歴史好きとしては

 歴史好きとしては旅の道中城や史跡、史料館を見るのがセオリーとなっており、私もその一人であると思っている。
 知識はまだ浅いが、ひとつの時代を作り続け君臨した武将たちに敬意を払いたく思う。いま私たちが暮らしている道路、港、川や山も、その景色を見続けているのだと思うと感慨深い。歴史の流れの一滴に、私も加わっているのだ。
 歴史を語る上で、どのコンテンツが相手のお気に召すのか分かっていたい。自分と同じ武将が好きなら話も弾むし、敵陣だとしても弾む。城好きなら防壁としての城、力を誇示する場所としての城、好きなポイントはたくさんある。白壁、土壁、野面積み、狭間、いや、こんなのは序の口だ。
「ふみちゃん」
 私のフォロワーさん。道化さん。お名前のちゃらけ感に反して、気を使いすぎてとぅるんとぅるんの黒髪を、今日は一本の三つ編みにして肩から下げている。カンカン帽の水色のリボンをつい、と指でなぞった後、かぶり直して、行こうか、と笑う。
 よく聞くと、城を外側からまじまじと見たいけど、日焼けは嫌なんだそうだ。曇りの日も紫外線は出ていると言ってばっちり傘もさしている。しかし、日焼け止めも過激派ではなく、気温が高い日は半袖だってさらで着るし、白い二の腕をさらけだして大手を振る姿は少女のようでかわいらしい。私は道化さんよりふたつ年下だが、若くはない。彼女の涼しげな姿がいつも眩しい。
「ここ、鉄砲体験ができるから予約しといたの。ふみちゃんも持つでしょ? 狭間から狙い撃ち出来るんだって!」
 嬉々として話す道化さんの横で、耳元で揺れるおおぶりの金魚が素敵だと思った。Tシャツジーパンの私とは違う、美しく細い、けれど奥深い世界を生きている人。
「そうなんですね、やります! めっちゃ楽しみ! ありがとうございます!」
 心が跳ねる体験を永遠としていたい。私は道化で強い鎧を着ているの、と、自己紹介の時に話していた彼女。私は名前の一字をとっただけ。重みが違うと思った。火縄銃を構えて、白いパンツが汚れるのも厭わず膝をついて構える。細い上腕三頭筋。けれど力強く敵を狙う。
「道化さんめっちゃかっこいい! 写真撮りますね!」
 自分ではやはり写真は撮らないという。彼女の美しい姿を私はこの手元におさめて、時折見返してはため息をつく。私の憧れのひとつ。写真は結局、彼女じゃないけど。

歴史好きとしては

歴史好きとしては

SNSで出会った、近くて遠い、憧れの人の話

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-05-05

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