魔法少女も多様性の時代です(1:2:1)
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※『さあ! 勝負だ!』企画参加作品
【ジャンル】ローファンタジー
【時間】30分~40分
【人数】4人
【お題】「酒」「屋上」「猫」「夏」
◆タイトル
『魔法少女も多様性の時代です』
◆登場人物
母(♀) マサコ。主婦業の傍ら内緒で魔法少女をやっている。
旦那とは社内結婚で今でもバカップル。反抗期の娘との関わり方に悩んでいる。
やや天然で鈍くさい。
猫(不問) 魔法国の使者にして、魔法少女の使い魔 デコポンという名前は不本意。
父(♂)ハルヒコ 家族想い マサコとはバカップル
娘(♀) サナエ 反抗期真っ最中。
◆上演時間 約30分
◇コピペ用
母:
猫:
父:
娘:
◆◇◆◇本文
(朝 玄関)
娘:いってきます……
母:ちょっとサナエ? お弁当忘れてるわよ!
娘:要らない。
母:え?
娘:要らないからわざと置いてったの。
母:え……? そんな……せっかく作ったのに。
娘:作って、なんて頼んでないじゃん……いってきます!
母:(ため息)
(父、入ってくる)
父:なんだ、どうしたんだ?
母:ううん、なんでもないの……
父:あー、またサナエがお弁当を持っていかなかったのか。うーん、難しい年ごろだね。
母:うん……私なりに一生懸命、彩りとか栄養バランスとか考えて作ってるんだけどなぁ。
父:大丈夫だよ、今はちょっと反抗期なだけで、マサコの気持ちは伝わってるよ。
母:そうかしら? 私の料理がおいしくないのかも……
父:そんなことない。俺は、いつも美味しくいただいてるよ? いつもありがとう、マサコ。
母:ハルヒコさん……ううん、こちらこそ、いつもお仕事がんばってくれてありがとう。
父:最近手紙が入ってないのがちょっと残念だけど。
母:やだ! それは付き合いだした頃の話じゃない!
父:はは! 今でも欲しいよ?
母:もう! ハルヒコさんたら!
父:少し元気がでたようでよかった。
そうだ、今度の休みは、映画でも行こうか? サナエはどうせまた友達と遊びに行くだろうし。
母:え……いいの?
父:うん、観たいの決めておいて。
母:えー何観ようかしら……楽しみ。
父:俺もだよ……久しぶりの、デートだね。
猫:あああーーー! なにを朝っぱらからいちゃついておる! このバカップル夫婦!
母:きゃ! デコポンちゃん! いたの!?
猫:さっきからずっと居るがなにか?
てかデコポンって……こんなにかわいい猫ちゃんのわしにふさわしい、もっと愛らしい名前はなかったのか? 改名を要求する!
母:でも、デコポンっておいしいわよ?
猫:おいしいまずいの問題ではないだろう!
おっと、本題を忘れるところだった!
お楽しみのところ悪いが、ジョッカーが現れたぞマサコ!
母:ええっ! また!?
猫:ああ、現場に急行するぞ!
父:うーん、またか……やるんだね、アレを……一人で大丈夫かいマサコ?
母:うん、大丈夫よハルヒコさん! 私、がんばってくる!
父:無理、しなくていいんだぞ?
母:ううん、無理なんて……だって、ハルヒコさんやサナエや……この町のみんなのためだし。
父:マサコ……
母:ハルヒコさん……
猫:はい、そこまで! ちょっと油断すると、すぐいちゃつくなこの夫婦! 後にしろ、早く!
父:じゃあ、俺は、仕事行ってくるけど、何かあったら、すぐ連絡するんだぞ?
母:うん! 行ってらっしゃい!
(父去る)
母:はぁ……
猫:はよせんか。
母:わ、わかってるわ……や、やればいいのよね……
うう、恥ずかしいけど……したかない……いくわよ……
(息を吸う)
『マジカルー…レボリューション! プリティンラブリンーパワー!』
(光と共に母、魔法少女に変身、ポーズを作る)
母:変身! ユリのように清らかなる愛の戦士! 魔法少女マサコ!
猫:よし、こっちだ、行くぞマサコ!
母:ああん! ねえこれ、どうしても言わないとダメ!?
何度やっても慣れないわぁ!
猫:仕方ないだろう、それが呪文なんだから。
こっちだって少女じゃない、微妙な年齢の魔法少女は想定しないからな。
母:微妙って言わないでよー! 私だってできることなら普通のおばさんでいたかったわよー!
猫:グダグダ言ってないで付いてこい! こっちだ!
母:あ、ねぇ、この格好で外歩くの恥ずかしいんだけど、何か羽織っていい?
猫:ダメに決まってるだろう! そんなことしたら魔法パワーが消えて、普通の人間になってしまう!
急げ、犠牲者が出る前に!
母:あーん、わかったわよぉ!
(現場へ急行)
猫:見えて来た、あそこだ!
母:え、あそこって、サナエの学校じゃない!
猫:そうだ、あの屋上にいるのが、今度のジョッカーだ!
母:ええー! この格好で、サナエの学校に行くの!?
私、保護者会とかで顔知られてるんだけど!?
猫:そんなこと行ってる場合じゃないだろ! ほら、早く!
母:えーん! 今は屋上に誰もいないけど……誰も来ませんように!
(母と猫屋上に着地)
母:そこまでよ! あんたたちの好きになんてさせない!
この町の平和は、この魔法少女マサコが守る!
天に代わって……成敗よ!
えいっ! はっ! たぁ! とぉ!(戦う)
猫:マサコ、後!
母:きゃ! いたーい! もう何するのよ! えーい! ミラクルキック!
……ふう、なかなか手ごわいわ。
仕方ないわね、デコポン! 必殺技を出すわ!
猫:了解だ。受け取れ、マジカルスピリチュアルステッキだ!
母:え、ちょっと! もっとゆっくり投げてよ! わーん! 落としたぁ!
猫:まったく、それくらいキャッチせんか!
母:えーん、そんなこと言ったってぇ……よし、拾ったわ!
行くわよ! はぁぁぁーーー!
くらぇーープリティンラブリンビーム!
(ジョッカー倒れる)
母:ふう、ふう……なんとか倒したわね……
猫:よくやったマサコ。さ、人が来ない内に引き上げるぞ。
母:そうしたいけど、ちょっとまって……息が切れて……はぁ、はぁ……
猫:これくらいで、そんなに息が切れるものか?
母:わ、私をいくつだと思ってるのよ……はぁ……よし、なんとか。
さ、早く帰って、午前中にお洗濯してから、夕食のお買い物に行かないと。
今日はお昼からスーパーでセールなんだから急がなきゃ。
(娘入ってくる)
娘:あーだる。ちょっと屋上で休憩でも……って、え! お母さん!?
母:さ、サナエ!
娘:なんで学校にいるの?
母:え、えっとそれは、その……! 次の保護者会の打ち合わせとかその……
娘:そんな格好で? なに、そのミニスカ! 変なカチューシャ! ハートのステッキまで持って! ……へ、変態!
(娘、走って去る)
母:まって、これには訳があるの、サナエ!
猫:おい、マサコ! その格好で下に降りていいのか?
母:あ、そうだ! それは、ダメだわ!
猫:バレてしまったものはしかたない。一旦家に帰って、後で説明するしかないだろう。
母:そうね……ああ、ついにバレてしまったわ……どうしましょう!
(夜遅くにこっそり帰って来たサナエ)
娘:……もう、2人とも寝てるよね。
父:遅い!
娘:げ
父:こんな時間まで何やってた! 心配したんだぞ!
娘:ほっといてよ!
父:ほっておけるわけないだろう! お母さんだって、心配でまだ起きてるんだぞ。
娘:お母さんなんて……
父:いいから来い、ちゃんと話すから。
(居間で4人集まる)
母:ごめんね、サナエ、今まで黙ってて。
父:最初からちゃんと話すから、聞いてくれ。
娘:何よ! 聞きたくない! お母さんの特殊性癖の話なんて!
母:ああ! やっぱり、そう思われるわよね!(よよ、と泣き崩れる)
父:マサコ! サナエ……お母さんに謝りなさい!
娘:なんでよ! いつも私ばっかり……
猫:うーん、なんだか話が進まないのう。わしから話した方がよさそうじゃな。
娘:ええっ! デコポンが喋った!?
猫:まあ、落ち着け。話すのは初めましてじゃなサナエ。
わしは魔法国の使者にして魔法少女の使い魔じゃ。
娘:え、なに? どうなってるの? スピーカーついてる?
猫:こらこら、あちこち触るな、くすぐったい!
娘:え、本物?
猫:まあ、すぐには信じられんのも無理はないがな。
先ほども言ったように、わしは、魔法の国から遣わされた使者。
そして、サナエの母…マサコがわしに選ばれた魔法少女なんじゃ。
娘:え……?
母:そういうことなの、黙っててごめんね。
娘:魔法……『少女』?
母:そうよね、普通、そこにひっかかるわよね? わかるわ! 無理もないわ!
私もひっかかってはいるのよ!
父:でもな、サナエ。お母さんは魔法少女として、この町の平和を護るためにジョッカーと戦っていたんだ。
娘:ジョッカー?
猫:人間が出した悪い感情から生み出された悪の存在。それがジョッカー。
ジョッカーを倒せるのは、聖なる力をもった魔法少女だけなんじゃ。
娘:なにそれ、魔法少女アニメのベタベタなお約束設定じゃない。
母:そうよねぇ。お母さんもまさか実在するとは思わなかったわ。
娘:……ねぇ、お父さんは知ってたの?
父:ああ……俺も最初は戸惑ったけど、今は受け入れているよ。
娘:そんな! なんでお母さんなの? 少女ならいっぱいいるじゃない。
父:それなんだが……実はな、サナエ。魔法少女に選ばれたのはお前だったんだ。
娘:え?
猫:そうじゃ。あれは去年の夏。
わしは魔法少女としての資質をもつサナエをスカウトするためにこの家に来た。
が! ……部活の夏合宿で留守だった。
一旦、帰ろうとしたら、マサコが……
母:だって、娘に、そんな危ない事させられないと思って。
猫:……自分が代わりになれないかと申し出てきたんじゃ。
娘:はあ?
猫:最初は、わしもそんな馬鹿なと思ったんじゃがな。
少女ではない魔法少女は前例がないし。
だが、わしの力で適性検査をしてみて驚いた。
なんとこのマサコには、魔法少女としての適正があったのじゃ!
父:そう。あの日からマサコは、この町を守る魔法少女になって、デコポンも家族として迎え入れることにした。
娘:あー夏合宿から帰ってきたら、急に猫飼うとか言い出したのは……
猫:そういうことじゃ、サナエはわしをみるなり「なにその目つきの悪い猫!」ってけなしたわりに、2人だけになると猫じゃらしで遊んでくれたり、こっそりおやつをくれたり、一緒に寝たり……
娘:わわ! ちょっと! 言わないでよ!
母:そうだったの、サナエ? 猫嫌いなのかと思ってたわ。
娘:うるさいわね! そんなことどうでもいいでしょ! 問題は、お母さんが魔法少女って事でしょ!
父:うん、サナエの気持ちも分かる。お母さんが、フリフリのミニスカで戦っているのは……まあ、複雑だよな?
お父さんは、逆にアリかなと思えてきて、ときどき個人的にお願いしたりしているが……
母:お父さん!
父:(咳払い)ああ、すまない。そういう訳だから、どうかサナエも理解してくれないか?
娘:お母さんが……私の代わりに……
母:いいのよ、気にしないで! お母さんが好きでやってることなんだから!
娘:は? 好きでやってるの? あの格好を?
母:……そ、そうよ! 好きでやってるわ! 悪い!?
今はほら、多様性の時代だし!? オバサンの魔法少女が居たっていいじゃない!
娘:だから! オバサンの魔法少女って言葉がすでに日本語としておかしいんだってば!
母:とにかく! 私は、魔法少女をやめるつもりはありませんから! この話は、もう終わり!
娘:そんな! 私は嫌よ! 母親が魔法少女なんて!
父:サナエ……。
娘:ねぇデコポン、魔法少女を変えることはできないの?
猫:は?
娘:だってどう考えてもおかしいでしょ? 他の人に変わってもらってよ!
猫:うーん、魔法少女の資質をもった人間は少なくてな。
娘:そこをなんとか! お母さんがフリフリミニスカでハートのステッキ振ってるなんて、私、学校でいじめられちゃう!
猫:うーん、代わりはいないこともない。サナエ、お前なら。
娘:え?
猫:忘れたのか? 元々、この町の魔法少女候補は、サナエだ。わしだって最初はお前をスカウトに来たのだ。
娘:……あー……うーん……
猫:どうだ? 代わるか?
娘:それは……
猫:わしとしては、どっちでもいいぞ。母でも娘でも。
娘:……それはその……他の人ってムリ?
猫:探してみてもいいが、時間がかかる上に、可能性はかなり少ないぞ。
そもそも魔法少女の資質を持った人間が、同時に2人存在することが、奇跡に近いのだ。
おそらく、サナエが特殊体質で、周りの人間の資質を目覚めさせているのでは、と思うが、詳しくはわからんな。
……で、どうする? 代わるのか? 代わらないのか?
娘:それは、えっと、ほら……急に言われても、ほら、ね? 色々と……だから……
父:サナエ……正直に言っていいんだよ? やりたくないんだね?
娘:う……
母:サナエ……
娘:そうよ! やりたくない! 絶対嫌よ、あんな格好!
学校でめちゃくちゃからかわれるじゃない!
ねぇ! せめて、コスチューム変えてくれない!?
猫:あんな格好とはなんだ。あれは聖なる魔法の力を秘めた由緒正しい装束(しょうぞく)。あの格好でなくては、魔法は使えないのだ。
娘:なにそれ! 考えた奴、連れて来なさいよ!
猫:そうか? 地球でも子供には人気なんだがな?
娘:それは幼稚園児とかの話でしょ!
母:大丈夫よ、サナエ。無理しないで、これからも私が魔法少女として、この町を守っていくから!
娘:それも嫌! 母親が魔法少女とか! もう家出したい!
母:そんな……そんなこと言わないでサナエ……。
父:サナエの気持ちも分かるが、魔法少女がいないとこの町の平和が守れないんだ。
娘:嫌ったら嫌!
父:こまったなぁ……どうしたものか……
母:うーん……
娘:うーん……
猫:ううむ……
父:うーん……とりあえず、今日はもう遅いし寝るか。明日また家族会議だな。
母:そうね、明日も早いし。そうだ、サナエ。
娘:なに?
母:明日のお弁当、卵焼きは甘いのとしょっぱいのどっちがいい?
娘:もう! お弁当いらないって言ってるでしょ! パン買って食べるから、いい!
母:……サナエ……
(サナエ 去る)
父:まったく反抗期とはいえ、こまったものだなサナエにも。
母:ううん、私が悪いのよ。サナエに変身した姿を見られたりしたから……。
父:マサコのせいじゃないよ。それに……魔法少女の格好、かわいいよ?
母:もう、ハルヒコさんたら……
父:はは、本当だよ、マサコは何を着ても似合うね。
母:やだ、ハルヒコさんの方が、かっこいいわ。
猫:また始まった、付き合いきれん。わしはもう寝る。(あくび)
(猫 去る)
父:そうだ、寝る前に、久しぶりに一杯どう? 気分治しに、とっておきのウィスキーでも。
母:いいわね……そうね、少し、飲みたいわ。
父:酔って俺を襲ってもいいんだよ?
母:もう! いやだわハルヒコさんたら!
父:はは……さて、氷あったかな?
(深夜)
猫:大変だ! ジョッカーが現れた! 起きろマサコ!
父:なんだって! こんな時間に!?
猫:ああ、今回は特に反応が大きい、おそらく四天王の1人だ! このままでは、町が危ない!
父:あ、でもマサコは……
猫:マサコ! おい! マサコ!
母:(寝息を立てている)んーむにゃむにゃ……
父:すまん、元気付けようと思うあまり、飲ませすぎて、爆睡している。
こうなったらマサコは朝まで起きない。
猫:そんな! それは困る! おい! マサコ! 起きろ! お前にしかこの町は救えないのだぞ!
母:ん……(酔って寝ぼけている)あはは……やだーもーハルヒコさんたらー!
それは、掃除機じゃなくて、木工用ボンドよ?
猫:何を言っているのだ?
父:あーえっと……
母:はははは……もーだからぁ! それは帽子じゃなくて、鏡餅だってばぁ!
ははは……もう、ダメじゃ……な…い……抽選に漏れたからって、充電器、投げちゃ……(寝息)
猫:これは……
父:マサコは泥酔するとこうなんだ……でも、ちょっと、かわいいだろ? ぽっ……
猫:ぽっ、じゃない! 惚気てる場合か! どうするんだ! おい! 起きろマサコ!
母:ん……なあに……? もうサナエったら、またお弁当置いていって……どうして?
今日こそは食べてくれるかもって、あなたの好物を毎日作ってるのに……
サナエが置いてったお弁当を、お昼に一人で食べるの……悲しんだから!
もーバカバカ! ……やっぱり……私がお母さんじゃ……嫌……な…の……かな……あ……(寝息)
父:マサコ……
猫:マサコ……って! しんみりしてる場合か! とにかく早く起こしてくれ!
父:いやー起きたところで、この調子では戦わせるのは無理だろう……困った。
(娘起きてくる)
娘:ちょっと、なに騒いでるの! いま何時だと思ってるのよ!
父:サナエ! 起こしてすまない……実は、かくかくしかじかで!
娘:え!? ジョッカーが現れたのに、お母さんが酔いつぶれて起きなくて、迎撃できる魔法少女がいないから、この町が滅ぶかもしれない!?
父:……この説明でよくわかったね? そう! つまり! そういうことだ!
娘:うーん……(しばし悩む)……デコポン! 私なら魔法少女になれるんだよね!?
猫:え? ああ。
父:サナエ、まさか……
娘:私を魔法少女にして! だって、私しかいないんでしょ?
父:ダメだ!
娘:でも、他に方法がないんでしょ? 私……これでも生まれ育ったこの町に愛着あるし……
父:ダメだ、お前はまだ子供だ! 俺の大事な娘だ! 今回のジョッカーは四天王の一人、勝てるかどうかわからない強力な敵……中ボスなんだ! 行かせるわけにはいかない!
娘:お父さん? 私のこと心配してくれるの?
父:そんなの当たり前だろう!
娘:お父さん、お母さんと再婚してから、私の事、どうでもいいんだと思ってた……
父:そんなわけないだろう! サナエは、一生、俺の大事な娘だよ。
猫:ん? まてまて? この夫婦、再婚だったのか? マサコとサナエは血がつながってなかったと? わし初耳なんですけど?
父:ただその……ほら……なんというか……思春期で難しい年頃だろ?
お父さんも、距離感を掴めなかったというか……
『お父さんと洗濯物一緒にしないで!』とか言われるのが怖かったというか……。
娘:お父さん、そうだったんだ……
父:本当は、サナエとも、カラオケ行ったり、一緒に買い物行ったりしたかったけど、嫌がるだろうと思って……『パパとデート!』とか憧れては、いたんだよ?
娘:そんな、もっと早く言ってくれればよかったのに……
父:そうだ! サナエに行かせるくらいなら……デコポン! 俺が行く! 俺を魔法少女にしてくれ!
娘:え? お父さん、何言ってるの!?
猫:また無茶苦茶なことを、今まで男の魔法少女なんて……!
父:細かい事は気にするな! 時代は多様性! いいから! 俺を! 魔法少女にしろ! 早く!
猫:ぐ、ぐるしい……離せ!
わかった、わかったから、適性検査だけしてやるから! 離せ!
父:早く! 早く!
猫:はぁはぁ……まったくいたいけな猫ちゃんになんてことを……
じゃいくぞ、動くなよハルヒコ……ピピ、ピー……適性検査、開始……
検査結果……陽性。
……適正、アリ……そんな馬鹿な!
父:適合したんだな! なんでもいい! 早くしてくれ早く!
猫:だ、だから……く、首を絞めるな、く、くるしい!
父:ああ、すまない! つい!
猫:はぁはぁ……では、今から言う呪文を唱えろ……っと……で……だ!
父:ええとちょっと待って、もう一回言って? メモるから……ふむふむ……こうでいい?
猫:いや、ここが違う……が……だ。
父:なるほど……これでいいかな? よし!
娘:お父さん!
父:『マジカルーレボリューション! プリティンラブリンーパワー!』
(父、変身する)
父:『変身! バラのように可憐なる光の戦士! 魔法少女ハルヒコ!』
猫:おお! 本当に変身できた!
娘:お、お父さん……
父:こ、これが俺……なんか力があふれてくる……。
猫:それはそうだろう、魔法少女に変身すると、体の中にプリティンラブリンパワーが宿るからな。
父:なんかよくわかんないけど……よし! これでジョッカーと戦えるんだな!
行こう、デコポン!
娘:本当に行くの? お父さん!?
父:ごめんな、サナエ。こんなフリフリでミニスカなお父さんなんて嫌だよな?
でも、俺は、この町を……なにより、サナエとお母さんを守りたいんだ!
嫌いになってくれてもいい! お父さんを、行かせてくれ!
娘:お父さん……今のお父さん、かっこ悪いけど、かっこいいよ!
父:サナエ……どっちなんだい?
娘:ごめんなさい。
私……お母さんにヤキモチ焼いてたの。お父さんのこと取られたみたいで。
……でも、私、お父さんとお母さんにこんなに大事にされてるんだって、よく、わかった。
……今までごめんなさい!
父:サナエ……やっとわかってくれたんだね。
俺とお母さんは、サナエのためなら、なんだってできる。
いつだって、大事に思ってるよ。
娘:ありがとうお父さん……その格好で言われると台無しだけど、ありがとう。
父:サナエ……お父さん、がんばるから! 立派な魔法少女として、絶対四天王を倒してくる!
娘:うん、信じて、待ってる……お母さんと……
父:あ、お母さんは後で水飲ませてやって? このままだと二日酔いになるから。
娘:うん。わかった。
父:あと、ごめん、お母さん、明日用のご飯仕込むの忘れてるからやっといてくれる?
後でお父さんがやろうと思ってたんだけどさ。ちょっと何時に帰れるかわからないし。
娘:わかった、2合?
父:いや、3合かな。
猫:はよ、せい!
父:そうだった! 行こう、デコポン!
猫:ああ、こっちだ。
父:あ、なんか羽織っていい?
猫:ダメだ!
(間)
父:そこまでよ! あんたたちの好きになんてさせない!
この町の平和は、この魔法少女ハルヒコが守るわ!
天に代わって……成敗よ!
えぃ! はぁ! たぁ! とぉ!
そこだ! ……プリティーパーンチ!
……く、やるわね……こうなったら! くらぇ! プリティンラブリンビーム!
(間)
猫:(M)そして、魔法少女ハルヒコの活躍によってこの町の平和は保たれたのだった。
ハルヒコは強かった。さすが男。
(間)
娘:さて、と……
猫:(猫の鳴き声)
娘:あ、デコポン、行ってくるね。
母:サナエ、お弁当!
娘:ちゃんと持った。
母:あら……
娘:……今までごめんなさい。
母:え? 何か言った?
娘:なんでもない。お弁当……卵焼きは甘い方が好き、かな。
母:え、そうなの? やだ、今日はしょっぱいのにしちゃったわ。
娘:どっちでもいいよ、お母さんの料理……おいしいし。
母:サナエ……
娘:行ってきます!
母:いってらっしゃい!
0:(父、入ってくる)
父:どうやらサナエも少し大人になったようだね。
母:そうやっていつか私たちの手を離れてしまうのね。少し、寂しい気もするわ。
父:そうだね。でも、俺がいるだろう?
母:そうだけど、それとこれとは別だもの……
父:サナエばっかりかまうと、今度は俺が拗ねるよ?
母:もう、ハルヒコさんたら!
猫:あー毎度、お取込み中、すみませんねぇ! またジョッカーですー!
母:まあ大変!
父:よし、俺が行く!
母:え? でも、仕事は!? ちょっと!
父:『マジカルーレボリューション! プリティンラブリンパワー!』
(父、変身する)
父:『変身! バラのように可憐なる光の戦士! 魔法少女ハルヒコ!』
猫:行くぞ! こっちだ!
父:マサコ、悪いが、職場にはフレックスで遅れて出社すると伝えてくれ!
母:ハルヒコさん……
父:行ってくる! 待ってろよジョッカー! 今倒してやる!
(間)
母:(電話)もしもし、あの……お久しぶりです、部長。
あ、はい、おかげさまで、元気です。
実は夫はちょっと所用で、遅れて出社します……はい、はい……申し訳ありません。
あの、それと……私も職場に復帰しないかって話、前向きに考えようと思うんですけど……ええ……その、夫が、しばらく忙しくなりそうですし……娘もしっかりしてきたので……
ええ、私も、がんばろうと思いまして……はい……はい……
(間)
父:プリティンラブリンビーム! この町の平和は、私が守る!
天に代わって……成敗よ!
【完】
魔法少女も多様性の時代です(1:2:1)