「かえれず」
この手を二度と探せない
どうかわたしも探さないで
あなたにおくった髪留めの
今はなんと淡いこと
泪に悄れた白い手が
銃を握るのを頑なに拒む
夜空を込めた哀しい銃に
星は一つも宿らない
どうかゆっくり眼を閉じて
わたしに銃口を手向けてください
昔カンテラを二人で持って
暗闇のしらゆきの道を歩いた寒燈の
横がほ染まった冬の紅菊
さいごの蠟月のノスタルジー
あの日瞬きした時の深いやすらぎを抱いてほしい
あなたにおくった髪留めの
今はなんと淡いこと
わたしを
ゆめの間に置きざりにして
あなたは空を抱けばよい、あなたには
きっとシリウスも似合うから
星無い空はわたしが担おう
どうかあなたの体温であたためられた
たった一つのその引鉄を
わたしの為に引いてください
二度とわたしを探せないように
二度とわたしを探せないように
「かえれず」