変身星

変身星

指小説(掌編)、SFファンタジー


 宇宙の果てに五つの星が仲良く寄り添って浮かんでいる。それぞれが自転をしているということは引力だってあるだろうに、なぜか引っ張り合ってぶつかるようなことはない。
 その星の周りに二つの太陽が輝いて、五つの星を照らしている。ここでは、太陽が五つの星のまわりをまわっているのだが、二つの太陽はずいぶん離れていて、ぶつかることはないが、五つの星の人間が見ると、重なり合ってしまうことがある。片一方の太陽がかなり遠くにあることから、重なってからかなりたって、二つに離れていく。二つの太陽の動きは時をはかる基準となり、二つの太陽が重なったときはその年が終わり、また二つになると次の年になる。
 二つの太陽が重なる日は変身の日とよばれており、一日がとても長い。五つの星の人間にとって、年が変わる日でもあるが、子孫を残す日でもあった。
 今日はその変身の日である。二つの太陽が完全に重なって、光が弱くなり、地上の温度が一斉に変わる。
 五つの惑星は変身星群と呼ばれ、それぞれに一から五の番号がふられている。わたしは変身星3に住んでいる。
 変身星群は七つの星として宇宙の亀裂から現れ、そのうちの二つは火山活動が起きて、五つの星からはなれていき、大きくなりながら五つの星の周りをまわるようになった。二つの星は燃えさかる太陽になり、五つの星の上に生き物たちが生まれてきた。生き物たちは進化をとげ、それぞれの星で文化、科学、言葉が発達したが、星間連絡挺が造られるまでになると、お互いの交流が始まり、それぞれが発明したものを交換し、文化科学が急速に進歩した。共通言語ができ、それぞれの星の言葉や習慣は方言として、風習として、保存されてきた。。
 暦も共通のものになり、二つの太陽が重なる長い長い一日はどの星の上の人間たちも、暖房器具を出して家族が集まった。
 今、私の家でも、テーブルの上に禁断の果実がのせられ、パンとチーズ、それにぶどう酒が用意されている。
 いつもはなにもつけないで生活をしているのだが、この日だけは温度が下がっていることもあり、私も家内もガウンをまとっている。
 二人の子供たちがテーブルの前にすわった。
 これからお祈りをするのよ、と家内に言われた子供たちは目をつむって両の指をあわせて、変身の神に祈りを捧げた。
 去年産まれた子供には初めての変身の日である。上の子は三回目だ。
 さあ、目をあけて、お食べ、と家内の声で、二人は皿の上のパンを食べ、チーズを食べ、ぶどう酒を飲んだ。
 家内が禁断の果実の皮をむいた。四等分にきるとそれぞれの皿の上においた。
 お食べなさいな、子供たちは目を細めて真っ赤に熟れた禁断の果実にくらいついた。口の脇から滴を垂らして、ふーっとため息をついた。そのまま後ろに倒れ、目を瞑った。
 私と家内はひとりずつ子供を抱えると、寝室に運び、ベッドの上に横たえた。瞑ったまま目玉がきょろきょろ動いている。
 いつもは食べてはいけない禁断の果物はその日のために、国から支給される。神経系に作用する物質を含む赤桃という果物である。食べると子供は寝てしまい夢を見る。
 我々はテーブルにもどって、ふたたびパンとチーズを食べ、ぶどう酒を飲んだ。
 禁断の果実を家内が口に入れた。私も食べた。甘酸っぱい汁が口の中に広がり、強い香りが鼻に上ってくると、頭の中が燃えたぎるように熱くなった。
 家内がガウンをぬぐとはだかになって、用意されてあった皿の上に、総排出口から卵をだした。
 私もガウンをぬぐと、総排出口から精子粉を卵の上にふりかけた。
 禁断の果実を食べると、女は卵を生みたくなり、体の中にいつも用意されている卵をうみ、男は遺伝子のはいった精子の粉を振りかける。
 家内と私は意識がなくなりその場で倒れた。頭の中は快感で満たされ、体中が宙に浮いているような気分になった。
 やがて気がついたときには、新しい年になっていた。天の太陽はふたつに離れようとしている。
起きあがると、家内が受精した卵をもち、我々は家の屋上にあがった。まだ離れきっていない二つの太陽がてらす孵卵皿の上に卵をのせた。やがて卵は太陽の熱にさらされ、五年たつと子供が殻を割って出てくる。
 新たな年は、あらたな生命の誕生が一斉に始まるわけである。
 我々は屋上から部屋に戻った。
 子供たちはまだベッドの上で夢を見ている。
 なにになるのかしら。
 新たな年は、もう一つの楽しみがあった。
 椅子の上にペットの猫が寝ている。
 二つの太陽が完全に分かれたときそれは起こる。
 今年一年大事にしてきた猫。まん丸くなっている猫。
 私と家内は猫をじいっと見ていた。
 耳が頭の中に埋もれていく。手と足も体の中に吸い込まれていく。体中の毛が抜けて空に舞って外に出てった。顔が細くなり、胴体が伸びて、しっぽがさらに延びた。顔も体も表面には鱗が覆い、緑に輝きはじめた。
 「蛇になったわ、あなた」
 「うん、よかったな」
 新たな年になると、子供たちの夢が、飼っている動物たちを変身させる。そしてその年のペットになるのである。
 家内が裸の体に緑色の大きな蛇を巻き付けた。
 新たな年である。

変身星

変身星

ある星の新たな年の幕開け儀式。SFショートショートファンタジー

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • 青年向け
更新日
登録日
2024-07-19

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