「かえれず」

 この手を二度と探せない
 どうかわたしも探さないで
 あなたにおくった髪留めの
 今はなんと淡いこと
 泪に悄れた白い手が
 銃を握るのを頑なに拒む
 夜空を込めた哀しい銃に
 星は一つも宿らない

 どうかゆっくり眼を閉じて
 わたしに銃口を手向けてください
 昔カンテラを二人で持って
 暗闇のしらゆきの道を歩いた寒燈の
 横がほ染まった冬の紅菊(べにぎく)
 さいごの蠟月のノスタルジー
 あの日瞬きした時の深いやすらぎを抱いてほしい

 あなたにおくった髪留めの
 今はなんと淡いこと

 わたしを
 ゆめの間に置きざりにして
 あなたは空を抱けばよい、あなたには
 きっとシリウスも似合うから
 星無い空はわたしが担おう
 どうかあなたの体温であたためられた
 たった一つのその引鉄を
 わたしの為に引いてください
 二度とわたしを探せないように
 二度とわたしを探せないように

「かえれず」

「かえれず」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-05-02

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