる。
ここでもう一度考える。
 私は本当に病気なのか。
 そんなのはどうでもいい……。
 もう一度愛犬の声を聞いて感謝の言葉を最後に聞きたい。
 
私はこの日から薬を経った。
 家族には飲んでいると嘘をついた。

 そうして、私は愛犬の声を聞くために一日中寄り添った。
 家族のいないところで何度も何度も何度も話しかけた。

 そして奇跡といか必然的な事が起こる。
 その時は家族が仕事で外出していた。
 いつも通り愛犬に寄り添っていた。

「いつもありがとうね……私はとっても幸せ者。」
 愛犬の様子はいつも通り変わらない、しかし愛犬の心の声を聞く事が出来た私は嬉しくて堪らなかった。
「私もあなたがいてくれたから心の支えになれだよ」

「最後に一つお願いをしてもいい?」
「私を……食べて……」

「私は神様の使いアラビシアン、私を食べる事であなたの中に神の力が宿り私と共に苦難を乗り越えていける」

 私は戸惑った。

「食べるってまだ生きてるの?」
「本当にいいの?」
「いいよ、私を食べて。生きているうちに食べなきゃ意味がないんだよ。」

 私は愛犬をそっと抱き抱えた。
昔と比べて軽くなった愛犬の重さ、そして排泄を自分でする事が出来ないので排泄物の臭いがした。

「まずは儀式を始めよう。」
「人差し指をくるくる回し、白目を剥きながらアランコレビアンと言ってそこからはなるべく早く私を食べて」

「いかに速く食べれるかどうがで私と同化出来るか、かっているよ」

私はなんの疑いもなかった。
 疑う事が出来なかった。
 
 統合失調症は病識を持つ事が難しい病気だと言う。
 私はこの言葉を甘く見ていた。

 私は人差し指をくるくる回し、白目を剥きながらアランコレビアンといい、愛犬に齧り付いた。

 愛犬は痛みで目が覚めたのか最後の力を振り絞り必死に対抗していた。
老衰が近い犬だか、想像出来ないほどの甲高い大きい声で泣いた。
「大丈夫だよ、全て食べ切って」
 声が応援してくれる。
 私は愛犬の頭の骨を思いっきり齧った。
 ゴリっという音がした。
 歯がかけたみたい。
 
 骨は硬くて砕けないので、柔らかい部分に思いっきり噛みついた。
「ぎぎぎぎ……」
 愛犬は痛みでジタバタと暴れまわる。
 私は愛犬に引っ掻かれて傷だらけになりながら愛犬を全て捕食した。

 食べ終わった後
「おめでとう、これであなたは神の使いです。」
 私はとても嬉しく、高揚感に満ちた。


 その時母が帰ってきた。
母は私の血と糞尿に満ちた姿を見るなり、すぐにどこかに電話をかけた。

 するとすぐに警察官がやってきた。
 
 声が聞こえる。
「これはあなたの力を試すための試練です」
「あなたなら勝てます。戦って下さい。」

 私は今の自分なら出来ると思い、包丁を口に咥え警察官に向けて攻撃をしようとした。

 「私の力を見せつけてやる!」

 しかし警察官が5人いて、そのうちの一人目に呆気なく拘束された。
 あれこの人たちも神の使いなの?

 私はそのまま完全拘束され病院に送られた。
――――――――――――――――――――――
完全に拘束されてるため指先しか身体が動けない。

 ただ今まであったこと全て現実と思いたい。
 どうか現実であってほしい。

 私は手先は動くので、人差し指を立ててアランコレビアンと白目を剥きながらぼそっと呟いた。
 しかし、何も起こらかった。
 
 


 

精神分裂

精神分裂

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 成人向け
  • 強い暴力的表現
  • 強い性的表現
更新日
登録日
2024-07-25

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  1. 心音
  2. 何もない部屋
  3. シャバの空気
  4. 神様の悪戯