七ならべ 2023年10月
秋の果実は
迷いがなくて
カゴの中でも
微笑んでいる
傷つくことを
恐れないのは
傷つくことを
まだ知らないか
傷つくことに
慣れきったのか
いずれにしても
ぼくは彼女を
傷つけるしか
ないのだろうか
迷いはいつも
いろとりどりで
落ち着く椅子も
汚されたまま
嵐の夜は
嘘とホントが
同じ数だけ
生まれて消える
きみに関する
青い記憶が
濡れないように
手帳を汚す
週末の夜
ぼくだけが知る
北海道の
しなやかな場所
いつかきみにも
見て欲しいんだ
夏を粗雑に
終わらせたから
並んだ本は
全部読みかけ
記憶がとおく
逃げないように
青を吸い込む
快晴の午後
楽しい日々を
読み返しても
記憶が動く
ことはないから
ぼくの未熟な
ものがたりなど
あなたの空に
溶けちゃえばいい
月の孤独に
寄り添うように
窓の汚れを
過去に流そう
静かの海も
泣いているけど
すれ違うこと
できただけでも
奇跡だったと
今なら言える
もうすぐ冬に
染められたなら
ぼくの記憶は
メレンゲになる
あなたの影を
混ぜることなく
ずいぶんまえに
ついたてがみの
とおくのきみは
ずるいかおして
ついうっかりと
とじてしまった
きらきらひかる
つまさきあれば
とがったゆめも
きにならなくて
つながるあさに
とんでいきたい
まるい木の実を
さがしてみよう
あのひとの影
踏まないように
乾いた風を
さがしてみよう
泣き疲れても
空はあるから
秋のぬくもり
さがしてみよう
わすれたはずの
耳朶のうら
ぼくのこころを
さがしてみよう
冬はもうすぐ
この町に来る
めがさめるたび
消えてゆくもの
追いかけるのも
またさみしくて
丘のうえから
海を見ていた
教訓のない
むかしばなしは
無駄な演出
多すぎるから
ぼくのあしたは
からっぽのまま
さかみちかぜが
連れ去ってゆく
城郭都市に
生まれた恋は
疑心暗鬼に
耐性がない
ことばは壁を
すり抜けるけど
ふたりの明日が
何色なのか
わからないまま
染められている
辿った路を
振り返る朝
戦慄の眼を
手に入れたなら
冷えた秘密は
まだ終わらない
七ならべ 2023年10月