zoku勇者 ドラクエⅢ・その後編 エピ73~76
エピ73・74
消えた故郷
「……じゃあ、行くよお、皆、チビの傍に来てね……、
行きたい所を思い浮かべて気持ちを一つにしてね」
「おい、バカ猿、ちょっと待てりゅ……」
思い出したように小悪魔がジャミルを呼びとめる。
「な、何だよ……」
「約束、……忘れてないりゅよね……?リトルの夕ご飯……」
小悪魔が舌をペロペロ、……でかい顔をジャミルの顔に近づけてくる。
「分ったよ、……たく、急に思い出すなよ……」
「何の話だい……?」
アルベルトが小悪魔とジャミルを交互に見た。
「色々あるんだよ、人生は……、さあ、チビ、頼むぜ!」
「うんっ、……えいっ!!」
4人とチビの姿がその場からあっと言う間に消えた……。
「!!」
待ち構えていた最悪の光景の惨劇に4人は目を見張る……。
「畜生、……やっぱり間に合わなかったのかよ……」
「きゅぴ……、誰もいないよ、お城の中……、ぼろぼろだよお、
……チビが初めて此処に来た時の……、あの優しい匂いも、
もうしないよ……」
「チビちゃん……」
肩を落とし、震え始めたチビの背中をアイシャが支えて、そっと撫でた……。
「さ、探そうよ、まだ誰かいるかも……、でも、元々のお城の人数が……」
「ダウド、悪い方向に考えんな、さあ、城の中を探してみようぜ……」
ジャミルを先頭に4人は廃墟と化した城の中を歩き出した。
……誰か一人でも生き残っていて欲しいと願う思いに駆られながら……。
「……きゅぴ、お部屋……」
「あ?」
急にチビが立ち止まり、反応を示す。
「誰かいるのかい?何か感じたの!?」
アルベルトが急いで聞くと、チビがこっくりと頷く。
「うん、……この先のお部屋に……、まだ誰かの気配がするの……」
「多分、ホビットのおっさんだな、行ってみようぜ!」
「ちょ、でも……、あの変な危ないお兄さんかも知れないよお……」
「誰だろうと、とにかく確かめるっきゃねえんだよ!」
ジャミル達は急いで只管廊下の奥の部屋まで走る……。
「お、お……、おっさん……!!」
「……」
部屋の中に倒れていたのは……、ホビットの一人であった……。
ジャミルは慌ててホビットに駆け寄り、介護する。
「しっかりしろよ、今、べホマを掛けるからな!」
「その声は……、……うう、勇者様……、達……、ですね……?」
「そうだよ、もう大丈夫だ、安心しな!」
「私はもう駄目です……、私の為に大切なMPをどうか無駄に
なさらないで下さい……」
「何言ってんだよ、怪我人は黙ってろよ!……ごめんな、俺達が
遅くなっちまった所為で……」
しかし、ホビットはジャミルが魔法を掛けようとした手を遮る様に
ジャミルの手に触れた。
「きゅぴ、おじさん……、チビ……、黙ってお城を出ちゃって
本当にごめんなさい……」
「チビ様も……、其処に……いらっしゃるのですね……」
「うん……、おじさん達にちゃんとごめんなさいがしたくて……、
チビ……、帰ってきたんだよお……」
チビがホビットの近くに寄ると、ホビットは弱々しい手で
チビに触れた。
「……ご無事で何よりでした……、本当に良かった……、
安心しました……、チビ様のご無事が分っただけでも……、
私はこれで安心して旅立つ事が出来ます……、女王様の……
主の元へ……」
「きゅぴっ!?」
「……何言ってるんですか、諦めちゃ駄目ですよ!!」
「そうだよお!!……頑張って!!」
「ねえ、ジャミル……、早く魔法を……、お願い……!!」
仲間達もホビットを励ますが、ホビットは黙って首を横に振った。
「……この城を襲ったのは……、どうやら闇の遣いの者……、
らしいのです……、奴は……、世界中のすべての光を闇に変えると
言っておりました……、お、恐ろしい力を持つ黒い波動のドラゴンを
従え……、この城の中の光の力を全て奪い尽くしていきました……」
「あの変態野郎めっ、……くそっ!!」
「あ、あまり考えたくないんだけど……、もしかして、
あの変態お兄さん……、上の世界を闇にしようとしてるんじゃ……」
「可能性はあるね……、はっきりとした目的は分からないけれど……」
ダウドの言葉にアルベルトが顔を曇らせ、強く唇を噛んだ……。
「そんな事の為に……、お城を襲って……、そして行く行くは
チビちゃんの力をも奪おうとしているの……?そんな事……、
絶対許さないんだから……!!」
「……とにかく、今はちゃんと治療させてくれよ、おっさ……、
おっさん……?」
だが、もうホビットは朽ち果てる瞬間であった……。
「きゅぴっ!おじさん、死んじゃダメだよお、チビ……、ちゃんと
此処のお城にずっといるよ……、だから……」
「最後に……、皆さまにお願いがあります……、どうか……、
チビ様の事を……お願い致します……、チビ様もどうか……、
これからはご自身の幸せの為にも自由に生きて下さい……、
そして……、必ず……、この城に隠された……、な……ぞを
……皆さまなら……、き……、… ……」
「……おっさんっ!!」
「きゅぴいいーーっ!!」
ジャミルとチビが必死で呼び掛ける中、等々ホビットは息絶え、
僅かであった女王の城の民は滅びた……。
「……きゅぴ~、……チビの……本当の帰るお家……、もう
無くなっちゃったよお、チビ、独りぼっちだね……、チビが
家出なんかしたから、バチが当たったんだね……」
堪えきれなくなったのか、チビがアイシャに抱き着いた……。
「……チビちゃん……、お願い……、泣かないで……」
「何言ってんだよ、なら、ずっと俺らと一緒にいればいいだけの事だろ!」
「ぴ……、ジャミル……」
「城は滅んじまった、けど、お前は此処にいる、大丈夫だ……、
もうずっと俺達と一緒にいられんじゃねえか、……自由に生きて
いいんだって、おっさんもそう言ってたろ?」
「そ、そうだよお!チビちゃんとオイラ達、本当にもう……、
ずっと一緒にいていいんだよ!」
「きゅぴ、チビ……、皆とずっと一緒にいて、迷惑掛けないの……?」
「……チビちゃんが今よりもっと大きくなったって、
それはそれで後で考えればいいのよ、もう世界を守る力とか
関係ないわ、チビちゃんはずっと私達と一緒にいていいんだからね!!」
「うん、チビ……、今は心も身体もゆっくり休めるんだよ……」
「……アル~、みんな……、きゅぴ……、チビ……、独りじゃないんだね……」
「ああ、けどその前に……、闇の国からの変態をどうにかしなきゃな……、
チビ、此処から出よう、……大丈夫か?」
チビはこくっと頷き、皆を外で待つラーミアの元へと再び運んだ。
そして、4人は再び無人島を見つけて、夜を超す……。
「はあ、だけど……、またエライ事になっちゃったねえ、
……オイラ達……、また世界の命運を掛けた戦いに
巻き込まれるのかあ……」
「仕方ねえだろ、チビとこの世界の為に……、俺らは動かなきゃ
なんねんだよ……」
「きゅぴ……、チビ……、ずっと……、みんなと……」
「チビちゃん……、疲れたのね、悲しい思いさせちゃったけど……、
今日は頑張ってくれて本当にありがとう……」
アイシャが膝の上で眠るチビを優しく撫でると、チビも安心した様に
安らかに寝息をたてた。
「ジャミル……、こうなった以上……、僕も一刻も早く魔法力を
取り戻したい、その為のヒントをもしも貰える事が出来るのなら……」
「分ってるよ、次の目的地だな、ダーマへ行こう」
ダウドとアイシャもアルベルトの顔を見て頷いた。
「有難う、皆……」
「パンに塗る奴かりゅ?」
急に小悪魔がずけずけと話に割り込んで来た。
「それはラーマだろ……、苦しいな、お前……」
「フン、食えないのはいらんりゅ、……ねるりゅ!」
小悪魔はふんぞり返って、すぐに鼾をかき始めた。
「はあ、どうしようもねえ奴だなあ……、たく……」
そして、夜中……、チビの手前上心配させない様、皆には
ああ言ったがジャミルは眠れず何度も不安で目を覚ました。
「ゾーマの時と違って、奴は進出規模だ……、どう対処して
いいんだよ、おまけに非常識なすげー力も持ってる……、
さっぱり分かんねえや……、こうしてる間にも……」
「おい、バカ猿、寝ないのかりゅ?」
小悪魔がジャミルの顔をじっと見つめている。
「あー?お前こそ早く寝ろよ、りゅーりゅーうるせんだよ……、
しかもすげー、ニンニク臭えし……」
「フン、足りない頭で考えるから悪いのりゅ、アホなバカは
馬鹿らしく、ぼーっと鼻でも垂らしておままごとでもしてれば
いいのりゅ!」
「っ……、相変わらずカチンとくんな、お前はよう……」
「けけっ、人を不愉快にさせるのがリトルの趣味りゅー!
けけっけけー!!」
小悪魔はジャミルを散々からかうと急にパタッと倒れ、
眠ってしまった。
「おい……、この野郎……」
「ぐーかぐーか!!」
「……ま、考えた処で、どうにもなる訳じゃねんだけどよ……」
そう言いながらジャミルは、両手を頭の後ろで組み、仰向けになって
星空を見上げた……。
アルベルト、迷いを断ち切る
「おはようきゅぴ!」
いつもと変わらぬ笑顔でチビが起き、皆に挨拶を交わした。
「……チビ、大丈夫か?」
「うん、チビは大丈夫、ジャミルもアルもアイシャもダウも、
リトルも側にいてくれるから……、だからチビ、淋しくないよ?」
「そうだな、全部終わったら……、アリアハンへ帰ろうな、
あそこならきっと、町の皆にも話をすればチビをきっと
受け入れてくれる筈だ、な?」
「……きゅぴ、チビ、町の皆とちゃんと仲良くなれるかなあ……?」
「大丈夫よ、絶対!」
アイシャがそう言うとチビも笑顔になった。
「リトルはどうするの?リトルもオイラ達と一緒に来る?」
「……お断わりりゅ、リトルはリトルで勝手にやるりゅ、オメーラと
なんか組むのはこれっきりゅ、まだ終わってもいねーのに、先の事
言ってんじゃねーりゅ、とっとと終わらせろりゅ、バカチン共めが!!」
「何だかんだ言って、結局僕らに付き合ってくれるんだね、ありがとう」
「フン、知らねーりゅ……、それよりとっととラーマ行く
準備しやがれりゅ!」
「だから、ダーマだっつーの……、おい、ダーマはそのまんまじゃ
入れねーからな、ちゃんとリィトになっとけよ」
「バカ猿に言われんでも分かってるりゅ!早くパーマに行くりゅ!」
「何何?ジャミル、パーマ屋に行くの?」
……わざと言ってるんだろうと思う事にし、ジャミルは気を取り直してラーミアに乗った。
ダーマまでの道のりは快適で、これからこの世界にも闇が訪れるかも
知れない危機とはまるで無縁の青空であった。
「♪りゅ~りゅ~りゅ~りゅ~……」
「♪きゅーぴーぴーぴーぴぃ~、チビ、お歌うたうの大好きっ!」
小悪魔と一緒に無邪気に合唱するチビの姿は誰が見ても一見
楽しそうではあったが……。
「……チビ、無理してるね……」
「アルもやっぱりそう思うの?」
「ああ、本当は辛いのに……、僕らに悲しい顔を見せない様に……、
無理して明るく振舞っているんだよ……」
「うう、チビちゃん……、健気だよおお……」
気丈なチビの姿にハンカチでダウドが思わず顔を拭いた。
「……卑劣な事ばっかしやがる、絶対許せねえ……、あの変態野郎……」
と、ジャミルが真面目な顔をした処で……。
「きゅぴ、……チビ……、朝のお通じ……」
「あーあ、よっこらしょ、こっからリトルも地上目掛けてやるかりゅー!」
「たくっ、人が真面目な顔してみれば……!リトルっ、ラーミアに
叩き落とされるだろ、やめろっ!チビも、もう少し我慢しろっ!!」
「自分も前、やったくせに……」
「ねえ~……」
「何だ!?アル、ダウド!」
「何でも~!」
声を揃えるアルベルトとダウドの二人。
そして間も無くダーマ神殿に到着し、4人は再び神殿の門をくぐる。
勿論、小悪魔はリィトの姿である。
「こんちは……」
「おお、勇者様達ではないですか、お久しゅうございます、
しかし、そなた方はもう十分お強いようですが、又修行をなされに?」
「うんと、まあ、そんな処かな……」
「そうですか、強さには限界などありませぬ、どうぞごゆっくり己の技を
極めて行って下され」
ジャミル達は神官の許可を取り、以前と同じ様に二階の宿屋へ……。
「はあ、懐かしいねえ……、前に此処でジャミルがね、……カツの
食べ過ぎで……」
「へえ……、腹壊したんだ……、別に珍しい事じゃないと
思うけどね……」
ダウドはペラペラとリィトに余計な事を喋って聞かせる。
「……要らん事言わんでもよしっ!」
「あいたっ!」
「きゅぴ、大きくて広い神殿だねえ!」
「チビちゃん、後で神殿の中をお散歩しましょ!」
「あ、オイラも、オイラも!」
「皆は休んでてくれるかな……?その間に僕は神官様に色々と
話を聞いて貰うから……」
「ああ、……だけど、アル、あんまり思いつめんなよ……」
「ん?僕は大丈夫だよ……」
「僕は外で休ませて貰うよ、どうにも此処は僕には居心地が悪い……」
リィトはそう言い、外に出て行った。
「じゃあ、僕も神官様の所へ……、また後でね……」
「アル……」
心配するアイシャをおき、眉間に皺をよせ、アルベルトも
部屋を出て行った。
「まあ、任せようぜ、俺らにはどうにもなんねえ……」
「どうかアルにとって……、少しでも良い方向に向かいます様に……」
アイシャは心よりアルベルトの心の安らぎを願うのだった……
アルベルトは夜、神官だけになった転職の間に訪れる。
「神官様……」
「おお、あなた様は……、勇者様のお仲間の方でしたかな……」
「教えて下さい……、僕は……、今魔法が使えません……、
突然急に使えない状態になってしまったのです……、
こんな事があり得るのでしょうか……、一体、どうして……」
……決して仲間の前では見せなかった涙を流し、震えながら
アルベルトは自分の掌を見た……。
「……見た処、あなたは随分真面目なお方の様だ……、それ故に、
あなたのその真っ直ぐな性分があなた自身を苦しめてしまったのでは
ないですかな?色々な事が積み重なって精神にも影響を与えて
しまわれたのではないですか……?」
「分りません、……僕はどうしたらいいのでしょう……、一体
どうしたら……又再び魔法が使える様になるのですか?神官様、
どうかお教え下さい……」
アルベルトが神官に恭しく頭を下げる。
「……残念ですが……、魔法を取り戻せるか、それはこれから先、
あなた自身の戦いです……、私にはどうする事も出来ません……」
「……けれど、僕にはもう時間がありません……、
このままでは皆にも迷惑を掛けてしまう……」
「ですが、もしもこのままあなた様が魔法を失ったままだとして……、
お仲間様があなたを責めたりするでしょうか……?」
「あっ……」
アルベルトの脳裏に仲間達がアルベルトに掛けた優しい言葉が浮かぶ。
〔アルも少し、ちゃらんぽらんのジャミルみたいにさあ、
気を抜いた方がいいんだよお!〕
〔私達、これまでアルの魔法に何度も助けられたんだから……、
今は休憩の時なのよ〕
〔焦りが一番駄目だって言われたろう……、まあ、俺も一応MP少ねえけど、
多少は何とかなるし、アイシャもいるんだから大丈夫だよ、心配すんな〕
〔アルー、大丈夫、チビも皆もついてるよおー!だから、魔法は
ゆっくりお休みしてねー!〕
「例え、魔法が使えなくとも……、あなたはあなた自身の戦い方が
ある筈です……」
「僕……、自身の……」
「さあ、もう夜も遅いです、お戻りなさい、お仲間が心配されていますぞ……」
アルベルトは神官に再び頭を下げると、転職の間を後にする。
(僕自身が……、本当は今まで皆を信用出来なかっただけなのかも
知れない……、そう……、心のどこかで……、皆を見下していたんだ……、
僕がしっかりしなきゃの一点張りで……)
「ただいま……」
「おう、アル、話終わったか?」
「うん、話を聞いて貰ったよ、ちゃんとね……」
「あれ?アル、何か随分すっきりした顔してるねえー!」
ダウドがアルベルトの顔を覗き込む。
「本当ね、眉間の皺が消えてるわ……」
「きゅぴー!」
「……アイシャってば……、あのね、皆にも……、聞いて欲しいんだ……」
「ああ、早く言えよ!」
ワクワクした顔で皆、アルベルトの側に近寄る。
「もしかしたら、僕はもう、……このまま魔法が使えないかも
しれない、だけど、それならそれで、僕は武器で戦う、皆には本当に
迷惑を掛けちゃうかも知れないけれど……」
そう言ってアルベルトは暫く封印していた草薙の剣を取り出す。
「よしっ、それでいいんだよっ!もう魔法なんか使えなくたって
いいじゃん、アルはアルだ、なっ!?」
「……ジャミル、うん……、ありがとう……」
アルベルトが少し顔を赤らめた。
「そうよ、このまま攻撃魔法は私にお任せねっ!」
「アイシャ……」
「そうだよお、賢者の石もあるしー!回復は心配ないよおー!」
「チビも頑張るよおー!これからはブレスもっといっぱいボーボー
吹くからねー!!」
「ダウド、チビも……、本当に有難う……、意地を張るのをやめるって
こんなに簡単な事なんだね……」
仲間達の優しい励ましにアルベルトは新たに決意を胸に刻む。
そして、外に出たリィトは小悪魔に戻り木の枝にぶら下がっていた。
……ほーっ、ほーっ……
「ホーホーうるせーりゅ、バカフクロウめ……」
……ほおおーっ……!ほおおーっ!!
「どいつもこいつも皆バカりゅ、人間は……、
誰かを守るなんてアホらしくてやってらんねーりゅ、
……バカ猿、バカ金髪、バカヘタレ、バカ団子、
バカドラゴン……、全員バカ大集合りゅ……」
最近、そのバカ大集合のメンバーに小悪魔自身も加担している事実に
本人もあまり深く考えていないのだった。
エピ75・76
小悪魔、やらかす
此処、ダーマは手に職を求め、色んな人間が集まってくる。
己の力を試したいが為の人間、正式な職に就き仕事を求める人間、
無論、そうでない人間も……。
「さーて、これからどうすっか、変態野郎のちゃんとした詳細も
謎のままだしな、何時、どっから出てくるかも分かんねえし、
どうしたもんやら……」
「ねえ、リィトは何処行ったの?姿が見えないけど……」
ベッドの上で寝っ転がっているジャミルにダウドが聞いてみる。
「……社会科見学の一環だとよ、チビを連れて転職の間に行ったぞ、
バッグ借りて……」
「へえ、珍しいねえ……」
「……お主の求めている職は何じゃ?申してみよ……」
「はい、遊び人です……」
「もう一度……言うてみい」
「遊び人です……」
「帰れ!」
「ですが……、遠〇の〇さんなどは自称、遊び人ではないですか!
遊び人の何処がいけないのでしょうか……」
リィトはチビを連れ、神官と職業転職希望者のやり取りを只管眺めていた。
「バカだねえ、あー、バカだ!バカばっかりだよ!面白いけどさ……」
「ねえ、ドラゴンでも職業って持てるのかなあ?」
チビが何となく嬉しそうにバッグの中でパタパタ小さく尻尾を振った。
「……空飛ぶ運送屋にでもなったら?」
「きゅぴっ、じゃあ、チビ、大きくなったら運送屋になるっ、
うん、そーや!」
「……おい、あんまり間に受けないでくれよ、団子が噴火するからさ……」
と、言う処に又別の客がやって来た。
「……転職希望者です、お願いします……」
「ふむ、申してみよ……」
「えーと、女の子にモテそうな、お勧めの職業ありますか?」
「……帰れ……」
「あーあ、そろそろ飽きたよ、部屋に戻る……」
「きゅぴ?お部屋に戻る?」
「……おっと、ごめんよ!」
「うわ!」
ガタイのいい兄さんがリィトにぶつかってきた。
「……危ないな!気を付けてくれる!?痛いよ!あんた身体が
鋼なのかい!?」
「ははは、ごめんよ坊や、怪我しなかったかい?見てくれよ、
これ、凄い筋肉だろう?俺、今日から戦士に転職したんだよ、
これで真面な仕事が持てるよ!」
ガタイのいい兄さんはご機嫌でリィトに話し掛けるが、リィトは
不機嫌極まりない。
「……別にあんたのむさ苦しい話なんか聞きたくな……?
……そうだ……」
リィトが急いで部屋に戻ると、ジャミル達はトランプで
遊んでいる処だった。
「あんたら何やってんの?」
「おう、お帰り、大貧民やってんだよ、お前も混ざれよ」
「気を揉んでも仕方ないからね……」
「ほら、リィトも座って、一緒にやりましょ!」
アイシャが誘うが、リィトは呆れた様に拒否し、チビをバッグごと
アイシャに返した。
「フン、あんたらには付き合ってられないよ、又外に
出てくるよ……」
「ノリが悪いなあ、もう……、チビちゃんは遊ぶよね、
オイラの側においで」
ダウドが呼ぶと、チビは嬉しそうにダウドの膝に乗り、
一緒にゲームに混ざった。
「んじゃね、ちょっと、悪戯してくるよ……」
「ああ、行って来いよ」
「……」
ジャミルはリィトの言葉もまともに聞かず返事を返す。
部屋の外に出たリィトは小悪魔に戻り、ニヤニヤ笑った。
「けけっ、今、……行って来い、言いました?りゅ、
けけっ、けけけけ!!」
誰かに見つかったらどうするのやら、猛スピードで再び
転職の間まで飛んで行き、天井のシャンデリアの中に身を潜める。
「神官のじじいはどっかいってりゅね、お、客がきたりゅ……」
「ごめん下さいー、僕ら、転職希望です」
希望者は二人組のアベックらしかった。何処にいたのか、
少し場を外していたらしき、神官がのそっと又姿を現す。
「お待たせして申し訳ない、さして、どの様な職に就きたいと申すのか?」
「私達は、新婚なんですが、今度、二人で職を持ちたいと
思いまして、是非、夫婦で僧侶を営みたいと……、人様の役に立つ
職業に就きたく思います」
「ふむ、良い心がけじゃ、では、こちらへ……」
夫婦が神官の側に行き、転職の儀式を始める。
「それでは、この夫婦に新たな人生の門出を……!!」
「……リトルもお手伝いするりゅ!!」
神官が天の神からの力を夫婦に授けようとした瞬間、
小悪魔が邪魔をした……。
「どうですかな……?これでお二人は今日から正式に
僧侶として生きていく事が出来るであろう……」
「有難うございます、……私達……、何だかとても
遊びたくなりました……」
「ハイ……、真面目に働くのが何だか馬鹿らしくなって
きましたわ……」
「な、なんですと……!?」
「……けーっけっけっけ!恰好は僧侶だけど、リトルが魔法掛けて
遊び人にしてやったりゅ!人生は楽しく遊ばなきゃいかんりゅよ!!
けけけのけー!!」
シャンデリアに紛れて隠れながら、小悪魔が楽しそうにゲラゲラ笑った。
「おかしい……、ちゃんと僧侶の力を授けた筈だが……、
どうなされたのです?しっかりしなされ……」
「だって、やってらんねーんすよ、もう、ほーれ、ケツなんか
出しちまいますよ、ほーれ!」
男性の方が神官に向けてべろっとケツを出した。
「……なっ、なんという、破廉恥な!!恥を知りなさい、恥を!!」
やがて、他の転職希望者の客もやって来て、辺りは大騒ぎになった……。
「ぎゃはははは!!あいつ、くせーケツに、きたねーイボがあるりゅ!!
あー、おかしくてたまらんりゅ!!」
「……悪魔じゃ、……この部屋の中に悪魔が入り込んでおる……、
悪霊の気配じゃ……」
「りゅ…?」
急に神官が小悪魔が隠れている天井付近の方を見上げた。
「出てこい、悪霊め!!成敗してくれる……!!……~~~……」
「や、やべーりゅっ、退散っ!!マヌーサっ!!」
「おおっ!?何だこの霧は!!……補助魔法を使うとは……、
おのれ、こしゃくなっ!!」
神官が悪魔祓いの魔法の呪文を詠唱しだした為、小悪魔も
マヌーサを掛け、その隙にあわてて外へと飛んで逃げだす……。
この小悪魔が勇者一行の連れだとは神官もまさか夢にも
思わなかったのであった……。
「……悪魔じゃ、この部屋の中に……、悪魔が入り込んでおる……」
「何言ったって、負けは負けだよ、5連敗、ジャミルの負けだよ!」
アルベルトがポンとジャミルの肩を叩いた。
「……あうーっ!俺、……大貧民……、くうーっ!!」
「きゅぴ、チビ、大富豪、わあーいっ!!」
「凄いねえ、チビちゃんが一番だよお…」
「ホント、チビちゃんてゲームも強いのね……、うふふっ!」
「……はあ~……」
其処に、どうにかリィトに戻った小悪魔が帰って来た。
……結局その後、小悪魔に魔法を掛けられ、悪戯された
アベックもどうにか魔法の効果が切れ、元に戻って解決した
様子であった。
「お帰り、リィト、もうすぐ夕ご飯だよ……」
ダウドがリィトを出迎え、声を掛ける。
「アンタら今まで、ゲームしてたの?暇だね……、フン……、あれ?
バカ猿はどうしたの?」
「人生落ちぶれた……、もう終わりだ……、チビに負けた……」
「たかがトランプゲームでしょっ、もう~!!」
アイシャもジャミルの肩をばしっと叩く。
「……ジャミルはね、ババ抜きでもすぐ顔に出るから……、
いやらしいんだよお……」
「ああーーっ!もう一回、勝負、勝負っ!!」
「「嫌でーす!!」」
ジャミル以外の3人が口を揃えてお断わりを入れた。
「きゅっぴ!チビ、強ーい!!」
「……ああー、うう~……」
「でもね、チビも、もしも職業に就けたら、大富豪じゃなくて
空飛ぶ運送屋さんになって働くー!それで皆の為に頑張って
お仕事して、よいしょよいしょお荷物運ぶのー!!」
「……やば、バカドラゴンめっ!!」
「う、運送屋さん……?」
アイシャが目をぱちくりさせる。
「きゅぴ、リィトがアドバイスしてくれたー!!チビ、
ドラゴン印の運送屋さんになるの!!」
「あ、僕……、又外に……」
行こうとするリィトの後ろにアイシャが立つ……。
「……ねえ、リィト、あなた、チビちゃんに余計な事教えたの、
ねえ……?」
「うわーっ!僕は知らないーっ!!」
夢中で部屋から逃げるリィトの後をアイシャが追いかけて行った……。
「……やれやれ、今日は変な日じゃ、……又、誰が二階で
暴れておるんじゃ、神聖な神殿で……、勘弁して欲しいわい、
やはり悪霊がおるのか……、きちんとお祓いをしないとのう……」
椅子に座り、唸りながら神官が肩をコキコキ鳴らした……。
小悪魔、またやらかす
次の日、4人は神官にお礼を言い、ダーマ神殿を後にする事に。
「今後の事だけど……、一旦又アリアハンに帰るか、
ちょくちょく顔出さないと……、後が怖いしな……」
「あはっ、ジャミルったら!あんまりファラを心配させたら大変だものね!」
「……うう~……」
アイシャが笑い、ジャミルが顏をしかめて唸った。
「そうだね、それでもいいよ、どうするかゆっくり考えよう」
「あーあ、ラーミアはいいね、空が飛べてさ……」
「クィーっ!」
ダウドがラーミアを撫でるとラーミアも嬉しそうに鳴いた。
「きゅぴ!お空飛ぶのは気持ちいいよお!」
チビはそう言うとパタパタと尻尾を振った。
「どんな感じなんだ?空が飛べるってのはさ、耳鳴りとか
しないのか?」
「うーん?よく分かんないけど、とにかく凄く気持ちいいんだよお!」
「そうか……、成程……、空が飛べりゃ気持ちいいだろうな……」
「りゅ……」
この、ジャミルがチビに聞いた余計な一言が……、新たな騒動を
巻き起こす……。
(そうかそうか、バカ猿は空が飛びたいのりゅ、……この優しい
リトル様がその願いを叶えてやるりゅ、けけっ……)
「はあー、……やっぱ凄いねえ、船の移動だと数週間掛った場所も
あっと言う間だよお……」
「この調子だと、すぐにアリアハンまで行けるな、ラーミア、
頑張ってくれや」
「クィィーっ!」
ラーミアは一声鳴くと更に飛ぶスピードを上げた。
「しかし、この鳥……、最初はスピードがのろくて……、どうしようかと思っ、
……あう!」
「疲れたら適度に羽を休めるんだよ、じゃないと疲れちゃうからね」
ラーミアに気を配りながらも手はしっかりとジャミルの横腹を
抓っているアルベルト。
「……いっ!」
「でも、今日ももう暗くなってきたわ、何処かで休みましょう」
アイシャがそう言うと、ラーミアは速度を落とし地上へと降りる。
一行は適度な森を探して野宿する事にした。
「今日も夕飯は焼いたカンパンりゅね……、まあ、牛肉なんか
そんなに食わせて貰えないのは分かってりゅから、最初から
期待してないりゅ……」
そう言いながら、未練がましく小悪魔が横のジャミルを見た。
「オ、オホン……」
「ほら、リトル、焼きマシュマロもあるわ、食べなさいよ」
アイシャが串に刺したマシュマロを小悪魔に差し出した。
「……飯には甘すぎりゅ……」
一行は質素な夕ご飯を済ませると横になって身体を休めた。
「りゅりゅりゅ……」
夜中、皆が寝ている中……、小悪魔がのっそりと起き上がった……。
「夜はこのリトル様が支配するのりゅ、……リトル様の
悪戯タイムりゅ……」
「う~……、乾パン……、激甘マシュマロ……、もう食いたくねえ……、
いやだ……、ステーキが食いたい……」
食い足りなくてお腹が減っているのかジャミルが寝言を言い、
魘されている。
「なーに贅沢言ってるりゅ、このバカチンめが、リトルには
ちゃんと大盛り牛飯丼毎日食わせる言ったりゅ、約束は守れりゅ、
このバカ猿!」
フォークでジャミルの顔をちょんちょん突いてみる。
「う、ちくちくする……」
「さーてと、この、バカ猿と……、りゅりゅりゅりゅ!」
ジャミルとチビに小悪魔が近づき、ニヤニヤ笑った……。
翌朝……。
「……」
「お早う……、あれ、ジャミル……、珍しいね、こんなに朝
早いなんて……、もうお腹でもすいて、目が覚めたのかい?」
感心しつつもアルベルトが笑いながらジャミルに訪ねる。
「きゅぴ?……チビ、いつも早起きだよお……?」
「は?何言ってんの、ジャミル、そんなチビみたいな喋り方して……」
「きゅぴ、チビはチビだよお!アル、どうしたの?」
「え?ええええ!?……ちょっと、皆大変だよ!ジャミルがおかしいよ!」
アルベルトが慌ててダウドとアイシャを呼びに行くが……。
「んー?ジャミルがおかしいのはいつもの事じゃない……」
眠気覚ましのコーヒーを啜りながら落ち着いた様子でダウドが喋った。
「ねえ、チビちゃん……、もう朝よ……、どうしたの?いつも
早起きなのに……」
アイシャがチビを摩って起こすと……。
「あー?まだねみんだよ……、頼むから後10分……」
ブツブツ言いながらチビが寝返りを打ち、一発寝起きの
おならをした。
「……ど、どうしたのよ、チビちゃん……、何だか
ジャミルみたい……」
「アイシャ、ジャミルも様子が変なんだよ……」
「え、ええ?」
「その、……何だかチビみたいな……」
「……ぎゃーっはっはっはりゅ!あーっ、おかしくて
たまらんりゅ!!もう我慢できないりゅ!!ぎゃはははは!!」
様子を見ていた小悪魔が、等々、たまらず吹きだす。
「リトル……、あなた、また何かやったの……?ねえ……」
「!え、あああ、し、しまったりゅ、あまりにもおかしすぎて
つい吹いてしまったりゅ!」
「うふっ、やったのね……?ねえ……」
「……りゅ、りゅりゅーっ!!」
腕組みをし、半目で睨みながらアイシャが小悪魔に近づく……。
そして……、小悪魔はアイシャから10発、タンコブを
プレゼントされたのだった。
「うう、正直者はいかんりゅ……、リトルは悪魔族なのに……、
とほほほりゅ……」
「おい……、俺らちゃんと元に戻るんだろうな……?」
「ぴきゅう~……」
……チビの姿のジャミルが苛々した様子で小悪魔に食って
掛ろうとした。ジャミルの姿のチビは、逆に困って目を潤ませ、
オロオロしていた……。
「うわあ、今日のチビちゃん、何か可愛くないなあ……、
……反対にジャミルの方が可愛く見えるんだけど……」
「うるせーよ、バカダウド!」
「♪きゅっぴ!でも、チビ、こんなに早く走れるよおー、わーい!」
「……ジャミルっ!じゃなかった、チビちゃん、駄目よっ、
あーん、何か変な気分だわ……、調子狂っちゃうなあ……」
「フン、24時間立てば魔法が切れて勝手に元にもどりゅ」
「そんなにかよ!……たく、冗談じゃねえぞ……」
チビジャミルが頭を抱える中、段々慣れてきたのか、ジャミルチビは
2本足で思い切り走り回れる人間モードの姿に大喜びで燥ぎ回っている。
アルベルトもそんなおかしなコンビを見て、苦笑いした。
「仕方ないね……、魔法の効果が切れるまで、暫らくは
此処で休もうか……」
「は……、きゅぴ……」
走り回っていたジャミルチビが急に立ち止まり後ろを
振り返った……。
「何なんだよ、おい……、そのモーションはよ、
……まさか……」
チビジャミルの顔が青ざめる……。
「きゅぴ、……チビ、おしっこでる……」
頬に拳を当ててブリブリポーズで腰を曲げ……、
ジャミルチビが目を潤ませ、皆の方を見た……。
「……うわあああーっ!!お、俺の姿で……!
や、やめろおおおおーーっ!!」
静かな森に大絶叫がこだました……。取りあえず、大きい方で
なくて何よりであった……。
どうにか日も暮れ無事夜になり、魔法の効果もあと少しで
切れそうであった
「はあ、もう少しで今日も終わらあ……、たく、
冗談じゃねえや……」
「あはは、長かったね……、お疲れ様……」
チビジャミルとアイシャ以外は全員就寝モードであった。
「きゅぴー……」
「……ふんが、リトルはしったこっちゃねえりゅ、ざまあ、
けけっ……」
「の、野郎……、一発ブン殴ってやろうか……?」
「寝言よ、……それは私がしておいたからもういいよ、
後少しで戻れるんだから……」
「そうだな、あーあ、やっと元に戻れるか、やれやれ……」
「やっぱり、チビちゃんの格好で、その口調だと何か可笑しいわ……」
アイシャがチビジャミルの方を見てくすくす笑う。
「だよな……、けど、こんなんなってみると……、少しだけ
チビが羨ましいな……」
「え?」
「いつもお前に抱いて貰ってんのかと思うと……、え?
い、いや……、なーに言ってんだろな、俺……、あは、あは、
あははは!」
「抱いてあげようか?」
「え?だ、だから……、冗談……」
慌てるチビジャミルの身体をアイシャがそっと抱き上げ、
膝の上に乗せた。
「あったかいでしょ?……特別だからね……」
「……あ、ああ……」
アイシャが優しくチビジャミルを撫で、……チビジャミルはたまらず
うとうとしだす……。
(う、うはあ……、今だけはあの糞小悪魔に感謝すべきなのかな……)
「……きゅぴ……」
「……チビちゃん?」
アイシャが膝の上で静かに寝息を立てているチビを見た。
「……どうやら……、魔法が切れたみたいだな、ははは……」
ジャミルも自分の身体に触ってみて元の姿に戻ったのを確認する。
「そっか、チビちゃん、戻って来たのね、お帰り……」
もう一度、アイシャが優しくチビを撫でた。
「……」
漸く、元には戻れたが、なんとなく淋しい様な……、残念な様な……。
アイシャの膝ですやすや眠るチビを見つめ、複雑な感情が芽生える
ジャミルであった……。
zoku勇者 ドラクエⅢ・その後編 エピ73~76