監禁少女は笑わない

監禁少女は笑わない

pixivというサイトにも投稿しています。初めまして、エネミーです!
誤字脱字、その他もろもろ。いろいろ文法的に目立つ間違いや漢字の間違いがあると思いますが、気長に付き合ってもらえるとありがたいです。

プロローグ

非常に困った。
助けは期待できなさそうだし、できれば大事にしたくないし。
だからといってこのままこの生活を続けてたら死んじゃうかも。
食べ物は………うーん、不味い訳ではないけど、量がちょっとなー………多
いんだよなー、うん。

あーあ、困った困った。非常に困った。

一章 幸せそうな不幸


「はい、あーんしてください」

赤ちゃんでも扱う感じの口調で彼女が言った。

「あーん」
「いい子ですねー」

頭を撫でて褒められた。べ、別にうれしくなんて以下略。

「はい、もう一回あーん」
「あ、ちょっと喉が渇いたから水とって」

僕の言葉に素直に従う。有無、素直なことは良い事だよ。

「はい、お水ですよー。あーんしてくださいー」
「あ、自分で飲むからいいよ。腕の縄はずしてちょうだい」
「それは駄目ですよー。逃げられたら大変です」

流石にこれは拒否された。年頃の女の子だからかな?うーん、難しい。
1.5リットルのペットボトルを手に掴み、頭より上に構えた。もう慣れた
事だけど飲みにくいんだよなー、この飲み方。

「はい、あーん」
「あー……」

水を上から流し込むように僕の口に入れる。
あーあーあー、入りきれなくて零れたじゃないか。一週間は着続けてる服が
台無しだ。最初から台無しなんて台詞はいらないよ?

「じゃあ、食事に戻りますね。あーん」
「あーん」

服に零れた水など気にしない彼女。まあ、主に気になるのは僕だけれども。

「もう、お腹いっぱいだから汁物頂戴」
「駄目ですよ。もっと食べて力つけないと」

その力の出し所がないから困っているんじゃないか、まったく。
結局、彼女が満足するまで食べ続けるわけだけれど。

「じゃあ、私はお皿洗ってくるので」

そういって、空っぽのお皿の乗ったお盆をもって立つ。
お皿の前に僕の服を洗ってもらって欲しい。まあ、そんなこと一言も言えな
いわけなんだけれども。身の回りの世話してもらってることだし。いや、し
てもらわされてるの間違い?まあいいけど。

「 お と な し く していて下さいね」

笑顔のまま、脅迫するように言い放った。怖い怖い、いや本当に怖いです。
そして今日も平和な閉鎖ライフが始まったのだった。朝かどうかなんてもう
わからいけれど。
はあ、ちょっと疲れたからもう一回寝よう。寝て忘れよう。てか、ここに来
て寝ることしかしてないけれど。



監禁されて、一週間が過ぎようとしている今日この頃である。

二章 自由の中の不自由

「あのさー、ちょっとトイレ行きたいな」
「漏らしてもいいですよ。ちゃんと片付けますから」
「いやいや、いつものようにトイレまで誘導してくれよ」
「しょうがないですね」

漏らすなんて、なんとも恥ずかしいプレイだ。主に僕が。

「前の方ですか、それとも後ろのほうですか?」
「大の方だよ」

トイレの前でどっちのトイレを使うかについて遠回りに聞かれた。
勿論、ここからは片方の上の縄だけ解いてもらう。じゃないと用が済ませら
れないし、流石に中まで入ってこられたら本末転倒だ。いや、もう最初から
転倒してる気がするけど。

「逃げたら許しませんからね」
「はいはい、逃げませんから安心してください」
「いい子ですね」

思いっきりの笑顔を僕に向ける。嬉しくもなんともなくなってきたけど。
さてっと。

「どうやって逃げようかなー」

外には聞こえないぐらいの小声で言ってみる。

「聞こえてますよー?」

外の主には聞こえてしまうのだけれど。
非常に困った。

「どうやって逃げないようにしようかなー」

今度は外からそんな不吉な声が聞こえた。

「聞こえませんよー?」

だから僕は現実を逃避することにした。これ以上逃げられない状況なんてな
いだろ。
とまあ、楽しい楽しいやり取りはここまでにするとして。

「さて、どうやって逃げようか」

今度こそ、絶対に聞こえない声でというより声にならない声で呟く。最初か
ら呟かなければいいのになんて言葉は必要ないよ、わかってるからね。
さて、まずは状況確認から。
ズボンを下ろします。便器に座ります。あ、これは自分の状況説明だった。
失敬失敬……いつまでこの話長くするんだろう、自分は。
トイレに窓らしき窓もないし、監禁されていた部屋にもなかったとするなら
ば、漫画や小説ではここは地下って言うんだっけ?確か想だった気がするけ
ど。

「てか、僕は一体何と戦ってるんだ?」

勿論、茶色い何かとです。自問自答終了。
じゃあ、地下室と仮定してだ。脱出経路は迷路でもない限りは普通に廊下に
そって逃げれば言い訳なんだけれど。多分、鍵とか出口に付けてるんだろう
なー、ここまで本格的に監禁してることだし。
となると、脱出する一番効率のいい方法は………

「やっぱり、彼女を殺さずに倒すしかないのかな?」

はい、一番無難な考え方でした有難うございます。
なんの解決にもなってないことは後々気づくんだけれど、それはまた別のお
話というわけで。

三章 あらすじのない物語


『なぜ監禁されたのか』
『どういう風に監禁されたのか』
『彼女とはどういう関係なのか』
もうどうでもいいことなんだけど、説明するべきなのだろう。
まずは、『なぜ監禁されたか』だが

「ん?だって、外には危険がいっぱいでしょ?だから私が守ってあげてるん
だよ」

との、ことだった。
守られすぎて僕はもうすでに死にそうだよ、まったく。過保護もほどほどに
ね、もう遅いけれど。
次は『どんな風に監禁されたのか』だが。
気づいたらとしか、言いようがないんだよなーこれが。

「何せ、眠りから覚めたらこの惨状だったんだから」
「ん?なにか言った?」
「何も言ってないよー」

笑顔で彼女が言ったので笑顔で返す。まあ、苦笑いなんですけどね。
そして最後に、『彼女とはどういう関係なのか』だが。

「これにいたっては説明必要なのかな?」
「な? な、な、な………ナポリタン」
「ンジャメナ」

終わらないしりとりの始まりだー!はい、冗談です、すみません。
彼女彼女ってさっきから言ってるから説明要らないと思うけど。はい、彼女
は僕の彼女です。
駄洒落じゃないよ、そんなこといえるほど余裕ないし。
彼女は僕の彼女です。これで意味が分かるかどうか分からないけど。
さて、本格的に話すネタがなくなってきたなー

「な? な、な、なーナメクジ!」
「じーさまー」
「ま? ま、ま、マンゴー!」
「ごまだれー」
「蓮根!」
「んー………」

まずはしりとりのルールから説明しないと駄目かもな、この子。

四章 彼女と彼女

そろそろお尻も痛くなってきた今日この頃。まあ、自分一人ではどうにもで
きないわけであって。

「なんとも不幸だ」
「そう?私は幸せだけど」

それはそうでしょうね。自由に動けますし。

「あ、もしかしてお腹が減ったのかな?」
「さっき胃がはち切れそうなほど食べたから大丈夫だよ」
「じゃあトイレ?」
「それもさっき行きました」
「じゃあ、お腹がすいたのかな?」

さっきからその二択しかないのだろうか。

「エネルギーの行き所がなくて困ってるんだよ」
「じゃあ、何処か切り落としてそこに栄養が行く様にする?」
「それはなんとも、物理的なダイエットなことで」

むしろ、君の首を切り落としたくなったよ。あ、これは冗談だよ。一応僕の
好きな彼女なわけだし。

「さてっと、暇だなー」
「そうだねー」

主に貴方のせいで暇になってるんですけどね。

「何かしようか」
「しりとりでもする?」
「とりあえず、ちゃんとルール覚えてからかな。それは」
「じゃあ、ご飯にする?お風呂にする?それとも」
「じゃあ、昼寝でお願いします」
「むー」

最後まで言わせなかったことが悔しいらしい。頬を膨らまして講義してきた。
まあ、無視して寝るわけだけど。

「本当に寝るのー?」
「本当に寝るのー」
「暇で死んじゃうよ?」
「僕も満腹で死にそうだよ」

この辺りでぷつりと会話を切って、寝る体勢に入る。
さーてーと。このままじゃ流石にまずいかなー。
朦朧と意識を誘導しながら、脱出計画を考えるのだった。

五章 脱出計画その壱

結論から言うと脱出計画は失敗に終わった。
代償として、右手の指があらぬ方向へと折られるという拷問も受けたのだっ
た。痛かったことは言うまでもない。

「結構良い作戦だと思ったんだけどなー」
「まだまだ甘いですねー。力で私に勝てると思ったんですか?」
「一応、男の子ですから」

まあ、作戦と言うよりも、真っ向からの力比べをしたわけなんだけど。
一週間も腕を使う機会がないとこうまで使い物にならないもんなんだな。人
間の体って。

「そんなことより、運動したらお腹が減っちゃった」
「ご飯はあげませんよ? 脱出しようとした罰です」
「さいですかー」

むしろ今まで食いすぎと言うほど食ってたからカロリー貯金は満タンなんだ
けどね。
さてと、

「どうしまっしょっかなー」
「次の脱出の作戦ですか? こりませんねー」
「一応、この物語の最終目的なもので」

と言っても、右手が使い物にならなくなった時点で、脱出できる確立はぐん
と下がってしまったわけなんだけれども。最初から0に等しい確立だったん
だけどね、ひどいひどい。

「次は左手の指を全部折りますよ」
「痛くないようにお願いできますか?」
「できませぬー」
「さいですかー」

あんな酷い目にあって誰が脱出しようなんて馬鹿なこと考えるのやら。はい
はーい、自分でーす。

「まったく、こりない奴だよね」
「まったくです。一体どれだけ痛めつけたらあきらめてくれるんですかね」
「多分、脱出できたらあきらめるんじゃないかな?」
「本末転倒ですね、それ」

あきらめる気なんて、まったくないのだった。

六章 不幸中の不幸

脱出計画その弐なんてなかった。言うまでもなく失敗に終わったからだ。
そして、宣言通りに僕の両手の指はポキポキになったのだった。
なんだよこれ、もう腕じゃないじゃん、これ。

「痛いってわかるかな、君ー」
「脳が体の危険を教えることですよね、便利な機能ですよね」
「むしろ、不便にしか感じないよ」

痛かったかどうかなんていうまでも以下略。
あーあーあー、これで本格的に両手は使えなくなっちゃったなー。どーしよ
ーかなー、うーうーうー。
とまあ、言葉にならない言葉はこの辺りにして、今回の失敗を反省してみた
いと思う。

「むしろ、逃げ出したことを反省してくださいよ。次は殺しますよ?」
「次は足かと思ったら命を取りに来ましたかー」
「なにせ私、足フェチなものでねー」
「どうせなら切り取って飾ってみたら?」
「そんな血の通ってない足をみて何を楽しむと言うんですか?」
「そうだねー」

あれ、なんか納得したみたいになってるけど、まったく納得できないよねこ
れ。まあ、いいけどさー。

「足が残るのは不幸中の幸いかな」
「逃げる希望が残りますからねー」
「殺されたら希望も糞もないんだけどねー」
「そうですねー」

命って大事だよね、いやいや本当にー。

「てか、もう足しか残ってないのか」
「腕はビロンビロンになりましたからねー」
「君のせいだよ、きみー」
「貴方が逃げようとしたのが悪いんですよーまったく。普通に逃げて出られ
るとでも思ったんですか?」
「最後の希望に頼るくらい許してほしいね」

普通に足で逃げて、鍵の扉に壁役をされてしまい、普通に捕まってしまった
のだった。恥ずかしいこといわせるんじゃないよー。

「もう、これで本当に手詰まりか」
「あ、やっとあきらめるんですか?」
「そうだねー、このまま一生暮らすのも悪くはないかな」
「なんか足掻く姿見れないとなると寂しくなりますねー」
「足掻くたびにボキボキ折られたらたまらないからねー」

笑い話にならない話を有難う。おがげでさらに憂鬱になったよ、まったく。
あーあーあー………

本当に困った。

七章 朝と夜と一週間と

夜だったから目を閉じた。
朝になったから目を開けた。
また夜になったから目を閉じた。

気が付くと朝になっていたから目を開けた。
そして、気が付くと夜になっていたから目を閉じた。
気づかないうちに朝になっていた。
気が付かないうちに夜だった。

そして朝になった。
だから目を開けた。
そして夜になった。
だから目を閉じた。

朝になった。
だから開けた。
夜になった。
だから閉じた。

朝、開けた。
夜、閉じた。

朝だった。
夜だった。

何もなかった。
何も起きなかった。
何もしなかった。
何もできなかった。
何も言わなかった。
何も思わなかった。
何も気づかなかった。
何も………



気が付くと灰色の天井が見えた。あれから一週間、僕は一度も空を見ていな
い。

八章 普通の彼女

目を覚ますと、彼女が寝ていた。
目を覚ますと彼女が寝ていたのだ。

「………はあ?」

間抜けな声が力なく出た。
寝てる、だと? そりゃあ、人間だから睡眠だって必要だし、寝るときには
寝るけどもさあ。監禁している相手を目の前にこうも無防備に寝てるとなる
と話は別だ。
てか、こいつ。いつもはいつ寝てたんだよ。

「脱出の大チャンスだ………」

両手の骨はボキボキなため、簡単に手錠をはずすことができる。両足のロー
プも両手を使えるとなると話は別だ。少し(ものすごい)痛みを我慢すれば
縄の一つや二つ、たいしたことじゃない。
簡単に、僕の体は自由の身となったのだった。

「あとは、扉の鍵を………」

彼女に目をやる。鍵はちょうど胸ポケットに入っていた。

「ごめん、借りるよ」

聞こえない謝罪をしつつ、彼女の胸ポケットから難なく鍵を回収した。ぐっ
すりとお寝んねの様でまったく気づく様子はない。これは、本当に脱出でき
るかも。

「あとは、脱出ルートだが………」

一番の問題はそこだった。
一ヶ月も監禁された部屋とはいえ、鍵のかかっていた部屋から奥のことは何
も知らない、知るためには鍵が必要と言う条件があったからだ。
だからここから先は運試し、神頼み、ナムナムの領域。

「一か八か、賭けてみますかな」

空が見えれば大当たり。
灰色が見えれば大はずれ。
泣いても笑っても一本勝負、当たりが出れば自由のチケット、はずれが出れ
ばあの世逝きチケット!
さあさあ、勝つのはどっちか!

「なんて他人事にしてみたり」

あれ?うまく言葉がまとまらいや。まあ、いいけど。

最終章 終わりいく町の


今日の僕の運勢は最高の様で、脱出はあっけないほど簡単に終わった。
扉の先には意外なことに空があった。

「外……か?」

本当にあっけがなかった。海のど真ん中やら、何もない山の山頂やら、いろ
いろと覚悟していたつもりだったけれど、普通に街のど真ん中に出た。

「おかしい………」

確かに街のど真ん中だった。今すぐ助けを求めたい、日本の平和を守ってい
るポリスメーンに今すぐすがり付きたい気持ちだ。
けれど___

「なんで誰もいないんだ!!」

誰もいなかった。まるで、自分以外の生き物がすべて死んでしまったかのよ
うに、いやもしかしたら死んだのかもしれない。
街はある、空も見える、太陽も見えている。けれど人は誰一人いない。

「何で……こんな…」
「見ましたね」
「!?」

慌てて振り返ろうとしたけれど遅かった。僕の体は簡単にうつ伏せにされた。

「本当に本当、悪い子ですね。また外に出てしまうなんて」
「お前」
「あ、黙っててくださいね。今から記憶が飛ぶまで殴りますんで。本当に残
念です」

手元にあった石で、思い切り頭を殴られた。

「グハッ!」
「我慢してくださいね。これも貴方のためですから」
「なにが…俺のためだ!」
「貴方が言ったんじゃないですか、すべて忘れてしまいたいって」
「誰がそんなこと!」
「言いましたよ、3年ほど前に」

勢いをつけて、さっきよりも強く頭を潰しにかかる。

「グッウエッ!」
「痛いですか、ごめんなさい。けど、貴方が悪いんですよ?忘れたいと言った
のに、また見てしまったら本末転倒じゃないですか」

二発、三発と容赦なく石が降り注ぐ。
三年前、自分が忘れたいと願ったこと、そして誰もいない町。
混ぜ合わせるように一つの仮説ができた。
ああ、なるほど。そういうことか。

「どうして、こうなった」
「街のことですか? 今の貴方が知る必要はありません、安心して忘れていいで
すよ」
「戦争か? 伝染病か? はたまた天変地異か?」
「五月蝿いですね。忘れろって言ってるんですよ? 私は」
「お前は」

血だらけの頭をクイっと捻り、彼女のほうに向き直る。
目はもう見えない。意識も朦朧。頭もまともに回らない。
それでも、はっきりと聞こえるように僕は叫んだ。

「お前は、いつから俺を監禁している!」

ふふふと笑い声が聞こえる。まるでその質問を待っていたかのように。
石の持っている手を高く振り上げた状態で、彼女は言った。

「三年前、からですね」

そして、そのまま振り下ろしたのだった。
流石にもう、限界か。
視界が黒一色に染まる。意識すら、もう感じられない。頭は真っ白だった。

「おやすみなさい」

地面に石が落ちる音がした。彼女の体重の感覚が消えた。温度がなくなった。
そして最後に声が聞こえた。

エピローグ


気が付くと灰色の天井が見えた。あれから一週間、僕は一度も空を見ていな
い。

監禁少女は笑わない

監禁少女は笑わない

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-01-19

Copyrighted
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Copyrighted
  1. プロローグ
  2. 一章 幸せそうな不幸
  3. 二章 自由の中の不自由
  4. 三章 あらすじのない物語
  5. 四章 彼女と彼女
  6. 五章 脱出計画その壱
  7. 六章 不幸中の不幸
  8. 七章 朝と夜と一週間と
  9. 八章 普通の彼女
  10. 最終章 終わりいく町の
  11. エピローグ