七ならべ 2023年7月

からっぽなのに
溢れてしまう
そんなコップに
なにを注ごう
土曜を隠す
分厚い雲に
呟いてみた
それは誰にも
教えてなくて
ひとに伝える
ことでもなくて
つぎ晴れた日に
あなたのこころ
くすぐる風が
吹けばいいなと
願ってたんだ
コップは今も
からっぽのまま
満たされている


繋ぎたくなる
ことばがあれば
手を伸ばすのは
本能だけど
瓦礫のうえに
立ってるぼくの
手を握るのは
勇気いるよね
少しばかりの
未来の記憶
重なり合えば
砂になれるよ
それが恋かは
わからなくても


彷徨うことも
許されないし
素直になれず
夜はみじかい
どうしたいのか
わかってるのに
わざと視線を
逸らしたままで
木彫のクマを
演じてみても
どうせそんなの
見破られてる
撮った写真に
ゆびが写れば
それ送るから
指切りしよう


星の悩みを
見ないふりして
夜の重さに
押しつぶされる
ないしょばなしを
無理にごまかし
似たような夢
みるのであれば
夜通し傍に
いたほうがいい
些細なことで
拗れちゃうのは
意識している
証拠なのかな
ぼくが笑うと
星はふくれた


新たな海に
漕ぎ出す朝は
子犬のように
おどるこころで
まわりを見ても
真っ暗だから
褒められたくて
牛乳を飲む


星の大河に
流されてゆく
願いはどこへ
たどり着くのか
知らないままで
かまわないから
祈りの夜に
こぎ出してみた
いつかあなたの
手に触れたくて


雲のこどもが
生まれる朝は
考えごとを
すべて預けて
自分に合った
風を見つけて
旅に出ようよ


あしたのことを
考えるより
大切なこと
あるはずだから
手を叩いたら
音楽になる
ことばのかけら
置けば詩になる
せめて今夜は
楽しいものに
包まれたまま


手を伸ばしても
届かないから
高いところを
目指したけれど
雲がかかって
何も見えない
1センチでも
近づけるなら
雨に濡れても
構わないから
そんな気分で
日曜の午後
遠くの山を
眺めてたんだ
出来ることなど
なにもないけど
紙飛行機を
飛ばしてみたよ


夏を知らない

それは何色?
食べられるもの?
味や匂いは?
どこに売ってる?
膨らんでゆく
夏の亡霊

夏はいつでも
記憶の奥に
青地に白く
描かれている
だけどそれらは
記号に過ぎず
夏によく似た
火かもしれない

生身の夏を
ぼくは知らない



チョコミントには
愛があるから
ぼくは好きだな
沈黙のあと
つぶやいてみた
愛のかたちも
色もあいまい
チョコミントほど
美味しくもない
だけど誰もが
愛を求める
あなたは何に
愛をみるのか
訊きたいけれど
また黙る夜



箱をいくつか
窓に並べて
どれかひとつに
月が映れば
箱の中身を
確かめてみる
中には夏の
妖精がいて
海の欠片を
注いでくれる
いつでも部屋に
海があるから
きみにもみせて
あげたいけれど
海の欠片は
すぐ溶けるから
ぼくはひとりで
泳ぐしかない



纏わりついた
夜の湿度で
あなたの声を
探しつづけた
記憶の隅に
残るまぼろし
ハードディスクに
消えた文字列
ぼくの記憶は
あいまいだから
崩れたことば
抱きしめたまま
しずかな夜に
戻れないから
手に入れるまで
花を閉じない


ぼくのことばが
あなたの日々を
照らせるのなら
雨があがった
空を見上げて
感情の尾を
よくかき混ぜて
海に流そう
それが終われば
あとに残った
ことば並べた
拙い詩を
笑って欲しい



ことばの色は
一様でなく
そうかといって
虹にもなれず
言いたいことは
いろいろあって
イメージだけが
先走るから
少し痛みを
伴いながら
呟いている
ことばは時に
武器になるから
飲まれぬように
抱きしめていて
いつかはぼくが
抱きしめるから


錆びた線路を
辿っていけば
色づいてゆく
いにしえの恋
想いは時を
飛び越えるから
優しい夜に
たくさんの花
週末の夜
ひとりの駅で
数えるように
暦をめくる
いつになったら
ぼくは季節を
着替えることが
できるだろうか


逆転負けで
漏れるため息
青に染まった
こころのままで
ペットボトルの
ほうじ茶を飲む
窓から風が
覗きにきても
素直な顔は
行方不明で
土曜の夜の
夢を解いて
雨が上がった
空に落ちよう


過去形だから
-edがつく
頭の中は
-edだらけ
完了しない
過去が溢れる
本を閉じれば
戻れるけれど
それも結構
勇気要るから
-edはずし
今を生きたい



落ちてくるのを
ただ待っている
あの日夢みた
虹の翼が
舞い降りるのを
ただ待っている

それさえあれば
言いたいことも
見せたいものも
すべて伝えて
わたしは空に
溶けられるのに

落ちてくるのを
ただ待っている
地に縛られた
顔を隠して


遠い街から
声が聞こえる
はじめは弱く
徐々に大きく
耳をすませば
七色のうた
目立たないけど
響く鈴の音
静かな夜に
身を投げ出して
きみがいること
感じられたら
夏の企み
バレちゃっていい


きみが生まれて
何度目の夏
日々遠ざかる
寂しい影を
成長という
ことばで隠す
道は思考で
つくられるから
夜も昼間も
空を見上げて
そこに浮かんだ
淡いもやもや
観ておくといい
いずれ掴める
時が来るから



やさしいひとと
呼ばれたかった
ことばの針を
抜いてしまえば
きみの視野から
消えちゃうけれど
夏の素肌は
脆すぎるから
はじける前の
泡をあつめて
時間の軸を
傾けてみる
やさしいひとを
真似してみても
ぼくは結局
虫かごの中



ことば足らずが
積み重なって
九龍城の
ような詩になる
読み始めれば
迷路のように
自分の朝も
見えなくなって
ひたすら穴を
埋まる生き方
選ぶしかない
それでも上を
見上げてみれば
光もカゲも
感じられるし
日が沈んだら
迷路のことも
すっかり忘れ
ことば足らずを
さらに重ねる


雨の匂いに
悶えるように
知らない海の
断片をみる
じっとしてても
じっとりしてて
どこに逃げれば
しあわせなのか
雲の向こうに
涼しい智慧を
求めてみても
返事ないまま
仏頂面の
湿度のせいで
ひとりの夜は
また長くなる



止まったままの
チャット画面に
きみの呼吸を
感じてるから
今日を静かに
片付けられる
夜の速度は
吐息の数に
比例するから
眠れぬ風は
朝になるまで
ぼくの鎖骨を
許さずにいる
月が沈んで
気が抜けたまま


道の向こうを
知りたくなって
何十年も
歩いたけれど
道の向こうは
まだ見えなくて
ぼくは途方に
暮れかけている
でもこの道を
歩くしかない
正解なんか
わからないまま
曇り空なら
愚痴はこぼせる
こぼした愚痴に
水を飲ませて
夏の迷いは
捨てて歩こう


あしたの月を
手放すように
夜の深さを
確かめたくて
満たされるまで
ことばを重ね
誰も知らない
灯台になる
ぼくの欠片が
成層圏に
散らばったなら
夏の迷子に
ならないように
耽美に堕ちる
夢をみせてよ

七ならべ 2023年7月

七ならべ 2023年7月

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-05-05

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted