「風車」

 風車売(かざぐるまうり)が歩いてる
 風車売が歩いてる
 麦藁帽子を阿弥陀にかぶった
 それでも顔のよく見えない暗がりのよな風車売
 炎天の空しとどに汗ばみ
 荷車を曳く男の人だ

 白い扇が落ちて来た
 幼子の手なぐさみの玩具(おもちゃ)だろう
 小さな破片のような白扇(しらおうぎ)
 風車の白色の羽
 あの二階家から降ったのだろう
 窓を閉ざした綺麗な部屋
 雪みち一人歩く男の姿
 顔はやっぱりよく見えなくて
 外套(コオト)のポッケに両手を隠して暖めて
 それでもやはり雪のみち
 俯向きかなしみ踏む姿
 風車の青い羽
 動かぬ瞳の懊悩に
 こほったビイ玉の()だ住める
 映る視界は血滲む歯型
 愛した處女(をみな)に口寄せて
 囁く…掠れ声
 白腕を銀鎖のよに掴めども
 指をからめる哀しきまでのやさしさに
 こぼれる幾筋もの純粋な血は
 手毬を(かが)るほそい糸…
 風車の赤い羽
 風車は回る、回る
 真夏に誰も買わずして
 風車売はまた歩く
 誰も買わない風車
 喧騒からはずっと離れて
 寂しさのほそみちを
 一人

「風車」

「風車」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-05-28

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