『赤い傘』
通り雨に濡れた肩
背の高いシルエットが
今夜も引き戸を潜る
『赤い傘』
降られてしまったよと
苦笑する貴方の髪を拭けば
僅かに残るムスク
懐かしくて愛おしい香り
好きだった雨の匂いが
貴方で覆い隠される
その瞬間が堪らなく
アタシを高揚させた
ここで夜を過ごすことを
日常にはしてくれないけど
思い出したようにふらっと
まるで通り雨みたいに訪れる
アタシが待っていることを
当然だと思っているのね
その気紛れをただじっと
待ち続けると思われている
二階の窓ガラスには
川を隔てたスナックのネオン
人工的なカラフルさに照らされ
貴方の頬がほんのり色めく
朝になったら赤い傘を
これしか無いのと渡そう
苦笑して受け取る貴方を見て
次に会える日を心待ちにできる
やまない雨を望んでも
それは叶わぬ望みだけれど
待つことだけは誰にも
貴方にも止められはしない
「もう幼くないアタシの首筋に夜の痕跡」
『赤い傘』