特別領域
首都コチョットから少し離れた荒野に、1人の女が突っ立っていた。女のうっすらと見開かれたグレーの瞳には、光が一粒もたたえられていない。目の前には20メートルほどの大きな縦長の岩が二つそびえ立つ。目線の高さに注意書きが刻まれている
立ち入るな 立ち入れば死 この先何も
通用せず 人は皆 求め ここの奥へ奥へ
探し物をしに 行くが 戻って来ぬ
入るのなら 十歩歩いて 戻れ
と、記されている。その下に、小さな文字で、びっしりと、何か書かれていた。女は座り込み、砂を手で拭い去り認識を試みる。
ここから 領域 ある
火の域 地の域 風の域 水の域
そこには何も ない あるとすれば
無 幻 狂気 また…
「…ダメだ、もう読めない」そう呟き、女は立ち上がった。「勉強不足かしら、これではだめね」真珠色と見間違えるほどの淡い灰色の髪を、白く滑らかな指でかきあげ、近くには変わらず冷淡な髪と同じ色の瞳があった。
女はもう一方の、右側の岩を見てみることにした。岩には何も書かれていなかった。女は隅々まで見てみたが、何もなかったのでため息をつきその場を去った。
特別領域