zoku勇者 ドラクエⅢ・その後編 エピ85~88
エピ85・86
それから。
闇の国の使者との戦いから数日が経過した。全てが終わって、
いつか皆と再び会う約束を交わし、アルベルトも故郷へ帰って
行った。アリアハンの町の民も皆、何事も無かったかの様に落ち着きを
取り戻していた。そして、今日も早朝からずしすしと、地響きをたて、
近所のおばさんがジャミルの家にやって来る。
「ちょいと!ジャミルちゃん、チビちゃんはいるかい?
美味しいお菓子を買って来たんだけど、一緒にお茶でも、
どうかなと思ってねえ!」
「……わりいな、おばさん、チビは今朝からいないよ、近所の
おっさんと……、リィトと、子供達と一緒に畑に野菜の収穫に
行ってんだよ……」
「あらっ!悔しいねえーっ!まーた先を越されちまったかい!
やれやれ、明日こそは……」
「……はあ」
近所のおばはんはすごすごと家に戻って行くが歩く足音は、
どしんどしんである。
「くすっ、それにしても……、チビちゃんたら、すっかり町の
人気者になっちゃったわね……」
アイシャがジャミルを見ながらニコニコと笑った。
「ああ、皆、チビの事、受け入れてくれて可愛がって
くれるからさ、本当、嬉しいよ……」
「野菜嫌いのチビちゃんが、自分から野菜の収穫にお手伝いに
行くようになるなんて、随分成長したね、前は私達に甘えて
べったりだったけど、この頃は自分からどんどん遊びに出掛ける
様にもなったし……、本当に大人になってるのね……」
「そうだな、それにしても……、やっぱ平和って、なんか暇だなあ……、
……アルも故郷に帰ったしな……、あっ!!やべっ!!」
ジャミルがブツブツ言いながら、腕を振り回すが側に
置いてあった花瓶にぶつかり、おっ倒した……。
「もう、ドジねえ、……アルは元々、実家のお姉さんに修行の為、
お家を追い出されてアリアハンに来てたのよね……、また、
会えるのかなあ……」
ジャミルが破壊した花瓶を片付けながらアイシャが呟く……。
「さあ?どうだろな?」
「あのね……、ジャミル……」
「ん?」
アイシャがジャミルの顔をじっと見つめた……。
「わ、私の村にも……、その内……、遊びに来ない……?
む、村の皆と……、おじいちゃんに……、会って欲しいの……」
「あ、ああ……、い、行くよ……」
どもりながら顔を赤くし……、ジャミルが返事を返す……。
「はいはーい!アイシャ、今日の夕ご飯は肉じゃがにするよっ!
イモの皮むき、手伝ってくれる?いっぱいあるからさ!」
突然、二人の間にファラが割って入って来た……。
「おーい……」
「あっ、はーい!じゃあ、ジャミル……、又、後でね!」
アイシャはファラと台所に姿を消す……。
「……くっしょーっ!ファラの野郎めえ……」
「うわ、完全に嫁と姑だねえ……」
「ダウド、何だよ、いつ来たんだよ……」
「よっ!」
窓の外からダウドが顔を出し、ジャミルに手を振った。
「ダウドーーっ!……聞こえたよーっ……、誰が姑だってえー!?」
ファラがお玉を持ったまま、急に戻って来る……。
「わ、わわわ!冗談だよ、冗談っ!!」
「全く、怪しい変質者じゃないんだから……、んなとこいないで、
ちゃんとドアから入ってきな……」
そう言いながら、ファラは再び台所に戻って行った。
「んじゃあ、きちんと玄関からお邪魔しまーす!♪おほほほー!」
「……ハア……」
「んでさ、ジャミル、あの話……、聞いた?」
「何をだよ、雑貨屋のじいさんが仲間集めて糞バンド組んだ話か?
バンド名は確か……、ザ・死にぞこない糞爺、三途の川……、
だったっけか?」
ジャミルとダウドはリビングルームでお菓子をボリボリ摘みながら
話をする。
「……違うよお、ギアガの大穴が……ついに閉じちゃったって言う
噂で町中もちきりなんだよお」
「知ってる……、……恐らく、ルビス様がいなくなった事で、
世界のバランスが崩れたのかもな……」
「……時空の扉の管理人さんが言ってた事って、この事……、
だったのかなあ……」
「かもな、……何となく、ルビス様が消える時をもう、感じ取って
たのかもな……」
「……」
二人とも、話は真面目にしているが、お菓子を食べる手は
止めないのであった。
「きゅぴーっ、ただいまあーっ!」
「お、チビが帰って来たな……」
「あはっ、チビちゃんだあーっ!」
二人は急いで玄関に出向き、チビを迎える。
「きゅぴっ、お野菜、いっぱい取れたよーっ!この人参さんね、
スープに入れると美味しいんだってー!!ミネストローネって言う
スープだって!!」
チビは喜んで、真っ赤な人参を二人に見せた。
「全く、何で僕がこんな……、バカドラゴンに付き合うと
碌な事がないよ……」
顔を真っ黒にし、後ろからリィトも姿を現す。
「リィトもご苦労さん!」
「あはっ、顔真っ黒だよお!」
「……うるさいよ、ほっといてくれる……?」
両手に大根を持ったまま、リィトが不貞腐れる。
「なーに、なーに?あっ、チビちゃん、リィトもお帰りー!」
「うわあ、大収穫ね、チビちゃん!」
ファラとアイシャもいそいそと台所から出て、チビとリィトを迎えた。
「きゅぴ、ファラー、この人参さんで美味しいミネストローネ
作ってー!」
「あらっ、これは凄いわー!真っ赤だよ、ほら見て、アイシャ!」
「本当ね!チビちゃんて、お野菜の収穫の達人ね!」
「きゅっぴ!」
アイシャとファラに褒められ、チビが嬉しそうにちょこちょこ
尻尾を振って2人にお愛想、スリスリした。
「あの、僕の……大根は……?」
「うん、あんたのも中々活きがいいと思うよ、頑張ったね!」
「あ、はは……、って、何で僕が大根如き……、冗談じゃない……!」
本当は嬉しいくせに、相変わらずツンデレ全開のリィトであった。
「じゃあ早速、美味しいミネストローネをね……、あら……?」
「……?」
ファラがジャミルとダウドに近づき、二人の口元をじろじろ見る……。
「あんたら……、口元、鏡で見てみ、クッキーのカスだらけだよ……」
「え?えええ、そ、そんな事ないよね、ジャミル……」
「あ、ああ……」
「ふーん、で、何袋食ったの……?」
「二袋あったの全部……、あ……、どうも駄目だね……、オイラ
正直でさあ……」
「……馬鹿っ!!」
ファラは急いでリビングルームに行き…、残骸を確認する。
「全くあんたらは……!!夕飯前にーっ!!食った分、腹に溜めとくなーっ!!
走って全部燃焼させてこーいっ!!じゃないと夕飯抜きーーっ!!」
「……ひええええーっ!!」
ファラに纏めて怒鳴られ、……バカ二人は足並み揃え、
外に走って行った……。
「きゅっぴ!ジャミルとダウ、マラソンよーいどんだあ!オリンピック、
出るのかなあ?ドラマのい○てんのお兄さんみたいに走るの?」
「……出られるわけないだろ、たく、もう……」
リィトが呆れた様にチビを見た。
「きゅぴ?」
……こんな風にして……、ジャミルもチビも、皆も……、何でもない
幸せいっぱいの毎日を送っていたのであった……。
そして、夜中……。
「ふああ、……ションベン……」
ジャミルは目を擦りながら用を足しに1階へ降りて行き、
ふと、気配を感じ、台所の前で立ち止まる。
「?誰かいるのか……?」
台所に入ると……、チビがいて、椅子に座っていた……。
「何してんの?お前……」
「えへへ、チビ……、何だかお腹がペコで……」
「呆れた奴だなあ、腹が減って目が覚めたのか……、
しょうがねえなあ、少しお茶にするか……」
「きゅぴ……」
ジャミルはチビにホットミルクを淹れてやり、自分は冷蔵庫から
勝手にコーラを出し、コップに注いで飲んだ。
「つまみは……、松前漬けか……、まあいいや、食えよ」
「ジャミル、ありがとーっ!」
……漬物とミルクではどうにも合わない気がするが、それでも
チビは嬉しそうにゴクゴクミルクを飲み、松前漬けを齧った。
「……あのね、ジャミル……」
「ん?」
「……チビ……、アリアハンの皆……、大好き……、皆がチビと
仲良くしてくれて……、チビ、本当に幸せだよお……」
「そうだな、俺もお前がいつも笑ってくれてるとさ、本当、嬉しいよ」
「えへへ、……でもね……、時々……幸せすぎて……怖くなるの……」
「チビ?何だよ、ペースケみてえな事言うなあ……」
「……チビと、あのダークドラゴンは……、本当はチビと一緒……、
同じなんだよね……、なのに……、チビだけこんなに幸せで……、
チビ、卑怯だよお……」
「チビ……、何も考えるなよ……、ルビス様も言ってくれたろう?
……お前はお前らしくでいいんだ、幸せになれってさ……」
「きゅぴ~……、ジャミル、ありがとう……」
チビはジャミルの傍まで来て、肩の上にちょんと乗り、
スリスリ甘える。
「さあ、もう寝ようや、お前、明日もそこら中からスカウト
来てるからな、忙しいぞお、……大変だなあ、人気者め!」
ジャミルはチビの鼻をちょんと突っつく。
「うん……、それじゃ、チビ、もう寝るね、おやすみなさい……」
「ああ、お休み……」
チビはアイシャの寝ている部屋へと戻って行った。ジャミルはその姿を
嬉しそうにそっと見送る。
「……さてと、俺は何しに起きたんだっけか…、……べ、便所だった!!」
翌朝……。
「……さてと、朝ごはんの支度……、あ……!!」
台所に立ち寄ったファラは……、松前漬けの食いカスと、
出しっぱなしの散らかったコップを見て激怒する……。
「まーた、ジャミルだね……!ジャミルーっ!あんた、まーた夜中に
つまみ食いしたねっ!出てきなーーっ!!今日こそとっちめてやるからーーっ!!」
「……きゅぴ~……、ん、チビ……、幸せだよお……」
……摘み食いの黒幕はまだすやすや夢の中なのであった……。
チビの夢
次の日も、チビは町の皆と出掛けて行き、今日は焼き芋パーティに
参加させて貰った様だった。帰宅したチビは嬉しそうに今日の出来事を
尻尾ふりふり、一生懸命ジャミル達に話して聞かせるのである。
「楽しかったよおー!チビ、こーんな大きなおいも、いっぱい
食べちゃったー!」
「そうだったの、良かったね、チビちゃん!」
ファラが嬉しそうにチビと会話を交わす。
「だからね、チビ、おならでる!ちょっとごめんきゅぴ!」
ぷっきゅぴ~……、ぶっ!
「あははー、やーだ、チビちゃんてばー!」
「もう、チビちゃんたらー!」
ファラとアイシャ、女の子達は、嬉しそうに笑うが……。
(……これが俺だったら……、物凄い剣幕で怒るくせによ……)
「仕方ないんだよお、ジャミルとチビちゃんじゃ可愛さが
違うんだよ、わかる?」
ダウドがジャミルに向かって指をちっちちっち振る。
「……うるせーなっ、オメーはっ!てか、ちゃっかり夕飯に
混ざってんじゃねえよ、人の心も読むなよっ、早く帰れよ!!」
「いーじゃん、別にいー!ふんだ、処で明日はチビちゃん、何処に行くの?」
「……明日は、ガキ共とデパートの屋上でヒーローショーだとさ、
アルカイザーがやってくる……、だとよ、くっだらねえ……、
フェイスマスク取ったらどうせ中身はおっさんが出てくんだろ……」
広告をぴらぴらさせてジャミルがテーブルに頬杖をついた。
「こらっ、夢を壊すような事言うんじゃないよっ、チビちゃんの前で!」
「そうよ……、楽しみにしてるんだから……」
「へーへー、んじゃ、明日に備えて、もう寝ろよ、チビ」
「きゅっぴ、はあーい!」
「じゃあ、私、チビちゃんを寝かせてくるね」
「ああ、頼むよ、アイシャ……」
そして、先にチビも眠り、夜は更けてゆく……。
「……ジャミル、ちょっといい?」
アイシャがジャミルの部屋のドアをノックした。
「アイシャか?いいぞ、入れよ」
「うん、あのね、ちょっと外に来てくれる?」
「ああ、いいけど……」
何となく……、ジャミルは色々期待してみてワクワクする……。
「で、何だい?」
「……うん、私もね……、一旦、村に戻ろうと思うの……、
おじいちゃん達も心配してるだろうし……」
「そっか、そうだよな……、でも、チビが淋しがるぞ……」
「一旦里帰りしたら、きっと又戻ってくるわ、ちょっと時間掛るかも
知れないけれど……」
「そうか……、まあ、チビも最近色んな奴らと一緒に居るから
友達も増えたし、行動範囲が広くなったしな、大丈夫だろ……」
「そうね、私も淋しいけど……、ジャミル……、チビちゃんの事
お願いね……」
「ああ、任せとけよ、……けど、なるべく早く戻ってこいよ……、
俺が耐えらんねえからさ……」
「バカねえ、もう……」
満天の星空の下……、二人は身体を抱きしめ合い、唇を重ね合わせた……。
「……ぴきゅ、ここ、どこ……?チビ……、お布団で寝てたのに……、
知らない所、歩いてる……、不思議な塔の中……?」
小さき者よ……
「だあれ?誰の声……?誰がチビを呼んでいるの……?」
……お前は本当にそれでいいのか……?今が楽しければ
それで良いと言うのか……?此処で今のまま……、人間達と、
のほほんと暮らし……、それが本当にお前の幸せなのか……?
「きゅぴ……?」
お前もいずれは成竜になる……、人間は短命だ……、必ずお前より
先に別れの時が訪れるのだ……
「いやだよ……!そんな事ないよお!……ジャミル達とチビは
ずっとずっと、一緒にいるって、……もう離れないって約束したもん……!!」
逃げていては駄目だ……、竜としての寿命、この世に産まれた
宿命をもう一度良く考えるが良い……
「きゅぴ……」
さあ、今日も朝が来るぞ……、目覚めるが良い、行け、人間達の
いる場所へ……
「え~、……アイシャも帰っちゃうのお~……、何か淋しいよお~……」
(まーた、朝っぱらから……、ダウドの野郎、もうちゃっかり来てやがる……)
「ええ、……暫く皆に会えなくて、私も淋しくなっちゃうけど……、
又きっと戻って来るから……」
「いっといでよ、アイシャ……、この馬鹿はちゃんと教育して
おくからさ……」
「……何の教育だよっ!たくっ!!」
「うふふ、ファラってば、相変わらず姉御さんねえ……」
「きゅぴ、アイシャ……」
「……チビちゃん……」
お互いに、複雑そうな表情で……アイシャとチビが見つめ合うが、
すぐにチビは笑顔を取戻し、アイシャに向けて微笑んだ。
「行ってらっしゃい、チビ、ちゃんといい子で待ってるよお!」
「有難う……、本当に大人になったね、チビちゃん……、
絶対戻ってくるわ、……少しの間のさよならね……」
「きゅっぴ!」
尻尾を振ってチビがアイシャにスリスリし、アイシャも愛おしそうに
チビを抱きしめた。
「大好きよ、……チビちゃん、ずっと……」
「……りゅ~、この際だからリトルもお前らにいっておきたい事が
ありゅ……」
突然、ぬっと小悪魔が現れる……。
「あんだよ、暫く出番なかったな、……影薄くなってるぞ、
何処行ってたんだ?」
「うるせーりゅ!バカ猿!……リトルもそろそろ、又、奴を探しに
そろそろ動くりゅ……」
「……きゅぴ……」
「!!りゅっ」
また泣かれて飛びつかれるのかと思いきや……、チビは小悪魔にも
笑顔を見せた。
「リトルも行ってらっしゃい……、お友達、見つかるといいね、
頑張ってね……」
「バカドラゴン……、フン、安易に言うんじゃねえりゅ……、
……」
「でも……、もう下の世界には……、行けないんだよね……」
ダウドが聞くと、小悪魔はダウドの方を見た。
「とりあえず、なら上の世界を徹底的に探してみりゅ、何百年
掛かろうと……、リトルとお前らとは果てしなく寿命が違うりゅからね、
その内、下の世界にも又いけりゅ様になるだろりゅ……、……そう
信じたいりゅ……」
人間は短命だ……、必ずお前より先に別れの時が訪れるのだ……
「……ぴ、ぴきゅ……」
「チビ、どうかしたか?」
「な、何でもないよお……」
「あのさ、一つだけ……、聞きてんだけど……」
ジャミルも小悪魔の大きい顔をじっと見つめた。
「……なんりゅ?」
「お前、……海竜の洞窟で何であんなに海竜にもムキになって
突っかかってったんだ?少なくとも、海竜はお前のダチの
生まれ変わりじゃねえって事ぐらい、分かってたんだろ……?」
「俺より強い奴に……、会いに行く……、りゅ……」
「……はあ?」
「いーんだりゅっ!もう終わった事りゅっ!」
小悪魔はムキになり、話をはぐらかそうとする。
「……んー、何か納得いかねえ……」
「じゃあ、今夜はアイシャとリトルのお別れパーティしようか!
あたい、御馳走沢山作るよっ!」
「……有難う、ファラ……、何だか照れ臭いわ……」
「フン、余計なお世話……、りゅりゅりゅ!!」
「もー、あんたって本当に意地っ張り!素直になんなさいよね!!
……こうしてみると……、意外と顔でかいね……」
「余計なお世話っていってりゅ!……だから、化粧くせーんだりゅ!!」
「この騒がしいのも……、あともう少しか……」
何となく……、複雑な思いでジャミルが小悪魔にじゃれる
ファラの姿を見つめた。
「そうだねえ……、でも、大丈夫だよお……」
「ん?」
「本家騒動屋のジャミルがいるんだから……」
「そうだな……、って、どう言う意味だコラ!」
「あははっ!さーて、オイラも一旦家に帰ろうーっと!
チビちゃん、又夕方ねーっ!」
ダウドは一目散で逃げて行った。
「たく……、ほら、チビももう支度しろよ、皆が迎えに来るぞ」
「うん、おやついっぱい持っていこうーっと!!♪きゅぴきゅぴ~!」
……皆の前で悲しい顔を見せない様、チビは明るく、懸命に振舞う。
しかし、その夜……、小悪魔はお別れパーティには参加せず、
皆への書置きを残して一足先に旅立ってしまったのだった……。
……バカ猿、今はいないけど、バカ金髪、バカ団子、バカヘタレ、
バカ厚化粧、そして……、バカドラゴンへ……、おめーらは皆揃って
お人好しのバカ集団りゅ、揃ってバカ過ぎて、リトルはもう何も
言えんりゅ、だから、もうリトルは行くりゅ、……今だから言うけど、
結構……、おめーらといた毎日も……、そんなに悪くなかった……、と、
今は少しだけ思ってやりゅ、……本当に少しだけ、ハナクソ程度りゅよ
……、もしもまたどっかで会ったら悪戯してやりゅから、覚悟しとけよ、
けーっけっけっ、……んじゃ、今度こそ……、あばよ、りゅ……、
……偉大なる魔界のプリンス、リトル様より……
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チビ、いなくなる……
そして、その夜……、チビは再び夢の中で何者かの声に導かれる……。
……小さき者よ……
「……また……、チビを呼ぶの……?本当に誰なの……?」
我は神竜……、遠き天空の地より……、下界を見守りし者……
「きゅぴ?……神様の……、ドラゴン……?」
お前の答えは……、まだ出ない様だな……
「……チビ、ジャミル達と……、ずっと……、一緒にいたい、
それだけだよお……」
だが……、このままでは……、お前を大切に思い、守ってくれている
人間達にも……いずれ不幸が訪れる事になるぞ……、無論、お前自身
にも……、だ……
「ぴっ!……皆が?チビの所為で……、……不幸になるの……?」
……そうだ……、特にお前は普通のドラゴンとは
格が違い過ぎるのだ……、それはお前自身も理解しておろう……
「ぴきゅ……、でも……、正直、チビは自分の力とか、
まだ良く分かんないよお……」
お前の力を悪用しようとする心無い悪人達は幾らでもいる……、
その為に、いつもお前を助けてくれ、守ってくれる人間達は常に
傷つく事になり兼ねないのだ……
「やだ……、嫌だよお……、チビの為に大好きな……皆がまた……、
傷つくの嫌だよ、怖いよお……」
……ならば考えを改めよ……、お前が本当に人間達の幸せを
望むのならば……、今の全てを捨てよ……
「きゅぴ……」
お前の本当の故郷、……竜の女王の城まで来るが良い……、聖なる力を
引継ぎし者よ……、我は待っておるぞ……
「……神竜……、さん……」
翌朝……。
「チービーちゃん、あーそぼっ!」
今朝も、町の子供達が揃ってチビを迎えに来るが……。
「ごめんねえ、チビちゃん、何だか今日は疲れちゃってる
みたいなの、……風邪ひいたのかも知れないからさ……、
お休みさせてあげて……?」
「そうなんだあ、ざんねんだね……」
「ファラおねえちゃん、明日はチビちゃん……、元気になる?遊べる?」
「うん、大丈夫だと思うよ……」
「わかった……、じゃあ又あしたねー!」
「バイバーイ!」
「あはは、又ね……」
子供たちはファラに手を振って、元気に家に戻って行く。
「ジャミル、チビちゃんの具合はどう?」
「……ああ、寝たっきりだよ、返事はするけどさ……、飯もあんまり
食いたがらない……、リトルのバカも急にいなくなっちまったし……、
やっぱ……、淋しいのを相当堪えて無理してたんだろうな……、
チビの奴……」
「そうだね……、アイシャも今日帰るんだもんね、ねえ、アイシャ……、
出発、もう一日、遅らせられない……?」
「……ファラ……、私もそうしたいけど……、このまま出発を
先に延ばしても……、チビちゃんを余計に悲しませるだけだと思うの……、
私も余計お別れが辛くなっちゃうし……」
「そっか、そうだよね……」
「うん……」
そしてアイシャは……。辛くなるからとチビに顔を見せず、
静かに故郷へと戻って行った……。
「チービ!」
「きゅぴ……?」
ジャミルはチビの寝ている部屋に夕食を持って入って行く。
昨日まで、アイシャとチビはこの部屋で一緒に寝ていたのである。
……だが、今はアイシャも故郷へ戻り、チビは一人、ベッドの上で
丸くなって眠っていた。……淋しいのをひた隠しにして。
「夕飯だぞー!今日はオムライスに、ハンバーグ付きだぞー!
ファラがサービスしてくれたかんな、いっぱい食えよー!」
「ジャミル、ありがとうー!うわあ、美味しそうだねえー!!」
チビは喜んでジャミルが運んできた夕ご飯に被りついた。
「おいおい、……落ち着いて食えよ、鼻の処にケチャップついて
……鼻血みたいになってんぞ……」
「ぴい?」
ジャミルは笑いを堪え、いそいそと、チビの鼻と口周りの
ケチャップを拭いてやった。
「おいしいねえー!」
「……朝よりは少し元気になったみたいだな……、良かったよ……」
「うん、……心配掛けてごめんなさい、アイシャはもう帰ったんだ?」
「ああ、大分急いでたみたいだからな……、でも、凄く心配してたぞ、
チビの事……」
「きゅぴ……、うん……」
チビは食べる手を止め、下を向いた。
「あのな、チビ……」
「きゅぴ?」
「……俺は暇人だから……、何処も行かねえし、ずっとチビの傍に
いるからさ……、ダウドの野郎もいつもフラフラしてるし……、まあ、
俺らじゃ役不足かもしんねーけど……」
「そんな事ないよっ!……チビ、ジャミルもダウもファラも大好きだよっ!!」
「チビ……」
チビはそう言うと、ジャミルの腕にぎゅっとしがみ付いた。
「ありがとな、……んじゃ、明日はちゃんと近所のおチビと
遊んでやれるかい?今日もお前と遊びたくて家に押しかけて
来てたんだよ……」
「うんっ!大丈夫だよお!」
「そっか、それじゃ、明日は頼むな!」
「きゅっぴ、はあーい!」
ジャミルはチビが夕飯を完食したのとチビの笑顔を確認してから、
食器を下げ、部屋を出て行った。
「……大好きだから……、もうこれ以上……、皆の処に……
いられないよお……」
翌朝……、ジャミルの家に大急ぎでダウドが駆け込んでくる……。
「ジャミルっ、ファラっ、……チビちゃん、い、い、い!
……いなくなっちゃったんだって……!?」
「ダウド……、どうしよう……、近所中に聞いてみたけど……、
誰も分からないって言うんだよ……、……あたいの作ったご飯が
美味しくなかったのかなあ……」
「バカ!んな事関係ねえ……、それに、仮にそうだったとしても
チビは、んな事ぐらいで怒ったり、いじけたりしねえよ……」
「……チビちゃん……、どうしてよ……、黙っていなくなっちゃうなんて
悲しいよ、酷いじゃない……」
普段気の強い姉御なファラが両手で顔を覆い、わっと泣き出した……。
「ダウド、……行くぞ!」
「あ?えええ!い、行くって……、何処へ!?」
「決まってんだろ、チビを探しに行く……、チビが行く所っつえば、
一つしか思い浮かばない、……竜の女王の城だ……」
「だけど……、又誰かに連れて行かれちゃったのかも知れないじゃん、
……それに……、もしもチビちゃんが女王の城に行っちゃったんだとしても、
ラーミアはもう神殿に帰って貰ったし、船もちゃんと2体とも返したし……、
もう其処まで行ける手段がないよお!」
「……それでもどうにかして行くんだよ!チビをこのままに
しておけるか……!!」
「無茶だよお……、完全に切れてる……」
こう言う時のジャミルは……どうしても抑えが利かないと言う事を……、
ダウドもファラも承知していたのだが……。
「……ちょいと、ジャミルちゃん!!」
息を切らし、近所の家のおばさんが急いでジャミルの家に
押し掛けてくる。
「ああ?……何だよ、おばさん、俺ら今それどころじゃ……」
「大きな鳥に乗って、誰か訪ねて来てるよ、何だかあんた達に
会いに来たみたいだよ!」
「……ハア!?ど、何処の誰が…」
ジャミル達が慌てて家の外に出ると、……其処にいたのは……。
「アルっ……!!」
「久しぶり……、だね、……結局あれから、実家に帰ったのは
いいけど……、あなたはまだまだ修行不足……、と言う事で、
姉さんに又追い出されちゃってね、大変だったけど、又レイアムランドまで
ラーミアを借りに行って、今、世界中を回っているんだよ、それで、此処まで
来たから寄ってみたんだ……、お恥ずかしい話だけどね……」
皆の顔を見ながら、照れ臭そうにアルベルトが頭を掻いた……。
「……うう、アルーーっ!!……ぎゃうううーーっ!!がうおーーっ!!」
意味不明の唸り声を上げながら……、ダウドがアルベルトに飛びつく。
「ちょっと、ダウド!?どうしたの、な、何かあったの……!?」
ジャミルはアルベルトを家に入れ、チビが急にいなくなって
しまった事を話す……。
「そうだったのか、チビが……、僕のいない間に……、また大変な事に
なってたんだね……」
「アイシャも帰っちまったし……、俺らどうすりゃいいのか
途方に暮れてた処さ……」
「……えうっ、ううっ、ううう~」
「ダウドってば……、もう泣くのよしな、ほら……」
ファラがダウドの顔をハンカチで拭いてやる……。
「……チビが消えちまった本当の理由は今はまだ分かんねーけど……、
リトルやアイシャがいなくなっちまった淋しさだけじゃねえ様な
気がするんだ、……又何かがチビを狙って動き出した様な……、
そんな気がしてんだ……」
……ジャミルがそう言って、ソファーから立ち上がると……。
……いやあああああーっ!!誰か助けてえーーっ!!
「な、何だっ!?」
「何よ、今の音!!」
「何か物凄い落としたよお!何かが屋根を突き破って
墜落した様な……」
「台所の方だよっ!!行ってみよう!」
ジャミル達が慌てて早速台所に向かうと……。またまた、
其処にいた人物とは……。
「いたた……、もう~、何でこうなるのよ~……」
「……アイシャ……!お、お前……、何で……?」
「あ、ジャミル……、皆……、えへへ、お騒がせして、
ごめんなさい……」
腰を摩りながらアイシャがジャミル達の方を見た……。
「話はこっちでしようや、とにかく、お前もリビングへ来いよ……」
「うん……」
ジャミルはアイシャをリビングへ連れて行き、彼女が墜落して来た
事情を聴いた……。
「えーと……、ね、あの後……、村に戻ろうとしたのはいいけど……、
やっぱりチビちゃんと、きちんとお別れ出来てなかったし……、私も
このままじゃ心残りで……、気になって途中で引き返して来ちゃったの……」
「……んで、ルーラを使ってみて……、又失敗した訳か……」
「うん……、で、でも……、ちゃんとアリアハンには
来れた訳だし……、ね?」
上目づかいで申し訳なさそうに、時折アイシャが皆の顔を覗う。
「けど、……見事に家の屋根にでかい穴あけてくれたね……、
どうすんのさ、あれ……」
「ファラ……、ふぇぇ……、ごめんなさい……、私……、
どうしよう……」
一度、ジパングで弥生の家の屋根を破壊した事のある前科犯の
ジャミルとダウドは何も言えず、隅の方で小さくなり、二人して
困って黙っていた……。
「はあ、いいよいいよ、近所のおっちゃん達に手伝って貰って
直すからさ、それよりも……」
「うん、これで全員集合だね……、取りあえず、良かったかも
知れない……」
「え?アル……?どういう事……?何か又有ったの……?それに、
チビちゃんは……?」
「……その、チビなんだけどな……」
「えっ……」
ジャミルはアイシャに向かって事件の起こりを話し始めるのだった……。
新たな場所へ
「うそうそうそ……、チビちゃんが……、黙っていなくなっちゃうなんて……、
そんなの嘘よ……、チビちゃん……、ごめんね……、淋しかったのね……」
アイシャは悲しみと衝撃でどうにもならず……、自身のスカートの裾を
ぎゅっと掴んだ……。
「……此処で項垂れててもどうにもなんねえ、……行こう、もう一度
女王の城に……、もしも城にチビがいなかったとしても……、世界中
巡って見つけてみせるさ……、必ず……」
「ジャミル……、うん、行こう……!」
「そうだよお!」
「アル、ダウド……、よしっ!」
「わ、私も行くわよっ!もちろん!!帰るのなんかいつだって
いいんだから!!」
「決まりだな!!丁度ラーミアもアルが又連れて来てくれた事だしな!!」
「……はあ、本当にあんたら落ち着かないんだから……、
ま、仕方ないか……、必ずチビちゃんを探して、又此処に
連れて来てね、……お願いね!!」
ファラはジャミル達の方を見て、またチビを絶対に連れ戻して
くれる事を4人に強く願う……。
「任せとけ!ファラ、……本当に、いつもいつも悪いな……」
「ううん、……チビちゃんが帰ってきたら、町の皆も呼んでさ、
又どんちゃん騒ぎやろうよ!ねっ!!だから……、あたい信じて
待ってるよ、いつまでも……」
「……ジャミルちゃーんっ!!」
「あ……?お、おばさん……」
又……、近所の騒がしいおばさんがドタドタと家に駆け込んで来る……。
「……悪いねえ、ちょっと皆に喋っちゃったんだよ……、そしたらさ……」
「おいおい……」
チビが行方不明になったと言う話は瞬く間に町中に広まり、
チビを心配した町中の民が……ジャミルの家に押し掛けて
来たのであった……。
「……絶対チビちゃんを探してきておくれね、あたしゃ
もう心配だよ……、もうあの子は、子も孫も同然なんだよ……、
いないなんて耐えられないよ……」
「今度も一緒に野菜の収穫を手伝って欲しいんだよ……、頼むよ……」
「チビちゃんは皆の天使だよ……、本当に早く探して来てあげておくれ……」
「また、チビちゃんとあそびたいよー!!」
チビの無事を願い、必死に訴える皆の姿を見て、4人は心から
嬉しくなるのであった……。
「皆……、有難う……、チビは本当にこんなに皆に愛されてんだな……、
なのに……、チビの奴め、こんなに心配掛けやがって、……見つけたら
少し叱ってやんねーと……」
決意新たに、ジャミルの言葉に仲間達も強く頷いた。
「よしっ、……行くぞ!!」
ファラとアリアハンの皆に見送られながら、4人は新たな冒険へと
出発するのであった。
……そして、ラーミアの力を借り、再び竜の女王の城へ向かう……。
「はあ、……やっぱり完全にもう廃墟だな……、誰もいねえや……」
「まだ、僕らの知らない場所が有るかも知れない、調べてみよう……」
「……チビ……、ちゃん……?」
「アイシャ、どうかしたか?」
「チビちゃんが……、今、歩いてたのよ!」
「な、何っ!?」
「……チビちゃん!!」
「おいっ、アイシャ、待てよっ!!」
アイシャは急に、城内の北の方角を目指して走って行ってしまい、
その後をジャミル達も慌てて追った。
「……此処だわ……」
「何だよ、行き止まりじゃねえか……」
辿り着いた場所は、行き止まりの場所、しかし、……不思議な光が
其処から溢れている……。
「……チビちゃんだあ!」
「ええっ!?」
ダウドの声に正面を見ると……、光の中に入って行くチビの
後ろ姿が一瞬映し出され、そして消えた……。
「チビは……、この先に入って行ったのかな……?」
「やっぱり、チビが城に来たのは間違い無かったんだな……」
「う、ううう~……、何か嫌だなあ~……」
光を見つめ……、ダウドがごくっと生唾を飲み込む……。
「よしっ、俺らも行こう!!」
「あうーっ!ちょ、ちょっと待って!!」
「うわ、何だよ!!」
ダウドがジャミルの身体に急にしがみ付く。どうやらヘタレ病、
久々に再発の様である。
「何かあると行けないから……、準備運動……、ね?」
「……」
「お前、此処でずっと体操してていいぞ、何なら帰ってもいいよ……」
ジャミルが呆れながらダウドの方を見る……。
「うそうそ、行くよ、行くよお~!……チビちゃんの為だもんね……」
ダウドも漸く決意を固め、4人は改めて光の空間を見つめた。
「絶対にチビを連れて帰ろう……、例え、この先に何が
待ち構えていようとも……」
「行きましょっ!」
ジャミル達は覚悟を決め、光の中にダイブした……。
「……?此処って……」
「確か、ネクロゴンドの……洞窟……、だよね……?」
アルベルトが確認の為、辺りを見回す……。
「どう見てもそうよ……、けど、どうしてかしら……?」
「こ、此処を抜けたら……、又バラモス城付近へ出ちゃうんじゃないの!?
……あああっ!」
「ダウド、落ち着けって、取りあえず……」
……ズシン、ズシン、ズシン……
「地響き……?うわっ!!」
「モンスターだっ!!」
ジャミル達が後ろを振り向くと、何処かで見た事のある、
モンスターの群れが固まっていた……。
「ジャミル、どうする……!?」
アルベルトが聞くと、ジャミルは闘志満々、意気揚々で答える。
「……決まってんだろ、襲い掛かってくるなら蹴散らすまでさっ!」
が……、突然ダウドがしゃがみだし……、皆に訴え始めた……。
「あたたた……、オイラ急にお腹が……、イタタタ……、
もしかしたら腸がよじれたかも……、あたたた……
「……お~い……」
「でも、この先の事も考えたら……、止めておいた方が正解かもね……」
「そうね……、かなり危険地帯みたいな感じだし……」
「そうでしょ、そうでしょ、ねーっ!」
「……おい、腸がよじれたんじゃねえのか?」
「あたたた!あたたた!今度は胃がねじれたかも!」
ダウドは再びしゃがみ込む……。
「仕方ねえ、皆、行くぞ!!……逃げろっ!!」
4人はモンスターに背を向け、すたこらさっさで逃げ出した……。
無論、その後も全力で逃げまくったのだったが、毎度毎度、
逃走が成功する訳ではなく、時にはちゃんとぶつかって
行かなければならない状況にも出くわした。
「はあ、……逃げるのも……、結構疲れるねえ……」
「……何言ってんだ、バカダウドめ……」
「本当にどうしてこんな所に……、……チビちゃん、どうか無事でいて……」
アイシャはチビの無事を心から祈るのだった……。その後も4人は
次々と、今まで訪れた事のある、見覚えのある洞窟の場所に延々と、
飛ばされる……。
「イシスのピラミッド……、そして、サマンオサの洞窟……、……何だよ、
俺がケツ噛まれた事のある場所ばっかじゃねえかよ!」
「最終的には……、一体何処に出るんだろう……」
出口が全く分からない、……先の見えない状況の為、アルベルトも
緊張気味になってきた様であった……。
「今度は、ノアニールの洞窟みたいよ?あ、泉があるわ!」
「マジか?んじゃ、少し休憩しようや!」
「うわあーい!休憩~!」
ダウドはグ○コのマークのランニングポーズでパタパタと
泉まで走って行った……。
「……おい、腸はどうなったんだよ……、胃はよ……」
ジャミルは仕方なしに、ダウドに突っ込みたいのを我慢する。
折角、又ダウドの調子が良くなって来たので、これ以上機嫌を
損ねてヘタレられると厄介な為である。
(……此処で水浴びでも出来れば最高なのになあ、汗を流したいわ……)
アイシャは男性陣の方をちらちら見る……。
「……?ね、ねえ、見てっ!泉に又なんか映ったよっ!?」
「えっ?あっ、チビちゃんだわっ!!」
ダウドとアイシャの声にジャミルとアルベルトも泉を慌てて覗き込んだ。
「……チビっ!!」
泉には……、何処かの塔らしき場所をふらふらと歩いてゆく
チビのビジョンが映ったが、それも一瞬ですぐに消えてしまう……。
「ああっ、くそっ!も、もうちょっと見せろよっ!!ちくしょーっ!!」
「でも、取りあえず……、チビはまだ大丈夫なんだね、安心したよ……」
「……チビ、待ってろ……、絶対にお前を取り戻しに行くからな……」
「きゅぴ……?」
「どうしたのだ……」
「誰かが……、チビを呼ぶ声がしたの……、何だか、とっても
懐かしくて、……優しい声……」
「……もうお前は下界に未練がない筈だ……、だから此処に来たのであろう……、
まだお前の心に人間達への思いが残っているのならば……、早く忘れる事だ、
……我が忘れさせてやってもよいのだぞ……」
「……やめてっ!そんな事しないでっ!!……チビはもう……、
何も考えないよ……、だからお願い……、チビの心の中にまで
入って来ないで……」
「ならば、その名も捨てるが良い……」
「きゅぴ!?」
「……それは人間達がお前に勝手に付けた名であろう、それこそが
お前を惑わし、苦しめているのだ……」
「分った……よう……」
「お前は気高きホーリードラゴン……、今日からの呼び名は聖竜だ、
自覚するが良い……」
「……きゅぴ……」
心の中から張り裂けそうな悲しい思いを堪え……、チビ……、
聖竜は神竜に導かれ、塔の最上階へと向かい、歩いていく……。
zoku勇者 ドラクエⅢ・その後編 エピ85~88