真意、君の行方
静粛にと手を叩く議長の胸に挿さる花の名前を、だれか気にしたことはあっただろうか。そこにいるのはすべて、美というものとは程遠い、極悪非道な面々で、自分より弱いものが得を得ていると、それを力でねじ伏せるような慈悲のない者たちだった。
その中には女はおらず、適当に力のある中年の男どもで、みな肉を割ってのしのしとふんぞりかえって歩く、見るにみすぼらしいものたちだった。
この裁判は誰が一番強いか、誰が一番悪いかをとり決めるもので、総勢十名の悪人が一堂に会した。一人目と二人目は比較的若かった。不良グループのトップとして二十歳まで君臨したが、期待の新星(うちひとりは女に)に負けてここへ来た。ここからのしあがり次世代のトップになると意気込んでいる。
三人目から七人目までは老人だ。落ち着いた旦那とは違う、血気盛んで話の通じないじじいだった。
「おれは先月、杖をついたばばあから金をぶんどって、そんな端金じゃなにも買えねえってんで、ドブへ捨ててばばあを蹴り飛ばしてやったぜ」
耄碌した悪人のじじいは、そんなことを自慢げに楽しげに話し、椅子の上であぐらをかいている。
「そのばあさんはその後どうなったかね」
議長が尋ねる。するとじじいは知らないね、と言ったふうに手を振りかえし、目を合わせることもなく出された茶を煽った。
八人目、九人目、十人目はそれぞれ八十代、九十代、百五歳の老人で、足腰はよぼよぼ、資料として議長の手元にある若い頃の写真を見てもまったく面影がなく、何を支えに生きているのかわからないくらいの体つきだった。
「わいは昨日ここへくる時に乗った車のボンネットを杖でぶっ叩いて、エアバッグを無駄遣いしてやったぞい、面白いじゃろう」
百五歳が言う。年寄りの冷や水と言ったところだが、エアバッグが出るほど殴りつける体力があるのはすごい。カッカッカ、と年寄りらしく高笑いし、出された白湯を煽ってむせた。
自慢話が飛び交う時余、そろそろ一番を決めなければならない。一番になったら何が起きるか、それはこの会場の中では議長だけが知っている。さて、と議長が、なでつけた髪をずっと直して話し出した。
「ここにいる皆の中で一番の悪人、一番の猛者を決めようと思う。審判するのは私だけだ。皆はただ、結果が出るのを聞くのみとする。ただ悪人であることに変わりはないため、各々罰を受けてもらう」
会場はざわついた。一番は罪を赦され、罰を放免されると思っていたのに。話が違うと一斉に議長へかみついた。
議長は落ち着き払って息を整えた。
「宣言する。この部屋で一番強く、一番悪いのは、私だ」
朗々と発する議長の声に、皆きょとんとして互いの目をあわせる。議長は続ける。
「理由、私はこの部屋の十名に対し罰を与え、死へ追いやる権限を持つためである。よってこの部屋の十一名すべて、死刑とす」
その言葉の次の瞬間、兵隊が議長を含め十一人を捕らえた。抵抗しても兵隊の力は強く、全くはがすことができない。議長は胸元の花をそっとテーブルに置き、君はここで見守っていてくれと心の中でつぶやいた。それからほんの少し後、十一人は一斉に刑に処された。
それから、部屋の掃除をしに来た婦人がテーブルにギンバイカの花があるのを見て、めずらしいわね、と笑った。
真意、君の行方