ユメヒトヨ
1
「死ぬから」
唐突で。
「……え?」
屋上で。
「えーと」
これって。
「………………」
止めないと。
的なパターンか。
けど。
「無理なんで」
「無理!?」
驚かれる。
「えー……」
驚くかなあ。
「説明とか」
「いる!」
即。
「ていうか」
そもそも。
「ほしい」
「!」
真っ赤に。
「す、素直にそう言えばいいのよ」
もじもじ。
「アタシがほしいならほしいって」
「えっ?」
いやいやいや。
「ちょっと」
さすがに。アレだなと。
すくなくとも、知ってる女子でここまではなかったよなー。
「あのさ」
なんだか。驚きも薄れ。
いや、別の意味で驚いてはいるんだけど。
「死ぬの?」
「っ」
ふるえ出す。
「……あ」
さすがに。
「悪い」
あやまる。
「悪い!」
肯定される。
「調子のってんじゃねーぞ!」
(えぇ……)
そこまで。
「あやまったし」
「はあ!?」
それで。
「あやまったしぃ!?」
済ますのかと。
「うん」
「ええぇぇ~!?」
あり得ない。そんな。
(だってさー)
そこまでは。
「ない」
「ない!?」
驚かれる。
「何が!」
「この状況が」
「状況!?」
「古い」
「古い!?」
驚かれる。
「し、死ぬのに古いとか新しいとかないでしょ!」
動揺される。
「あるって」
言う。
「いまどき、屋上から飛び降りってさー」
「飛び降りるとは限らないじゃない!」
「えっ」
「飛び上がるとか」
それはもう死ぬとか以前の問題になってくるだろ。
「……で」
ちょっと。興味もって。
「上がるの?」
「上がらねーよ!」
目を剥く。
(怖えー)
凶暴だ。
間に檻があってよかった。
(って)
檻じゃなくて、柵なんだけど。
「元気じゃん」
「なわけねーだろ!」
歯も剥く。
「獣じゃん」
「何がだ!」
「ケダモノじゃん」
「食われてーか!」
ワイルドすぎる。
「がるるー」
うなった。
「や、わかった」
何がかというと。
「じゃーな」
「おい!」
背を向けたオレに。
「どーゆーことだよ!」
「だって」
はっきり。
「生きていける」
「は!?」
「檻の向こうでもたくましく」
「檻じゃねーよ! 鉄格子じゃねーよ!」
「鉄柵の向こうでも」
「鉄柵じゃ」
ある。
「あるけども!」
認める。
「オマエ、状況考えてモノ言えよ!」
「状況」
思い起こす。
こんなことになってるのは。
「おまえが」
「『おまえ』言うな!」
いや、先にそっちが言ってきたんじゃん。
(けど)
オマエって。
女子に言われたのは初めてかもしんないなー。
「ハハッ」
「笑うな!」
笑うだろ。
「じゃあなー」
「だから、去るな!」
「去る」
きっぱり。
「遊びにつきあってられない」
「あ!?」
「つか」
はっきり。
「生き死にで遊ぶとか、ないから」
「あ……」
真っ赤。
けど、恥ずかしさの赤でなく。
「遊びで死ねるきゃーーーっ!」
噛んだ。
がっつり。
「おかしいだろ!」
指をさされる。
「なんで、オマエなんきゃが」
また『きゃ』だ。
「名古屋人?」
「味噌が主食か、アタシはーーっ!」
さすがに主食ではないだろ。
……たぶん。
「アタシは衝撃を受けたぞ! あの、マヨチューブに入った味噌をおみやげでもらったときは!」
「あー」
オレも何かで見たことある。
さすがに、おみやげでもらったことはないけど。
「結構うまいんだ! ゆで卵につけると!」
そうなんだ。
って、ゆで卵に味噌?
「黄身の味噌漬けとかあるだろ!」
食べたことないし。そんなグルメっぽい料理、普通の中学生が。
「あー」
いきなり。どこでもないところを見始め。
「食べてー」
「えっ」
「ゆで卵」
「ええっ!?」
「うで卵」
「言い直した!」
「持ってない?」
「持ってるわけ」
ない。
「オマエのせいだ!」
責任転嫁? いきなりの。
「そこまで」
あ然と。
「名古屋愛」
「愛してねーし!」
ムキになって否定するのもどうかと。
「大体、ゆで卵しか言ってねーだろ! 味噌つけてねーよ!」
「つけないのか」
「つける!」
「やっぱり」
「やめろよ、名古屋疑惑!」
そんなにイヤか。
「アタシはアレかよ! 名古屋顔かよ!」
名古屋顔って。
「なごやか顔なら」
「なごやかかよ、これが!」
自覚はあると。
「シャチホコ顔かよ!」
それは言ってない。
(なら)
ういろう顔とか、エビフライ顔も。
「ねーし!」
エスパーか。
「だから」
急に。テンションを落とし。
「アタシなんてどうでもいいってのかよ」
「や」
それは言ってない。
と、思う。
「アタシなんて」
肩が。ふるえ。
「えーと」
また困った流れに。
とりあえず。
「ナオエ」
「!」
「だったよな」
名前を。
「な……!」
またも真っ赤に。
「なんだそりゃ!」
「えっ」
そう来るか。
「違ったっけ」
「違わにゃい!」
噛んだ。
「違わみゃい!」
なぜ、名古屋風。
「やっぱり」
「名古屋じゃない!」
自覚はあると。
「じゃあ、何?」
「えっ!」
驚かれる。
それにつけこむってわけじゃないけど。
「なんでさぁ」
そもそもの。
「オレなわけ?」
「む……」
むぐぐぐ、と。
「呼ばれたんだよね」
自分を指さし。
「オレ」
「………………」
「アンタに」
直後、はじけるように。
「調子にーー!」
「乗ってない」
切り返す。
「そっちだろ」
返す。
「調子に乗ってるのは」
「違って!」
ぶんぶん! と首を。
「オマエだ!」
指さされる。
「見てるんだ!」
「えっ」
何を。
「見たんだからな、アタシは!」
「おいおい……」
ストーカーなのか、こいつは。
「はっきり言って」
何だよ。
「うらやましい!」
「………………」
一瞬。
「……え?」
何を。
「うらやましい!」
くり返される。
「うら」
「やましい!」
やましくはないだろう。
……たぶん。
「あの」
問いただす。
「何が」
「『何が』だとぅ!」
最後の小さな『ぅ』のところにやたら力が入る。
「とぅ!」
くり返される。
なんか、江戸っ子みたいだな。
「てやんでぃ、べらぼうめぃ!」
名古屋なのか、江戸なのか。
「もうちょっとキャラをはっきり」
「できるか!」
力いっぱいの拒絶。
「えぇ~……」
当然。
「なんで?」
「なんでもウンコもない!」
ウンコって。
「ウンコ言って悪ぃーか!」
(うわー……)
なんて返せば。コレに。
「おかしい」
「決まってんだろ!」
決まってるんだ。
「おかしくなるに決まってる!」
まあ、この状況がそもそも。
「落ち着けって」
まともなことを。
「落ち着けるか!」
言い返される。
「アタシは」
言う。
「死ぬんだからな!」
「……うん」
知ってる。
「そこから落ちたら」
「落ちなくても!」
えっ。
「それは」
死ぬだろう。
人間、いつかは死ぬ。
「うん」
「わかってるって顔して」
ぎりぎりと。
「調子に乗ってる!」
「乗って……」
ない。
とも。
言い切れないのかも。
「訂正する」
「えっ」
「わからない」
認める。
「死ぬかどうかは」
「わかってない!」
だから。
「アタシは」
言われる。
「死ぬんだ! 不治の病で! もう絶対に助からないんだ!」
2
「……あー」
ようやくの。
「見えてきた」
「寿命か!」
いやいやいや。
「死神じゃないんだから」
「デスノートか!」
あー、あったかもしれない、そんな設定。
ん? あれって相手の名前が見えるようになるとかじゃなかったっけ。
「アタシの命も奪いに来たんだな!」
いやいやいや。
「奪ったって無駄だぞ! 奪われてもすぐ死んじゃうんだからな!」
「えー……と」
確かに。
死神が命を奪うみたいな話ってあるけど、あれ、奪われた命って後でどうなるんだ。
謎ではある。
「勉強になった」
「だろ!」
胸を張る。
そこだけちょっと同年代より大きめかな-、なのを。
「アタシは美人だ!」
いきなりだ。
「美人だ!」
だめ押した。
「ダメじゃん」
「ああ!?」
いや、ガラ悪すぎるって。
「いいじゃん、ダメ美女!」
よくないよ。
「美人薄命って言うだろ!」
聞いたことは。
「つまり、美人な時点でもうダメなんだよ!」
いやいやいやいや。
「ダメな時点でもう美人なんだよ!」
いやいやいやいやいや。
「アタシはもうダメなんだ!」
「えーと……」
ひとまず。
「マジなの?」
「わかんだろ!」
当然だろうと。
「美人だし!」
そうじゃない。
とは言わないけど。
(わー)
知らなかった。
こんな強烈なキャラクターの女子が。
「うちのクラスにいたなんて」
「おい!」
バンバン! 柵を叩く。
「アタシだぞ!」
「……うん」
「いた『なんて』って!」
「うん」
「『こんなカワイイ子がいたなんて!』の『なんて』のニュアンスじゃないだろ!」
「うーん」
ニュアンスは合ってる気がする。
驚きの中身は違うけど。
「いたなんて」
「くり返された!」
「どう?」
「評価を求められた!」
「で?」
あっさり。
「やり直し!」
素直に。
「いたなんて」
「どっちにしろムカつく!」
ムカつかれた。
「どうすればいいんだよー」
なんか疲れた。
「止めろ!」
「えっ」
「アタシを!」
バン! 胸を。
「ゆれるって」
「え?」
「いや」
しょーがないじゃん。思春期だし。
「イヤってどーゆーことだよ!」
「あ、いや」
「また言った!」
「………………」
どう言えば。
とか考えていると。
「負けた」
「え?」
がっくり。
「あ、ちょっ」
危ないって、フェンスの向こうで膝ついたら。
「やられた」
な、何を?
「拒否られた」
あー。
うん、それは。
(って)
まずいか、この状況。
いまさらだけど、ここは屋上で。
で、柵の向こうには飛び降りるかもって女子がいて。
「ん?」
そこで。気がつく。
「待って、待って」
「おお!」
目を輝かせる。
「『待て』ってことは! アタシを止めてくれるんだな! やっぱり死んでほしくないんだな!」
「じゃなくて」
「『じゃない』ってどういうことじゃーーっ!」
叫ばれる。
「どういうことだぎゃーーっ!」
やっぱり、名古屋なのな。
で、ぜんぜん、なごやかじゃないのな。
「死ねってのか? 殺すのか!」
「殺しはしないけど」
それ以前に。
「デスノートか!」
「殺さないって」
名前は知ってるけど。
「ナオエ」
「アタシだ!」
知ってる。
「で」
これも。
「死ぬんでしょ」
「……!」
「言ったよね」
なんだか。Sチックな自分を感じながら。
「死ぬってわかってるのに、死のうとするのっておかしくない」
「わ、悪いか」
動揺。明らかに。
「これから死ぬけど、先に死んで悪いってことをオマエは」
「あ、いや」
さすがに無神経だったかな。
「あ」
さらに、気づく。
「……そうか」
ちょっと。罪悪感。
「まー、そうなるかも」
「は?」
「怖いっていうか」
あくまで、たぶん。
だけど。
「死を待つのが怖くて」
「怖いさ!」
言い切る。
「死んだことねーし!」
「それは」
オレだってそうで。
「怖いだろ!」
「……怖い」
認める。
「けど」
だったら。
「やっぱり、死ぬのはやめたほうが」
「死ぬのにか!?」
うーん。
「死ぬからって、別に死ぬことは」
何を言ってるんだ、我ながら。
「死に方ってあるし」
「死に方?」
はっと。して。
「そーゆーのにこだわるほうか?」
「うーん……」
こだわるかって言われると。
「わからない」
「アタシは」
言う。
「こだわるも何もない」
「うん……」
そういうことになるだろう。
「ん?」
だったら。
「いいじゃん」
「何がだ!」
「いまここで死ななくても」
「おう!?」
動揺された。
「死ななくても」
だめを。
「死ぬんだから」
「どういうことだよ、それは!」
確かにあんまりな言い方だけど。間違ってはいない。
はず。
「う……」
目をそらす。
「ち、調子に乗るなよな」
またもの。
「信じるのか」
「えっ」
「アタシが」
顔を。
「死ぬっていうこと」
上げて。
「………………」
オレは。
「えーと」
今度は。こっちが目をそらしてる。
「信じてないのか」
信じるとか、信じないとか。
「信じてないんだろ」
「待って、待って」
あわてる。
「逃げんな!」
「……っ」
「だからだよ」
わかっていたと。
「信じないだろ」
「………………」
うん。
だな。
「だから」
立ち上がる。
「アタシは」
「あ……!」
飛び降りそうに。そのまま。
「ほら」
ふり向く。
笑う。
「止めるだろ」
「………………」
止めた。
「さすがにこれで止めなかったら人間失格だからな」
「……かよ」
オレは。
「わざとかよ」
声が。自分でも驚くくらい。
「わざとだったのかよ」
怒っていた。
そのまま、背中を。
「おい!」
「止めるな」
驚くくらい。冷たい。
「あーあ」
頭をかく。
ふー、と。大きく息を吐いて。
「ごめん」
「えっ……」
「なんか、マジになっちゃって」
反省。
そこに。
「……マジだよ」
逆に。言われて。
「マジだから!」
「あ……」
跳んだ。
3
「とうっ」
着地。
「………………」
あぜん。
がく然。ぼう然。
「……あ」
やっと。
「あっぶなー」
だーっ、と。
息を吐いてしゃがみこむ。
「もー」
「女子か」
言われる。
「男子だ」
言い返す。
「たぶん」
「たぶん!?」
「オレのこととかどうでもよくて」
「いや、どうでもよくないぞ、そこは!」
「どうでもよくて」
言い切って。
「やめろよなー」
再びの。脱力。
「冗談でも、心臓に悪いって」
「こっちも心臓に悪い」
胸を押さえて。
「………………」
「なに、見てんだよ」
「見てなんて」
いた。
「そういうことじゃなくて」
強引にごまかし。
「跳ぶなよなー」
「跳ぶだろ」
あっさり。
「じゃないと」
言う。
「死なないじゃん」
「だから」
また、むっと来つつ。
「死ぬなよ」
「死ぬよ」
言われる。
「死ぬんじゃん」
いや『じゃん』言われても。
「関係なく」
言う。
「死ぬんだ」
「あのなぁ」
何が関係ないのかと。
「アタシが」
言う。
「死ぬことは」
「死ぬなよ」
やっぱり。言ってしまう。
と。
「……か?」
「えっ」
「アタシに」
もじもじ。
「死んでほしく……ないのか」
「えーと」
なんなんだろう、この状況は。
「死んでほしくない」
「おっ!」
「こともなくない」
「どっちだ!?」
「どっちでもいい」
正直に。
「関係ないし」
「うお!?」
ショックの。
「鬼! 人でなし!」
「いやいや」
人だからでしょ。
「チカンとか見ても助けないし」
「ひどい!」
「席もゆずらない」
「マジか!」
「ノット・マイ・ビジネス」
言い切る。
「ビジネスで人を助ける人たちはいるんだ」
思う。
あまりにも世間は『善意』をあてにしてないか。
それって、どこか無責任で。
大体、チカン取り締まりの責任は、当然電車を運営してる側にあるよな。
それが平然と客に動くよう呼びかけるポスターとか。
「おい」
「あ」
「なに考えてたんだよ」
「たいしたことは」
「アタシ以外のこと考えてんなよ、この状況で!」
一理ある。それでも。
「ノット・マイ・ビジネス」
言い切る。
「そっちで呼んでよ」
「誰を」
「だから、助けてくれそうな」
「緊急事態だろ!」
確かに。
「それに」
うつむく。
「無理なんだよ」
向こうに。言われる。
「何が」
「助けてくれそうな人は助けてくれないんだ」
どういうこと?
「助けられないんだ」
うつむく。
「無理だって」
はっと。
「それって」
オレと。同じように。
「できないんだ!」
声を。張り上げる。
「アタシは助からないんだ!」
思い出す。言っていた。
確かに『不治の病』って。
(けど)
今時、そんな昔のドラマみたいなこと。
(……あるか)
不治じゃなくなった病気もたくさんあるけど、そうでないのもきっとまだまだたくさんあって。
と、昔のドラマと言えば。
「あのさー」
「!」
顔を上げる。
希望に満ちた目で。
「やっぱり!」
「………………」
この反応も二度目になると。
「違うから」
「どういうことだ!?」
「違くて」
念を押してから。
「なんで?」
あらためて。いまさらながら。
「なんで、ここにいれてるの」
屋上。
なのだ、ここは。
いや、簡単に言ってるけど、学校の屋上なんて簡単に入れるところじゃなくて。
学校に限らず。
ウチの団地もたぶん屋上には入れないようになっているはずだ。
(だから)
昔なんだよなー、飛び降りを止めるとか止めないとか。
「えーと」
とりあえず。
「先生、呼んでこようか」
「なんでだ!」
いやいや『なんでだ』って。
「普通そうかなー、って」
「普通は」
もじもじ。
「助けようとするだろ、アタシを」
「……うん」
なんだか釈然としない。
「助けろ」
「………………」
ますます。
「命令されるってなー」
「される前にやれよ」
まず、しないでほしい。
「はーあ」
「なんだ? イヤか? イヤなのか?」
「いやいや」
「イヤ! イヤ!?」
なんと言えば。
「わかったよ」
もう、なんかいろいろどうでもよくなって。
「助けるから」
「マジか!」
そこまでよろこばれるのも。
「ほら! 早く! ハリーアップ!」
(いやいや)
自分でこっちに来たほうが早いのでは。
「はぁ」
指摘するのも面倒で。
「なんで、ため息? イキイキじゃなくて」
いきいきするか、この状況で。
「するだろ」
するんだ。
「美少女が待ってるんだ」
言っちゃった。自分で。
「ほら」
「はいはい」
「やる気がない!」
だから、どうやる気を出せと。
救急隊員でも消防隊員でもないんだって。
(人の命なんて)
オレにとって。
「………………」
「?」
柵を乗り越えようと。
したところで動きを止めたオレに。
「何してんの」
「………………」
「ちょっとー」
「いや」
「イヤ!?」
「じゃなくて」
遠くを。見て。
「あー」
「何を納得してるんだ!?」
「いい景色だなって」
「お、おう」
戸惑ってる。
「ははっ」
オレは。
笑って。
「いいよな」
「お、おう?」
「いいんだ」
オレは。
「オレが」
言った。
「ここから飛び降りても」
4
「おーーーーーーーい!!!」
大絶叫。
「なぜ、そうなるだ!?」
どこの方言だ。
「どこの方言だ」
口にする。
「どこのって」
わたわたと。
「なんか、北のほう?」
「あー」
どうでもいい。
「オッス、オダ、悟空」
それって方言か?
てゆーか『オダ』って。
「悪かった」
「どこに!?」
「悪かったよ」
きっぱり。言って。
そして。
「わーお」
「うお!?」
驚かれる。
変なテンション。我ながら。
(あー)
そうだ。
十分に変なシチュエーションなのだ。
「変だ」
言う。
「オマエだ!」
言われる。
「なー」
オレは。
「一緒にさー」
言って。
「………………」
言えない。
「一緒に?」
食いつかれる。
「一緒に? 何?」
「あー……」
言えない。
「あれ?」
首をかしげる。そんな自分に。
「『あれ?』って!」
ツッコまれる。
「いやー」
なんでだろう。言えないなあ。
「あー」
ま、いいや。
「こんなところに来た時点で」
オレも。
「死ぬし」
「!?」
さすがに。
「なんでだ!」
まー、言うよなー。
「なんでって」
逆に。
「死ぬんだろ」
「う……」
「じゃあ、いいじゃん」
何だって。
「バカヤローーーッ!!!」
殴りかかられた。
といっても、お互い微妙な体勢だ。
「きゃあっ」
「危なっ」
思わずの。
(……う)
小さい手。それが最初に感じた。
(こっちは大きいのに)
見てしまう。
「おい」
「!」
あわてた。
「は、早く」
その後が。
「キスしろ」
「は!?」
この状況で。
「あ、間違えた」
何と。
「抱きしめろ」
だから、なんで。
「抱き寄せろ」
「あ……」
それだったら。
(……いいんだよな)
この状況だし。
「よっ」
軽い気合の声で。
(お)
手と同じように小さな身体。
あっさり。
オレの腕の中に。
(うーん)
感無量。ちょっとある。
なにげに。
初めてだし。
仲の良い女子は確かに何人かいるけど。
友だちだし。
こういう風には、まあ、ならないし。
「お……」
目が。見張られる。
「やったな、オマエ」
「えっ」
どういう意味で。
「やってくれたな」
だから、どういう意味で。
「死ななくて」
うるませて。
「よかった」
彼女は。
「死んじゃだめだろ」
言った。
ユメヒトヨ