星が地に落ちた日

 目を覚ますと、そこは砂漠のど真ん中だった。
 一粒一粒が熱を帯びる黄色い砂が、身体中にへばりついて水分を奪っていく。乾涸びた唇を何とか開けて声を出そうとしても、喉はただ熱い息を空中に吐き出させるだけであった。
 ふと、半開きの目で空を見上げる。おかしい。僕はあそこにいた――空を飛んでいたはずなのだ。ちょうど今飛び去った鳥のような、すてきな翼を持った飛行機に乗って。角の丸い窓の外から、雲の上の青空の景色を見て、天国ってこんな感じかな、って笑いあったことも覚えている。――でも、誰と?
 思わず、僕はその身を勢いよく起こした。左手が、何かを掴んでいるような気がした。その手を開くと、黄金色の熱砂が風に吹かれてさらさらと零れ落ちていった。それに合わせるかのように、僕の微かな記憶も頭の中からばらばらと崩れていくのを感じた。怖くなって、立ち上がって走り出していく。おぼつかない足元が重い砂に引っ張られて何度も転びそうになる。その度に、僕の頭から抜け落ちていった記憶を埋めるかのように、新しい情報が、情景が、するすると入ってきた。そうだ。僕は飛行機に乗っていた。それは確かだ。でも、その飛行機は墜落した。撃ち落とされた鳥のように、青い青い空を真っ直ぐ綺麗に落ちていったのだ―――
 ついに、僕は足を掬われて転んでしまった。打ちつけた頭を少し上げて、周りを見渡す。では、大破した飛行機は?ばらばらになったその翼は?エンジンは?そして――僕が握っていたはずの、柔らかく愛おしい右手は?その手の主である君は、どこに行ってしまったの?
 答えは明白だった。みんなみんな、この砂漠をかたち作る化石の層になってしまったのだ。僕ひとりを置いて。途方もないものが、心をせぐりあげてきた。でも、渇き切った身体では、涙も、泣き声も、もう出て来てはくれなかった。
 ふと、僕は身体を仰向けにすると、もう一度空を見上げた。今度は開き切った目で、青空ではなく太陽を見た。厳しく照りつける太陽だったが、ひとと目と目が合った時のように、優しく微笑みかけてくれたような気がした。太陽はその優しさのまま、僕に静かに語りかけた。
『やっと、生まれてきてくれたね。愛おしい、僕の星の子。きみは、今這っているその地を、熱く焦がすために生まれてきたんだ』
 太陽の声は何かを発し続けているが、それは小さく、か細くなっていく。やがて視界もぼんやりとしていき、目を開いているのに、完全に何も見えなくなった。太陽の眩しさも、綺麗な青空も、空気と砂の熱さも、何もかもの感覚がゆっくりと自分から離れていったとき、僕の目は完全に閉じ切った。

星が地に落ちた日

✳︎本作品は、以前投稿していた『二重連星掌編集』のエピソード(チャプター)を加筆修正し、投稿したものです。

現在、短編集として『二重連星掌編集』の物語をまとめた本を作りたいと思っています。

敬愛する二人の作家とその作品群をモチーフにした、ふたりぽっちの魔術師のお話です。高校生の頃から構想していて、とても思い入れがあります。

全部で二十話ほど、今まで投稿してきた物語も含めて毎日投稿できたら……と考えています。

マイペースですが、よろしくお願いいたします。

星が地に落ちた日

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-07-23

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