「衛士」

 君の白き手に触れたるを
 (かす)かに(おぼ)ゆは冷たきこの手
 頬に、震えて触れたれど
 割れたガラスの温度ばかりが
 嘲笑ふやうに傷を生む

 君のなつかしき白い手、…かなしい手
 哀れをになう處女(むすめ)の手
 まるで山奥に幽閉された
 何も知らない幼い姫君のやう

 こはれた水晶の(ふところ)時計たづさえて
 水辺に咲く冬の白百合みつむれば
 鳥と唄って
 湖に泣くうつくしの我が君
 手毬の刺繍(ぬいあと)羽に持つ
 赤い鳳蝶(あげは)の草に眠るを慈しみ
 青い星に身体(からだ)ゆだねて
 なげ出した御足(みあし)は力無けれど
 うぶに恥じらう頬はすなおに頷く
 うつくしの君…白百合の君
 どうか(わたくし)の微笑みなど忘れて
 遠い故郷でしあわせになってください

 衛士は宮を守れり
 今でも一人守れり

「衛士」

「衛士」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-05-08

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