星が宇宙に沈んだ日

 気がつくと、おれは宇宙に投げ出されていた。
 ひやりとしたものが辺りを包み、そこを重力に逆らった身体が通り過ぎていく。息はできないはずなのに、おれが口から何かを吐き出すたび、いちめんの星が揺らぐように瞬いた。
 だが、おかしい。微かな記憶を辿るに、おれは海の中にいたはずなのだ。どこか海の向こうの国へ行く途中、乗っていた船が突然に壊れ、そのまま沈んだ。多くの乗客のひとりであったおれも海に沈められ、ここまでかという諦念の中に意識を失った。そうして、今に気がついたところだ。
 とすれば、ここは海の中なのだろうか?たしかに、身体を包む冷たい空気のようなものや、おれが吐き出し続けている泡のようなものを見ても、ここは海中らしいと思うことができる。それでも――なぜか、おれの直感のようなものは、ここは宇宙だと言い聞かせてきた。
 ここは宇宙。おれが元々いた星からも、世界からも遠く離れた宇宙。あまりに距離がありすぎて、もう戻ることはできない。そういった感覚が頭を、心を埋め尽くすと、初めから力がかからなかった身体から全てが抜け落ちた。そしてそのまま、沈むように遠ざかっていく身体が、進行方向へと速度を大きくしていった。
 ――どこへ?おれの身体は、どこから、どこへ遠のいていくのか?おれは堪らず目を見開いた。視線の先に、眩いほどの白い光が四方八方に乱反射しているのが見えた。その光は、身体が進んでいく方向とは逆向きに小さくなっていく。鑑みるに、おそらく光があったところがおれのいた場所なのだろう。さらに瞳のレンズを絞ってよく見た。すると、白い光のそばに、青色の小さな光が、ぽつんと閃いたような気がした。一瞬間に見たその青は、力の抜けていたおれの身体に、心に再び希望を灯した。きっとあの青が、おれが乗っていた船だ。あの光の方へ、青の船へ行きたい。おれは、身体の向きを変えようと、必死に腕を掻き分けた。
 突然。白い大きな光が、視界を奪うほどにぱっと明るく輝いた。おれは思わず、目を固く閉じてしまう。その時、おれの脳裏に聞いたこともない声が響いてきた。
『これは罰だ。ちくしょうめ。泡となって消えるか、塵となって燃え尽きるか。せめて最期ぐらいは選ばせてやる』
 悍ましい声に、おれはなぜか再び目を開くことができなかった。身体は無重力に任せて、どんどん沈む。閉じた瞳の裏にまで及んだ白い光から、身体も、心も遠ざかっていった。

星が宇宙に沈んだ日

✳︎本作品は、以前投稿していた『二重連星掌編集』のエピソード(チャプター)を加筆修正し、投稿したものです。

星が宇宙に沈んだ日

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-07-24

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