zoku勇者 ドラクエⅢ・その後編 エピ81~84

エピ81・82

魔法、再び

「……りゅ~……」
 
「……?」
 
外から変な声がし、ファラは慌てて窓の外を見ると、頭部が
にゅっと突き出ている変な生き物を見つける。
 
「あ、あんた、確か……、リトルだっけ?ずぶ濡れじゃないのさ!
何そんなとこ突っ立ってんの!早く中に入りなよ!」
 
ファラはびしょ濡れの小悪魔を慌てて家の中に招き入れた。
 
「……すまんりゅ、……MPが尽きて……、金髪に撤退するよう
言われたりゅ、悪魔族……、魔界の王子として情けないりゅ……」
 
「やるだけやったんだからいいんだよ、ほれ、頭拭きな!
後はあんたは此処で皆の帰りを待てばいいんだよ!……よいしょ!
あ……?」
 
ファラは小悪魔の頭をタオルで拭いてやろうとするが、頭部が角上に
尖っている為、タオルが破けて突き抜けてしまった。
 
「……重ね重ねすまんりゅ……、りゅ……」
 
「……なになに?……えっ!?」
 
小悪魔はリィトになると、ファラからタオルを受け取り、
もう一度頭を拭いた。
 
「はあ~、……あんた人間にもなれるんだねえ……、結構
いい男じゃん……」
 
「……な、何だよ、それよりも、バカドラゴンは……?」
 
「……相変わらずこのままだよ、チビちゃん、寝てばっかりいちゃ
駄目だよ……、もうすぐ皆帰ってくるからね……、あんたも
頑張るんだよ……、ね?」
 
ファラはそう言うと、優しくチビの手を握りしめた。
 
「バカドラゴン……」
 
「……ぴ……、きゅ……」
 
「チ……、チビちゃん……?今、微かに反応した……、ねっ、あんたも
チビちゃんの手、握ってやって!ほら、早くっ!!」
 
「え?ええええっ!え、えと、えーと……」
 
「……お願いっ、早くっ!!」
 
「あああっ!くそっ、何で僕がこんな……、バ、バカドラゴンめ!
恥ずかしいだろ、……いい加減起きろっ!!」
 
顔を赤らめながらリィトも必死でチビの手を握りしめた。
 
「……ぴ、きゅぴ……」
 
「い、今……、きゅぴって、きゅぴって……、……チビちゃーん!!
本当に頑張るんだよっ!!……チビちゃん……」
 
皆の帰還を信じ……、ファラとリィトは必死でチビに呼び掛けるので
あった……。
 
 
 
「……きゃあーーっ!!」
 
「アイシャっ!!」
 
ダークドラゴンがアイシャの身体に体当たりし、アイシャは強く地面に
叩き付けられる。
 
「大丈夫!?今、賢者の石で回復するからね!!」
 
「……ダウド……」
 
しかし、間髪入れずにダークドラゴンは、今度はアイシャを
回復しようとしたダウド目掛けて猛突進してくる。
 
「……うわあああーっ!!」
 
ダウドも弾き飛ばされ、アイシャから離された挙句、賢者の石も
手放してしまう……。
 
「う、いたた……、あっ!」
 
ダウドがうっすら目を開けると、暗い周囲をほのかに照らす僅かな輝き……。
……まるで自分を呼ぶかのように賢者の石が小さく輝き、近くに転がって
いるのが分った。ダウドは急いで石を拾おうと……、身体の痛みを堪え、
よろよろと立ち上がる。
 
「やばっ、い、石を……、賢者の石を拾わないと……、あれがなくちゃ……」
 
「……グウウウゥ……」
 
「あっ……」
 
しかし、賢者の石を拾おうとしたダウドの目の前にダークドラゴンが
立ち塞がる……。
 
「何だよお……、どいてよ……」
 
「……ダウド……、だ、駄目……、うう……、に、逃げて……」
 
アイシャが何とか立ち上がろうとし、ダウドを助けに行こうとするが、
激痛で倒れたまま、それ以上動く事が出来ず……。
 
「ダウドっ!!逃げるんだっ……!!うああああっ!!」
 
「アルっ!!」
 
アルベルトがダークドラゴンに向けて決死の渾身の一撃を振り下ろすが
ダークドラゴンはびくともしない。
 
「グウウウウ……」
 
「あ……あああああっ!!」
 
「……アルーーっ!!」
 
ダークドラゴンがアルベルトの方を向き、爪攻撃でアルベルトの身体を
ざっくり引き裂く……。
 
「……う、く、くそっ……、やっぱり……、魔法が……、う……、
僕の力じゃ……、どうにも……、みんな……、ごめん……、ね……」
 
全身の痛みを堪えながらアルベルトが震える……。再びダークドラゴンは
残ったダウドの方を向き、牙を向けた。
 
「……なんだよお、冗談じゃないよお、いつからこんな真面目に
なっちゃったんだよお、もう、オイラ嫌だよ、こりごりだよ、
こんなの……、オイラはさ、ただ、皆と……、チビちゃんと……、
毎日笑って……、バカやって過ごせれば……それでいいんだ……、
他に何もいらないよ……、ぐすっ…、でも……、もういいよ、
どうでもいいよ、殺したいなら早く殺してよ……」
 
「……グゥウウウウ……」
 
(きゅっぴ、チビ、みんな、だーいすきっ!)
 
「……チビちゃん……、う……、いやだ……、失いたくない……、
守る……、絶対……」
 
ダウドはもう一度炎のブーメランを握りしめ……、ありったけの力を込め、
渾身のブーメラン攻撃をダークドラゴンへとぶつける。
 
「うわああああっ!!ちくしょおおおーーっ!!オ、オイラだって……、
……やる時はやるんだああーーっ!!ああああーーっ!!」
 
ダウドは叫びながらもダークドラゴンへ何度も何度も炎のブーメランを
ぶつけた。
 
「……ダウド……、……僕も……、諦めないよ……、もう一度……」
 
アルベルトはよろめきながらも静かに立ち上がり……、
全身全霊で自分の手に静かに祈りを込める……。
 
「どうか、僕にもう一度……、魔法の力を……、皆に癒しを……、
べホマラー……!!」
 
「アル……?」
 
「う、嘘っ……、うわあ……、魔法……、アルの魔法だあ……」
 
アルベルトのべホマラーが傷ついた皆の傷を癒していく……。
 
「身体が……、……アル……、魔法の力……、戻ったのね……?」
 
「……使える、魔法が……、本当に……、僕……、又、魔法力が
戻ったんだ……」
 
今度は喜びで震えながらアルベルトが自分の掌を見る……。
 
「あははっ、オイラも動けるよーっ、アルっ!!」
 
「グルルルルルゥッ……!!ガアーーーッ!!」
 
「ダウドっ!下がって!!……バギクロス!!」
 
再びダウドを狙い、ダークドラゴンが動き出したが、アルベルトが
阻止し、真空の刃がダークドラゴンの身体を切り裂いた。
 
「アル……、有難う……!あ、あれ?雨が止んだよ……?」
 
「本当だ……」
 
「アルーっ、ダウドー!!」
 
アイシャが二人に手を振りながら走って来た。
 
「アイシャ!」
 
「有難う、アル!ダウドも大丈夫!?」
 
「うん、もう駄目かと思ったけど……、チビちゃんの事考えたら、
頑張れた……、……ぐすっ、アルもまた魔法使える様になって
良かったね……」
 
「ああ、君のお蔭だよ、ダウド……」
 
「オ、オイラの……?」
 
「……辛い思いしてるのに……、必死で戦ってる君の姿を見たら……、
僕もどうしても諦めたくなかった、負けたくなかった……、
ダウドに勇気を貰ったよ、ありがとう、ダウド……」
 
「あはは、何だか照れちゃうなあ……、えへへ……」
 
「よーしっ、アルも魔法が戻ったし、後はジャミルが帰ってくるのを
3人で待つだけねっ!!頑張ろうね、アル、ダウド!!」
 
「ああ、何が何でも絶対に食い止めよう……」
 
「……でも、な、なるべく早くしてよね、ジャミル……、本当にもう……、
へとへとだよお……」
 
アルベルトの魔法も戻り、戦う力と気力を取り戻した3人は再び
ダークドラゴンを見据えた。
 
 
 
……そして、たった一人でこちらのダークドラゴンと戦うジャミルは……。
 
 
「ちくしょーっ、くそっ、魔法連発すんなや!あーーっ、もう!」
 
「小僧、いつまでそうやって逃げ回っている気だ……?腰抜けめが……」
 
「うっせーっ!ドラゴンになった途端、急に口調変えるんじゃねえや、
偉そうにしやがって、腹立つなあ、……くそっ!!」
 
「そうか、……魔法は嫌か……、ならばこれはどうだ?」
 
「!?う……、くそっ、今度はブレス攻撃かよ!!」
 
「小生意気な……、邪魔な盾で防ぐか、フンっ!!」
 
「……あうっ、くそーーっ!!」
 
今度は尻尾を振り回し、ジャミルを狙って攻撃し、ジャミルは
弾き飛ばされる。
 
「もう、諦めたらどうだ……?雑魚めが……、貴様が本当にゾーマを
倒したのか?信じられぬな……、何かの間違いではないのか?」
 
「うるっせえ、……俺の仲間だって……、今必死にてめえの客と
戦ってんだよ……、俺が……、く……、諦められるかっつーの、
……チビだって……、懸命に生きようとして頑張ってんだよ……」
 
ジャミルは膝をつき、立ち上がると王者の剣を構え直す。
 
「絶対に帰るんだっ……!皆の……チビの所にーーっ!!」
 
……ガキイイィンッ!!
 
ジャミルが振り下ろした王者の剣と……ダークドラゴンの身体が
ぶつかりあう。
 
「……!?なっ、か、かすりもしてねえ……?……うわーーーっ!!」
 
再びジャミルはダークドラゴンの攻撃によって弾き飛ばされる。
 
「……うっ、げっ、ごほっ……、やべ、少し出血したな……、ハア……」
 
「フン……」
 
ダークドラゴンは再びコートの青年、闇の国の使者……、に、姿を変えると、
呼吸荒く、口の血を拭うジャミルの傍までやって来る。
 
「美味しそうだ、……是非、味わいたいのです、あなたのその吐血を……、
フフ……」
 
「……やめろ、くんなーーっ!この変態ーーっ!!んっ、
……うううーっ!!」
 
闇の国の使者はジャミルの口元に近づき、吸血鬼の如く、口から
流れる血を啜った……。
 
「ぐ……、がはっ……!!てめえ、何しやがる……、
ふざけんじゃねえぞ……」
 
闇の国の使者は漸くジャミルから口を離すと、吸った生き血を
ポタポタと口から垂らし、不気味な表情でほくそ笑む……。
 
「ふふ、これでお前は僕から逃げられない……、間もなく何も
感じられなくなる、何もかも忘れてしまうよ……、さあ、苦しい事は
もうみんな忘れてしまうんだよ……」


絶望の中の輝き

「……くそっ、身体……、重っ……、冗談じゃ……ねえぞ……」
 
「僕が君の血を吸った事により、君を思いのまま操る事が出来ます……、
……あなたはもう僕の玩具ですよ……、何て楽しいんでしょう……」
 
「ふざけんなよ、俺は絶対……、誰かに服従なんかしたりしねえ……、
絶対……」
 
「頑固ですね……、ふむ……、そうですねえ……、うーん……、
こんなのは如何でしょう?お仲間をあなた自身の手で殺す……、
なんてのは如何ですか?お約束展開過ぎかとは思いますが、あなた方が
一生懸命育てたらしい、あの屑ドラゴンも……、どうせなら止めはあなた
自身の手で殺したらどうでしょう……、それが良い……、もっとも、もうすぐ
消えて力尽きる可能性の方が高いですが……、残念でしたね……」
 
「……うっ、……うわああああーーっ!!てめえええーーっ!!
よくもーーっ!!」
 
ジャミルは目をかっと見開くと、無我夢中で闇の国の使者に
斬り掛って行く。
 
「……本当にお前は学習しないバカ猿だな……!!身分を弁えろ!」
 
「あ……ああああーーっ!?」
 
身体を操られ、ジャミルは持っていた王者の剣で自身の右足を刺し、
痛みに耐えられず、悲鳴を上げた……。
 
「仲良くしましょうよ……、あなただけはこれからも僕の支配下に
置いてやる事にしたんですから……、ねえ……」
 
闇の国の使者はジャミルに再び近づき、頬をペタペタ触る……。
 
「いやだ……、絶対に……、俺は……洗脳なんか……、くっ……、
されてたまるかーーっ!!」
 
「……!?こ、このバカ猿め……、よくも……」
 
ジャミルも必死で抵抗すると闇の国の使者の脇腹を突き刺す……。
 
「ま、まだ……、自分自身を保っていられると言うのか……?
信じられない……、一体なぜ……?」
 
「……へへ、わりィね……、俺も諦めが悪くてさ……!!
やっぱり、一、二回刺したぐらいじゃ、どうにもなんねえか……、
よっ!!」
 
ジャミルはそう言うなり、血だらけの右足で闇の国の使者を蹴り倒した。
 
「う……、く、調子に乗るな……、よくも僕の顔を……ゲスめが……」
 
闇の国の使者は顔面を押さえ、憎々しげにジャミルを睨む……。
 
「……はあ、はあ……、……うっ、此処でべホマを使えば、
後で大変になっちまう、何とか、皆の所に戻るまで……、
我慢しねえとな……」
 
「これは本当に、調教が大変だ……、一体どうすれば従う様に
なると言うのだ……」
 
「……さっきからうっせーな!俺はチンパンジーじゃねえんだよっ!!
ちくしょう……、血が……、止まんねえ……」
 
右足の激痛を何とか堪えながらも……、ジャミルは故郷で頑張って
くれている友を思い……、そして、只管チビの無事を願う……。
 
「やはりこの馬鹿は……幾ら調教しても、洗脳も無駄……、
と言う事なのか……?」
 
「当たり前だっ!……おめえが幾ら俺を操ろうとしたって……、
俺の心にはいつも皆が……、アル、ダウド、アイシャ、ファラ、
リトル……、チビがいてくれる……、だから……、俺はお前なんかに
絶対屈指ねえ……!!」
 
「不思議ですね……、感情も消えて無くなる筈なのですが……、おかしい、
本当におかしい……、可笑しすぎますよ、君は……、ク、クククク……、
成程……、僕の想像を越えた極度の大変態だったと言う事でしたか、
あーっはっはっはっ……!!」
 
変態に変態と言われ……、ジャミルは本当にもう怒りで我慢の
限界であった……。しかし、相手に突っ込んで行こうとも足の激痛で
どうにもならず、MPの少ないジャミルが今此処でべホマで回復して
しまえば後の戦いに支障をきたす事も充分承知であった。けれど、
……もしかしたら……、皆にはもう会えず、自分は此処で相打ちになる
可能性もある……、だから……。
 
「皆……、もしも……、俺が戻れなかったら……、その時は
チビを頼むよ……」
 
ジャミルは俯き、小さく声を漏らす……。
 
「……?おや、……さっきと違って馬鹿に消極的になられた様な
感じがしますが……、ん?」
 
「俺も今悟ったよ……、お前を絶対にアリアハンの地に行かす訳には
いかねえ…、お前と此処でカタを付けるのが俺の最後の役目だ……、
俺のMPを全部使い尽くしても……、お前を倒す……、うっかりお前を
倒し損ねて、俺だけ棺桶っつーのも不公平だかんな……」
 
「そうですか……、此処まで君が愚かだったとは……、もう支配下に
置こうなどと止めますよ、ああ、気が悪い……、見ていて吐き気が
します……、血なんか吸うんじゃありませんでした……」
 
「……くっ!!」
 
「悪いですが、君は僕には勝てません、今言った事を後悔するが良い……、
醜く、骸と化した君の死体を仲間達にプレゼントして差上げましょう、
さぞかし喜びますよおーっ!あーっはっはっは!!」
 
闇の国の使者は再び、ダークドラゴンへと姿を変える……。
 
「……勝つ、何が何でも……、絶対に……、俺はもう皆の所に帰れなく
なったけど……、後は本当に……、頼むよ……」
 
ジャミルはそう呟きながら、覚悟を決めた様にギガディンの呪文の
詠唱を始めた。
 
 
〔駄目、……ジャミル……、きゅぴ……、駄目だよ……〕
 
 
(……チビ……?チビなのか……?)
 
 
……ジャミル、どうか、最後まで希望を捨てないで……
 
 
(ル、ルビス様……!?)
 
ジャミルの前にチビを連れたルビスが現れる……。
 
(これは……、指輪が光ってる……、ルビスの守り……、ルビス様……、
チビ……!!)
 
〔きゅぴ……、ルビス様が下の世界からチビに聖なる力を
送ってくれたの……、だから……、この力をジャミルに送るよ……〕
 
(チビ……、お前……、大丈夫なのか……?)
 
この子からあなた達にもう一度会いたい、一緒に生きたいと
強く願う力を感じ取り……、私の魂と聖なる力を託し、与えました……、
安心して下さい……、もうすぐ現実世界でもこの子はきっと
目覚める筈です……
 
(……チビ……、で、でも、ルビス様……!それじゃ、あんたが……!!)
 
……私の事は大丈夫です……、これからの世界はあなた達、
人が創り上げてゆくもの……、神も……精霊の加護も……、
もう要らない筈です……、例えこの身は消えても……、私は
二つの世界の大地と一体となり、あなた方をこれからも見守って
いますよ……
 
(……ルビス様……)
 
どうか……、後は頼みましたよ……、ジャミル……、
ホーリードラゴン……、世界を……守って下さい……
 
ルビスはジャミルに頬笑む。そして……、静かにその姿が消えていく……。
 
〔いくよ、ジャミル……!!ルビス様からの……、聖なる力……、
受け取って……!!〕
 
「……絶対に……皆の元へ……戻って見せるっ……!!」
 
ジャミルの身体が輝きだし……、その姿は再び光の鎧を纏いし
姿に代わる……。
 
「何だっ!?……しばし奴の姿が消えたと思ったら……、
そ、その姿は……!?」
 
「ルビス様が自分の命と引き換えに……チビに命を与え……、
そして俺への力もチビに託してくれた……、俺……、もう弱音は
吐かないよ……、……ごめんな、皆……、チビ……、ルビス様……」
 
俯いていたジャミルは再び顔を上げると、もう一度ダークドラゴンを睨んだ。
 
「今更……最後の掛けか、面白い……、だが、貴様は
もう我に勝つ事は不可能だといっておろう……」
 
「……」
 
ジャミルは静かに王者の剣を構え、高く掲げた……。
 
 
そして、奇跡はチビに必死に呼び掛け続けるファラとリィトの元にも……。
 
「きゅぴ……?」
 
「あっ……!?チ、チビちゃん!?ちょっとあんた!!チビちゃんが……、
チビちゃんが……!!め、目をあけたよっ!!ねえっ!!」
 
ファラが興奮し、リィトの肩をげしげし、ばしばし強く叩いた。
 
「痛いよ!ちょっと!叩かないでくれる!?たく、もうー!!」
 
「ぴ、ファラ……、リィト……、心配掛けてごめんきゅぴ……、
有難う……」
 
「何言ってんだい!!気にしなくていいんだよ、そんなの!!
……良かった……、本当に……、身体も、もう消え掛けてない……、
うん……、チビちゃん……」
 
ファラは涙を流し、チビにすり寄る……。
 
「フン、……全く、心配掛けてばっかり……、……べ、別に心配なんか
してないからね!!」
 
リィトは顔を赤くし、明後日の方向を向いた。
 
「……リィト、お願いがあるの……」
 
「な、何だよ……」
 
「チビをみんなの所に連れて行って……、身体がまだふらふらしてて……、
……チビだけじゃ動けないの……」
 
「何言ってるんだよ!やっと目を覚ましたって言うのに!危険な場所に
また連れて行こうものなら、……僕が怒られるだろ!!」
 
「大丈夫……、ルビス様がチビに送ってくれた……、聖なる力……、
皆にも届けなきゃ……、リィト、ねえ、お願い……」
 
「何を言ってるのか……、僕にはさっぱり分からないよ……」
 
「……リィト、あたいからもお願い……、チビちゃんは大丈夫だよ……、
チビちゃんを信じてあげて……」
 
「きゅぴ……」
 
「分ったよ、その代り、僕は何があっても責任取らないよ、
……もう知ったこっちゃねえりゅーっ!!」
 
リィトは小悪魔に戻るとチビを抱いて一目散に外に飛び出すと、
空を飛び、暗い雨の中、再び皆の所を目指す。
 
「お前、重いなりゅーーっ!!食べ過ぎりゅーっ!!」
 
「きゅぴ、ごめんなさい……」
 
「チビちゃん、ジャミル……、皆……、お願いだよ、本当に……、早く、
早く帰って来て……」
 
両手を胸の前で組み、ファラは一心不乱に祈るのだった……。

エピ83・84

闇と光と……

一方、アルベルトの魔法力が復活したものの、どうしても完全に
ダークドラゴンに止めを刺せず、3人は後一歩が踏み出せないでいた……。
 
「やばいな、このままだと、幾ら僕に魔法力が戻っても……、早く
カタをつけなければ……、全滅だ……」
 
「やっぱりオイラ達だけじゃ……、ジャミルがいないと……、
無理だよお……」
 
「……あっ……」
 
「アイシャっ!!……うっ、くうっ!」
 
MPがもう完全につき掛け、再度ダークドラゴンに弾き飛ばされそうに
なったアイシャをアルベルトが支え、受け止める。
 
「アル……、ごめんなさい……」
 
「いいんだよ、気にしないで……」
 
「でも……、私達……、やっぱり……、もう此処までなのかなあ……」
 
気力を無くし……、アイシャが俯いて言葉を濁した。
 
「どうしたんだよ……、アイシャらしくないよ……」
 
「でも……、もう……」
 
「りゅーーっ!うるせーお届け物りゅよーーっ!!」
 
「……リトル……?……!?」
 
「チビちゃん……!!まさか……、意識が戻ったの……!?」
 
チビを抱いた小悪魔が此方に向かって真っ直ぐに飛んで来る。
 
「だ、駄目だよお……!チビちゃん!!こんな処に……!危な……」
 
「きゅぴ……、……チビ、ルビス様に……ルビス様の大切な命を
託して貰ったんだよ……」
 
「ルビス様が……、チビに……?」
 
「え?どゆこと?……ルビス様がチビちゃんに……、命を託したって
事は……、ま、まさか……、ルビス様が……」
 
「ダウド……、今は目の前の敵を全力で倒す事を考えよう……」
 
「う、うん……、そうだね……」
 
「……そして、ルビス様が聖なる力もチビに託してくれたの……、
どうか受け取ってー!!」
 
チビが3人に向け、輝きを放つと……。
 
「きゅぴーーーっ!!」
 
3人の容姿が変化し……、最強装備を纏った姿に変わる……。
そして、暗かった周囲に微かに光が戻り、皆を照らす……。
 
「……これは……?」
 
「な、何……?オイラのこの格好……」
 
「私もだわ……、どうなってるの……?」
 
アルベルトはドラゴンローブ、アイシャは光のドレス、
ダウドは闇の衣を纏った姿にそれぞれ変わった……。
 
「不思議だわ……、MPが全部回復したみたい……」
 
「僕もだよ……」
 
「オイラ達……、皆、傷も癒えてるね……」
 
「大丈夫、これならもう少し戦えるわ!……何だか少し周りも
明るくなったみたい……」
 
「……ガアアアアーーっ!!」
 
「アイシャっ!!危ないっ!!」
 
ダークドラゴンがアイシャに向けて炎のブレスを放つが……。
 
「平気……、このドレス……、炎のダメージを半減してくれるの、凄いわ!
……今度はこっちからお返しよっ!!メラゾーマっ!!」
 
「グガアアアアーーっ!!」
 
「魔法の威力も通常より上がっている気がするわ……」
 
「よしっ、僕らもっ、ダウド、一気に攻めるよっ!」
 
「うん、アルっ!」
 
3人は見事な連係プレイでダークドラゴンを追い詰め、立場を

逆転させていく……。
 
 
「……何故です……?どうして……、僕は何故……、あなたに勝つ事が
出来ないのです……?その装備とやらの所為……ですか……?うっ……」
 
ダークドラゴンから再び人型へと戻った闇の国の使者は肩を押さえ呻く……。
 
「違うよ……、どうしても皆の所へ戻りたかった、その気持ちだけが……、
俺にもう一度戦う力をくれた、それだけだ……」
 
ジャミルはそう言うと、王者の剣を静かに鞘にしまった。
 
「フン、下らない……、……何ですか、僕にはもう何の力も
残っていませんよ、その憐れんだ目で見られるのは反吐が出ます、
早く殺すなら殺しなさいよ……」
 
ジャミルは溜息をつき、闇の国の使者を改めて見た。
 
「……そう言えば、僕とゾーマの関係を聞きたいんでしたね?
いいですよ、話してあげましょう……、惨めで哀れな僕の話を
聞きなさいよ……」
 
「……」
 
「僕は、誕生した時……、何の力も持たない唯の弱いドラゴンでした、
物心ついた時には親もおらず……、一匹でいつも徘徊していました……、
そしてある日……、心無い人間に捕まり、見世物小屋に売り飛ばされ……
殴る蹴られるは日常茶飯事……、命からがら見世物小屋から逃げ出した後も
又、いつ……人間に見つかって殺されるか……、生きる事が地獄でしたよ、
本当に……」
 
「……お前……」
 
闇の国の使者はジャミルの顔を見ると思い出した様に遠い目をした。
 
「……そんな僕を絶望から救いだしてくれたのが、ゾーマでした……、
スカウトされたのですよ、我の下部になれば絶大な力を与えてやると……
……そして……、何の力も持たなかったこの僕が……、強大な闇の力を持つ
ダークドラゴンへと変貌を遂げたのです……、ですが……、僕はゾーマと違い、
人間を滅ぼす事には興味がありませんでした……、むしろ、僕を馬鹿にした
人間共を支配下に置き、……闇の世界を作る事……、人類を憐みの絶望の淵に
立たせてやりたい……、それが究極の闇の力を得た僕の望みです……」
 
「……もう気が済んだろ?早く自分の国に帰れよ……、唯……、あの
ドラゴンだけは……、どうしてもカタを付けさせてもらうよ……、
この世界の為に……、チビの為に……」
 
「……そうはいきません……、何がなんでも……、……あの子だけは……、
失う訳にはいかない……、くっ……」
 
「!?おい、……ちょっと待てや……!」
 
闇の国の使者は突然、ジャミルの前から姿を消す……。
 
「……んだよ!人を置いていくなっつーの!あー、もーーっ!!」
 
急いでジャミルもルーラを唱え、闇の国の使者の後を追い、
アリアハンへと戻る……。
 
 
「……も、もう少し……、もう少しで……、オイラ達だけで……、
ダークドラゴン、倒せるよお……」
 
自分達の力でダークドラゴンを倒す事が出来る……、興奮と喜びで
ダウドが震えだす……。ダークドラゴンはもう力尽きる寸前であり……、
身体もチビと同じくらいの大きさに戻っていた……。
 
「おーおー、やれやれー!おめーらどんどんやっちまうりゅよーっ!
たらたらしてんじゃねーりゅーっ!!」
 
「……」
 
「チビ……?」
 
アルベルトは複雑そうな表情で小悪魔に抱かれたまま……、苦しんでいる
ダークドラゴンをうっすらと見つめているチビの様子に気づく……。
 
(もしかしたら……、チビは……)
 
「……!!りゅーーっ!!」
 
「……きゅぴ……」
 
「ハア……、くそっ、小賢しい真似を……」
 
もう少しの処で突如、小悪魔とチビの前に闇の国の使者が出現する。
 
「……チビちゃんっ!リトルっ!!」
 
「今、助けるよっ!!」
 
「……ど、何処まで邪魔するのさあ!!」
 
「……貴様ら……、近づくな……!少しでも動いてみろ……、今すぐにでも
こいつらを殺すぞ……、こんな奴ら……、下級魔法でもすぐに殺せる……」
 
闇の国の使者は苦しそうに息を切らしながらも、鋭い眼光で小悪魔と
チビを睨みつける……。
 
「……リトルっ!チビちゃん!!やめなさいよっ!!卑怯者……!!」
 
「なんりゅーっ!!バ、バカ猿は……まだ帰ってこないのりゅーーっ!
本当にどうしたのりゅーーっ!!」
 
「……ち、近づくなって言ってる間に……、もう殺そうとしてる
じゃないかーっ!!」
 
「……邪魔だ……、光はどうしても……、邪魔なんだーーっ!!」
 
「!?」
 
闇の国の使者はアルベルト達3人を水晶の結晶の中に封じ込める。
 
「其処で大人しくしていろ……、この屑ドラゴンを殺したら……、
次はお前達の番だ……」
 
「……駄目っ!!そんな事させないんだからっ!!」
 
「えいっ、えいっ、えいっ!!」
 
アイシャが自身の杖で水晶をガンガン叩き、アルベルトがありったけの
魔法をぶつけ、ダウドも足で蹴っ飛ばし、炎のブーメランをぶつけて
みるものの……、3人を硬く包んだ結晶はびくともせず、どうする
事も出来ない……。
 
「りゅ、りゅ、りゅ……」
 
「どけ、ゴキブリめが……、さあ、早く光を渡すんだ、……早く……」
 
闇の国の使者は小悪魔にどんどん迫り……、小悪魔はチビを抱いたまま
後ずさりする……。
 
「バ、バカドラゴンは……、絶対……、渡さんりゅよ……、
来るならこいりゅ……」
 
「……リトルっ、早く逃げてーっ!!」
 
「りゅっ?りゅーーっ!!」
 
「……リトルーーっ!!」
 
アイシャが必死で小悪魔に逃げる様に呼び掛けるが、闇の国の使者は
無理矢理小悪魔からチビを掴み、ひったくると、小悪魔だけを遥か遠くに
ほおり投げた……。
 
「きゅぴ……、駄目……、リトル……いじめちゃ……駄目だよお……」
 
「フン、邪魔ばっかり入るよ……、けれど、漸く……、フ、フフフ……、
やっとお前を始末出来る時が来た……、お前だけは……」
 
闇の国の使者はにやりと笑うと……、静かに手をチビの首に掛けた。
 
「やめてよーーっ!やめろおおおーーっ!!」
 
「チビーーーっ!!」
 
「……嫌、嫌よ……、このままじゃチビちゃんが……
本当に殺されちゃう……、……助けてお願い……、
……ジャミルーーーっ!!」
 
「ジ……、エンドですね……、お疲れ様……でした……」
 
「……ジエンドは……てめえだああーーっ!!」
 
「が……、は……?っ……!!」
 
チビを絞め殺そうとした闇の国の使者が……突如蹴り倒され、
闇の国の使者はもんどりうって地面に倒れるが……、転がった
体制になろうとも、その手は強くチビの首を掴んだまま
放そうとしない……。
 
「ジャミルっ……!!」
 
アルベルト達が水晶の中から揃って歓喜の声を上げた。
 
「……くっ、き、貴様……、何処まで邪魔をする気だ……、
くそっ……!」
 
「……はあ、アリアハンまで飛んだつもりが……、焦って違う場所に
飛んじまった……、本当、アホだな、俺……、けど、どうにか間に合って
よかった……」
 
「……ジャミルっ!……遅いわよ、もうっ、バカバカバカっ!!
……ふえええ……」
 
「無事で良かった……、本当に……」
 
「全くもう、毎回毎回……、毎度毎度……、心配ばっかり掛けて……、
しょうがないなあ……、ぐすっ……」
 
ダウドが無事なジャミルの姿を見、安心した様に目頭を擦った。
 
「皆っ!遅くなってごめんな!待ってろ、すぐに此処から
出してやるからな!」
 
「僕らの事は大丈夫、それよりも、チビの事を……、どうか……」
 
「アル……、アイシャ……、ダウド……」
 
アイシャとダウドもジャミルの顔を見て、こくっと頷く。
 
「……信じてる、ジャミル……、絶対にチビちゃんを助けて……!!
そして、この世界の光を取り戻して……」
 
「……ジャミルう……、チビちゃんを必ず助けてあげて……、
お願いだよお……」
 
「分ってる!それにしても……、お前らのその恰好……、何だ?」
 
「チビちゃんが……、ルビス様から授かった聖なる力を私達に……」
 
「そうだったのか……、俺も……、ルビス様とチビの心が……、
俺に呼び掛けてくれ、力を送ってくれた……、もう一度……、
この姿になる事が出来たよ……」
 
「ねえ、ジャミル……、チビちゃんに魂を託してくれたって事は……、
ルビス様はもう……、死んでしまったの……?」
 
「ダウド、それについては……、全てが終わったら話すよ……」
 
「……フフフ、感動の再会などしている暇はありませんよ……」
 
「てめえ……、よくもチビを……、やっぱり、……迷ってる場合なんか
じゃなかったな……、……俺の悪い癖だ……、チビ、辛い思いさせて
ごめんな……、待ってろよ!!」
 
ジャミルはそう言うと、再び王者の剣を鞘から抜く。
 
「……ジャミル……、来てくれたよお……、チビの……大好きな……
ジャミルだあ……」
 
首を掴まれた体制のまま……、目線はジャミルの方を向き、チビが
小さく微笑んだ……。
 
「終わりです……、此処ですぐにこの光を消してしまえば……、全てが
終わるのです……、この世界からは永久に光が失われます……、よもや
光が戻る手段はもう無くなる……、ふ、ふ……、ふふふ、……何です?
その目は……、僕を馬鹿にしているんですか……?僕は本気ですよ……、
……今すぐその野蛮な剣を捨てなさい……、で、ないと……、殺すスピードを
速めますよ?もっとも、殺してしまう事には変わりないんですが……」
 
「や、やめろっ……!!てめええっ!!」
 
闇の国の使者の手が……チビの首を掴んだ手にぐっと力を込める……。
 
「……どうせもう、僕の命は尽きる……、闇の世界の支配者になる事は
もはや不可能……、けれど……、闇を妨げようとする邪魔な光の力だけは
何としても阻止する……、それが僕の……、使命……、お前達も永久に
この闇の世界で永遠に苦しめ……」


そして、遠い未来へ

「りゅーーっ!よくもこの魔界の王子リトル様を……!許さんりゅーーっ!!
……やってくれたりゅねーーっ!!」
 
「リトルっ!!」
 
「何だっ!……うわっ!!」
 
遠くに投げられたリトルが慌てて戻り、闇の国の使者の顔に飛び掛かり、
引っ掻き噛み付き、……闇の国の使者は面食らい、チビの首に掛けていた
手の力を緩める……。
 
「……凶悪団子娘直伝、暴走暴れるくん攻撃りゅ!!」
 
ジャミルの方を向いて小悪魔がドヤ顔をした……。
 
「おいおい……、アイシャに聞こえたら殺されるぞ……」
 
「……クソッ!ゴキブリめっ!離れないかっ!!」
 
「りゅっ!りゅっ!」
 
「……今だっ!うあああーっ!!」
 
ジャミルはその隙を逃さず、闇の国の使者の顔面に右ストレートで
フックした……。
 
「……くそーーっ!!し、しまっ……」
 
ジャミルに殴られた衝撃で、掴んでいたチビを漸く放し、意識を
無くしているチビは地面に落ちそうになるが小悪魔が素早く
チビを拾い上げる。
 
「ふう、りゅ~……」
 
「よっしゃ!リトル、よくやってくれたぞ!」
 
事態を見つめていた水晶の中の3人も、大喜びで互いに燥ぎ合う。
 
「もうリトルは疲れたりゅ、こんなあぶねー基地害野郎に係るのは、
もういやりゅ、これにてバカ猿の実家にもどりゅます……」
 
小悪魔はジャミルにチビを手渡すと、疲れた様なしょっぱい顔を
ジャミルに見せた。
 
「ありがとな、……リトル……、お前がいなかったら……、
チビは今頃どうなってたか……、本当、ありがとうな……」
 
ジャミルは小悪魔に何度も何度も頭を下げた……。
 
「……よ、よすりゅ……、ああーっ!ジンマシンがでりゅ……、
勘弁してくれりゅ……、んじゃ、……厚化粧の所に行かせて
もらうりゅ……」
 
顔を赤くしながらリトルは慌て、パタパタと飛んで行った。
 
「はあ……、これで……終わり……、か……、フフフ、はははは……」
 
「……」
 
闇の国の使者は観念した様に膝をつき……、その場にしゃがみ込み、
俯き加減でジャミルの表情を覗った。
 
「ジャミルーーっ、大丈夫ーーっ!?」
 
「……皆!!」
 
魔法力が緩み、水晶の呪縛から解放された仲間達もジャミルの元へ
走って来る。
 
「俺は平気だよ、……それよりも、チビを頼むよ!」
 
ジャミルはアイシャに眠っているチビを手渡した。
 
「……チビちゃん……、良かった……、また……会えたね……」
 
「……もうこれで……本当に終わりにするよ……、早く僕の首を
はねるなり何なり、好きにしたらいいさ……、惨めな僕には本当に
何も残っちゃいないのだから……、石に変えた奴らもそろそろ
元に戻るだろう……、こんな下らない世界にはもう生きていたくない、
……早く殺せよ……、さあ……」
 
「……」
 
ジャミルは表情を硬くし……、王者の剣を握る右手に力を込めた……。
 
「……ガ、ガアア……」
 
「お前……」
 
……最後の力を振り絞り、其処に立ち塞がったのは……チビの半身の
ダークドラゴンであった……。
 
「グルル……」
 
ダークドラゴンはよろよろしながら……、それでもジャミルの前に
立ち塞がり、懸命に闇の国の使者を守ろうとする……。
 
「俺達がチビを大切に育てていた様に……、お前だって……、
このドラゴンが大切だったんだろう……?例えお互いに立場は
違っても……、……誰かを思う気持ちは同じなんだよ……」
 
「……気持ちの悪い事を言うな……、僕は自分の私利私欲の為に
こいつを利用していただけだ、他に何の感情などない……」
 
「グ……ルゥゥ……」
 
ダークドラゴンは一声上げると……、身体を丸め、その場に倒れ息絶える……。
 
「一つだけ……、言っておくよ……、何でチビも産まれて……、身体が
それぞれ別れたのかをさ……、お前は人間の残酷さを植え付ける為、
あの洞窟に卵を置いたって言ってたけど……、卵の中で感じ取っていた
感情は残忍さだけじゃなかって事さ……」
 
「……何だと……?」
 
「地竜は、密猟者に狙われても、自分が傷ついても……、自分が
本当の親じゃないのを理解していて、それでも卵を本能で守ったのさ……、
その優しさの感情と愛情を光はちゃんと感じ取って、そして、チビも
同時に産まれたんだよ……、だから……身体は光と闇……、二つに
別れたんだ……、恐らくな……」
 
「フン……、何処までも戯言を言うな……、下らない……」
 
「……ゲーム感覚であの洞窟に卵を置いたお前の負けだ……」
 
ジャミルはそう言い、冷たくなったダークドラゴンの亡躯に
そっと触れた。
 
「フフフフ、ハハハハ!……僕はどうしてもこのままでは納得出来ない……、
余りにも悔しいよ……、お前達を理解出来ない……、許せない……」
 
「!あ、あなたまだそんな事言ってるのっ!!」
 
アイシャが咄嗟にチビを庇い身構え、アルベルトとダウドも
闇の国の使者を睨み、もう一度戦闘態勢をとる……。
 
「僕も一つ……、絶望の未来をこの子に託そう……、……ルビスが光に
新たな命を与えたと言うのなら……、僕もこの闇に新しい命を託す、
……お前達の遠い未来が暗黒の闇で染まる様にね……」
 
「な、何を……!……うっ!!」
 
ダークドラゴンの身体がふわりと宙に浮かび……、亡骸は闇の国の
使者の元へと飛んで行き、その姿は黒い闇に包まれる……。
 
「おいっ、何をする気だっ!!」
 
「……僕の魂と……、この子へ僕の願いを託した……、フフフ……、この子は
遠い未来、闇の破壊者となり……、再び世界を絶望で満たしてくれる……、
けれど安心したまえ……、恐らくこの子が目覚める時は……、一体何百年先の
事になるのかそれは僕にも誰にも分らない……、けれど……、きっと僕の
意志を継いでくれる……、そう……、信じて……い……る……、闇は……
永久に消える事など無いのだから……、人間の心の闇も……」
 
「……」
 
「さあ、お行き……、いつかのその日まで……、静かにお休み……」
 
「あ……」
 
闇のオーラに包まれたダークドラゴンは……静かに……何処かへと
飛んで行った……。
 
「……あの子は誰にも気づかれる事のない安全な場所に封印した……、
後は長い眠りから目覚めるのを待つだけ……、これで……、僕の役目も
終わった……、安心して消える事が出来る……、……さようなら、
どうしようもない、智恵の無い救いようの無いお馬鹿さん達……」
 
闇の国の使者も徐々に身体が消えていき……、その場には
立ち尽くすジャミル達残された4人だけの姿となった……。
 
「……ど、どーすんのさ、ジャミルうー!……あああ、あの
ダークドラゴンはいずれまた目覚めて復活しちゃうよ!!そしたら
又大変な事になっちゃうよおーっ!!」
 
「ダウド、落ち着いて……、どうどうどう……」
 
「アルうーっ!!落ち着いてなんかいられないよおーっ!!」
 
「……それを制するのは今の俺達の役目じゃない……、きっと……、
遠い未来の……、英雄達だよ……」
 
「え、えううう~……?……あう……」
 
「そうね、……私達も信じて……、思いを託しましょう、いつかの……、
勇者さん達へ……」
 
 
 
儂には見えるのだ……、遠い未来が……、光もある限り、闇もまたある……
いずれまた何者かが闇から現れよう……、その時はさすがにお前も
年老いて生きてはいまい……、フ、フフフフ……
 
 
「……ジャミル……、皆さん……」
 
「チビ……?違う……、その声は……、ルビス様か!?」
 
「「え、ええええっ!?」」
 
アイシャに抱かれていたチビを見……、ダウドがびっくり仰天する……。
 
「少しだけこの子の身体を借りました……、どうかあなた達の力も
貸して下さい……、一緒にこの世界に光を取り戻しましょう……」
 
「お、俺達でも……、出来るのかい……?」
 
「ええ、……ジャミル、光の玉を……」
 
「……」
 
ジャミルはゾーマ戦後も、いつも肌身離さず持ち歩いていた光の玉を
そっと取り出す……。
 
「あの、……僕達はどうしたら……」
 
「あなた方の装備品……、それも光の力の一部になっている筈です……」
 
「……分りました、……さあ、僕らも光の力をこの世界に返そう、
……アイシャ、ダウド……」
 
「ええ、ほんの少しの間だったけど、綺麗なドレスが着られて
嬉しかったわ、……ありがとうね……」
 
愛おしそうにアイシャが自身の光のドレスにそっと触った……。
 
「うん、でも……、オイラの装備は闇の衣なんだけどね……」
 
「……そういう突っ込みはしないんだよ、ダウド……」
 
「あうう~……」
 
「俺の光の鎧もだな……」
 
「……ええ、さあ、始めましょう……」
 
「光よ……、どうか、この有るべき世界に……戻りたまえ……!!」
 
ジャミルが光の玉を暗い空に高く掲げ……、その後に仲間達も玉に
向かい手を掲げる……。
 
「っ!……オイラの格好、元に戻っちゃった……」
 
「私も……」
 
「……見て、僕達に力を貸してくれていた光が……、空に昇って行くよ……」
 
「さあ、ホーリードラゴン……、いえ……、チビ……、次は
あなたの力を……」
 
ルビスはそう言うと、静かにチビの身体から離れた。
 
「うん、ルビス様……、皆……、チビ、頑張るよお…、
見ていてね……、……きゅぴーーーっ!!」
 
チビは空に飛び、暗闇に向けて輝きを放つ。暗い闇を今度は
光が覆った……。この世界にも再び光が戻り始めたのである……。
 
 
「……何だ……?……儂らは一体……、どうしていたんだ……?」
 
「一体、何が起きたのかしら……?何も覚えていないのだけど……」
 
「確か……、空が暗くなって……、それから……」
 
石化が解け、元に戻り始めた町の民は…、皆揃って一斉に首を傾げる……。
 
「あっ、ママっ、見て……、白い大きなドラゴンさんだあ……!!」
 
「本当だわ……、この暗闇の世界に……、光を灯してくれているの……?」
 
「……何という事じゃ……、おお……、この齢になって……、
伝説のドラゴンの姿を拝む事が出来るとは……、生きていて良かった……、
本当に……」
 
「……毎日当たり前の様に見ている光が、こんなに眩しいなんてねえ……、
今までこんな事……、分らなかったわ……、夜が来て……、そして、
当たり前の様に訪れる朝をもっと感謝しなくてはいけないのかも
しれないねえ、あたし達は……」
 
 
 
「ほら、リトル……、見てよ……、空が明るいよ、光が戻ったんだよ……、
本当、……皆、頑張ったね……、チビちゃんも……、頑張ったよねえ、
偉かったよ……」
 
ファラは泣きながら小悪魔を思わず抱きしめ、頬を近づけた……。
 
「フン……、おい、厚化粧……、あまり化粧くせー顔、近づけんなりゅ、
……口紅がリトルにくっつくりゅ……」
 
「……ああん!?何だってえーっ!?もう一回言ってみな、
ああっ!?」
 
「……ぎょえーーっ!暴力反対りゅーーっ!!……グエッ……、
がくっ……」
 
ファラに首を絞められた小悪魔は舌を出したまま……コテンと気絶した……。
 
 
 
そして……、ジャミル達は静寂の戻った空を只管眺めていた……。
 
「終わった……、のか?これで全部……」
 
「うん、空もすっかり青空に戻ったね……」
 
「本当、綺麗な青空ね……」
 
「何かオイラ……、泣けてきた……、うっ……」
 
 
……きゅぴーーっ!!
 
 
「チビ……っ!!」
 
「チビちゃんっ!!」
 
役目を終えたチビが……4人の元へ元気に戻ってくる……。
 
「きゅぴーっ!ジャミルーっ、アイシャーっ、アルーっ、ダウーっ!!
……チビ、皆の所に帰って来たよおーっ、ただいまーっ!!」
 
「チビっ!あはははっ!!お帰りー!!偉かったなー、よーしっ!!」
 
ジャミルはチビを抱き上げ、高い高ーいをし、くるくる回る。
 
「ちょっ、ジャミル、ずるーい!オイラも、オイラもーっ!!」
 
「きゃー!!私も抱くーっ!!久しぶりにハグさせてーっ!!」
 
「……たく、皆して、しょうがないなあ、いつまでたっても……、
親バカなんだから、本当に……」
 
 
……ジャミル……、皆さん、そして……、チビ……、この世界の
大地の力を借り、こうして語り掛けています……
 
 
「ルビス様……!!」
 
「きゅぴ……、ルビス様……、ごめんなさい……、チビの所為で……、
ルビス様が……」
 
 
……いいえ、もう……、私の命は長くないと自分で自覚していました……、
精霊として……この世界での役目も終えなければならないと言う事も……、
私の中に残っていた僅かな力を新たな命に変え……、あなたへと託したのです……
 
 
「きゅぴ……」
 
 
……時にはあなたのお母様から受け継いだその力の重さに悩む事も
あるでしょう……、ですが、……チビ、あなたはあなたらしく……、
どうか生きて下さい……人間達と共に生き、幸せになるのですよ……
 
 
「ルビス様……」
 
 
ジャミル、皆さん……、それではこれで本当にお別れです……、チビを……
頼みましたよ……
 
 
「……ああ、任せとけっ、……俺達はこれからもずっと一緒さ!」
 
ジャミルはそう言うと、チビを手元に引き寄せ、強く抱いた。
 
「ジャミル……、皆……、大好きゅぴ……、ありがとう……」

zoku勇者 ドラクエⅢ・その後編 エピ81~84

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  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-05-23

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. エピ81・82
  2. エピ83・84