七ならべ 2023年4月
守るものなど
ないはずなのに
守ろうとする
癖が抜けない
地震・かみなり
家事するオヤジ
どれも愛しい
存在だから
ぼくたちはただ
見ていればいい
明けない夜も
たまにあるけど
ぼくたちはただ
見ていればいい
海の底にも
空はあるから
雪ののこりが
公園の隅
今週中に
無くなるだろう
去りゆくものの
うしろ姿は
淋しくて、でも
力強くて
死ぬも生きるも
あいまいだから
空を見上げた
春の日射しが
屈託なくて
哀しいくせに
笑みがこぼれる
西日眩しい
待合室で
歯を抜く時が
近づいてきた
ぼくの一部が
ぼくでなくなる
その瞬間が
やけに眩しい
そして抜かれた
歯を見せられる
ぼくを離れた
そのかたまりは
他人行儀な
顔をしていた
ぼくはどこまで
ぼくなのだろう
疼きはじめて
ロキソニン飲む
遮るものは
彼方と此方
その両方を
演じていても
自分の顔は
どこにもなくて
やりきれなくて
遮るものは
嫌われるから
傷つけられて
痛い目にあう
それが仕事と
わかっていても
やりきれなくて
遮るものは
いつも悲しい
詩を書くほかに
することがない
風が浮かれて
おどる公園
だれもが春に
呑まれてるけど
ぼくひとりだけ
冬の体温
手放せなくて
歩けずにいる
いずれ踏み出す
時は来るけど
目覚めてすぐの
土の匂いを
もう少しだけ
嗅いでいたいよ
そのうちぼくも
春になるから
風のこどもが
迷子になった
寂しいまちで
寂しく泣いた
夜の気怠い
窓に紛れて
風吹く夜に
眠れないのは
ぼくのガラスも
風のこどもで
出来ているから
迷子のぼくは
どこかの窓の
ひつじになって
だれにも夢を
みせることなく
果てるのだろう
音をなくした
日曜の午後
やわらかな詩を
お茶で飲み干す
思考と頭痛
その両方が
時の流れを
弱めてくれる
黄昏時は
箸置きのよう
居なくなっても
違和感がなく
困らないまま
明日は来るから
いまは儚い
文字に沈もう
傾いた日の
想い出だけど
部屋に置くには
もったいなくて
助手席に乗せ
海へと走る
きみと一緒に
来たかったけど
いつかはきみも
ここに来るから
この旋律を
分け合えるはず
風の匂いが
硬すぎるから
Ifが多めの
むかし話は
尻切れのまま
砂に紛れる
蒼い手紙を
読み終えた頃
夜がはじまる
ぼくの姿が
みえない街で
歩いてるのは
メタファーばかり
信じるものを
疑うように
タイムマシンを
メルカリで売る
もうあの花に
戻らないから
七ならべ 2023年4月