七ならべ 2024年3月

互いのきもち
知っていたのに
ぼくらは一歩
踏み出せなくて
三十五年
経ってしまった
きみには孫が
いるらしいけど
ぼくの中には
あの賑やかな
眩しい夏を
駆け抜けていた
きみがいるから
はじまりがなく
おわりもなくて
ふたりはそれで
いいと思うよ



世界すべての
ありとあらゆる
嘆きがここに
集められると
言われてるけど
ぼくの記憶は
ここにはなくて
自分自身が
何者なのか
わからないまま
毒を飲み干す
きっと宇宙は
弧を描くから
ある角度では
ぼくも存在
できるのだろう



春夏秋冬
繰り返しても
同じ季節は
二度とないから
いつでも月は
新しいまま
もうあの場所に
戻れないこと
わかってるけど
見上げてみれば
空はあまりに
広すぎるから
いつかひつじに
なれたらいいな
ぼくはいまでも
そう思ってる



オレはオセロで
負けたことない
そう豪語する
狩人がいた
白黒つかぬ
ものごとだって
この世界には
あるということ
伝えるために
ぼくは花火を
打ち上げたんだ
彩りなんて
関係なくて
衝動だけが
あれば良かった
失うことが
怖くなかった
永遠の夏



春のかげりに
気付かなければ
ずっと笑って
いられたのかな
窓から見える
空はわずかに
傾いていて
打ちひしがれた
今のぼくには
どんな歌より
旋律だった



坂の上から
みえる景色が
日々真っ青に
彩られゆく
それがどうして
切ないのかは
ぼく自身にも
わからないけど
窓を容易く
開けてしまえば
すべて失う
ような気がして
そう簡単に
笑えないんだ
春は平気で
嘘をつくから



さくらは満ちる
てのひらの上
思索はゆびの
あいだを抜けて
雲の合間に
溶け込んでゆく
さくらは満ちる
夜の隙間に
いまでも冬の
地図を開いて
戻らないひと
待ち続けてる
さくらは満ちる
春のいたずら
ぼくの知らない
色を重ねて
どこか遠くの
嘘になりたい



眠気を拒む
カーテンを開け
あいまいな月
部屋に呼び込む
月は紅茶が
大好きだから
時間の箱に
しまっておいた
オレンジペコで
もてなしてみる
月の本音を
開けてしまえば
ぼくの季節も
走り出すから
いずれは花も
咲くことだろう

七ならべ 2024年3月

七ならべ 2024年3月

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-05-05

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted