陶酔の夢

 非番の日の夕暮れもせまった頃、親身の者のみが近づける牙峡谷奥深くにある集落で、ユリシーズは喫緊に装われた婚約でもって解放されるのだと述べることになったのだった。
 ごろりと天幕の寝台に横たわった彼は、いかにも疲れ果てて不本意だとでも言いたげに両目を閉じた。若々しく白く瑞々しい皮膚の内側で、無目的に張りつめていく何かの気配が感じられるようだった。
 その隣に腰掛けるラヴェルナはいまなおこころもとなげに体を震わせつつも微笑を向けようとしていた。
 今日の二人の覚悟がどのようなものか。そのことに何の意味も見出せない神経や精神ではどちらにも辛いこの夜のあとに何がのこるのか、はっきりと知りつつも、彼女はもう一度微笑んでみせた。
 彼女はそのとき気づいていたのだった……いずれ夜明けが訪れると。
 真夜中の静寂のうちをさむざむとした風が通り抜けた。上古よりすえられたその峡谷の岩壁は、薄暗くて湿っぽく、そして不吉だった。
 ふとユリシーズはラヴェルナに伸しかかり、彼女の両手首をつかんで寝台に押さえつけた。ラヴェルナは目を大きく見開いてユリシーズを見つめたが何もいわなかった……ただその唇が動きかけただけだったが、それは言葉にならなかった。ユリシーズの鋭い爪がラヴェルナの露わな肩をぐっとつかみ、その血管を引き裂かんものとするかのようにおさえつけた。そして彼は、無数の傷が癒えぬままいまだ赤らみを帯びた彼女の滑らかな胸をわれとわが手にぐっと握りしめて接吻した。なんともいいようのない苦痛に満ちた数秒間がすぎ、息を乱し目に涙をためたラヴェルナの耳に「無理だ!」という静かな呟きが飛び込んできた。
 ユリシーズは身を起こし、蒼白になって額をぬぐった。ラヴェルナは苦しく息をついて目を閉じていたが、ゆっくりと起きなおり、ふたたび微笑をうかべようとした。それからその顔が震えたかとおもうと、涙が頬をつたった。ユリシーズは彼女の震える肩を手でさすってやりながら、黙ってきびしい顔で自分を責めていた。
「無理だよ、ラヴェルナ」
 彼はささやいた。そして頬に血がのぼり耳たぶが熱くなった。これまで二度と感じたことのない血を。
「……あの子を忘れるのは」
 それから彼はラヴェルナの涙にぬれた顔に目をとめた。落ち着いていて、優しかったが、涙が頬をつたわって落ちるのにまかせられていた。ユリシーズは嗚咽を殺そうとして体を折り曲げ、額をラヴェルナの額におしつけた。
「あの子は私のすべてだった。あの子がいるから私は生きていたんだ。あの子がいない今、私はもう誰のことも愛せそうにない。すまない、ラヴェルナ。でも、私は、他の女と契るくらいなら死を……」
「けれど、ユリシーズ、あなたには義務があるの。あなたはいつも勇敢でいなければならない。だから……今は生きていて」
 彼女はそういってユリシーズのわななく手をにぎりしめ、何か強い感情を殺したような目で、彼を見あげた。そしてまだ声を殺して泣いていたが、その手を彼の額からはなして頬にあてた。ユリシーズはふいに、このままどこかへ逃げ去ってしまいたいとでもいうかのようにその手をひき離し、もう一方の手も離して寝台からおりた。そしてもう何もいわなかった。ラヴェルナは諦めて微笑みながらその後ろ姿を見送った。
 ユリシーズは天幕の垂れ幕をかきわけて外へ出た。峡谷をぬける風がうなりをあげていた。彼は岩壁のほうへゆっくりと歩いていったが、やがて立ち止まった。目の前には石で作られた小さな墓があった。

 亡国アルヴァの王子ユリシーズの実妹、オデットが殺害されたのは、もう5年も前のことだ。彼女は恐ろしいネメアの獅子たちの森へ連れ去られ、盗賊どものねぐらの洞窟において強姦され、凌辱され、殺されたのだった。国は行方不明の王女を総力あげて捜し求めた。彼も、最愛の妹を再びその腕に抱くため、自らの責務さえなげうって国中をくまなく走り回った。
 やがてユリシーズは、オデットを攫った盗賊どもの巣窟を見つけだした。そのとき奴らは近隣の町から奪った酒をあびるほどに飲み、町娘たちを貪り喰いながら乱痴気騒ぎをくりひろげていた。彼は月光の下に猟犬のように躍り出て、盗賊どもを一人残らず殺してまわった。ひとりとして逃すことなく数え切れないほど残虐に斬り刻み、刺し殺した。そのむごたらしい光景と臭いのなかでユリシーズは内心ついに絶叫し、泣き叫び、深い絶望のうちに苦しんでいたが、それをおくびにも見せず娘たちに衣を着せ町へ返してやった。それから血溜まりと化した洞窟に戻り、オデットを探した。
 彼女は地下牢におり、手は縛られて鎖でつながれていた。冷たい地面の上に乱雑に置かれ、服は着せられておらず、裸だった。華奢な肢体に不似合いな、膨らんだ下腹部。見開いた瞳はどんよりと曇り、弛緩した笑みの端からは涎が絶えず流れ落ちていた。品無く開かされた股のあいだから、羊水と精液の入り交じった汚ならしい液体がたらたらと流れ出していた。
 ユリシーズは立ちつくしたまま動けなかった。冷たい汗が首すじを伝うのが感じられた。この少女が私の妹?そんなことがあろうはずもない。あってはならない!
「オデット!」
 彼は絶叫した。それを耳にした者は一人もいなかった。
 ユリシーズは死体のそばにひざまずいてかがみ込み、そっとその血塗れたからだに触れた。弄り回された乳房はまだ柔らかく、彼の掌の中で容易く形を変えた。彼はオデットの髪を手ですくってみつめた。そしてその頬を自分の手の甲でそっとなでた。その髪は鳥の巣のようにもつれ、泥と汗にまみれていた。血だまりにかがみ込むことで彼の衣服も汚された。
「オデット」
 彼はもう一度ささやいた。その声はかすれていた。
「助けられなくて、すまない」
 ユリシーズはこときれたオデットを腕の中に抱き上げると、その冷たくなった唇に接吻した。氷のように冷たく、石のように硬い唇を、激しくまさぐり、啜り上げた。彼女は、兄のために悦びの声をあげようとさえしなかった。ただユリシーズがオデットの唇を奪う、その物悲しい音ばかりが洞窟の壁に反響して、やがて消えていった。
 オデットの唇は生者のように温かく柔らかで、死臭を帯びてはいなかった。そして不思議なことに彼女のからだはまだ微かに体温を残していた。この死後硬直さえまだおこり始めていない温かな血肉を自分のものにできるのではないかという恐ろしい欲望をおぼえた自分に、ユリシーズは愕然とした。
 彼は口づけをほどくと、いまひとたびオデットをじっと見つめた。
「愛している」
 ユリシーズはつぶやいた。彼女は苦渋も憎悪も何ひとつ含まない瞳を、虚空に向けていた。その表情にはわずかな悲哀さえも含まれていなかった。
「愛している……私のオデット!」
 彼は声をつまらせて叫んだ。そして彼女は応えない、もはや彼女そのものを彼のもとに呼び戻す方法は無かった。
 彼は彼女を再び腕に抱き、胸の膨らみに顔を押しつけた。むしゃぶりつくようにして妹の胸を吸った後、股のあいだに手を差し入れて弄った。あの汚らわしい者どもの精液を清らかな彼女から掻き出すという大義名分で、妹のからだの中を指でまさぐり、舌や歯でしゃぶって愛した。
「オデット!」
 ユリシーズは何度も何度もその名を絶叫し、自分が何をしているのかよくわかっていなかった。ただ一刻も早くこれを処理してしまいたいという焦りの感情だけが彼の心を支配していた。オデットは屈辱的に股を大きく開かされ、何の反応も示さなかったが、彼はなおも妹の身体を無我夢中でいじり回し続けた。いつしか彼の勃起した男根が妹の股のあいだに押し当てられて、その下で脈打ちながら硬く反り返っていた。
「……愛しているんだ……」
 彼は涙をあふれさせた。オデットは動じる様子もなく虚空を見つめていた。ユリシーズは叫び、そして狂ったように腰を動かした。彼女の肉を押し割り、からだの中へずぶずぶと入ってしまうような感覚に、彼は陶然となった。ユリシーズは彼女の名だけを繰り返しつぶやき続け、そして彼女のからだを激しく揺すり上げた。散々使われ続けたそこは既にうら若き少女のものとは思えないほどに緩まりきっていて、彼の激しい抽送にもなんの反応も示さなかった。
 愛している、と彼は呻いた。オデットは応えなかった。妹の冷たいからだのなかで、ユリシーズの男根がびくんと脈打った。彼のものはかつてないほど硬く張り詰め、そして激しく痙攣した。その先端から迸る精液を、オデットの股のあいだへどくどくと注ぎ込んだ。
「ああ……オデット……」
 もう何もいらなかった。ただ彼女のからだの中に自分のものを流し込みたい一心だった。
「私の可愛い妹よ、どうか私のものになってくれ……」
 ユリシーズは呻き声を上げながら、いつまでも腰を動かし続けた。彼女のなかへ最後の一滴まで注ぎ終えると、ユリシーズは脱力して妹の上に身を横たえた。そして貪るようにその唇を奪った。
「愛している……私のオデット」
 オデットの冷たい瞳から一筋涙が流れ落ちたのを見た気がした。あるいはそれは錯覚だったかもしれない……だがもう今となってはどちらでも構わなかった。
 彼は囁き続けた。今この瞬間にも他人がこちらへ駆けつけてくるのではないかという不安はあった。けれど少なくともこの美しい妹のからだを自分のものにすることができたのだと思えば、そのときはまだ救われる気がした。すべては終わったのだ。兄妹の絆も何もかも。
 この夜が明けたら、新しい一日が始まる。ユリシーズは彼女に腕を固く絡め、その冷たく暖かな身体を抱きしめながら、朝までの束の間のまどろみに身をゆだねた。

 ユリシーズはふたたび身を起こし、咳き込むようにして涙をぬぐった。涙で視界がくもって何も見えなかった。そして荒い息遣いを吐き出した後、そっと手をあげてオデットの頰に触れた。しばらくその顔をじっとみつめていた。それから身をかがめると、彼女の唇に口づけた。禁断を犯したあとの口づけは、しかし激しく燃えさかりすぎた後の虚脱感と後悔が混じり合って、奇妙な苦みをユリシーズにもたらした。
 やがて彼は立ちあがり、彼女の腹を裂いて仔をとりだすために剣をふるった。一振りで、腹わたと子宮のあたりまで切り裂いた。オデットは決して何の反応も示さなかったが、彼女から流れ出る血はなまめかしく赤い筋となって流れていった。乱暴に仔を引き摺り出し、そこらの川を流れる水で洗ってやった。まだ十分に柔らかく、指でつまむと骨が折れてしまいそうなほどか弱く頼りない仔だった。
 母は既に死んだというのに、これは未だ生きていて、懸命に身をくねらせて逃げようとさえしていた。これが腹の中にいたせいで彼女の死期が早まったのだと思うと、怒りでどうにかなりそうだった。妹の子なら愛したかった。だが、これは決して彼女の子などではない――野蛮な賊どもの仔だ。
「さあ……」
 ユリシーズは仔を高く掲げた。そして木陰でじっと息を潜めて隠れている何者かにむかって呼びかけた。
「お前たちの可愛い王子殿下だ。お受け取りあれ」
 渾身の力をこめてその小さなからだを力いっぱい地へ叩きつけた。ぐしゃり、という鈍い音がしてそれは弾けた。彼はその残骸を踏み潰すと、剣を抜き、その何者かのもとへ歩み寄った。うっすらと笑みを浮かべると、いきなり風を切ってなぎ払った。相手の首筋から血しぶきが上がり、その返り血が彼の胸を濡らした。その太い首を斬り落としてなお、首無しの胴体を執拗に突き刺しているうちに、ユリシーズは自分のなかに渦巻いているどうしようもない衝動に気づいてしまった。それはこの汚らわしい賊どものせいである、我が唯一の愛しい妹のためである。そう言ってやらないと、胸中の獣はいつしか自分を喰らってしまいそうだった。
 ぽつりと彼の頬を雨粒が叩いた。彼は舌打ちして空を見上げた。すぐに大粒になって降り始めた。彼は彼女の身体が濡れぬように外套で覆うと、そのまま抱き上げて歩きだした。彼はこの瞬間を永遠に忘れないだろうと悟った。この後ろ暗さと達成感こそが、彼女が私のために遺してくれた贈り物であるべきなのだ。そして、これはそのための忌まわしい儀式だった。
 ユリシーズは己の身を染めた鮮血を拭うこともせず、オデットの亡骸を抱きかかえたまま森を出た。雨はいよいよ激しく二人を非難し、すっかり肌も冷えて風邪をひきそうだったが、彼はそれでも黙々と、雨の中へ歩み出ていった。

 今、ユリシーズは深い悲しみにつつまれていた。
 自分を頼りきって甘える小さな妹の顔がありありと脳裏によみがえってきたのだ。
 いつも他愛もなく彼が建物のかげへはいっていっても、追いかけてきては抱きつかれたものだ。銀の庭園では、よく二人で花冠を作った。オデットは器用で、ユリシーズが教えたことをすぐに覚えてしまった。すいすいと編んでいって、彼の頭に載せた。ユリシーズはなんだか照れくさかったが、それでも彼女が嬉しそうに笑うものだから、まあいいかと思うことにした。それから、自分が編んだ、彼女の花冠より幾分か不格好なものを彼女の頭に乗せてやった。下手でも、彼女は心底からの笑顔を見せてくれた。
 銀葉の舞い散る回廊では、二人でよくかくれんぼをしたものだった。オデットは隠れるのが好きだったから、いつもユリシーズが鬼になった。そして彼女がどこに隠れているのかをみつけると、「見つけた!」と言ってぎゅっと抱きしめてやるのだった。すると彼女はきゃあきゃあ言って喜んだ。
 ああそうだ、親族の結婚式に出席した後日、二人で結婚式のまねごとをして遊んだこともあった。オデットの白い婚礼衣装と化粧を施した顔に、つい胸が高鳴ってしまった。
「ずっとお兄様のおそばにいます」と誓われた言葉を思い返しながら、ユリシーズはオデットの前髪をそっと掻き上げ、額に接吻してやった。彼女は恥じらいに小さな肩を震わせながらも頬を赤らめ、兄の唇に唇を寄せてきた。思い返せば、あれが二人の初めての口づけだった。ユリシーズは妹にせがまれるまま、色々なことをして遊んだものだ。
 オデットは彼を慕ってくれていた。彼が呼ぶと、必ず駆け寄ってきて抱きつきさえした。彼女の愛くるしい笑顔を見るだけで彼は幸せだった。
「お兄様」と彼女はよく言った。甘えたようにすりよってくる彼女のからだを抱き返してやると、その温もりが腕に胸にじわりとしみ込んでいった。
 そして彼を見上げる蒼い瞳……穢れのない瑠璃のような瞳が彼を魅了した。その花弁のような唇をそっと塞ぐと、彼女ははっと身を硬くして彼の接吻を受け止めた。柔らかな頬が薔薇色に染まり、潤んだ瞳は彼が顔を寄せるたびに慌てて閉ざされた。そして時折唇を震わせて吐息を漏らすのだ。
 彼女は、まだ15にもなっていなかったが、妙に大人びていて、それでいてまだあどけなかった。長い睫毛を伏せ、全身で彼に対する愛情を示してくれるオデットに彼は何度でも心奪われた。緩やかに波打ち陽光の如く輝く長い金髪に、その華奢な身体をふんわりと包みこむ純白のドレス、額を飾る銀のサークレット。全てが昨日のことのように思い出された。
 オデットは笑うと花のようだった。何の汚れもなく無邪気で屈託がなく、ただ透き通った笑顔はまるで一輪の菫の花のようだった。彼女のかぐわしい香りがふわりふわりと舞って彼を虜にした。そのなかへ身をうずめてしまえば、何もかもが許されるような気がしていた。
 ユリシーズは墓の前に跪くと片手を土につけ、額を石におしつけた。そのまま墓標に口づけた。

 どれほどそうしていただろう、彼がそこから顔をあげると、銀色の蝶が彼の目の前を横切っていった。ふと視線を向けた先には、あの日の妹が佇んでいた。彼女の瞳には兄の影が映し出されていた。
「お兄様!」
 彼女は歓喜に満ちてユリシーズへ駆け寄り、彼女はまるで寒さに怯える子どものように身を擦り寄せた。そしていつもするように、彼の背中に腕をまわして抱きついてきた。ユリシーズは彼女を抱きしめると、その艶やかな髪をなでてやった。かつてと変わらない、彼女の香りに酔いしれながら。
 いやでもしかし、これはどういうことだ?彼女は死んだはず。けれど目の前にあるのは確かに妹の姿であり、その重みも匂いも仕草も、すべて幼い頃から知っている彼女に違いなかった。
 オデットは、彼女の柔らかな髪を梳く彼の手を感じながら心地よさそうに目をつむった。何も疑問に思っていないような素振りで、ユリシーズの手に甘えている。それは夢と現の狭間でしかあり得ない出来事だった。これは幻だ。ただ彼女が自分を慕っていただけの頃の、生々しい幻影だ。彼女は何も知らない、純粋無垢な瞳をこちらに向けているだけだ。ああ、これは夢なのだ。ユリシーズは自嘲的な笑みを漏らした。
「ずっと逢いたかった……オデット。お前だけを愛し、お前だけを想って、私はこの5年間を生きてきたのだよ」
 妹の白い頰は薔薇色に染まり、唇は紅く色づいていた。なぜだか、それに触れたくてたまらなかった。彼は妹の唇を指でなぞった。やわらかく、まるで花弁のようだった。
 5年前、死体となった彼女の唇を奪ったときとは打って変わって、滑らかで確かな触感が指先に伝わってきた。彼は背筋を走る背徳の囁きのままにその細い顎を上向かせ、唇を重ねた。薔薇の花びらのような唇を割って舌を押し込むと、彼女は最初こそ身を強張らせていたがすぐにそれに応じ、うっとりと目を閉じて彼に身を委ねた。
 彼女は接吻されたまま、酸素を求めて喘ぎながら兄の服にしがみついた。だが彼を押し返そうとはせず、ただじっとされるがままになっているだけだった。彼女の舌が彼のそれに絡めとられると、彼女は苦しげに吐息を漏らした。二人の息遣いが雨音のなかへ紛れていった。
 柔らかな舌を貪り、熱く潤んだ粘膜をすり合わせているうちに互いの身体が熱くなっていくのがよく分かった。何度も、何度も唇を押し付けては喰むように味わうと、オデットの唇は湿り気を帯び、淫らな紅に色づいた。もっと触れてみたい……この無垢な魂を冒涜してやりたいという欲求が腹の底からふつふつと湧きあがってきた。 このままでは、自分はあの獣たちと同じ存在に堕ちてしまうと分かっていても、彼はこの衝動を抑える術を知らなかった。
「お兄様……」
 オデットの頰は薔薇色に染まり、細い首筋からは汗が滴っていた。乱れた吐息をなんとか整えようとして、彼女は何度も大きく息をした。こちらを見上げる潤んだ瞳は怯えているようにも、期待しているようにも見えた。どちらにしろ、狂おしいほどの思慕が宿っていたのは確かだった。
 彼にしがみついた華奢な手が震えていたので、ユリシーズはよりいっそう強く彼女をかき抱いた。彼女もそれに応えて彼にしがみついてくる。まるで互いの空白を埋めようとしているかのように肌を寄せ合い求め合う兄妹の情熱は深く底が見えぬほどだった。
 彼はオデットの耳元に口を寄せ、吐息を吹き込んだ。彼女は「あぁ」とかすかな声を漏らして震え上がった。
 彼の理性は崩れ去りかけていた。もはや彼女を目の前にして何の戸惑いも葛藤もなかった。これを二度と離しはしないという決意だけが彼を動かしていた。
「……私はお前が好きだ。妹としてではなく……一人の女として、お前を愛している」
 ユリシーズは絞り出すように言った。後にも先にも、彼はこのときほど自分の罪深さを呪ったことはなかった。オデットの細い腰を引き寄せ、背中と後頭部に手をまわし、しっかりと抱擁した。戸惑いの色を含んだ妹の小さな声が聞こえたが、構わずにもう一度口づけた。彼女の柔らかな唇をそっと舐めてから唇を離した。
「お前は私を愛しているかい?」
 彼女の返事も待たずに、彼は懐から取り出した金の指輪を彼女の左手の薬指に嵌めた。オデットは微笑み、頷くしかなかった。
「わたしも、お慕いしております、お兄様」
 オデットはユリシーズの胸に身を寄せた。彼の背に腕をまわし、彼をしっかりと抱き返した。その仕草も香りも懐かしく、柔らかな感触も彼がいつも夢見ていたものだった。彼の欲望はいよいよ抑えがきかなくなりつつあった。このまま彼女を自分のものにしてしまえという黒い声が幾度も聞こえた。それでも彼はなんとか己の衝動を押えつけようとしたのだが、そう思えば思うほど激しく燃えあがり始めた炎が消えることはなかった。
 彼女の白い首筋に舌を這わせると彼女は背をぞくぞく震わせて弱々しく喘ぎ、ユリシーズの首に腕を巻き付けてきた。
「お兄様……おにいさま……」
 切なげに震える彼女の声が彼の胸の奥を愛撫する。もっと、彼女の声を聞かせてほしいと思った。その白い喉から洩れる小鳥のような囀りは甘くかぐわしく彼を狂わせ、脳髄が痺れそうだった。
 ああ、許してくれ、オデット。お前は知らないのだ、この兄がどれ程残酷になれるかを。
 彼は割れ物を扱うかのように、彼女の衣に手をかけた。彼女は少しだけ身を固くしたが、抵抗はしなかった。白いドレスが地に落ち、オデットは一糸纏わぬ生まれたままの姿になった。なめらかな肌は冷たい雨に濡れ、彼女の脚の間の割れ目からは透明な蜜が垂れ流れており、腿を伝って地面を濡らしていた。ユリシーズは己自身の欲望が激しく脈打つのを感じた。
「お前は昔から感じやすい子だったね。ほんの子供だというのに、すぐに淫らな声をあげて」
 そう口走ったとき、この子はまだ幼い少女なのだということに気づいてしまった。
 その華奢な身体も、小さな手も、何もかもが彼の記憶にある彼女のままだった。彼はこの世で5年を過ごし、その分だけ大人の男になった。しかし時の止まったオデットは、何も知らないのだ。
 その未成熟な肉体と心で兄を受け入れようとしている。それがどれほどの痛みを伴うものかも知らぬまま。兄に何をされようとしているのか、これから自分はどうなってしまうのか。それが分からない、なのにこんなにも私との色事に陶酔しきっている。なんて可愛らしく罪深い少女。
 彼女をこんなところへ連れてきてしまったのは私だ。その上に、私は彼女を汚し、獣に成り下がろうとしている。ユリシーズが欲望にかられつつも逡巡している間にも、オデットは自分の裸体を隠すように手を組んで胸を覆っていた。雨粒が吸い寄せられるように彼女の身体を滑り落ちていく。細い腕では隠しきれないほど豊かなふくらみも、そして象牙細工のように滑らかな曲線を描く腰つきまでもが露わになり、恥じらいと戸惑いの色が浮かぶ瞳がこちらに向けられている。
「わたしは、ずっとお兄様のことをお慕いしてきました」
 オデットは上擦った声で呟き、彼に手を伸ばした。ユリシーズはその肩を押し、彼女を地面に押し倒した。彼と同じ金の髪が草むらに散った。雨に濡れた花のにおいがした。彼女は兄に組敷かれ、地面に縫い付けられるように両腕を押さえこまれていた。しかし彼が覆い被さってきたとき、オデットは抵抗するどころか喜びとも悲しみともつかぬ声で短く喘ぎ、恍惚の表情で彼を見上げたのだった。
「……私は、恐ろしい獣だよ。オデット、それでもお前は逃げないのか?」
 彼は自分の声が掠れていることに気が付いた。そう、恐ろしい獣だ。この世でもっとも穢らわしく汚い獣だ。
「構いません。だって、お兄様を愛しているんですもの」
「ではその穢らわしい獣の手で、お前を抱いてしまうことになるよ……それでもいいのかい?」
 彼女から求めさせたいというだけの詭弁にすぎないことに、彼はとうに気づいていながらそう口にしていた。
「いいの。お兄様になら、何をされたって。月が高く昇るまでの間だけでいいの。どうか、わたしにお兄様をください」
 ああ、オデット、そんなことを言ってはいけない。私はお前を汚したくないのに、お前が私を狂わせるから、望んでくれるから、赦してくれるから。もう戻れないところまで来てしまった。私の弱さと愚かさが、二人を淫らで汚ならしい獣に貶めてしまう。これが全て私の幻想であったとしても、今はこの心地よい悦楽と微睡みに身を委ねていたかった。
「オデット……お前という子は……」
「わたしを淫らな子どもにしたのは、お兄様ではありませんか」
 いつになく悪戯っぽい微笑みに目眩がした。ユリシーズは内心自嘲しながら彼女に覆い被さった。いけないことなのは承知している、だがもう自制がきかなかった。この美しい妹をもっと辱めてみたいという欲望に抗うことはできなかったのだ。
 彼はそのまま彼女の首筋に食らいつくと、執拗に跡をつけていった。柔らかい肌の下の骨の形を確かめるように舌先でなぞり上げると彼女はその感覚に身体を震わせた。彼女は恍惚の表情を浮かべて兄の愛撫を受け入れた。兄はそのまま彼女の首筋から鎖骨にかけても口づけを落としていった。その丁寧な手つきにオデットは悦びで打ち震えていたが、ユリシーズがさらに先へ進もうとすると、びくりと身体を強張らせた。
「……怖い……」
 オデットは初めて知る快楽と未知の痛みへの恐怖が入り混じった表情で首を横に振った。
 そんな幼い仕草とは裏腹に、乳房の先端は既に硬くなり始めていた。彼の手はそこに伸び、膨らみを包み込むように揉んだ。すぐに手のひらには硬く尖った胸の先が触れ、それを転がすように弄んでやるとオデットはあえかな声で啼いた。むしゃぶりつき、舌先で転がしてやる。母乳を求めるかのように強く吸えば、彼女は腰を跳ね上げながらひときわ高く喘いだ。
「や……どうして、そんなところ、吸って、や、いや」
 オデットは顔を背けて快楽をやり過ごそうとしていたが、それは無駄な努力だった。彼女がどこもかしこも敏感で快楽に弱いことはよく知っている。胸の先をねぶるように舐め上げると、彼女は喉を反らせて喘いだ。そのまま頂を口に含みながら舌先で突つくように嬲り続けると、掠れた声が上がった。
「あぁ……っ!」
 彼女の身体がしなり、両脚が反射的に閉じられようとしたのを彼は容赦なく割り開いた。屈辱的に股を開かされ、彼女は羞恥で頰を紅潮させた。慌てて手で股を隠そうとしたが遅かった。下着越しでも分かるほど、そこはしっとりと濡れて湿っていた。妹の雌の匂いに、ユリシーズは意地悪く微笑んだ。
「もうこんなに濡らして。はしたのない子だ」
「……っ!」
 オデットはかっと顔を赤くし、目に涙を浮かべた。自分はなんと罪深い兄なのだろう。彼女が泣くほどに悦ばせてやりたいと思うのだから。
「あ、すまない……泣かせるつもりではなかったのに」
 彼はそう言って彼女の涙を唇ですくうように口づけた。その優しい仕草とは裏腹に彼の指先は乱暴に彼女の下着を取り去る。
「……見ないで……」
 オデットは顔を真っ赤にして懇願したが、彼は聞き入れなかった。指で開いた秘所はぴたりと閉じていたが、溢れた蜜が潤滑油になりぬるりと指の侵入を許した。彼女は目をいっぱいに見開き、喉を上下させた。しかしもう彼は止まる気はなかった。
 オデットのそこを指で弄びながら口づけをした。彼女の首筋に顔を埋めて甘く香る肌の匂いを吸いこみながら何度もそこを攻め立てた。そのたびに彼女の口から洩れ出るくぐもった嬌声が心地よく耳に響いていた。
 敏感な部分に指の腹を押し付けるようにして動かし始めると、オデットは驚いて身をよじろうとしたがユリシーズは逃さなかった。そのままさらに強く押しつけると、くちゅくちゅという水音と共にそこが熱を持ち始めていることを感じさせた。
 彼は指を二本に増やしてぬかるむ秘所に押し入れた。オデットは堪らず叫び、歯を食いしばったがすぐに甘い吐息をこぼし始めた。ユリシーズはオデットの中に埋め込んだ二本の指を出し入れさせ始めると、彼女の腰ががくがくと揺れた。その動きを抑え込むようにしっかりと膝で押さえつけながら、彼は尚も抽送を続けた。オデットは瞳を潤ませ、嬌声を上げた。
 これ以上は駄目だと思っているはずなのに、この快楽から逃れられない。止められない。なんという淫らな光景だろうか、己の手管で辱められている無垢な少女は惨めさと同時に喜びに打ち震えていた。もう充分だろうと思い、彼は指を引き抜いた。その瞬間、オデットが切なげに喉の奥で引きつった悲鳴を上げた。
「ぁ……おにいさまぁ……」
 オデットは茫然としながら荒い息で胸を上下させていた。彼女は震えながら己の下腹部を撫でた。弛緩する彼女の身体から、くったりと力が抜ける。よほど感じてしまったのだろう、四肢が快楽の余韻で震えている。しかしまだこれで終わりではない。彼の欲望はまだ満たされていないのだから。
 彼は自らの衣服に手を伸ばした。衣擦れの音と共に彼の身体が露わになっていく様を、オデットは陶然と眺めていた。普段は細身に見えるというのに、服を脱ぐと、引き締まった筋肉と彫像のように美しい身体つきが露わになる。自分とははっきりと違う、男性の汗ばんだ肌から立ち上るにおいを嗅いでしまい、彼女は生唾を呑み込んだ。それに何より、凶悪に滾った剛直。彼も自分に欲情しているのだと、自分を欲しているのだと思うと、どうしようもなく胸が高鳴った。
 これからわたしは、目の前の美しい獣に、骨の髄まで食べられてしまう。その事実に心臓が早鐘を打った。警鐘のように。ユリシーズはそんな彼女の心を読んだかのように、オデットの髪を撫でた。
「怖いかい?」
 彼は妹に覆い被さりながら吐息がかかる距離で尋ねた。脚を割り開かれて秘所を晒された状態で、オデットは涙の滲む瞳をそっと伏せた。彼女はしばし逡巡したが、やがてこくりと首を縦に振った。
「でも……こんなに、されて……放って置かれる、のも、いや……」
 彼女の秘所からはひっきりなしに蜜が流れ落ちており、腿を伝って流れ落ちて水たまりを作っていた。ユリシーズは妖しく微笑み、己の熱を妹のそこに押し当てた。彼はわざと焦らすようにその周辺を撫でまわした。
「あ……ぁ」
 それだけでもたまらないのか、オデットは小さく喘ぎながら腰を揺らした。彼に媚びるようにそこはひくついており、それを見咎めるように軽く芽を抓まれるとオデットはそれだけで軽く達した。彼女はぶるぶると痙攣しながら絶頂の余韻に浸っているようだった。そんな彼女の姿に、彼は唇の端を上げた。ここまで淫らな娘に育ってしまった妹への愛おしさが湧き上がってきた。
 もう遠慮することはない、その情欲を彼女の身体へ存分にぶつけても構わないのだ。そうして己の猛りを打ち込めば、彼女はこの上なく乱れてくれることだろう。
「かわいいオデット、愛しているよ」
 彼はそう言って、蜜を滴らせる花弁の中へ押し入った。ずるりと奥に飲み込まれていく感覚にぞくりとした興奮を覚えながら、ユリシーズは彼女の身体を抱きしめた。彼の腕の中でオデットは何度も痙攣し、声にならない声を上げていた。
「いい子だから、力を抜いて」
 彼女の身体が逃げないようしっかりと腰を掴みながら、ユリシーズはゆっくりと自身を埋め込んでいった。やがて全てを彼女の中に収めると、彼はしばらくそのままでいた。
「…ああ……わたしの中に……お兄様が……」
「そうだよ。私たちは今、繋がって、一つになっているんだ」
 兄と妹であるにも関わらずこうして身体を繋げている。禁忌を犯しているという事実に眩暈がした。それすらも、今は心地よい。
 死んだ彼女が生き返るなどありえない。これは、私の夢なのだ。今目の前にいる彼女だって、幻想に過ぎない。わかっている、解っているはずなのに。
 彼女の瞳が涙で潤むのが、高揚した肌が薄桃に染まりきっているのが見えるのが、甘美な匂いが鼻腔を満たしていくのが、この快楽が、全て現実であると訴えかけてくる。
 ああ、なんて罪深い。欺瞞に満ちた、形だけの愛なのだと嗤う。それでも。今この瞬間、彼女を愛すのは私の意志だ。私の毒の愛で溺れさせてしまいたいと願っても誰も咎めはしないのだから。
「動くよ。……いいね?」
 オデットは小さく首を縦に振った。それを確かめてから、ユリシーズはゆっくりと己を入口まで引き抜き、そしてそのまま一気に奥まで貫いた。その瞬間、オデットは声も出せずに絶頂した。目の前が真っ白になり意識が遠のくほどの衝撃だった。
 彼は容赦なく動き始め、彼女はただされるがままに揺さぶられるしかなかった。彼の剛直が内壁を擦る度に強烈な快感に襲われた。未熟な少女には過ぎた快楽であり、オデットは何度も意識を失いかけた。それでもユリシーズは己の欲望の赴くままに、ひたすら妹を貪り続けた。
 彼女の中はきつく締めつけながらも温かく湿っていて、己を包み込むような安心感があった。
 ああ、妹が愛しい。私だけのオデットでいてほしい。私だけのものになってほしい。このまま溶けてひとつになれたらどんなに幸せだろう。そうしたら私は永遠に彼女を腕の中に閉じ込めておけるのに……。
 彼女の身体を反転させてうつ伏せにさせると、より深く刺さったのかオデットはくぐもった声を上げた。後ろからすると本当に獣の交尾のようだ、などと思いながら覆いかぶさるようにして乳首や腿の内側をさすってやる。
「お兄さ、ま……こんな、うしろからだなんて……こわいです……」
「怖いことじゃないさ。これは気持ちが良いことなんだよ」
 宥めるように言うが、彼女は嫌々と首を振った。後ろからの攻めは先ほど以上に感じるのか、その声は切なげで甘かった。
「ひぁっ、あっ、ああっ、おにいさまぁっ……!」
「お前はどこを突いても悦ぶのだね。淫らな女。どうせ、賊どもに犯された時にも、そうやって腰を振っていたんだろう」
「えっ、ちがっ、ちがうの、わたしは……っ!」
 オデットは泣き出しそうな声で否定したが、一度口にするともう止まらなかった。彼女に乱暴な言葉を浴びせかけるたびに、背筋が震え、胸の奥が熱くなる。自分がまるで悪魔にでもなったかのようだった。いや、実際そうなのかもしれなかった。彼女を苦しめる一方で自分は興奮しているのだから。
 オデットの可憐な花弁は剛直に貫かれるたびに蜜を溢れさせた。そのせいもあって抽送はとても滑らかだった。彼女が腰を浮かせて逃げようとすると、彼は彼女の細い腰を掴んで引き寄せた。そうするといっそう深く楔が打ち込まれ、彼女は背をしならせて悲鳴を上げた。
「あっ、いやっ、はげしっ……ああっ!おにいさまっ、もうゆるしてっ……おにいさまぁっ……」
「嫌だ。これはお前への罰なんだよ。お前はどうして黙ってあの賊どもに身体を許したんだ!」
 オデットは泣きながら何度も首を振った。違う、そんなつもりじゃなかったの、とうわ言のように繰り返す。
 ユリシーズはその答えが気に入らず、さらに強く彼女の奥を突いた。悲鳴を上げて仰け反る妹の姿すら今は憎らしかったのだ。あの穢らわしい手で彼女を辱めた賊たちも憎いがそれ以上に彼女が自分以外の男にその身体を許していたという事実が許せなかった。
「どうして……どうして私に捧げるはずのお前の純潔を、あんな下賤の輩にくれてやったりしたんだ!」
「あっ、やぁ、ごめんなさっ……ごめんなさいっ……!」
 怒りに任せて腰を打ち付けると、オデットは激しく揺さぶられながら必死になって許しを乞うた。もうまともに言葉を紡ぐことすらできないほど感じ入ってしまっているようで、結合部から絶え間なく飛沫を噴き出して地面を濡らしていた。
 ユリシーズはその様を見ながら口の端を上げた。この美しい少女が快楽に身悶えている姿を知るのは自分だけで良いのだ。誰にも渡したくないし触れさせたくもない。
「お前の身体はもう私だけのものだ。その熱も、声も、心も何もかも、すべて私だけのものなんだ! ねえ、知っていたかい、オデット。お前は一度子を孕んだんだ。あの賊どもの誰とも知らない子種で胎を穢されたんだよ。そしてお前はそれに命を吸い取られて死んだんだ! だけど安心してくれ、オデット、お前を穢した奴らは私が残らず殺してやったからね。もちろん、そいつらがお前に産ませようとしていた赤ん坊も、きちんと始末しておいたよ。オデット、私を……ぼくを褒めておくれよ。お前のために、ぼくはこんなにも頑張っているんだ。お前のために人殺しという罪を幾万も重ねたんだ。ねえ、オデット……ぼくの可愛い妹、愛しいオデット……!」
 ああ、私は狂っている。そう自覚しながらも彼は妹の身体を揺さぶって責め続けた。彼女の子宮口をこじ開けんばかりに剛直を押し込んでは引き抜き、また押し込む。その繰り返しだった。
 オデットの唇からはもはや意味をなさない嬌声と唾液が零れ出るばかりで、言葉らしい言葉を紡げなくなっていたようだった。愛する兄の狂気じみた言葉を理解できているかさえ怪しかった。
「あっ、あぅ、おにいさまぁ……」
 彼女の瞳からは涙がとめどなく流れ落ちており、それは快楽によるものだけではなかった。彼は何度も妹の名を呼んだ。そしてその度に彼女は律儀に反応しては締め付けを強くした。
 愛しい。これは私だけのものだ。誰にも渡しはしないし奪わせもしない。たとえ彼女そのものが偽りだったとしても。
 彼女の嬌声に耳をすませながら、ユリシーズはようやくやってきた絶頂の予感に身を強ばらせた。彼は彼女の両手首を掴み後ろに引っ張りながら激しく抽送を繰り返した。彼女ももう限界のようで、涙と唾液を垂れ流しながらがくがくと痙攣していた。
 彼はオデットの腰を押さえつけると、叩きつけるように一気に精を吐き出した。熱い奔流が身体の最奥を叩く感覚に彼女もまた絶頂を迎えたらしく、声にならない悲鳴を上げて背中をしならせた。しばらくの間、二人は荒い呼吸を繰り返した。
 オデットはぐったりと地に伏し、ユリシーズもまた彼女の上に覆い被さるような形で倒れ込んでいた。熱い飛沫を子宮に浴びせかけられながら、オデットはぼんやりとした意識の中で兄を受け止めていた。
「オデット、すまない……。本当に、私は……どうしようもない、愚か者だね」
「いいの。わたしはおにいさまのことがすき。どんなにひどいことをされたって、きらいになんかならないわ」
 オデットは震える声でそう言った。それは幼い少女の拙い愛の言葉だった。ユリシーズが彼女の小さな身体を抱き寄せると、彼女は彼の胸に顔を埋めた。その目から大粒の涙が溢れていたことに彼は気づかなかったふりをした。
「……この腕の中から逃げないでおくれ。私のオデット」
 そう囁きながら額に口づけを落とすと、オデットは虚ろな瞳で兄を見上げつつこくりと肯いた。もう彼にはどうでも良かったのだ。この少女が何者であろうとも構わなかった。ただ彼女が自分の側に居てくれるだけで良いと思った。たとえそれがまやかしの幸福であったとしても、今はただ溺れていたかった。
 彼は縋るように妹を抱き締めた。その身体は温かかったが、微かにまだ震えているような気がした。彼女は黙って兄の抱擁を受け入れていた。
 やがて彼が己を彼女の中から引き抜くと、ごぽりと音を立てて精液が溢れた。彼女はどこか悲しそうな顔でそれをぼんやりと見つめている。この白濁が彼女に届く日が来れば良いのにと願いながら、彼は静かに瞼を閉じたのだった。

陶酔の夢

最初の方に出てきた謎の固有名詞たちは初期構想の名残なので気になさらず。お読みくださりありがとうございました。

陶酔の夢

ヘラってる兄王子とブラコン妹姫による近親相姦物語。ひたすら兄妹が好き好き言ってるだけのペラい話。世界観はなんとなく中世ヨーロッパ風をイメージしていただければ。一応王族だけど政治だの血統だのの話は全くしない。がっつり性行為してるし死姦とか軽度のグロとかありますので苦手な方はご注意を。

  • 小説
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  • 成人向け
  • 強い暴力的表現
  • 強い性的表現
更新日
登録日
2024-05-31

CC BY-ND
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