交差



待ち時間に選べる曲数は
君の方に寄せて、
どれから始めるのか。
その選択を、僕が迷った。



引き出しを開けて
そのままにしてしまえば、
その思い出の机は
形を変えて戻らなくなる。



失われた感情なんて
一つもないから。
前しか見ないその衝動。
後悔だけを僕に押し付ける。



時の流れは残酷だって、
有名な誰かが言ってたはず。
それは演歌歌手かもね、
と拳を握らない君が続けて



ホームの駅は明滅する。
予告通りの急行。
だからもう、
何を話しても聞こえない。



繋ぎっぱなしの手で
少しの汗をかいて、
真っ白な悪天候を見守る。
絵になれば、と切に願って。



神様からの贈り物なら、
もう突き返したから。
ただのノートに
何もかもを書き殴りたかった。



どこにも繋がらない
足跡みたいに。
点々として逃げるみたいに、
僕の真心を育みたかった。



それでも



痛くなるぐらいの
力を入れても、
君だけは平気な顔をして
一歩ずつ、近付いてくるから。



後ろ向きになりたい
僕の本音は、
漏れたため息の数だけ
誠実になっていく。



だから



鍛えられる。
厳しい寒さみたいに、
二人の会話が纏まっていく。
死にたくなるぐらいに美しく、



発する度に溶けていくから、
二度と元には戻らない。
決死の覚悟と
底知れない愛で生まれた



ただの運命。
期待に震える親指で、
タッチした画面。
台詞みたいに優しい、言葉の応酬。



信じたくない。
だから書かない。
そんな程度の消極なんかじゃ、
僕はもう止められない。



ただでは済まない終わり。
行き先不明の切符。
靴紐を何度でも結び直して、
顔を上げる、前を向く。



内側から眺めて、
消えていく駅のホームたち。
長い時間を過ごした
僕たちの足跡。



軌道が変わる度に
少し揺れる。
そんな事も知らない
僕の事を、待っていないから君は。



魅力的だった、
綺麗だった。
好きで好きで、たまらない。
こんな言葉も、もう遅い。



揺れる、揺れる。
もう少し、と言い聞かせて
次の曲が無事に始まる。
その選択を受け入れたから僕は



ただじっと座り出す。
変わり映えのしない景色に
たった一つの答えを、
埋もれさせて。



カタン、カタンと
胸に響けば
そこにあるボールペンから
大切なものは溢れる。



その瞬間に向けて
この全身を傾けていく。
君に肩を叩かれても、
変わるものがそこにはない。



だから、
想いが置いていかれる。
後ろに流れて
間延びしていく代物。



それを拾うか、
どうしようか。
そういう瞬間的な迷いさえ
永遠になる。



詩は、
こうして生まれた。
仰々しい程に
遠回りをしていって



白景色が迫り来る。
生き物の気配を
何ひとつ感じさせずに、
迎えてしまった交差。



寂しい僕にしか
できないことが終わり、
君のいない旅が
やっと始まり出す。



消しゴムよりも
役に立たない、
真四角な存在として、
もう、何も忘れない。



覚悟はできたから。
だから、
ゆっくりと離せた手。
消えてはくれない温もり。



自由になって、
何をしよう。
想像できるだけの
恐ろしさには包まれて



思い出す言葉たち。
ペンの持ち方は
きっとこうだったから、
書き出せる。



ゆっくりとした筆跡。
宛名の綴り。
君はきっとまだ日記を、
だから僕は、今度は手紙に。



自由になって、
気持ちを知って。
あとはもう、秘密にしよう。
誰も断ち切れないから



この繋がりは。



巻き直す
色とりどりのマフラー。
叶えた夢も、
落ちた視力で思い出す。



感動は君に貰ったんだ。
だからそれは、
僕の十八番じゃない。
それをずっと伝える。



君に恋した者として。



広がる距離に
勇気付けられながら。
カタン、カタン
カタン、カタン。



僕たちだけの
映画みたいな、ペタルダンスを。



カタン、カタン
カタン、カタン。



冬に残して、
春と消えよう。

交差

交差

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-05-07

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