コメディ・ラブ

まだ、書きかけです。一日一回の更新目指しています

山村美香(27)は山奥の小さな村で、ある日いまをときめくイケメン俳優晃と出会う

ここはとある県のとある山の中にある小山村という村だ。

地味な名前から想像できる通り、我が村の自慢は大自然だ。まあもちろん大自然だけを売りにする我が村にはこれといって何の産業も観光地もないし、主な公共施設は役場、駅、小・中学校が一つずつあるだけだ。

それでも私を含め、村の人達はまあまあ楽しく生活している。(と思う)

正直、この村にいると服装なんてどうでもよくなる。この村に来る前までは服装に気を使っていたような気がするけれど、今日もジャージ、明日もジャージ、明後日もジャージだ。

自己紹介が遅れたけれど、私は山村美香、27歳。職業は小学校教師をしている。

もちろん今もジャージ着用中。日焼け対策に近所のおばちゃんからもらった農作業帽子をかぶり、村自慢の小山川で獲物を捕獲している最中だ。

6月なのに、このくそ暑い日には、くるぶしほどの水位の小山川は水が冷たくて気持ちいい。

今日は獲物がどんどんとれる。いい調子。よし、もう一回、そう思い再びしゃがみ込んだ、その時。

「お母さん」

遠くから誰かが叫ぶ声がする。誰か若者が里帰りでもしてきたのだろうか。

「おかあさーん!!」また叫ぶ声がした。

声がどんどんと近づいて来る気がする。

「おかあさーん」

ひょっとして私?そんな馬鹿なと思いつつも振り向くと、30代ぐらいの都会風な男が駆け寄ってくる。その後ろからテレビカメラ、撮影スタッフらしき人が小走りについてきている。

「お母さんこんにちは」

都会風の男がさわやかな笑顔で話しかけてくる。

「お母さん?」

この男は芸能人のようだ。しかしそんなことどうでもいい。

今まで感じたことがないような怒りがふつふつと沸いてきた。こっちのことはお構いなしに芸能人風の男が両手
を広げて大げさにアピールする。

「素晴らしい大自然ですね。マイナスイオンが気持ちいい。ねえお母さん」

体中から殺気という殺気を放出しながら言った。

「……私まだ27でお母さんでもありませんが」

芸能人らしき男が慌てながら色んなことをごまかそうと言う。

「あっすいません……いやあ太陽が眩しすぎて顔がよく見えなかったな」

「今曇ってますけど」。

凍りついた雰囲気をなんとかしようと、芸能人風の男は自分の顔を得意げに差しながら尋ねてきた。

「そ、そういえばぼくのことご存じですか?」

不審に思いながらも芸能人風の男の顔をみる、何か思い出した気がして。

「あっ」と言ってはみたが、やっぱりわからない。

けれども、さも当然かのように芸能人風の男は答えた。

「気づいちゃいました?参っちゃうな~」

やっぱりどれだけ考えても知らない。

「やっぱわかんない。」

芸能人風の男はテレビ番組のように大げさにこけた。なんだこの男は。もう相手しているのも面倒になったので

「ちょっと邪魔だからむこういって。はいカメラさんごめんね」とカメラの前を通り過ぎ、川岸近くでピンセットを取り出ししゃがみまた作業に取り掛かった。

芸能人風の男はむっとしたように見えたが、営業スマイルを見せ、再び近寄ってきた。

「お姉さん、今何してんですか?」

「虫とってんだよ」

「虫?虫?なんの為に?」

「食べるためだよ!!!」

「ひえ!」

芸能人風の男は驚きのけぞった。つくづく大げさな男だと思った。もうこいつに関わりたくない。

「……この地方はみんな食うんだよ」

芸能人風の男はカメラの方を急に振り向き報告をし始めた。

「緊急事態です。虫を食べる人を発見しました。まさかこの現代の日本に虫を食べる人がいるなんて」

自分の中で何かが切れた。

「虫食べて何が悪いんだよ!?この村の食文化馬鹿にしてんのかよ!」

男は必死に首を左右に動かし答える。

「馬鹿にしたわけじゃないんですよ。」

男は再びカメラのほうを向き小声で報告した。

「変な人とあっちゃいました~♪」

年齢と共に穏やかになったとはいえ、このウルトラスーパー短気な私にはもう限界だ。

私の怒りを察したらしく、男はふざけたポーズをとり、さらに畳み掛けてきた。

「ごめんなちゃいちゃい」

「ふざけんなよ」

自分が怒ってることをとりあえず知らせたかったので、お決まりの指をポキポキならしながら男に近づく。他のス
タッフ達はおろおろしているがそんなこと関係ない。

男は後ずさりしだした。

「おい、待て、俺は天下の晃だぞ、5000万人が真実の愛に涙した伝説のドラマ、ラブアゲインの主人公なんだ
ぞ」


「ぷっ。何だよ。そのドラマ知らねえな。っていうか真実の愛?ってなんだよ」
男があまりにも陳腐な言葉を当然と口に出したので、思わず吹いてしまった。

「真実の愛は……真実の愛なんだよ」

私は心底愛だの恋だのいう人種が嫌いだ。心の底からこの言葉がでてきた。

「くだらねえ。なんだよその陳腐なドラマは?」

段々と男もイライラしてきているのがわかった。上等だ。やってやる。

「……fランクの女が俺のこと馬鹿にしやがって。」

「fランク?」

マネージャーらしき男がダメダメと晃に合図を送っている。

「そんなこともわかんねえのか。お前みたいな、不細工で性格も悪い女はな、最下位のfランクなんだよ」

美香は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。わかっちゃいるけど、改めて言われるとこれほどショックな言
葉はない。

「晃さんやめてください。一般の方ですよ!」マネージャーらしき男が必死に叫んでいるのが遠くで聞こえる。

「ついでに言うと、Fランクの女達は俺としゃべることすらおこがましいんだよ。」

その言葉で我に返った。天罰だ

「最低な男だな。鏡でもう一回自分を見てみろよ」言い終わると同時に男の肩をそっと指で押してやった。

「うわぁ」普段なれない川にいるであろう男は案の定後ろに倒れた。

ばしゃーんという大きな音が周囲に響き渡る。

スタッフ達が晃さんと叫んでいたがもう遅かった。男は川に見事にしりもちをついていた。

「次はこんなもんじゃ済ませねえからな」

スタッフ達が慌てて駆け寄る声が聞こえてきたが、捨て台詞を吐いてその場から立ち去ってやった。
まあこれ以上のことをする勇気もないけど、、もう2度と会うことはないだろう。

2人の男女が断崖絶壁の崖の上で夕暮れ時のオレンジの太陽に照らされている

ここは自殺の名所で有名な断崖絶壁のある海である。太陽が地平線に半分隠れており、あたり一面がオレンジ色に染まっている。


女が崖の上から海を見ている。その後ろから男が追いかけてくる。


「おい待てよ!」


女が悲しみに満ちた表情で答える。


「あなたにいいなづけがいたなんて。…」

「俺にはお前だけだ。」


「だめよ。どんなに愛しても決して私達は決して結ばれない愛なのよ」


女は男から去って行こうとする。


「待てよ」男は女の腕を掴む。


「私は借金まみれの使用人の娘よ」


「俺はそんなの構わない。」


男、女を抱きしめる


「お父さんの借金が3億もあるの」

男が驚いて答える


「たった3億だけ?」


「えっ」


「たかが3億ぐらいすぐ返してやる。なんてたっておれはK財閥の社長」


石の上に片足を乗せ決めポーズをする


「本当に?ありがとう」


女は泣き崩れる


次第にテレビの枠が見えてきた。これは現実ではなく勿論ドラマだ。


画面の右下には続くとの文字が現れる


自分の部屋で友人の佐和子、哲也の三人でドラマ、ラブアゲインをみていた。


私はテレビを消して壁によりかかり、吐き捨てた。


「これの一体何がおもしろいんだよ。」


哲也も首をかしげながら言った。


「女の人は好きなんじゃないか」


すると佐和子がハンカチで涙を拭きながら満足そうに答える。


「うん、大好き」


私はそんな佐和子の様子を見ていたら、やっぱり女ってちょっと馬鹿なのかもしれないと思い何だか無性に腹
がたって言ってやった。


「ふーん。恋だの愛だのくだらねえことで公共の電波使うんじゃねえっつうの。」


この憤りを表現する為に思いっきり煎餅をかじってやった。


すると佐和子が世にも余計な超どうでもいい昔のことを言い出す。


「くだらねえっていうけど、美香ちゃんだって昔てっちゃんにラブレター書いたことあるんでしょう」


私は思わず食べていた煎餅をのどにつまらせて咳き込んでしまった。


哲也も動揺して意味もなく立ち上がっている。微妙な空気が流れる。


どうしよう。この場をなんとか乗り切らなければいけない。


「まぁ……そのおかげで恋とか愛のくだらなさに気づけたよ。てっちゃんありがとう」 


わざとらしくふざけて哲也に手を振ってみせた。


哲也は何か言いたげな表情でこっちをみているが、知らない。


そうだよ、身の程知らずにクラスの人気者のあんたに告白した私が悪かったよ。


気まずい空気を察して佐和子が話を変えた。


「それにしても、晃っていい男」


あいつの話か。


「この間週刊誌に8股かけてる現場とられてたよ。女の敵だ」


もう一度怒りが沸いてきたので煎餅を思いっきりかじりとってやった。


すると哲也が小さな声でつぶやく。


「かけるほうもほうだけど、ついてく女もどうかと思うぞ。」


佐和子が不敵な笑みを浮かべて言った


「ふふっ、いい男はねみんなでシェア  した方が、多くの女にいい男がまわってくるのよ」


開いた口が塞がらない。


哲也は得意げに言う


「ほらっみろ。」


思わず黙りこんでしまったが、そうそうこれだけは聞いておかなければならない。


「それで、どうしてこいつが村にいたんだよ」


佐和子も興奮して尋ねる


「そうそう。気になるわ。もしかして……」


哲也は急にもったいぶった話しかたになる


「実はな」


私と佐和子が息を呑む。


「なんと……今度このドラマの映画版のロケが……小山村であんだよ。一ヶ月泊り込み」


私と佐和子は一斉に同音異義語を口に出す。「えーーー」


私が下の音域、佐和子が上の音域だ。


「この間美香が晃さんに会ったのは、その宣伝番組とってたんだ」


興奮して立ち上がる佐和子


「いやー!!晃と何かあったらどうしよう。やだ。もう。想像しちゃう。あーっも」


私と哲也は佐和子に言った


「ないないない」


哲也は感動しながら言う。


「すごいだろ!!俺はこの村がようやく日の目を見るかと思うと泣けてくる」


佐和子は嬉しそうに拍手をしていたが、私はどうでもいい。面倒なことになりやがって。


「どうでもいいわ」


今の気分を表現する為に煎餅を最大の音をたててかじってやった。


しかし、佐和子がまたお花畑なことを言い出す。


「もしかしたら晃と付き合えるかもしれないのに」


私が現実を教えてやらなければ


「佐和子ね、芸能人と恋に落ちるってないないない。ありえない。ベタすぎる。昭和の少女漫画かって!」


佐和子がようやくトーンダウンして座った。


哲也は相変わらず「この村はな」と自分と村によっている。


あーあ、映画のロケなんて早く終わってとっとと帰ってくれればいいのに。


めんどくせえよ。

俺、晃さまが小山村に来てやったぞ

着いたのか?3時間も車移動だったから体が痛い。窓のカーテンから外を覗く。

本当に何にもねえくそ田舎だな。やだやだ。俺は生まれも育ちも東京。ダサくてイもくさいものは嫌いだ。当然な

がらこの村も嫌いだ。あぁー全部映画の為だ。我慢しろ俺。

この間の凶暴女がまたまとわりついてきたらどうしよう。

あー早く撮影終わって東京帰りたい。

再び外を見ると、スタッフ達が荷物を降ろし、懸命に撮影現場を作っている。

村人達も沢山見学に来てる。それにしても絵に描いたようなダッセー村人だな。コントかって。

ため息をつきながら、座席にもたれかかると同時に監督が挨拶する声が聞こえてきた。

「きょうから小山村にお世話になることになりました。村のみなさんよろしくお願いします」

村人達が拍手をして喜んでいる。そろそろ俺の出番か。

ロケ車からゆっくりと登場し、サングラスを外すと歓声が巻き起こる。わかってる、俺かっこいいよな。

「晃さん。お久しぶりです。小山村役場観光課の小村哲也です。」

「おお、課長。久しぶり」

「一か月全身全霊でロケ隊をお世話させていただきます。よろしくお願いします」

課長は深々と頭を下げる

俺は、かっこよく「よろしく」と手をあげてやる。歓声が再び巻き起こる。わかる!俺かっこいいもんな。

「あーいつきても、ここは山しかねえな。あっちをみても山。こっちをみても山。そっちをみても山。ってあれ?電波がない?まじかよ」

携帯を左右に振ってみるが無駄だ。

すると課長が自慢げに言った。

「うちの村は大丈夫です。時々はつながりますよ」

課長の顔を見ると、満面の笑みでOKサインを出している。こいつはなんて馬鹿なんだろう。この俺の携帯が圏外ってどれほど恐ろしいことが教えてやるが、事がことだけに小声で喋る。

「あーマジかよ。せっかくKKBのみさきちゃんといい感じにメールしてたのに。」

「KKBって今人気絶頂の……さすがですね。」課長はとてもびびっていた。

「だろ?」すると俺のマネージャーの義信がすかさず止めに入る

「晃さん、週刊誌にとられたばかりですし……」

が俺は気にしない。気分が乗ってきた。
「ついでにいうとKKBの洋子ちゃんと牧子ちゃんはこの間まで付き合ってた。」

「洋子ちゃんに牧子ちゃんも」課長は開いた口が塞がらないぐらい驚いていた。そうだろう。

「晃さん。社長にちくりますよ」と義信が怒る。

「わかったよ。」

俺はしぶしぶやめた。

その時、優海ちゃんとマネージャーの牧子が歩いてくる。

「あっ優海ちゃん、久しぶり」俺は必殺の晃スマイルで手を振った。

しかし、優海ちゃんと牧子は軽く頭を下げて、その場を通りすぎてった。あの冷たい所もまたいいな。たまんねえ

「優海ちゃんもねらっちゃおうかな」

と言うと、義信が必死の形相で止める。

「お願いですから」

「わかったよ。」

すると、義信が余計なことを言い出す。

「例の週刊誌で晃さんのブログに非難のコメントが殺到してるんです」

こんなくそ田舎に住んでいる課長もあの週刊誌のたった一回の記事を知っていた。

「あー8股の」

「非難してるのは、どうせ不細工なFランクの女達だろ。そんなに俺と付き合ってほしいか」

「晃さんが今しゃべってるのは全部内密にお願いします」

義信が悲しそうに言う。

「……はい」と課長はため息をもらした。

きっと、俺のことがうらやましくてしょうがないに違いない。

「晃さん、次はロケ地の一つに小学校があるんですけど、行きましょう」課長が提案する

「はいはい、どこでも来い」

子どもは未来のファン。社長の口癖だ。頑張るか。

私、虹橋優海☆

私は今人気ナンバーワンアイドル、虹橋優美。誰かが嫉妬して大根女優、事務所のごり押しなんて言ってるけど、それも人気者の証。

牧子さんがしきりに話しかけてくるけど、聞いてない。だって今この少女マンガが超おもしろくてやめられないの

牧子さんが怒った声で確認してくる。そろそろ牧子さんの話聞くか。

「いい。優海。わかってる?」

「わかってるよ。」

牧子さんの言うことは想像がつく。

「晃さんとは演技以外で目を合わせちゃいけない。晃さんには不思議な魔力があって目を合わせただけで好き

になっちゃうんでしょ」

「よろしい。次、晃さんと演技以外でしゃべっていい言葉は?」

「はい。ありがとうございます。いいえ。3つよ」

「よろしい」

牧子さんが満足そうにうなづく。

「もう優海、牧子さんが思う程おばかじゃないもん!それぐらい覚えたわ」

牧子さんは深刻な顔して言う

「いい?このドラマであなたの株があがるか下がるかかかってるんだからね」

「はーい。わかってる」

とびきりの笑顔で返事をした。

「ところで……かぶって何?」

私がちょっとした疑問をぶつけると、牧子さんは悲しそうに叫んだ。「優海!」

再会

小学校に連れてこられてわかったこと。要するに校長の娘が俺の大ファンらしい。

俺のサインと一緒に撮った写真で反抗期の娘に自慢したいそうだ。知らんがな。

「木造の校舎ってすげえな」俺がつぶやくと、校舎を案内してくれていた校長教頭が声をそろえて得意げに言う

「でしょう?」

キャー!歓声が巻き起こる。子ども達に見つかった。俺ってこんなくそ田舎の小学生にも大人気なんだな。

俺は手を振り返してやった。

「いなかの純朴なこどもたちよ。晃さまがきてやったぜ」

「キャー」
何言っても歓声が返ってくる。超気持ちいい~。

しかし一番はじの教室を覗いた瞬間、俺は一瞬にして超気持ちよくなくなった。

「うわぁ!」思わず声にならない声が出る。

黒板の前にあの凶暴虫食い女が恐ろしい顔をして立っている。

「この前の虫食い女」

凶暴虫食い女は何も言わず持っていたチョークをぐちゃっと握りつぶす。

俺に歓声をあげてた子どもたちは、女の様子を見てあわてて教科書を読んでいるふりをした。

「授業を邪魔すんじゃねえよ」。

凶暴虫食い女がつっかかってくる

「俺は招待されて来てるんだ」

俺は校長と教頭を見る

「晃さんすいません。うちの職員が」教頭、俺に頭を下げる。

「ちょっとあの職員変わってまして。あまりお気になさらないでください。」校長も俺の味方をする。

俺の完勝だ。

「校長先生!」怒ったように凶暴虫食い女が叫ぶ。

「あっ晃さん、校長室にどうぞ。おいしいお菓子を用意してますんで。」教頭がそういうと俺はすぐさま両脇をか

かえられ校長室に連れていかれた。後ろで凶暴虫食い女の「とっとっと東京に帰りやがれ!」という捨て台詞

が聞こえた。

ああ恐ろしや恐ろしや。



俺は校長と適当な世間話をしながら、そこまでおいしくもないまずくもないお菓子を食べている。田舎のお菓子

は揃いに揃ってどうしていも菓子がなんだ。あーそれにしても、あの凶暴虫食い女先生だったんだな。子ども達

はさぞ苦労しているに違いない。

俺が校長室の中を見渡すと水槽があった。

恐ろしいことにその中には虫が飼われている。水槽の横に子どもが書いた虫の観察日記もある。

ひぃー。

ちょっと待てよ……この虫……
「校長先生、あれは……」俺が恐る恐る水槽を指をさす。

「これは4年生が総合の時間に勉強してるササ虫っていうやつなんです。」

「もしかして食べるんですか」

「よくご存知で。ささ虫っていうこの地方の伝統食なんですよ。それに最近じゃ高級食として東京で人気だって聞

きましたよ」校長が得意げに言う。

「こ、高級食?」

「校長先生お電話です」女性の事務員が入ってきた

「ちょっと失礼しますね」と校長がでて行く。

俺はソファにもたれかかりながら、窓から校庭を見る。

校庭であの凶暴虫食い女改め、凶暴女が体育の授業をしている

この間は失敗したな。スターとして大失態をおかした。



部屋には暗くてパソコンと携帯電話しかない

凶暴女はパソコンの掲示板に晃は容姿で女性をランクわけし女性差別を行なっている。

女性の皆さん晃のcm出演している企業の不買運動を起こそうと書き込む

凶暴女がつぶやく「へっへっへへへへへへへへへ」



ってなことになったらどうすんだよ。どうすんの俺、やばいよ。やばいよ。

俺は腕を組んで考え込む。いい考えが思いつく

一応あれでも女だろ。それですべて解決さ。

和解

背中に当たる日差しが強すぎて痛い。蝉がうるさく鳴いている。あと2カ月近くこれが続くとなると憂鬱だ。

うちのクラスのささ虫の研究が、教育委員会から注目されたらしい。今度偉い人が沢山見に来るので、校長先

生が水槽をもう一つ増やすと張り切っている。もちろんささ虫を捕獲し、世話をするのはこの私なのだが。

「あと20匹ぐらいか」

はてしない数にため息をつく。

その時、後ろから声をかけられた。

「先生、今日も虫とってるの」

この声は……もしかして……

後ろを振り向くと、やっぱりそうだった。

 「何しにきたんだよ」

どすのきいた低い声に、晃っていう男は一瞬たじろいだが、再び話しかけてくる。

「いやー先生に、この間のこと謝罪しようと思って」

「はっ?」


「こんな美しいレディに暴言をはいて、本当に申し訳ありません」
   
晃っていう男はなぜか真剣な顔で目をみたまま、こっちに近づいてくる。

「これ受け取ってください。僕の気持ちです」。

晃っていう男はバラの花束を差し出してきた。

男から花束を貰えるという初めての事態に困惑したが、私の答えは決まっていた。

「……私はねそういう心のこもってない謝罪が一番嫌いなんだよ!」

 と吐き捨て、花束を遠くに投げてやった。

「えっ!?」

晃って男はしばらくして、またブツブツ言い始めた。。

「……わざわざこの俺が、抱かれたい芸能人ランキング一位のこの俺が、謝りにきてやったのに」

「はぁ」

「俺に花束をもらえるんだぞ。お前どうかしてる。Fランクの分際で」

やっぱりこの男はどうかしている。

「……人間として大事なことを忘れてる。今度こそ決着つけてやる、さあ来い」

私はやったこともない空手の構えのポーズをとって威嚇してみた。

案の上、晃って男は後ずさりしている。

「……あっ。あそこに」

晃って男は急に後ろを指さす。

「えっ?」

思わず指さす方向を振り返ってしまった。

「何もなかった」

といい、晃って男は逃げようとするが、途中で足をすべらせて転んだ。

その様子を見て腹を抱えて笑ってしまった。

「いい気味だ!!」心の底から声が出た。

けれども晃って男は足をずっと押さえて、低いうなり声を出している。

「大丈夫?」
   
顔色も悪い気がする。

「立てない。ちょっと手を貸して」と晃は言ってきた。
  
ヤバいことになった。私はあわてて手を差しだす。

その瞬間私は晃に手を引っ張られ、川の中に転んだ。やられた。

「ざまあみろ!」満足そうに笑っている。

ここまで来たら小山村の狂犬と言われる私を誰もとめられない。

「てめーよくもやったな。くらえ」
 
せっかく捕獲したささ虫が入ったバケツの水をあいつにかけようとするが失敗した。

「全然かかりません円」

小学生と同じことを言っている。

そのうちまた晃が転ぶ。

「いてえ」

また足を押さえている。

「もうその手には……」

といいかけたその時、私は晃の足から血が出ているのに気がついた。

意外な一面

今、俺は学校の保健室にいる。

さらに恐るべきことにあの凶暴虫食い女改め凶暴女に手当をされている。

すると、凶暴女が耳を疑うことを言い始めた。

「ごめん、私が悪かったよ」

「えっ。何でおまえが謝るんだよ。俺が勝手にこけたんだよ」

「……悪かったよ」といい凶暴女は俺の足の傷口に消毒のガーゼをあててきた。

「いてえ!!」俺は叫んだ。こいつは謝るときまで凶暴だ。そんなことより、これを確認しなければいけない。

「あのさ、俺と約束してくれ」 

俺は真剣な顔でこいつをみる。めったに見せないリアル真剣顔だぞ。覚えとけ。

「……何を?」

「……だから、ネットに俺の悪口かかないって」

「かかねえよ!」と言い放ち、消毒のガーゼを俺の傷口につけてきた。

こいつは約束するときでさえも凶暴だ。

「いてえ」俺は思わず悲鳴に近い叫びをあげた。

「人の評価ばっかり気にしてたら、ろくでもない奴になるぞ」

こいつは人気商売の俺様に向かって馬鹿なことを言いやがった。

「気にして当たり前だろう。俺は、俳優だ。人の評価がすべてだ。お前みたいなお気楽な公務員先生とは違う
んだからな」

「……お気楽で悪かったな」

こいつは消毒ガーゼをまた傷口につけてきた。こいつは怒るときも凶暴だ。

「いてぇ、……俺は国民全てに好かれるよう頑張ってるんだ。幸いにも俺にはその素質がある!」

と言うと、こいつはこの俺様に向かって呆れた顔をしやがった。俺がなにか言い返そうとした瞬間、保健の先生らしき人があわてて保健室に入ってきた。

「美香ちゃん、また来たわよ」保健の先生が小声でこいつに耳打ちしたが、ばっちり俺まで聞こえた。

「……ちょっとあとよろしく」

こいつは俺様の手当てを保健の先生と代わり、小走りに出て行った。

「なんかあったんですか?」

「ううん。いつものこと」

笑顔で誤魔化された。なんだ一体。


保健の先生に礼をいい、帰ろうと学校の廊下を歩く。

それにしても……。

転んで膝を怪我するなんて、俺小学生か!と一人突っ込みを心の中にいれる。

「晃、川で転んで膝を怪我」なんて週刊誌に書かれたらどうしよう。

この間の八股の記事より恥ずかしい。

やだやだ。

そんなことを考えながら廊下を歩いていると

俺が一番嫌いなヒステリーな叫び声が聞こえてきた。

俺が別れを切り出すとたいてい女はこんな声を出す。

やだやだ。

声の発信元を通りかかった時、また聞こえてきた。

「だからね、うちのよっちゃんが家に帰って来て泣くんです。美香先生が怖いって」

俺は興味本位で半分開かれたドアから発信元を覗く。

部屋にはあいつとばばあ3人組が向かい合って座っていた。

「いや、ですから、授業中におしゃべりしたので、こちらとしても注意しないと」

あいつが本当に困った顔をして答えていた。

「注意の仕方ってもんがあるでしょ」

違うババアがあいつに向かってヒステリー声を出す。

「そうよ。もっと優しく言えばいいじゃない。子ども達には必要なのは怒ることよりも愛情よ」

また違うババアが言う。

俺は見てはいけないものを見てしまった気がしてドアをそうっと閉めた。

「……怖くなかったら注意なんて聞かねーだろ」
   
俺はさっきのあいつの困った顔を思い出す。

あいつだって大変なんだな。

タイミング

まだ朝早いので、教室には男子が数人しかいなかった。ランドセルから教科書を乱雑に取り出し、机の中に無造作に放り込む。

「哲也!早くサッカーしにいこうぜ」

いつもの早朝サッカー仲間がやってきた。

「あと10秒待って」
一時間目の準備をしておかなければ先生に怒られる。そう思い、机の中に手をいれた瞬間、何か四角くて固い

ものがあった。不思議に思い出してみる

「どうしたの?」サッカー仲間も俺をのぞきこむ

「ラブレターだ!」俺より先にサッカー仲間が気付く。

急いで隠そうとしたが、後の祭りだった。

「おい、見せろよ」「ヒュー」「誰から誰から」

俺はその当時、女嫌いで通っていたので、友人の手前迷惑そうな態度をとることにした。

「読んでいいぞ」

心とは裏腹な事を言う。

仲間が手紙を開けて読み上げる

「哲也君、ずっとあなたのことが大好きでした。美香」

俺は思いもしなかった名前にただただ驚いた。嬉しかった。

「あの男女の美香!?」

「お前って美香とラブラブだったの」

「ヒューヒュー」「おあついな」

仲間全員で俺を冷やかしにかかってきた。

「誰が美香なんか好きなもんか。好きだって言われて迷惑だ」

俺は本心とは裏腹なことを言う。俺がそういった瞬間仲間が教室の入り口を見て黙り込んだ。

俺も入口を振り向いた。

そこには美香が立っていた。

「……美香」



教室では朝の会が行われている。

あの後、俺らは美香にこてんぱんにやられた。サッカー仲間はみんな負傷をおっている。

特に俺はバケツで叩かれた。でも不思議と痛みなんかちっとも感じなかった。もっと叩いてくれとも思った。
先生が深刻な顔で話し始める。

「実は皆さんに悲しいお知らせがあります。美香さんがおうちの事情で今日で転校することになりました」



俺は居酒屋トニーで店のおばちゃん相手に酔っぱらってグタグタと昔話をしている。

「それで、どうしたの」

おばちゃんがハンカチで涙を拭きながら尋ねてくる。

「その日、自転車で美香の家まで行ったさ、でも間に合わなかったんだよ。」

「かわいそうにね」

おばちゃんはおいおい泣いてくれた。このおばちゃんのこういう所が好きだ。

「でも、4年前あいつが偶然にも小山小に教師として赴任してきた。まさしく運命だと思わない?」

「それで4年も告白しないなんて」

おばちゃんが呆れ気味に言う

「そのうちするよ。」

俺は飲んでいたビールを一気に飲み干した。

頑張れ俺

畳を歩くたびミシッと不快な音が鳴る。部屋中に漂う湿った空気。

俺は下積み時代に住んでいた家賃8000円の部屋を思い出した。
   
懐かしいな。あの頃は金はなかったけど……って危ない危ない。あの貧乏時代を感慨深く思い出す所だった。

「この村にはここしか宿泊施設がないんです。晃さん一か月の辛抱です」

義信が埃にせきこみながら窓を開ける

「一ヶ月の我慢だ。そうすれば東京に、俺の街に戻れる」。
   
「そうですよ」

義信が相槌を打つ。

俺ははカレンダーの6月1日の欄に思いっきり×を付ける。
   
そして、6月30日の所に花丸をつける。

「頑張れ俺」

自分で自分を励ました。

手に負えない女は女で解決だ

昨日は全然眠れなかった。久しぶりにベッドじゃなくて布団で寝たからだ。なんだか体が痛い。

俺がロケ現場に入ろうとすると、何故か優海ちゃんが泣いているのが見えた。

あのスーパーアイドルAランクの優海ちゃんが泣いているのに、周りのスタッフはその様子を遠巻きにみているだけだ。

俺は泣いている女を放ってはおけない。

俺が優海ちゃんの所に歩み寄ろうとすると義信に止められた。

「優海はアイドルだから演技なんかできないの」

優海ちゃんが甲高い声で叫ぶ。

「あいどるでも何でも俺に求められたことをやってくれ」

あの仏様みたいな優しい監督が怒っている。

「だって優海できないの。」

優海ちゃんが甲高い声で叫ぶ。

「優海さんが演技がうまくできなくて監督ともめてます」

義信が耳元で囁いてきた。

「もういや、降りる」

 優海ちゃんは帰っていった。
   
現場は騒然としている。

どうすんだよ。おいスタッフ。誰かなんとかしてくれよ。
   
期待とは裏腹にスタッフが続々と俺の所にやって来る

「晃さん。」

「あの牧子っていうマネージャーはどうした?」

俺は嫌な予感を的中させまいと頑張る。

「おじいさんが危篤だどかで、九州の実家にいるそうです」。

「晃さん、スケジュールも本当に詰まってるんです」

泣きそうな顔で女性スタッフが言う

「晃さん、村の為にも是非」

課長までも敵になっていた。

ロケ現場にいる全員が俺に熱い視線を送っている。

「…………俺にまかせとけ!」

俺の一言でロケ現場の空気が一瞬和んだのがわかった。



おかしい。晃さんが全部なんとかしてくれると思ってたのに、どうして俺までも優海ちゃんの説得に来ているんだろう。

まあなんでもいい。俺の使命はこの村でのシーンを少しでも増やし、村をアピールすることだ。

「優海ちゃーん」

晃さんが優しい声で呼びかける。

「もう降りるから関係ないです。優海、明日東京に帰るもん」

ドア越しにさっきと同じセリフが聞こえてくる

「俺たちじゃ無理です。」

俺はため息をつきながら言った。

「こうゆうときは女、村に説得できそうな世話好きのおばさんいない?」

晃さんは簡単に言うけれど、村に世話好きの説教おばさんなんて都合よくいるわけが……

「いました!」
俺は一番大事な奴を思い出した。

「どんな人?」

晃さんが嬉しそうに言う

「的確なアドバイスと辛口コメントで同姓からの支持は熱いです。小山村の母って呼ばれてて……」

「何でもいいからそのおばさん呼ぼう」

「おばさんではないですよ。まだ若くて隠れ美人です」

俺は大事な所だけは否定して、思わず顔がほころんだ。

やっぱりあいつしかいない。

小山村の母

<章=小山村の母>

ゆかはどうしていつもいつも男に依存して生きてんだろう。

電話越しのゆかの声は震えている。

勉強もできてかわいくて優しくて自慢の友達なのに、本当に女ってやつはすぐ男に夢中になって馬鹿みたい。

「まずは自分の仕事しっかりしろよ。それができないなら男と別れろ。うんうん。だからさ男がさ」
   
そう私が言うと家のチャイムが鳴った。

「ゆかごめん。誰かお客さん来たから一回切るよ」
  
こんなときに誰だよ。



俺はてっきり年配のおばちゃんを想像していた。がいろんな意味で俺の想像は裏切られた。

こんな普通のアパートに住んでるんだな。

中は意外と綺麗そうだなとくだらないことを考えながら俺は課長がお願いするのをただ見ていた。

「やだよ。なんですねて自分の仕事放り出す女の面倒みなきゃいけないんだよ。」

「オマエそういうの得意だろう。」

「(怒って)得意じゃねえよ」

「今度トニーでビールおごるからさ」
 
あいつこと小山村の母は首を横にふる

何故かこの時俺は課長とあいつのやりとりを見て確信していた。

あいつは間違いなく、すねて自分の仕事放り出す自分とは何の関係もない女の面倒を見てくれると。

「本当にお願いだ。俺の長年夢がかかってるんだ。頼む」

課長が必死に頼む。

「俺からもお願いします。」

俺もお願いした。

あいつはしばらく難しい顔をしていたが「わかったよ」と小さく答えた。

仁義

小山旅館の前まで来た時、私はどこまで人がいいんだろうと思った。

けれども、哲ちゃんには普段から世話になりっぱなし、この晃って男(年上なのでこれからは渋々晃さんと呼ぶことにする)には

…………

そうそう、怪我させたっていう借りがある。

仁義を大事にする女、山村美香ここで恩義かえさせてもらおう。


案の定、拗ねて自分の仕事放り出す馬鹿女はそう簡単には部屋から出て来ない。

ドア越しに呼び掛ける

「優海ちゃん、いきなりなんでもうまく出来る人なんていないよ」

初対面なので優しく言っている。

「優海できないもん。」

部屋から返ってくる言葉は私をいらつかせる。

イライラしたらいかん。落ち着け。

「できるかできないかは自分で決めることじゃないよ」

優しく言ってあげる。

「優海はアイドルだからできなくて当然なの。女優になるわけじゃないし」

優美ちゃんの予想以上の回答に私は拳を握りしめた。

「明日東京に帰って、社長にお願いするんだもん。監督がひどいこと言って優美のこといじめるって」

駄目だ。限界だ。

ドアを思いっきり蹴った。

幸運なことにドアの鍵が外れて開いた。

晃さん(呼びたくないが仕方がない)の声が廊下に響く。

「うそだろう」

優海ちゃんが口をぽかーんと開けたままこちらを見ている。

後ろの使えない男二人もただ黙って見ている。

「……優海ちゃん、お酒一緒に飲もうか」

何か言わなければならないと思い、私の脳内から必死にひねり出した言葉がこれだった。

おバカさん

<章=小山村の母>

こんなにも後味の悪いビールは久しぶりだ。

誰一人として喋らない異様な空気の中、優海ちゃんの部屋で4人でビールを飲んでいる。

旅館の女将さん(っていうか俺の母ちゃんだけど)に頼んで酒とつまみを出してもらったはいいものの

「優海ちゃん。するめ食べる?」

「優美スルメなんてださいものいらない。」

晃さんが時々、優海ちゃんに話しかけてはいるけれど、こんな調子だ。

飲もうって言いだした本人の美香はさっきから黙ったままだ。

やっぱり美香はしょせん一般人だ。スーパーアイドルの優海ちゃんの説得は無理だよな。

なんて、駄目だ。俺が美香を信用しないでどうする。

「優美ちゃんほらタラチーズがある」

晃さんが懲りずに話しかける

「いらないもん。優海お肉が食べたい」

まだへそを曲げている。次の瞬間いきなり小山村の母が口を開いた。

「優海ちゃん、今からお肉食べさせてあげるから、ちょっと目つぶって」

優海ちゃんは素直に目をつぶる。

「はい口を開けて」

優海ちゃんは素直に口を開ける

この子は本当は素直ないい子なんだなと思った。しかしこの部屋には悪魔がいた。

「おい美香やめろ」

晃さんは唖然として声がでていなかった。

悪魔こと小山村の母はササ虫を口に入れた。

「あっこのお肉おいしい」

アイドルがささ虫を食っている。この村でも年寄りと美香ぐらいしか食わねえササ虫の佃煮を

スーパーアイドル優海ちゃんが食っている。

「優海、このお肉味付けも好き。甘くてさっぱりしてる」

優海ちゃんが久しぶりの笑顔で答える。

晃さんが唾を飲み込んだのがわかった。今俺と晃さんは同じことを考えている。一心同体だ。

よし、優海ちゃんに見せるなよ。絶対正体を見せるなよ。

「今食べたのざざ虫っていうんだよ」

俺達の期待とは裏腹に悪魔が笑顔で物を見せる

「えっ。やだ。気持ち悪いよ。優海食べちゃったよ。えーん牧子さん!」

優海ちゃんが泣き叫んだ。ほらみたことか。

「……でもすごくおいしかった」

俺達は耳を疑った。

「でしょう」

悪魔がまた笑顔で言う。

「すごい!優海って虫食べられるんだ。すごーい!!」

優海ちゃんは喜んでいる。

俺は今やっと気付いた。優海ちゃんは…………おばかさんだ。

王子様

<章=私の王子様>


優海って虫食べれたんだ。自分でも意外だってけれどびっくり。

優海ってすごーい!

感動していたら、美香さんが深イイことを言った。

「できないって思っても、やって見るとできることって意外と多いんじゃないのかな」

「……そうかも」

当たりすぎてて、優海なんか恥ずかしくて、思わず下向いちゃった。

「そうだよ。優海ちゃん頑張ろう」

晃さんも優海を励ましてくれてる声が聞こえる。

この人たちなら優海の受けたとても深刻なトラウマをわかってくれるかもしれない。

「でも……スタッフが優海のこと顔ばっかりよくて中身が何にもないとか言ってるの。優海聞いちゃったの……」

「……私はさあそこの小学校で先生してるんだけど、いまだに保護者に隣のクラスの先生の方がよかったって言われてる」

えっ、美香さんも深刻なトラウマを抱えていたなんて。

「お前こんな性格だから、敵もよく作るしな。」

課長さんが余計なことを言う。

「うるせーよ。」

美香さんは余裕って感じで笑いながら答えた。

「でも今やめたら駄目な奴のままだからさ。だからいつか見返させてやるって頑張ってる」
   
私は思わず美香さんをじっと見つめてしまった。神様に思えてきた。

「優海にできるかな……」

「ほら優海ちゃんには二人も頼もしい味方がいるじゃない。」

優海は美香さんの指さしてる方向を見た。

「えっおれ、おれは勿論、どんな時でも優海ちゃんの味方だよ」

優海にその瞬間雷が落ちた。晃さん。あなただったの優海を助けてくれる白馬の王子様は、

「おれももちろん優海ちゃんの……」

課長さんが何かごにょごにょ言っているのが聞こえる。優海、そんなことはどうだっていいの。

優海は今、お花畑を歩いているわ。晃さんという王子様にあげる白つめ草の冠を探しているの。

「優海、晃さんの魔力にすいこまれちゃた」

見栄張り

「優海さん、今日は来てくれますかね?」

スタッフが落ちつきなく俺に尋ねる。

「大丈夫だ。安心しろ」

俺は落ち着いているかのように振る舞った。本当は俺が一番心配だ。

スタッフが歓声を上げるのが聞こえてきた。

優海ちゃんがきた。

「おはようございます。皆様ご迷惑おかけしてすいませんでした。」

優海ちゃんが監督の所に駆け寄っていった。

それを見たスタッフ達がどんどん俺の所に集まって来る。

「晃さんさすがです」

違う。俺じゃない。

「晃さんって男前です!」

おいやめろ。解決したのは俺ではない。そんなに褒め称えるな。

「やっぱり晃さんは無敵です」

俺はスタッフ達に我慢できず、言ってやった。

「……まぁね。俺にはできないことはない!」




昼間はあんなに暑かったのに、日が暮れた今は風が強くて寒い。

まあいい。寒い方が畑仕事に合ってる。

それにしても、昨日はまた余計な仕事引き受けて、なんか疲れた。

桑を持つ手が痛い。

優海ちゃんだったかな。ちゃんと仕事に行っただろうか。

本当にどうしてこんなに女って馬鹿ばっかりなんだろうと無性に腹が立った。

桑を思いっきり振り下ろすと、固い土が見事に割れた。

「ふぅ」ため息をついた。

その時、後ろから「美香先生」と声をかけられた。

夜の畑仕事と鍬と俺

ロケが終わり、夜部屋で一人でいても面白くない。

ふとあいつのことを思い出した。

あいつに礼でも言いに行くか、散歩がてら小学校へふらふら歩いてみた。

誤解する人なんていないと思うが、

あいつに女としての役割は求めてはいない。

小学校まで来て、門の中をのぞくと本当にいた。

声をかけようとはしたが、なんて呼んでいいのかわからない。

考えた挙句

「美香先生」

と呼びかけた。

「なに?」

あいつが訝しげに振り向く。

「昨日のお礼。」

また戦いになったらたまったもんじゃないので、チョコを一粒あいつにむかって投げる。

「東京のチョコだぞ」

「えっ、本当?」

意外と嬉しそうで驚いた。やっぱり田舎は東京という言葉に弱い。

「先生、ところで何してるの?」

と尋ねた俺がばかだった。

奴は急に笑顔になり鍬を見せてきた。嫌な予感がする

「もう帰ろうかな」

後ずさりする俺。

「せっかくきたんだから手伝ってよ」

「お前この俺様に何いってんだ。俺は5000万人が涙した、純愛ドラマ、ラブアゲインの……」

「いいから」

「近寄るな!やめろ!」


俺はいい奴だ。本当に人がいい。

ゴム長靴に頭にタオルまでまかれ、鍬で畑を耕している俺。

誰がどうみたって田舎者だ。

「こんなこと、子どもにやらせればいいだろう」

思わず本音が出る。

「こどもたちだと深くまで土起こせないし、肥料もめちゃめちゃにまぜちまうからな。」

「がっかりするぞ」

「何が」

「大人が耕した畑なんて」

子どもの気持ちになって答えてやった。

「だから夜やってんでしょうが。」

「えっ?」

俺は驚愕した。まさか……

「子どもたちだけで、畑作りから収穫までやるんだよ。大人は一切手伝わないことになってるから。」

「なんて報われない……俺。」

「そんなもんだよ」

さも当然かのようにあいつは笑う。俺とは根本的に考えが違う。

「俺だったら、子ども達の為に夜中にこっそり畑たがやしてますって写真付きでブログにのせるけとな」

あいつは何も言わず少し笑った。

そして俺、晃様に突拍子もないことをいいやがる。
   
「明日、子どもたちと苗うえするけど、来る?」

「……この俺様が苗上なんてださいことするか。俺はな全国5000万人が」

「わかった。わかった。…誘った私がばかだったよ。」

そうだ。本当に大馬鹿だ。この身の程知らずめ。

マイスイートハニー

<章=マイスイートハニー>

ロケが終わり、部屋に一人でいると自然にあの子のことを考えてしまう。

必然的に俺の足はあの子がいる場所へ向かう。

いた。夜も遅いのに君はどうしてこんなに美しいんだ。

この艶っぽさ。なんとも言えない。

君に出会えて、初めてこんな気持ちになったよ。


「またかぼちゃ見に来てる。よっぽど暇なんでしょ」

振り向くとあいつが半ばあきれた顔で立っていた。


「俺のマイスイートハニーに会いに来たんだよ。悪いか?!」

「はいはい」

「ほら見ろ、この葉っぱの艶、月の光が一番美しく反射してる。俺が植えたやつは違う」

「子ども達が植えたやつとかわんねえっつうの」

あいつがまた馬鹿なことを言う

「わかってねえな。ここをよく見ろ」

「わかったわかったって。疲れてるんだから帰らせろよ」

段々腹が立ってきた、意地でもわからせてやる。


ああ疲れた。晃(さん)って暇なんだな。

結局1時間もあいつの相手してやる羽目になった。

ようやく家に帰ってきた。

「本当に暇な奴め」

思い出し笑いをしながらアパートの部屋のドアの鍵をあけようとする。

「おい、美香」

という声がし、振り向くと哲ちゃんがいた。

「あれ、どうしたの?」

「待たせやがって。仕事か」

哲ちゃんが穏やかな顔で言う。

「仕事よりたち悪いよ。普通のかぼちゃだって言ってんのにさ」

またあいつのことを思い出して、笑ってしまった。

「よくわかんねえけど、大変だな。そういえば、また、たまたまささ虫もらったんだけど、食うか?」

哲ちゃんが、ささ虫の缶詰を持ちあげる。

「本当に?やった!おいしそう。いつもありがとう」

哲ちゃんって本当にいいやつだ。

「旅館のお客さんからよく貰うからさ、処分に困っちゃってさ」

「ちょっと上がっていっぱいやってく?」

お決まりのポーズをする。

「いいねえ」

哲ちゃんが笑顔で答えた。

恋愛の神様

<章=恋愛の神様>

子ども達が帰宅し、職員室でテストの採点をしていた。

「美香ちゃん、見てみて」

佐和子が雑誌を持ってきた。

「ほら見て。今年の芸能人好感度調査が発表されたわ」

佐和子が得意げに見せてくる。

「どうでもいいよ」

と言うと佐和子は不敵な笑みを浮かべた。

「どうでもよくないと思うわ。少なくても6月の終わりにはそう思ってると思う。ここ見てここ!」

佐和子はなんだかよくわからないことを自信満々にそう言い切った。

「嫌いな俳優……3位、晃。あははっ。わかるわかる!ありゃ嫌われるわよね」

思わず腹を抱えて笑ってしまった。

「佐和子、そんなに心配してくれなくても大丈夫だって。もうわかってるからあいつのこと。」

本当にいい奴だ。佐和子が驚いた顔をした。他の先生達も何故かこっちをみている。

「美香ちゃん……まさか」

「あいつのスイートハニーもここにいるしな」

「えっ」

佐和子がこんなに驚いた顔を見たことがないっていうぐらい驚いた。

職員室にいる先生達がわらわら集まってきた。

そんなに意外なことか?

「……そ、それはあつしさんも認めてるの?自分の子だったって」

佐和子が息をのみながら聞いてくる。

「当たり前だろう。自分で植えたんだから毎日会いに来てるよ。」

「えーーーーーー!!嘘でしょ」

そばにいた全員が驚愕している。何故だ。

「なんでそんなに驚くんだよ?みんなあそこ見てよ。晃さんのスイートハニー。元気でしょ?」

私は窓から見える畑のかぼちゃを指さした。

「あっ、晃さんが植えたかぼちゃのことね。」

佐和子が勘違いしていたらしく、ようやくわかったらしい。

「そうだと思った」

「びっくりした」

「やっぱ美香先生はないよな」

口々に言いながら先生達が自分の仕事に戻っていく。

「一体なんなんだよ。」

そう呟くと佐和子は私の手をとり言った。

「もし、苗植えするときになったら準備はしっかりね」

全く意味がわからない。



ロケは一日たりとも抜けられない。

なので晃さんに代わってマネージャーの俺が社長に呼び出され東京に戻ってきた。

机の上には先日の好感度調査の乗っている雑誌が広げられている。

社長は腕組みしたままずっと黙っている。

「すいません。俺がしっかりとしてないばっかりに週刊誌にとられてしまいました。」

俺は頭を下げる。

「……女癖が悪い。女が一番嫌うことだ」

社長がポツリと言う。

「晃さん、確かに女癖は悪いですが、スタッフの信頼は厚くて、この間なんか優海ちゃんが降りるって騒いだときも説得してくれて…」

「優海ちゃんを説得した?」

社長が優海ちゃんという単語に食いついた。

「そうなんですよ。スタッフ全員キャスト交代を覚悟してたんですけど、晃さんが」

「……そうか、優海ちゃんという手があったな。」

俺はただ社長が不気味に笑いだしたのを見ているしかなかった。

パンダだって

パソコンの「。」のキーを威勢よく人差指で打つ。

やっと終わった。

何とか今日まで提出の「学力向上の取り組みに関する報告」を教育委員会に送ることができた。

職員室にはもう誰もいない。

ふと窓を見ると、かぼちゃの畑が目に入った。

何故だかわからないけれど急いで校舎を出てきた。

花壇を見ると晃(さん)がやっぱり座ってかぼちゃをみていた。

「見た。見た。あの雑誌。3位入賞おめでとう!」
   
私が大声で言うと、晃はただ静かに暗く振り返った。

「お前か。……俺のブレイクハートに塩を塗りやがって」
   
そう言い返してはきたものの、また晃さん(仮)は力なく下を向いた。

「……まさかあのランキング本気で気にしてた?!よっ嫌われ者!」

茶化してみたが余計下を向いてしまった。

「……あのランキングでCMとか、ドラマのキャスティングとか決められるんだ。当たり前だろう」

「でもまだ好きな俳優の2位にも入ってたからいいじゃん。2位じゃ駄目なんですか?」

私の微かなボケにも気がつかず俯いている。

「……俺のことみんな嫌いなんだろう?もう俺は外を歩けない」

晃が魂が抜けたような声でしゃべる。

「えっ?」

「俺を許してくれるのはかぼちゃちゃんだけだ……」

腹が立って蹴飛ばしてやろうかと思ったけれど、かぼちゃを触ってる後ろ姿がなんか可哀そうでやめた。



「俺を許してくれるのはかぼちゃちゃんだけだ……」


とつぶやき俺はただかぼちゃちゃんを触っていた。

あいつはただ無言で立っている。

こんなときに「私だって晃さんを許してるよ」ぐらい言えよ。

本当にデリカシーのない女だ。

「……パンダって知ってる」

デリカシーのかけらもない女は優しい答えが必要な時に意味不明な質問をする。

「……馬鹿にするなよ」

俺が少しあいつを見ながら答える。

「パンダだって嫌いだって言う人がいるじゃん。あの全世界の人気者の。」

「……パンダ」

俺は全世界でどれだけパンダが人気者か考えた。

「だから全国民に好かれるなんて無理。何月何日何時何分、地球が何回回ったって無理。」

「……簡単にそういうけどさ」

反論しかけた俺の口を封じる。

「うるさい。黙れ。人がどういうかより、自分で自分のことほめてやれよ。そうしなきゃ誰が自分のことほめてくれんだよ」
 
こいつはいい女ではないけれど、いいことを言う。

「……お前、Fランクの女のわりにいいこというな」

お礼の代わりに出てきた俺の言葉は自分でもびっくりするものだった。

「人がせっかく励ましてやってんのに」
   
やべえ。あいつの拳が震えている。

俺とあいつの付き合いは短いがわかる。

相当怒ってる。逃げろ。

「今度こそ許さないから」

鬼の形相で追いかけてくる。

「うそうそ。こわっ」

俺は逃げ回ったが何故だかわからないが笑えた。

まさか

毎日ロケが終わったら特にやることもないし、持って来た漫画は全部読んじゃったし優海、本当につまんない。

同じ旅館に泊まってるはずなのに、どれだけ旅館の中をウォーキングしても晃さんにも会えないし。

なんとなく外に出てみたら、お月様とお星様がとても綺麗だった。ロマンチック。

「今日ケーキ食べちゃったから、ウォーキングしないと。アイドルは大変よ」

自分で自分を励まして夜のウォーキングに出てみた。

小学校まで来たら、なんと、、、、、晃さんの姿が見えた。キャーーー

「晃さん。何してるんだろう?」

誰かと喋ってる。

まさか女……

女が晃さんを追いかける。

「今度こそ許さないから」

「うそうそ。こわっ」

声だけ聞こえてくるけど、暗くて誰だかわからない。

「あっ!美香先生だ。まさか…あの二人……」



どこまでも続く海岸線。お日様が沈みかかっていてあたり一面オレンジ色に染まっている。

「ここまでおいかけてごらん」

晃さんが優しく美香先生に語り掛ける。

「まって晃さん」

美香先生が手を晃さんに伸ばす。

「美香、こっちにおいで。」

晃さんも手を伸ばす。


「ってそんなわけないか。きっと本当に鬼ごっこしてるの」

優海、冷静に考えるとそうだと思った。

「待たんかい!」

「いやだよ。おしりぺんぺん。」

晃さんと美香先生のはしゃぐ声が聞こえてくる。
 
「もう、本当男の人達っていつまでも子どもなんだから」

優海はしばらく二人の様子を見ていた。

予感

「いらっしゃい」

トニーに入るとおばちゃんの元気な声が聞こえる。

「ビールお願い」

「はいよ」

俺はカウンターに座る

「今日は美香ちゃん一緒じゃないのかい?」

おばちゃんが痛い所をついてくる。

「アパートの前で待ってたんだけど、帰って来ないんだよね」

おばちゃんがビールを目の前に置く。

俺は一口飲んでグラスを机に置いた。

「最近毎日遅いみたいで、忙しいのかもな」

俺がそういうとおばちゃんは笑った。

「グタグタ言ってないで早く告白しなさいよ」

「時期ってもんがあるからさ」

「美香ちゃんに彼氏ができたらどうすんの」

おばちゃんの言うことに思わず笑ってしまった。

「無い無い」

俺が美香みたいに手を横に大きく振りながら言ってやった。

「恋愛なんてタイミングなんだからね」

おばちゃんが真剣な顔で言う。

「大丈夫だって。そのうちな」

俺はそういい終わると残りのビールを一気に飲み干した。


小山村役場前

「お前が義妹だったなんて」

「もう私のことは忘れて」

「待てよ!」

優海が晃のもとを去っていこうとする。晃は優海を抱きしめる

「そんなことどうでもいいんだ。俺はただお前が……」

見詰め合う晃と優海

「はいカット」

晃さんってやっぱり役者の才能だけは素晴らしいもの持ってるんだな。

俺は心からそう思った。

「晃、悪くないな」

社長が隣でつぶやく

「義信、ぼさっとしてねえで晃呼んで来い」

「は、はい」

俺は我に返り晃さんを連れてくる。

「あっ社長。来てくれたんですね」

何も知らない晃さんは無邪気に駆け寄ってくる。

「お前大丈夫か。」

社長が心配そうに尋ねる。

「何のことですか?」

「何のことって、あの好感度調査だよ」

社長が驚いて眉をひそめる。

「ああ、あれですか。平気平気。嫌い嫌いも好きのうちですよ」

社長が呆気にとられているのがわかる。よくわかる。

「晃さん、ちょっと来てください」

「はい」

スタッフに呼ばれ、晃さんは行ってしまった。

「あんなに好感度気にしてたやつが、何があったんだ…」

そういうと、社長は何かを考えていた。

「さぁ……」

俺は晃さんのマネージャーで、誰よりも晃さんを知ってると自負できる。

俺は今、これが精一杯だった。

気がつくとき

テレビがNNKとムジテレビの2個しかうつんないなんて信じられる?

ラジオも電波が届かないし、雑誌も漫画ももう飽きちゃった。

「優海はくまさんが好きなの。」

そうテレビで言った日から次から次へとくまのぬいぐるみが贈られてきて参っちゃった。

本当男の人って単純なんだから。

でも一回も優海が抱いてあげないのはかわいそうだから、日替わりで抱いてあげてるの。

今日のくまさんを持って窓からなんとなく外をみていた。

「あっ、晃さん」

な、なんと晃さんを発見!

「今日もでかけるの?どこいくんだろう」

優海は少し考えたけど、決めた。

「……ついていっちゃおう。優海はかわいいからストーカーにはなんないし」

   

晃さんの50mあとを優海がついていっているの。

優海は追っかけのプロになれるわね。

そんなことを考えていると、晃さんは小学校に入っていった。

「……また……美香先生に会いに来たの?まさか、、、」

小学校を覗くと、待ち合わせたように美香先生が待っていた。

優海、必死に考えてわかったの。

「そうよ。間違いないわ。」

「晃さんと優海さんは……」

「男と男の硬い友情で結ばれてるのよ」

優海って頭いい!

美香先生って、頼りがいがあってかっこいいし。そうに違いないと思う。

「きっと今頃、二人で好きな女の話しとか人生についてあつく語ってるに違いないわ。っていうか好きな人って誰よ。もう 晃さんったら」
  
優海、恥ずかしくなっちゃった。

後ろをふとみると課長さんが歩いてくるのが見えた。



美香のアパートの階段で座っている。

このタバコの吸殻を見たら、俺の待っていた時間がばれそうだ。

おかしい。

美香の帰りが遅い……夏休み前だから別に仕事は忙しくないって言ってたのに。

俺は不審に思いながらも、小学校までの道のりを歩く。

門の前に誰かがいる。

「あっ課長さん!」

声をかけられた人物をよく見ると、意外な人で驚いた。

「あっ優海ちゃん……ちょっと美香に用事があってさ」

俺はあわてて優海ちゃんに説明する。

「美香先生ならあそこよ。晃さんと男と男のあつい会話をしてるの」

優海ちゃんが得意げに教えてくれた。

「男と男のあつい会話?」

俺は予想外の展開に驚いた。

「そうよ。二人は熱い友情で結ばれてるのよ。昨日だって一緒にいたんだから」

優海ちゃんはさらにたたみかけてくる。

「……昨日も?」

俺は仲がよさそうに花壇に座っている二人を見た。

「あっ、まさか課長さん…いくら熱い友情がうらやましいからってあの二人の中に入ったらだめだからね。あの二人の友情は誰も邪魔できないくらいあついんだから」

優海ちゃんが有難い忠告をしてくれた。

俺は美香とは付き合いが古い。

表情、しぐさを見てあいつがどんな状態かすぐわかる。

……少なくとも美香の方は熱い友情なんて思っちゃいない。

昔、美香に頭をバケツで殴られたときのあの痛みを思い出した。

胸騒ぎ

がロケ現場で椅子に座って台本を読んでいたら、優海ちゃんが隣に座った。

「晃さん、はいどうぞ。優海、晃さんのためにお菓子作ってきたんです。」

優海ちゃんがお菓子を差し出してきた。

「本当?嬉しいな~さすが優海ちゃん気がきく!」

俺はそう大げさに褒めて不恰好なクッキーを口に入れた。

「昨日の夜ね、旅館の厨房借りて頑張って作ったから、おいしいと思う」

優海ちゃんは飛びっきりの笑顔で答えた。

優海ちゃんって本当に純粋でいい子なんだな~となんとなく思った。

「美香先生のせいよ」

突然、エキストラで来ていた村の主婦の怒った声が、俺の耳に飛び込んできた。

「優海ね、晃さんのことを思っておいしくなーれおいしくなーれってクッキー作ってたの」

優海ちゃんが何か言っているような気もするけれど、聞こえなかった。

「うちのよっちゃんは本当はいい子なの。お宅のひろしくんにいじわるするはずないもの」

「そうよそうよ。美香先生の教育が悪いからよ」

「あんな子どもも産んだことないような小娘にうちの子まかせらんないわ」

「今日の夜の保護者会わかってるわね?」

[もちろんよ]

「徹底的にこらしめてやりましょう」

「この際、教育委員会に言って担任変えてもらいましょうよ」

「賛成!]

思わず顔を見ると、この間校長室で見たのと同じ顔ぶれの保護者達だった。

俺はただそれを聞いていることしかできなかった。

しばらくあいつのことを考えていた。

「ねぇ、晃さん明日の夜、お星様をみにいきませんか」

「うん」

「本当。嬉しい」

「うん」

「お星様にずっと晃さんと一緒にいれますようにってお願いしちゃおうかな」

「うん」

「ねぇ、晃さん」

優海ちゃんに名前を呼ばれて我に返った。

「あっ、何?」

「お星様に何のお願いする」

優海ちゃんはいつも唐突だ。何故お星様なんだろう。まあいいや。

「えっとあれだよ……優海ちゃんみたいなかわいい女の子と一緒にいられますようにだよ」

「もう、晃さんったら。人がたくさんいつんだからね」

「優海ちょっと」

「はーい」

優海ちゃんは、マネージャーに呼ばれてようやく向こうに行った

俺に出来ることは何か?あいつには世話になりっぱなしだ。

ずっと考えていたけれど出した結論は「ない」だった。


   

優海、せっかく晃さんといい感じに喋ってたのに、早紀さんったら。

優海はほっぺたをぷーっと膨らませて早紀さんのところに行く。

「晃さんと何しゃべってるのよ!」

早紀さんは怒っている。なーんだそのことか。

「……ちゃんとわかってるって」

「本当に?」

早紀さんがしつこく聞いてくる。

「だって晃さんのこと好きになっちゃうからしゃべっちゃダメなんでしょう」

「その通り」

早紀さんが大きくうなづく。

「それはもう大丈夫よ」

優海は自信たっぷりに答える。

「本当に?」

早紀さんがしつこく聞いてくる。

もう。早紀さんって本当に心配性なんだから。

「だってもう好きになっちゃったんだもん。」

優海がVサインを作って満面の笑みで答えた。すると

「(悲しそうに)優海!!」

早紀さんは何故か悲しそうに大声で叫んだ。

俺は決して


ロケも終わり旅館の自分の部屋で一人ビールを飲んでいる。

「別に俺がいたってな……」

独り言をわざと大声で言いながら、テレビをつけても音楽をかけても何故か落ち着かない。

俺は心が躍る言葉を見つけた。

「あいつには借りがあるんだから、ここで返しとかないと大変なことになる」

サインを100枚頼まれるかもしれないし、200枚ぐらいかも。

俺の足は自然と学校へと向かっていった。

けれど誰もいない。真っ暗だ。

あいつのアパートにも行ってみたが誰もいない。

どこにいるんだ……

俺は何故かあいつに怒りにも似た感情を覚えた。

「いつものように、かぼちゃちゃんの所にいろよ!」

傍にあった信号機を思いっきり蹴った。

いてぇ。ああっ。いてえ。

信号機けっていいのはドラマの中だけだ。

足取り重く道路を歩いていた。

ふと顔をあげると、遠くからカップルが歩いてくる。

中年風の男がやけに若い女に絡み付いている。

「僕タン、あなたの犬になります」

大声で宣言している。

気持ちがわりいい。心底思った。

しかし、なんだか見覚えがある背格好だ……

「……監督!」

俺は思わず大声をあげてしまった。

しまった声かけるんじゃなかった。

監督と俺の間に気まずい時間が流れる。

「晃さん」

一人の女性に声をかけられた。

最初はファンかと思い顔を作ったが、どこかで見覚えがある。

「佐和子先生!」

確か、あいつの友人だったはず。

「晃さん何してるの?」

佐和子先生は一つも動じず笑顔でこっちを見ている。

「あ、あ、ああ晃君、ここで何してるの?」。

監督が動揺しながら言う。

こっちの台詞だと思いながらも、佐和子先生に聞かなくちゃいけない。

「……佐和子先生……あいつは?」

「……今は一人にしておいたほうがいいんじゃないかしら」

すべてを見通したような笑顔で佐和子先生が答える。

「俺はあいつのこと心配してるわけではなく、勿論女として見てるわけではなく、ただ単純に借りを返したいだけなんだよ」

俺はこんなに下手くそな台詞が脚本にあったら激怒する。

「……川に行くといると思うわ」

また、すべてを見通したような笑顔で佐和子先生が答えた。

川の思い出

<章=川の思い出>

自分の全てが嫌になる。仕事も辞めて自由になりたい。明日にはもうやめちゃおうか。こんな村出て行こうかな。

給料は安いし、ストレス多いし、残業代だって出ない。

川岸の大きな石の上に座りながら、大きくため息をついた。

別にいいじゃん。考えるのは自由でしょ。

明日にはちゃんと仕事行くから許してよ。

そういえばここ昔、てっちゃんとよく来たな。

あの頃、朝から晩まで暇さえあれば二人で石投げの練習してたな。

そうだ。ここであいつとも出会ったんじゃん。

あいつ私のことお母さんって呼びやがって……

今日もかぼちゃ見に来てるだろうな。

こんな姿は見せられねえから、明日は元に戻ろう。

なんだか気持が軽くなった気がして、立ち上がり石を思いっきり投げてみた。



俺は言われた通りに細い道を歩いていくと、一人で川辺に座っているあいつを見つけた。

晃は声をかけようとしたが、あいつが泣いているのに気づきその場に立ち尽くした。

30分ぐらい、俺はあいつを見ていた。

あいつが急に立ち上がり石を川に向かって投げる。

石は2回跳ねただけですぐ落ちた。

意外にこういうのは下手なんだな。

俺は後ろから石を投げた。

石は6回跳ね、綺麗に川に沈んだ。あいつが驚いて後ろを振り向く。

はずだった。

俺は石を投げようとした瞬間に足を滑らせ、藪の方に投げてしまった。

次の瞬間、藪の中にいる虫という虫すべてが出てきて俺に襲いかかった。

「ひぃい。助けて~」

東京出身で虫とは縁遠いおしゃれな俺は思わず叫び声をあげ、尻もちをつく。

「何してんだよ!」

あいつが俺に気付いた。

「む、虫の研究だよ。今度のロケで虫のドラマとるからな」

自分でも意味不明だと思う。

「何でわざわざそこで研究してんのよ……」

「……たまたま通りかかってさ。あれ、どうしたの?泣いてるの?」

「今は一人にしてよ」

俺は、衝撃の言葉を聞いた。

コメディ・ラブ

コメディ・ラブ

山村美香(27)は山奥の村で、恋愛とは無縁の生活を送っていた。 寧ろ彼女もそれをよしと思っている節がある。 それを端的に表しているのが彼女の服装だ。 彼女は今日もジャージ、明日もジャージ、明後日もジャージだ。 ある日、美香は村にロケに来た今をときめくイケメン俳優、晃に出会ってしまったことで、恋愛とは無縁ではいられなくなってしまう。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-01-20

Copyrighted
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  1. 山村美香(27)は山奥の小さな村で、ある日いまをときめくイケメン俳優晃と出会う
  2. 2人の男女が断崖絶壁の崖の上で夕暮れ時のオレンジの太陽に照らされている
  3. 俺、晃さまが小山村に来てやったぞ
  4. 私、虹橋優海☆
  5. 再会
  6. 和解
  7. 意外な一面
  8. タイミング
  9. 頑張れ俺
  10. 手に負えない女は女で解決だ
  11. 小山村の母
  12. 仁義
  13. おバカさん
  14. 王子様
  15. 見栄張り
  16. 夜の畑仕事と鍬と俺
  17. マイスイートハニー
  18. 恋愛の神様
  19. パンダだって
  20. まさか
  21. 予感
  22. 気がつくとき
  23. 胸騒ぎ
  24. 俺は決して
  25. 川の思い出