七ならべ 2024年1月

強張っている
手帳ひろげて
これからの日々
見渡してみる
計画なんて
気休めだから
こころのままに
記すしかない
ぼくのことばが
だれかの朝を
少しだけでも
彩れるなら
ぼくの宇宙が
破れてもいい
星のかけらに
もう惑わない



サイゼに行けば
ほうれん草の
ソテーを頼む
一番好きな
メニューだからだ
アラビアータと
辛味チキンも
注文したら
窓の外には
雪が降り出す
しあわせなんて
定義ひとつで
変わりゆくけど
そのことさえも
言いにくいから
ほうれん草に
フォーク突き刺す



天変地異が
思考の余力
奪ってしまい
伝えたかった
淡い想いは
七草粥に
溶けてしまった
今しばらくは
ことばに意図を
預けてみよう
そのうち空が
昨夜の夢の
つづきを描く
詩用期間は
まだ、これからだ



夜更けの雪に
染められた街
なにか変えなきゃ
動けなくなる
そんな想いに
縛られている
ぼくを残して
ぼくは旅立つ
色即是空
空即是色
意味はあんまり
わからないけど
変わらなくても
変わってもいい
どちらにしても
歌になるから
春待ち侘びる
窓はなないろ



雪が積もれば
音はなくなる
きみの声さえ
見失うから
大事なものを
奪われるのに
慣れてしまった
役に立たない
感情を切る
凍えた月と
なくした音を
見つけるために
明日には消える
足跡つけて
真夜中過ぎの
絵を待っている



長い休暇が
終わる夜には
これは夢だと
思ってしまう
今日までが夢
明日からが夢
またはどちらも
夢じゃないかと
頬を叩くと
痛みはあって
この痛みさえ
夢の一部と
知ってしまえば
辛いことさえ
手放せるけど
それでも朝は
来てしまうんだ



雪が降っても
目覚ましは鳴る
判決を聞く
被告みたいに
ただ体温を
朝に預けて
再起動にも
時間がかかる
皮膚を突き刺す
季節の中で
青竹色の
旋律だけが
淡い記憶を
呼び起こすんだ
猫背を鳴らす
春はもうすぐ
恋の背伸びを
奏でるだろう



心の距離を
測るためには
乾いたことば
並べればいい
二時間経って
変化なければ
ベテルギウスは
目を覚まさない
吹雪にかすむ
街灯の下
それでもきみを
諦めないと
コーンスープの
缶を開けても
コーンはいつも
残されたまま



冬に出会った
ぼくたちだから
あたたかさとは
ことばで出来た
肖像だった
チャットに残る
文字列だけが
考えられる
世界のすべて
雪の白さも
感じないまま
それは儚く
崩れちゃうから
春のにおいを
纏うことばを
つむぎあいつつ
空を見上げる



それでも川は
流れてるから
忘れたくない
想い出かかえ
きびしい海に
投げ出されても
もう一度だけ
出逢えないかと
そんな期待を
してしまうんだ
握りしめてる
星の願いも
いつかは川に
流せるのかな



あなたの空が
哀しげだから
だれかの元へ
かえる電車を
見送っている
ぼくのことばは
雨を降らせる
雲にもなれず
消えることさえ
できないだろう
土の匂いが
少し、恋しい



影が動くと
夜が広がる
感情はみな
過去形になる
それでもいいと
背伸びするなら
窓の灯りに
溺れずに済む
役に立たない
概念なんて
乗り越えるなら
今のうちだよ



もう後戻り
出来ない道を
月を背負って
ひとりで歩く
星のしずくが
枯れてしまって
のどが渇きを
叫び出すから
歩みを止める
ことも出来ない
この道の先
良いことなんか
ひとつもないと
知っているけど
生きることとは
理不尽な火を
裸のままで
受け入れること
月が背中で
そう唄うんだ



搭乗口の
窓から見える
色とりどりの
飛行機たちは
このあとどこへ
飛んでいくのか
凍えた街に
滲む痛みを
抱えたままで
飛んでいくのか
雪を知らない
空の余白に
冬の祈りは
届くだろうか
滑走路から
飛び上がるとき
ほんの少しの
とまどいを見た



肉がすっかり
食べ尽くされた
すきやき鍋を
「元すきやき」と
呼ばないように
もしも詩人に
なってしまえば
いつになっても
詩人のままで
元詩人には
なれないものさ
飾られるって
そういうことさ



思い出なんて
幻想だよと
あの日のきみは
笑ってたけど
日々の隙間に
つい現れる
この感情を
あいまいなまま
閉じたくはない
ちかくてとおい
空を泳げば
あの日とおなじ
雲がほほえむ



知られたくない
傷を見られて
暮れゆく街に
取り残される
雪に殴られ
風に殴られ
このからだごと
消えちゃえばいい
願ってみても
ぼくの傷など
夜にとっては
些細なことで
癒やすことなど
出来ないけれど
痛がることも
出来ないでいる
立派な傷に
なれないままに
傷跡だけが
残されている



視界が凍る
底なしの夜
雪が隠した
道をかき分け
色づいたもの
探してみても
そんなものなど
どこにもなくて
不規則性が
描く世界は
白い躊躇を
罠にしている
ひとりの部屋に
たどり着いたら
熱やひかりは
奪われたまま
ぼくに均しく
からっぽなまま

七ならべ 2024年1月

七ならべ 2024年1月

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-05-05

Copyrighted
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