七ならべ 2024年5月
寂れた町の
夜の駅舎は
孤独な星の
軌道のようで
今、離れたら
二度と会えない
そんな気持ちが
こみ上げてくる
電車が闇に
消えてしまえば
照らす相手も
ない電灯が
視線の先を
泳がせたまま
永い時間を
ただ持て余す
寂れた町の
夜はこうして
ひとつの星を
守りつづける
(2024年5月2日)
夜の長さは
不可分だから
思い出せない
衝動もある
遊び疲れた
東の空に
流星群が
唄い出したら
北の島にも
夏の予感が
匂いはじめる
手帳に描いた
パラパラまんが
結末だけを
書き換えたなら
前頭葉に
捨ててしまおう
迷子の山羊が
泣き止むまでは
夜は固定値
揺るぐことない
(2024年5月5日)
中途半端な
季節の中で
降らせたがりの
雨雲だけが
やる気に満ちた
顔をしている
キジバトが鳴く
朝を駆け抜け
迷わぬように
電車に乗って
それでも降りる
駅は選べて
ためしに降りて
歩いてみたら
キジバトはなく
ドバトなら居る
鳴き方なんて
個性でもなく
窓を覗けば
行くあてのない
ネジが並べて
置いてあるだけ
(2024年5月7日)
風の強さは
意志の弱さと
比例していて
忘れたはずの
あの人のこと
思い出しても
それは結局
不可抗力で
いつかは風も
落ち着くけれど
いくら待っても
黙ることない
動脈たちが
歌い出すなら
ぼくの意志など
こっぱみじんに
朽ちてゆくから
箍が外れた
記憶をどこに
仕舞えばよいか
迷いつづける
(2024年5月13日)
声にも影が
出来るんだねと
あの日あなたは
笑っていたね
その影のこと
ぼくがどれだけ
愛していたか
それは誰にも
言えないことで
五月の風は
なにも言わずに
有象無象を
飲み込むだろう
だけどそれでは
あなたの蒔いた
種の行方に
気づけないから
途方に暮れた
季節のなかを
歩き続ける
仮に夏なら
火薬のにおい
纏ったままで
空虚なぼくを
笑って欲しい
(2024年5月15日)
夜の線路は
沈黙の笑み
思い浮かべた
青い小夜曲
書き留めもせず
つないだはずの
手に雨は降る
浮かんだものや
ほどけたものを
抱くことさえも
許されなくて
古い履歴を
消せないのなら
因果の罠に
気づけぬように
落ち着きのない
アイスを花に
ぶち込んだまま
月の刹那を
汚してやるよ
(2024年5月21日)
断った退路を
振り返るなら
そこには花が
咲いているけど
最早ぼくには
関係なくて
手持ち無沙汰な
土曜の午後は
雲の流れが
やけに早くて
急かされている
ような気になる
ミートボールを
みっつ並べた
皿のうえには
未開の土地が
広がっていて
おなじ痛みに
遭わないように
積極的に
迷うしかない
風の匂いも
今はいらない
(2024年5月25日)
七ならべ 2024年5月