七ならべ 2023年3月

恋のおわりは
花火のようで
落ちる欠片を
目で追うばかり
醒めた体温
そのままにして
傷つけられた
地図をひろげる
たいせつな腕
そっと仕舞って
春はやさしい
顔をしている


ブラウン管が
窓だったころ
土曜の夜は
笑っていたね
多様化なんて
ことばもなくて
おなじ匂いを
感じていたね
あのナショナルが
パナソニックと
名乗る未来に
気づきもせずに

今はだれもが
手のひらを見て
匂いもしない
知恵を重ねる


雪が溶ければ
忘れたはずの
きたないものが
晒されるから
春はうららに
シートを広げ
だいじな影に
呑み込まれゆく



季節を終える
作法を知らず
ただ闇雲に
爪立てている
最後のうたを
奏でたあとは
空になるだけ



朝はいつでも
強引だから
そらがだんだん
明るくなれば
からだの芯を
揺らそうとする

春がもたらす
出会いと別れ
夕べのことを
ひきずったまま
ぼくひとりだけ
取り残されて
朝のほっぺを
直視できない


今年最初の
雨に打たれる
ぽっかり空いた
胸を目がけて
ことばのように
つよい痛みが
あちらこちらに
現れてくる
泣いてることも
忘れた夜に
歩いて帰る
真っ暗な部屋



窓をあけても
もう寒くない
そんな油断が
花をころした
ぼくは寂しい
霧につつまれ
記憶のなかの
グレート・ムタが
毒をうしなう



春が坂道
のぼりはじめた
その襟首が
何色なのか
わからないまま
コートをしまう
坂をのぼって
見える景色は
ひとりで見ても
ふたりで見ても
鈍い痛みは
伴うだろう



最初はきみを
見ているだけで
しあわせだった

いつの頃から
きみの未来を
知りたくなって
ぼくは背伸びを
知ってしまった

きみが見ている
ぼくの姿は
記憶の中の
ぼくじゃないはず
だけど今でも
きみのことしか
見えてないんだ



星のなみだは
こわれるために
つくられるから
生まれたままの
不安なきもち
受け止めたまま
星のなみだを
みつけた夜は
もう折れそうな
恋が旅立つ



道を流れる
雪だった水
姿変われば
想いも変わる
春には春の
風が吹くけど
流れる水は
雪だった日を
思い起こして
ぼくに染み込む



あなたの声を
待ち続けても
沈黙の木は
無遠慮なまま
部屋に根を張り
時を貪る
鳴らない電話
壁に投げつけ
今日、はじめての
音におどろく



ことばの中に
声をみつけて
叶わなかった
恋呼び起こす

あの時吐いた
ことばの陰に
いつまでも居る

そろそろページ
捲らなければ
朝が来ないと
わかっていても
愛しい文字が
震えてるから
まだここからは
動けないんだ



羽田に向かう
飛行機の尾が
みえなくなれば
届かない手が
残される夜

星の向こうに
伝えようにも
ことばはいつも
踊りもせずに
着飾ったまま

そろそろ風が
泣き止む頃だ



あかるい窓が
外へと誘う
気づけば雪も
ほとんど解けて
ぼくの季節は
終わったと知る
冬のあいだに
あたためられた
そのあたたかさ
手放したから
北の町にも
春が来たんだ
ぼくにつながる
すべての人に
届いて欲しい
永遠の午後



そちらは花が
咲くころですね
春の陽気を
見てみたいです
こちらは今も
雪が残って
氷点下にも
なったりします

距離があるから
もどかしいけど
いろいろなこと
話したいです
ぼくの世界と
あなたの世界
きっと違って
おもしろいから

ぼくのところに
花が咲くころ
今よりすこし
近づけるかな



名前を付けて
保存するから
いつになっても
忘れられない
だからといって
上書きできず
消去もできず
ムカつくくらい
しあわせでした



書いていないと
潰されそうで
夜が来るのも
気づかないまま
ぼくのことばは
魔法ではなく
媚薬でもない
がらくたばかり
夜店の隅で
だれの目にも
留まることなく
夜に溶けゆく
夜そのものは
媚薬だけれど
ぼくのからだは
影だけになる



三年ぶりに
訪れた町
残したはずの
足跡もなく
通った店の
跡形もない
時の経過は
身勝手だけど
ぼくの想いも
身勝手だから
解き放たれて
消えゆく影に
せめて笑顔で
いられたらいい
もう戻らない
背中が沈む



ジャスミンティーの
香りにむせて
春の海辺が
あたたかかった
あまりに長い
季節のあとは
軌道は二度と
交わることを
許されなくて
今年はどこで
花になるのか
解けない問いが
対流を生む



春がきたのに
まだ雪が降る
これから巡る
季節のすみで
伝えきれない
想いのかけら
みつけて欲しい
夏の雪なら
なみだのように
麦わら色に
弾けるでしょう



破れた地図の
片隅にある
ちいさな町で
足が止まった
公民館と
セイコーマート
あとはひたすら
春のため息

なだらかな坂
登った先の
空の広さに
たいせつなもの
盗られないよう
きみだけが呼ぶ
ぼくの名前を
風に刻んだ



雲のすきまが
見えはじめたら
淡い音楽
部屋に流そう
消え入りそうな
声やすがたを
編み込むように
窓に映そう

めぐる季節に
追われるように
生きてきたけど
立ち止まりたい
ときもあるから
動画ではなく
静止画で撮る
夕焼けの海

七ならべ 2023年3月

七ならべ 2023年3月

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-05-05

Copyrighted
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