七ならべ 2023年6月

感情なんて
邪魔なだけだと
見上げた先の
窓がつぶやく
それはそうかも
しれないけれど
塗り分けられた
喜怒哀楽が
息絶えるのを
見届けるまで
祈ってるから
わたしはここを
離れられない
きみの旅立ち
風で隠して


すうじの1が
えんとつだった
遠い季節は
夕陽がとても
永遠だった
オレンジ色に
染まったままで
ひとの話を
聞き流してた
ぼくたちはもう
時間がなくて
四角四面の
歌に興ずる
そしていずれは
この肉体も
オレンジ色に
沈むのだろう


旅立ちの午後
雷鳴が鳴る
少し手荒い
祝福だけど
きっと良いこと
あると思うよ

うしろ姿を
見送るときは
時計の針が
遡るから
絵具の色が
いくつあっても
吐き出すことが
出来ないでいる

予期せぬ雨が
降り出したから
ごまかせるかと
思ってたんだ


死の入口は
急に電気を
つけたみたいに
目が慣れるまで
何もみえない
かたちも色も
定まらなくて
あらゆるものが
安定しない
やがて目が慣れ
世界が見える
そこに真っ赤な
花があるなら
それが来世の
種を産みます


雨の叫びが
弱まってきて
闘いはもう
終わりだと知る
駆け引きなんて
柄じゃないから
ただ殴られる
だけだったけど
雨雲が去り
覗く青空
そんな気分に
まだなれなくて
キスを忘れた
サンドバッグは
白い手帳を
滲ませていた


もしもし、ここは
天国じゃない
地獄かどうか
わからないけど
いやな野菜や
ずるい果物
そんな奴らが
おどる食卓
声を潜めて
ぼくはちいさな
詩を書き留める
だからこのまま
切らないでいて
きみを想えば
明日があるから


晴れた週末
ここち良い風
白いカーテン
揺れる窓辺で
アイスティーには
なにも入れずに
雲の白さが
夏を先取る
やがて日が暮れ
風は冷たく
残されたのは
罪の意識と
幻想の痕
絵本はいずれ
読み終えるから
続きは爪で
語るしかない


失うことで
出来た隙間を
悲しみで埋め
憎しみで埋め
土に残した
遠い豊穣
壊すものなど
もうないけれど
ひとのこころは
ただ穏やかに
壊れるときを
座して待つだけ


折れた気持ちが
さまよう夜は
闇と欺瞞で
満たされてる
嘘の湯船に
漂うように
遠い約束
思い出しても
地図のうえでは
述語の場所が
あやふやなまま
月が代わりに
泣いてくれたら
夏の毛布を
抱いて眠ろう


蛇口ひねれば
水は出るけど
水の気持ちを
知る者はなく
失意の中を
ただ流される
ぼくは水には
なれないけれど
水の気持ちに
なってみたくて
だから今夜は
歓喜を模した
ことばの束を
瓶に沈めて
月を浮かべた
海に流そう


雲が見た目を
気にしだしたら
夏がそこまで
来たということ
終わらない日の
まっすぐな道
きみが一緒に
いてくれるなら
もっと遠くに
行けるはずだと
気がついたんだ
夕焼け空が
寂しく見えて
つい立ち止まる


夕陽はいつも
雄弁過ぎて
ぼくは黙って
聞いているけど
ひとの想いは
様々だから
ただオレンジに
染まるしかない

ぼくにつながる
すべてのひとが
よい週末を
過ごせるように
まるで夕陽に
なった気持ちで
ぬるいほうじ茶
飲み干してみた


逃げた夜汽車を
追いかけるから
ほどけた恋を
結びなおそう
おなじ姿勢で
膝を抱えて
それぞれの夜
過ごしてるけど
ふたりの気持ち
乗せた夜汽車が
汽笛を二回
鳴らしたのなら
星のカーテン
開けてしまおう
夜汽車が駅に
捕まるまでに


鍵を開けなきゃ
夏じゃないよと
脅されている
恋をするのは
夏の揚力
恋しないのは
夏の抗力
どう転んでも
空を飛ぶから
時のながれに
任せてしまえ
そう言われても
焦っちゃうよね
夏がもたらす
妄想の画は
過去最強の
高気圧から
送り出される


夏の道路に
ためらいはない
振り返らずに
ただ進むだけ
どうせどこかへ
たどり着くから
深紅の夜や
黄色い朝を
手にすることは
容易いけれど
そんなに欲しい
ものだったのか
痕になるまで
気づかなくても
醒めない夜は
罪深いから
のらりくらりと
歌い続ける


三日月ならば
座れるはずと
幾多の魔女が
試してみても
ひとりたりとも
座れなかった
あの曲線に
魅せられるのは
ひとであるなら
当然のこと
だから今夜は
誰も知らない
呪文唱えて
月に本音を
吐かせてみよう
案外それが
恋のはじまり
かもしれないし


ラムネの瓶が
涙の色で
出来ているのは
星がねがいを
捌ききれずに
漏れ落ちたのが
ビー玉だから
悲しみだけを
集めるクマが
森に隠して
森が泣いてる
星も泣き出し
ぼくも泣くから
誰も知らない
流星が降る


空を着替えた
金曜の夜
自由の意味を
あいまいにして
来ないメールの
返信を書く
変わることない
気持ちを連れて
闇の海辺に
週末なんて
消えてしまえ!と
叫んだあとは
うしろめたげな
汽車で帰ろう


白昼夢には
濃さがないから
目覚める前の
蜜を味わう
一瞬でなく
永遠でなく
いたちごっこの
時に溺れて
ぼくの思考が
沈んだ先の
不埒な場所に
また戻りたい


雲ひとつない
日曜の午後
カラーひよこの
デモ行進で
商店街は
機能不全に
ぼくは用事を
何も足せずに
「ぬ」からはじまる
固有名詞を
集めはじめた
ぼくは豆腐が
大好きだけど
豆腐はぼくに
飽きたらしくて
雲ひとつない
日曜の午後
ひとりの空を
ただ眺めてた


甘えることに
自信がなくて
やせ我慢する
癖が抜けない
描いた明日に
素直になれず
夏を生み出す
理性のウラで
歪んだままの
汗が噴き出す


シロツメクサが
一面に咲く
午後の公園
おしりの下が
ふかふかしてて
泣きそうになる
みつけたくても
みつけられない
やわらかな場所
こんなところに
あると知らずに
たった今まで
無駄に吠えてた
蒼い記憶を
染み込ませたら
道理が枯れた
戦場に行く


眠れぬ夜を
いくつ重ねて
言いたいことは
言えるのだろう
失うことを
恐れるあまり
子犬のように
しっぽを隠す
それを見ていた
夏の花火は
ラフマニノフを
奏でるように
萎みはじめる
伝えたいこと
伝えないまま
見せつけられた
夏の逃げ足


たいせつなもの
うしなった夜
それでもぼくは
七つの音を
ならべ続けた
ぼくには他に
家具がないから
七つの音の
その先にある
真っ白な場所
いつかはそこに
旗立てるけど
それよりぼくは
このやり方で
きみが残した
ことば並べて
馬鹿ばなしする
部屋をつくろう


今年も既に
半分が過ぎ
少し焦りが
芽を出してきた
時が過ぎれば
いろんなことに
追い詰められる
気もするけれど
意外となにも
変わってないし
星が光れば
切なくなるし
紅茶を飲めば
嬉しくなるし
焦らなくても
生きていけるよ

七ならべ 2023年6月

七ならべ 2023年6月

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-05-05

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