近来まれにみる不手際集団 第五話

おはようございます。近来まれにみる不手際集団第五話をお届け致します。メンバーの離脱話に揺れる主人公。お楽しみに!

第五話


 「近来まれにみる不手際集団」
        (第五話)

         堀川士朗


「スクワットは良いって聞くよね」
「おう」
「さて、ステージ衣装も洗濯したし残りの力仕事は臭作(くささく)こと半分臭いハーフのアビゲイル市松にやってもらおうかな」
「これでも毎朝シャワー浴びてるんだよ」
「ん?」
「軽奈……それけっこうショックだから言わないでくれるかな」
「え」
「気にしてるんだ、体臭キツいの……」
「あ」
「昔から。本気で」
「本気でそうだったんだ。ごめんもう言わない」
「うん」
「……」
「あのさあ軽奈、あたしナンバーワン姉ちゃんズ抜けるかも知れない」
「えっ?」
「まだ脱退か卒業か、抜ける形は分からないけど」
「そうか」
「今じゃないけど。いつかは」
「何で?」
「実家のケーキ屋を継ぎたいんだ。オンディーナ」
「そうか」
「ハタチになる前に」
「うん」
「ごめんねリーダー」
「いや、良いんだ。でも将来の夢があるって良い事だと思う。オンディーナのケーキ屋頑張れ市松」
「おう。ありがとう」


もう出来ないし、もうどこにも売ってないけどみんなと花火がしたい。
代わりにライブをやっている。

あたしたちの歌、もっと、売れてほしい。
ライブにも、もっとお客様が来てほしい。
あたしたちは、頑張っている。
その頑張りが、もっと評価されたい。
売れてやるんだ。
売れてやるんだ。


『オムズビー』
作詞作曲 万麻宮帆立貝
うた ナンバーワン姉ちゃんズ

あれは思い出
ミネソタ育ちのオムズビー
おむすび大好きオムズビー
鼻水垂らしてやってきた
こりゃあすげえぜオムズビー
背徳ジェラシー
ご機嫌横丁のオムズビー
ワクワクが止まらねえ
私はネコ まっしぐら

今の私
けしからんボディー
ねえオムズビー
三合めしのダンディ ダンディ
お代わり自由 ダンディ
私の恋 行方不明
システムエラー止まらない
ねえオムズビー聞いてる?
あの日初めて出会った日
いきなり花束手渡した
意味を教えて オムズビー
私はネコ まっしぐら

片腹痛い 衝動
脇腹痛い 症状
第一宇宙速度より速く
私に逢いに来て
熱力学第二法則より熱く
私を愛して
私はネコ まっしぐら

まるであなたは
赤い惑星の
チャー・リーズナブル
貶めないで
まるであなたは
コタッツァー コタッツェスト
こたつの中の王子様
低温やけどしないで
私はネコ まっしぐら

私とあなた
お似合いのカポーズ
ねえ 女の子はデリケートなの
分かってよ
肝油ドロップ 舐めさせて
今すぐ
そしてもう 帰って
本当のパパが
帰って来る前に
私はネコ まっしぐら

それはあれだけ
利潤をターンパイク
してるだけ
にっちもさっちも
どっきり屑ネツォーフ
ブスのそばへぞ
寄りにけり
あなたがいないと
ノー酸素ノーライフ
生きられない
塩分 塩分 ブンバブン
私はネコ まっしぐら
私はあなたの上位互換
ワクワクが止まらねえ
ミネソタ育ちのオムズビー
私のオムズビー


『肝油ドロップ舐めさせて』と『利潤をターンパイク』と『塩分塩分ブンバブン』の歌詞を歌っている時にバックトラックがブツブツと切れてノッキングを起こした。
ダンスがずれる……!
中村問屋子が舌打ちした。
あたしたちが用意してきたトラック(プロデューサーの岩谷火星人が売れないバンドミュージシャンを安い値段で雇って音入れしてある)なので、原因は音響を担当している小屋のミスだ。
しかも故意によるものだ。
明らかに小屋主から嫌がらせを受けている。
あたしたちは、ほうぼうでマークされている。
あれ?誰も口に出さないけど、あたしたち有名になれるのかよ。
取り巻く環境は悪夢のるつぼ。
まさにナイトメアだ。
ナイトメアグループアイドルプロジェクト。
なんだよ縁起わりーな。

花火がしたい。
みんなと。
祭りの後、後の祭り。
VIOゾーンにかゆみ止めのお薬を塗ったからマンマンがスースーする。
花火がしたい。


SNSにあたしたちのライブの模様が拡散されて嬉しい。
グッズの物販。
あたしのチェキと缶バッヂとアクリルキーホルダーがちょぼちょぼ売れて嬉しい。
物販の上がりは即あたしたちのギャラとなるため、売るのにも必死だ。
キモ豚の臭いおっさんたちのファンと並んでポーズを取ってチェキにおさまる事も、全然恥ではないし厭わない。
ありがたき飯の種だ。
ライブと物販が終わり、衣裳を着替えてメンバーと別れ、地元のラーメン屋で五目そばをすすった。
染みる。
美味い。
あたしは五目そばを食べながら一瞬失神した。
追って春巻きと瓶ホッピも頼む。
町中華。
美味しい春巻きを咀嚼して黒ホッピで流し込む。
むぐむぐ。
ぷはー。
風体はおっさんと変わらないな。
構わない。
労働後の飯は格別だ。
夜が染みる。


新曲、『やっちマイナー』。
スタジオ入りしてレッスン。
作詞作曲の万麻宮帆立貝から歌唱指導を受ける。
相変わらず彼は声がものすごく小さい。
多分良い事と大事な事を言っているんだけど、何を言っているのかよく聞き取れないのでみんなハイハイと適当に答えている。
そしていつも小刻みに震えていてチワワみたいな小男だ。
このところマネージャーの杉下鉱脈女史の姿がないが、どうしたのだろう?


年末だね~。
粘膜だね~。
なんか猪の肉とか入った火鍋が食べたいな~。
白菜を多めに入れて。
良い出汁出てまっせ旦那~。
とかさ~。
鍋りてえ。


人生は短い。短かすぎる。
一瞬だ!
努力をしなければ。
努力をしなければすぐに歳を取って、おばさん臭い臭いおばさんになるんだ。
あたしは自分を乗り越えてやるんだ。


季節がガラッと変わった。
夏。
上野動物園に一人で行った。
パンダは一匹残らず中国に返還されて全滅だったのであたしはマイナーな動物を観察していた。
タヌキは臭かった。
ワライカワセミがけたたましく鳴いていた。
動物園の外れの狭い檻の中で、薄汚れた灰色のホッキョクグマが延々と八の字の動きでノシノシ歩いているのを見て、あたしは、ああこいつ狂ってるんだなって思った。
ぐるぐるぐるぐる。
八の字。
ノシノシノシノシ。
ホッキョクグマは目がイッててよだれを垂らして歩いていて人間ぽかった。
飼育員にバレないように隠れて一箱1800円のタバタバを一本だけ吸う。
タバタバの吸い方忘れちゃったな。
売店で消費税25%のソフトクリームを買ったら既に溶けてた。
でもちょうど良かった。
爬虫類とフラミンゴのいる向こう側へは渡らず帰った。
今日は発狂したホッキョクグマも見れて良かった。


            続く

近来まれにみる不手際集団 第五話

ご覧頂きありがとうございました。また来週土曜日にお会いしましょう!

近来まれにみる不手際集団 第五話

メンバーの離脱話に揺れる主人公!

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • コメディ
  • 青年向け
更新日
登録日
2024-07-20

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