騎士の資格(不問3)
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〇タイトル
「騎士(ナイト)の資格」
比率 0:0:3
時間 約20分
〇作品説明
異世界のどこかの国。
辺境の村で平和に暮らしていた子供(10代 性別未設定)の元に王都から遣いが来る。
「あなたは前国王の落とし胤。次の国王です」
新たな国王の元に、様々な想いを持つものが集まる。
ある者は愛のため、ある者は正義のため、ある者は己の欲望の為に。
※新国王は登場しません。
※この世界では性別の区切りがあいまいで、同性婚が当然のものとして認められています。
〇登場人物
ノア:国王の幼馴染 獣人と人間のハーフ、戦闘で無双の強さを誇る。一人称「自分」
ルーカス:前王の甥、次期国王の最有力候補とされていた高潔な貴公子
(女性が演じる場合は男装した貴婦人)一人称「私」
マルセル:謎の魔術師。美しい容姿と巧みな人心掌握術を持ち、宮廷魔術師として暗躍している。一人称「僕」
※全キャラ男女不問。語尾、一人称の変更可。
コピペ用
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ノア:
ルーカス:
マルセル:
ーーーーーーーーー
――――本文
(M)→モノローグ
ルーカス:(M)カルア=セドナ歴1219年。
オリヴァー三世崩御。
亡き国王の遺言により、一人の子供が次の国王として即位した。
世継ぎ争いから御身をお護りするため、田舎で何者かに匿われていた前王の落とし胤(だね)
……歴史書にはそう記されている。
(王宮の庭、訓練をしているノア)
(近づいてくるマルセル)
ノア:ふっ! ふっ! はっ!
マルセル:あれぇ? そこにいるのは、オオカミのノア君じゃないか。
精がでるねぇ。もう十分強いのに、まだ強くなりたいの? ご立派だねぇ。
ノア:……(無視して訓練を続ける)
マルセル:あれ? もしかして僕のこと覚えてない? 凱旋式でご挨拶したんだけどなぁ。
ノア:宮廷魔術師のマルセル。
マルセル:なんだ、覚えてるんじゃん。よろしくね、ノア君。
ノア:邪魔だ。消えろ。
マルセル:え、なんで? 僕は君と親睦を深めようとしただけなのに。
いいじゃない。せっかく会ったんだからさ、おしゃべりしよ?
ノア:自分は貴様が嫌いだ。故に話すことはない。
マルセル:えーなにそれ? ひどくないー? そんなこと言わないでさー?
ノア:近づくな。
マルセル:そんなぁ人を臭いものみたいにー!
ノア:臭いさ。お前は腐った肉の匂いがする。顔と腹の中で考えていることが全く違う奴の匂いだ。
マルセル:は? 何言ってるの?
僕そんなこと言われたの初めてだよー?
美しいとか、賢いとか、話していると楽しくて時間を忘れるとかなら、よく言われるけど。
そんなこと言われたら、僕、繊細だから傷ついちゃう。
えーん、しくしく……
……今なら謝れば許してあげるけど?
ノア:ふん(去ろうとする)
マルセル:話変わるけど、新国王って本当にかわいいよね。
ノア:は?
マルセル:いきなり見たこともない田舎の子供が国王として奉り(まつり)挙げられたときは、王宮中大騒ぎだったんだよー? あんな子供に何ができるー!って。
でも今は、意外に利発だし、素直さとかかわいらしさで、民衆にもウケがいいし、案外いい国王になるんじゃないかって、評価うなぎのぼり……すごいよね?
ノア:当然だ。あいつ……あの方は、誰よりも気高く心優しく、国王にふさわしい器をお持ちだ。
マルセル:あ、やっと普通に会話してくれた。国王の話なら反応するんだね?
ノア:(ため息)
マルセル:でさ、宮廷でも庶民の間でも、もっぱらの関心事は、国王陛下の結婚相手だよね?
まだ幼いとはいえ、この国では、国王とその配偶者が共同で統治するのが習わしだしねぇ。
誰が、陛下を射止めるのか……? ねぇねぇ、ノア君は誰だと思う?
ノア:……うるさい。だまれ。
マルセル:(無視して)誰がいいかなー? そうだなぁ……うーん……
(挑発的に)たとえば……僕なんてどう? お似合いだと思うんだけど。
ノア:……っ!
(ノアいきなり切りかかる)
(マルセル結界を張って防ぐ)
マルセル:……っと! もう! 何するの! 危ないな! 結界が一瞬遅れたら、僕が真っ二つだったじゃないか!
ノア:貴様ごときが国王陛下に汚い手で触れてみろ。今度は、手加減しない。
マルセル:はぁ?
……あのさ、なんか勘違いしてない? 君、陛下の幼馴染って以外、身分も後ろ盾もないんだよ? 君の処遇くらい僕ならどうとでもできるんだけど?
ノア:好きにしろ。自分は陛下の傍から離れるつもりはない。
(しばし睨み合う2人)
マルセル:……ふん、汚らわしい獣人(じゅうじん)ふぜいが。
国王陛下の騎士(ナイト)気取りとは笑わせる。
愛しい幼馴染会いたさに、傭兵になって敵を殺しまくって、王宮に出入りできるまでに成りあがった気概には敬意を表するけどね?
こないだの戦なんて、君が一人で敵の本陣に乗り込んで、指揮官の首、持って帰って来たんだって?
ノア:それがなんだ。
マルセル:君に使い道があることは認めてるんだよ、ってこと。
戦場に置いておくだけで確実に勝てる、トランプのオールマイティ。
まあ、これからも役に立ってね、愛らしい国王陛下と、僕のね。
僕の役に立つうちは、陛下の傍に置いてあげる。
けど、物騒なことは考えないほうがいいよ?
ノア:貴様……何様のつもりだ?
(マルセルに剣を突きつける)
マルセル:へぇ? 面白いね? 訓練がてら一回戦ってみる? 言っておくけど、僕強いよ?
(ルーカス入ってくる)
ルーカス:何をしている。
マルセル:あ、これはこれはルーカス様、ご機嫌うるわしゅう。
ルーカス:ノア、剣を納めろ。王宮で私闘(しとう)はご法度(ごはっと)だ。陛下のご友人という立場をわきまえろ。
ノア:申し訳、ありません。
マルセル:そうだよーノア君ー? しっかり反省してね?
ルーカス:マルセル、お前もだ。
マルセル:えー? なんのことー?
ルーカス:魔法の気配がした。
マルセル:いや、だってあれは……正当防衛……はーい、ごめんなさい、ルーカス様。
でもでも……
ルーカス:(無視して)ノア、先の戦での活躍ぶりは聞いている、ご苦労だった。
ノア:いいえ、ルーカス様にお褒めいただくことではありません。国王陛下の為に戦ったまでです。
ルーカス:この国のため、ではないと?
ノア:……はい。
ルーカス:正直が美徳なのは、場合によるぞ? 先ほども言った、わきまえろ、と。
ノア:……はい。
マルセル:そうだそうだ! ルーカス様の言う通り!
ルーカス:マルセル……黙れ。
マルセル:はぁい……ああ、さすが、ルーカス様だなぁ。気品と威厳に満ち溢れていらっしゃる。
ルーカス:何が言いたい?
マルセル:んー? だってぇ、本来なら今頃、王冠を頂いていたのは、ルーカス様だったはずでしょ?
前国王の甥にして、全てにおいて完璧な貴公子。
最も玉座にふさわしいと言われていたルーカス様が、前国王の隠し子登場で、まさかの番狂わせ。
ルーカス様に媚びていた貴族達は、今頃ハンカチを噛んでますよ?
ルーカス:だから何が言いたい。
マルセル:やだなぁ、ただの興味ですよ。
だって、現在、国王陛下の配偶者の最有力候補はルーカス様ですからね。
ルーカス様としても、国王にはなれないなら、せめて共同統治者の椅子は欲しいところかなって。
だから……どうやって国王陛下を口説くのかすごく気になるなぁ?
ルーカス:マルセル……私が何も知らないと思っているのか?
マルセル:え? なんことですか?
ルーカス:ずいぶんいろんな人間と密談しているようだな。貴族とも、そうでない者とも。
マルセル:……なんのことですか?
ルーカス:とぼけるな。
マルセル:さあ、ちょっと……記憶にないですね。
ルーカス:もういい下がれ。ノアに話があって来た。
マルセル:ええー? なんの話ですかぁ? 僕もまぜてまぜて?
ルーカス:下がれ。
マルセル:……承知しました。では、御前を失礼いたします、ルーカス様。じゃあね、ノア君。
(マルセル去る)
ルーカス:大丈夫か?
ノア:大丈夫、とは?
ルーカス:マルセルの言うことは、気にするな。
だが、用心はしておけ、あいつは、一部の貴族を味方につけて、妙に影響力がある。
出自もよくわからないのに、宮廷魔術師に収まっている不思議な奴だ。
ノア:お心遣い感謝いたします。
ルーカス:しかし、話はその件ではない。わかるな?
ノア:はい
ルーカス:先の戦は、君の活躍で勝てたのも事実。
だが、隊長の命令違反はまた別の問題だ。君の処遇について議会で検討中だ。
なにか申し開きがあるならと思ってな。
ノア:……くだらない。
ルーカス:は?
ノア:責を負うべきは、あんな愚鈍な貴族の令息に隊を任せた者です。
ろくに剣を握ったこともない、実戦経験もない、腰抜け隊長の何に従えと?
自分の身の心配ばかりで、戦況を把握する頭もなく、指揮なんてそもそも取れていなかった。
あのままでは、全員犬死にか、敵軍の捕虜でした。
ルーカス:(深いため息)率直に言うと耳が痛い。
ノア:事実です。
ルーカス:君の言う事にも一理ある。
だが、正しいことが必ずしもまかり通ると思うほど、君も子供ではあるまい?
君は半分とはいえ獣人、陛下の古くからの友人とはいえ、お傍近くに仕えさせることに反発も多い。
ノア:……承知しています。
ルーカス:これからもここに居たいのであれば、形だけでもこの国に恭順(きょうじゅん)の体(てい)を取れ。
ノア:……
ルーカス:不満そうだな。
ノア:私と陛下は国境近くの貧しい村で産まれました。
2人とも戦争で親を亡くし、寄り添って逃げてばかりの子供時代でした。
庇護してくれたのは獣人の者たちです。
半獣人の自分のことも、人間である陛下のことも、分け隔てなく仲間として受け入れてくれました。
身を守るよう戦い方を教えてくれたのも彼らです。
残念ながら陛下は……体が弱く、戦い方を身に着けることはできませんでしたが。
ですが、その分、自分が陛下を守ると、誓ったのです。
ルーカス:君の覚悟はよくわかった。
だが、それはあまり口にするな。
表向き、陛下は安全な場所に匿われていたことになっている。
ノア:(無視して)自分が言いたいのは。この国に、なんの恩義もないということです。それは陛下とて同じ。
ルーカス:……だからこの国の決まりごとに倣う(ならう)気はないと?
ノア:はい。
ルーカス:だが、それは無理だ。
国王陛下はもうすでに、この国の最高権力者。この国の為だけに生きる者。
君が取るべき道は、ここから去って自由に生きるか。
この国のルールに従って、陛下に仕えるかだ。
ノア:……
ルーカス:そんな顔をするな。私は君を買っている。
できるものなら、協力して欲しい。この国に正義を取り戻すために。
ノア:どういう事です?
ルーカス:この国の戦争を終わらせ、みなが安寧に暮らせる国にする。
もちろん辺境の民も。
それは陛下の望みでもあるのではないか?
ノア:……きれいごとを。
ルーカス:ノア……
ノア:戦争はもう10年も続いているというのに!
貴族たちは毎晩、夜会(やかい)だの晩餐会だの明け暮れ、国民の税金は上がるばかり!
ルーカス様にこんな腐りきった国を変える力がおありだと!?
ルーカス:確約はできない! だが、可能性はある!
その為だけに幼いころから歴史に学び、多くの有識者を集め、人脈を作り……後は、私が王位につくだけだった!
ノア:なんだと! 陛下が邪魔をしたとでもいいたいのか!?
ルーカス:言葉をつつしめノア!
私は現在の第一王位継承者。
他の者に聞かれたら、即刻打ち首になるとわからないのか!?
ノア:(冷たく笑って)自分を打ち首? この国にそれができる兵士がいるとでも?
たとえ百人でも千人でも斬って逃げますよ。
……陛下を連れてね!
ルーカス:ノア! いい加減にしないか!
ノア:法螺(ほら)ではありません。
ルーカス:君のその言動が、陛下の評価を下げるとしてもか?
ノア:……っ!
ルーカス:いいか、陛下はもう、君の幼馴染じゃない。
そして君は陛下に仕える部下の一人にすぎない。
もう一度言う、わきまえろ、ノア。
ノア:……一つ、お伺いしていいですか? ルーカス様。
ルーカス:なんだ?
ノア:陛下とご結婚なさるつもりですか?
ルーカス:まだ決まったわけではない。が、それが最善と判断されればそれに従う。
ノア:判断! あの腐った貴族たちの形だけの議会でですか? 陛下のご意思は?
ルーカス:……まるで陛下の真意は自分にありとでも言いたげだな、ノア。
ノア:……(悔し気に唇をかむ)
ルーカス:もちろん、陛下の意思も尊重される。だが、さすがに君は無理だよノア。
ノア:……そんなことは、わかっています……
ルーカス:君は顔にも口にも出過ぎる。陛下の傍に居たいなら改めることだ。
そして、陛下のための思うなら、むしろご友人として私との結婚を進言するくらいでないと……っ!
ノア:……っ!
(いきなりノアが切りかかる)
(以下斬り合いながら)
ルーカス:くっ! (剣を抜いてギリギリ受け止める)なんのつもりだノア!
ノア:陛下のことなど何も知らないくせに! あの体に触れるなど……許さない!
ルーカス:私情に流されるな! 冷静になれノア!
ノア:はぁぁ!
ルーカス:くっ……!
ノア:なに! 受け止めた、だと?
ルーカス:君こそ……太刀筋はめちゃくちゃなのに、動きが速すぎて、ついて行くのが!……っ! (押し返す) やっとだ!
ノア:……っ! なまくらの剣ではないと? さすがですね!
ですが、自分の相手ではありません!
ルーカス:……っ! どうかな!
ノア:……っ!
ルーカス:……くっ!
(何合か斬り合う)
(以下斬り合いながら)
ノア:お前に……産まれた時からずっとぬくぬくと護られてきたお前に……陛下の何がわかる!
ルーカス:お前こそ、私の何が分かる!
産まれ落ちると同時に、すべての自由を奪われ、この国の贄(にえ)となるためだけに生きて来た私の……何が分かる!
ノア:知ったことか! お前の理想のために、あいつを使うな!
ルーカス:くっ……なんという力……だが! ここで斬られるわけにはいかない!
(何合か斬りあった後、2人同時に結界に吹き飛ばされる)
ノア:ぐあっ! なんだこれは!
ルーカス:……っ! これは……魔法結界?
(マルセル入ってくる)
マルセル:はーい、そこまでー! やーれやれ。しかたないなぁ2人とも。
ルーカス:マルセル!
ノア:……マルセル。
マルセル:うーわ、かなり強めに結界張ったのに壊れてら。
全くもう、こんなところで喧嘩しちゃダメでしょ。
僕が止めに入るのが間に合ってなかったら、死んでたよ?
ルーカス:どっちがだ?
マルセル:言わなくてもわかるでしょ? ルーカス様?
ルーカス:……くっ
マルセル:……おやぁ、感謝の言葉が聞こえてこないな?
ルーカス:一つ、借りにしておく。
マルセル:え? うん、まあ、それでもいいか。
……ルーカス様に貸しつくっちゃった。何してもらおうかなー?
ルーカス:ノア……わかってもらえなくて残念だ。
ノア:陛下の安全を担保していただけるなら、配置された戦場の勝利は約束します。
ルーカス:今はそれでいい。追って沙汰(さた)する。
(ルーカス去る)
マルセル:……すごいねぇ、ノア君、あのルーカス様にさえ一歩も引かないんだー?
そういえば、君からの感謝の言葉は? 僕一応、止めてあげたんだけど?
ノア:生かしておいてやる。
マルセル:え、それがお礼? もー君って常に物騒だよねー? そんなんじゃモテないよ?
ノア:お前と一緒にするな。自分は、あいつの……陛下のために有る者。
陛下の為なら、この手などいくらでも汚れてかまわない。
マルセル:……ふうん、自身満々だね、この国一の剣豪と名高いルーカス様相手に圧倒してたから、その自信もまっとうではあるけど。
でもね? 消す方法は、剣だけじゃないんだよ?
ノア:喰えない奴め
マルセル:よく言われるよ。褒め言葉だと受け取っておくね?
ノア:ふん……
マルセル:(独り言)で、結局、誰があの国王陛下の隣に座るんだろうね?
誰一人、譲る気はなし、と? ……ま、僕も負けないけどね。
(間)
ノア:(M)ある国で、市井(しせい)の子供が即位した。
マルセル:(M)その貧相な体と怯えた瞳に王の資質はないと、皆が落胆した。
ルーカス:(M)後に名君と称えられる、今は幼きその国王の。
ノア:(M)ある者は愛の為に。
マルセル:(M)ある者は野心の為に。
ルーカス:(M)ある者は正義の為に。
※合せようとせず、前の台詞と間を置かずに読む。
ノア:(M)その心を望んだ。
マルセル:(M)その心を望んだ。
ルーカス:(M)その心を望んだ。
【終】
騎士の資格(不問3)