サブエピソード集・続勇者、始めます。
これにて、ドラクエⅢ編は投稿完結です。此処までお付き合い下さり感謝致します。
長い間本当に有り難うございました。m(_ _)m
サブエピ 1・2
サブエピ編 続勇者、始めます
チビと……不思議な女の子
……でさ、今後の……、竜の涙の事だけどさ……
チビちゃんには……、まだ黙ってた方がいいわ……
うん、まだ、早すぎるもんね……、本当の……親の事は……
……そうだね、僕らがこれからもチビを守ってあげないと……
「きゅぴ……、みんな……、なんのおはなししてるのかなあ~……」
「あっ、チビちゃん、起きたんだ?早いわね!」
アイシャが急いで寝ぼけ眼のチビを抱っこする。
「ジャミル~、アル~、ダウ~、アイシャ~、あそんでほしい
きゅぴ~……」
チビはパタパタ、皆の側を飛んで回り、スリスリスリスリ……。
「ん?今さ、ちょっとさ、皆で大事な会議してんだよ、
終わったらな」
「……かいぎ?おやつのかいぎきゅぴ?」
「あのな、……とにかく、終わったらだよ、それまで一人で
遊んでてくれや……」
「ぴきゅ……、わかった……」
チビは休憩室を出ると淋しそうに、船室まで戻って行った。
「……ぴきゅ~、ひとりはつまんないよお~、はやくだいじな
おはなしおわって……」
……くすくす……
「……だ、だあれ……?」
「こんにちは、小さなドラゴンさん、あなた、私が見えるんだ?」
「みえるよお~、でも、おねえちゃん、だあれ???」
チビは不思議そうに……、突然船に現れた女の子を見て首を傾げた。
「でも、どうして、きゅうにここにきたの?……だまって
おふねにはいってきちゃだめだよお~……、ジャミルがおこって
おならブーするきゅぴ……、おこったときのジャミルのおならは
すごくくさいよ……」
「ふふ、私はね……、風なんだよ……」
「かぜ?ぴゅーってふく、おかぜ???」
どうにも分からないと言う様にチビがまた首を傾げた。
「うん、私……、もうすぐ新しい命に生まれ変わるの……、
生まれ変わったらね、記憶を全て忘れちゃうから……、本当は
いけない事なんだけど……、だから、それまでに……、どうしても
会いたいなと思って……、最後に……、会いに来たのよ……」
「……きゅぴ~?」
「ねえ、小さなドラゴンさん、お願いがあるの……、私の事は……
誰にも喋らないでいて欲しいの、お願い……」
「うん、おねえちゃん……、わるいひとじゃないね、とってもやさしい
においがするきゅぴ……」
「有難う、小さなドラゴンさん……」
女の子はそう言うと……、何故かその場から姿を消した……。
「きゅぴ……?」
そして……、女の子が訪れた場所は……。
「zzzz!ぐうー!!ふんがー!!」
「で、この世界のドラゴンのいる場所だけど……、ジャミル?
聞いてる?おーい!」
「……う、うわっ!ちゃんと聞いてるよ!そんなにスリッパ頭に
近づけんじゃねえっての!アホベルトめっ!!」
「早く、今日の会議終わらせて、チビちゃんと遊んであげましょうよ!
……あんまり長い時間一人にしたら可哀想だわ!」
「……そうだよおお!!」
……ジャミルお兄ちゃん、みんな……、ちゃんといる……、
元気なんだね……、ちゃんと知ってるよ……、皆が……、バラモスを
倒してくれた事……、……もう、お兄ちゃんと……、みんなとお話
出来ないけど……、でも……
そこまで言って、女の子の瞼から涙が一滴、零れた……。
……言葉では伝える事、出来ないけど、風に乗せて……、私の……、
心からのありがとうの気持ち、……最後に伝えたいの……
「……」
「ジャミル、……どうかしたの?」
アイシャが不思議そうな顔でジャミルの顔を見た。
「今、何か……、異様に……、懐かしい風が吹いた様な気が
したんだけどなあ……」
「風?風が懐かしいの……?又、不思議な事言う……、ん?
そう言われれば、何となくオイラの側にも……、何かほんの少し
だったけどさあ、優しい風が一瞬吹いた様な……」
「僕もだよ、……でも、どうしてだろう……」
「本当ね……、あれ?どうしてなのかな、私、何だか涙が
出てきたの、あれ?あれ……?」
「小さなドラゴンさん、本当に有難うね、これ、……はい……」
「きゅぴ……?」
女の子は四葉のクローバーをチビに差し出す……。
「これを持っていると、幸せになれるって言われてるわ、
あなたの大切な、大好きな人達と一緒に持っていて欲しいの、
……どうか、いつまでも幸せでいて下さいね……」
「おねえちゃん、ありがとうきゅぴ!……でも、もういっちゃうの……?
いやだよお……」
「……私は……、今日の事、必ず忘れてしまうけれど……、でも……」
「きゅぴ……」
女の子がそっと、チビの頬に触れた。
「あなたのほんの心の片隅に……、時々でも残しておいて
貰えたら……、嬉しいな……」
「うん、……チビ、おねえちゃんのこと、わすれないよ……」
……うん、ありがとう……
「きゅぴ……」
そっと四葉のクローバーを握りしめたチビに……、再び優しい風が吹いた。
僕の物語のはじまり
……暗い雨の降りしきるその日。誰もいない山中の奥へと……、
小さなドラゴンが歩いていた。産まれた時から、誰にも愛される事を
知らず……、ただ、ドラゴンは歩き続ける。一体、自分は何処へ
向かうのか……、分からないままで……。
……やがて、雨は止み、雲の切れ間から光が差し始める……。
「……光が……憎い……、この明るさも……、全部闇に染まればいい、
ああ、そうしたら……、今の僕の醜い姿も何も……全部見えなくなる、
消えろ、光は……、消えろ……、消えてしまえ、目障りな光め……」
憎い記憶が頭を駆け巡り、ドラゴンを苦しめる。……とても優しい人間に
拾われた時の忌まわしい記憶を……。
「さあ、お食べ、沢山食べて……大きくおなり、そして……」
そしてドラゴンは別の人間の元へ……、見世物小屋へと売り飛ばされる。
怖い人間はドラゴンを毎日狂った様に鞭で叩く、まるで馬車馬の様に……。
襤褸雑巾の様に扱い、毎日毎日傷つけ痛めつけられる……。
……一日の余興が終われば手足を鎖で縛られ、檻にぶち込まれた……。
「……アンタ、どうだったい?今日は……」
「フン、まるでやる気がねえんだか……、困るんだな、こんなんじゃよ、
おまんま代にもなりゃしねえよ……」
……声が、又、聞こえるよ……、人間達の声だ……、僕を又
虐めようとしてる……、バカにしている……
「低俗な奴だからな、ドラゴンの癖に大人しいし、牙を剥いて
襲い掛かってくる勇気もあんめ、もうちょっと様子見だあな、
……もっと拷問の量を増やしてみるか……」
「そうだよ、アンタ!あたしらは散々あいつを可愛がってやったんだ!
今までが甘すぎたんだよ!冗談じゃないよっ!!もっときつい拷問を
しなきゃ、芸なんか真面に覚えやしないよっ!!」
……イヤダ、イヤダヨ……、モウ……、クルシイヨ……、
コワイヨ……、コロサレ……タク、ナイ……
ドラゴンの心に……、今まで無かった何かが芽生え始める……。
……憎しみ、怒り、悲しみ……、そして……。
ドラゴンは初めて人間を殺した。元の顔の原型も留めない程、
ズタズタに皮膚を切り裂いた。動かなくなった死体を更に爪で
引き裂き、地面に何度も何度も叩き付けた……。
肉を食い千切り、……血だらけになるまで何度も何度も噛みちぎる……。
残った汚い骨を更に貪りつくし……。
けれど、それが……、ドラゴンにとっての生まれて初めての
喜びと快感であった。自分を戒めた人間、彼らを甚振りつけ、
ただじわじわと苦しめる、その感覚がドラゴンの本能、獣としての
本来の感情を高ぶらせていく……。
ドラゴンは炎を吐き、見世物小屋を燃やし、今まで自分を苦しめていた
すべての悲しみの元凶を排除し、自由を手にする……。
「……僕は今、とても幸せだ……、憎い奴を殺す事が……、
僕にとっての幸せ……、けれどどうして、今まで分らなかったの
だろう、こんな簡単な事を……」
目の前の、目障りな物を……、すべて全部消してしまう事を……。
……そして聞こえる……、闇からの呼び声、ドラゴンを呼ぶ声……。
「来るがよい、我の元へ……、我は闇の大魔王ゾーマ、この世の人間を
すべて滅ぼし、闇へと返し者……、哀れなドラゴンよ、お前の中に眠りし
本当の邪悪な力……、我が引きずり出してやろうぞ……」
「僕に……更なる力があるというのか……?この僕の中に……まだ……」
……やがて主は倒される。異世界から来た4人の聖なる力を
得し者により……、闇の大地、アレフガルドは再び光を取り戻す……。
けれど、ドラゴンは微かに感じる闇の声に導かれ、新たな闇の力を
手に入れようとする……。
「……もう、ゾーマはいない、ならば僕自身が新たな闇の国の
帝王になろう……、……これから産まれし新たな闇の力を持ちし
ドラゴンよ、僕に力を貸すんだ……、聞こえるかい、この僕の声が……、
ふ、ふふふ……」
……そして、地竜の洞窟……
「……ナニモノダ……?オマエハ……」
「君は地竜だね?初めまして、こんにちは……、長い封印から
お目覚めの処、失礼するよ……」
「ニンゲンノスガタヲシテイルヨウダガ……、オマエハニンゲンデハ
ナイノカ……?」
「色々と事情があってね、今はこの姿の方が行動しやすいからさ……」
「ナンデモヨイガ……イッタイナンノヨウナノダ……?」
「この、ドラゴンの卵を預かって欲しいんだよ、暫くの間ね……」
「タマゴ……ダト……?イッタイナゼ、ジツノオヤデモナイワレガ……、
バカバカシイ……」
「この子の将来の教育の為、是非とも……、君の力をお借りしたい、
同じドラゴンとしての良美でね……、フフ……」
「……オマエノイッテイルコトハイマイチリカイデキヌワ……!!」
「君はこの卵を大人しく守っていればいいのさ、簡単だろう!?」
その内卵は孵る、そうしたら僕も又迎えに来る、それじゃあ……」
「……ニゲタカ……、ドウニモアヤシイヤツダ、ナニヲタクランデ
オルノダ……!!」
……これで、下準備は整った、後は……
「おい、兄ちゃん、本当にその情報は間違いねえんだろうな……!?」
「……本当だよ、長い間、ゾーマによって封印されていたんだ、
其処の洞窟に、目覚めたばかりの地竜もいる筈だよ、君達密猟者に
とって、絶好のカモだろう?フ、フフ……」
「ふーむ……」
「……リーダー、どうします…?地竜ともなれば半端じゃねえ
お宝ですが……、それだけ危険も伴う相手ですね……」
「兄ちゃん、アンタを信じてこれだけ払わさせて貰おう、……但し、
俺達も命がけだ、情報がデマだったらお前も命がないと思え……」
「よしなに……、では……、僕は逃げも隠れもしませんので……、
ですが僕は危険は好みませんので、洞窟の外でお待ちしております、
是非、その目で地竜の姿をお確かめになったら良い……」
「よし、お前らも来い、これから地竜の洞窟へ向かうぞ……」
「リーダー……」
「フフフ、フ、フフフ……」
……そして、卵は知る筈だった。人間の残酷さ、卑劣さを……、
すべて吸収する筈であった……。
「……ドラゴンさん……、ごめんなさい……、ごめんなさい……、私の……、
私の所為で……」
「コレデ……ヨカッタノダ……モウ……、ネラワレルノモ……
リヨウサレルノモ……、タクサンダ……コノママ……シズカニ……、
ネムラセテ……クレ……」
……例え自分が傷つこうとも、卵を守り通した地竜の優しさ、愛情……、
そして洞窟に訪れた真っ直ぐな人間達の心……、それらが闇を遮り、
卵の中で消え掛かっていた、もう一つの光、チビを誕生させた……。
……ぬくもりを知るドラゴン、愛を知らない孤独なドラゴン……、
この2匹のドラゴン達を巡り……、全ての物語は始まるのである……。
「……チビちゃんっ、もう寝ないと駄目よっ!皆まで甲板で揃って
何してるのよっ!」
「んー?気持ちいいから、夜風に当ってた、な?チビ!」
「きゅぴ!」
「風に当りながらの読書も中々、おつな物だね……」
「気持ちよくってええ、……死にそう……、アイシャもおいでよお……」
「アルとダウドまでっ!!もう~っ!!いい加減にしなさいったら!!」
……全て、奪い尽くしてあげるよ、……何もかもね……、
今のうちを楽しんでおくがいいさ、……フ、フフフ……
いずれはこの夜の闇が……、再び永遠になる日が来るのだから……
サブエピ 3・4
不思議な村で…… 1
……それは、チビが産まれる半年ほど前の時間の話。
此処、光の戻ったアレフガルドでは彼方此方でゾーマが生前に
封印を掛けた洞窟や塔などがゾーマ亡き後、封印が解かれ次々と
姿を現していた。町や村も例外ではなく、一体何故封印を掛けたのかと
思われる様な小さな村までその姿を見せるのであった。4人は聞いた
情報を頼りに、つい最近、封印が解かれたという、山奥の小さな村まで
やって来ていた。
「今日は此処で休みましょ、宿屋はあるかしら?」
「幾らなんでも、宿屋ぐらいあると思うが、それにしても小せえ村だな……」
「道具屋も見当たらないね……、人もいないんだけど?」
「休めるだけでもいいよ、細かい買い物は別の大きい町で
すればいいんだから……」
4人は初めての場所を歩いてみるが、宿屋すらも見つかる気配が無い。
「駄目っぽいな、誰もいないぞ……、村も人もそのまま
封印されてたんだから、ノアニールの村みたいな感じの筈かと
思ったんだけどな……」
「……う~ん、もう少し歩いてみようよ……」
と、アルベルトが言ったその時。
「あなた達っ!……この場所に一体何の御用ですの!?」
「……あ」
4人が前を見ると、とても此処の場所には似使わない派手な格好の
女性が仁王立ちしていた。
……頭部にはフードを被り、ローブ、……の下はレオタード装着と、
手には杖を持っている事から魔法使い系の女性と思われたが……。
「こんにちは、あなたも冒険者さんですか?」
アイシャが挨拶すると、女性は嫌な顔をする。
「……ペチャパイに用はないわ、口を聞くのも汚らわしくてよ!」
「なっ、何よ!胸なんか関係ないでしょ、私はただ、あなたが
冒険者さんかどうか聞いただけでしょ、……酷いわ!!」
「アイシャ、……落ち着いて、喧嘩は駄目だよ……」
アルベルトがアイシャを落ち着かせようとするが、突然女性の暴言に
本人は怒りが収まらない。
(この糞女、誰かと似てんなあ、……そうだ、エジンベアの糞王女だ……、
何処の場所でも瓜二つの奴はいるモンだ……)
「……ああっ、あ、あなたっ!」
女性は、一番後ろでオロオロしていたダウドに目を付けると、
ずけずけと近寄って行き……、何故か手を取った。
「……え?えええええっ!?オ、オイラですかあ!?」
「あれま、なんとまあ、珍しいお光景で……」
あまり、見た事のない珍しい情景にジャミル達は揃って目を丸くした。
「私、あなたが気に入りましてよ、どう?私と一緒に組みません事?」
「ええええっ……!?オ、オイラ……、困るよお~……」
「そうよっ、勝手な事言わないでよっ!」
「ペチャパイのあなたには言ってないのよ、私はこの方に言ってるの!
……ねえ、どうなの……?」
「あああ、わわわ!」
「私は、マーレと言いますの、……ねえん、この先は
どうしても盗賊さんの力が無いと、駄目なのよ、お願い、
力を貸して頂けないかしら……」
……マーレと名乗る女性はますますダウドに近づいて行き……、
ダウドを誘うのであったが……。
「……用があんのはダウドじゃなくて、……賊、その物の
能力なんだろ?つまり、賊がいりゃ、別にダウドじゃなくても
どうでもいいんだろ……?」
「うっふん、ご名答さんね!この村の奥の洞窟にお宝が眠ってるのよ!
私は其処を目指してるの!だから、この人の力を借りたいのよ!
とっとと私の方のPTに入りなさい!」
マーレは胸をわざとプルプル震わせ、ちらつかせ……、ダウドに誘惑を
掛けている様であった。
「ダウドは物じゃありませんよ?僕らの大事な仲間です、用が済んだら
ポイなんでしょう……?だったら、ちゃんとギルドに行って、あなたの為に
力を貸してくれるきちんとした盗賊を仲間に入れるべきでは……?」
「そ、そうよっ……!」
遂に、アルベルトもキレ、話に割り込むが、しかし、マーレは動じず、
どうしても諦めきれない様子で、ダウドに更に近づいていく。
「……嫌よ!私はどうしてもあなたがいいのっ!……ねえーん、
お願い……、どうか力を……、お願い……」
「困ったなあ~、どうしよう、どうしよう、……オイラ……」
ダウドは救いを求める様にジャミル達の方を見た。
「そうか、お前、こんなに気に入られてんだな、良かったな?」
「……ジャミルっ!!」
「ちょっと!何言ってるのっ!!」
「あら?分って頂けましたの?あなた、物分かりがいいのねえ!」
「いや?全然?……ダウドは貸してやるよ、……但しっ、俺らもお前に
着いて行かせて貰うぜ?それでいいなっ!?」
「まあ……」
「あはっ、ジャミルっ!そ、そうよっ!別に私達が一緒に行って、
何も悪い事なんか何一つないんだからねっ!」
「そうですよ、……僕らもご一緒させて貰います……」
ダウドを除いたトリオは、揃ってマーレの方をジト目で見るのであった。
「ハア、……お好きになさったら?但し、此方にも考えが
ありますわ、宝は見つかってもあなた方には渡しません、
それで宜しいかしら?」
「別に要らねえよ、アンタの好きにすりゃいいさ……」
「では、契約成立ですわ!洞窟へは、この先の旅の扉から行けます、
移動しましょう……」
マーレは率先して、村の奥へと歩き出す。
「なーによっ、感じわるっ!さっさと仕事済ませて、あんな人から
離れたいわっ!」
機嫌の悪いアイシャを宥めつつ……、マーレを追い、旅の扉へと向かう。
確かに村の奥の片隅に、ひっそりと旅の扉があった。
「さあ、此処から洞窟に行けますわ、行きましょう」
「随分、お詳しいですね……」
アルベルトが訪ねると、マーレは少し嫌な顔をするが、すぐに
高飛車な態度に戻る。
「まあ、昔……、此処に住んでおりましたから……、ですが、今は何も
関係ないですわ……」
「やっぱり、この村の出身だったのか?此処って、ゾーマに
封印されてたんだろ?けど、村の割にはどうして他に住んでる
奴も見当たらないんだ……?」
「関係ないと言っているでしょう、今は私の仕事を手伝って
頂く方が先ではなくて?」
「……そうかよ、んじゃいいよ、もう何も聞かねえよ……」
4人とマーレは旅の扉を潜り、地下洞窟を進んで行く。
「こんな場所が、あったんだね……」
「モンスターはいないよね、大丈夫だよね……」
「……」
率先して4人の先を歩いていくマーレは、急に何も言わなくなり、
只管黙って前を歩いている……。
「何だか、何か隠してるみたいだわ、怪しいわよ…」
「ま、そりゃそうだろうさ、何かしら騒動が起きなきゃ
この話じゃねえしな……」
「ジャミルったら……」
4人の先を歩いていたマーレが急に立ち止まった。
「此処ですわ、着きましてよ……」
「お?此処……」
辿り着いた先は地底湖であった。
「行き止まりだよお、……ふ、船……、何処かにないの……?」
「いいえ、此処で終点でいいのですわ、さ、あなたのお仕事でしてよ……、
レミラーマを使って、湖からお宝を引き上げて下さる?」
「う、うん……、だけど、出来るかなあ……?あんまり重い物は、
ちょっと無理かも……」
「それでも何でもとにかくやるのですわっ!」
「ひっ!わ、分ったよお……」
「な、何て人なのよっ!……ますます頭に来ちゃうわっ!!」
「……」
「レミラーマっ!!」
「きゃあっ!宝石っ!!」
ダウドがレミラーマの潜在能力を使い、沈んでいたお宝を湖から
次々と浮かび上がらせた。
「はあ~……」
「おい、無理すんなよ、……アイテムの位置、光らせるだけなら
まだしも、余分な事あまりすると、MP削るぞ……」
「……わ、分かってるけどさあ……、頼まれた以上は仕方ないよ……」
「マーレさん、それで……、あなたのお目当てのお宝は有りましたか……?」
「……いいえ!」
アルベルトが聞くと、マーレは首を振り、きっぱり否定する。
「ええええ……!」
「……お~い、探してんのは宝石じゃねえのかよ……」
「私のお目当てはこんな物ではないのです!さ、続けて頂戴!」
……マーレはダウドがMP削り、折角引き揚げた宝石を
無残に蹴り飛ばした。
「ちょっとっ!いい加減にっ……!!」
「はあ、大丈夫だよ、アイシャ……、オイラもう一回頑張ってみる、
……この人が一体何を探してるのか知らないけどね……」
「……ダウド……」
「ふふっ、物分かりがいいです事……」
マーレはにやりとほくそ笑み、……一行を見つめるのであった。
不思議な村で…… 2
何度ダウドが頑張ってみても、湖から浮かび上がってくるのは
宝石でしかない。この、マーレと言う女は一体何が目的で、一体
何を探しているのか。4人は分らず困惑する。
「はあ~、疲れたかも……」
「当たり前だろ、……もう止めるか……?」
「大丈夫だよ、少し休ませて貰えば……」
しかし、マーレの罵声は続く。
「休んでる暇なんてなくてよ、早く仕事を済ませて頂けなくて!?」
「ちょ、ちょっと、待って……、オイラ……」
「おい……、こっちはタダ働きなんだぞ、あまり調子に乗んなよ……、
ダウドのMPだって大分減ってんだかんな……」
等々、ジャミルもいい加減でブチキレ始める。、この状態が皆の
我慢のピークでもあり、アイシャとアルベルトもダウドを庇うように
してマーレを睨み始めるのであった。
「……これだから最近のガキは困るのですわ、本当に辛抱が
足らないのね……、もう少し私に力を貸して頂けなくて?後
ちょっとなのよ……、感じるんですの、あの人の……」
「はあ……?」
態度が傲慢になったと思えば、今度は突然急にしおらしくなり、
本当にこのマーレと言う女性は何を考えているのか全く掴み
どころのない女性であった。
「大丈夫だよ、皆、心配してくれて有難う、オイラもう少し
頑張ってみるね」
「ダウド……」
再びダウドが立ち上がって、もう一度湖に向かってレミラーマを放つ。
「……う、うううっ、な、何これ……、おっ、重っ、……ああああっ!!」
「き、来ましたわっ!!」
「あーーっ!!」
「……ダウドっ!!」
等々、何か別の物を引き上げるのに成功するが、あまりの重さに
反動で後ろにひっくり返りそうになるダウドをジャミルが支えた。
「ご、ごめん、ジャミル、……大丈夫だった……?」
「ハア、やれやれ…」
「……つ、遂に……、見つけましたわ……」
マーレはダウドが苦労して漸く引き上げた物に近寄って行った。
それは……。
「ちょ、……か、棺桶っ!?」
「……いやああああっ!!」
ダウドとアイシャは怯えてジャミルにしがみ付いた。
「どういう事なんだよ、これは……」
「これで、これでいいのです、……」
「……マーレさんっ!!ちゃんと理由を説明して下さい、
どういう事なんですか!?」
アルベルトがマーレを問い詰めるが、マーレは無視し、
棺桶の側へ近寄る。
「やっと、やっと会えた……」
「……ぎゃああっ!止めて、止めてよおお!開けないでえええ……!!」
ダウドとアイシャはパニック状態になり、更にジャミルに
しがみ付く力が強くなった。
(……普段、腐った死体とか見てても、何も騒がないのにな、
やっぱモンスターと違うからかな、ホラーになっちまうのかもな……)
そして、等々マーレが棺桶の蓋を開けると、其処には。
「……」
「つ、ツボ?……壺ですか……?」
状況を側で見守っていたアルベルトが呆れた声を出した。
「そうですのよ、これでいいのですわーっ!」
マーレは壺を抱きしめ、ルンルンするのであった。
「……良かねえよ、ちゃんと説明しろっての、何で棺桶の中のモンが
んな只の汚ねえ壺なんだよ、説明しろよ……」
プッツンジャミル、等々遂に切れる……。
「あなた方に説明する必要はなくてよ、ではこれで終わりに……」
出来る筈がなく……、マーレの目の前に、仁王立ちの4人がいた。
「分りました、……仕方ないですわね、この壺は、何でも願いを
叶えてくれる、魔法の壺なのです」
「……な、何ですと……!?」
「……ええええ~っ!!」
ジャミル達が思わず身を乗り出すと……。マーレはケロッとして
表情を変えた。
「嘘ですわ……」
「……おーいっ!!」
「ですが、まあ、手伝って頂きましたし、この壺の本当の秘密を
教えましょう……、……~~……」
マーレは壺を摩ると、壺に向かって暫く呪文の様な物を唱えていた、
すると……。
「やっと出られた……、随分と眠っていた気がするなあ……、
お早う、マーレ……」
「!!!つ、壺の中から……!ひ、人がああああ~っ!!」
「……きゃーー!!いやあああ~っ!!」
ダウドとアイシャはパニックになり、又もジャミルにしがみ付く……。
「……落ち着けお前ら、けど、どっかで見た顔だなあ~……」
「ダウド、あれ、君じゃないの……?」
「……」
「あ、本当、あれダウドじゃない……、って、そんな場合じゃ
ないでしょーーっ!!」
「……何でオイラがいるのおおーーっ!?」
4人はおかしな状況に更に大混乱になる……。
「もしかして、ドッペルゲンガー……、って言う現象かも知れないよ……」
「アル、何だよお、それ……」
「……死期が近くなると、見えてしまうらしい……、もう一人の自分……」
「……やめてよおおおーー!!」
「けど、そりゃ違うだろ、アル、それは死ぬのが近い本人だけに
見えるんだぜ……」
「あ、そうか……」
「何でもいいよおーー!!!どうにかしてえええーーっ!!」
「……そんな物ではありませんわ、……私の夫なのです……」
「……ええええええええーーーっ!?」
4人とマーレ……、と、更に壺から突如現れた、ダウド似の
マーレの旦那だと言う……、を連れ、一旦地上に出、マーレから
事情を聞いて
問い詰めるのであった。
「要するに、壮大な夫婦喧嘩で、魔法で旦那を眠らせた上に、
おまけに壺に閉じ込めて……、その壺を棺桶に入れて、そのまま
地下の湖に沈めたってか……、怖すぎるぞ、アンタ……」
「……フン、浮気などするからいけないのですわ、あなたは
私と結婚時、何があっても君だけを愛すると……、約束して
下さいましたわ、……それなのに……」
ハンカチを噛み、マーレがブルブルと震えだし、悔し泣きする……。
(……すげえ、こりゃ相当の基地害嫉妬マンだ……)
「マーレ、ごめんよ、本当に悪かったよ……」
(これじゃまるでなんだかオイラが怒られてるみたいじゃ
ないかあ……)
「元々この村は、優秀な大魔導師達がひっそりと暮らしていた
村だったのですわ、戦おうと思えば、それこそ大魔王ゾーマと
真面に張り合えるぐらいの力を持った、私も勿論そうですのよ……、
私は彼を湖に沈めてお仕置きした後……、一旦この村を離れたのです、
それからですわ、……悲劇が起きたのは……」
「……ゾーマによる、村の封印ですね……?」
「そうですわ、ゾーマは村の大魔道師達を惨殺した後、村ごと
封印してしまったのです、その日、村に居て、運よく生き残った
村民から聞いたのよ、その方も村を出てしまって今はいないけれど、
こんな事が起きてしまって……、気が遠くなるような長い時間、
私は本当にあなたに会いたくて会いたくて……、辛かったのよ……、
漸く又この村の姿を見れた時は、どれだけ涙が出たか分らなかった
ですわ……、はあ、私も大分歳を取ってしまったわ」
「マーレ……」
(仕置きは……、じ、自分でやった癖に……、何つー女じゃ……)
「何ですの、其処のお猿さん、さっきからこそこそと……」
「何でもねーよっ!」
「でも、あなたにとって、一番の宝物は旦那様だったのね、
それが分ったんだから良かったじゃない!……これからも
大切にしてあげないとね、旦那様を……」
「……そんな事、あなたに言われなくても分かってますのよっ!
ああ、あなた、あなた……、愛してるわ!」
「え、えへへ~、マーレ……」
笑顔で笑うアイシャに、マーレは容赦ない言葉を返す。
(やってらんねーや、糞馬鹿夫婦……、ぜっ……、たいに、
結婚したくねえタイプの女だっ……!!)
「んじゃ、これで全部終わったな、……俺らはこれでっ、おい、
お前ら行くぞ!!」
「はあ、マーレさん、良かったねえ、でも、金輪際……、
旦那さんをお仕置きするなんて二度としない方がいいよお……」
ダウドはやはり、自分似のマーレの旦那が気になる様で、
ちらちらとそちらの方を見てばかりいるのであった。
「ええ、あなたには本当にお世話になりましたわ、どうぞ
これからもお元気で、私達、もうこの村を離れて、何処か
別の場所で平和を満喫致します、ね?あなた……」
「ああ、マーレ……、僕の愛しいマーレ……、愛してるよ……」
「ハア……」
……旦那に似ている所為か、マーレはダウドだけには
優しい態度を取るのであった。
「それでは、皆さまごきげんよう、アディオースっ!!」
「……二度と会いたくねーっての……」
ジャミル達に投げキスをし、夕日の彼方に消えて行った
変な夫婦をジャミル達は、何とも言えない……、むしゃくしゃ
した複雑な気分で見送った。
「はあ、世の中にはまだまだ色んな人がいるんだねえ、
……オイラ、勉強になったよ……」
「ダウド、お前も将来はああいう、変なのに集られない
ようにしろよ……」
「うん……、って、何だよお!失礼だなあ!!バカジャミルっ!!」
「あはははっ!!」
サブエピ 5・6
チビ、反抗期
これはチビが産まれて約一ヶ月が過ぎた頃のお話。
「あっ、チビちゃんたら……!またお野菜残して、
しょうがないなあ……」
腰に手を当て、アイシャがチビの皿に残されたキャベツの山を
見て呆れた。
「仕方ねえだろ?あいつも漸く歯が生えてきたんだから
大目に見てやれよ、ま、その内食える様になるさ」
「そうだけど、少しは怪獣並みに何でも食べるジャミルの
嫌らしさを見習って欲しいわ……」
「そうだなあ……、って、おい……」
「……はあ~……」
「きゅぴ、アル、あそんで!」
船室で本を読んでいたアルベルトの処にちょこちょことチビがやってくる。
今は船の舵も留めて休息中である。
「ん?チビかい?ちょっと待っててね、今、この本を読んじゃうからね……」
「きゅぴ……、うん……」
「……もう少し、後、数ページだから……」
と、アルベルトがそう言って数分が経過した。アルベルトは本を真剣に、
……ゆーっくりと丁寧に読んでいる為、時間は掛り、本から目を離す
気配を一向に見せないのであった……。
「ぎゅっぴ!!……アルきらいっ!!」
じっと大人しく待っていたチビは等々切れて甲板に上がって
行ってしまった。
「……チビ?あれ……」
「だれかあそんでくれるかなあ……?あっ、ジャミルいた……」
「……」
ジャミルは甲板で釣りをしていて、一行に釣れないので、
釣り糸を垂れたままそのまま不貞腐れ、眠ってしまって
いたのだった……。
「zzzzz」
「ジャミルー、あそんできゅぴ!ねえー!」
「ふんが!」
「……ぎゅぴーーっ!!」
ジャミルにも相手にされないチビは、今度はダウドの処へ行こうと、
再び甲板から下に下がって行った。無論、ジャミルにしっかりと
悪戯をして……。
「……ぷ、きゃはははは!」
「う、……なんら、?アイシャ……、か……」
アイシャの笑い声で漸く目を覚ましたジャミルが落書きだらけの
物凄い顔でケラケラ笑っているアイシャの方を見た……。
「ぼけっと居眠りなんかしてるから、悪戯されるのよう!
ホラ、鏡見てっ!」
笑いを堪えながらアイシャがジャミルに手鏡を渡し、ジャミルは
寝ぼけ眼で、自分に描かれた落書きだらけの顔を確認して、悲鳴を
上げるのであった……。
※顔に描かれた意味不明の悪戯落書きの一部→ ルパンダイブに
しっぱいしてがけについらくしておーのーしてるジャミルきゅぴ
「ちくしょーっ!まーたチビだなっ!……あの野郎……!
す、少し説教してやるっ!!」
「……よしなさいよっ!それにしても、チビちゃんて
まだ小さいのに、凄く芸術性もあるのねえ!」
「……感心してる場合かっ!!怒る時はちゃんと怒らねーとっ!!」
「へえ、野菜の時はあまり怒らないのにね……」
「……いいんだっつーの!」
「ダウ、どこかなあ、おへやにもいない……、あっ、いた!」
チビは休憩室で料理していたダウドを見つける。今日の夕ご飯は
ダウドが当番なのである。
「ぴ、ダウー!」
「ああ、チビちゃん、ふふ、どうしたの?お腹空いたのかな?」
「ダウ、おこらないからだいすき!ダウー、ダウー!」
チビはダウドにスリスリ頬を寄せて甘えるのであった。
「待っててね、夕ご飯の支度が終わったら遊んであげるからね、
ちゃんと作らないと怒られちゃうから……」
「きょうのゆうごはんはなあに?チビ、ミルクごはん!!」
「それはチビちゃんが好きなご飯でしょ、オイラ達がちゃんと
食べれる物を作らないと……、チビちゃんも好き嫌いしないで
きちんと何でも食べなくちゃ駄目だよお……」
「きゅぴ……、じゃあおにくいっぱいごはん!」
「うーん、ごめんねえ、今日はもう下ごしらえしちゃったんだよ、
グリンピースライスと野菜のスープだよ、栄養満点で美味しいよ」
「……ぎゅっぴ!おやさいいやっ!……ごはんにミルクいれるのーーっ!!」
「あ、ああーっ!駄目だよっ、チビちゃんっ!……あ、あああっ!!」
ダウドが止める間もなく、チビがライスにミルクを掛けまくり……、
……甘いミルク御飯が出来上がるのであった……。
「……で、どうすんだよ、コレ……、ちったあ怒る事もしろっつんだよ!
バカダウドっ!」
「……だって、間に合わなかったんだよお……」
「ぴー!ミルクごはん!おいしー!」
「はあ、勿体無いし……、私達も食べるしかないわよね……」
「だねえ……」
「……たくっ!……お、おぇええ~……」
仕方なしにミルク御飯を一口、口に入れたジャミルが……、あまりの
不味さに吐き気を催す……。
「あ、ジャミル、ごはんのこしてる!すききらいはいけませんよっ!!」
……ぷっ、つん……
「あのなあ……、誰が飯をこんなにしたと思ってんだっ……!
ええ~っ!?」
「ジャミルっ、駄目よっ!チビちゃんまだ小さいんだからっ!
悪い事は悪いって、私がちゃんと教えるわよっ、……だから今夜は
大目に見てあげてっ!」
しかし、アイシャが止めようとするも、先程の落書きの事もあり、
……怒りMAXジャミルのプッツンモードは止まらず。
「チビ、捨てるぞ……」
「!!!!」
言ってはいけない一言を口にしてしまうのであった……。
「……ぴいーっ!すぐおこってくさいおならするジャミルきらいっ!
やさいたべないとおこるアイシャもいやっ!ほんばっかよんでる
あそんでくれないアルもいやっ!……みんなきらいっ……!!
……びいいいーーっ!!」
「……チビちゃんっ!!」
チビは泣きながら休憩室を飛び出して行ってしまう……。
「ふう、良かった、オイラは今、嫌いリストに名前入ってなかった……」
「そう言う問題じゃないでしょ、ダウド……」
……アルベルトが横目でダウドの顔を見る……。
「え、えへへ……」
「ほっとけよ、アイシャ……、すぐ機嫌も収まらあ……」
「……でも、さっきの一言はちょっと幾らなんでも酷いわ、
捨てるだなんて、言い過ぎよ……」
「チビちゃん、かわいそう……、も、もしも……、チビちゃんが……、
さっきの言葉で傷ついて……、家出でもして……、ふ、不良にでも
なっちゃったら……、……う、うわあああーん!チビちゃんが
かわいそうだよお……!!」
「……アホか、バカダウド……、オーバー過ぎんだよ……」
「きちんとチビに謝ってきなよ、ジャミル……、さっきの言葉が
君の本心じゃないって事は分かってるよ……、でも……」
「……」
ダウド、アイシャ、アルベルトの3人は、じーっとジャミルの顔を
見つめ、何とか言えよと返事を待つ……。
「わ、分ったよ、謝りゃいいんだろ、謝りゃ、たくっ!」
……ジャミルが休憩室を出て行くまで、3人はずっと
ジャミルの方を見ていた。
「はあ~、何で俺がこんな……、……ブツブツ、チビの奴……」
ジャミルがチビを探しに甲板まで上がって行くと、寂しそうに
チビがちょこんと一匹で座って海を見ていた。
「ぴい~……」
「……チビっ、コラ!」
ジャミルの姿に気づくと、チビはジャミルから顔を背けた。
「……あしたから、チビすてられちゃうの、ノラドラゴンに
なっちゃうの……、ぴいい~……」
「バカだなあ、ホントに……、すーぐいじけんだから、よっ!
……んなとこはダウドに似なくていいっつーの!」
「ぴ?」
ジャミルはチビを抱き上げるとチビの顔を見た。
「冗談だよ、言葉のアヤっつーか、……捨てたりしねーよ、だから、
オメーもあんま、本気にすんなっつーの、ていっ!」
ジャミルがチビに軽くデコピンすると、チビはスリスリ、
ジャミルにすり寄って来た。
「……ぴー、ごめんなさい、チビ、……いいこになる、
だからすてないで……」
「だから、それは心配しなくていいって、……でも、あんまり
我儘言うなよ……、分ったか?」
「……うん、でも……、おやさいきらい……、いや……、たべない……、
まずい……、おえ……」
「……チビ、お前、今、この期に及んで……、ん?」
「すぴょ、すぴょ……」
チビはジャミルに抱かれたまま、安心して眠ってしまったのであった。
「たく、ほんっとーに、どうしようもねえ、我儘ドラゴンめ……」
「……ふふ……、ジャミルったら……」
「やっぱり、可愛いんだねえ~、チビちゃんが……」
「良かったね、素直になれて……」
「ちょ、お、お前らっ!……何時から其処にいたっ!?」
階段の下にこっそりと隠れてやり取りを聞いていた3人が
笑いながら顔を出した。
「べ、別にっ!うるせーから寝かしつけてただけだっ!ほら、
アイシャこれっ!あーっ、漸く寝てくれて助かったわ!じゃあ
俺も寝るっ……!んじゃあな!!」
「あ……」
ジャミルはアイシャに寝ているチビを押し付けると、……慌てて
船室へと逃げて行くのであった。
「うーん、やっぱり……、素直じゃないなあ……」
「でも、仲直り出来て良かったわね、チビちゃん!」
「……すぴょ……」
翌朝……。
「かーきかき、かきかきかき!かおー!これ、アイシャに
なぐられてたおれてる、おーのーしておならしてるジャミルの
かおー!♪ぴいー!」
「……こ、こら!チビちゃんっ!待ちなさいっ!!お部屋の壁に
絵を描いちゃ駄目だって何回言ったら分るのっ!!……こらーーっ!!」
「きゅぴーっ!!」
「チビちゃーんっ!!言う事聞きなさいっ!!こらあーーっ!!」
船内でアイシャとチビの早朝マラソンが始まり、今日も一日の
スタートを切る。……しかし、子供と言うものは、普段からよーく
大人のする事をしっかりと見ているのである。
「……やれやれ、そんな簡単に……、ころっと悪戯が急に
止まる訳はないわな……」
「まあ、気長に見守ってあげようよ、何せチビはまだ精神上、
赤ん坊なんだしね……」
「だよねえ~……」
「たく、どうしようもねえ、一体、んなとこ誰に似た……」
……ぷう~、ぴい~……
「……」
「おならでたきゅぴ!」
「……チービーいいいっ……!!てめえ、わざわざ人の顔の前まで
来てっ!くっそ、デコピンしてやるーーっ!!」
「きゃはははは!!」
「……ま、明らかに、誰に似たのかは言う間でもないけど……」
「だよねえ~……」
アルベルトとダウドは顔を見合わせ、苦笑いするのであった。
……そして、チビの悪戯と我儘は更に止まる事を知らず……、
話は、9話のケンカする程……、へと、続いていくのである。
君といつまでも
……これは、ある小さな町で起こった出会いの物語……。
「待てコラーーっ!ガキーーっ!この泥棒めがーーっ!
逃がさねえぞーーっ!」
大声で罵声を上げ、男は追っている少年を猛スピードで
追い掛け捕まえる。そして、男は持っていた太い棒で少年の
身体をしこたま強く叩きまくった。
「このっ、この野郎っ!このっ、……死ねっ!オラあ!浮浪児めがっ!」
「……痛いっ、や、やめて……、ごめんなさい、お腹が空いて……、
本当にごめんなさい、……僕、償いで、おじさんのお店で一生懸命
働きます、だから……」
……みすぼらしい身なりの少年はパン屋の外にある
ゴミ箱に捨ててあったパンを探り、拾って食べたのだが、
それを中で見ていた男……、店主の怒りを食らい……。
「冗談言うんじゃねえっ、テメエみてえな汚ねえガキを使う
列記とした職人が何処の世界に居ると思ってんだーーっ!!
……ゴミのパンだってウチの立派な商売品だーーっ!
おめえなんかに食わせるモンじゃねえーーっ!」
男は更に少年に暴力を振るったが、町の者は誰一人として
止める者はいない。
「……ヘッ、ざまあみやがれ、これに懲りたらよう、金輪際、
ウチの店の前をウロチョロすんじゃねえぞ、……ゴミ浮浪児が……」
男は倒れた少年に淡と唾を掛けると身体を蹴り、先程のゴミ箱を
抱えて来ると少年にばさっとゴミを被せた。そして、男はすっきりした
様子で店に戻って行く。
「……う、いたた、駄目……、だなあ、僕って……、本当に……、
お母さん、お父さん……、……」
身体の痛みが漸く治まり掛けた頃、傷だらけの足を引きずり、
とぼとぼと……、少年は一人で町の中を歩いていく……。
少年が向った場所は……、路地裏の先にあった大きな
廃墟屋敷であった。孤児の少年は、この町にたどり着いた時、
屋敷を見つけ暫く滞在する事にしたのだった。
「今日もご飯はちゃんと食べられなかったけど……、このお家にも
何時までいられるのかなあ……、……お腹空いたなあ……」
「……りゅー、ふんががが、りゅ~……」
「だ、誰……?も、もう……、他に誰か住んでいるの……?
でも、僕……、休める処がないんです、お願いです、もう少しだけ
場所を貸して下さい……」
少年は祈りながら廃墟へと足を踏み入れる。……こういった
場所でも常に浮浪児達や乞食のショバの奪い合いになるケースも
殆どである……。
「あっ……?」
少年は驚く。……壊れ掛けたソファーの上で寝ていたのは、
今まで見た事のない、人間では無い異形の者であった。頭部には
尖った変な物が生え……、寝ている様子であったが鼻提灯を出し、
長い舌をベロンと出してだらしなく寝ているのだった……。
少年は恐れず、とてとてと異形の者に近寄り、顔をぺちぺち叩き、
頭部から生えている2本の尖った触角な様な物を引っ張ってみる。
「あはは、面白ーい!」
「りゅ、りゅりゅ……?」
その異形の者は……、寝ぼけ眼で少年の顔を見……、
そして飛び跳ねる。
「りゅーーっ!なんりゅ、おまえはーーっ!!近づくなりゅーー!!」
異形の者は警戒し、手に持っていた大きなフォークを少年に向けた。
しかし、少年は恐れる事を知らない。
「ご、ごめんなさい、頭から変わったアクセサリーが生えて
いたので、つい……、それに何だか、昔飼っていた犬のポチかと
思ったんです……、似ていたので…」
「誰がポチりゅーー!偉大なるこの悪魔族、魔界の王子の
リトル様に向かって犬呼ばわりとは……、いい度胸りゅ、
……人間め……、ヌッ殺したるりゅ……」
「凄い!ポチ……、君、喋れる様になったんだねっ……!!
あ、ご、ごめんなさい……」
「……りゅ、……こ、こいつ……、呆れたバカりゅ、何処までもっ、
リトルを馬鹿にする気りゅねーーっ!?」
「……リトルって言うんだ……、此処は君のお家だったんですか?」
「違うりゅっ!さっきから言ってりゅーーっ!リトルは優秀な
ベビーサタン、いずれはこの人間界を支配する魔界の王子なり
りゅよーーっ!!」
小悪魔はムキになり、少年に向かって奇声を上げる。けれど少年は
動じず、……下を向いて小さく声を出す。
「そっか、そうだよね……、ごめんなさい、犬が喋る訳ないよ……、
ね、ごめんなさい、……本当にポチに君が凄く似てたから……、
つい……、……大好きな……、一番の僕の友達だったんだ……、
もう死んじゃったんだけど……」
「……お前、ほんまもんのバカかりゅ……?りゅ……」
「えへへ、そうかも知れない……」
少年はそう言って、小悪魔の隣にちょこんと座った。
「……ふふ……」
「ニヤニヤ笑いやがって、気持ちわりィヤツりゅね……」
「リトルーっ!リトルーっ!何だか嬉しくなっちゃった!
名前を呼んだら、僕、凄く嬉しくて、どうしてかなあ?」
「知るかりゅっ!あー!軽々しく名前を呼ぶなりゅっ!
何処までもずうずうしい奴りゅっ!」
「えへへ、そうかも知れない……」
「やっぱり、お前は馬鹿りゅ……、なんつーヤツりゅ……、
お前は何でリトルに近寄ってきたのりゅ?怖くないのかりゅ?
リトルは悪魔族の偉大なる魔界のプリンスりゅよっ!そこに
ひれ伏せりゅっ!」
「どうして?別に全然怖くないよー!ふふっ!」
「おかしな奴りゅ……、人間つーのは皆何処か頭がおかしいのりゅ」
「そんな事ないよー!」
そして、少年は小悪魔に目を輝かせ……、色んな事を話す。
自分の病気の事……、両親が死んで孤児になった事、幼い頃から
大好きなドラゴンの事、自分が持っている……、大きな夢の事も……。
……小悪魔が魔法で出し、身体を冷やした少年を温めていた
メラの火も消え掛けた頃……。
「……すう……」
「やっとねたりゅ……、……このまま、リトルも本当に
おいとまするかりゅ、どうせもう命がないのなら、ほおって
おいてやるかりゅ……、ふん、サービスりゅ……」
「……リトル、何処にも行かないで……、お願……い……」
「やっぱり、バカりゅ……、知ったこっちゃねえりゅ……、
勝手にしろりゅ……」
何故かどうしてだか、小悪魔は少年を残しておく事が出来ず、
その場に留まったのであった。
翌朝……。
「ん……、リトルっ?……又いない……、何処か行っちゃったの……?
今度こそ本当に……」
「ふん……」
「リトルっ!……あはっ、リトルーっ!」
「飛びつくなりゅ……!んとにうっとおしいヤツりゅねーっ!
……パンとかいう糞まずいうんこを持ってきてやったりゅ、
ほれ食えりゅ……」
「ありがとうーっ!うれしいなあーっ、……で、でも……、
このパン……、何処から……?」
「いいんだりゅ、おめーは余計な心配しねーでとっとと
食いやがれりゅ!又発作が出て死なれたらこまりゅ!
おらおらおら!」
「……ありがとう、リトル……、凄く美味しいよ!ねえ、
君は食べないの?」
「いらねえりゅ、だからおめえが食えばいいりゅ……」
「駄目だよ、一人で食べても全然美味しくないもの、はいっ!」
少年はニコニコ笑いながらパンを半分千切って小悪魔に
差し出す。
「こんな糞まずい物……、ニンゲンつーのは本当に
分らん生き物りゅ……」
「ふふ、そうかもしれないね!あのね、パンにはね、
ラーマって言う塗り物を塗るともっとおいしくなるんだよ!
僕、大好きなんだ!」
「それを塗れば不味いパンでもリトルの口にも合う様に
なるのかりゅね……、ふん、けっ」
そう言いながら……、小悪魔は少年が差し出したパンを口にする。
小悪魔が持ってきたパンは、パン屋に小悪魔が魔法を掛けて悪戯し、
一騒動の際に隙を見て勝手に持って来た物であった。小悪魔に
善悪の感情などないが、店の外で野良犬相手に暴力を振るい
喚き散らすパン屋の店主のその姿勢が……、小悪魔には非常に
不愉快で気に食わなかったのだった。
「……悪魔族は人間が大嫌いりゅ……、けど……、お前は中々
見所があるりゅ、お前だけは父上に特別に頼んで、このリトル様の
忠実な側近ナンバーワンにしてやってもいいりゅ……、魔界に戻ったら……」
「本当に?僕、魔界に行けるの?連れてってくれるんだ!嬉しいよーっ!
ああ、リトルーっ!!」
「全く、すぐ飛びつくんじゃねーりゅ!……但し、……ドラゴンとして
じゃねーりゅ、今のお前のまんまを側近にするりゅ!だから、死んで
ドラゴンに生まれ変わったら探せだのふざけた事言ってねーで
さっさと病気なおせりゅ!分ったか!?りゅ……」
「……うん、約束するよ、リトル……、僕、ちゃんと何処かで働く……、
お金を稼いでお医者に行ってちゃんと病気治すよ……、だからそれまで
待っていてくれる……?」
「リトルは気がみじけーりゅ、けど一度言った事はまもりゅ……、
ちゃんとお前を側近にしてやりゅ、人間からナンバーワンの
悪魔族にしてやりゅ!」
「ありがとう、リトル……、人間から悪魔族になる事が
出来るんだね、凄いや……、かっこいいなあ……」
少年はそっと小悪魔の手を握りしめる。
「フン……」
……幸せな時間は永遠に続かず……。
それから数日後の早朝……、小悪魔は、冷たくなって
ソファーの上で死んでいた少年の姿を見る……。急に持病の
発作が出、静かに息を引き取った様であった。
「おい、……目を覚ませ……、りゅ、ふざけんなりゅ……、
……冗談じゃねえりゅ……、おい、……糞、返事しろりゅ……」
……悪魔族がまだゾーマの下部であった頃……、小悪魔は何度も
何度もこの目で、魔界の王である自分の父親が人間達を平然と
惨殺する光景を目の辺りにしていた。人間なんぞ大嫌いだった
小悪魔は別に何とも思わなかった。人間共が殺される事、いずれ
滅びる事、それが当たり前だと思っていた……。
しかし、今……、自分の目の前で……、動かなくなった少年を見、
初めて人間に対し、……不思議で複雑な感情が芽生える……。
「やっぱり……、人間なんぞ嘘吐きりゅ……、大嫌いりゅ……、
でも、リトルはちゃんと約束は守ってやるりゅ、お前をお前の
ままで側近にする事はもう出来ないけど……、でも……、必ず
見つけてやるりゅ……」
……小悪魔は少年の冷たくなった遺体を決して誰も訪れる
事の無いであろう……、薄暗い……、荒れた畑の傍に穴を
掘り亡骸を埋葬する……。
「もうお前の事なんか誰も知らないし、覚えてないりゅよ……、
ルンペンの野垂れ死にりゅ、けど、リトル様だけは覚えていて
やるりゅ、お前のその哀れな姿と存在、……惨めな一生を……、
この身体の中に取り込んでおいてやるりゅ……、お前を人間で
リトル様の一の子分に認定してやるりゅ……、有難く思えりゅよ、
人間なんぞ反吐が出るほど嫌いだけど……、お前だけは特別りゅ……」
……小悪魔は歩き出す。魔法を掛け、自らの姿を死んだ少年の姿に
変えてもう1人の自分となる。少年とのもう一つの約束を果たす為、
……そして、生まれ変わった彼と再び彼と巡り合う為……。
……でもね……、もしも僕が死んだら……、僕を探し出して
見つけてね、僕、必ずドラゴンに生まれ変わるからね……、でも、
生まれ変わったら……、僕は多分君の事忘れてると思うから……、
もしも僕の事、見つけてくれたら……、……記憶を思い出させてね……
そして……、暫しの時間は流れ……。
「……あの、皆さま……、お仕事をお探しですか……?」
「ん?あんた何だい?」
「……皆様に……、その、新たな洞窟の最初の探検者として……、
洞窟レポのお仕事をお願いしたいのですが……」
そして、……小悪魔の物語も動き出す……。
To Be Continued …
ラスト・エピソード
ラスト・エピソード
闇の国の使者との戦いも終り、アリアハンの民も漸く又当たり前の
生活を送る様になり……。
「きゅぴ、ファラ、チビがお皿運ぶきゅぴ!」
「ありがとーっ!チビちゃん!ホントにアンタって子はよく
お手伝いしてくれるから助かるよーっ、……ただ食べるだけの
どっかの野郎共と違ってさ!」
「……」
ファラが台所に引っ込むついでに……、男共を横目で見て
通り過ぎて行く……。
「はあ、大人になったね、チビちゃんも……、最近はあんまり
お漏らしもしなくなって……、自分で頑張ってご用意足しに
行ける様にもなったしね……」
「そうかあ~?昨日、又急に糞したいって催して困ってたけど
なあ~……」
何となく、アイシャが淋しそうな顔をしているのを見て、
ジャミルが横ヤリを入れてみる。
「食べ過ぎちゃうと、どうしても突然……、大量にするから……、
って、何でこんな話になるのよっ、ジャミルのバカっ!……私も
ファラのお手伝いしてくるっ!」
怒りながらアイシャが台所へと走って行き、その場には
男だけ残される。そして、黙っていたアルベルトが口を開いた。
「……僕は明日、故郷へ帰るよ、……チビ、アリアハンの皆と
仲良くするんだよ、まあ、チビなら心配ないと思うけどね、
……一応、ジャミルとダウドの言う事もちゃんと聞いてね……、
悪戯もしちゃ駄目だよ……」
「ぴい……」
寂しそうに項垂れるチビの頭をアルベルトが優しく撫でた。
「……一応てのは何だよ、まあ、アルにも随分冒険を
延長させちゃったしなあ……、暫くはアイシャも此処に
いてくれるからさ……、アルもあんまり心配すんなよ……」
「うん、チビもそんな顔しないで……、遠く離れてても
僕らはいつも一緒だからね……」
「ぴい~、ずっと一緒!チビ達、ず~っと友達!」
チビがアルベルトに頬を寄せ、スリスリしてくる。そして、
あっという間に夕方になる。小悪魔リィトも囲んでお楽しみの
夕食タイムとなった。
「今日はカレーか、ファラがいるからアイシャも変なモン
いれねえし助かるよ」
「……何よっ!ジャミルのバカっ!」
「アルベルトも……、明日から暫く皆と会えなくなっちゃうんだ
からさあ、今日は沢山食べて行ってね!おかわりもあるよ!」
「有難う、ファラ……」
……複雑な気分になりながら、アルベルトがカレーを口に運んだ。
「私もお手伝いしたもーんっ!ね、ファラ、私もおかわり
沢山していい?」
「うん、いっぱい食べなよ」
「きゅぴ!チビも食べるっ!」
「おい、団子……、そんなに食べたら団子がますます団子になるよ……」
「……またリィトってば……、どうしてそう……」
「ほっとけよ、ダウド、中身は小悪魔なんだからさ、しょうがねえよ、
口の悪いのはよ……、一生治んねえよ!」
……アンタもそうだろう……、とダウドは思うが黙っていた。
「……何よ、その言い方……、もういい加減にやめてよねっ!」
「団子なんだからしょうがないだろ、団子っ!」
「……ちょっとっ!」
「わわわ!やめなよお~、2人ともー!」
「……はあ、悪いけど……、やっぱりお前達人間の食べる物は
僕の口にはどうにも合わないみたいだ……、このカレーって奴、
どうも……、うんこみたいでさ……」
リィトはそう言って席を立つ。
「もういらないのかい?何処行くの?」
「散歩……」
ファラが訪ねると、リィトは後ろを向いたまま返事を返し、
そのまま外に出て行ってしまった。
「何よっ、かっこつけて!中身はリトルの癖にっ!」
「きゅぴ、でも……、リトル、前にカップラーメン
じゅるじゅる食べてたよお?」
「単なる我儘なだけだ、よしっ、あいつの分は俺がっ!」
「……アンタは食べ過ぎなんだよっ!これはチビちゃんが
食べるのっ、はいっ、チビちゃん!いっぱい食べなっ!!」
ファラはジャミルの後頭部をポカリとフライパンで殴ると、
リィトの分のカレー皿をチビの方へと回した。
「きゅっぴ、ありがとう、ファラ!」
アルベルトはカレーを食べながら……、そんな皆のやり取りを
微笑ましい目で眺めていた。
そして、夜……、ジャミルとアイシャは皆が落ち着いた頃、
外に出て星空デートを楽しんでいた。
「色々あったけど……、これでチビちゃんも、もう本当に大丈夫……、
なんだよね……、又、誰かに狙われたりしないよね……?」
「だといいけどな……」
「ジャミル……?」
「チビの生れつき持った、竜の女王から受け継いだ宿命の血は
決して消えない、何時、何が起きても不思議じゃねえよ……、
だけど……」
「……」
「これからも、俺達がチビを守ってやんなきゃ……、な……」
「ん、そうだね、……ジャミル……」
2人は暫らくぶりで唇を重ねようとするが……。
(……何か、許せんりゅ、この間っから……、団子を見てると
異様にムラムラしりゅるし……、いつも団子に的回りついてる
バカ猿も見てると殴りたくなりゅ……、何なのりゅ?これは……、
何だか分かんないけど、……邪魔してやりゅ……)
二人の様子をこっそりと、物陰から覗っていた小悪魔は、
呪文を唱え始める。
「……出でよっ!リトルの遣い魔軍団っ!」
「……?何か、やけに騒がし……、っ、ああっ!?」
「モンスターっ!?どうしてっ……」
ジャミルとアイシャの前に、小悪魔が召喚したモンスター
集団が現れた。
「けけっ!イチャイチャしてりゅ、不衛生なバカ二人を
お仕置きしてやるりゅ!……けけっ、けけっけけっ!
けけけのけー!」
「ぴい~?……リトル、何してるきゅぴ?あ……、分った……」
「りゅっ!バ、バカドラゴンっ!!」
隠れていた小悪魔、あっさりとチビに見つかるのであった。
「ジャミル~、アイシャ~、あのねえー!」
チビがふよふよと二人の処に飛んで来る。
「チビっ、危ねえぞ!……早く家にっ!!」
「このモンスターはリトルが呼んだんだよお、バカ二人
お仕置きするって言ってたよお……」
「……んきゃ~っ!バカドラゴンめえ~っ!!」
「ん?リトル……?だと……」
「バカ二人って……、私達の事……?」
「おめーらしかいねーだろうがよっ!りゅっ!……あ」
隠れていた小悪魔、自分から姿を現し、墓穴を掘った。
「そうかい、そうかい、どうも今更、こんなとこで
又モンスターが出るのはおかしいと思ったんだよなあ~……、
ふーん……」
「チビ、アルとダウドを呼んで来るね!」
「バカドラゴンめえ~……、余計な事をおおーっ!……じゃあ、
リトルは一旦逃げりゅ!もうこの際、バカ共を揃ってお仕置きして
やれりゅ!んじゃあね!」
「あっ!待ちなさいっ!これどうするのよっ!!」
「けっけーけ!けっけっけー!ちゃんとケツ拭けりゅよーっ!」
アイシャが怒鳴るが、小悪魔は遣い魔をその場に残し、
夜空へと逃走した。
「全くもうっ!何考えてるのよっ!!リトルの方こそ明日、
徹底的にお仕置きしてやるからっ!!」
「何も考えてねえのが小悪魔なんだから……、ま、仕方ねえのさ……」
「ジャミルーっ!アイシャーっ!」
「大丈夫ーっ!?」
チビが早速、アルベルトとダウドを連れて来る。
「二人とも来たよおーっ!」
「はいっ、ジャミルっ!王者の剣っ!!」
「よしっ、サンキューな、ダウドっ!」
ジャミルがダウドが投げた王者の剣を受け取り、身構えた。
「ま、下級雑魚モンスターだな、屁でもねえな、あの馬鹿も
気を遣ったのか知らんけど……」
「気も何も遣ってないわよ!もうっ!……こうなったら全力で
暴れてやるわっ!」
「……僕もっ!暫くは皆と一緒に戦えなくなっちゃうからね!」
「はあ、……もう勘弁してよお~……、うう、町民の皆さん……、
こんな夜遅くに……、毎度お騒がせ致します……」
「ぴいーっ!チビもやるーっ!」
4人は大量のモンスターを目の前にし、がむしゃらに突っ込んでいく……。
それでも4人の表情は何故か嬉しそうであった……。
翌朝……。
「で、昨日のは何だ?何が気に入らなかったんだ?
……言ってみろ、オラ!」
ジャミルは小悪魔をとっ捕まえ、質問攻めにする。
「りゅ、昨日の通りりゅよっ!不衛生なバカ二人をお仕置きして
やりたかったんだりゅ!」
「ふーん、じゃあ私も……、お仕置きしていい?」
小悪魔は、アイシャにスペシャルサービスで、今回は団子を
30発プレゼントされたのであった。
「はあ、全くもうっ!何考えてんのよっ!でもすっきり!
……チビちゃーん!一緒にお買いもの行きましょーっ!」
「りゅりゅりゅ、りゅ……」
「ん?オメー、やけに嬉しそうだな、殴られて気が狂ったか?」
「うるせーりゅっ!バカ猿っ!早く動物園に帰れりゅっ!」
小悪魔は又、窓から何処かへと飛んで逃げた。
「……変な奴だなあ、んとにっ!でもま、あれはあれで構うと
おもしれーけどなっ!」
「……りゅ、だ、団子から団子貰ったりゅ、……う、嬉しい、りゅ……」
小悪魔の中に微かにある、この不思議な気持ちを自分で
理解出来る様になるには……、まだまだ相当の年月が
掛りそうであった……。
サブエピソード集・続勇者、始めます。