嘶き

※一部修正しました(2024年5月24日)


君の手がぶら下げる
暇そうなカメラを
ファインダーに収めて、
ゆっくりと切る。



画角の外で
あっさりと聴こえては
腕のない僕を支えた
その、古い機構。



感動に負けない力、
それに動かされる心臓は
砂浜の上の足跡を
消える前に残していく。



ゆっくりと前へ。
あの作風の優しさの様に
肌をとんとんと触る。
麦わらの帽子。



モノローグより
少ない枚数で。
前後不覚の瞬間にこそ
その導きを深く残せる。



だから一回。
何も構えない君と
不自然なぐらい、
光を失った朝を記録し



もう一回。
シャープな刃物で
スッと抜き取るよう、
愛せる君を大切にした。



ここからの
何もできない時間も、
顔を離して
笑い合えない事実も



ゆっくりと前へ。
僕の関心が
思い出になるぐらい、
色褪せてはくれないから。



レンズを覗き込み
一度だけ。
その切られた音から
溢れ出るものを心に代えた。



君はまだ身構えない。
視界に収まるもの
その全てに恋をして、
潤んだ瞳を動かしている。



僕は空を仰ぎ、
好きなカメラと固まって
その時を待っている。
ひっくり返った傘のように



カラカラと泣いて
笑って、
転がって、
大切な忘れ物に、きっとなる。



だから手に取る。
迎えに行った先に待つ
内側の景色。
君に残せる沢山のもの。



その音の正体。
駆け出そうとする気配。
最低限の服から
伸びるものの、跳躍。




それだけのもの。
嘶きと共に。
遠く、
遠くと飛んで行こう。

嘶き

嘶き

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-05-23

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