zoku勇者 ドラクエⅢ・その後編 エピ61~64

エピ61・62

変わりゆくジパング

……翌朝、弥生の夫は皆よりも一足先に目を覚まし、畑仕事に
出掛けて行った。昨夜の宴会で酔っぱらった村人達も早朝早々に
皆引き上げて行った様であった。
 
「すげえな、俺なら絶対無理だわ、起きられねえよ……、
朝の4時だもんな……」
 
「本当、働くお父さんて凄いよねえ……」
 
「そりゃね……、一家を支えているんだもの」
 
「でも、弥生さん、本当にいい旦那様と結ばれて良かったわね!
うふふ!」
 
4人は朝ごはんを口にしながらお喋りを交わす。
 
「ジャミルさん達、おかわりはどうだい?おかずはあまりないけど、
御飯は一杯あるから遠慮しないでお食べ!沢山食べなきゃ駄目だよ!
あんたら若いんだから!」
 
「……」
 
弥生の母親はジャミル達が返事をする前に茶碗にどんどん白米をよそる。
 
「有難う……、おばさん……」
 
「いーのいーの、あっはっはっはっ!」
 
弥生の母親は今朝も豪快であった。
 
「ところで、チビは何してんだ?食わねえのかな……」
 
「しっ、……邪魔しちゃ駄目よ……」
 
「?」
 
「あーっ、あー!うー!ぴーきゃ!」
 
「……」
 
チビはトウマの側を離れず……、ずっと一緒にくっ付いている。
 
「ね?」
 
「プッ……、あいつ、トウマの護衛のつもりなんだな……、
ようやる……、プ……」
 
「笑うなったら……、もう!チビはあれでも真剣なんだからさ……」
 
アルベルトが注意するがジャミルは笑いが止まらない。
 
「チビちゃん、トウマを見ていてくれてありがとう、さあトウマも
ご飯の時間ですよ」
 
「ぱー、ぱー」
 
弥生がやって来てトウマに乳を与えはじめた。
 
「きゅぴ?」
 
「チビちゃん、トウマ君はお母さんと御飯だから大丈夫よ、
チビちゃんもご飯を頂きましょうね」
 
「ぴい~」
 
アイシャがチビを席に着かせ、チビも漸くご飯モードの体制に入る。
 
「いただきまーす!」
 
「あはは、沢山食べな、チビちゃんも!」
 
チビはおかずの魚を頭からバリバリ丸かじりし、器用に骨だけ残す。
 
「うわあ……」
 
箸を口に銜えたまま、ダウドがあっけらかんになった。
 
「ところでさ、おばさん、聞いていいかな?俺達、もうそろそろ
出発しなきゃなんだけど……、この村にヨウカン?て、言う
珍しい菓子が有るって聞いて、土産に持って帰りたいんだけど……」
 
「ヨウカン?ああ、ヨウカンね!それだったらこの村のおふみ婆さんを
尋ねてみるといいよ、他にも面白いお菓子とか色々作っているんだよ」
 
「……おすそ分けして貰えるかしら?」
 
「行ってみるか」
 
「あら?チビちゃん……」
 
「寝ちゃったよお……」
 
「ぐーぴー……」
 
美味しい朝ごはんを食べたチビは満腹で二度寝してしまったのだった。
 
「おい、起きろよ……、ポンポコ……」
 
ジャミルがチビのお腹をくすぐってみるが、チビは起きず。
 
「いいよいいよ、あたしらが見てるからさ、いっといで!」
 
「けど……、わりィよ……」
 
「いいんですよ、皆さんにはトウマを可愛がって頂いて
いるんですもの、今度はこちらにもお返しさせて下さい」
 
「うん、弥生さん、おばさん、ありがとな……」
 
弥生の母親におふみ婆さんとやらの家を教えて貰い、4人は現場へ。
村の奥にひっそりとぽつんと建っていたその家はゴミ屋敷そのものであった。
 
「ここだ……」
 
「凄い貫録のある家だね、うっかりくしゃみでもしたら
今にも崩れそうな……」
 
「失礼な事言っちゃ駄目だよ……」
 
アルベルトがダウドを窘める。
 
「はーい、すんませーん……」
 
「何か嫌だなあ、作った菓子にカビでも生えてそうな……」
 
急にジャミルも躊躇しだした。
 
「もう!此処まで来て何言ってるのよ!さ、行きましょっ!」
 
「お、おい……」
 
アイシャがジャミルの背中を押し、無理矢理家の中へと押し込ませた。
その後にアルベルトとダウドも続いて入る。
 
「……しゃーねえ、ごめん下さーい!」
 
ジャミルが玄関先で声を張り上げてみるが返事はあらず……。
 
「留守なんじゃね……?なんか屁くせえなあ……」
 
 
……なーんでーすーかー?
 
 
「……うひゃあっ!?」
 
急に部屋の奥の襖ががらっと開き、小太りの老婆が顔を出す。
 
「びっくりした……、おどかさないでくれよ……」
 
「すーみませーん、よいしょ……、うんこらせ、うんこらせ」
 
老婆がのそのそと、こちらまでやってくる。
 
「で、なーんでーすかー?」
 
やけに動きがゆっくりの老婆は張り子の牛の様に首を振りながら
ジャミル達を見た……。
 
「あのさ、その……、婆さん、珍しい菓子を作ってるんだって……?
もし、ヨウカンて言う菓子を作ってるんだったら、俺達にもお裾分けして
ほしいんだけど……」
 
「……かりんとうですかあ?はいー?」
 
「いや、ヨウカンなんだけど……」
 
「炭酸まんじゅうですかあー?はいいー?」
 
「この婆さん……、わざとやってんじゃねえだろうな…」
 
ジャミルが不安そうに他のメンバーを振り返った。
 
「ヨウカンですねえー?はいーはいー、お作り致しますよー」
 
「通じたみたいよ?」
 
「それならそれでいいんだけど……、あっ、婆さん!」
 
「はいいー?」
 
「これ、作ってもらうお礼なんだよ、食べてくれや」
 
ジャミルが弥生の母親から受け取った袋を渡す。それはお礼代りに
持っていくと良いと言い、持たせてくれた漬物であった。
 
「これはどうもー、生姜のお漬物ご丁寧にー、ですが……、
ヨウカンは時間掛りますのでー、少し待ってて貰えますかあー?」
 
「ああ、作ってもらえるなら……、待つよ」
 
「へへへい、……最近はー、よその国の珍しいお方も……、
随分ジパングに来てくれるようになりましてのうー、ありがてえ
ことですー」
 
老婆は笑いながら再び襖の奥に姿を消した。
 
「……この国も……、段々変わってきてるんだね……」
 
「だな、これからどんどん発展していくんだろうな」
 
ジャミル達はヨウカンの出来上がりを待つ事にし、一旦弥生の家へと戻った。
 
 
「どうだった?変わってる婆さんだけど面白いだろう!」
 
「ああ、ちょっとびっくりしたけどさ……」
 
「あっはっはっはっ!あれでも本当に作るお菓子は別品なんだよ!
一度食べたら病み付きになるよ!不思議なモンでさあ」
 
「そうなんだ……、へえ……、そんなに美味いのかあ……」
 
ジャミルはナイトハルトにヨウカンを届けるのが段々惜しく
なってきてしまった……。
 
「ジャミル……、今何か考えてなかった……?」
 
「いや、別に……」
 
(たく、感が鋭いなあ、このアホベルトめ……)
 
アイシャは向こうの方でチビとトウマと触れあって遊んでいる為、
まるで保育士さん状態である。
 
「ヨウカンは作れませんけど、私もお焼きをおやつに作りましたよ、
皆で食べましょう」
 
弥生が香ばしい醤油の匂いのするお焼きを作って持って来た。
 
「……弥生さん、あんたマジ女神さまだわ……、腹減った……」
 
「ジャミルのバカっ!くいしんぼ!」
 
そして、すぐにアイシャが反応する……。4人は弥生が作ってくれた
焼きたてのお焼きに舌鼓を打つ。
 
「……あちっ、おいひーい、何枚でも食べられそうだよお!」
 
「また、腹壊すぞ?ダウド」
 
「……ジャミルに言われたくないよっ!」
 
ダウドはブリブリ怒りながらそれでもお焼きを口に入れる。
 
「二人とも加減しなよ……、恥ずかしいのはこっちなんだからね……」
 
「て、言ってるけど……、お前のその皿のは何だ?」
 
ジャミルがアルベルトの山盛りのお焼きを指差す。
 
「え?や、やだなあ~、僕とした事が……、あは、あは……、
あはは……、いつの間にか……、チビ、食べるかい?ほらほら!」
 
アルベルトが慌てて盛り過ぎた自分の分をチビに分けようとする。
 
「きゅっぴ!やーき、やーき!」
 
「やー、やー!」
 
意味も分からず、トウマも一緒に燥ぎだした。
 
「……良かったな、誤魔化しが効いてよ……」
 
「うるさいなっ、馬鹿ジャミル!!」
 
顔を赤くしてアルベルトが大声を上げた。
 
「皆、食いしん坊さんなのは同じなんだから、意地張らなくても
いいのにね」
 
アイシャがチビに笑い掛けた。
 
「きゅぴ!チビ達、食いしんぼ仲間!おいしいの大好き!アイシャも
まいう~の食いしんぼだよね!」
 
「……チ、チビちゃんたら……、もう~……、まいう~なんて、そんなの
何処で覚えたのよ……」
 
そして、おやつも食べ終わり、ジャミルは一人家の外に出て、
食後の空気を吸った。
 
「……はあ~、何か最近食いまくりだなあ……、色んなとこで
美味いもん食えるのはいいけど……、少し制限しないとやばいかな、
いや、無理だ……」
 
……心配そうにジャミルが自分のお腹を撫でた。
 
「ジャミルさん……、お焼きの味はどうでした?」
 
弥生がジャミルの後を追って外に出て来る。
 
「あ、すごくうまかったよ、又料理の腕が上がったかい?」
 
「恥ずかしいですけど……、そう言って貰えると嬉しいです……」
 
顔を赤くして照れながら弥生が呟いた。
 
「お世辞じゃねえよ、俺、本当の事しか言わねえからさ……」
 
「ジャミルさん、ありがとう……」
 
風に吹かれて弥生の長い黒髪がふわっと揺れた……。
 
(この人は本当に変わらないわ……、素直な処も……、
真っ直ぐな処も……、大好きよ、ずっと……)
 
「お菓子が出来たら……、もう行ってしまわれるの……ですね……」
 
「ああ、話聞いたら、生モンみたいだからな……、届ける所もあるし……」
 
(くっそ……、勿体ねえ……)
 
ヨウカンは自分達で食べる事が出来ない為、ややジャミルは不満が
残るようであった。
 
「あの……、又……いつかお会いできますか……?」
 
「弥生さん……」
 
弥生がジャミルの瞳を見つめ、そう言った……。
 
「う~ん……、そう頻繁には来れないけど……、そうだな、数年に一度、
会いに来れたらいいなあ、ここん家のチビの成長も楽しみだしな!」
 
「はい……、是非!そうして下さいまし!皆でお待ちしております!」
 
弥生がそっとジャミルの手を握った。
 
「……え、え~と……」
 
ドギマギしながらジャミルが自分の頬をぽりぽり掻く。
 
「この国も外交が始まり、余所の国の文化を取り入れたり、色々と
少しずつ流れが変わって来ています……、きっと次にジャミルさん達が
この村を訪れて下さる時にはもっと変っているかも知れませんね……」
 
「弥生さん達もいつかさあ、俺らのとこ、遊びに来いよ!」
 
「わ、私達がですか……?……行けるかしら……」
 
弥生はジャミルの思わずな発言に首を傾げるが、直ぐに笑顔になる。
 
「大丈夫だよ!」
 
「そうですね……、いつの日か、きっと……、私達も皆さんの所まで、
……行けたらいいですね、必ず遊びに参りますわ……」
 
「ああ、待ってるよ!」
 
ジャミルと弥生は二人で笑い合う。そして、無事ヨウカンも受け取り、
再びジパングと別れの時が来たが弥生も心からの笑顔で4人を
見送る事が出来たのだった。
 
……いつの日か、又再び会える日を信じて……。


黒い闇に覆われて

「……さて、このヨウカンを腹黒……、じゃなかった、……電荷、の
所に届けないとな、よし、キメラの翼使うか!」
 
どうにも、殿下とは言いにくいジャミルであった……。
 
「……ねえ、何だか空が黒い様な感じがするんだけどさ……」
 
空を見上げ、ダウドが急に心配しだす。
 
「嵐でも来るのかな……、殿下にお届け物を済ませたら、
又ポルトガで休もうか?」
 
「とか何とか言ってよ、本音はナイトハルトの側にいたいだけじゃね……?」
 
「……馬鹿っ、ちゃんと殿下って言うんだよっ、……そうかもしれない……」
 
アルベルトが又顔を赤くした……。
 
「皆……、何かこの船、変じゃない……?」
 
船室で休んでいたアイシャがチビを連れて甲板まで上がって来た
 
「何がだよ、何かおかしいか?」
 
「うん、さっきから……、海を全然進んでいない様な気がするのよ……、
気の所為かしら……」
 
「船が止まっちまったっていうのか?……あ?」
 
ジャミルが慌てて船首まで走って行き、周囲を見渡す。
 
「アル……、この黒いの何だ……?船をすっぽり囲んじまってる……」
 
「本当だ、今言われて気づいたよ……、不気味な結界みたいなのは
一体……」
 
「こ、怖いよおお!!空じゃなくて、この船の周り全体がおかしかったんだね……」
 
「とにかく、ポルトガまで行こう……、それっ!」
 
ジャミルがキメラの翼を空中にほおり投げた。
 
「……ありゃ?」
 
が、翼は効果を発揮せず、そのままポトッと甲板に落ちた。
 
「どうなってんだよ、これ……」
 
「欠陥品なんじゃないの?」
 
「バカダウド、んな事有るかよ……、もう一度……」
 
その後、ジャミルは何度もキメラの翼を投げてみるものの、
効力を発揮せず……。
 
「仕方ねえ、魔法使うか……、……ルーラっ!」
 
「……?」
 
「移動出来てないよお……」
 
「おかしいな、何がどうなって……」
 
「……きゅ、ぴい……」
 
「チビちゃん……?」
 
アイシャに抱かれていたチビの様子が突如急変仕出す……。
 
「……きゅぴ……、熱い……よお……、苦しい……」
 
「チビ……、どうしたっ!!」
 
「……す、凄い熱よ……、この前と同じだわ……」
 
……アイシャが悲痛な表情になり、チビを抱いていた手が
震えだした……。
 
「……う、うわああああー!チビちゃん、チビちゃんーーっ!!
どうしたのさあーーっ!!死んじゃやだよおーーっ!」
 
「ダウドも皆も落ち着いて!……とにかく船室へ運ぼう……」
 
 
4人はチビを船室で寝かせるが、不安は消えず……。
 
「……チビちゃん、大丈夫よ……、皆が付いてるからね……」
 
アイシャがしっかりとチビの手を握り励ますが、身体からは熱を発し、
呼吸は荒い……。
 
 
……そうだよ……、もっと苦しむんだ……、いずれ消えるのは光……、
君の方なんだから……
 
 
「……きゅぴ……、ハア、ハア……、熱い……、熱いよお……」
 
「……どうしよう、何だかチビちゃんの身体がどんどん熱くなって
いってる感じがするの……」
 
……震えながらもしっかりとチビの手を握るアイシャの手に汗がどんどん滲む。
 
「……弱ったな……、俺まで魔法が使えなくなっちまったってのか……」
 
「いや、ジャミルの魔法が使えないのは多分……、一時的な物だと思う、
……心配ないよ……」
 
「……何でそんな事分かるの……?」
 
ダウドがチビを見つめながら涙目になってアルベルトの方を振り返った。
 
「魔法もキメラの翼も使えないとしたら……、原因はやはり船を
囲んでいるこの黒い結界だよ……、それが魔法力を封じてしまって
いるんだと思う……」
 
「だ、誰がこんな酷い事するのさあ……?」
 
「分らない……、僕にも……」
 
「たった一つだけ、可能性があるぞ…」
 
「え……?」
 
「……また見えない何かが陰からチビを狙って動き出したのかもな……」
 
「それじゃ、オイラ達も……、また誰かに付け狙われてるって……、
事……?」
 
「いつ何処で何が起きるか分からねえ、チビを匿ってる限りな、
覚悟しとけ……」
 
押し寄せる不安の中で、4人はチビを守ろうと片時も側を離れず……。
 
「とにかく結界だよ……、この結界がすべて邪魔をしているんだ……、
結界さえ消えてくれれば……、僕以外の皆の魔法力は戻る筈なんだ……」
 
「どうにかなんねーのかよ、クソっ……!!」
 
「……チビちゃん……?」
 
「アイシャ、どうしたんだ……?」
 
「……チビちゃんの身体が今度は冷たいの……、さっきまであんなに
熱かったのに……」
 
「!?チビっ、おい……、チビっ!!」
 
「やだ……!いやだよおおー!!チビちゃんっ!!」
 
……皆が必死で呼び掛けるがチビの身体はどんどん冷たくなっていく……。
 
「心臓の鼓動の音が……、どんどん小さくなっている……、
どうしよう……、このままではチビは本当に……」
 
 
……おいで、此処まで来るんだよ……、さあ…早く……
 
「きゅぴ……?だあれ?誰がチビを呼んでいるの……?」
 
声に導かれてチビは一匹でトコトコと暗闇の中を歩いて行く。
誰もいない暗闇の中を……、独りきり。
 
「……ここ、嫌……、皆いない……、ジャミルも……、アイシャも……、
アルもダウも……、皆いない……、ぐす……、怖いよ……、チビ……、
独りぼっちだよお……」

 
そうだよ、だから此処までおいで……、さあ……

 
「……そっちに行ったら……、また皆に会える……?」

 
……会えるとも……、クク……、そうさ、何も心配する事はないんだよ……

 
「……行く……、チビ……、皆に会いたい……」
 
さあ来るんだ……、何も心配する事のない世界へ……
 
「……きゅぴ……」
 
しかし、チビは声のした方に行かず……、その場で踏みとどまり、
声のした方向とは逆の方向に歩き出した……。
 
「違う、皆のいる所……、そっちじゃない……、こっち……」
 
 
 
「……!?」
 
「アル……?どうしたんだ……」
 
「……微かにだけど心臓に音が戻ってきてるよ……、身体も何だか
ほんのりと……、さっきより体温が回復している……?」
 
「何だって……!?」
 
「チビちゃんっ……!!……皆、チビちゃんに呼びかけるのよっ!!
ダウドも急いでっ!!」
 
 
「……皆のいる所、こっち……、会いたい……、チビ、独りは嫌……、
ジャミル達の声がするよおお……」
 
真っ直ぐに、真っ直ぐに……、チビは皆の元に向かって歩いて行く……。
 
……本当に、頑固な子だねえ、君は……、一体誰に似てしまったんだ……、
教育が悪すぎる……
 
「……きゅぴ……?」
 
お仕置きだ……、悪い子だよ……!!
 
突如、巨大な黒い影がチビの前に立ちはだかり、チビをそのまま
飲み込もうとする。
 
……この場で今すぐ消滅してしまえ……!邪魔な光めが!!
 
「や……、チビ、大好きな皆の所帰るの……邪魔しないでっ……!!」
 
突如、チビの身体を光が覆い、それは更に大きな輝きになる……。
 
……これは……?な……、んだと……?
 
 
一方、チビに必死で呼び掛けるジャミル達の現実世界でも
異変が起こっていた……。
 
「な、なになになにーっ!?チビちゃんが光ってるよおおー!!」
 
「チビちゃんっ……、チビちゃんっ!!」
 
「なんなんだよ、一体何が起きてんだ……!?」
 
「……さっきまでのこの船の嫌な気配が消えている……?もしかして……」
 
 
そうか、それが君の……未来の姿かい……、ク、クク……、なるほどね……
 
「……」
 
君がもしもこのまま……、無事成長し遠い未来までの時間を生き永らえた
場合……、そう……、神の力を得た聖なるドラゴンとなる訳だ……、ククク、
なるほどなるほど、……あーっはっはっ、これは愉快だ……、ク、クククク……
 
「悪しき者よ……、滅びよ……」
 
……だが残念だね……、未来はもう決まっているんだよ、替える事は
出来ないのさ……、今日の処は帰してあげるよ、……くっ、いつまでも
汚らわしいその姿でいるなっ……!さっさとあの馬鹿共の所へ
行ってしまえっ……!!
 
再び光がチビを包む、そして……。
 
 
「……どうなってんだよ、アルの言った通り、本当に結界消えてるぞ……?」
 
アイシャをチビに任せ、確認の為、男衆は甲板へと上がる。……確かに
先程まで船を囲んでいた黒い結界は消え、アルベルトの言った通り、
嫌な気配もしなくなっていた。
 
「うわあ、船もまた動き出したみたいだよおー!良かったー!!」
 
「きっと、ジャミル達の魔法力ももう戻ってる筈だよ、僕はまだ
駄目みたいだけど……」
 
「……ハア、ねえっ、ねえっ、皆ー!!」
 
アイシャが息を切らし、声を張り上げ、チビを抱いて再び甲板に
上がって来る。
 
「あ?……チビっ!!」
 
「チビちゃん……!!」
 
「チビ……!!」
 
「ぴいー!チビ、元気だよ!」
 
男衆は元気を取り戻したチビの姿を見て、揃って声を揃えた。
 
「きゅぴ、ご心配……、お掛けしました……」
 
申し訳なさそうにチビが皆に頭をぺこりと下げた。
 
「んな、かしこまんなくていいよ、たく……」
 
ジャミルがいつも通り軽くチビのおでこを突っつく。
 
「きゅぴっ!みんなー!ごめんねえー!!チビ、夢の中で怖いの
やっつけたよおー!!」
 
チビはころっと調子を変えてジャミルに飛びついた。
 
「たく、この調子の良さは誰に似たの……?」
 
ダウドがそう言うと、揃って皆の視線が一斉にジャミルの方を見た……。
 
「……ん?」
 
「きゅぴ~、きゅぴ~」
 
チビは嬉しそうにいつもの倍、ジャミルに甘え、スリスリする。
 
「そうか、お前、夢の中で戦ったか、……偉いぞ、よくちゃんと
戻って来たな……、……良かった、本当に……、けど、本当にさあ、
あまりもう心配させんなよ、こっちこそ心臓が止まるかと思った
じゃねえか……、たくよ……」
 
ジャミルがチビをよしよしする。しかし、その手はいつもと違い、
何かを感じたのか、何となく震えている様でもあった……。
 
「えへへー!チビ強い?ねえねえねえっ!!チビも勇者になるっ!!」
 
「……おーい、ならなくていいよ……、頼むから大人しくしててくれ……」
 
「やっ!ぎゅっぴ!!」
 
 
チビが不思議な力を発し、自身の姿を変化させた事はチビ自身も
覚えておらず……。……何はともあれ、チビは皆の元に再び戻って
きたのであった。
 
 
「……しかし、光の力が思ったよりも強くなっている様だね、……これは君も
本気でそろそろ力を取り戻さないとだよ……、うっかりすれば君の方が先に
消えてしまうのだからね……、しっかりしておくれよ、頼むから……、
……愛おしき僕の相棒君……」
 
「……グルルゥ……」

エピ63・64

決意新たに

ナイトハルトのお使いを無事達成した4人は一路、今度はムオルへと
向かう。
 
「あそこの村でも結構、珍しい菓子食べさせてくれたからな、……今回も
期待するかな……」
 
「……ずるいわー、ジャミルばっかり……、ま、仕方ないけど……」
 
「ポポタも随分大きくなったんだろうね、楽しみだね」
 
「そうね、久しぶりにスラリンにも会えるのねー、本当、嬉しいわ!」
 
と、トリオがきゃっきゃと雑談をしている横で……。
 
「……はううう~……」
 
「何してんだよ、ダウド」
 
「ダウドもこっち来なさいよ、何一人で黄昏てるのよ」
 
「……みんな、よく落ち着いていられるね……、チビちゃん、又……、
狙われてんだよ……?」
 
「ダウドよお、焦ったって状況は変わんないのさ、どうにもなんないんだよ、
なる様にしかならねんだよ、分かるか……?」
 
ジャミルがダウドの肩にぽんと手を置いた。
 
「……だってさあ……、心配じゃないか……、ん、チビちゃん?」
 
「きゅっぴ!お腹すいた、今日の朝ごはんはなあに?」
 
「……な?」
 
「チ、チビちゃあ~ん、オイラがこんなに心配してるのに~……、
とほほ~……」
 
「ダウは何食べたい?チビはね、ツナがいっぱいでケチャップも
いっぱい掛った甘いたまご焼き!」
 
チビがダウドに抱かり、尻尾ふりふり、ダウドの顔を見上げた。
 
「……君が元気でいてくれるなら……、ま、いいか……」
 
そう言いながらダウドはチビの頭を優しく撫でた。
 
「きゅっぴ!」
 
そして、その日の夜、アイシャ、チビ、ダウドが寝てしまった頃、
アルベルトはジャミルを甲板に呼び出した。
 
「何だよ、話って……」
 
「うん、あのさ……」
 
「俺……、その手の趣味はねえからな!」
 
……警戒ポーズを取るジャミル。
 
「バカだな……、ったく、真面目に話聞かないと……、パンチングボックス
飛ばして、スリッパで叩くよ?」
 
「えーと、冗談は置いといて、で、何だ?」
 
「見えない新たな敵がチビを狙ってるって分った以上……、僕も
このままじゃ駄目だ……、一刻も早く魔力を取り戻したいんだよ、
どうにかして……」
 
ジャミルが見ると、アルベルトの顔はまた眉間に皺が寄っていた。
こんな状況になり、再び彼も焦り出した様でもあった……。
 
「……レーベの村の魔法玉じいさんに言われた事忘れたのか?
焦りが一番駄目だって言われたろう……、まあ、俺も一応
MP少ねえけど、多少は何とかなるし、アイシャもいるんだから
大丈夫だよ、心配すんな」
 
「有難う、……頭じゃ分ってるんだけどね……、もがけばもがく程……、
僕からどんどん魔法が遠ざかっていってしまう様な気がするんだ、
いっその事もう、転職した方がいいんじゃないかとこの頃思ったりもする……」
 
「そうだな……、ダーマに行ってみるのも手、かもな……」
 
「ジャミル?」
 
「あそこの神官に……、一度話を聞いて貰うか?何かお前にとって
いい方向に向かうかもしんねえし」
 
「でも、……寄り道が増えてしまうよ……、早くチビをまたお城に
連れて行かなければならないんだし……」
 
「その事で……、俺も考えてる事がある……」
 
「……えっ?」
 
 
翌朝、ジャミルの急な話を聞いたアイシャ達は甲板で大騒ぎであった……。
 
「どういう事なの?ジャミル……、チビちゃんを女王様のお城に
預けるのやめるって……」
 
「う、嬉しいけど……、どういう気の変り様……?」
 
「きゅぴ……?チビ……、お城に戻らなくて……、いいの?」
 
チビが驚いた顔で皆の顔を見た……。
 
「いや、いずれはちゃんとチビを返すつもりだ、けど……、
考えが変わったのさ……、チビは当分俺達の手元に置く……」
 
「だから、どうして……?」
 
戸惑いながらもアイシャがジャミルに聞き返す。
 
「またチビが危険に曝されてると判った以上、チビは俺達の
手で守る、そう決めた!正直、やっぱ心配なんだよな、あそこじゃさ……、
その、護衛が……」
 
「……僕もジャミルの意見に賛同しようと思う、僕達はチビの親なんだ、
全てが落ち着くまで、しっかりと僕らが守ってあげなくちゃ……」
 
ジャミルの意見にアルベルトも賛同し頷いた。
 
「じゃ、じゃあ……、お城……、行かないんだね……、チビちゃんは
オイラ達とずっと……」
 
ダウドが嬉しさのあまり、興奮して涙目になった……。
 
「……ちゃんと話聞けよ、だから……、城に行かないとは言ってねーの、
いずれはチビも城に返すって言ってんだろが……」
 
「あうう~……」
 
「城に行ってホビットのおっさん達と話し合いするのは最初から
決めてた事だろ、ちゃんとカタが付くまで、チビは俺らに預からせて
くれって事も話すんだよ……、急にチビが消えちまって向こうも
オロオロしてるだろうし……」
 
「……ま、それもいいか……、それなら向こうも安心で、了解の上、
オイラ達もチビちゃんと一緒にいられるもんね」
 
「チビ……、安心しな……、何があっても俺らが絶対チビを
守ってやるからな……」
 
「きゅぴっ!」
 
ジャミルがチビの頭をぐしぐし撫でた。チビも嬉しそうに返事をする。
 
「……うん、チビ、いつかはちゃんとお城に帰るよ……、でも、
一旦戻った後でももう少しだけジャミル達と一緒にいていいんだね……、
嬉しいよお~……」
 
「チビ……」
 
「チビちゃん!大丈夫よ、何も心配しなくていいんだからね!
そうだわ、今夜は卵焼きのケチャップ掛け作ってあげる!」
 
アイシャも……、チビともう暫く一緒にいられる状況に
変わったのが嬉しくて仕方ない様子だった。……再びチビと4人が
一緒にいられる時間を作った物が新たな脅威だとは……
それはジャミル達にとって複雑な心境でもあった……。
 
「取りあえずはムオルに顔出し、その後、レイアムランド……と、
回るか、まずは何処でも完全に回れる様、移動手段の心配を
無くさないとな」
 
「……やっぱりすぐ、要らなくなるね、この船……、ラーミアが戻ったらさ……」
 
「ダウド、仕方ないだろ、僕が例えルーラを使えたとしても……、
船じゃなきゃレイアムランドへは行けないんだからさ…」
 
「ア、アル……、ごめん、オイラ……、その……、そんなつもりで
言ったんじゃないんだけど、ごめんよ……」
 
「いや、いいんだよ、気にしないで……」
 
「ま……、今日はしめっぽい顔はナシナシ!んじゃ、アイシャ、
今日の夕飯は任せたぜ」
 
「う、うんっ!私、美味しい夕ご飯作るね!!」
 
アイシャの顔が笑顔になる。……と、任せたのが間違いで……。
 
「はいっ、皆召し上がれ!!サラダに卵焼きに、お肉焼いたのと、
今日は盛りだくさんよ!いっぱい食べてね!!」
 
「おおお~……」
 
アイシャ特製のお皿の上のご馳走に男衆は思わずお腹を鳴らした。
 
「……今日は大丈夫そうだな、匂いも、料理の形もちゃんとしてら……」
 
「今日はって、何よジャミル!!」
 
「うわあーい、ケチャップいっぱいたまご焼きもあるねー!」
 
「そうよ、チビちゃん、私、張り切って作ったから、沢山食べてね!」
 
「んじゃま、頂くかね……」
 
「頂きまーす!」
 
「召し上がれっ!!」
 
男衆が一斉に揃って卵焼きに口をつけ……。
 
「……」
 
「れ……?」
 
 
        ……ああああああああーーーーっ!!
 
 
そして、アイシャとチビ以外全員ひっくり返って倒れた……。
 
「……きゅぴ~?」
 
「失礼ねっ!!」
 
「か、辛えええー……」
 
「ががががが……」
 
「アイシャ……、卵焼きに……、何か違う調味料を……、
い、入れた……?」
 
何とか口が聞けるアルベルトが聞いてみる……。
 
「ちゃんと、お塩と、お砂糖と……、間違いない筈だわ……、
おかしいなあ……」
 
「きゅぴ?アイシャ……、これ……、お砂糖、お塩、あと、
唐辛子があるよ……」
 
アイシャが卵焼きに入れた調味料の瓶をチビが全部持ってきて見せた。
 
「あっ、本当……?しかも、唐辛子の瓶がからっぽ……、あらら、
唐辛子だけ手が滑って全部入れちゃったのかしら……、えへ、えへ、
えへへ……」
 
誤魔化して、アヘ顔するアイシャ……。
 
「……おーーーいっ!?」
 
「チビちゃん、……カ、カップラーメンあるから、お湯沸かして
あげるね……」
 
「誤魔化すなーーっ!!反省城ーーっ!……デコピンの刑にしてやるーーっ!!」
 
「きゃーっ!ごめんなさーいっ!!いやーーん!!」
 
ジャミルがアイシャを追っ掛けて行った……。
 
「これは他の料理も……、手をつけない方がいいかなあ、ねえ、
ダウド……ねえ、大丈夫?……生きてる……?」
 
「……が、が、がが、ギ、ギギギ……」
 
 
次の日の朝……。
 
ジャミルとダウドは……、唐辛子の後遺症で口元が腫れて真っ赤に
なってしまった為、みっともないのでマスクを着用する事態となった……。
 
「たく、マジでみっともねえな、あーあ……、アイシャの奴……、
菓子作りとかになると天才的になる場合があるんだけどなあ……、
何でこう、差が激しいんだか……、ブツブツ……」
 
手鏡で口元を見ながらジャミルが唸った。
 
「……オイラ、当分外歩きたくない……、恥ずかしいよ……」
 
「マスクを着けていれば大丈夫だよ……」
 
「そうかなあ……、って、アル……、何で君は平気なの……?」
 
「僕はね、元々そう言うギャグ状態にならないんだよ、免れてる……、
ていうか……」
 
「ずっけーの……、冗談じゃねえや、たく……」
 
「えへへー、みんなー、おはよう!」
 
アイシャがチビを連れ、ジャミル達のいる船室に顔を出した。
 
「おう、来たな……、指名手配犯が……」
 
「何よっ、私だって反省してるのよ!ほらほら!」
 
アイシャが自分の口元のバッテンマスクを指差す。
 
「きゅぴー」
 
「おい、何だよ……、チビ、お前までマスクしてんのかよ……」
 
「チビも皆と一緒がいい!」
 
そう言いながら、チビはジャミルの手にじゃれ始めた。
 
「そうかそうか、皆一緒がいいか……、お前は偉いな……、
いい子だな……」
 
「……そうだねえ……」
 
「な、何……?何で皆して僕の方見るの……?あーもう、分ったよっ!
僕もするよっ!!」
 
……と、いう事で、怪しい謎の変態マスク集団が出来上がった……。
 
「アホだな、俺達……」
 
「アホだねえ……、風邪もひいてないのに……」
 
「ホント、アホかしら……」
 
「はあ……、何やってんだろ、僕……」
 
「皆一緒!!おそろい、おそろい!!」
 
 
……何はともあれ、チビとの楽しい時間を大切にこれからも過ごそうと
思う4人であった……。


少年よ、大志を抱け

ジャミル達はムオルの村へ3度目の訪問へ……。
 
「……ああ、此処も懐かしい匂いだな、全然変化ねえな……」
 
「そろそろ、来るんじゃない……?」
 
ダウドがあっち見、こっち見でキョロキョロしだす。
 
「あっ……、あ、あなたは……」
 
「や、やあ……」
 
村人が早速ジャミル達の姿を見つける。
 
「ジャミルさん……?ですよね……」
 
「そ、そうだよ……、あは、あはは……」
 
「あああ~!皆、皆~っ!!」
 
一人の村人があっと言う間に他の村人を呼びに行き……。
 
「ジャミルさんだ、ジャミルさんだ!」
 
「押すな、押すな!」
 
「久しぶりだねー、その後、どうしてたの!元気だったかい!?」
 
「やいのやいの!!」
 
「海老煎餅くえーーっ!!」
 
「焼きナスうめえどーーっ!!」
 
「何で、ナス……?」
 
ジャミルはあっという間に村人に集られる……。
 
「この騒がしさも全然変わんねえや、は、ははは……」
 
「きゅぴ~……?」
 
騒動にバッグからチビが少し顔を覗かせる。
 
「チビちゃん、気にしなくて大丈夫よ……」
 
「……お兄ちゃん……?」
 
「ポポタ……?ポポタか……?」
 
「ピキー……?」
 
「スラリン!!」
 
スラリンを連れたポポタが4人の前に現れる。……初めてあった時から、
2年が過ぎ、当時5歳だったポポタもすっかり成長していた。
 
「お兄ちゃん!久しぶりだねえ!!やっと又会えたね!僕、7歳に
なったんだよ!!」
 
ポポタがジャミルに漸く会えた喜びで興奮する。
 
「そうか、お前、結構背が伸びたんだなあ…」
 
「アルベルトお兄ちゃん、アイシャお姉ちゃん、ダウドお兄ちゃん、
お久しぶりです……」
 
ポポタが他の3人にも丁寧に頭を下げ、挨拶する。
 
「ポポタ……、随分大人になったんだね、びっくりしたよ……」
 
「あはは、あんなに小さかったのにねー!」
 
「本当よ、時間の立つのって早いわね……」
 
「ピキー!お姉ちゃん、皆も会いたかったよ!!」
 
スラリンがアイシャに飛びついた。
 
「スラリンも、元気そうで何よりね、良かったわ!!」
 
「お前も、一回りでかくなったな、スラリン」
 
「ピキー!ボクもまた皆に会えて嬉しいー!!」
 
「うん、本当に皆、何事も変わりなくて、良かった良かった……」
 
「アル……、あまり良くないかも……」
 
ダウドがちらっと又、バッグの中のチビの方を見た。
 
「きゅぴ……」
 
又、焼きもち焼き炸裂、今度はマスコットの座、争奪戦の始まりに
なりそうであった……。
 
「処で……、お前のじいさんどうしてんだ?姿が見えねえけど、まさか……」
 
……弥生の父親の件もあり、ジャミルが状況を心配するが……。
 
「あ、おじいちゃんは家にいるよ、近頃、足とか痛がってばっかりだし、
最近はあまりお散歩もしなくなっちゃった、でも、お兄ちゃんが達が
来てくれたの知ったら、喜ぶよー!さあ、行こう!!」
 
何とかご健在の様である。安心したジャミル達はポポタの家へ。
 
「こんちは……」
 
「おお、おお、おおお……、ジャミルさん達……、何と……、
お久しぶりです……」
 
後ろのアルベルト達も揃って頭を下げた。 だが、ポポタの爺さんは2年前より
大分齢を取り、やつれた様でもあった。
 
「此処に来られたと言う事は……、無事大魔王を成敗なさったんですのう……、
御無事で何よりです……、本当に……」
 
「ああ、そうか、じいさん達にも確か、ゾーマの事は話してあったんだっけか、
すっかり忘れてたよ……」
 
書いている奴も忘れていた。
 
「……アイシャ、チビ、ここにもお顔出しても大丈夫?」
 
チビがバッグからこっそりアイシャに聞いてみる。
 
「うん、ポポタ、スラリン、見て見て、ほらっ!」
 
アイシャがバッグからチビを出した。
 
「きゅぴー!」
 
「うわっ!」
 
「ピキー?」
 
ポポタとスラリンはチビと初めてご対面を果たす。
 
「すごいすごーい!ドラゴンの子供だあ!」
 
「ほほう、これはこれは……、なんとまあ、ドラゴンの子供とは……、
ほほう……」
 
ポポタの爺さんも珍しげにチビを眺める。
 
「チビちゃん、大分前に話したと思うんだけど、この子がホラ、
以前私達と一緒に旅をしていた、スライムのスラリンよ」
 
「きゅぴー……」
 
「ピキー……」
 
チビとスラリンは最初、おっかなびっくりでお互いの顔を眺め合っていたが……。
 
「きゅぴぴぴぴぴ!」
 
「ピキキキキキ!」
 
やがて、新旧マスコット同士、意気投合した……。
 
「あはっ、もう仲良しになったのね!良かったー!スラリン、暫く
チビちゃんをお願いね、遊んであげてね」
 
「ピキー、お姉ちゃん、わかったよ!」
 
「さあさあ、皆さん、立ち話もなんですからお座り下され、
紅茶を淹れましょう」
  
ジャミル達は淹れて貰った紅茶を飲みながら、これまであった
色々な出来事などをじいさん達に話し聞いて貰った。
 
「……色々と、ご苦労様でございました……、ポカパマズ殿も
さぞかしお喜びの事でしょうのう、息子さんもこんなにご立派に
ご成長なされたのですから……」
 
「いや、そんな……」
 
「プッ……、ご立派……」
 
照れるジャミルを見てアルベルトが吹き、下を向いた。
 
「そこ、吹くなよ……」
 
「ご、ごめん……」
 
「ププ……」
 
「そちらで吹いた方も、殴りますよ、いいですか!」
 
「……痛いってば!やめてよおおー!殴りますよの前にもう殴ってる
じゃないかあ!!」
 
「……」
 
ポポタはそんなジャミル達の冒険談を目を輝かせ、ワクワクしながら
聞いていた。
 
(やっぱり凄いなあ、お兄ちゃん達って……)
 
「♪きゅっぴーぴーぴー!」
 
「♪ピーキーキーキー!」
 
チビとスラリンが2匹で揃って歌を歌いだした。
 
「……騒音音痴コンビ結成か……」
 
「やめなさいよっ、茶々を入れるんじゃないのよっ!もう~!」
 
「いっその事ジャミルもメンバーに入りなよお……」
 
「うるせーな、バカダウドめ!!」
 
「……?」
 
「アル、どうかしたの?」
 
「うん、今回は村の人達がやけに静かだなと思ってさ……」
 
「そうね、いつもなら傾れ込んでくるわよね……」
 
「そんな事ないよ、ほら……、皆もう待ってるよ……」
 
ポポタが外を指差すと……。
 
「!?うわあああっ!!」
 
窓の外に、すでに沢山の村人が集まっていた……。
 
「ジャミルさんや、来てるなら来てるって言ってくれよ、
相変わらず水臭いな!!」
 
「はいはい、おばちゃんだよー!あんたちっとも変わんないねえ、
元気だったかい!?」
 
村人はそのままポポタの家にドカドカ入ってくる……。
 
「きゅぴっ!?」
 
只ならぬ事態に、チビは慌てて逃げようとするがスラリンが声を掛けた。
 
「ピキー、大丈夫だよ、面白いからみてて」
 
「きゅぴ?」
 
「おばちゃんはね、おばちゃんはあ!うう、寂しかったよーっ!!」
 
「……ぐええええーっ!!」
 
相も変わらず、この迷惑おばさんは興奮してジャミルにサバ折りを掛ける。
 
「ジャミルさん、これアンタの為に新作のお菓子を仕入れたど、
フン馬ちゃん焼だぞーっ!!」
 
「あ、あたしが持ってきたお菓子の方が美味しいに決まっとるがね!」
 
「何を言うとるか、わしのが一番だぞ!!」
 
「よおーし、俺のを食ってみろや、ほれっ!!」
 
……村人達は自分らが持って来た菓子自慢を始め、ケンカになる……。
 
「楽しいのう、本当に楽しいのう……」
 
紅茶を飲みながらポポタのじいさんが心から幸せそうな顔をした。
 
「本当に、此処の人達も相変わらず変わらないね……」
 
「そうね、でもそこがいいのよね」
 
「有名人て、ホント大変だねえ~……」
 
サバ折りを掛けられたままジャミルは泡を吹き、もう気絶寸前であった。
そして、夜……、久々にポポタ家にお世話になっている4人。就寝前に
ジャミルはポポタの部屋で雑談タイム。
 
「お兄ちゃん、大丈夫?今回も大変だったねえ……」
 
「あー、大分慣れたと思ったんだけどな……、この村の皆のパワフルさには
敵わねえよ……」
 
「うん、村のおじさんもおばさんも皆元気だもん」
 
「……」
 
ジャミルがちらっとポポタを見た。
 
「お兄ちゃん、なあに?」
 
「いや、お前本当にでかくなったなと思ってさ……、7歳にしては
結構背が高い方になったな……」
 
「本当?僕、本当にそう見える……?」
 
「ああ……」
 
「じゃあ、僕……、お兄ちゃん達と一緒に冒険していい……?」
 
「そうだな、……冒険か、……ん?冒険っ!?」
 
ジャミルが慌ててもう一度、ポポタの顔を覗き込んだ。
 
「うん、僕……、ずっと憧れてたんだ……、お兄ちゃん達と一緒に
冒険出来るのを……、僕、もう大きくなったから大丈夫でしょ?」
 
「な、何言ってんだよ、駄目に決まって……」
 
「……ジャミルお兄ちゃん……、ねえ、僕も冒険に連れてって……」
 
ポポタは目を輝かせ、ジャミルの顔をじーっと眺め……、返事を待っている。
 
(おいおい、……何なんだよ、まいったな、こりゃ……)
 
又何だか一騒動に巻き込まれそうになるのを、ジャミルはひしひしと
肌で感じていた……。

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  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-05-04

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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